PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2020>唇から捧げる愛を

完了

参加者 : 31 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幻想の都で
 希望を囁き、歌を奏で、吹いた笛で小鳥を呼び、触れることで愛を伝え、そうして唇は日々を彩る。
 だからこそ大事にしなければと、意識する人も珍しくない。ましてや2月14日は大切な日。
 チョコレイトを食べる唇も美しく、甘くあらねばと、幾つもの靴音と朗笑が街角で弾んだ。

「贈り物にリップバームって、どう?」
 何の前触れも主語もなく、イシコ=ロボウ(p3n000130)は言う。
 グラオ・クローネのため種々の情報を集めていたイレギュラーズ──きみは、声をかけてきた少女に視線を移す。
「この前、街で話してる人たちがいた。くちびる乾燥するとか、剥けてヒリヒリするとか」
 行き交う人々の会話がどれだけ他愛ないものでも、石ころは意外と覚えている。意外と聞いている。度々そうした話題を耳にすれば当然、気にもなっていく。
 だからイシコは、情報をイレギュラーズへ──きみへ齎した。きみや、きみの友人に困っている人がいるかもしれないと考えて。
「大切な人に贈り物する日……だよね?」
 確かめるようなイシコの物言いと眼差しは、その日の意味を理解しきれず、戸惑っているようだ。
「くちびるは大切。痛かったら口を開けて笑うのも億劫になるし、ホットチョコも滲みるって」
 全部イシコが人づてに知ったことだが、深刻な問題だと捉えて彼女は話している。唇を保護するために、リップバームが必要なのではないかと。

 そして見つけたのが、商店が建ち並ぶ通りにある店だ。店主自ら採集にいった花や密などを使った、様々なリップバームが揃っている。
 たとえば、仄かに馨るバニラやフルーツといった定番から、今の時期はグラオ・クローネに肖ってチョコレイトの風味に寄せたものもある。チョコレイトと一口に言っても、ほろ苦さやベリーが混ざった風味から、水飴のような甘さを連想させるチョコまで、種類は豊富だ。
 また、艶を抑えたマットな仕上がりになるものは、種族や性別を問わず人気が高い。
「カレンデュラ、とかいう花のエキスも使ってるって聞いた。軟膏によく使う花らしいよ」
 バームに含まれたカレンデュラが、唇の質感をなめらかに、そして柔らかくしてくれる。
「ひとつひとつも小さくて便利。……ん、と……手で言うと、これぐらい」
 イシコによるとバームも嵩張るものではなく、一般的な手の爪の先から第二関節に収まる大きさだ。
 店主の妹がパッケージを担当していて、鞄やポケットに忍ばせても目立たないシンプルなものから、ちらりと覗かせてもおしゃれな柄、いかにもグラオ・クローネ向けのハートやカップルの絵など愛にあふれたイラストもある。
「買ったら、店の奥で休憩するのも良い。購入した人には、チョコと飲み物が付くって」
 そこはカフェのようなシックな雰囲気の休憩スペース。照明も少しばかり落ち着いて、ゆったりできるソファが人の温もりを待つ。
 席同士の距離も一定に保たれ、背の高い仕切りのおかげで、誰が誰と座っているのかも窺えない。
 購入した品を披露したり、サービスで席に置いてあるチョコレイトやドリンクでまったりするも良し、何もせずソファに深くもたれるだけでも良いだろう。大騒ぎするなどして、他の客に迷惑がかかる行為をしない限り、店から咎められることもない。
 よかったら行ってみて、と言い終えたイシコは、ふらりときみの前から立ち去った。

GMコメント

 お世話になっております。棟方ろかです。

※お友だちや恋人と一緒に参加なさる方へ
 プレイング冒頭に【お相手の名前とIDまたはグループ名】をご記入くださいませ。

 シナリオ内容については、下記をご参照ください。
 メインとなる行動を選んでいただく方が、描写も安定するかと存じます。

1.リップバームを選ぶ(買う)
 商品棚の前には、サンプル、拭き取り用の布、水の張ったボウルなど、用意は万全です。
 フルーツやチョコの香りがする品の他、撥水性のあるもの、香りが殆ど無い品なども取り揃えています。
 店内で最も明るく、広いスペースです。店員も性別問わず数名いるので、助言を求めても良いでしょう。
 購入やラッピングなど、品を選んで買うまでの流れはこちらになります。

2.購入した品を持って小休憩
 店の奥に、カフェのような休憩スペースがあります。ご購入頂いたお客様と、そのお連れ様専用。
 席は1人用~4人用まで。席同士の距離もあいており、背の高い仕切りで分けられた半個室のソファ席です。
 サービスで、一口サイズのチョコレート数種類と、一杯のドリンクが用意されます。
 買った品を同行者と見せ合うなり、渡すなり、いちゃつくなり、ご自由にお過ごしください。

◎その他
・アイテムの発行はございません。
・シナリオの趣旨に沿わないと判断した行為や、諸々の権利を侵しかねない部分は、描写を控えさせていただきます。
・NPCのイシコ=ロボウ(p3n000130)も店にいますが、お声がかからない限り登場しません。他のNPCはお声がかかっても登場しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 ──皆様にとって、素敵なひとときとなりますように。

  • <グラオ・クローネ2020>唇から捧げる愛を完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年03月02日 22時05分
  • 参加人数31/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 31 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(31人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
小鳥の翼
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
罪のアントニウム
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
恋歌 鼎(p3p000741)
尋常一様
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
シャロン=セルシウス(p3p000876)
白い嘘
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
アニー・メルヴィル(p3p002602)
お花屋さん
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
木津田・由奈(p3p006406)
闇妹
宮里・聖奈(p3p006739)
パンツハンターの血を継ぐ者
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
今日はメイドで
哀坂 信政(p3p007290)
暗殺者(母性)
シグレ・セージ(p3p007306)
Erstine・Winstein(p3p007325)
Ultima vampire
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
躾のなってないワガママ娘
ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)
地上に虹をかけて
ソフィア・L・ラプソディー(p3p007795)
ぽんこつ強気ロリ
夏川・初季(p3p007835)
星さがし
月羽 紡(p3p007862)
二天一流
築柴 雨月(p3p008143)
夜の涙

リプレイ

●店内で
 仕入れの参考にもできるだろうに、武器商人の唇が歌うのは愛しき小鳥への願いのみ。
「おまえの好きな香り、我(アタシ)に贈ってちょうだい」
 手招くよりも呼ぶのが早い。かの者の声はどんな音よりも明瞭に届く。
 商品棚を眺めていたヨタカ・アストラルノヴァが、振り返る。
 紫月にそぐう花咲くパッケージ。可憐で強い花に惹かれ、鼻先を近づけてみると、菫の香りが心地好い。
 記憶の引き出しを開けていく。紫の菫、花言葉は確か──。
 多くは語らず納得し、これがいい、と青年はバームをそっと差し出す。
(……気づいてくれるかな……?)
 アストラルノヴァの眼差しが捉える中、金子に飽かす心積もりでいた武器商人は、早速器を受けとる。
 バームを贈るその意味、果たして番は知るのだろうかと料簡する武器商人が連ねるのは、可愛いねぇ、という感想で。
 ──互いの想いを端倪すること叶わぬのは、さてどちらか。

 幾つものリップバームを前に長いこと唸っていたひとりの客を、メリーが捕まえる。
 いい提案があるの、と声を弾ませて。
「迷っているのよね? だからどれかひとつ、わたしが会計するの。それで……」
 メリーの目的はリップバームではない。サービスのチョコとドリンクを味わうため、少女は今日もまた恩を売る。

 選んで貰いたい意を、蜻蛉が言の葉に乗せる。
 すると落ち着かない様相の十夜 縁が、漸く彼女へ目線を定めた。
「人選を間違えてるぜ、嬢ちゃん」
「やって、好いた人の選ぶ香りがええもの」
 程ほどの苦笑を浮かべた彼へ、構わず返す。彼女の声音は、いつもの艶やかさとは別に恥じらいを孕んで。
 彼女の双眸で瞬く光を知りながら、物好きだ、と返した縁が、品々の香りを嗅ぐ。探していると、彼を苛む死の臭いは何処ぞへ飛んでいて。
 ひとつ、記憶に入り混じるのは何の香りか。それを辿るように縁は、艶やかな黒へ鼻先を寄せる。
「こいつ、かね。お前さんがいつもつけてるその匂いは割と……」
 バームを差し出した刹那、縁は我に返って飛び退いた。
 ふうん、と唸った蜻蛉は至って平然とバームを確かめる。そして甘い椿の香に睫毛を震わすと。
「……あとで塗ってあげよか?」
 声に眦に、嬌艶を添える姿こそ美しくとも、彼女の真意は胸裡にのみ在る。

「シャロンらしいね」
 成分表を熱心に読んでいたシャロンは、聞き慣れたその声に漸く我に返る。
 振り返った先──声の主である鼎の面差しこそ常と変わらず、しかし纏う色は優しい。
「これなんて素敵じゃないかな? ほら、香りも良い」
 誘われるまま器を覗き込むシャロンへ、すかさず鼎が贈ったのはひとつの彩。
 突然唇へ潤いを乗せられ、慌てた真紅の瞳が揺らぐ。それさえ鼎は、楽しげに眺めて。
「よく似合ってる。最近荒れ気味だから、プレゼントだよ」
 そんな鼎へシャロンは礼を口にし、慣れない感触に唇を引き結ぶ。
 ところで、と続けた鼎の声音に予感を抱く。
「リップには定番の返し方があるのを知ってるかい?」
 不敵な彼女の冗談も日常茶飯事だ。いつものことだと背を向けるシャロンの耳は──然しながらほんのり赤い。
 覚られぬよう贈り物を探し始めた彼は、何気なく手にしたリップバームにえにしを感じる。仄かに薫るカモミールが、彼の胸を内側から叩いた。

 化粧はとんとわからないクローネとタントも、浮き立つ心のままに店内を回っていた。
 やがてふたりが手にしたのは、店員から勧められたリップ。サンプルを先ずタントが試し、唇へ淑やかなローズピンクを咲かす。
「どうですかしら先輩! 大人のレディっぽいですかしら!」
 胸を張り背筋を正すタントの様相に、クローネは頷く。そして彼女は無意識に、タントが持っていたサンプルを摘み──先輩それ、と止めに入る声が届く頃にはもう、クローネの花唇も飾られていて。
 きょとりとするタントを見て、クローネは気付く。
「……ご、ごめんなさい、その、別のサンプルを……後それ下さい……」
 あたふたしながら店員へ告げるクローネと同じく、タントも唇と頬にほんのりピンクを乗せる。
 しかし巡る動揺とは違い、タントの口から零れるのは先輩を呼ぶ声。そして結ぶのはささやかな願いで。
「先輩、どうか」
 ──贈り合いっこして、お揃いで持ちましょう?

 幸福の日の只中、光彩に揺らめく黒真珠が今にも零れてしまいそうだ。幻の心を打ち震わすものは、今なお愛しき人の心身を蝕んでいる。だのにどうして祭に耽っていられよう。
 砕かれんばかりの想いを胸に、幻はさめざめと泣いていた。そんな幻を連れ出したのは他でもないジェイクだ。幾許も残らぬ時間で、不安はジェイクにもある。けれど幻は、そんな自分へ過ぎたる気を遣う。
 湛えるならば笑みが良かった。だからこそ彼は、お前の笑顔が救いだと結ぶ言葉に望みも添える。
 彼の手向ける眼差しや言が、幻の眦に朱を這わす。堪える悲哀の代わり、彩るのは喜色だ。
「どう、ですか?」
 首をこてんと傾げて問う幻は、唇に常と異なる色香を刷いていて。
 ジェイクは不意をつき、その甘い誘惑をそっと舐めた。ふわ、とダークチョコの香りが広がる。
 途端に耳たぶまで赤く染めた幻へ、ジェイクは囁く。
「甘いな」
 桜唇へ潤いを齎すのは、もう涙ではなかった。

 弾んだ声の主、アニーは目移りをも楽しんでいた。
「いっそ全種類買っちゃうとか!」
「それだ!」
 名案だと言わんばかりに賛同した焔の傍ら、アニーは吐息で笑う。
「やっぱり塗りきれないのはもったいないよね!」
「そっか! あっ、それなら交換っこしない?」
 そんな焔のさりげないお誘いが、始まりだった。
 おかげで二人、商品とのにらめっこが続いている。
(焔ちゃんには、パッションな香りがいいかな)
 アニーは説明文へじっくり目を通す。唇の健康を第一に、グロスで魅力アップを図るのもいいかも、と選ぶ楽しみも増すばかりだ。
 一方、太陽を宿したかのような焔の瞳も、リップを見つめていた。
 アニーに似合うのは優しい花の香。けれど仕事柄、香りは仄かに、そして花へ水やりするのと同じく、かさつき易い唇へ潤いを与えるものがいい。リップを幾つか手に取り、焔も悩んだ。
 そして。
「「これください!」」
 やがて二人分の声が、店内に明るさを咲かせた。

 二度目のグラオ・クローネは由奈にとって特別だ。今年こそと滾る情熱が、彼女の瞳を爛々と輝かせる。
「二人共、とても可愛いのだから唇は大事に、ね?」
 耳朶を打った死聖の言に、二人して振り向く。聖奈が師匠の為にと意気込みを新たにする傍で、由奈は。
「えへへ、そうだよね、女の子は唇のケアも大事♪」
 たとえばたとえば、なんてそこを起点に膨らむ想像で、由奈の眦も赤く染まる。
「どれが良いかな。お兄ちゃん決めて♪」
 おねだりは確実に。振る舞いは可愛らしく。そうして甘える由奈に、死聖の微笑みもより柔らかさを増す。
 二人の唇に適したものを選ぶのは、死聖にとって造作ないことだ。
「ん、聖奈にはこれ、由奈にはこれかな」
 ぶわわ、と聖奈の頬が一瞬で紅潮する。選んでもらえたら嬉しいと思ってはいたが、いざその時を迎えると喜びに打ち震えてしまう。
 このままではまともに買えないと、ふるふる頭を振った聖奈は、師である死聖の戦闘スタイルを想起する。回避に専念する型は、とにかく速さと集中力が要る。だから聖奈は、唇に優しい成分を中心に選び──ふと薫ってきた甘いチョコに、鼻先を鳴らす。
(チョコの香り、師匠喜んでくれるかな?)
 ぼんやり考えていると、そこへ。
「……聖奈さん。今夜が勝負ですよ」
 意志を宿した眼差しで、由奈が囁く。
「えっと……うん、よろしくね」
 決行する作戦への恥じらいが未だ残り、返る聖奈の声音は微かに揺らいだ。

 Erstineの呟きが宙空に泳ぐ。リップバームを試す彼女の双眸は興味に揺れ、そして鼻孔をくすぐる香りに誘われる。まもなく手にしたのは、ビターチョコとミルクチョコ、それぞれをイメージした逸品。
(これは悩んでしまうわ……)
 部屋に置いたときの光景も想像し──やがて伏し目に想うのは香りの好悪。
(ちょっとのお洒落じゃ気づかないって聞くし)
 冷静にならねばと頭を振る頃にはもう、桜唇にほんのり赤が燈っていた。

「で、気に入ったやつあったか?」
 機を逸さず促した誠吾に、ソフィリアは林檎のリップバームを摘んで見せる。
 すると、何か言おうとした少女から、ひょいとリップを掠め取っていく影。
 少女にとって一瞬の出来事だ。ぽかんと佇む彼女に構わず、誠吾は会計を済ませた。
 止まっていた呼吸を取り戻した頃、愛らしい丸みのある瞳が慌てふためく。
「わわわ、悪いのです! うち、自分で買おうと……」
「今日はグラなんとか、って日だろ?」
 黙って受け取っとけ、と付け足す誠吾の態度こそ素気ないものながら、包みの感触がソフィリアには温かい。
 くすぐったさを噛み締めて、プレゼントをきゅっと包み込む。胸の奥から滲み出るのは、ぽかぽかとお日様のような温もりと、そして少し幸せになる林檎の香り。
「そういう事なら……大事にするのです」
 少女の様相に、誠吾は僅かに眼を瞠る。
 そうしていれば可愛げがあるのにとまでは、口にしなかったが。

 眠たげなまなこへ色とりどりのリップバームを映し、初季は本を読み進めていくときのように、ゆっくり選んでいた。
 せっかくのグラオ・クローネなる日。記念に過ごすのなら賑わいの中が良い。ふんわり漂う香りも、朗笑や幸福の囁きも、初季にとって物語の一端で。だからこそ、やさしいチョコの香りを唇へ刷き、くんと鼻先を鳴らす。
(ああ、とても幸せ)
 言の葉、染みゆく情、すべてに気分が華やぐ。
 次は植物か花の香にしよう。そう考えただけで初季の花唇は綻んだ。

●とある席で
 こんなんで悪ぃ、と席で哀坂 信政が真っ先に言い放てば、クラリーチェ・カヴァッツァはかぶりを振る。
「大切に使わせて頂きます」
 囁く彼女の面差しが、常より一際濃い温もりに満ちた。
 それがあまりにも眩しく、信政は照れを飲み込み、チョコの味を想起した。
「チョコ、美味かったぜ。……俺は嬢ちゃんに勝てねぇかもしんねぇな」
 含んだ意味を、信政自身悟ることはない。当のクラリーチェも、美味しいという響きに頬が緩むばかり。ところで、と信政が話し出すのに難は無かった。
「バニーとスク水どっちが良いか?」
 突如届いた不穏な単語に、クラリーチェが双眸を見開く。
「さらっと何を仰っているんです!?」
「買い物中に言ったろ。ちゃんとしたもんは来月返すってよ」
 真剣に告げた彼から、少女はふいと顔を逸らす。
「着ないですよ? もぅ……」
 彼女の反応を前に、信政の口端は安心と気恥ずかしさを微かに刷いた。

 ふっくらした四音の唇へ指を乗せると、かさついた柔らかさが迎え入れた。おかげでブラシを持つティミの手に、緊張が纏わり付く。そんな彼女の心境も知らず色づいていくワインカラーは、唇へ潤いと熱を齎して。
 そんなティミの面差しも仕種も、四音が見つめていた。
 バームへの関心は湧かずとも、心が踊る。だから似合っていると言われて喜びを隠さず、今度は四音から色彩を贈る。ティミの頬へ手を這わせ、花唇を重ねれば、香り立つのはビターチョコとラズベリー。
 途端、ティミの頬がぶわっと朱に染まる。
「し、し、四音さん!?」
「これで塗れましたね。いかがですか?」
 眼を丸くするティミをよそに、四音は常と変わらぬ様相だ。
(ティミさんは本当に『美味しい』ですねえ。くふふ)
 四音は小さく笑う。赤面が弾けんばかりの少女を前にして。
 これが彼女なりの親愛の形だと再認識して、ティミは募る熱さに目が眩む。
 ああ本当に──不思議なひと。

 ぶどうのにおいにしたと話す少女の声が弾めば、つられるようにソフィアの口角も緩む。
 桃の誘いを自分が囁き、相手はぶどうの甘さを唇へ乗せてくれる。ソフィアは思わず吐息で笑い、少女の花唇を見つめた。
「……ソフィーのすきな果物、ね?」
 そこを彩るのが、すきなぶどうの甘さと香りだなんて。
 躊躇いなく告げたソフィアに、はにかんだセティアがそっと顔を近づける。
 セティアの双眸が映すのは、ソフィアだけだ。きらきらと、星の瞬きにも似た目映さと共に。
 そしてセティアは、返事よりも先に温もりを贈る。互いの熱に溶けたぶどうの香りが、ふんわり鼻腔をくすぐった。
「ぷるぷるなった?」
 するとソフィアは、儚げな雰囲気からは想像もつかぬ艶麗さを滲ませて。
「……ん。綺麗に塗れてるわ」
 微笑で返しながら、愛おしげに頬を撫でた。
 少女たちの秘め事を知るのは、コーヒーから昇る湯気だけだ。

 清涼感の漂う紡のリップに、よく合いそうだと話した威降が次に取り出した言葉は、自分のは大丈夫かという念。
 最もシンプルと感じたものを選んだが、迷いは拭えない。何せ自身に使うのは想像がつかなかった。それなら誰かが必要になったとき差し出せればと、一考するのみで。
 そう話す威降に、あらあらと紡の声が弾む。
「リップバームと言っても、軟膏に近いものですよ」
 彼女の助言に、威降が目を瞠る。
「あかぎれ対策など、保湿にも便利なんです」
「……なるほど、それなら」
 死線を超えるのにも、乾きは大敵となることが多い。自分用にしようと頷き、威降は昇る湯気に惹かれてホットチョコを口に含んだ。
 途端に彼の双眸が大きく瞬く。
「月羽さんこれ飲みました? 良い甘さですよ!」
 思わぬ感動が声音に現れ、促された紡もカップへ口づける。
「あら、本当。美味しいですね」
 分かち合ってこそ染み入る美味を──今という味をふたり堪能していく。

 タイミングを失していたディアナの眼差しが、言葉よりも明瞭に心境を物語る。だからセージは助け舟を出した──ひと口サイズでは物足りないと。
 それならと徐にディアナが差し出したのは、幾度も包み直し、一番の出来栄えとなった小箱。
「せっかくだし、食べさせてもらおうか?」
 包みを解いたところで思わぬ提案が飛ぶ。ぱちりと瞬いたディアナは、戸惑いながらも平静を装い、ひとつ摘まんで口元へ向ける。
 するとセージは、あっさりチョコを咥える──彼女の指先を掠めて。
「……美味しい?」
 聞き返すだけでディアナは精一杯だ。否応なしに打ち鳴らす鼓動が、声を震わせる。その声音を知りながら、セージはいじわるな笑みを口端へ刷く。
「ああ、美味いな」
 彼が見せた面差しは、ディアナの心境をぐらつかせる。わざとだと気付いた瞬間さえ、セージには覚られているだろう。痛感した悔しさと熱を喉の奥へ押し流すのが、ディアナにはやっとだった。

 雨月の双眸に宿る夜色が、盛況から遠退いた一席に落ち着く。
 病に臥せていた頃は、掛けも構いもなかった一日。綻んだ唇をチョコにさえ知られぬよう、俯き紅茶を眺める。
 友の顔を思い浮かべ、支えになればと、力になれたらと祈りにも似た願いを募らせる。
 ハッカの爽やかさは、きっとどんな苦境や悪意に引きずり込まれようと、目を覚まさせてくれる筈だ。
(喜んでくれたらいいな)
 その気持ちこそ、グラオ・クローネの真髄なのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お待たせいたしました。リプレイをお届けします。
 たくさんの感情、想い、信念──プレイングを読んでいるこちらまで温まり、ときにしんみりし、そして微笑んでおりました。
 ご参加いただき、誠にありがとうございました。
 またご縁が繋がりましたら、そのときはどうぞよろしくお願いいたしますね。

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