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シナリオ詳細

鉄帝黄金杯――イレギュラーズvs悪質傭兵

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●集団戦!
 何もかもが消えていた。
 ごみごみした町並みも、萎びた畑も、歯車大聖堂(ギアバジリカ)によって綺麗さっぱり消えてしまった。
「レディィーースアンドッジェントルメェーン!!」
 堂に入った宣言が高らかに響く。
 試合場は平らな土地に白線を引いただけの平地。
 観客席はござを敷いただけの平地。
 観客は、復旧作業で疲れ果てた老若男女。
 闘士に至っては、住処を失った人々を売り飛ばそうと集まった賊達だ。
「よーく集まってくれた! 見てくれこの逞しい闘士達を!」
 濃いサングラスの上からでも分かる力強い笑顔。
 きびきびと動く逞しい腕は古傷があり、司会者自身の戦歴を雄弁に語る。
 ジェッディンは、何もない場所を単身で闘技場の空気に塗り替えていた。
「右はヴァァァルカンッ戦士団! 荒荒しい見かけに相応しい腕っ節の持ち主だっ!!」
「お、おゥ? 金は俺達のもんだーっ!!」
 強力な火器を振り回して暴れる、典型的な賊だ。
 弱者にはいくらでも残酷になれる小物が闘技場の空気に飲まれ、まるで闘士であるかのように胸を張る。
 手下達も、団長の声に釣られて唱和していた。
「どでかい機関銃が迫力満点だ。対戦相手は近付く前に潰されないように気をつけろーっ」
 酷く物騒な解説だがここは鉄帝。
 観客はこれをお祭りと認識し、賊もジェッディンに誘導され賊ではなく闘士として騒ぐ。
「左はブースター傭兵団だっ。数は少ないが粒ぞろい。団長の高速移動と団員の杭打ち機の連携は戦力大だっ」
 機械部分が多い鉄騎種の体に多数のブースターを追加した団長。
 槍じみた杭を打ちだす機械を装備した、同じく鉄騎種の団員達。
 傭兵としても賊としても悪名轟く彼等が、闘技場の空気に飲まれかけていた。
「クソ、何がどうなって……。チッ、勝つのは俺等だ。文句がある奴はかかってこい!」
 わーっ、と響く歓声。
 ジェッディンが巧みに誘導しなければ、住民も巻き込んで悪質傭兵団同士の戦場になっていたことに気付く者はほとんどいない。
「そしてぇっ」
 派手な動きを止めて溜める。
 自然と歓声がおさまり、賊と民の視線が司会に集中した。
「飛び入りのイレギュラーズだ!」
 悪質傭兵団の団員が動揺する。
 2人の団長が表情を消して互いを牽制する。
「鉄帝、幻想、天義に練達! 海洋、傭兵、深緑、だけじゃあない!」
 様々な装備の勇士を身振りで示す。
「他の世界からのチャレンジャーもいるぞっ。勝負だけじゃない、戦い方にも期待出来そうだ!!」
 元々スラムで貧しい生活をしていて、生活を最低限立て直した直後の観客達だ。
 本物の闘技場と遜色ない司会は魅力的過ぎて、熱にうかされたように盛り上がる。
 賊は動けない。
 防衛部隊の過半は別地区にいつとはいえいつ戻ってくるか分からないし、イレギュラーズの実力も分からない。
 逃げてしまうかと考えた丁度そのとき、ジェッディンが何か大きなものを取り出した。
「優勝チームに贈られるのが、これだ!」
 金無垢の、優勝カップ。
 磨き抜かれた曲線が欲望を刺激する。
 貧乏人を売るよりずっと高値で売れて持ち運びも容易。
 賊達の頭から逃げるという選択肢が消え去った。
「試合開始は午後からだっ。腹ごしらえして会場に来てくれよ!」
 奇妙な緊張感に気付かず、ギアバジリカ以後始めての休みを味わう老若男女が喜んでいた。

●舞台裏
「来てくれて感謝する」
 ジェッディンはサングラスを外し、イレギュラーズに握手を求めた。
「君達も気付いているだろう。奴等は賊だ」
 会議場として自室を開放した老部隊長もうなずいた。
 勘で判断するなら真っ黒だ。団長2人には無辜の民の血がこびりついている。
 だがそれは勘であって証拠に基づく判断ではない。
 正直難癖つけて捕縛してから調べようかとも思ったが、主力はしばらく戻って来ないので戦力が足りない。
「部隊の協力がなければ芝居を打つことは出来なかった。部隊長には改めて協力に感謝する」
 深く頭を下げようとする野良審判を、老境の軍人が遮った。
「あのまま賊……傭兵共と戦っていたら民を守れず全滅していたかもしれぬ。礼を言うのはこちらの方だ」
 軍人の表情は厳しいままだ。
「これからどうする。今から戦いを仕掛けても警戒されているぞ」
 部隊長は、策がないなら相討ち狙いで攻撃するつもりだった。
「それはもちろん」
 ジェッディンがサングラスを装備し、にやりと笑う。
「鉄帝らしく、本気で闘技場をやろうじゃないか!」
 あの賊達にだって、日の当たる場所で目立ちたいという思いがある。
 新進気鋭のイレギュラーズを倒したという評判があれば傭兵業での良い宣伝になるし、賊稼業でも役に立つ。
 だから、イレギュラーズが試合として戦いを挑めば絶対に挑戦を受ける。
「試合なら観客を人質にとられることなく戦える。観客も楽しめる。ひょっとしたら真っ当な道に戻れ奴もいるかもしれない。誰も損をしないだろう?」
 そこまでうまくいくのか? と部隊長が不安そうな顔になる。
「それにな」
 ジェッディンが窓を開けた。
 腹を鳴らせた子供を、もっと腹を空かせた母親が優しく抱きしめているのが見える。
「楽しんでもらいたいじゃないか」
 スラムでの生活は厳しい。
 その上、連日の復旧作業だ。
 鉄帝人らしく頑丈な体を持っていても過酷な労働であり、食料も不足し娯楽などほとんど存在しない。
「笑って騒いで、もう1年頑張って生きようと思ってもらいたいじゃないか」
 闘技場は戦いの場であると同時に興行の場所だ。
 何をどの程度重視するかは闘士ひとりひとりで違いはするが、どちらも忘れてはいけない。
 つまり塩試合駄目絶対。
「部隊長、炊き出しは無理でも屋台とかを出せないか?」
 観客と闘士(悪質傭兵団)の間で警戒する軍人が、毛布を子供に渡すが足りていない。
 脳味噌気味で気が利かず、温かい物を用意するとかも思いつきもしない。
「屋台? ぬう……儂の部隊から出せるのは芋と薪だけだ」
 芋とは、この部隊の主食である、去年収穫した古いジャガイモだ。
 部隊長以下のオールドワン達は焼いて食って平然としているが、体力の落ちた子供に同じようにそのまま食べさせるのは危険かもしれない。
「助かる。私も手伝うつもりだがイレギュラーズ任せになるな」
「イレギュラーズの仕事が多いが大丈夫かね? 同時に行う集団戦の試合で賊のどちらかと戦う、おそらく試合中にもあるだろう襲撃から金杯を守る、芋を調理して観客に振る舞う……他に何かありそうな気もするが」
 部隊長は、今の部隊の頭数では観客を守るのに集中しても守り切れるか分からないと言い、改めて意見を求めた。
「試合の賭けの胴元」
「え」
「ぼったくりな酒販売」
「えっ」
「試合に出ない賊は試合を見るだろう。普段は紳士協定でやらない商売をしても構わない。地元客相手には手加減してくれよ?」
「えぇ……」
 部隊長は、大悪党を見る目をジェッディンに向けた。
「……まとめるとだな」
 咳払いをした部隊長が真剣な表情になる。
「民に被害が出ないなら何をやっても構わん。最悪の最悪でも儂の首が飛ぶだけだ。派手にやってくれ」
 腹の据わった、いい顔だった。

●選手紹介1
 ヴァルカン戦士団。
 戦場じゃ逃げ腰なのに警備依頼では暴れて住民に迷惑をかける典型的な奴等だ。
 ボスはヴァルカン。
 連射可能な大型火器を持った鉄騎種だ。
 同型の奴を見たことがあるが、射程も連射も凄かったぜ。
 ただ、火器が大きすぎて向きを変えるのは大変だ。近距離での戦いは部下任せだろうな。
 団員達はナイフや角材くらいしか持っていない。ただ、数は多いから注意してくれ。

●選手紹介2
 ブースター傭兵団。
 戦士団と比べて数は少ないが質が高い。
 特に団長の自称ブースターが厄介だ。
 白鎧姿で、ブースターを駆使した高機動力と高回避能力を使う。
 こいつが名乗りや挑発で敵を引きつけて囮になり、そこへ部下が襲いかかるって訳だ。
 部下も鉄騎種が多くて頑丈な奴が多い。
 自信があるんだろうな。
 ヴァルカン戦士団と違って、試合に負けるまでは観客に手を出すつもりはなさそうだ。

●選手紹介3
 隠密。
 最初から試合なんてする気がない奴等だ。見えないが少し前から気配を感じる。飛び入り参加者って奴だ。
 優勝カップの金杯が借り物で、イレギュラーズが勝ったときは返す契約になってるのに勘づいているのかもしれない。
 職業的凶悪犯だ。確実に仕留めてくれ。

●選手紹介4
 悪質客。
 スラムだからこういうのも集まる。
 ヴァルカン戦士団の、選手に選ばれなかった奴等もいるな。
 おそらく観客を相手にゆすりたかりをしようとするはずだ。
 どう対処してもいいが、観客に刺激の強過ぎる光景は見せないでくれ。

●選手紹介5
 観客。
 これも厳密には選手じゃあないが、観客がいなけりゃ闘技場は成り立たない。
 今は興奮しているから大丈夫だろうが、落ち着いたら悪者が2集団も近くにいることを思い出すだろう。
 その前に逃がすべきなのかもしれないが……。
 すまない、私の我が儘だとは分かっている。
 出来れば悪者を格好良く倒して、観客を楽しませてくれ。

GMコメント

 この形式の依頼では初めまして。GMの馬車猪です。

●依頼達成条件
 野良闘技場に集まった賊(現時点で物証無しですが捕まえれば証拠は大量)を試合でぶちのめしてください。

 以下に選択肢のようなものを列記しますが、プレイングに制限はありません。
 思いのままに行動して下さい。

・A
 ヴァルカン戦士団を相手に、集団戦の試合を行います。
 彼等は、体力自慢の団長と低練度の部下からなる傭兵団兼盗賊団です。
 総勢30名。試合に全員は参加しません
 団長【神】【超】【範】高威力高特殊抵抗、団員【物】【近】20名前後が試合に参加予定。
 「楽しもうじゃねぇか。俺が攻撃、お前等イレギュラーズは的な!」
 「1人2人死んでもどうってことねぇよ」
 「手下が全滅した程度で俺が負けるかよっ」

・B
 ブースター傭兵団を相手に、集団戦の試合を行います。
 装備良好な、凶悪犯集団です。
 団長【物】【近】【怒り】高回避、団員9人【物】【近】重防御。
 団長は【名乗り口上】を使います。
 団員の威力は高いですが、1度攻撃すると次のターンは攻撃出来ません。
 「見た目に騙されるな。1人ずつ集中攻撃しろ」
 「まさかここまで強いとは……」
 「部下が全滅とはな」(逃げ出そうとする)

・C
 司会や解説を行います。
 ジェッディンは独自の思惑で健全な試合を作るため、イレギュラーズに任せることが出来ることは全て任せようとします。
 周辺地域から新たに観客を集めようとしてもOK。

・D
 観客の近くで屋台を運営したり、闘技場でものを売ります。
 価格は一定でなくてもOK。材料のジャガイモは材料費無料です。調味料や他の食材も、常識的な範囲であれば自由に持ち込めます。
 利益は一般客に渡すお土産のための資金になります。

・E
 賭けの胴元になります。
 一般客を楽しませ、悪質傭兵団等からむしることが出来ると、鉄帝の部隊長がにっこりします。
 予想屋も出来るかも。
 利益は一般客に渡すお土産のための資金になります。

・F
 金杯を護衛します。
 隠密が襲って来ます。数は6人。
 【近】【単】【猛毒】隠密系スキル有り高命中です。軽装な分、防御技術は低め。
 金杯は、イレギュラーズの判断で自由に動かし、見せびらかすことも隠すことも可能です。


●戦場
 1文字縦横20メートル。試合開始時点の状況。上が北。晴れ曇り。北向きのやや強い風)
 abcdefghijklmn
1□□■■■□■■■□□□□□
2□□□□□□□□□□□□□□
3■□試試×□×試試□■□□□
4■□試試試□試試試□■□□□
5■□V試試□試試ブ□■□舎舎
6□□□□□□□□□□□□舎舎
7□□■■■□□■■■□□舎舎

 □=平地。平坦。未舗装。
 ■=観客席。大勢の観客と、少数の警備の鉄帝軍人がいます。屋台を設置可能です。
 試=試合会場。念入りに整備はされていますが未舗装。
 V=試合会場。ヴァルカン戦士団の試合開始位置。
 ブ=試合会場。ブースター傭兵団の試合開始位置。
 ×=試合会場。イレギュラーズの試合開始位置。

 舎=鉄帝軍用宿舎。出入り口はn5のみ。


●他
『観客』×たくさん
 観客席にいます。
 試合で流血沙汰になって盛り上がりますが、賊に襲われると混乱し、一部は勝手に応戦します。

『鉄帝軍駐留部隊』×少数
 主力が出張中の部隊です。
 数はとても少なく、観客をチンピラ程度の相手から守るのが精一杯です。

『ジェッディン』×1
 イレギュラーズが司会や審判をしないなら嬉々として自分でやります。
 戦闘も可能です。

『黄金杯』×1
 篤志家が貸してくれました。
 多少傷つく程度なら構いませんが、盗まれたり壊れたりするとジェッディンと部隊長が非常に困ります。

『会場』
 余った土地に地元民がござを持ち込み鉄帝部隊有志が白線を引いて完成しました。

『試合ルール』
 相手側を全員殺すか降伏させると勝利。
 試合会場の外に出た選手は失格。
 故意に止めを刺して殺したチームは無条件で敗北。
 勝ったチーム同士で決勝戦。

『試合後』
 ヴァルカン戦士団もブースター傭兵団も、負けた時点から手段を選ばなくなります。
 負けた時点で賊が全員戦闘不能であれば、それ以後問題は発生しません。


●情報確度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報は全て信用できますが、不測の事態も起こる可能性があります。

  • 鉄帝黄金杯――イレギュラーズvs悪質傭兵完了
  • GM名馬車猪
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月11日 22時05分
  • 参加人数20/20人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(20人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)
特異運命座標
郷田 貴道(p3p000401)
人類最古の兵器
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
神話殺しの御伽噺
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
儚花姫
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
ムスティおじーちゃん
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
流麗花月
アベル(p3p003719)
未来偏差
シラス(p3p004421)
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
戦神
日車・迅(p3p007500)
何事も一歩から
メイ=ルゥ(p3p007582)
都会怪獣メイゴン
ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)
夢為天鳴
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
エージェント・バーテンダー
エレジア・アイス(p3p008049)
月氷の騎士
ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)
異世界転移魔王

リプレイ

●開幕の匂い
「見事な対応でしたジェッディン殿。まさに名審判でいらっしゃる!」
 言葉だけだと露骨なよいしょだが、『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)は本気で言っている。
 差し出された分厚い手と握手を交わし、きらきらした目で野生の審判を見上げた。
「君達がいたから出来た判断だ」
 サングラスを外した目が真正面から迅を見る。
 気の弱い者ならへたり込んでしまいそうな圧力がある。
 迅は圧を期待と信頼と理解して、己のやる気が燃え上がるのを感じた。
「ジェッディン殿と部隊の皆さんが整えてくれた場、引き継がせて頂きます!」
 ふわりと風が吹いた。
 鉄帝とスラムを襲った過酷な日々の終わりを告げる、春の爽やかな風だ。
 しかしその印象は一瞬でかき消える。
 油と塩と炭水化物の暴力的な香りが、男達の胃腸を猛烈に刺激したのだ。
 焚火で熱せられた鉄板の上で、鉄製のヘラが2つ踊っている。
 ジャガイモだ。
 両面がキツネ色に焼き上げられ、内側から油が滲んで焼き立てパンに匹敵する香りを撒き散らしている。
「ぶはははっ」
 ジャガイモガレットを数十まとめて面倒見ているのは、分厚い筋肉をかなりの脂肪で覆った『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。
 清潔な割烹着と白帽子とマスクを装備した完全武装で、熱くなった鉄製ヘラを体の一部であるかのように操っている。
「どうだ一枚!」
 群衆を押し退け最も鉄板に近づいた男に、ガレットを薄紙に載せ押しつける。
「熱っ……あつぁっ!?」
 戸惑ったのは一瞬だけだ。
 口に入れた時点で目の色が変わり、熱さを忘れて噛む度に目が潤んで顔が上気する。
 古くスカスカの芋を使わざるを得なかったのに、濃厚なチーズの油と塩によって非常に美しい美しい味になる。
 小さな悪意など一瞬で消し飛ばされ、ガレットという快楽に魅了された。
「うめぇ、うめぇよ……このパリパリしたのもうめぇ」
「混沌米って奴よ」
 ゴリョウは忙しい。
 子供連れの母親や会場設営に従事した男達にガレットを渡し渡した分を補充しながら、保護結界の維持と感情探知による広域監視まで行っている。
「下拵えに参加するならもっとくれてやるぜ!」
 メシの顔になった男は、即座に了承して裏の調理場に走った。
 ボリュームのある1食を終えてもまで終わりではない。
 油から大きな網が引き上げられ、皮付きのフライドポテトが外気と無数の視線に晒される。
 円弧型の断面が、ガレットに匹敵する魅力で老若男女を捉えた。
 だがまだ終わりでは無い。
 『疾風怒濤のバーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)がハーブとスパイスを絶妙な加減で混ぜた塩をさっと振りかける。
 暴力的に魅力的でも単調でもあった香りに複雑さと奥行きが加わり、古びた芋が材料とは思えぬ料理に変わった。
「一杯欲しいならこちらへどうぞ」
 皿代わりに使われる薄紙にフライドポテトを次々載せながら、普段より増量した胸に集まる視線の主達に声をかける。
 家族連れの男は妻子の視線に気付いて慌てて目を逸らし、流れて来た悪党はふらふらと誘導され……地元民有志によるぼったくり(気味)飲み屋に吸い込まれていく。
「美味しいねっ」
「こらっ、口の中の物を飲み込んでからにしなさい! 騒がしてすみません」
 家族の手には、Stella Biancaと印刷された紙が大事そうに抱えられていた。

●黄金杯
 『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)が、両手に持った杯を高々と掲げた。
 形状は平々凡々であり、金無垢という1点を除けば凡庸未満。
 だが陽光にきらめく様は格別だ。
 無数の欲望に永年晒され続けたその杯は、新たな欲望を注がれ妖しげな魅力まで備え始める。
 シラスが再び歩き出す。
 一歩一歩確実に、見る者が見れば驚くべきバランス感覚と神秘の技を兼ね添えた体で一際高い壇まで上がり、恭しく杯をその場に置いた。
「かあちゃん、あの人ラド・バウの闘士だよっ」
 顔色の悪い子供に笑顔で言われて、母親はなんとか笑顔を維持したまま頷いた。
 スラムを襲った困難は質量共に凄まじく、もう終わったと聞かされても全く実感が持てない。
 子供を医者に診せる金もコネもない現実は全く変わらないのだ。
「よかったらこれどうぞ……っす」
 元気が良い足取りなのにどこか儚げな印象のある少女が、飾り気のない毛布を親子の肩にかけた。
 肌触りの良さに気付いて母親が慌てる。
 『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は気付かないふりをして、ガレットと揚げ芋の詰め合わせを子供に渡してから親子に背を向けた。
「返すのは何年後でもいいって軍人さんが言ってましたっす!」
 まるで別人のように元気に、しかし芯の強さはそのままに、値段に0をいつ書き加えられた酒瓶を籠から取り出す。
「ご機嫌っすかーっ!」
 不穏な気配を漂わせる酔客の口にアルコール5割越えを注ぎ、容赦なく財布からお代を回収して泥酔客をござの上に転がす。
 母親が、レッドの背中に頭を下げていた。
「皆さんのご協力に感謝します。優勝カップが届きましたので」
 『未来偏差』アベル(p3p003719)が一拍ためる。
 悪名高い2つの武装集団も、杯を狙う職業的犯罪者も、闘技場という存在に敬意を示し静止する。
「これより第1回鉄帝黄金杯を開始します。移動制限は解除します。試合場のみ選手以外立ち入り禁止です」
 アベルの声はガスマスク越しでも明瞭かつ爽やかだ。
「自己紹介が遅れましたね。実況、解説を担当させていただきます。貴方のお耳の恋人、アベルくんですよ?」
 軍装に包まれた体は痩せてはいるが動きにキレがある。
 実力と外面の両方の良さに惹かれ、黄色い声がアベルに集中した。
 アベルは軽く手を振るだけで歓声を抑える。
「最初の入場はヴァルカン戦士団です」
 製前列の巨漢から部下達まで全員、塩と油と芋の臭いを漂わせている。
 ほぼ全員腹をさすり、ベルトを外している者までいる。
「ヴァルカン選手はかなり強力な戦士という話ですね。しかも事前の試射で大火力と素晴らしい射程をみせつけました。今回の最強の一角でしょう」
 巨漢がにやりと笑い、自身の身の丈ほどもある兵器を片手で持ち上げて見せる。
「最強の一角といえばブースター選手もそうですね」
 ヴァルカンとは対照的に、ブースターを名乗る団長も杭打ち機を抱えた団員も無言のまま隊列をつくる。
「彼の率いる傭兵団の健闘に皆さんご期待ください」
 たたたと足音が近づき、アベルの隣にレッドが並ぶ。
「ヴァルカン戦士団対ブースター傭兵団対イレギュラーズのぶつかり合い、是非ともご覧あれっす!」
 レッドは悪行とは縁のないように見える。
「さあ皆で応援するっす! がんばえー! ヴァルカン戦士団! ブースター傭兵団ー!」
 そんな彼女が全力で応援すると、彼等が善玉でイレギュラーズの選手が悪玉の雰囲気になる。
「後退の二文字はない漢を見せてやれっす!」
 ここで逃げたなら、ヴァルカンもブースターも鉄帝ではちんぴら以下の扱いになる。
 笑顔でこんな手を打てるレッドもまた、熟練のイレギュラーズであった。

●花咲く泥沼
「実力が確かな傭兵団! 戦士団! 彼らの勝利に確信ある者は賭けた賭けたっす!」
 レッドの煽りで賭け事好きが我慢出来なくなる。
 その『お道化て咲いた薔薇人形』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の可愛らしくも底知れない声が耳から脳へ届く。
「ヴァルカン戦士団は黄色の札、ブースター傭兵団は緑の札ですわ。イレギュラーズの赤チームは配当が少し上がって2.2になりました」
 ヴァイスの監督下で、臨時雇いのスラムの子供達が希望者に札を渡す。
 子供と侮り支払いを誤魔化そうとした者もいたが、ヴァイスがにこりと微笑むと8割方支払いに応じる。
 至高の人形にそのまま命が備わったようにしか見えない彼女は、武力を一切用いなくても意思を押し通せる迫力がある。
「あら、オイタはだめよ……大人しくして頂戴ね?」
 残り2割に対する対処も万全だ。
 自らには指一本触れさせないまま息の届く距離にまで近づき、かすり傷を負わせない衝撃波で以て数メートル跳ばす。
 受け身をとれる程度の速度で、受け身に失敗しても怪我をしないござの上にだ。
「ご協力に感謝するわ」
 わざと派手に跳んでくれたのでしょうと言っているような態度で、次はダメージ有りでいくわよと相手にだけに分かる笑みを浮かべる。
 現実感がなくなるほど美しいヴァイスから、あり得ないほど濃い死の気配を感じた熟練詐欺師が、絶対に足を洗うと心に決めた。
「賭けのルールは単純明快! どのチームが優勝するか当てるだけ!」
 胴元の『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)の元には大量の金が集まっている。
 最初は1食分にもならない硬貨がぼつぼつと集まっていたのに、臨時雇いの子供が駆け回るたびに額が増え、今では高額貨幣ばかりだ。
「君達も興味があるのかい?」
 ムスティスラーフは予想配当を計算して数字を書き換えながら、こちらを伺っていた子供達に微笑む。
 柔らかな肌とふっくらした体格は、武に最上の価値を置く鉄帝の価値観からズレている。
 惰弱扱いされてもおかしくないはずなのに、存在感と説得力は試合場の闘士にも負けていない。
「まずは元気に動けるようにならないとね。そこで屋台やってるからお腹一杯食べておいで」
 子供4人分、予想より儲かるから材料費を増やしてOKと書いた上で自署して渡し、イレギュラーズが運営する屋台へ送り出す。
 利にさとい商人達も集まって来たらしく、観客席の後ろは随分と賑やかになっていた。
 『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は給仕用ワゴンから揚げ芋を取り出し、残像が見えるほどの速度でトングを操り3つの小皿へ移す。
 まだ熱を持つそれが皿の上で美しく並ぶ様は、上流階級の食事のようにも見えた。
 メートヒェンの機械要素の強い右目が戦闘時並みに精密かつ高速に動作する。
 白湯に適量の砂糖とレモン汁を垂らした飲み物を同じ量だけ注いだカップを渡し、メートヒェンは次の客を見つけるための移動……という名目の見回りを再開した。
「まったく、鉄帝は今大事な時期だっていうのに、こんな時に悪事を働こうとする輩が出てくるなんてね」
 まだ血は一滴も流れていないが、治安担当の軍人が頭を抱える数で悪党が集まっている。
 上空を旋回中の鳥から、主であるメートヒェンに情報が届いた。
「またか」
 置き引きだ。
 彼女はワゴンを揺らさず加速して、逃げようとする賊の足先を踏みつけ動きを封じる。
 戦闘用メイド服が優雅に揺れて、けれどスカートの中は一切見せはしない。
「檻に放り込まれるのと持ち主に返して謝罪、どちらが好み?」
 貴族の家で上級のメイドをこなそうなのに、この闘技場があるスラムという場に慣れている気配がある。
 小悪党はメートヒェンに対する恐れを隠さず、盗んだ物を返すため元来た方向へ戻っていく。
「まったく」
 イレギュラーズが巧くやった結果、金の臭いに多くの人間が引きつけられようとしていた。

●CM
 しかいしゃ、と刻まれた席で『シティーガール!』メイ=ルゥ(p3p007582)が熱弁を振るう。
 右手には2段重ねのガレット、左手には食べやすいよう紙コップに刺さった揚げ芋。
 一口囓る度に心からの笑顔を浮かべるので、両方の屋台に向かう人数はどんどん増えている。
「今回の司会解説の1人、メイなのですよ! メイも頑張ってお喋りするので、よろしくお願いしますですよ!」
 ふんすふんすと漏れる鼻息まで可愛らしい。
 悪い意味でも傭兵らしいブースター傭兵団も、良くも悪くも深く考えないヴァルカン戦士団も、感情豊かに揺れるケモ耳から目を離せない。
「お集まりの観客の皆さんは、激しい試合の流れ弾にはご注意ですよ。危険を感じたら、護衛の皆さんのお近くにいるようにお願いするのですよ」
 清潔なハンカチで口元と手を拭いて真顔で注意を促すメイ。
「メイは解説しながら、避けるようにするので大丈夫なのですよ。メイもイレギュラーズでシティーガールなので!」
 わあ、と悪意のない歓声が客席からあがり、ヴァルカン戦士団が釣られる。
「どんな白熱な試合が繰り広げられるのか、メイも楽しみなのですよ。あと、屋台の食べ物もとても美味しくて、メイは幸せなのですよ!」
 最高の宣伝になると気付いた商人がメイの席へ差し入れする。
「客席の皆さんも是非食べてほしいのですよ!」
 どん! と積まれた肉の串焼きがメイの口に消える。
「メイが食べていたのはあちらの屋台さんのお料理なのですよ。ごちそうさまでしたですよ!」
 きりりと表情を引き締める。
「さてさて、数で勝っているヴァルカン戦士団さん達、少数精鋭なブースター傭兵団さん達、そして、個性豊かな都会の刺客イレギュラーズの戦いなのですよ!」
 観客の盛り上がりの質が、明らかに変わった。
「ふむ、やはりイレギュラーズが飛び入りで出るとなれば、ここが活気あふれる状況になるのは当然であるな」
 背にはドラゴンの翼、頭には捻れた双角。
 顔立ちも整い体つきも高貴な生まれを想像させる少女が傲慢に微笑んだ。
 へっくしゅ!
 世界法則で盛大に受けた体には、スラムの埃っぽい空気はちょっと厳しい。
 『異世界転移ポン魔王』ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)は文字通りの魔王の眼光で、金杯のある壇の上から観客と選手を見下ろした。
「どいつもこいつもぎらついておるわ」
 圧倒的強者の態度ではあるが内心は違う。
 強い奴が集まり過ぎじゃないかな、と観客席に潜む気配にじとりとした視線を向けた。
 ウォーカーである『深海の金魚』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の髪が一房、手のように持ち上がる。
 客席の軍人(非番なのに疲れた体を引きずりやって来た闘技場フリーク)や闘士(同種)が、騒がせてすまんなという意を込めて軽く手を挙げ応える。
「黄金杯、か」
 エクスマリアは視線を試合場に向けてから小さく息を吐いた。
「大層な名の割に、相手はなんとも、品のない連中、だ」
 極一部の例外を除き、生き方は顔と気配に現れるものだ。
 ヴァルカンからもブースターからも、悪行を重ねた悪党の気配と被害者の血の臭いがする。
「だが、こちらはまだマシか」
 わざと目立ってくれているルーチェの背後に隠れ、金杯に向けられる視線の中から難敵の気配を探す。
 ブースターの気配は強いが、この強さは戦場での強さであり盗みとは別だ。
 エクスマリアと同程度に強く、それでいて隠密に優れた気配が1つ、2つ、後は分からない。
「襲撃はあるな」
 今更大会取り止めは不可能だ。
 住民の安全以外にも、一部隊とはいえ軍の、それもまともな部隊の面子が潰れて活動が困難になる。
 最終的に困るのは、環境が変わったとはいえスラムに住んでいることは変わらない住民達だ。
「ふ。ならばどうする?」
「決まっている」
 エクスマリアは、紙袋の中から兎型に整形されたガレットを2つ取り出しルーチェと半分こする。
 腹ごしらえである。
 暗い黄金色の髪が嬉しげに、黒い龍翼が楽しげに、どちらもぱたぱたと上下していた。

●ヴァルカン戦士団
「4人だ」
 そのままファッションショーに出ても違和感ない『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、4本の指を立てて傲然と宣言する。
「4人で、貴様等を全滅させる。我等が力、その身に刻み込むがいい!」
 闘技場から音が消え去る。
 数秒たって意味を理解した観客達が、最初はざわめくように、やがて熱狂して汰磨羈にエールを送る。
「あん?」
 巨漢が小首を傾げた。
 あまりにも鮮やかな宣言過ぎて、戦線布告であることに数秒気付けなかった。
「4人……4人だぁ!?」
 馬鹿にされたという衝撃と怒りはある。
 それ以上に混乱が強烈で、致命的な見落としをしてしまったのではないかと大いに焦る。
 とりえず、東側試合場にイレギュラーズが3人しかいないことを指摘しようとして、観客席の新たな騒ぎに気付いた。
「この、ミーが! オーディエンスのいる試合を逃すわけないだろ、HAHAHA!!」
 『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)は重くそして素早い。
 身に寸鉄も帯びないのに、重武装の鉄騎種より濃厚な力の気配を漂わせ、それでいて観客に対するアピールに慣れている。
 観客という障害物が無数にあるのに颯爽とした歩みは乱れず、自身に向けられる視線や気配にジェスチャーや頷きで応えている。
「HAHAHA、コレだよコレ! こういうド派手な舞台こそが俺の戦場だ!」
 一瞬放った拳が目視出来ず、拳が大気を撃ち抜いた音が会場に響く。
 ヴァルカンの表情がようやく引き締まり、高性能機関銃の銃口を貴道へと向けた。
「おい、ヴァルカン! てめぇもうちょっとヒネれねえのかよ、チープなんだよ悪役具合が!!」
 鉄パイプを手に戸惑うヴァルカンの部下の間を通り抜ける。
 複数の銃口が自身の胸に当たっても、貴道は眉を動かしもしない。
「どうせなら派手にやろうぜ、なぁ」
 ぐっと拳を突き出す。
 ヴァルカンははっとした後凶悪な笑みを浮かべ、己の拳を真正面から打ち付けた。
「はっ、固ぇな!」
「すぐに全身で味あわせてやるよ」
「穴だらけになっても同じ事が言えるかどうか確かめてやらぁ!」
 非常に荒っぽいが鉄帝ではこれも正解だ。
 激戦の予感に、観客席にいる弱者も強者も舌なめずりして激突の瞬間を待つ。
「では第1試合……」
 黄金杯を背にアベルが開幕のゴングを鳴らす。
「ファイ!!」
 ヴァルカンの部下が雄叫びをあげて突撃した。
 5人で1人を攻撃する動きは、雑ではあっても恐ろしいほどに実戦的だ。個々の練度では格下の戦士団がイレギュラーズを毒牙にかけるかと思われた。
 が、それを軽々上回るのがイレギュラーズだ。
「こっちでアンタらを避けるんで、気にせず戦って欲しいっス」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)の足下にあるボールは、直前の台詞が嘘っぽく感じられるほどの力に満ちている。
「パーフェクトッ、バウンス!!」
 ずむ、と空気が揺れた。
 足がボールを蹴る音のはずなのに、大型兵器が全力を出した音にしか聞こえない。
 回転するボールがイレギュラーズの足下をすりぬけヴァルカン戦士団に接触する。
「いづぅっ!?」
 ただ当たるだけではない。
 絶妙の角度と回転で戦士の体勢を崩し、反作用により変わった進路で別の戦士に痛みとバランス崩しを強いた上で次の目標へ向かう。
 ボールのベクトルも回転も全て葵の計算通り。
 ここまで来ると計算し尽くしたという表現では足りない。
 予知じみた計算能力とそれを現実にする超絶の技であった。
「お」
「すごい範囲攻撃なのですっ! でも戦士団の皆さんはまだ元気なのですっ!」
 メイに台詞をとられたヴァルカンか哀愁漂う表情になる。
 だが大重量の火器を構える腕は岩塊じみてびくともせず、膨大なエネルギーが銃口から飛びだそうと蠢いている。
 それは非常に強力な兵器であり、しかし汰磨羈にとっては低速過ぎた。
 加速した意識で、主観的には普段とさわほど変わらぬ速度で陰陽二極の霊気を運用する。
 華奢な見た目にそぐわぬ膨大な体力が、決して無視できない速度で削られる。
「出だしから、全力で盛り上げさせて貰う。止められると思うなよ!」
 切り上げる形で放った不可視の力が、5人1組の戦士を2組貫いたのにまだずもう1つの組を襲う。
 本来なら闘士の基準に満たない戦士は誰一人躱すことが出来ず、葵に崩された体勢のまま高次元の攻撃に体を抉られる。
「なっ」
 ヴァルカンの表情が歪む。
 汰磨羈の攻撃は止まらず、加速した速度のまま最初と同じ技を一度放つ。
 辛うじて躱せた者は重傷を免れる。
 二度の直撃を浴びた戦士は、悲鳴をあげることも出来ずに試合場に顔から突っ込み動きを止めた。
 半壊した2組とダメージを負った2組と無事な1組の勢いが急激に落ちる。
「どうした、何時までそこで呆然と見ている? さぁ来い。それとも、格下相手のいじめしか出来ないチキン共か?」
「足を止めるな! 俺の弾幕とテメェ等の突撃に勝てる奴なんていねぇ!!」
 大型火器から、どっ、どっ、と地の底から響くような音が響く。
 物理的な銃弾だか霊的な何かだか分からない光が、複数の銃口から圧倒的頻度で飛び出し地面と水平に飛ぶ。
 命中精度は汰磨羈の一桁下でも、威力は最低でも数割上回り効果範囲は匹敵する凶悪な銃撃だ。
 氷が割れる軽やかな音と、銃弾が複数断たれる鮮やかな音が重なり合い連続した。
「これを防ぐかよっ」
 戦士団の古参が泣き笑いの顔になる。
 氷の煌めきと雪狼の気配をほとんど置き去りにしながら、『夢為天鳴』ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)が真っ直ぐな目を外道働き経験者に向けている。銃撃を防ぎながらだ。
 賊が鉄パイプを握りしめて全力で振り下ろす。
 直前の攻撃は奇跡的に防禦出来た。
 今の一撃も生涯最高級の動きが出来ている。
 少なくとも相打ちには持ち込めると、自分でも信じられないことを真実だと思おうとした。
「私も全霊を賭して臨みましょう」
 外道には過ぎた舞台でも、燻る想いを抱く者に与えられる舞台としては相応だ。
 ユースティアは魔剣で鉄パイプを受け流し、冴え冴えとした魔力を無防備な戦士の胸へ伸ばしその少し上に聖剣で以て斬りつける。
 青白い光が斜めへ一閃。
 ヴァルカンに迫る巨体が口から鮮血を吐いて倒れ伏した。
「あなたの試合は終わりです」
 賊に対する断罪では無く、闘士に対する礼を以て一言かけて通り過ぎ、3人同時の鉄パイプ攻撃を晒される。
「っ」
 合理を突き詰めた回避は舞いに近い。
 右は当たらぬと断じ、左は移動速度を上げて回避し、正面からの鉄パイプは剣で受けて少しだけダメージを甘受する。
「頂きます」
 魔剣から飢えた獣の気配が漂う。
 ユースティアの斬撃が、戦士の1人から生気の一部を抜き取り主へと受け渡し体力を維持させた。
 雪狼魔剣士をこれ以上攻撃しても部下を殺すだけだと判断したヴァルカンが、重火器の狙いを変える。
 しして命中率が0まで落ちる。
「拳闘の大道芸に何故当たらねぇ!」
「コイツは拳闘じゃねえ! 敢えてナックルパートのみを攻撃部位とし、それを不利ではなく有利となるまで鍛え抜いた紳士の格闘術……ボクシングだ!」
 貴道は高速で走り鮮やかに躱し、グローブもつけぬ2つの拳だけを武器に鉄パイプ戦士を試合場の地面に沈める。
 戦士はどれも鉄騎種に相応しい頑丈さなのに、装甲が存在しないかのような一撃ばかりだった。
「案外お行儀がいいっスね」
 葵は観客席のヴァルカン戦士団10人を全員目で見て確かめた。
 子供には聞かせられないヤジを飛ばしているが乱入を試みる気配はない。
「呆気ないもんっスね」
 葵が走る。
 気付いた戦士団が目に見えて動揺する。
 葵がしたのは、数が減った戦士団の後ろに回り込んでヴァルカンに近付いたことだけだ。
 凄まじい威力の銃撃も、至近距離に対応していないなら紛れ当たりを期待するしかなくなる。
「テメェら何してやがる。こいつらを殺っ」
 葵の爪先が割れた顎を蹴り飛ばす。
「この期に及んで何する気っスかこの野郎!」
 ヴァルカンの部下は闘士として戦い闘士として敗北しようとしている。
 彼等の誇りを汚す行為に、葵の機嫌が急降下した。
「良い部下ではないか」
 二度目の加速に成功した汰磨羈がヴァルカンの背後に着地する。
 鉄パイプによる打撲跡が痛々しく、けれど微笑む様は爽やかでもある。
「ちぃっ」
 重火器を鈍器として扱いねこ武者を襲うおうとする。
 だが顎への一撃は深刻で、まともに狙えず明後日の場所で空ぶった。
「無様を晒す前に、負けるっス」
 葵の蹴りが腹に埋まり、賊としても名を馳せた男が白目を剥いた。
「ヴァルカン選手の気絶と……戦士団の降参を確認しました」
 歓声が爆発する。
 ヴァルカンの配下は、負けたのに満足げな顔をしていた。

●ブースター傭兵団
 黒いトライカーユニットが強烈な推力で『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)を運ぶ。
 試合場を高速でぐるりと回るパフォーマンスを見せてから、隊列を組むブースター傭兵団の目の前にぴたりと制止した。
 赤いマフラーは止まれずはためき、秋奈の黒セーラーと白い肌を鮮やかに強調する。
 秋奈の白い歯がきらりと光る。
「死にたい奴からかかってきな!」
 容姿の可憐さと凶悪なまでの自負が両立し、観客だけで無くブースターと他9名の敵勢まで引きつけられる。
「ここには魔王を討ち取る勇者はいるのかしら?」
 傭兵団団長の目が警戒一色に染まった。
 真っ当な生き方をしてこなかった自覚はあるが、秋奈の目を通して地獄はブースターが経験したそれより数段悲惨だ。
 ブースターは白い鎧に触れ、温存する予定だったエネルギーを全て回避用ブースターに注いだ。
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上! ブースター傭兵団! 正々堂々と勝負だよ!」
 黄色い歓声と野太い歓声が同時に聞こえる。
 声援に応えて手を振る『魔法騎士』セララ(p3p000273)はどこまでも自然体で、人々の思いを背負って戦い続けてきたのが直感的に分かってしまう。
 手強い。ブースターと名乗る彼は、不名誉を承知の上で逃亡を選択肢に入れた。
 それぞれ違う方向で可憐かつ力強い2人を守るように、白銀の装飾が施された闘衣を纏った『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が宣言する。
「宣言します。この戦の勝利は、俺達が頂くと!」
 スキルを使わない挑発だ。
 数はヴァルカン戦士団の半分でも、質は数段の上のはずの傭兵団が不穏な気配を発する。
「両者やる気十分っす! 開戦まで後ふたーつ、ひとーつ……ファイトっす!」
 ブースターの戦意が観客席に向く前に、レッドが発火寸前の空気に火をつけた。
「俺は天義の騎士だ! 鉄帝の傭兵などには負けはしない! その剣が鈍でないというのなら、その腕でもって見せてみろ!」
 態度も装備も騎士らしい騎士であるリゲルだが、用いる戦術は実戦派騎士と評すに相応しい容赦のないものだ。
 計算し尽くされた挑発と無音の斬刃の組合せは呪いじみていて、低空を超高速で飛ぶブースターでも回避しきれない。
「ん、がっ、耐えたぞ!」
 ぎりぎりで、耐えた。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 対戦相手の要を潰す策が1つしかないと思うのが間違ってる。
 リゲルに気をとられたブースターは、 秋奈の口上に気をとられて部下との連携に失敗する。
「油断がならない相手のようだな。しかし志も無い獣のような者たちに負けるわけにはいかん。騎士たる私が成敗してくれる」
 重鎧に鏡にも見える盾という華麗でいて威風堂々とした装備と態度なのに、『月氷の騎士』エレジア・アイス(p3p008049)は前に出なかった。
 杭が収まった武器の群れが戸惑うように揺れた。
 頭でっかちの騎士を誘き寄せて包囲し杭打ち機で仕留めるという必勝パターンが、エレジア1人に、一度も交戦することなく崩されたのだ。
「これがボクの全力全壊!」
 空の雲が不自然に歪む。
 細く白い雷が、音を置き去りにして何度も角度を変えながら試合場のセララにまで届く。
 魔力で編まれた装束が、膨大なエネルギーを得て真っ白に輝いた。
「ギガセララブレイク!」
 装束より1桁は多いエネルギーを込めて聖剣でぶっ叩く。
 雑に要約するとそれだけの技だが、威力も速度も桁外れすぎて防御と回避の手段がない。
 呆然とした賊が1人派手に吹き飛ばされ、踏み固められた地面で2度3度と跳ね返り隊列を崩す。
「魔法騎士、インストール!」
 雷に寄りすぎた属性を普段の属性に引き戻す。
「杭を打てぇ!!」
 闘士として戦うべきか、賊として動くべきかなどという悩みは消滅した。
 全力を出し切らねば試合であったとしても死ぬ。そう直感した男達が刺し違えてもセララを仕留めるつもりで杭打ち機を起動させて突っ込む。
「やるねっ」
 危険が迫ってもセララは動揺しない。
 躱すのと剣で杭を受け流すのを同時に行い、その動きを次の剣技へ繋げる。
「スピニングっ」
 まだ振り始めたばかりなのに手応えがあった。
 常人の倍ではなく熟練戦士の倍速で動ける予兆と感覚だ。
「セララソード!」
 背後に回り込みつつある3人は狙わず、重厚な防衛線を構築した5人を剣でなぎ払う。
 1度は耐えた。
 が、もう一度には耐えきれず、これ以上戦うなら勝っても負けても最低でも後遺症という状況まで追い詰められた。
「舐められたものだな。もしかして、最初に倒れた1人が私を食い止めるつもりだったのかな」
 中衛に位置していたエレジアが少し前進してセララの背後を固める。
 杭3本で狙われたなら防御に集中する必要もあっただろうが、セララしか見ていない3人を邪魔するだけならこなした上で反撃まで出来る。
「てめっ」
「押し倒して泣かせてやらぁっ」
「こういうときは……ふむ、そうだな」
 エレジアは観客を意識した。
「薄汚い賊の分際で……私に触るな!」
 普段は理性で制圧している恐怖心を、わざと増幅して顔に出す。
 装備以上に中身と言動が凜々しい女性がそうすると、姫騎士という役柄が超豪華配役で演じられることになる。
「ちっ」
「おっと逃げるのは止めてもらおうか」
 ブースターを仕留めに向かったセララを見た賊に、放出した魔力を剣に纏わせ死角から叩きつける。
「お前達の相手は私だ。運が良ければ勝てるかもしれないぞ?」
 異様な速度で消えていく傷に気付き、賊の生き残り3人は真剣な顔で杭を押し込み次の攻撃に備えるのだった。
 急激な加減速の音と、闘技場とは思えないほど楽しげな鼻歌が、オーケストラめいて響いている。
 秋奈は口の中に微かに残るおはぎの味を意識する。
 ほんの少しだけ体の調子がよくなり、通常でも高度な領域にある剣の冴えが少し増す。
 緋色の刀が光の如く伸びる。白い鎧が複数のブースターを全開にして回避、余波の炎を装甲で受け流した。
「結構やるじゃん」
「余裕だな」
「そうでもないよー。壊さず捕まえないと、名声とあのなんか素敵性能抜群の武器素敵装備貰えないからさっ」
 ブースターは撤退を決断した。
 高くは飛べぬ秋奈から逃げるため推力を下に向け、リゲルの気配に気付く。
「これ程の腕前があるならば、賊などやめて日の当たる職に就けばいいだろう。人から感謝される仕事は、遣り甲斐があるぞ? まだ間に合う。心を入れ替えろ!」
 足首から下を切り落とされる寸前でブースター複数を上向きに。無理矢理な加速で体がきしんで装甲も体も悲鳴をあげる。
「涼しい顔して嫌らしい脅しをっ」
 重犯罪の証拠を掴んだ上で嬲るかと怒るブースターに、リゼルは全く隙を見せないまま目だけで戸惑う。
「本気だ。……どうやら1度服役する必要があったみたいだな」
「こ、のっ」
 頭部装甲の下の顔が、怒りで激しく歪んだ。
 秋奈の未来的な刃とセララの現代ファンタジーの剣が白装甲を削る。
 拮抗した戦いに見えているのは表面だけで、一定以上の使い手であればブースター側のリソースばかりが削られているのが分かる。
「質は良いようだが……お前のような者に使われてはその白い鎧も泣いていよう」
 部下達も白い姫騎士を攻めきれず、ブースターを煽られる状況だ。
「元は4対10だ。手加減はしない」
「どこまで馬鹿にっ」
 リゲルは宣言通り手加減せず、けれども既に殺し合いのつもりのブースターとは違い、余程運が悪くない限り死にはしない軌道で装甲を割り中身を抉る。
 男はブースター複数の制御に失敗。
 受け身には成功したが白い装甲が歪み、ブースターも隠し武器も潰れ砕けて試合場に散らばる。
「今一度問う。その腕を、人々の為に活かす道へと役立ててくれないか?」
「そういう態度でいないと死罪になりそうだな。おい、逃げるつもりがあるなら今すぐ客席に飛び込め」
 部下達は、我先に武器を捨てていた。
「私の装備ぃ!」
 騒ぐ秋奈を眩しげに見上げてから、肩の荷を下ろしたかのような顔で意識を失った。

●最後ののゴング
「払い戻しは赤と青だよ。倍率は……」
 凄まじい歓声の中、ムスティスラーフが良く通る声で身振りで払い戻しについて説明する。
 臨時雇いの子供達は、混乱に巻き込まれ怪我などしないよう離れてもらっている。
 試合参加を許されなかった戦士団の面々が肩を落としている。
 武器を質に入れて全額すったのだ。
 次の戦場に向かう資金も無く、ムスティスラーフを倒せば武器も取り返せるし金も……と考えた瞬間全身を悪寒に襲われた。
 自分とはかけ離れたムスティスラーフの価値観に対する感情ではない。
 絶対に勝ち目のない相手に怯え降伏する、本能的な反応だ。
「はい、はい、押さないでよー」
 戦士団10人分と怪しげな傭兵数人分の装備が軍人の手により運び出されていく。
 その気になれば巨大な破壊をもたらせる旅人が、賭けの胴元に徹してた。
「軍人さんも忙しいのだから面倒を増やさないで」
 きっちり数えたコインを盆に載せたまま、ヴァイスが無音で無予備動作の衝撃を左右に送る。
 熟練のスリ2人が、躱そうとして途中で諦めた。
 ヴァイスの圧倒的技量を感じ取り、抵抗すると非殺傷術ではなくなると判断したのだ。
「敵意を持たず襲えるなんて、すごい人達が来ているわね」
 黄金杯が置かれた壇の近くへ、面白がるような目を向けた。
「みいつけた!」
 シラスは口と喉を狙った攻撃だけを自身の指で弾き、それ以外の不意打ちは軽くであるが被弾を甘受する。
 その代わり、相手の行動を余興と態度で示しながら大きな声を出す。
「飛び入り参加者が2チーム! 歓迎はするけど、最初の相手は俺達だよ」
 言いながらハイドサイン。
 シラスと同じく襲撃を受けた警備が1箇所に集まったタイミングで範囲治癒術を行使する。
 今度は喉を狙った突きを躱して肩に衝撃があったっが、回復量はダメージより1桁多い。
「じゃあ、やろうか」
 拳で防御をこじ開け分厚い胸に叩き込む。
 隠密理にイレギュラーズを排除し金杯を得るつもりだった隠密は、戦士団や傭兵団とは違って服しか着ていない。強力とは言えただのパンチが杭打ち機並みのダメージになる。
「逃げたら賊扱い、最後まで戦えば闘士扱いってね」
 視線を動かさず腕を跳ね上げる。
 一撃離脱のつもりでシラスの顔を狙ったナイフが弾かれて地面に突き刺さる。
「試合には色々あるんだ。正面から力と力をぶつけあうのから」
 隠密活動のプロが観衆の中に逃げ込もうとして、慣れた観衆に下がられシラスの踏み込みと拳に追いつかれる。
「騙しあいも、他にも色々ね」
 数は敵の方が多くても、シラスの計画した通りことが進んでいた。
「いい攻撃じゃぁないですか」
 超嗅覚をくぐり抜けて己に一撃を与えた隠密に、迅は心からの笑顔を向けた。
 熟練のはずの隠密が顔色を変えて後ろに跳ぶ。
 イレギュラーズ基準でも速い。
 だが迅の手はそれよりも早く、正確だ。
「この感触」
 強固では無く強靱。
 イレギュラーズの中にも時々いる、特殊な条件を除いて凄まじい頑強さを発揮する使い手だ。
「戦う相手を間違えましたね」
 地面から盛大に引っこ抜く。絶妙な力加減で逃げようとする動きを封じ、そのまま体と体による橋をつくる。
 受け身などとらせはしない。
 生存に関しては一級品の使い手が、その防御と耐久を蹂躙されて地面で痙攣した。
 命を狙ってきた相手なので、迅も生存を確認した後は気にもしない。
 いや、観客のはずの非番軍人が飛び込んで来たときには苦笑が浮かんだ。
「お客さん、乱入するなら一声かけてください」
「おう!」
「では」
 双方別方向へ拳を放ち、闘技場を汚そうとした隠密2人を地面に沈めた。
「お客様でないのであれば相応の対処を」
 メートヒェンの蹴りが、客席にいた職業的犯罪者の意識を奪う。
 気絶の瞬間美しい角度の曲線美を見れたのだから、鼻血を噴き出し白目を剥いていても損はしていない、はずだ。
「鉄騎種は頑丈ですね」
 もう少し強めに蹴っても大丈夫だと、万一知られたら観客が逃げ出しそうなことを考えるメートヒェンである。
 ただ、その判断自体は正しい。
「鉄帝以外の国ならとんでもない不祥事だな」
 モカは体型を変更する。
 体の一部だけ、特盛りから平坦に。
 美しさは損なわれていくても美しさの種類が違う。
 それは、敵が出尽くし、最後の増援を出しても問題ないという合図だった。
「ぶはははっ、おいたはそこまでだ!場外乱闘はこの豚を倒してからにするんだな!」
 エプロンを外したゴリョウが、しゅっと細くなると言うか贅肉を極限まで圧縮した。
 変わる前でも強いのに、変わった後は速度まで強烈だ。
 チンピラ未満から闇に潜む職業的犯罪者まで容赦なく駆り立てられる。
「先輩方も派手にやってますね!」
「畜生最初から参加すれば良かった!!」
 非番軍人と迅が背中合わせで技を振るう。
 これは警備であり、戦いであり、鉄帝黄金杯の一部だ。
 首も手足も飛ばさず飛ばさせず、迅達イレギュラーズが乱闘を殺し合いにさせない。
「いつまで見学しているつもりです。お仲間と同時にかかって来て下さい。さぁ!!」
 隠れても逃げようとしても逃がしはしない。
 迅も、元々警備していた軍人も、触発された観客も、不心得者を容赦なく鎮圧していく。
「正直なところ余も参加したかったである」
 ルーチェはアンニュイな視線を試合場に向けた。
 声援に応える勝者に敗北を噛みしめる敗者。
 力と魂のぶつかり合いとその結果は、どの世界でも心を振るわせる。
「もっとも」
 小さな掌を前に出す。
 可愛らしいそれから生み出されたのは、酷く禍々しい闇の塊だ。
「真の目的は群がってきた賊どもをこらしめることである」
 無音で飛んできたナイフを軽く首を振ることで躱す。
 お返しは、さらなる魔力を込めて飛ばした闇の塊だ。
 格好だけは一般人の隠密が、闇が当たった胸元を掻きむしりながら口から泡を吐く。
「魂が砕けたりはせぬ。しばらく……しばらくのはずだ。とにかく回復はするから大人しくしておれ」
 力加減を覚え直すのが面倒だな、と内心愚痴る異界の魔王様であった。
「いい加減にしろ」
 モカが、そうっと、限界まで手加減して膝を蹴り上げた。
 戦いの熱に浮かされ乱入した地元民が悲鳴をあげてうずくまる。
「後はただの喧嘩か」
 戦いの規模は変わっていない。
 職業的犯罪者があらかた倒れるか捕らえられ、今暴れているのは単に血の気が多いだけの一般人だ。
 長大を通り越して膨大な髪で黄金杯を保持したまま戦っていたエクスマリアが、焼きもせず両断もせずたんこぶだけをプレゼントした賊を軍に引き渡す。
 胴元が指示を求めている。
 手持ちの全額……文字通りの全額を賭けたエクスマリアへの配当は、持ち運ぶのを諦めたくなる水準の額なのだ。
 だから彼女は即断した。
「全額使ってしまえ」
 鉄帝黄金杯はとても盛り上がった。
 つまり会場はかなり荒れていて、再整備にも撤去にも手間がかかりそうだ。
 荒稼ぎした金を全額投じれば、手間も時間も大幅に節約出来る。
「分かった。面倒な事は私が受け持とう」
 ジェッディンがサングラスの位置を直す。
「いい大会だった」
 大きな背中が、喧噪の中に消えていった。

 祭りは終わった。
 騒いでいる鉄騎種達も、終わりを悟ってどこか寂しげだ。
 観客は皆、体は疲れても心は生気を取り戻した。
 家族のため、少しでも豊かに暮らすため、翌日から全力で働き生きていく。
 その心の中には、イレギュラーズの戦う姿が鮮烈に残っているはずだ。

成否

成功

MVP

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
ムスティおじーちゃん

状態異常

なし

あとがき

 大盛況でした。

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