PandoraPartyProject

シナリオ詳細

紅、玄く染め塗れば

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●華燭
 銀の髪の乙女が姿を消したと言う。
 欲に塗れた乙女に訪れる筈であった細やかな幸せは潰えたと依頼人の男は泣いた。
 不憫であるとリュミエは胸に手を当て声を震わせる。実に、不憫で身に詰まされる思いであると。
 彼女が消えた場所へと、ペリカ・ロズィーアン達、探索隊を伴い訪れた大魔道は流れ込む映像を見た。

 美しき倶蘭荼華。その中で男が傅いている。
 傍に佇む男には旅人の如き角が額より生え、裾の広がる衣服に身を包んでいるのが見えた。

 ――けがれの巫女よ。よくぞやった。
 ――ああ、貴女は、清き乙女。巫女姫様ではあるまいか!

 傅く男の言葉と共に、その映像は掻き消える。それは一体なんであったか。
 リュミエは直ぐ様にその場所を禁足地とした。その異様な光景が『混沌世界のもの』である確証が、『その時』の彼女には得られなかったからだ。


●希望と信仰と、そして愛
「よう、シスター・カミラが『神隠し』にあったらしいぜ。足取りを追いたくねえか?」
「ああ? 誰だそいつは。知らねえな、酒もってこい」
 幻想のはずれにある闇酒場。飯も不味いし酒も水増しマスターも無愛想。ローレットでも指折りのワルたちがこぞって集い一般人が立ち入れば三分で財布がスられるという治安最悪のこの酒場に、かの山賊は通っていた。
 それを知ってか、ラサ幻想間で情報屋をやっているクリムゾン13という男が訪ねてそうそうこう述べた。グドルフの返しは、ごらんの通りである。
 ここまでソデにされておきながら、しかし情報屋は彼の向かいに腰掛けスパゲッティナポリタンとエールを注文。テーブルに肘をつき、身を乗り出しつつひとつの依頼書を置いた。
「シスター・カミラ。天義で孤児院を経営してたシスターだ。今は経営不振で教会ごと取り壊されちまったし行方も知れねえがな。
 シスターさまは政治に興味はねえようで聖都にも寄りつかなかったらしいが、実力の方はヤベエもんで魔力を込めたロザリオが何人もの人生をねじくれたワケのわからねえモンにしちまうほどさ。そろのロザリオ、好事家の間でとんでもねえ値がついてるらしいぜ。今どこにあるんだろうなあ?」
「知るか。それよこせっ」
 グドルフの胸からさがったロザリオを見ていた情報屋から、運ばれてきたばかりのエールを奪い取って一気飲みする山賊……もといグドルフ・ボイデル。
 話にまるで取り合わないにもかかわらず、情報屋は大声で続けた。
「で、オモシロイのはここからさ。ラサで一暴れした大山賊にして闇商人ブルー・ボーイをしこたまねちっこく調べ上げたらひとつだけ情報を持っていやがった。あいつも行方を探っていたんだな。で、場所がオドロキ天義の隠し遺跡の奥だ」
「…………」
 黙ってコップを置くグドルフ。
「お、話を聞く気になったかい? それで――マッッッッズ!!」
 黒いナポリタンを皿ごと放り投げ、情報屋は新しく注文したエールを飲み干した。

 情報を整理して語ろう。
 シスター・カミラは孤児院を追われたのち孤児たちへの支援を続けるべく天義にかつて存在した非合法な治安組織『裏異端審問会』に身を置いたという。この組織は天義の極端な正義思想にとらわれず柔軟に救うべき者を救うという組織であり、アストリア含む多くの腐敗政治の中を巧妙に泳ぎながら不正義差別を受けた家族を安全な土地にかくまったり友人家族まで燃やされぬよう魔種信仰をした邪教徒だけに適切な外科的切除を施したりと暗躍していたという。
 この組織はあるとき『赤翼教団』という組織が魔種信仰を行っていることを察知し本拠地としてた古代遺跡を調査。後に魔種の存在が明らかとなり、隔離や封鎖の末最終的に魔種は退治されたのだが……。
「脅威が去ったと思われた遺跡を調査した際、調査団がまとめて消息を絶ったらしい」

 ――ここで重要なのは、『消息の絶ちかた』である。

「なあ、あんたらイレギュラーズはなんかいきなり消えちまって、空中庭園に召喚されるんだろう?
 シスター・カミラも同じように消えた。イレギュラーズとして召喚されたんだろうってウワサになったが……そんな情報はヒトツもねえ。
 じゃあどこに消えた? まさしく『神隠し』ってやつさ。まあ一応原因らしきものに目星はついてるんだがな……」
「で? なんだ。要は『こいつ』を燃やせば金になるってんだろ?」
 最初からずっとテーブルに置かれていた依頼書をひったくり、グドルフは悪態をついた。
 依頼書にはこうある。
 『赤翼裏遺跡の調査と、黒き彼岸花の焼却』

●黒き彼岸花と神隠し
 以前の調査時には全く無かったはずの『黒き彼岸花』。
 これが、調査団が神隠しにあった理由であると裏異端審問会は判断したらしい。
「今すぐにでもこいつに火をつけて一輪残らず燃やしたいらしいが、なにぶん危険な遺跡の中でね。
 中の魔物たちもやけに凶暴化していやがるし、こいつらを殲滅しねえことには手もつけられねえ。
 まあつまり、アンタらの仕事は魔物の撃滅と花の焼却ってこったな」
 遺跡内には真っ黒な亜人系モンスターと巨大な骨型モンスターがそれぞれ存在し、これを突破する必要がある。
「詳しい内容はココに書いてある。な、行ってくれるよな?」

GMコメント

■オーダー
・成功条件:『黒き彼岸花』の焼却

 赤翼遺跡を攻略し、最奥の特殊空間に広がる『黒き彼岸花』を焼却してください。
 そのためには遺跡の攻略が必須になります。

■赤翼遺跡
 かつて魔種信仰の拠点にされていた遺跡です。ベアトリーチェ騒動のおりに邪教徒たちは一掃され、魔種もまた討伐されました。
 禁忌の場所として一般市民が入らないよう封鎖されていましたが、こたび行われた調査によって変貌が確認され、そして調査団の多くは『神隠し』にあったといいます。
 以降の情報は調査団の生き残り(?)から集めたものです。

●遺跡前半
 石でできた長い迷宮タイプの遺跡です。
 しかし調査団によって攻略ルートは判明し罠も解除済であるため、モンスターとの戦闘だけで突破することができます。
 ここでは『餓鬼』というモンスターが出現します。
 出現頻度はまちまちで、大抵複数いっぺんに出現します。

・餓鬼
 腹部だけが膨らんだ痩せ細った亜人系モンスターです。ゴブリンにやや似ていますが、身体が真っ黒であることが特徴です。
 【苦鳴】攻撃や【Mアタック】攻撃を得意とし、こちらのAPを減らそうとしてくるでしょう。
 ここでAPが尽きると後半キツいので、いかに温存するか(もしくはいかにこれらの攻撃を避けたり偏らせたりするか)で後半に影響してきます。
 余談ですが、後半にまでこいつがいると地獄なので、出会ったら確実に撃滅しておきましょう。

●遺跡後半
 赤翼遺跡の奥には特殊空間が広がっており、ここに『黒き彼岸花』が大量に咲いているそうです。
 ですがこの場所には巨大な骸骨モンスター『がしゃどくろ』が存在しており、侵入した者を破壊しようとするでしょう。
 依頼達成には、これの撃滅が必須になります。

・がしゃどくろ
 見上げるほど巨大な骸骨系モンスターです。全身が真っ黒になっているという特徴があります。
 攻撃範囲はすべて『域』の広さをもち、最大射程距離も『自~超』と広めです。
 またマーク・ブロックがきわめて困難で、6人分以上でマークブロックを成立させなければ有効になりません。
 ステータスとしてはHPと特殊抵抗が高く、それ以外のステータスも総じて高めであるといわれています。
 調査団はこれとの戦闘に苦戦し、情報だけ持ち帰ろうとして途中で神隠しにあいました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 紅、玄く染め塗ればLv:10以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月18日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声

リプレイ

●赤き翼の
 指定魔種信仰組織『赤翼教団』。
 天義でも表だって邪教指定がなされ、邪悪な儀式がくりかえし行われていたここ本拠地は魔種の発見により封鎖しょりまで施されたという経緯がある。
 黒く淀むほどに血が浴びせられ続けた片翼の像を操作し、地下に続く遺跡へと侵入していく『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)。
「この感じ……ベアトリーチェんところの墓所を思い出すな。おうおう、嫌だ嫌だ」
 彼の言うとおり、ここ赤翼教団のあがめていたベアトリーチェ傘下の魔種BLOOD WINGの隠れ家であった。かつての戦いの中で魔種の打破に成功し、平和は訪れたはず……だったが。
「黒い彼岸花と神隠し、か」
 地図を片手に黒く血塗れた通路を進む『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)。
 この遺跡から危険が無くなったとして調査に入った裏異端審問会がごく少数を残して忽然と姿を消してしまった。
 そんな事件がおきたという。
 大きな違いは近い空間に咲き乱れていたという『漆黒の彼岸花』だ。
「彼岸花は不吉の象徴だが、さて……」
「正直怪しいっスけど前例があるんじゃ信じるしかねぇよな」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は腕組みをして難しい顔をした。
 例えば彼のいた元世界にて、突如姿を消した彼のことをさして神隠しがおきたと述べる者はいたかもしれない。だがそれは異世界から混沌世界への移動という事実を知っているから受け入れられるのであって、移動先が分からない転移はただの消失だ。
 そして転移した先が安全である保証など、もちろんない。
「分からねぇ事ばっかだしまずは調べるしかねぇな。
 目下で手に入る物つったら彼岸花くらい、っスか……」
「あら、お忘れですの? 私たちへの依頼は花の焼却。少数といえど持ち帰ったり保護したりすれば条約違反のリスクを負いますわ」
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はそう言って隠し扉を操作した。
「不思議を探求する。危険を排除する。民を助ける。
 それはあくまで個人の欲望であって、私たちの業務や使命とは別のもの。
 業のままに人を救おうとすれば、自らはおろか周囲を滅ぼしてしまいかねませんわ……」
 目を伏せ、ヴァレーリヤはつぶやいた。その意図するところを組んで、葵もまた咳払いをする。
「極論すればこれは他人事。『私たち』にとっては」
 ちらりと、グドルフの横顔を見た。

「ヘッ、チンケな仕事だぜ。呑まなきゃやってらんねえや」
 スキットルを逆さにふって、残る水滴を口の中におとす『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。
「ったくどいつもこいつも神隠しだ信仰だの、興味ねえんだよ。さっさとカタぁつけて帰ろうぜ」
 心底うんざりといった口調でゲップをはく彼の様子を、しかしなじみの仲間はいぶかしんでいた。
 いつもの彼らしくない。
 というより、意識して『あらくれ山賊』のふりをしているような不自然さが、彼には見えた。
 反射的に出てしまう所作を無理に押し殺しているようにも。
「……なあ、おっちゃん変じゃねえか? 今回の件と関係あるんかな」
「さあ? しらね」
 『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)に肩をとんとぶつけられ、『緑色の隙間風』キドー(p3p000244)は首をかしげて左右非対称に顔をしかめた。
「こちとら盗賊。他人の財布はまさぐっても過去にまで手は突っ込まねえんだよ」
「けどよお……」
 二人……や、『三人』の仲を知るサンディは追求しようと声のトーンを上げたが、キドーはそれを制するようにナイフを立てた。
「ゴブリンが山賊慰めるザマが見てえか? 膝枕してガラガラふって、おーヨチヨチ可愛そうでちゅねー、ってか? 知ったこっちゃねえんだよ!」
 吐き捨てるように、そしてことさら強く言いつけてから、キドーは顔をそらした。
「……知ったこっちゃ、ねえ」
 誰の気持ちをくんでか、『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)が歌い始める。
 ――どろにまみれて いきていこう
 ――はいをかぶって いきていこう
 ――どうせ みじめな このかぎょう
 ――うすよごれるのが おにあいさ♪
 グドルフが片手で顔を覆うのを、カタラァナはあえて微笑んで見つめた。
 涙や泥をぬぐうように顔を払い、歩き出すグドルフ。
 カタラァナも、キドーも、ヴァレーリヤも、サンディも……いやみんなみんな、知っていた。
 運命は唐突に背中を刺す。
 気持ちの整理をつけるヒマなど、与えずに。
 長い迷宮が、口を開ける。

●餓鬼
 黒ずんだ血液があちこちに散っている。
 いや、顔を近づけて調べなければそれが血液だったことなど分からなかったろう。それほど通路全体を塗りつぶし、そして参加しきったどす黒い色に変わっていた。
 生臭さすら、いまやない。
 そんな通路の先、こちらを強い嗅覚で感知する気配を、レイチェルは腕にはしった紋様に感じた小さな痛みで察知した。
「誰か来るぞ。いや、こんな場所で『誰か』ってこたァないよな」
 背負っていた弓をくるりと回しながら構え、小さく吹き出た血を矢に変えてつがえるレイチェル。
「俺も感知したぜ。前から二体、後ろから五体だ。後ろは任せる!」
 サンディはエアー・デリンジャーを袖から抜くと、前方めがけて構えた。
 曲がり角から飛び出し、素早く駆け込んでくる真っ黒な亜人系モンスター。
 飛びかかり腕に噛みつくのを、サンディーは気合いで耐えた。
「こいつ……見境なしかよ!」
 攻撃力はともかく、噛みついたことで吸い上げるエナジードレインの方が厄介そうだ。
 自己補填能力のあるサンディには相性がいいが、AP攻撃系の底打ちダメージは防御を無視するので防御面ではかえって相性が悪いとも言えた。
「離れろ!」
 振り払い、空圧を打ち込んで弾き飛ばそうとするサンディ。
 レイチェルはその後ろから曲がる矢を発射。S字の軌道を描いた矢は餓鬼のこめかみを右から左へ貫いていく。そのままもう一体の餓鬼の目に刺さり、餓鬼は悲鳴をあげてその場に倒れもがいた。
「汚え悲鳴をあげやがる……」
「後ろはオレが受け持つっス!」
 サッカーボールを蹴り上げた葵。
 後方の曲がり角から飛び出してきた複数の餓鬼めがけてサッカーボールを蹴り込んだ。
 一匹の顔面に命中。あまりのもろさに首から上が破裂し、残る餓鬼たちが葵へと飛びかかっていく。
「オラァ邪魔だ!」
 が、横から喧嘩キックを繰り出したアランが餓鬼をダンジョンの壁に叩きつける。
 いや、叩き潰すと表現すべきだろうか。彼の蹴りによって飛ばされた餓鬼は壁にぶつかって汚い水風船のように破裂したのだ。
「一匹ずつは雑魚だ。群がられねえようにしとけ」
 でもって下がれ、と葵にジェスチャー。
 手近な相手に群がる習性をもつ餓鬼は、遠距離反攻撃での対応がきわめて不向きなのだ。
 必然、一人に群がらせて蹴散らすスタイルが活躍する。
「消しとべやぁぁ!!」
 『Code:Demon』を抜き、激しい連続回転切りで餓鬼たちを切り裂いていくアラン。
 いちいち相手していてはキリがないと察したのか、アランたちはダンジョンの奥目指して走り出した。
 まっすぐな通路の先。
 複数の餓鬼が現れて身構える。
 こちらへ飛びかかると言うより、立ち塞がって牙を剥くといった様子だ。飛び込んでいけば一気に倒せるが、残った数体がかじりついてエナジーを消耗させようというハラだろう。
「まかせてね」
 カタラァナは『夢見る呼び声』を歌い始める。
 するとどうだろうか。餓鬼の一部は突如発狂し地面にうずくまったり、目から血を流して倒れたり、酷いものになると仲間の喉笛にかじりついて共食いをはじめた。
 実にすきだらけ。一網打尽のチャンス。
 ヴァレーリヤはメイスで壁をがりがりと削ると、あがる火花を炎に変えた。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』!」
 述べた聖句が力となり、炎の奔流が餓鬼たちを飲み込んでいく。
 正常異常の区別なく、炎は全てを灰にする。
「彼岸花のさく異空間というのはこの先ですわ」
 比較的タフな餓鬼が首を振って立ち上がり、新たに複数の餓鬼を呼び寄せる。
 今度は待ち構えることなどせず、餓鬼たちは牙を剥きだしにして駆け寄ってきた。
「キドー、火ぃかせ」
「じゃあ酒はテメェのおごりな」
 同時に飛び出すキドーとグドルフ。
 キドーは火打ち石と堅いナイフを打ち合わせ、激しい火花を巻き起こす。
 ほぼ同時に、ガラス瓶に入った安酒を口いっぱいに含んだグドルフがそれを霧状に吹き出し、炎に変えて餓鬼たちへと吹き付けた。
 炎にまかれた餓鬼たちが転げ回り、その中へ突っ込んでいったグドルフが餓鬼たちもろとも異空間への扉をショルダータックルで粉砕した。
「オラオラ、退きやがれ雑魚ども!」
 吹き抜ける鉄臭い風。
 赤い空。
 一面に広がる黒い彼岸花。
 そしてこちらを振り向く、巨大な骸骨型モンスター……『がしゃどくろ』。

●がしゃどくろ
 振り返り、歩き出し、走り、飛び、拳を振り上げる。
 巨大さからは想像もつかぬ、まるで俊敏な人間のような動作。サンディは狂う遠近感に防御のタイミングを損ない、拳の直撃を受けた。
 ……いや、受けてはいない。
 ヒットの直前エアーデリンジャーを地に撃つことで緊急回避を行い、ごくわずかにだが直撃を逃れたようだ。
 とはいえあの巨大さ。当たった衝撃と吹き上がる風圧によってサンディは空に巻き上げられ、宙をくるくると回転した。
「チッ、ダメージがはんばじゃねえ! 皆、散開して巻き込まれるのを防――」
 浮き上がったところに強烈な拳。
 人間で言えばボディーブローの動きでサンディをこんどこそど真ん中にとらえた拳が、異空間の見えない壁に激突した。
 壁にサンドされた形になったサンディ。
 ふらりとくずれ、落下するポイントにカタラァナが飛び込んでキャッチした……が、サンディは頭から血を流しながらもにやりと笑ってみせた。
「やっと俺の持ち味が活きたぜ」
 彼の手には柄だけになった飛び出しナイフ。
 カタラァナがハッとして振り返ると、がしゃどくろの拳に深々とナイフが刺さっていた。いや、それだけではない。仕込まれた魔法によって刃が爆発し、がしゃどくろの指が一本落ちていった。
「一矢……いや、一指報いてやったぜ」
 こくりと頷くカタラァナ。
「僕はサンディ君の治療にあたるよ。その間時間を稼いで!」
 サンディを抱えてがしゃどくろとは反対側に走るカタラァナ。
 追いかけようと踏み出すがしゃどくろを阻むように、葵とアランが立ち塞がった。
 大きさでいえばひとまたぎにできそうな二人ではあるが、そう簡単には通さないという意地が二人を普通よりも大きく見せていた。
「アラン、いくっスよ……!」
 足をたかく振り上げたシュート姿勢から葵は『ハードランチャー』をシュート。
 赤いオーラを纏い巨大なボールと化した彼のサッカーボールを、がしゃどくろは指のかけた両手でキャッチ。
 あまりの衝撃にわずかによろめくが、それだけだ。
 完全に受けきった……と思わせたところで、アランは『ハーフ・アムリタ』の瓶を砕いてエナジーを休息回復。と同時にバトラーズハイによるアドレナリン上昇と『アクセル・ジャベリンⅡ×2』による連続踏み込みを一度に放った。
「オラァァァ! 砕けやァ!」
 がしゃどくろを派手に転倒させるには充分な衝撃。
 しりもちをついた形になったがしゃどくろはその場で地面を殴りつけた。吹き上が砂と華と風によって飛ばされるアランたち。
 途端、がしゃどくろの両目のうろが黒く妖しく発光。
 何か来ると察したグドルフが仲間達の前へと割り込んだ。
「このクソ――!」
 振り込もうとした斧――が腕ごと吹き飛んでいく。
 それだけではない。グドルフの周囲で無数の爆発がおき、グドルフはミキサーにかけられたフルーツのように宙をおどった。
 が、しかし。
「このデカブツ野郎が、おれさまの邪魔するんじゃねえッ!」
 片腕を地面に押しつけ、血を吐きながらも回をあげるグドルフ。
 追撃にと繰り出されたガシャどくろの踏みつけを、グドルフは気合いで耐えた。
「奴ぁ焦ってる。トドメだ。さっさとやれェ!」
 叫ぶグドルフに、キドーは満面の笑みで火炎瓶を取り出した。
「よしきたァ! テメェのぶんの報酬も貰っといてやるぜェ! ケケケケケ!」
 外道の極みみたいな笑みと共にぶん投げる火炎瓶。
 ――の直後に鋭く放つ赤いナイフ。
 火炎瓶に刺さった途端、空中ですさまじい爆発となってがしゃどくろを包み込んだ。
「オラァ、続け! どんどん燃やせぇ!」
「……しらんぞ?」
 レイチェルは肩をすくめながらも紋様を赤く発光させ、『Sturm und Drang』の魔術を発動。
 指先で描いた魔方陣を拡大すると、とんでもない勢いの炎をがしゃどくろ(とグドルフ)に浴びせかけた。
「トドメですわ――!」
 助走をつけてジャンプするヴァレーリヤ。
 振り上げたメイスが激しい炎を纏い、巨大な炎の剣へと姿を変える。
「『主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に』!」
 頭から足までをばっさりと切り裂いていく。
 がしゃどくろは自らの形を保つことができず、ばらばらに砕けていった。
 ……で、その骨に埋もれていまもなお燃えているグドルフはというと。
「オレサマは無敵!」
 ダブルバイセップスのポーズで骨の中から立ち上がった。
「グドルフ!」
「さすがにタフだな山賊」
「へへ……」
 指で鼻の下をこするキドー。
「信じてたぜ、相棒☆ ――イテエ!?」
 飛んできた骨が頭にぶつかり、キドーはうずくまった。
「ドサマギで一緒に殺そうとしただろテメェコラ」
「うるせージョークだよ。あのくらいで死ぬタマかオメーが。髭燃やすぞ」
「アァン!?」
 取っ組み合いの喧嘩を始めるキドーとグドルフ。
 それを見て、なんか元気そうだなと安心したサンディとカタラァナだった。

●神隠しと思い出のロザリオ
 アランとサンディが手分けをして油をまいていく。
 彼らとて火のひとつや二つおこせるが、せいぜいタバコかひとに火をつける程度である。ひろい平原を燃やし尽くすにはそれなりの準備が必要だった。
「疲れたぜ。さっさと燃やして帰ろう」
「だな……」
「しかしこの彼岸花、本当になんなんだ? みたとこ黒いだけで普通の花だけどな」
 一輪むしり取ってしげしげと眺める葵。
「持ち帰ったら何か分かるんじゃ。マジで掛け合ってみるっスか?」
「やめとけやめとけ」
「そうそう、燃やすと言われたら燃やすのが、ローレットだよ」
 カタラァナも一緒になって油を撒いていく。
 これだけまけが充分だろうというところで、キドーはふうと息をついた。
「まあ、葵の気持ちもわかるぜ。マジなんなんだこれ。
 神隠しと関係があるのは確かだろうが……あの魔物どもを呼び寄せる為に必要なのか、この花があることで此処と何処かを繋げているのか。
 後者の場合、燃やして繋がりを断っちまっていいんだろうか。神隠しされた連中は……」
「といいつつ、燃やすんだろう?」
 魔法で火を放ち、あたりをごうごうと燃やし始めるレイチェル。
 指先にライター程度の火を灯したまま、くわえたタバコにも火をつける。
「俺は花の違いはよく分からねぇんでな。黒いってことしか違いがわからん」
「少しでも手がかりが掴めると良いのだけれど……」
 一通りの花を燃やしきったところで、ヴァレーリヤや焼けきった花の中に何かひかるものを見つけた。
 銀色の、小指の先ほどの小ささしかないロザリオである。
 注意して探していなければ気づかなかっただろう。
「グドルフ?」
「おう……」
 グドルフは慎重に近づきそしてロザリオに触れた――その瞬間。

 ――見渡す限りの黒彼岸花
 ――背を向けた紫の少女
 ――その中に溶けゆく、シスター服のハーモニア。
 ――『きっとあなたは来るでしょう。あとは、あなたに託します』

 そんなヴィジョンが、皆の頭に一瞬だけよぎった。
「今のは?」
「誰です?」
 困惑する仲間達のなかで、グドルフだけが大きく目を見開いていた。
「……『先生』」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――任務完了

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