PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<妖幻惑蒐記>淡の矮星

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Whither is fled the visionary gleam?
 宝石の街『エレディタ』。永い、永い歴史を持つ其の街は、『過去の遺産』の宝石達と寄り添い暮らす、少しばかり可笑しな所。つい最近迄、閉鎖的だった其処は次世代を担う若者達の聲に依って、幾らかの試行錯誤の上、得意運命座標――イレギュラーズを客人として持て成す程に成長と発展を遂げていた。
 此度は街の片隅の、Cafe & Bar『アルコバレーノ』が物語の舞台となる。此れは、とある長い、長い一日の定点観測の記録。

 からん、と心地良い音を立てて、マーキースの氷の欠片が飲み干したグラスを打つ。熟した石榴の実を思わせるアルマンダイン・ガーネットの曹達は、香りは華やかに。喉越しはしゅわしゅわ爽やかで、仄かな甘味のする其れは彼の方舟をも照らしたと言う輝き。憂鬱な朝を払拭してくれて、トーストやスクランブルエッグとの相性も良い。お代わりが自由なのも有難い所だろうか。気の良い店員が何時の間にやら注いでくれて居るものだから、つい長居をしてしまうと云うものだ。
 もし、其れでも気怠ければテーブルの奥に或るポットの中から、シトロンシロップを何匙かドリンクに入れるのをお勧めする。脳まで蕩ける心地な甘味の後に来る、突き抜ける様な酸味で否が応でも眼が覚めるとも。
 モーニングセットに付くデザートは、最近が旬の苺水晶がたっぷりと入ったヨーグルト。朝の採れたてがスライスされていて、ミルキークォーツの粉末を緩めに溶いたクリームを入れているから、円やかな口当たりで評判が良く、此の街の人間であれば嫌いな者は居ないと迄云われている程。
 『いってらっしゃいませ』と恭しくお辞儀をする店主の肩には何時見ても、キュンと長く黒曜石を思わせる嘴をした翡翠が留まって居て、短い尾を揺らし得意気に羽根を広げて共に客を見送ってくれる。尚、性別は雌で、彼は彼女の事を愛し『奥さん』だと豪語して止まない。
 
 昼に訪れるのなら、食べ応えのあるランチメニューをオススメする。白い食器に此れでもか、と堆く盛られたサラダは、歯応えのあるスポデューメンのライラックピンクやエメラルドグリーンで色鮮やかだし見た目も良い。ピリリと胡椒の効いた琥珀や、酸っぱくコクのある白瑪瑙のドレッシング等が選べて、たまに気紛れで出される風変わりなものが掛かっていた日は当たりだ。常連になればなる程其の頻度も上がるらしく、街長なんてどうだい、自分好みにアレンジして貰ったドレッシングで何時も食べてるって専らの噂じゃあないか。
 分厚いハムソテーの挟まったサンドイッチとグラタンのセットは男受けが良い。女性に人気なのはエッグベネディクトやカナッペ、ヘルシーなハーブローストチキンやキッシュ。紅玉髄のソースのオムライスは食べ盛りの子供達にぴったしだし、バターで炒められたゴロゴロとした具材は、老若男女問わず心を掴んで離さない一品でひっきりなしにオーダーが飛び交うものだから、此の時間だけは店員を多く雇っているそうだ。おやつ時なら、学校が終わってお小遣いを握り締めた子供達が少し背伸びをして、銀河を模した菫色のアメシストキャンディが浮く珈琲と一緒に、パフェやケーキを頼んで舌鼓を打っているから微笑ましいものだ。

 夕方の十七時からはバータイムに入って、店の印象ががらりと変わる。薄暗い照明に瞬くのは華麗なブルウに金と銀の鏤めたラピスラズリ。蒼い天鵞絨の椅子だって、明るい時間とは違った貌を見せるものだから不思議だ。年月を感じさせる少し錆び付いた蓄音器からはムーディな音楽が流れ、食事も酒の肴になる物がメイン。仕事終わりのリフレッシュに寄っても良いし、カクテルグラスを傾けて愛を嘯くって云うなら此の時間帯がぴったしだと云えよう。
 メジャーなカクテルから、オリジナルカクテル迄、様々な色彩に溢れていて、『彼女をイメージした物を』だなんて少し古臭い文句なオーダーだって受けてくれる。すいすいと飲めてしまうが度数はそこそこだから、飲み過ぎは厳禁だ。所狭しと並んだリキュールの棚が見れるバーカウンターは早い者勝ち。
 また、特筆すべきは此の時間帯だけ其々のテーブルに置かれる小さな硝子ケースに入った宝石や、夜迄たっぷり睡った鉱石達のお披露目の棚が姿を現す事だ。此の場で買い求める事も可能で、宝石の膨大な魔力――マナを借りて魔術を行使する、謂わば宝石魔術師達には欠かせない存在であり、鉱山で良い物が出たとなれば己で使う者も、子供の将来の為、将又恋人へのプレゼントとして、人の出入りがひっきりなしになるのだった。
 霊的なものを信じてなくても、煌々ときらめく宝石達は見るだけで楽しいし、お気に入りの石の有る場所を探すなり、一日の終わりに其の日のタイトルにするに相応しい石の席に座ったって良い。若し気に入って別れ難いなら、テーブルの物も同じ様に買う事が出来るので店主と応相談になる。グラスを磨いている最中に、鼻歌混じりな時はご機嫌な証拠。其の時を見計らえば少しお安くしてくれるかも知れないので話し掛けてみては如何だろう?
 しっとりと、大人びた色気のある夜を過ごしたければバーカウンターを。仲間内で程々に話に花を咲かせるならボックス席で。そうして、あっという間に夜更けになれば店仕舞い。お代を置いてぞろぞろと出ていく客を見送る店主の台詞は何時だって――『いってらっしゃいませ』。

●Then sing, ye Birds,sing,sing a joyous song!
 押さないで、押さないで。一列に並んで! 遽に活気に満ち溢れた『境界図書館』で、『ホライゾン・シーカー』の片割れであるカストルが人員整理する傍ら、もう半分の片割れのポルックス・ジェミニが、何時か、言った売り文句を得意気に放つ。
「――ねえ、宝石って食べた事は有る?」
 あなた達を待っている人が居るの、と見せたのはひとひらの封筒。何時の間にか本に挟まって居たと云う、真珠を溶かした様な白に艶めく封蝋が押された其れには、案内状が入っていたらしく、彼女は踊る文字を読み上げる。
「先日は、此の街にお越し頂き有難う御座いました。皆様方のお陰もありまして、街も良い方向へ進んでいるかと思われます。より多くのイレギュラーズの方々にエレディタへ足を運んで頂きたく思い、当街自慢の喫茶店を一日貸し切りでご案内とお持て成しをさせて下さいませ。つきましては『銀製の何か』をお持ちの上、お一方からでも、亦はご家族、ご友人、恋人とお誘い合わせの上、御立ち寄り戴ければ幸いです。……ですって! 凄いじゃない、貸し切りなんて!」
 ふんふんと意気軒昂に捲し立てると、ポルックスは共に添えられて居た街の地図を寄越して見せる。赤い丸で囲まれた場所が、喫茶店なのだろう。
「『銀製の何か』、ねえ。スプーンとか、フォークとかそんな物でも良いんじゃないかしら?」
 以前は表紙の仕掛けに込められた銀のペンダントが通行許可証になったが、多くを案内するのであれば数が足らなくなる事だって起こり得る。だからであろうか、今回はドレスコードとして持ち寄って欲しいらしい。彼女が上げた他にも、身に付ける装飾品の類や、楽器、鏡、洋酒器、鈴、様々な物が有るだろうから、何も無理して買いに走らなくとも、身近な物で大丈夫そうだ。
「わあ、わあ! ポルックス、ちょっと手伝っておくれよう!」
「はーい、今行くわ! ごめんなさいね、慌ただしくって。呉々もマナーを守って、楽しくね! 折角紡がれた縁ですもの、街の人を悲しませる様な事はしない、其れさえ出来ればOKだし、あなた達なら心配は要らないって信じてるわ。それじゃあ、『いってらっしゃい』!」

NMコメント

 しらね葵(――・あおい)です。
 この度は当ラリーノベルのオープニングを読んで下さり、有難う御座います。
 初めてのライブノベルの次は、初めてのラリーノベル。初めて続きではありますが、皆様の長い様で短い時間をうんとフレッシュに宝石を添えて切り取って行きたいと思っております、何卒、宜しくお願い致します。

●世界観
 宝石の街『エレディタ』。
 宝石に寄り添い、宝石と共に生きる街です。
 可食性のある様々な宝石が実っていて、此処では其れが当たり前の様に振る舞われます。
 独自の魔術体系が古より基盤となっており、亦、其の余りの特異さ故に永きに渡って閉鎖的だった場所。理由は様々ですが、他の場所で其の様に宝石を齧っても、痛い思いをする上に奇人扱いを受けるだけだから……なんて事も昔の人は考えて居たのかもしれません。

●依頼内容
 Cafe & Bar『アルコバレーノ』で一日を過ごす。
 本日は一日お客様はイレギュラーズの皆さんだけの貸し切りです。

●各章のシチュエーション
 第一章……朝
 モーニングの時間です。血圧が低くて中々頭が冴えて来ない方も、朝は何時もアンニュイな方も。若しくは、早起きして日課の鍛錬を終えて汗を流したよ! と云う方も、朝ご飯を食べましょう。
 席数はそこそこにある為、うっかりお腹がいっぱいになって居眠りをしてしまったりしても大丈夫。エレディタの街でしか読めない新聞に目を通しながら、のんびりしてみる等も如何でしょうか。

 第二章……昼
 お昼時から、夕方のバータイムが始まる時間迄です。お洒落な白いプレートで出されるランチセットがオススメの一品。
 ドリンクをお代わりしながら、本を読んでみたり。話に花を咲かせてみたり。
 十五時からの二時間はデザートタイム。此の時間でしか食べれない甘味を狙うなら、うんと長く席に貼り付いてみたり。または時間を見計って入店するのもオススメです。

 第三章……夜
 十七時からはバータイムとなります。ちょっぴり大人の時間。未成年の方も入店出来ますが、提供出来るのはソフトドリンクやノンアルコールカクテルです。未成年の飲酒、ダメ、絶対。
 様々な宝石に擬えたリキュールが並んでおり、定番のものからオリジナルカクテルまで。普通のエールやウィスキー等の酒類も御座います。
 バーカウンターであれば、『あちらのお客様からです』とか『今日の私に似合うものを』なんて事も可能です。是非楽しんで下さいませ。
 また、お気に入りの石が見つかりましたら購入する事も可能です。屹度、5000G位で売れるやつ。

●備考
 オープニングに上がっている物の他にも、様々な宝石を召し上がって頂く事が可能です。
 『こんなのありそう!』と云うメニューを色々想像して楽しんでプレイングを掛けて頂けましたら幸いです。店主に『こんなのどう?』と考案を投げ掛けてみたら、次に来る頃には定番メニューに加えられていたりもするかも知れません。
 また、完全お任せでもお料理・ドリンク共に提供致します。
 『好きな宝石は此れなんだけれども……』『こんな色が好き』の様な事だけでも、プレイングに織り込んで下さいましたら、精一杯お持て成しさせて頂きますので、メニューが思い付かない! と云う方でも御気軽に。店主になった気持ちでしらねがせっせと厨房に立ちます。

●ドレスコード
 銀製の何か。特別此れと形に拘りの有る方は御記載下さい。皆様一律『持って来て門番に見せたので街に入れた』扱いになりますので、無くても大丈夫です。


 以上になります。皆様のお越しをお待ちしております。
 ――……『いらっしゃいませ!』

  • <妖幻惑蒐記>淡の矮星完了
  • NM名しらね葵
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年04月08日 17時02分
  • 章数3章
  • 総採用数41人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

 まるで鏡面の様にぴかぴかと綺麗な窓。
 塵一つでも落ちて居ないか、丹念に確かめた客席とクロスで磨き上げたテープル。
 最後に掃き掃除をしている頃には空は明るんで来て、作業着を着込んだ鉱夫達が坂を降りて行くのを見送れば、入れ替わり、立ち替わり。街の東に位置する畑から其の朝採れたての宝石達が山程届く。
 受領書にサインをして、代金を支払うのが常ではあるが、今日は少しばかし違っていて。
「マーサさん、今日は例のお客さんが来る日だろう。お代は良いよ」
「うんと良いのばかり持って来たからね、是非うちの子達を使っておくれ」
「こっちだってどうだい? とても甘いのを保証するさ、頑張ってな」
 そう、皆が笑って置いて行くものだから、老紳士――店主のマーサは相好を崩して、料理されるのをまだかまだかと待っている『彼』や『彼女』等をひとつ、ひとつ愛おし気に撫でて、厨房へ運び入れると。
 店の入り口に掛かっている、『CLOSED』の看板をひっくり返した。

 ――『OPEN』

 今日は、外からのお客様が屹度大勢やって来るのだ。
 お持て成しをする大役を承った彼を、応援する様に肩の上の愛する翡翠が『チッチ』と鳴いて、おっと此れを忘れてはいけなかったと、此の日の為にせっせと縫い上げた彼女の為のエプロンを、首から掛けてやる。
 其れでは、Cafe & Bar『アルコバレーノ』のとっておきの煌めきに溢れた一日を、覗いてみよう――。


第1章 第2節

黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

 揃いの銀の懐中時計を持った『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)が、窓際のボックス席に着くと、店主がハイチェアを持って来た。本当は子供用の椅子だが、滑らかな天鵞絨に、ふかふかの座り心地はお姫様の様だと奥様もご満悦。
『まあ素敵なのだわ! 有難う店主さん!』
「……感謝を。折り入ってお願いがあるのだが――」
 彼の望みは『サファイア』と『ガーネット』だ。
 前者は、奥様の吸い込まれる様な眸に。後者は、其の身を包むお洋服の様、なんて伝えれば、『あら!』と彼女がちっちゃな両手で頬を覆った。
『一寸恥ずかしいけれど、嬉しいわ鬼灯くん!』

 純粋な真紅のパイロープ・ガーネットは季味。薄切りのパンに様々なジャムを塗って重ねてクリームで覆う。まるで宝石が並ぶショウケェスの様に落としたコンフィチュールは、白の上で一際輝くのに、決して威圧さを感じる事の無い赤。
 神聖なサファイアは喩えるなら天使の眸。冷たい霧の中で凍らせたかの様な青い釣鐘の器にマロウブルーを。青から紫に移ろう水色は『お二方の色ですよ』と店主は笑う。
『キラキラしてるのだわ! 綺麗ねぇ』
「此れは、中々」
 そして此れはとっておき。紅茶にシトロンシロップを垂らせば、二人の色が溶け合って甘い戀の様なピンク色になるものだから。
「ふむ、……此の様な穏やかな朝も悪くないな、嫁殿」
『ええ、今度は其方の蜂蜜漬けも其の儘頂きたいの、良いでしょう? ねっ!』

成否

成功


第1章 第3節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

 可愛い兎の女の子を連れた、『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は『外の世界』へ初めてのお出掛け。
 知り合いの忍人への挨拶もそこそこに、入り口に近い窓辺のシートにいそいそと腰を降ろした彼は、オフィーリアの長いお耳に口を寄せて。
「モーニングセット楽しみだねぇ、オフィーリア。……ええ? いつもお寝坊なのに今日は随分元気ね、って?」
 だって『宝石が食べれるんだよ』、と言い掛けたところで、外から聴こえて来たのは――。
「カフェアンドバー! こ、此れは! 大人な気配がするぞ! ……おじゃまシマス!」
「あれ? リュカシス?」
 鉄帝軍学校の制服を身に纏った軍人見習いさんの聲。朝のランニングがてら、イーハトーヴを追って此の街にやって来た――『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は、やけに畏った様子で入り口を潜ると、『やや!』と手を降って彼と彼女が座る席の対面へと相席のお願い。勿論、断る理由も無く共に朝食を摂る事に決めたが、メニューを広げれば難しい貌を突き合わせる。
「イーハトーヴさんはもうご注文はお済みで?」
「どうしようか悩んでいたんだ、でも『メニューお任せ承ります』って書いてあるから、俺、そうしようかなあ」
「自分は何処か、規則性のある石が好きなので……その方面でお願いしてみようかと」
「うん、じゃあ決まりだね。すいませーん!」

 『理想郷』の名を冠する青年へは、夜空に鏤めた金の星。由緒ある黄金色のインペリアル・トパーズを使った大きなデニッシュを。サクサクの生地に甘く香る苹果と、酸味の効いたチーズクリームを合わせれば爽やかな味わい。ミントの香りのする碧玉が芽吹く、未だ星が瞬き出す前の夕陽の様なシトリンの曹達を添えて。
 石の方向性に加え、『出来ればたっぷりお願いします!』だなんて頼んだ、食べ盛りの少年には、じっくり焼いたカステラパンケーキに、不思議な幾何学模様が連なったフルーツサラダ。色に依って、苺やグレープフルーツ、キウイを始め沢山の味を食べ易くカットして盛り合わせた一皿は、見目も麗しく。少し渋い色合いのパイライトは鈍色のグラスに注がれたジンジャーエールに沈んでいる。
「うわー! とっても綺麗で美味しそう! ……って、んぐ。分かったよオフィーリア。ちゃんと静かに食べるってば」
「朝ごはんは食べてきたけど、すぐにお腹がすいてしまうのデス…… だから、此のボリュームは嬉しく。えへへ」
 おっかなびっくり、フォークを取って一口運べば、程良い歯応えの次にビタミンたっぷりなお味!
「ん? どんな味がするのかって……何だ、興味津々なんじゃない。すごい、すごいよ。苹果デニッシュだ。リュカシスのは?」
「其れが、驚く程ジューシィな果物のお味デス、たはぁ、一杯食わされたって感じで……」
「「参りました」」
「……だね?」
「デスネ!!」

成否

成功


第1章 第4節

瑪瑙 葉月(p3p000995)
怠惰的慈愛少女
藍銅 神無(p3p007720)
鬼いちゃんに任せなさい!

 宝石が食べられるなんて、私と『鬼いちゃん』にぴったり。
 ドレスコードの銀製品は、お互いが贈り合った品々。シルバータグのネックレスを首から提げた『怠惰的慈愛少女』瑪瑙 葉月(p3p000995)と、和の装いにも似合うバングルを嵌めた『鬼いちゃんに任せなさい!』藍銅 神無(p3p007720)のふたりの食べたい物は、自分の名と誕生石に因んだ宝石と最初から決まって居た。
 メニュー表を開けば、手描きの文字にカラフルな宝石のイラストが踊る。お目当ては、葉月が『赤瑪瑙』と『ペリドット』。神無は『アズライト』と『オパール』だ。指でなぞって探す時間は、まるで宝箱の中から至極の宝石を拾い上げる様な気分で、自然と真剣さを増して行くと云うものだ。
 軈て、注文を済ませた頃にはからからに乾いていた喉を柑橘類を絞った水で潤して。
「何時もはさ、俺が作ってるから人の作ってくれるご飯って久々だね。何か楽しみだ」
「鬼いちゃんとのおうちご飯っていうの日常も好きだけど、偶には休んでくれたって良いんだよ?」
 朝食を食べ終わったら、今日はたっぷり遊ぼう。噂の苺水晶狩りに行っても良いし、記念にアクセサリーを買ったって良い。夢は膨らむ一方で、胃袋が空腹を訴え出した頃に鼻を擽ぐる良い香りが届く。

 パンケーキは豪勢な五段重ね。レッドアゲートはサラクに良く似ていて、しゃきりとした歯応えで味はパイナップルに似た甘味と酸味がある。其れにたっぷりと掛けられらふわふわのクリーム。其の宝石は意外にも渋みもあるから、更なる甘さが欲しければ、ポットに入れて添えられたチョコレートソースやメープルシロップをお好みで。
 硝子のポットで煌めくペリドットのフレーバーティは、森の緑。朝陽が差込む窓辺に置けば、樹々をすり抜ける木漏れ日の輝きで味わいは爽やかに。
 アズライトは未熟な青葡萄の味が一番近い。丁寧に焼かれたバゲットに挟んだフルーティな水色のクリームは、今日の様な快晴の青空を思わせる。其の儘此の藤の籠の持ち手を握って、外に繰り出したい思いに駆られる一品。
 オパールコーヒーは、見る者によって解釈が分かれる不思議な色合い。浮かぶ白に虹がちらちら遊ぶ様な輝きは、高貴さすら窺える美しさで心を掴んで離さない。酸味は抑え目のコーヒーでグラスフェッドバターの中にココナッツの香りは成る程、バターコーヒーの味わい。
 『頂きます』とふたり、何時も通り手を合わせて、取り留めのない会話をしながらの朝食。
「あっ鬼いちゃん、サンドイッチおいしそうだから一口分けて?」
「はいはい、どーぞ。……って、あ」
 パンケーキに夢中な葉月は気付かない。そうっと手を伸ばして、頬についたクリームを掬ってやると――。
「えっ、ついてたなんて……もっと早く教えてほしかったなの!」
「ごめんって、葉月。かわいかったからつい、ね」
「も、もう一口。くれたら、許すの!」
「はは、仕方ないなあ」

成否

成功


第1章 第5節

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神

「モーニングセットを一つ、飲み物はエスプレッソをダブルで頼む」
 オーダーを済ませた『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は、店内を見渡せば、程々の人の入り。行き届いたサービスに、ラフ過ぎず硬過ぎず。そんな雰囲気に好感を抱いた。
 此処ならば――。
「済まないがこの街で一番良い装飾品を扱う店は分かるか?」
 きびきびと彼女の朝食を運んで来た店主に問えば、『地図をお書きしましょうか』と、紙に万年筆のインクが踊る。凛々しく精悍な戦乙女は、『プレゼントですか?』と問われれば、臆、と肯いて。
 ――……何、今宵は美しいバッカスを呼んでいるのでな。贈り物の一つも用意せねば恰好が付くまいよ。だなんて応えて、眩い彼女の髪の様な金箔が浮いた苦いコーヒーを啜ると『そうだ』とバーカウンターの方を見遣ってから頭を下げる。
「今日の夜。落ち着いて飲める席を二つ用意して欲しい」
 無理は言わない、騎士の名が廃れるのでな、と畏った様子の彼女に『其れは其れは、』と店主は悪巧みに共謀する少年の様なとびっきりの笑みと大仰ぶった態度で『では彼方の隅の二席をお取りしますね、御武運を』と地図を手渡した。
「気遣い、痛み入る。……馳走になった、卿も良い一日を」
 こうと決まったならば彼女の一日は忙しくも楽しいものになろう。店を後にして、向かうのは装飾店。
「店を背にして左……彼方か。良い出逢いが有ると良いのだが」

成否

成功


第1章 第6節

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

 あちこちに宝石があってとても華美だけど、決して嫌味さを感じないのは、自然と此の世界に在るからなのだろう。
 そんな風に、今迄通って来た道のりを思い返し、亦、窓から見える燦々たる景色を眺めていたマルク・シリング(p3p001309)が頼んだのは、街の人が好む至って普通のモーニングセット。
 こんな時でも、つい知と学を求めてしまうのは生来のものだろうか。
 どんな出来事が、如何報じられているのか。
 平和なのか、乱れているのか。人々はどんな事に関心を持つのか。
 此の街独自の新聞を開けば、彼は拍子抜けしてしまって、笑い声を挙げるのを堪えざるを得ない。
「……ふふっ」
「ぷっ……」
 重なった其れに視線を横に移すと、同じ様に新聞を広げて今にも顔を机に突っ伏しそうなお隣さん――『飢獣』恋屍・愛無(p3p007296)の姿。
 だって、新聞の内容と来たら、『どこどこさんの家に初孫が産まれた』だとか、『可愛い子犬5匹が漸く乳離れ、飼い主さん募集中』であるとか。そんな微笑ましい事しか書いていないのだから!
「長閑な所だね?」
「ええ、今まで閉鎖的な場所だったと聴きました故に。こう云う内容に落ち着くのは頷けるのだよな」
「あ、僕等の事も書いてあるね、『イレギュラーズの皆様を本日お招き。精一杯のお持て成しを!』だって」
「僕はこの宝石コラムが中々に興味深い……此れだけで時間が潰せそうだ」
 暫し、そうして新聞について語り合っている間に、『お待たせ致しました』と料理が届く。

 マルクにはスタンダードな、パンに、ベーコンに、目玉焼きに、サラダ。けれど侮る事なかれ。パンにはミルキークォーツから取れた牛乳が使われているし、卵だって毎日珠玉を食べて育ったエリート鶏が産み落としたものだ。肉類ばかりは己の識る加工技術と大差ないらしいが、サービスの食後のドリンクは青雲を映したカヤナイトコーヒー。
 『僕は赤や黒の石が好きではある』――そう、伝えて居た愛無へは、ラバストーンのマルベリーカレー。様々な微塵切りの野菜を鶏の手羽先をバターでさっと炒め、スパイスと赤ワインで味付けしたら、パセリを飾って。テーブルにある塩と胡椒で自分で好みの味わいを作れるのが嬉しいし、食欲旺盛な地球外生命体も満足の行く量。『お代わりも有りますよ』だなんて言われた日には心ゆくまで腹を満たさずには居られない。
「生物ならば、それなりに食べたが、宝石は食べた事が無かった」
「此の街の人は、何時から宝石を食べているんだろう、食の歴史とかが気になるな」
 『其れならば、図書館に行ってはどうでしょう? 今日は皆様の為に開放されてる筈ですよ』と教えてくれた店主に礼を述べて、そうと決まれば、と少し逸る気持ちを抑えながら朝食へと取り掛かった。
「ええっと、あ――……君、も図書館へ行ってみる?」
「愛無です、郷には入れば郷に従え。俄然此の世界に興味が湧きました、ご一緒しましょう」

成否

成功


第1章 第7節

アイゼルネ(p3p007580)
黒紫夢想

 右腕に付けたシルバーのブレスレットがローブの下でしゃらりと揺れる。フードを目深に被った『黒紫夢想』アイゼルネ(p3p007580)は丁度良く空いていた窓際の隅っこの席へ。
 『苦くないものを』と云うオーダーに応えた料理は、ルチルクォーツの一際強い輝きを恣にする文旦のペペロンチーノ。大蒜は控え目に、爽やかな文旦の甘味が鷹の爪のピリッとした辛味に調和して、見た目にも美しく、口に含めば春の味。金色のルチル程『陽』の力に強くエネルギッシュで、其れで居て神秘的。店主が其処迄見抜いて居たかは判らない所ではあるが、太陽が齎す影に潜み、其れを渡る少女にはぴったしの様にも思える一品だ。
 食後の温かいカフェオレには、水晶文旦の皮で作ったピール。丸一日以上水に晒して苦味を抜いて、聴いたら気が遠くなる様な工程を踏んで作られた其れは、テンパリングしたチョコレートに潜らせて粧し込んだ分、甘く、歯応えは少し硬め。
 外からは暖かな日差しが差し込んで、其れを受けて心は晴れやかに洗われて行く様。ぼんやりと窓の外のを見ていると、お代わりを持って来てくれたらしい店主が『お気に召しましたかな?』と控え目に問い、亦、肩の翡翠が『ジュイッ』と鳴いた。
 人と接するのがあまり得意では無い少女の背中を押してくれたのは石が持つ意味合いだろうか。其れは、小さくて、けれどとても大きな勇気。
「あの、お手伝い、出来そうな事ありますか……?」

成否

成功


第1章 第8節

アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.

 アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の今日は、朝の一杯の宝石コーヒーから始まる。
 煌く輝石の息吹を、纏う空気を、傷痕の残る肌で感じた彼女は後に『此の街がまるで一つの宝箱の様』に思えたと記録する。
「……なんだか、場違いなところへ来てしまいました、か?」
 そんな風に不安になって、其れから少しおずおずしてから店の中へ。出迎えてくれた店主と傍の鳥に、アッシュブロンドの髪を揺らしてお辞儀をしてご挨拶。
「……其の、此処ですてきな朝を過ごせると聞きまして、お邪魔しにきました」

 コーヒーと一概に言ってもお子様の舌にブラックは未だ未だ難しい。
 ほんの少しの照れ臭さい乍らも、ミルクと、宝石クリームをたっぷりで注文。店主の粋な計らいで香るバニラシロップと、アンバーのキャラメルソース。クランチした貴石がさらさらと、小さな花弁の様に見事にカールした削りチョコレートと一緒に載った其れは、舌で味わうにも、見るにも甘い宝石其の物だ。
 でも、コーヒーを飲んだだけで、精神的に大人になった気分になるのは誰しもが通る道。彼女に取っては、こんなに甘ったるくても、精一杯の背伸びの心算なのだ。自然としゃっきり、背筋を正して戴く子供向けおとな味。
 何もかもが初めての世界、初めての一杯。お土産話の為に、少女は羊皮紙の切れ端に文字を連ねて行った。
「初めてだらけの一日の始まりを告げた様な、そんな気がしました……と」

成否

成功


第1章 第9節

アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
ラピス・ディアグレイス(p3p007373)
瑠璃の光

 愛おしい恋人に起こされ始まる一日は、何時だって清々しい目醒め。『今日はボクが早起きでしたね!』と云う得意満面の笑みを見せる彼女の手には銀のナイフ。一つでは意味を成さないカトラリー、銀のフォークは――今日は敗者の彼の手に。
 メニューを見てむう、と眉を顰める『君に幸あれ』アイラ(p3p006523)に対する、彼女の眉間の皺を解す為に腕を伸ばしたラピス(p3p007373)は随分と飄々とした様子。
「ふふ、色々食べてみたいんだね。気持ちはわかるよ。アイラは美味しい物を食べるのが大好きだからね?」
「う、うう、そうなんです、悩んじゃいます……でも決めました! ラピス! ボクはモーニングセットをたのみます! ……だから、」
「だから、僕のと半分こ、って寸法かな? 其の物言いだと」
「ぐう」
「別に食い意地がどうとか思ってないよ、本当だよ? ふふふ」
「食い意地の問題じゃないの! もう! 其の方がお得だと思っただけなんですから!」

 アイラは、クレイジーレースアゲートの濃厚なグレービーソースを使ったトード・イン・ザ・ホール。卵を落として、三種類のチーズを贅沢に載せて丁寧に焼き上げた其れは、鮮やかなグリーンのプレートが際立つ。ぷりぷりのソーセージに、付け合わせはハッシュブラウン。深と透き通る薄青のアクアマリンのティーソーダは、無邪気な程明るく軽やかで、スカッとした気分にしてくれる。
 ラピスは、ブルーチーズとバナナ、ハニーナッツのカナッペ。其れから、から松の芽の緑玉髄――クリソプレーズの豆乳ジュース。まったり不透明で、けれど溌剌な緑はフレッシュなメロン味。目醒めたばかりの若芽を思わせる色合いは、こんな不思議な朝を過ごすお供には最適だ。
「本当に、本当に宝石が食べれるんですね……っ! あ、でも」
「どうしたんだい?」
「……ラピスは、宝石を食べるってことに、抵抗はない?」
 ――彼の心臓は、とても綺麗なラピスラズリで出来ている。心臓は、命のある場所。たましいが、宿る場所。其ればかりでは無い。彼の煌く髪も、眸もまるで本物と見紛う様な美しさだから。アイラは、此の街に誘った時から少しだけ気に掛かっていた事を切り出した。
「ん? ……そんな事を気にしてたのか。でも別に、僕の心臓を取って食べられちゃう訳でもないし」
 でも、心配してくれて有難う。そう、心配症で、誰よりも心優しい彼女の頭を撫ぜる。唯、今は。ふたりでこうして此の街に来れた事が、嬉しいから。今は遥か遠く、何処かの、けれど確かに合った――『故郷を思い出す』と云う事を、彼は今は胸に秘めて。
「冷めない内に頂きましょうか?」
「うん、頂こうか」
「嗚呼、ほっぺが何処かへ行っちゃいそう。何て幸せな朝でしょうか!」
「朝からそんな調子で大丈夫? でも屹度、僕等。素敵な一日にしようね」
「はい、はい! ラピスとなら、絶対に」
「うん、アイラとなら。出来るって、信じてるよ」

成否

成功

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