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シナリオ詳細

<Gear Basilica>Protect line:『quartet』

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●嘆くな前を見据えろ
 『ソレ』は古代兵器と呼ばれるモノであった。
 混沌には――特に歯車と蒸気の国家たる鉄帝では、かような代物が見つかる事もある。いつ、誰が作ったとも知れぬモノから伝承に存在した超兵器としても。そして、スラム街『モリブデン』の地下にも『ソレ』があったのだ。

 野心高き鉄帝将校ショッケン・ハイドリヒが発見した『歯車大聖堂(ギアバジリカ)』が。

 歯車大聖堂は一度起動すればその巨大なる身を動かして無数の村や遺跡を『捕食』する存在である。ソレらは燃料として、或いは自身の身を肥大させる一部として取り込み。只管に進軍する古代の超兵器。
 ――ショッケンはこれを用いて国盗りを敢行しようとしたのだ。
「尤も……ショッケンの奴には些か以上の誤算があったようだがな」
 言うはクラースナヤ・ズヴェズダーの指導者、大司教ヴァルフォロメイである。
 そう。ショッケンは確かにアレを用いて己が野望を達成せんとしていた――が。その目論見はローレットのイレギュラーズにより粉砕されたのである。戦いの仔細は省くが、地下に眠っていた歯車大聖堂の掌握は失敗。
 それがショッケンの誤算。
 イレギュラーズの参戦とその力の結集は彼の予測を超えていた。
 海洋への出兵、グレイス・ヌレ海戦の隙を突いた作戦を挫かれショッケンの野望は潰えたのだ――
 しかし。
 歯車大聖堂は起動した。
 クラースナヤ・ズヴェズダーの一人。聖女アナスタシアの手によって。

 魔種へと堕ちた――聖女によって。

「アナスタシアの阿呆め……! 魔種に変じた先で、何を成せるというのだ……!!」
 ヴァルフォロメイは心底無念な声を挙げて、今や起動してその身を歩かせている歯車大聖堂の姿を見据える。
 その姿は遠い。今はまだ遠い、が。周辺の村々を略奪しながら突き進むアレは悪魔の如くだ。凄まじい質量を誇るあの存在を止めるには……もはや個人ではどうにもなるまい。軍が必要な事態であるが、軍は先述した様にグレイス・ヌレ海戦の影響で分散している。
 即座にアレを迎撃するだけの兵力を動員するは難しく――
「ハッハッハ!! ならばこそ、死地へと向かう勇者が求められる事態だろうよ!」
 しかしその時。周囲に蔓延る不安を掻き消すような声が飛んだ。
 誰もが視線を向けた先に居たのは――口端を吊り上げ、満面の笑みを見せるサングラスの男。
 彼の名はアレクサンダー。
 外なる世界より訪れしウォーカーにして、鉄帝でNOUKINしている破戒僧である。
「ヴァルフォロメイ大司教、危機に臆するは容易き事だ。
 だがそれを是としないが故にこそ私にも声を掛けたのだろう!?
 顔を上げよ――今ぞ諸君らも鉄帝国に生まれた一員として魂の輝きを見せる場ではないか!」
「ハハハ! 勿論に決まってるじゃねえか! 俺も座して状況を待つばかりじゃねぇさ……!」
 アレクサンダーが武器を携え『此処』にいる理由は、大司教より声を掛けられたからである。
 ――窮地の民を救うために力を貸してほしい、と。
 ヴァルフォロメイは教派の長として、そして個人としても実に広い顔を持っている。元々は貴族の五男である事に加え、軍ともある程度の繋がりがあり、民に接する心から貧富老若男女問わずに交流を持っているのだ。
 鉄帝で主に活動しているアレクサンダーとも連絡の伝手はあり。
「聞け! クラースナヤ・ズヴェズダーの子らよ!
 鉄帝の民にとって、我らにとって……残念だが恐ろしき事態が降りかかっている!!」
 そしてアレクサンダーの声を皮切りに、ヴァルフォロメイは声を張り上げ。
「しかし恐怖に屈してはならない! 隣人を救おうぞ! 手を伸ばして共に生きるのだ!
 友を、家族を――――これ以上略奪させてはならない!」
 言うのだ。奮い立て、と。
 あの歯車大聖堂の行いを放置すれば犠牲がただ増えていくだけだろう。
 戦う力が無くても良いのだ。ただ、友を救う事を考えよ。

 そして。堕ちたとは言え、これ以上アナスタシアに罪を重ねさせたくはない。

 大司教の言葉は教派の長としてクラースナヤ・ズヴェズダーの者達に響き渡る。
 今自分に出来る事をと。その心を奮い立たせるのだ。
「ぬ、ぐ……ッ」
「――大司教。あんまり無茶はせん事だな」
 しかし。演説の声を響き渡らせる大司教の身は必ずしも万全ではない。
 大司教は先日のショッケン派の軍事行動の際に――あわや暗殺されかけたのである。
 イレギュラーズの手によって救い出され、命は無事であったが……傷は決して浅くなく。
「なぁになんのこの程度……! 寝てる場合じゃああるまいよ……!」
 それでも今自らの身を動かさずしてどうするのかと、此処にいるのだ。
 大聖堂は崩れ、形ある寄る辺を失った教派の者達の心を訴えかけるのは自らの役目であり。
 そして勇者らに救われたのだからこそ――その意味をここに発揮するのだ。
「諸君! まもなくローレットのイレギュラーズも到着してくれる!!
 彼らと共に――事を成そうぞ!」

●馬車の中にて
「ぉぉおギルオス殿! これは久しい邂逅だ!! やはりこれぞ親交せしパンツの導きと言えるだろう!! 俺は、このマカールは!! 今かつてないほどに感激して――」
「やかましい!! 歯車大聖堂が近付いてきてるんだから落ち着け――!!」
 大司教のいる現地へと向かう馬車――の中で、ギルオス・ホリス(p3n000016)はパンツ信者の――失敬。もとい、クラースナヤ・ズヴェズダーが一員、マカールの熱を抑え込みに苦慮していた。
 同胞たる禿頭のダニイール司教は目頭を押さえながらとりあえずマカールの事は見なかった事にして。
「――先日は大司教救出に尽力いただき、真に感謝する。私もこうして無事でいられた」
「いやいや現地に赴いたメンバーの力による所が全てで……
 ですが、それはそうと厄介な事になりましたね」
 マカールの顔を押さえつけながらギルオスはダニイールと会話を。
 先述した様に歯車大聖堂という古代兵器は起動され、周辺を蹂躙・略奪している。しかもそれを操作しているのがクラースナヤ・ズヴェズダーのアナスタシアという人物なれば……
「…………我らが教派は今、岐路に立たされていると言っていい。されど大司教の身が無事だったことにより、クラースナヤ・ズヴェズダーは崩壊する事無く一つとして集えている――悲観する事ばかりでもない」
 ダニイールは首を振り、現況に想いを馳せるのだ。
 クラースナヤ・ズヴェズダーは主に二つの派閥に別れていた。穏健的な帝政派と過激的な革命派と……しかし革命派のトップであったアナスタシアは魔種に。この上で帝政派のトップであったヴァルフォメロイ大司教が失われていれば――とても集団として機能していなかっただろう。
「アナスタシアの事はともあれ、とにかく今はあの歯車大聖堂の件についてなんとかせねばならない。我らはあまり武力に特化した集団ではない故に、周辺の住民の避難活動を行いたいのだ」
「民に浸透しているクラースナヤ・ズヴェズダーが主導して頂ければスムーズに進みそうですね」
「ああ。だが――歯車大聖堂からは魔物が湧き出しているという」
 それは歯車兵器と呼称される異形の集団。
 歯車と鉄で構成され歯車大聖堂から湧き出している奴らめは、本体の露払いが如く地上に降り立ち周辺に襲い掛かっているという。奴らを放置する事は出来ない。犠牲が増えるばかりだろう。
「クラースナヤ・ズヴェズダーでああいった魔物へ、面と向かって戦える者は多い訳ではない。特に先の混乱からある程度立ち直っているとはいえ、な……くっ、やはりパンツを用いて俺はもっと布教していれば……!」
「君は自分の教派を貶める様な行為は止めようね? しかし大司教が声を掛けているとは聞きましたが」
「無論。大司教は率先されて事態の対応に走っておられる。
 民間からもウォーカーの男性を呼び寄せたとか……それから」
 こうして今説明をしているローレットの者達にも、とダニイールは言葉を紡いで。
 今回の依頼は端的に言って避難活動の支援と言った所だろう。今はまだ襲われていないが、やがて遠からず歯車大聖堂の略奪距離に入る位置に村があるという。まずもって避難が完了する前に戦闘になる筈だ、と。
「なんとか防衛線を構築し、敵の侵攻を阻んでもらいたい」
「ですが――地図を見るとまずいですね。守りにくい事この上ない」
「北・東・西の三方を抑える必要があるだろう。南側へと皆を避難させるとして……」
 三者で話す内容は、件の村を上から見た地図を広げて話す事。
 かなり、開けている場所だ。特にこの村には簡単な柵しかなく、敵の侵攻を阻める様な壁は現状存在していない。敵の接近にはまだ少しばかり時間があると思われる故、その間に陣地を構築したりできなくはないだろうが……
「……人手が足りないな。どうしても」
 ギルオスは気付く。一つを民間のウォーカーと共に。一つをクラースナヤ・ズヴェズダーの武力に秀でる者達と共に。しかしもう一つ分が、どうしても……
「――ああ失礼。実は、もう一つだけアテがあってな」
 と、悩むその様子にダニイールは。
「言っただろう? 大司教は軍にも顔は聞くのだと」
 同時。村へと到着する馬車。慌ただしく動き回る人物の多い、その中にて。
 到着する馬車を――待っていたのは――
「お前達が、ローレットか」
 黒い翼を携えた、一人の男。

「鉄帝国保安部、ゲルツ・ゲブラーだ。
 先のグレイス・ヌレ海戦では敵対したが……今回は味方だ。よろしくな、イレギュラーズ」

GMコメント

■依頼達成条件
・住民の避難完了まで防衛線を維持。
 村に決して入れないでください。

■戦場
 鉄帝国のとある村です。周辺は開けた地形になっており、障害物の類はありません。
 遠くに『歯車大聖堂(ギアバシリカ)』の姿が見え、そこから大量の敵が湧き出ています。
 敵の到着まではほんの少しですが猶予があります。

 この間に出来る限りの迎撃態勢を整えてください。
 村には現状、簡単な柵しかなく魔物の攻撃があれば容易く壊れる事でしょう。

 また敵が出現すると『北・東・西』の三方から概ね別れて接近してきます。
 戦力配分は自由ですが、一番激戦区になるのは『北』だと思われます。

■敵戦力
■歯車兵器『ギア・ポーン』×無数
 虎や狼と言った造形をしているのが主体の魔物達。
 一直線に村を目指しており、あまり高い知能があるようには見られない。
 全員がある程度の再生能力を有している模様。

■歯車兵器『ギア・ゴーレム』×??
 上記のポーンよりも数段階強く、数段巨大な歯車兵器達。
 総数は不明だがポーンよりも圧倒的に数が少ない模様。
 ポーンに混じって時折戦場に出現してくる。

1:ゴーレム・タンク
 遠距離射撃に優れる戦車型。また、非常にタフな性能を持っている。
 全ての攻撃が範囲攻撃となる特徴を持つ。

2:ゴーレム・イーグル
 空を飛ぶ巨大な歯車兵器。風を巻き起こしたりと範囲攻撃にも優れる。
 ただし攻撃が当たると割と容易く地上に落ちる模様。

3:ゴーレム・タイタン
 超巨大な巨人型歯車兵器。非常に緩慢な動きだがブロックは不可。
 類稀な攻撃力でR2の位置まで攻撃を届かせることが出来る。


■味方NPC
■アレクサンダー(北担当・単独)
 現在は主に鉄帝で活動をしている旅人が一人。
 元の世界では神殿騎士団の団長職にあった人物であり、武力に優れ、やたら厳しい訓練というか拷問と言うか血反吐吐くような地獄の修行を課す人物だったという。こちらの世界に訪れてからも鍛錬を趣味に鍛えている為、戦闘力はかなりのモノ。
 ファイターとして非常にタフかつ攻撃力も中々に高い。
 しかし彼一人では無数を押し留める事は厳しい。
 現在は最激戦区になると思われる『北』の防衛を担当する予定。

■ゲルツ・ゲブラー(西担当・単独)
 鉄帝の軍人にして闘士でもある人物。スカイウェザー。
 ライフルを携えている遠距離型。にして『ショウ・ザ・インパクト』も持つ。
 命中が高く、反面反応はそこそこ程度で先手を取るのには向いていない。

 グレイス・ヌレ海戦より帰還。再編がまだ間に合っていない軍に先んじて、大司教に要請に応じて防衛戦に馳せ参じた。『西』の防衛を担当する予定。

■司祭マカール(東担当・複数名存在)
 クラースナヤ・ズヴェズダーの『帝政派』に属する司祭。
 荒事と宣教を担当している人物で本人にもそれなりの戦闘力が存在する。パンツの信仰心にも目覚めているとかいう、こう、アレだが。それはそうと村を護るために全力を尽くすのに嘘はない。
 クラースナヤ・ズヴェズダーで比較的武力が高い者達と共に『東』の防衛を担当する予定。


■大司教ヴァルフォメロイ・司教ダニイール
 クラースナヤ・ズヴェズダーの大司教、並びに司教。
 村の内部で教派の者に指示を出しながら避難活動を行っている。
 直接戦闘に出る事は出来ないが、戦闘以外で何かして欲しい事があれば、頼むと可能な限り手伝いをする可能性がある。ただしいずれも戦闘が始まる前までに限る。

  • <Gear Basilica>Protect line:『quartet』完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月01日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
ふわふわな嫉妬心
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ハロルド(p3p004465)
聖断刃
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
お節介焼き
久住・舞花(p3p005056)
月下美人
グレン・ロジャース(p3p005709)
不沈要塞
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
Unbreakable

リプレイ


 ギアバシリカの脅威は誰の目から見ても明らかであった。
 まずに巨大。そして周囲を取り込み更に巨大化。
 やがてなれば手の付けようもなくなるのはすぐに推察できる事実であり。
「……とはいえ、とりあえず今は村人の避難を優先させないと、ね……」
「ああ――まずはやれることをやるべきだろう。奴らが来る前にな」
 されどギアバシリカだけでなく周囲の村を護る事も大事ならば、と『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)と『天戒の楔』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)がまず取り掛かるのは柵の補強だ。
 村に侵入されぬ様に。少しでも固め、敵に備えるべく。
 たった一手が村の者の生死を分ける。たった少しが奴らの手を阻むのならば。
 取り掛かろう――これは人数の勝負である、と。
「よぉマカールに信徒諸君――『ヒーロー』がまた助けに来てやったぜ?」
「おおぉこれはグレン殿! 先日は世話になったが、此度もとはこれも縁か!」
「ああ。飲み仲間のヴァレーリヤに手を貸してたら、繋がるもんだな。と、早速で悪いんだが……ちょっとばかし今度はこっちに手を貸してもらいたい。手伝ってくれねぇか?」
 『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709)は言うのだ。先のクラースナヤ・ズヴェズダーの中心的な拠点である大聖堂崩落事件――その一件に彼は参加しており、マカールら一部の信徒とはこれが会うのが初めてではない。
 故にとその縁を起点に。統制の知識を用いて防衛ライン構築の人手を借りる。
 的確な指示と明快な洞察にて築き上げる壁と塹壕。
 その速度はかなり早い。イレギュラーズ達の助力もあるだろうが、何より皆必死故か。
「ヴァルフォメロイ大司教。息災なようで何よりです」
「おお、アンタは大聖堂の時の……世話になったな。腹がちと痛むが――何、動けぬ程じゃねぇよ!」
 そしてそれの多くは『月下美人』久住・舞花(p3p005056)も救出した大司教ヴァルフォメロイの存在が大きい。彼がいなくばここまでクラースナヤ・ズヴェズダーは動けなかっただろう。かの教派を指導せし者の無事であったか否か、というのは想像以上に下の者達に影響を及ぼすのだ。
 忙しなく動く。それでも迫る脅威に不安ばかりでなく希望を抱いて。
 皆と共に。仲間たちと共に一緒に居るというのは――
「……ちょっぴり、安心しますわね」
 こんな状況、だけれどもと。
 かつての安寧の日々を思い返すのは『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)だ。これは、ああいつの事か。大聖堂の大掃除の日でも思い返したか。
 誰もがいた。マカールや教派の面々、そして――
 敬愛せし『彼女』もまた――
「……いえ、こんな時に弱気では行けませんわね!」
 過去を想って動きが鈍ってはならぬと。
 己が頬を両手で叩いて、痛みと共に見据えるは前。
 守り抜くのだこの場を、自らが。クラースナヤ・ズヴェズダーの一員である――私が!
「先のモリブデンの件から間もないですのに、皆々様……意気軒昂なのですね」
「鉄帝国の底力って所なのかな。過酷な環境に身を置くからこそ、逆境にも奮い立つのかもね」
 防衛ラインの構築も佳境に。未だ避難活動にしろ動き続ける光景を前に――『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)と『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は手を動かしながら感嘆としていた。
 誰もが絶望に目を堕としたりはしない。例え遥か先にギアバリシカの影が映ろうと。
 奴から子供が如き悪意の集団がこちらに向かって来ようとも。
「……絶対、全員無事に逃がすよ……!」
 ならばこの命無為に散らせる訳にはいかないとアレクシアは決意と共に。
 周囲の地形情報を、己が繋がる精霊との意識によって収集する。そしてその先から向かってくる――敵の大まかな構成や動きの様子をも可能であれば。悪意の波が近付いてきている事は彼らの目にも見えているだろう、と。
 ヘイゼルは柵の補強側だ。特に工夫するは強度を上げるだけでなく、敵の進入路が限定される様に意図的に『弱い』箇所を残す事。つまり、正規の入り口の面だけ開けておいて――敵を誘導するのだ。
「敵の知能はそう大した事でなそうであれば『見える』所に来る事でしょう」
 虱潰しに弱い点を探す訳でもあるまい、と。バリケードを築き続けて。
「――そろそろ来るのよ! 戦えない人は後ろの方へ下がるのだわ!」
 されど時間も無限でなければついに来るものだ。
 天を舞い敵の様子を察知した『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の言が飛ぶ。敵の勢力があと少しでこちらへと到達しそうだ――非戦闘員は今の内に村の内部へと下がり避難活動に専念すべきだろうと。
 そしてイレギュラーズは、戦える者は前へ。
 激戦始まる空気を感じ取れば。
「ふはははッ! さぁこれが闘争の空気だ! 腕がなるモノだが――それはそうと」
 敵の接敵が早く、一番の激戦区となるであろう北方面。
 そこを担当するアレクサンダーは己と共に並び立つイレギュラーズの一人に視線を向けて――
「貴様。以前にどこかで会った気がするのだが、私の気のせいだろうか?」
「…………世の中には似た人間が三人はいるとの事。ははは、気のせいではないでしょうか」
 言葉を紡ぐ。その人物は普段と比べてやけに口調の異なる上になぜか仮面を付けている『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)であった。アレクサンダーとハロルドは互いに旅人。に、して同じ世界の出身者。
 つまり完全にそのままの意味で『同郷』の人間である。彼らの関係性を一言でいうならば、かつての師匠と弟子の間柄で――しかし、ある事情からハロルドは面と向かって名乗りたくなく。
 故に先程まで視界の片隅で黙っていたのだが、話しかけられれば流石に無視できず。
「そうか。いやだが、やはりその声色は聞いた事がある気がするが、貴様」
「……き、来ましたよアレクサンダーさん!」
 誤魔化す様に指差す先は歯車兵器の群。
 実際、語り合う暇はもうないのだ。ここから先は鍛え上げて来た腕だけがモノを言い。
「ぶははははっ――さぁ整えはここまで! これからは楽しい楽しい防衛戦だ!」
 その時。来たる奴らの波に豪快に笑いを挙げるは『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。塹壕を軽快に、凄まじい速度で掘り続けていた彼だが、ついにスコップを放り投げて意気揚々と前線へ。
 やれる事はここまでやった。時間的に万全とは言い難いが、それでも最善は尽くしたと。故に!

「かかってきやがれポンコツども! ――スクラップにしてやるぜッ!!」

 激突する。北と東と西の三か所にて。
 歯車兵器達は喰らう為に。イレギュラーズ達は護る為に。
 ――意思と意志がぶつかり合ったのだ。


 敵は北から押し寄せてきている。それが大軍であるが故に西と東にも押し寄せている形だ。だからこそ北が最激戦区。真っ先にぶつかり、そして最も敵の数が厚い地。
 向かってくる狼型の歯車兵器――それを打ち砕くアレクサンダー。
 手にした棘付き鉄球の一撃は凶悪。軽い掛け声と共に薙ぎ、薙ぎ、押し留め。
 それでも彼一人ではこの数を抑えるには不足。強かろうとも突破を防ぐには手数が足りない。
「――なればこそ、私共の力が求められた場でもありませうね」
 アレクサンダーを無視して村へと至ろうとする兵器の顔を蹴飛ばすはヘイゼルだ。
 ここは通さぬとばかりに。次いで紡ぎ上げるは熱砂の精霊。
「さぁ。北方の大国たるこの地には珍しき、熱は如何でしょうか?」
 直後、重圧を伴いし砂嵐が敵を襲った。
 敵の数は無数。なればこそこのような超範囲攻撃の真価が発揮されるモノである。
 固まった場所に撃ち込むだけで多くの敵を叩きのめす。風に舞い上げられ、兵器が共に空を舞い。
「そう簡単に突破できるとでも思ったか? 甘いんだ――甘いん、で、すよッ!」
 アレクサンダーにバレぬようにと慌てて口調を整いつつも、ハロルドの動きに鈍りはない。振るう斬撃の数々は衝撃波となりて、それは近くではなく遥か遠くの敵をも穿つ『斬』となる。
 直撃し、至れば吹き飛ばし距離すら稼いで。北の防衛の一角を担えば。
「アナスタシアさん……どうしてこんな事に……でも、私は皆を救うよ!」
 アレクシアの赤き花の如き魔力が紡ぎ上げられる。彼女の掌に顕現したそれは――直後に炸裂。赤き花弁が舞い散り、拡散したその魔力は敵の集中を乱す。視線をアレクシアへ。村よりも見えるは彼女の命。
 ――アレの命をこそ奪わねばならぬと錯覚させて。
 耐える。彼女の自身の危険は増すが、それでも近くにまで接近しうる敵の動きが彼女に集中すればするこそ村の安全が確保されるのだ。自らの踏ん張りどころであるし、それに。
「まだ始まったばかりだわ! だから――初めから無茶はしないようにね!」
 華蓮もいるのだ。彼女の癒しの力が飛べば、前線は傷つく事ばかりではない。
 無論その対象はイレギュラーズのみならずアレクサンダーも含まれて。
「おっとこれは助かるものだ! フハハハハッ! さぁまだまだ来るがいい怪物共めが!」
 彼らの体力を満たす。治癒と攻撃、それぞれがバランスよく両立したこの地は暫く安定しそうだ。無論……奥より尽きるのか分からぬ程の影がまだ控えており、なによりまだ消耗も激しくない初期の段階。決してまだ楽観できそうにはないが。
 そして先も述べたように西と東にも敵の手は伸びている。
 例え北で耐えようともそちらから突破されれば元の木阿弥だ。
「何。男の見せ所って奴でもある訳だ」
「ぶははははッ! ちげぇねぇな!」
 だが北の奮戦に負けてはなれぬとむしろ決意が強くなるは西である。
 フレイとゴリョウ。村人は必ず救ってみせると前線に立ち――敵へと向かう。
 敵を迎撃する不動の構えを用いて。あるいは歩みを進める度にその身に鎧を纏わせて。
 駆動せし鎧が全身へと至る。足元から昇る様に、ゴリョウの身を包めば――敵と衝突。
 そして互いに紡ぎ上げるのは『声』だ。
 奴らの注意を引きつけんとする、大地すら揺るがす一喝が響き渡る。
 されば先のアレクシアの様に歯車兵器達の動きが彼に向いて――
「ふふ……さぁ、こちらでも始めましょうかね」
 そこへエンヴィの一撃が叩き込まれる。不可視の、思念の渦が場に発生するのだ。
 その場の空間が捻じ曲がる。重力が如き圧が空間と精神に呼応して多くの歯車兵器達を文字通りに『捻じ曲げる』のだ。範囲が広い故に、フレイ達を巻き込まぬ様にある程度調整する必要はあるが。
「彼らはなるべく多くを倒せるように専念しないと、ね?」
「全く同感だな。敵を倒さなければ、結局のところここの戦いに勝ちはない」
 そしてその一撃に次いで――鉄帝国からの援軍であるゲルツの一撃も見まわれる。
 正確無比なる銃弾が兵器達を穿つのだ。優先順は、空を飛ぶものがいるならそれを優先だが、そうでなければ数多き者達をなるべく多く倒せるように。
「おぅ、よろしく頼むぜゲルツ! 背中は任せるからよ!」
「ああ任せろ。ここは鉄帝の地……イレギュラーズだけに全ての負担を掛けさせはしない」
 ゴリョウの声に、ここに住まう自ら達こそが踏ん張るべきなのだから、とゲルツは紡ぐ。
 前線をゴリョウとフレイの二人が。
 その後方からエンヴィとゲルツの二人が強力な攻撃を振舞って。
 敵を抑える。北と同様にこの地も先には誰も進ませぬと奮戦しながら。

 そして東もまたその気持ちは同様であった。

「ぬぅううぉ!!」
 マカールが声を張り上げながら、接近してきた歯車兵器の一体を薙ぐ。
 同様に彼に続いてクラースナヤ・ズヴェズダーの中で比較的武に優れる者達も共に。
 ここは我らの住まう地。そして『あの』ギア・バシリカに――教派の者も関与しているのなら。
「尚更に退けねぇ、か? いいね気合を感じるぜ。だが無茶はし過ぎるなよ!」
「ははは! 分かっておりますともグレン殿!」
 そして負けじとばかりにグレンもまた最前線へ。
 崩れぬ程に強固な彼は、押し寄せる波にも一切の恐怖非ず。
「踏み止まるぞ――ここで稼いだ一分一秒が、誰かが生きる一生分になるんだ」
 皆が、俺達が。稼いだ時間の分だけ誰かが生きる。
 そしてそれを成せるのは『ここに居る者達』だけなのだからと。張り上げた声が皆の活力となり。
「では――御命を、頂きます」
 そこへ舞花の一閃が煌めいた。
 不浄を祓う刀の刃が神速と至れば無数に見えて。もはや目で追うに叶わぬソレは歯車兵器の身を穿つ。
 一の二の。三を砕いて四へと相対。四を超えてまだ敵がいようとも。
「これより先を護るに他は無く、私達しかいないのですから」
 全霊を尽くそう。今ここに。
 クラースナヤ・ズヴェズダーの手助けはあるとはいえ、彼らは戦闘こそが本職ではない筈だ。マカールはそれなり程度の力はありそうだが、あれは個人の武。集団として戦闘の専門家ではないだろうと彼女は判断し。
「……ところで。マカール司祭はギルオスさんと仲がよろしい様子で大変結構ですが、あれから何かあったのですか? いや特段その、気になるという程気になっている訳ではないのですが……」
「おお聞いて頂けるか!? 信仰を広げている最中に出会ったパンツの奇跡の事を――」
「やめてくださいましマカール!! 私達の教派が誤解されてしまうではないですの!!」
 ふと思った疑問を尋ねる舞花――にかなり食い気味で割り込んできたマカール。
 鼻息荒く。目はパンツ色に輝いて、何書いてるか分からんなコレ。ともあれ、そんな彼に足してヴァレーリヤは魔砲を歯車兵器達に繰り出しながら。
「あーもー、マカール! パンツで元気や信仰心が出るわけがないでしょう! そういうのは後で平和な時にギルオスの所にシュートして来なさい! ……何ですのその残念そうな顔は!」
「えぇ……ヴァレーリヤ。クラースナヤ・ズヴェズダーってそういう……」
 ちが、違いますわよグレン! と知古の間柄のグレンに手を大仰に振りながら否定して。
「クラースナヤ・ズヴェズダーはそーいう宗教じゃありませんからね!!」
 あれはマカール(の頭)がおかしいだけだとヴァレーリヤは熱弁。
 誤解。誤解されてはたまらない! クラースナヤ・ズヴェズダーは清い団体だと! ついでにギルオス君の事も否定して――え、そんな余裕は流石に戦闘中にはない? あ、はい……
 軽口はともあれ、東側は人数の多さもあってかこちらも押し留めるに充分であった。
 ヴァレーリヤが薙ぎ、グレンや舞花。マカールらも加わって敵に相対し。
 倒す。村には決して入れぬとばかりに。

 北、西、東――それぞれの地点でそれぞれの戦いが繰り広げられていたが。それぞれに『壁』となりうる適切な人員は存在し、未だ一体たりとも村内部に入れぬ様子で順調だった。

 内部の避難活動は大司教達が先導し、順次南方面に脱出出来ている。もう暫く耐え続ければやがて、全員が脱出し、追撃の手が届かぬ程に距離を稼ぐことも出来るだろう――が。
「……ッ! 来たわよ、空を飛ぶ――『イーグル』のタイプだわ!」
 敵もこれだけの攻勢では終わらぬ。歯車兵器達も小型の者達ばかりではないのだ。
 華蓮の視界に映った遥か先。そこに居たのは――


 母に届けよ。親に届けよ。
 贄を。供物を、材料を、全てを――
 歯車兵器達の思考は全て『ソレ』に染められていた。それが彼らの存在理由。
 しかし彼らは理解している。
 時として『贄』共の中には強くて抵抗する者がいる事を。
『ガ、ガ、ガ――ッ』
 内部よりまるで声の様に響いているのは――駆動音か?
 空を舞う歯車兵器『イーグル』は少し先にある村を見据えながら降り立たんとする。
 村の周囲は所々補強されており地上侵攻の方は手間取りそうだ。だから己が――と。

 寸前。

「ああ空を飛ぶなんて妬ましいわね――堕ちて頂戴な」
 その体を超重圧が襲った。
 エンヴィだ。彼女が先程まで放っていた不可視の渦が今度は空へ。
 空間に生じた異変がイーグルの身を軋ませ、空の航行に障害を齎せば――堕ちる。
「ああ、ああ。全く。それでもまだ動こうとするのね。ギアバシリカの為かしら……?」
 されどその一撃だけで破壊される事はないのがイーグルだ。悶えつつもエンヴィに殺気を放ちながら立ち上がらんとする。
 ギアバシリカ――周囲の物を取り込んで拡張・燃料とする兵器――
 その為に生死を賭して動いているのか。成程、こういう輩を放っておいたならば。
「どんどん被害が広がるというのは納得と同時に――厄介ね」
「ああ全く。犬に狼に空飛ぶ鳥に……種類の多い事でもある、面倒な奴らだ」
 更にそこへ援護する形でゲルツの一撃が直撃。
 空飛ぶ奴はこちらのブロックが容易ではない。ともすれば即座に村へと到達するであろう驚異的な存在だ。故になによりも優先して奴を撃墜する。それはここ、西の前線だけでなく東でも北でも同一。
 好きにはさせぬ。その想いと共に。
「お前達は――ここで砕けておけ」
 再び飛び立たんとするイーグルの頭部へ、フレイの一撃が放たれた。
 それは魔を喰らう一撃。数多の闇を打ち倒し、自らの活力と成す彼の一端。
 ここにいる理由は全てを守り切る為に、だ。村人を、無辜なる人々の地を流させはしない。
 その為ならば白に生まれし闇だとしても――
「見せてやろう」
 己の力を。
「砕け得ぬ闇、その力をここで振るおう」
 疎まれた黒き翼と黒き髪。それでもそれが己であるならば。
「よし! イーグルの奴を落とせたんなら、暫くは大丈夫そうだな――とぉ!?」
 そしてそんな様子を見ていたゴリョウが――爆炎に包まれた。
 見れば遠くに『タンク』の歯車兵器が。戦車型の奴めが、こちらを照準に捉えたのか。
「ハッ、だがなぁ……ポンコツの一撃なんざ屁でもねぇんだよッ!!」
 されどゴリョウはその程度では揺るがない。いざとなれば自らに治癒の術を掛ける事も出来るのだ。
 とにかく彼は敵の注意を引き続ける。その類稀な防の力にて。
 エンヴィとゲルツの下に敵が届かなければ強力な攻撃は続くのだ。そして村にも敵は往かぬのだ。それこそが勝利につながるとばかりに、前線に復帰したフレイと共に――未だ彼らは戦場に健在す。
 そして奴らは東の方にも現れていた。
 こちらは今の所イーグルは見えないが、タンクの姿が見えて爆風が舞っている。
「敵もいよいよ本気って所か! だがなぁ――敵の波なんざ押し返すぜ、野郎共!
 気合で押されるなよ!! 敵は所詮、血の通ってない機械だぜ――ッ!」
 じゃれついて来いよエセ動物共! とグレンは現れた強力な存在にも臆さず、皆を鼓舞し、敵を挑発しながら――村へと通さぬ絶対の壁としてそこに在り続ける。
 防衛線こそ晴れ舞台。ここで舞わねばどこで映える。どこで輝く!
 踏み止まるのだどこまでも。例えば多少ラインを下げないといけなくなっても。
「命の線だぜここはよ……!!」
 ここで耐えれば、爺さん婆さんがのんびり逃げることが出来るのだ。
 ここで耐えれば、誰かが怪我をせずに済むのだ。
 例えそれが一秒であろうとも――誰かを一秒、救う事に繋がるなら!
「ッ……! グレン、ゴーレムの足止めをお願い。すぐに戻ってまいりますわ!」
 と、その時。ヴァレーリヤの視界に映ったのは先のイーグルだ。
 こちらの防衛線を迂回して村へ入らんとしている――そうはさせるか。
『――主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を』
 紡ぐは聖句。収束せし魔力が彼女の視線の先を捉えて。
 灯るメイスの穂先に炎が吹き上がれば。
『どうか我らを――憐れみ給え』
 振り下ろすとともに――炎が濁流の如く顕現した。
 飲み込む。炎で敵を。炎で全てを。撃ち落とし、全てを護らんとする為に。
 そしてバランスを崩し、落ちんとする奴を舞花が。
「もう一度空を楽しませる訳にはいきません。これにて御免」
 その首を刃にて打ち、落とす。
 介錯が如く鮮やかに。その心は鏡に映る花の如し。
 安寧、安息、静謐、静穏――あるいは無音。境地の果てに、水月鏡像の一端に至りて。
「……さて、他の戦況は如何なものか」
 戦線が安定すれば――いざとなれば超加速のブリンクスターを用いて援軍に行く事は可能だ。
 天を見上げれば、防壁構築と共に準備した『狼煙』の合図はまだ出ていない様であるが。
 さて。

「――ぉおおおおお!!」

 叫ぶハロルド。北の戦線。
 最も多い敵の数を前にイレギュラーズ達は奮戦していた。
 通す訳にはいかぬ。一匹たりとも。
 その重圧がある――のだが。
「ははははっ! 負ける気がしねぇな!」
 ハロルドは、笑っていた。数多くの敵を前にしても。
 ――懐かしき光景と空気を前に、笑みの感情が心の奥底から溢れて来ていたのだ。
 アレクサンダー。己が師匠。騎士団の団長にして闘争の化身。
 彼と共に魔を打ち払った経験は幾度とも。周囲を絶望的な数の魔に取り囲まれた事もあったが、ああ。あの時もこのように、敵を薙いで。打ちのめして――
 勝利を、得たものだ。
 戦いの佳境にて笑みなど――『楽しい』など――不謹慎だと思いはする、が。
 師匠と共に戦場を駆け抜けたあの頃を思い出す……ッ!
「ハ――ハハハハ! やるな貴様! 中々の気力と闘志だ!!」
「師しょ……アレクサンダーさんも相も変わらずで! おら、俺たちを止められると思うなよ!」
 段々と『皮』が剥がれつつあるハロルドだが、もはや気にするよりも感情の方が先に。
 歯車兵器により傷を負うも、一切の恐怖無く。むしろただただ――懐かしい。
 傷の痛みこそが、あの日々を思い出す一端となりて。振るう剣撃に力が籠る。
「あーもう! あの二人はテンションがあがっちゃってるのだわ……!
 ええい、すぐに治すのだわ! こうなったらまだまだ休んでいられないのだわよ!」
 負傷しても頓着しない彼らを華蓮の治癒術が包んだ。
 傷を癒す。負傷せし者が多いか、それとも深い傷を負った者がいるかで使い分け。
 そして――奮戦せし彼らの行動を後押しするために、彼女の追い風もまた強まるのだ。
 彼女自身にも攻撃が届いていない訳ではない。しかし、それでも攻撃を回避しつつ場を見据えて。
「避難完了まで守り切る……皆を護る為に戦う……!
 そう、イレギュラーズはまさしく、こういう戦いにこそ求められて欲しいって私は思うのだわ!」
 彼女もまた全霊を用いて戦場に立ち続ける。
 人を救うという事。人を護るという事。まるで母なる愛で見守りながら。
 往く。救うために、村を、人々を――誰も彼をも。
「うん……この先には絶対に通さない! 私達がいる限りはね!」
 そしてアレクシアもまた人々を護るために目を張り巡らせる。
 激戦の最中、隙を突いて村を突破せんとしている歯車兵器がいないか――見逃さぬ様に。
 そしてなんぞやの敵がいたのならば再び魔力を形成。しかし先の引き付けとは異なり、これは些か異なるモノ。転化せし意思の力を形にして、紡ぐ花弁はたった一筋。
「いっ、けぇ――っ!!」
 戦場を穿ち、届かせる不撓の意志、譲れぬ想い。その香花は彼女の決意。
 ――打ち倒す。言った筈だ、ここから先には通さぬと。
 想いは見えぬなれど確かなる力となるのだ。それは倒れぬ意思であったり、奮戦の為の活力であったりと様々であるが。
 少なくとも彼女は――遥か昔『兄さん』から聞いた冒険譚の中で。
 ヒーローたる存在が悪意を前に諦めた物語など聞いた事がないから!
 歯車兵器を防ぎ、奴らを打ち倒し、その者らを治癒して北はとにかく保たせている。
 後は――空飛ぶイーグルなどの強力な兵器がどこから現れるか――
「おっと、アレの方が先に来ましたか」
 と、その時周りの負を打ち払う光を放ったヘイゼルが見たのは、一回り大きなゴーレム。
 タイタンだ。人型の、ゆっくりとした動作ながら巨大なその影。
 動きが緩慢なためイーグル程優先度は高くないが、あれもブロックは出来ない対象だ。現れたのならば対処を怠れば突破されてしまうだろう。
「造り上げた防衛線です。破壊させる訳にも、突破させる訳にもいきませんね」
「――どうする? 狼煙、あげる!?」
「アレがどれだけの速度で倒せるかでそうしましょう」
 狼煙。いざと言う時の他地域からの援軍を呼ぶか否かを使うかとアレクシアは。
 しかしそれを一度やれば他方の防衛が薄くなろう。容易く使えば結果として全体が不利になるかもしれぬからと、ヘイゼルはタイタンをどうするかで判断すべきだと。
 故に、一斉に攻撃を集中させる。
 ハロルドやアレクサンダーも奴の足元を狙って――
『ガガ、ゴ、ガ――ッ』
 同時。相変わらずイーグルと同じように呻くような駆動音を声代わりに。
 タイタンの拳が鉄槌の如く振り下ろされた。
 凄まじい衝撃が地に響き渡る。思わず周囲の歯車兵器も込みで吹き飛ばされそうになる、が。
「大丈夫……大丈夫……まだまだやれる……そうだわよね!」
 華蓮の声と癒しの力が――『届いた』
 まだ生きている。まだ皆健在と言う事で。
 まだ誰しも――力尽きてはいないのであれば!
「っ、らああああ!!」
 ハロルドの一閃が再びタイタンへと刻まれて。
「機械の身なれど――これも耐えられるとは限りませぬでしょう」
 魔術的に生成したヘイゼルの『酒』が奴の身を蝕み。
 その身を急速に瓦解させていく。
 稼がれた数手。突破されるやも――と思えばヘイゼルが火元を即座に。
 されば舞花の跳躍が一瞬で。ブリンクスターの超加速は、彼女の足を届かせるのだ。
「他からは来れぬと思っていたのであれば、甘い目算でしたね」
 突如の出現に歯車の一体が切られ、揺らぐ。

 馬鹿な――なぜこの数で押し切れぬ――

 歯車兵器の誰かの思考にソレが過った。イーグルは撃ち落とされ、タイタンは阻まれ。
 タンクの一撃も突破するには至らない。
 西ではゴリョウらの奮戦とエンヴィらの攻撃によって阻まれて。
 東ではグレンやマカールが前線を押し留め。ヴァレーリヤの一撃が歯車を薙ぐ。
 村々の柵は補強され、あるいは塹壕によって地上の部隊ではなんの障害も無しに突破できるわけではなく――少しの間なれど時間稼ぎが出来るのならばイレギュラーズの手が回り。
 やがて。

「皆――よくやってくれた! 今、住民の避難が完了した!! ここはもう大丈夫だ!!」

 クラースナヤ・ズヴェズダーが頭目、ヴァルフォメロイ大司教の言が飛ぶ。
「俺達も退こう! 馬車に飛び移ってくれ! すぐに後方へと下がる!」
「潮時、か。村人が全て救えたのなら良しとしようか」
 未だ攻め上って来る歯車兵器の数。それを見て、フレイは一端退くべきかと決断する。
 イレギュラーズ達は全力を遂げたものの、では無限に戦えるかと言えばそうではない。目的を達したならば一度後方へ退くべきだ。奴ら……正確にはギアバシリカは村そのものを取り込んだりもするという――つまり、退けば村の確保自体を優先するだろう。追撃は無いか、少ない筈だ。
「よし! 皆、無事ですわね! 大司教様も、お怪我の様子は……!?」
「ははは、何、お前達が前線で頑張ってくれたからな。
 避難の誘導だけで倒れる程、柔じゃねぇよヴァレーリヤ!」
 ヴァレーリヤが皆と、避難活動に当たっていた大司教らの無事も確認し。
「ええ。ふふ……命の収穫が出来なくて、今頃は歯噛みしているかしらね――」
 成果を胸に。エンヴィは歯車たちの心境を思い浮かべる。
 奪われていた筈の命は、奪われなかった。
 誰も奴らに――略奪などさせなかった。
「ふむ。これがローレットの実力か……流石という面々だらけだな」
 そして些か不服ながら己だけでは闘争を続けるは不可能と退いたアレクサンダー。
 周囲の強者たちを見渡して、そして。
「やれ。特に、行方が分からなくなった後どうしているのかと思っていたが相も変わらずの暴れっぷりだったな――『晴人』」
「いやそれほどでも……」
 アッ。
 馬車から飛び降りようとしたハロルド、の肩をアレクサンダーは神速で抑えて。
「やはりな逃がさんぞ晴人! 魔王を倒した男がこれ程の傷とは何事か! これは修行だな!」
「いやアンタも結構傷があるだろうがああああ!! 人の事を言えるか、って待て止めろォ!! 離せ――!! あれは修行じゃねぇ、拷問だッ――!!」
 一気に騒がしくなる馬車内。逃げたかったが、さて彼のこれからは一体どうなる事か。
 なんにせよこの空気を流せるという事は――それは闘争の終わりを指し示している。
 誰をも守った勝利の一時。

 後は……ギアバシリカ本体を止めるのみであるッ!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ハロルド(p3p004465) [重傷]
聖断刃

あとがき

依頼、お疲れさまでした!!

戦力配置は的確だったかと思われます。
多くを巻き込める技能が充実していた方がいらっしゃったことも押し留めるに大きな役割を担っていた事でしょう。

この地はこれで救われました。
後は歯車大聖堂本体がどうなるか――それはまた、後に分かるでしょう。

ありがとうございました!

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