シナリオ詳細
<第三次グレイス・ヌレ海戦>赤き炎燻る時
オープニング
●
パライバトルマリンの水面が白波を立てて別れていく。
船底から弾かれた水滴が風に乗って空中へ飛んだ。
船嘴の上に男が立っている。帽子を押さえながら物憂げに煌めく水面を見つめていた。
赤く焼けた肌に、赤い髭。四十路を過ぎて尚、精悍な瞳は衰えた様子が無い。
「提督何やってんすか」
「っし! 今、ポエムってんだよ。分かるだろ?」
男はバルバロッサ。赤髭王の異名を持つ海賊だった。
幾度の死線を乗り越えて海の底から帰ってくる男に海賊達は惚れ込み彼の元へ集う。
けれど、生き残れるものは僅かばかり。弱い者は須く海に飲まれていくのだ。
男の望みはただ一つ。強い海の男でありたい。
いけ好かない女王陛下に媚び諂うなんてまっぴら御免。
その身一つで海を駆け名を轟かせたい。
絶望の青を制覇した男なんて肩書きを未だ追い求めている程だ。
「はい、提督そこどいてください」
「そうか……来たか」
黄金の瞳を右腕であるローレンスに向けるバルバロッサ。船嘴から降りた男は軽い足取りで操舵輪に向かって歩いて行く。甲板の上では戦闘準備が進められていた。忙しなく動く船員を躱し飛び越えて、階段をかけあげった。
あとはこの舵を切るだけ。
そうすれば、『強い奴ら』と戦うことが出来る。
風が強く吹いて男のコートを揺らした。赤髪を掻上げ男は振り返る。
「行くぞ、野郎共――!」
男の合図を受けて海の荒くれ者達が腕を上げた。
目指すはイレギュラーズの乗っている船。
次第に距離を詰めていく両船は殺気立ち、一触即発の緊張感が漂う。
●
「海賊って悪者なの?」
こてりと首を傾げた『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)は隣にいる『Vanity』ラビ(p3n000027)に振り返った。
「賊というぐらい、だから。悪さ、するかもです」
波の音が止まない館の一室に集められたイレギュラーズはこれから始まる開戦に拳を握る。
噂に聞くバルバロッサという男は豪快な性格で、強い相手と見ればすぐさま駆けつけて勝負を挑んで行くらしい。
単純な悪とは言い難いが迷惑な存在であることに変わりは無い。
「一見気さくなおじさまなのだけど……」
ディープ・グリーンの髪が揺れて、赤いドレスからなめらかな脚が見えた。
「その実、ローズレッドの炎が胸を燃やしている。私は趣味じゃないけれどスカーレットの一時を過ごしたいなら、うってつけじゃないかしら?」
くすりと『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)の形の良い唇が笑む。
「プルーさんはその人を知っているの?」
アルエットの問いに人差し指を唇に当てたプルー。
「んふふ、どうかしらね? トロピカルなヘリオトロープの夜のみぞ知るかしら」
発動された『海洋王国大号令』は俄に熱気を帯び、人々は沸き立っていた。
海洋に住む者達の悲願である『絶望の青』のその先に到達できるかもしれない期待感。
心の底から湧き上がる高揚感に誰もが身を震わせる。
絶望の青に到達するにあたって目下の課題は近海の平定と判断した王国。
「彼らは海賊連合の瓦解を、第一目標に置いた、です」
「そして、そこへ一枚噛みにきたのがゼシュテル鉄帝国ってわけね」
プルーの言葉にこくりとラビが頷いた。
「海洋王国はこの戦線を、第三次グレイス・ヌレ海戦と名付け、ました」
広げた海図には入り組んだ地形が書き込まれている。
――――
――
「このグレイス・ヌレ海域に鉄帝の野郎共を誘い込んだのは、ソルベの坊ちゃんだって?」
豪快に笑い声を上げてバルバロッサはローレンスを一瞥した。
「そのようです。普段は脳天気な阿呆に見えますが、流石大貴族当主といった所でしょう」
地形が入り組んでいる手狭なこの海域は、大型の軍船で乗り込んでくる鉄帝と相性が悪い。
鉄帝も馬鹿ではない。大回りのルートを取れなかった理由は、ソルベ辺りの配したスパイか何かが上手く動いたということなのだろう。
「霧が出てきた」
パライバトルマリンの水面が次第に見えなくなっていく。
岩礁地帯と濃霧。知らぬ鉄帝の軍艦なら座礁して然り。
けれど。
「このグレイス・ヌレは俺にとっちゃあ庭みたいなもんだ。なあ、そうだろアルセリア号」
「側面、来ます」
ローレンスの声に息を吸い込むバルバロッサ。
「全門撃て――――!!!!」
ペールヴァイオレットの濃霧に赤髭の怒声が響き渡った。
- <第三次グレイス・ヌレ海戦>赤き炎燻る時完了
- GM名もみじ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年01月02日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
霧煙る海の水面は見えず、スモーキィグレイの視界に緊張が走る。
ギシギシと鳴る船の船首で進む先を見据えているのは『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)だった。
霧が出る直前、海鳥と共有した視界に敵の船が見えたからだ。
普段の気怠げな表情は鳴りを潜め、金銀妖眼は血に飢える獣の如く爛々と輝く。それを傍らで見つめるのは『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)。
「強い奴と戦うのは大好きだ。殴るのも殴られるのも血が滾る。そうだろ? シグ」
「そうだな。我が最愛の契約者がやる気になっているのも珍しい。存分に『使う』といい」
シグの言葉にレイチェルが口の端を上げた。
ザラザラと不穏な音が『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)の耳に届く。
「大きな旅路の前にケチをつけられるのは拙者好きません」
遙かなる青海の果てへ往かんとするならば、その流れに一枚噛もうとする輩も当然出てくる訳で。
「来ます……!」
イレギュラーズの乗った船の側面、前方に派手な水しぶきを上げて大砲が跳ねた。
霧を割き突如として現れた敵船アルセリア号に先手でイレギュラーズ達は飛び移る。
こうして立ちはだかる敵あらば、その波濤の如き障害を。
「サーフィンしてみせましょう! YEAH!」
ダダン――
イレギュラーズの靴底がアルセリア号の甲板を鳴らした。
――――
――
海賊は悪者かという『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)の問いに『希望の聖星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は肯定を見せる。
「ま、今回の相手はどっちかっつーと……喧嘩馬鹿?」
「喧嘩馬鹿」
ウィリアムの言葉を反芻する『Vanity』ラビ(p3n000027)は彼の顔をのぞき込んだ。
「ラビとはいつだったか、戦いについて話したこともあったな」
こくりと頷くラビ。あれから随分と力も付けたし様々な経験もした。
「星の魔術、全力で見せてやろうじゃないか」
そして共に戦い、勝って帰る。ウェリアムはラビの目の前に拳を突き出して、コツンと激励をする。
「うーん……」
眉間にしわを寄せて小さく唸るのは『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)だ。
この第三次グレイス・ヌレ海戦は鉄帝や他の海賊が入り乱れ戦っている。
しかし、目の前に現れたバルバロッサの目的は『強い相手と戦いたい』というもので、思い浮かべる悪党のイメージとはかけ離れた敵にエンヴィは戸惑っていた。
己の都合を優先するバルバロッサは決して善人ではない。けれど、命を奪う程の罪かと問われれば疑問を抱かずにはいられないだろう。
「うっかりやり過ぎてしまわないよう、注意していかないと……」
深い青の髪が風に揺れる。
「だって……寝覚めが悪くなりそうだもの」
くりりとした灰の瞳でバルバロッサを見つめる『その手に詩篇を』アリア・テリア(p3p007129)はいつか誰かが話していた言葉を思い出していた。
「こういう時、『年貢の納め時』っていうんだって!」
はたして、年貢とはどういったものだろうかと思考して。先陣を切って前線に躍り出てくるバルバロッサをカトルセの剣で牽制する。
海賊(パイレーツ)との諍い。煌めく海の上で剣を交え派手に踊るその様は、なんと詩的で心が揺さぶられるのだろうか。けれど。
「負けて次に繋ぐ展開はなしだからねっ!」
バルバロッサの剣先をアリアはマントを翻しいなした。
「まったく、提督自ら先陣を切ってどうするんですか!」
ローレンスの叱責にバルバロッサはニヤリと笑う。
アリアの剣はバルバロッサの右頬を裂いた。流れ出た血を拭い男は心底嬉しそうに吠える。
「こんな強そうな相手とやり合えるんだ。ワクワクするだろ!?」
男の歓喜に満ちた表情を一瞥して『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)は戦場を見渡した。
この海洋においても、先の大戦と同じように大きな流れの中に思惑が入り乱れているらしい。
大号令によって同じ方向を向いているはずの海洋国の中にも、もしかしたら魔種の姿があるのかもしれないと愛無は考察する。
「まぁ、いいさ」
今は目の前の『食事』を楽しみたい気分なのだ。半分ぐらい。ちょっとだけ。
「らぶあんどぴーす。らぶあんどぴーす」
心躍る物語の始まり。海の上で踊る戦い。
「ああ、楽しい。楽しいなあ。そう思いませんかアルエットさん?」
「四音さんも戦うのが楽しい? 痛くない?」
「痛いのが楽しい人も居るんですよ」
本来、海というものは人が住まう場所では無い。こんな海の上に来てまで殺し合いをするなんて。
「痛いのに楽しい?」
「ええ。価値観は違えど、戦う事に意義を見出している。とても素敵ですよね。ふふふ」
さあ、今日の物語はどんな結末を迎えるのか。楽しみだと四音は目を細めた。
●
「出来るだけ敵を私に向けて一列になるように追い込んでほしい」
シグは的確に味方船員へと指示を飛ばしていく。己の技が最大効力を発揮するように。
彼自身にも大きな技量があるのだが、多人数を従えるシグの才覚は目を見張るものがある。
「その後、合図によって散開するように。以上だ」
「「いえっさー!」」
味方船員の動きに合わせて後方に配していたルル家が動き出した。
「拙者と一緒に雑魚を倒しましょう!」
にっこりと笑いながらアルエット、ラビと共に敵船員に向き合う。
「分かったわ!」
ラビが駆け抜け敵の目の前に立ちはだかり、アルエットは魔法を放った。
敵が投げた剣はルル家の頭上を掠める。
「うわっ! あぶなっ!」
ライフルを担いで逃げ回るルル家。それを追いかける荒くれ者たち。
「たーすーけーてー!」
ルル家はぐるぐると甲板の上を走り回り、縄を伝ってマストに飛び乗る。狙うは集団となった敵船員。
「蜂のように舞い、蜂のように刺す! 拙者の針はちょっとばかりしつこいですよ!」
瞬時に変幻したルル家の秘密宇宙警察忍者武器はクラッカーを貼り合わせたような珍妙なフォルムになってその先からレインボー重粒子手裏剣ビームが発射される。ビビビビビ。敵はバタバタと倒れ、あるものは海に投げ出された。ガボガボガボ。
「んー、敵の数が多い」
目の前で繰り広げられるルル家のドンパチに四音はカーマインの瞳を細める。
後衛にいる自分が目をつけられないように注意して立ち回らないといけないと戦場を見渡した。
猫が歩いている。甲板で繰り広げられる戦闘など何処吹く風。ふさふさの毛並みが美しい。
ブルワークの上をてとてと歩くが、敵船員が転げた拍子に海へと投げ出された。
「エリザベース!」
操舵手トニーの叫び声が木霊する。
「ねこ……!」
ラビが飛んだ。ボチャン。
「えぇ!? 何で、飛んだの!?」
エンヴィは驚いてラビとエリザベスを救出しにいく。
「げほっ、げほっ、守り神、だから?」
びしょびしょになったラビを引っ張り上げて、エンヴィは呆れた顔をした。
その一部始終を見ていたレイチェルは「くくっ」と笑う。
「ところで何で猫が守り神なんだ?」
「さて、何かの効果があるのだろう」
ウィリアムは敵船員の後ろに操舵手が居る事を認識していた。
この範囲ならばトニーを入れた方が効率はいい。
「ウィリアムさん」
ラビの声に聖星の青は眉を下げる。――ああ、分かっているさ。
「俺達は『殺し合い』をしに来た訳じゃないからな」
オリオンの青を宿す瞳がゆらりと揺らめいた。星の杖がふわりと光を纏う。
本気の相手に手加減出来る程強い訳ではない。
「でも、これも戦い方だ」
トニーを識別し光は放たれる。インクブルーの空に輝く星の如く。つよく強く。
「星屑の――エタンセル!!!!」
ウィリアムの光は甲板に降り注ぎ敵の動きを鈍らせた。
味方を巻き込まないように放たれる攻撃は最大効率とは言い難いのかもしれない。
シグやレイチェルはそれを認識している。
己自身の利益のみ取るのであれば最大効率を優先することも可能だ。
しかし、二人はそれを選ばない。
仲間の船員が敵を一列に押し込めていく。
「良い位置だ……」
シグの全身がシルクの光に包まれ大剣へと姿を変えた。
レイチェルが手を前へと差し出せばシグの柄がぴたりと嵌まる。
「さて、戦況を傾けさせてもらおう……!」
じわりとブラッディ・レッドの血海が広がりレイチェルは剣を正眼へ構えた。
「我は剣の使役者」
レイチェルの銀糸が巻き上がった風に揺れる。隙間に見える金銀妖瞳。
「主が罪を裁く者ならば、この刃は炎を宿す」
握った柄から恋人の鼓動を感じた。
孤独を救ってくれたぬくもり。復讐鬼の拠り所。
主従という歪な関係だろうとも、そこに存在する愛に変わりはないのだと教えてくれた。
それはシグとて同じこと、たとえ『知識の魔剣』であろうと、観測する側の人間が居なければ意味の無いガラクタに成り果てる。知識を得んとする者が居るからこそ存在意義が発生するのだ。
知識の炎は誰が為に。
「穿て――」
緋色の炎に包まれたレイチェルは知識の魔剣を振り上げる。
「烈陽剣・血河千槍陣――!!!!」
●
「ヒュゥ! やるなぁ! イレギュラーズ!」
船員が多数吹き飛ばされるのを見てバルバロッサはカカっと笑った。
「仲間がやられたのに、悠長ですね」
アリアは背の高いバルバロッサを見上げ剣を払う。
「戦いとはそういうものだろう? お嬢ちゃんも強いやつと戦えるのはワクワクしねえか?」
「私は……」
緩く眉を寄せるアリア。上からの重たい剣檄を貰えばアリアの柔肌は簡単に割けてしまうだろう。
迫り来る剣筋を読んで最小限の動きで躱す。
「ごめんなさいね、でも、もう少しだけお付き合いしてくれます?」
「良いぜえ、とことんやり合おうじゃねえか!」
バルバロッサがアリアとの交戦を好んだことにより、敵最大戦力が身動きが取れないという好機を生み出した。イレギュラーズの作戦は今回の戦闘において見事に正解を引き当てたのだ。
その状況に歯がゆい思いをしているのはローレンス。
強い者と戦うのが好きなバルバロッサがこのままでは重傷を負ってしまうことを危惧したのだ。
けれど、男の元に駆けつけることは叶わない。彼の前に立ちはだかる愛無が居るだからだ。
傷を負った者に対して掛ける慈悲を手加減と云う者がいることに、愛無は意味が解らないと一蹴する。
狩りたいモノを狩り、守りたいモノを守る。それを言い訳にして負けるなんて有り得ない。
勝つことが当たり前だから。
「欲しいモノは奪う主義だ。それは君達も同じだろう?」
「……っ!」
愛無の仕込んだ杭はローレンスの左腕に食い込みじわじわと浸食していた。
「そこに他者の入り込む余地など一切ない。勝った者が正しいのだから」
ぬらりと黒い粘膜が蛇の頭部に姿を変える。
「君を殺せば『家族』が悲しむ。それはそれで僕の望むところではない」
既に失ったそれを。らぶあんどぴーすには程遠い悲しみを自ら送るのは頂けない。
「だから我慢しよう。つまみ食い程度で――」
「ぅ、あああアッ!」
ローレンスの首筋に蛇の顎が食らいつく。青年の血を啜り皮膚を舐め生命力を吸い上げるのだ。
「私は癒すことしかできませんが」
四音が赤い唇で微笑んだ。
ダークヴァイオレットの手が愛無を包み込む。手は愛無の傷ついた肌をそっと撫で上げ癒やしを施した。
後衛で回復を施す四音に気づいた敵が戦場を駆け抜け迫り来る。
「おや」
にやりと。四音の口が綻んだ。左右の手に埋め込んだ魔石は四音の魔術回路に反応する。
「四音さん!」
敵の攻撃をアルエットが翼で受け止めた。
「まあ殴り倒すこともできますけど……ね?」
自分を庇ったアルエットの血を撫でながら、黒い瘴気を敵へと叩きつけた四音。
「海賊が悪がどうかと言えば悪ですよアルエット」
どさりと倒れる敵に背を向け、四音は雲雀の傷ついた翼に触れる。
「世には法というものがあるんですから。大多数の善良な人々がそれに従ってるのに」
ダークヴァイオレットの腕と四音の手がアルエットを抱擁した。
「従わずに好き勝手してる人間が悪人でない訳ないでしょう?」
「そう、かも」
殺さずに手加減することは、殺すことより難しいかもしれないとエンヴィは思う。
叩きつける弾丸も、殺さないように調整するのが難しい。この弾丸の殺傷力で死ぬ可能性は無いとは分かっていても。一つ撃ち出すごとに精神的疲労は溜っていくのだ。
目の前で家族を殺されれば、その悲しさ空しさは軋轢を生む。
ここで自分たちが不殺を貫き通せば、未来の復讐者は確実に減るのだから。
「要らない火種は撒かない方がいいもの……」
剣檄を交す敵船員に照準を合わせ『殺さない』ように引き金を引いた。
戦況はどうなっているとレイチェルは琥珀の瞳を甲板に向ける。
まだ敵戦闘員は健在で、もう少し時間が掛かりそうだ。
レイチェルは急く。早く強い敵と戦いたい。ああ、早く。
「……強い奴はとっといてくれよ? 俺が行くまで」
心底楽しげに技を放つレイチェルに、シグの口元も緩んだ。
「まあ、露払い程度は任せてくれたまえ」
「もう一回行くぞ、シグ!」
●
アリアの剣がバルバロッサの胴を狙う。薄皮を剥いだ剣先は幾重にも重なって少しずつダメージを与えていた。それに重ねるようにエンヴィは銃口を男へと向ける。
「こっちよ!」
「おっとぉ!」
エンヴィの命中精度の高い攻撃はバルバロッサの左腕を打ち抜いた。
「……私も、私の愛する者を危険に晒したくはない。そちらもまた……命のやり取りにするつもりはないと考えるが?」
「そうだなぁ、命は取りたくねえよ。だが、強さは戦ってこそだろ」
シグの言葉に肯定を見せるバルバロッサ。
「戦闘狂め」
「おう、よく言われるぜ。お前んとこの姫さんもそうじゃねえの?」
お互いの瞳を見てにやりと笑い合う二人。
此処は戦場。命のやりとりをする場所。簡単には引き下がらない男をウィリアムは睨み付ける。
「簡単に引き下がってくれるとは思わない……けど。家族の命を危機に晒す程じゃないだろ?」
「引けない理由もあるのさ」
ならば、どちらかが音を上げるまで戦うしかないのだろう。
「どうなっても知らねーぞ!」
ルル家の金髪が慣性に従って流れる。ライフルを構え全ての運命を従え、好機を捉えた。
「バルバロッサ殿。あなたの失敗はただ一つ」
広がるラピスラズリの夜空から一筋の光が降り注ぎ銃口の先から閃光が放たれる。
「――そのヒゲを剃ってこなかった事です!!!!」
その言葉に男の目は見開かれ。
空気を切り裂く音は鼓膜を大いに震わせた。
「は――っ」
閃光はバルバロッサの右腹を引き裂き、甲板にアガットの赤を散らせる。
「提督!」
ローレンスの悲痛な叫びが海の波に攫われ、バルバロッサの金眼が彼を一瞥した。
「参ったね、こりゃ」
ボタボタと血を流し膝をつく男にローレンスは愛無の肩越しに言葉を叩きつける。
「避けられない攻撃じゃあなかったでしょう!?」
イレギュラーズにもバルバロッサにはまだ余力があるように見えた。
「そうです。なぜ避けなかったんですか」
ライフルを構えながら近づいてきたルル家を見上げて眉根を寄せたバルバロッサ。戦意は無いと銃口を手で避ける仕草をする。
「……昔、俺にさっきのセリフを言ったやつがいたよ。お前さんみたいに物怖じしない。おてんば姫が」
「いた。ですか」
それは過去形。今は居ない者を想う言葉。
男の腕が持ち上がりルル家に差し伸べられる。
愛しい者を撫でるように、ルル家の頬は大きな手に包まれた。
「その人を愛していたんですね」
「ああ、最愛だった。美しく勝ち気で心優しい自慢の娘だった。でも弱かった。簡単に壊された。……あいつの最期の望みが強い海賊であることだ。だから俺は……強くなければ、なら……ない」
重心を失いルル家にもたれ掛かるバルバロッサ。
「強く、なって……必ず、仇をとって、やるから、な。アルセリア」
――――
――
「女王の下につくのが否というならば。僕らと共に行く、というのは如何だろうか?」
回復を施されて上半身を起こしたバルバロッサに愛無は問うた。
「共に、か。そうだな、考えておく」
立ち込めていた霧が嘘のように晴れてパライバトルマリンの海が姿を見せる。
「ここまでの奮戦、お見事です。流石提督噂に聞く強さだねっ」
アリアが朗らかに笑う。バルバロッサに戦意が無いのは明白なれど、ここで引いて貰わねば困るのはお互い様だから。これ以上暴れるのであれば強制的に拿捕しなければならないから。
「ははっ、こんな可愛いお嬢ちゃんに褒められちゃあ悪い気はしねえな。ちょっとこの後どうだ? 上手い飯でも食いながら……痛え!」
傍らで支えていたローレンスがバルバロッサの右腹に手刀を入れた。
「また殴り合いしよう」
レイチェルは『次』を願う。彼の内の中に燻る復讐の火種を自分も理解できるから。
時間と共に歪んでしまった自分と同じ轍を踏まぬように。
「ああ、また殴り合いをしよう」
ローレンスの肩を借りて立ち上がるバルバロッサのコートが海風になびいた。
「そうだ。聞き忘れるところだった。お前さんたち名前は――」
海鳥の鳴き声が響く。遙かなる青の果てに続く海は陽光に煌めいていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。如何だったでしょうか。
またお会いできるのを楽しみにしています。
GMコメント
お久しぶりです。もみじです。
今回は脳筋な海賊との戦いです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●目的
海賊の撃退
●ロケーション
敵船が三隻、味方船が三隻砲門を打ち合いながら接近します。
アルセリア号の甲板で、白兵戦へと持ち込んだ所から戦いがスタートです。
●敵
○『赤髭王』バルバロッサ
精悍な顔立ちに赤い髭。傷だらけの身体は筋肉隆々です。
強い者に戦いを挑み続けています。
性格は豪快豪傑。気さくでお茶目ですが、戦いとあらば容赦はしません。
仲間は大切にします。特にローレンスは血を分けた家族同等の扱いです。
本名はブレイブ・クラウン。
遠近範囲を兼ね備えたトータルファイターです。
剣の達人ですが、ピストルを携行しており、爆弾を投げるなどトリッキーな動きをします。
○『右腕』ローレンス
バルバロッサの副官。美しい顔立ちの青年。
海難事故でバルバロッサに拾われ、忠義を尽くしています。
バルバロッサに命の危険が及んだ際は身を挺して庇います。
遠近範囲を兼ね備えたトータルファイターです。
バルバロッサ譲りの戦闘スタイルですが、能力値は劣ります。多少の回復魔法が使えます。
○戦闘船員
海の荒くれ者たち。
カットラスを持ち白兵戦を仕掛けてきます。
三隻合わせて数十人です。
○『操舵手』トニー
戦闘能力はありません。陽気な性格です。腕は良いです。
戦闘中も船の安定の為に操舵輪にしがみついています。
○『料理長』モリモト
戦闘能力はありません。料理の事となると厳しいです。美味しい料理を作ります。
船内の食堂に居ます。
○『守り神』エリザベス
ネコです。もふもふで可愛いです。
●味方
○戦闘船員
海洋王国から派遣された戦闘員です。
三隻あわせて数十人です。
○アルエット、ラビ
連れて行ってもいいですし、行かなくても構いません。
指示が無い場合、当たり障り無い行動をします。
●重要な備考
<第三次グレイス・ヌレ海戦>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』を追加カウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
尚、『海洋王国事業貢献値』のシナリオ追加は今回が最後となります。(別途クエスト・海洋名声ボーナスの最終加算があります)
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