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シナリオ詳細

<第三次グレイス・ヌレ海戦>暗礁に活路を拓け

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 グレイス・ヌレ海域。
 現在この海域では、先達ての『海洋王国大号令』に端を発する海洋・鉄帝・海賊連合三つ巴の激しい海戦が繰り広げられている。

 そんな中、小さな無人島や巨岩が連なる一帯を、ひっそりと航行する一隻のスループがあった。帆はところどころ焦げ、右舷後方には見るも無残な大穴が開いている。掲げるは海洋の旗印――海洋王国の哨戒艦だった。
「何てこった」
 艦長がぼやく。
 鉄帝艦の情報や動向を探っていたところ、突然真紅の海賊船が現れ激突してきたのだ。文字通り船首を突っ込まれた右舷は損傷。同時に海賊達が乗り移って来て、甲板は白兵戦の舞台と化した。
 しかしこちらは取り回しの良さが身上の哨戒用スループ。倍以上の砲と戦闘員を搭載した武装フリゲート相手は分が悪すぎた。死にもの狂いで押し返し、小島が入り組むこの一帯に逃げ込み何とか撒いたものの、船員の半数以上が重軽傷。浸水のためそのまま帰港することも叶わず、島影に潜んで船と負傷者の応急処置に当たっているのだった。
「艦長、右舷の修理が完了しました!」
「なら錨を上げろ。すぐ出立だ」
 艦長の言葉に、若い船員は目を丸くする。
「ですが、まだあの海賊船が近くにいる可能性もあります。救援の到着を待ったほうが」
「近くにいるどころか、今頃血眼でオレ等を探してるはずだ。あの赤い海賊船船長『グランマ』アンってのはそういう女だ」
「だったら尚更! あと一発でも大砲をぶちこまれたら沈没しかねません!」
 船員が半ば悲鳴のような声で言い募ったその時、見張りが更に切迫した声を上げた。
「四時の方向に赤のフリゲート艦! アンです!」
「クソッタレ」
 吐き捨てると、艦長は負傷した操舵手に変わり舵輪を握った。
「ここから西の暗礁地帯に向かう! あの海賊船にゃ無理だが、喫水の浅いこの船なら抜けられる」
「じゃあそこまで逃げ切ることができれば……!」
 一縷の希望を見出した船員達は力を合わせ帆を張ると、真っ直ぐに西を目指した。

 一方、海賊船では。高齢の女海賊アンが、船首飾りの人魚像に向け語りかけていた。
「ふん。暗礁に逃げ込もうって腹かい。でも一寸錨を上げるのが遅かったね、そうだろ?」
 当然像は答えない。アンはしゃがれた声を張り上げる。
「あんな沈み損ないの船に追いつけなかったら海賊の名折れだよ、死ぬ気で横に着けな!」

 決死の逃亡を試みる哨戒艦、追い縋る海賊船。無情にも暗礁地帯が見えてきた辺りで左舷への接近を許してしまう。息を飲む船員達の前でぞろりと砲門が開いていく。
 万事休す。覚悟を決めた次の瞬間、両船の見張りが同時に叫ぶ。
「物凄い勢いで追い上げてくる船がっ」
「あれは商船? 何でこんな所に!」
 双方事態が飲み込めず困惑している内に、その商船は飛ぶように迫ってくると、半ばぶつかる勢いで二隻の間へ船体を割り込ませた。


 時は戻ってローレット。
「――ってわけでね。海賊に襲われ立ち往生した哨戒艦の救出に向かって欲しいんだ」
 集まったイレギュラーズ達を前に、『黒猫の』ショウ(p3n000005)が告げる。
「海賊の船長は『グランマ』アン。呼び名の通り高齢だけど、その歳まで海賊として生き抜いてきた手練だよ。戦闘員はアン含め二五人ほど。武器はカットラスとピストル、海賊らしいね。先に哨戒艦と一戦交えているから、アン以外は負傷している者も少なくないようだよ。
 アンは執念深いことで有名だから、きっとしつこく哨戒艦を探しているだろうね。こうしている間にも見つかってしまうかもしれない。事は急を要する、いいかい?」
 全員頷いたのを確認してから、ショウは移動手段として手配した船の図を卓に広げた。ショウ以外の目が点になる。
 それは商船。どう見ても商船。シュッとしてやたら速そうだけど砲門ひとつない小さな商船。
 これで海賊船に挑めって? 非難を込めた視線にショウは肩を竦める。
「こっちだって急だったんだよ、手頃な戦艦は皆出払ってるし。何より、船足が遅くちゃ話にならないからね。
 その代わりと言っちゃなんだけど難しいことは望まない。あくまで哨戒艦が安全な場所まで逃れられるだけの時間を稼いでくれればいい。海賊の生死も問わない。どうかな?」

GMコメント

●目的
海賊を退け、哨戒艦を安全な海域(暗礁地帯)まで離脱させること。海賊の生死は問いません
イレギュラーズが乗った船は耐久力に劣る商船、深追いは禁物です

●ロケーション
ほぼ接触状態で並走中の三隻の帆船上。揺れます
海賊船(大)・商船(小)・哨戒艦(中)の順で並び、暗礁地帯へ向け航行しています
隣り合った船へロープで飛び移ることが可能
隣の船への攻撃はレンジ2、更に隣へ(例:哨戒艦へ移ってから海賊船へ攻撃する場合など)はレンジ3以上の攻撃手段が必要です

●敵
船長『グランマ』アン
 歴戦の女海賊。得物はカットラス、ラッパ銃
 カットラスでの攻撃はBS毒の効果があります。自船だいすきタフネスおばあちゃん

『海賊』×24
 アンの手下。得物はカットラス
 仲間意識が強く、即席の連携攻撃を仕掛けてきます
 内半数は交戦開始時点で軽~中傷を負っています

『対人用移動式砲台』×2
 海賊船甲板にある車輪付きの小さな大砲。レンジ2で命中精度は低め
 撃ち手が誰であれ抜群の対人威力を発揮します

 なお、砲門はありますが接触状態で撃つと自艦もダメージを被るため、並走している限り使用しません
 哨戒船が暗礁地帯へ逃げ切る、または不利と悟れば逃亡を図るでしょう

●他
『哨戒船』
 ひたすら暗礁地帯を目指しますが、指示があれば可能な限り従います
 半数の船員が重症。右舷左舷に各6門ずつ大砲があります

『商船乗組員』
 特に指示がなければ哨戒船との並走を続けます。指示があれば従います。大砲なし

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●重要な備考
<第三次グレイス・ヌレ海戦>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』を追加カウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
 尚、『海洋王国事業貢献値』のシナリオ追加は今回が最後となります。(別途クエスト・海洋名声ボーナスの最終加算があります)

  • <第三次グレイス・ヌレ海戦>暗礁に活路を拓け完了
  • GM名鮎川 渓
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月02日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
彼岸会 空観(p3p007169)

リプレイ

●開戦を告げる砲
「ちょーっと待ったぁー!」
 突如割り込んできた正体不明の商船。度肝抜かれる船員や海賊の耳を凛とした声が打つ。見れば商船甲板の上、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が、ブランデー色に染まった髪をなびかせ立っていた。
 両側からの視線を一身に浴び、アーリアはふるっと身震い。
「一度言ってみたかったのよねぇ、こういうの!」
 何やら満足したらしい彼女は海鳥を召喚すると、傍らの『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)へ託す。華蓮は思案げに海賊達を見ていたが、
「確かに預かったのだわ」
 海鳥を肩に止まらせると哨戒艇へ移るべく踵を返した。船員達の治療に当たるつもりなのだ。そんな華蓮と共に哨戒艇側へ駆けつけたのは『Ritter der Hoffnung』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)。
「僕達はローレットから、貴艦の救援依頼を受けやって来ました! これより全力で海賊達を退けにかかります。全員無事でこの窮地を乗り切りましょう!」
 あどけなさが残る顔立ちの中、瞳は騎士らしく気高い光を灯していて。希望を見出した船員達はにわかに活気づく。
 そんな船員達の様子を確認した彼岸会 無量(p3p007169)、取り出した強壮丸――結構凄まじい味がするそうだが――を顔色を変えずこくりと飲み下し、本日の相方へ視線を移す。
「どうやら間に合ったようですね」
 そうして文字通り虚空を蹴ってひらりと空へ。黒髪が彼女の軌跡を艷やかに描く。見送った恰幅の良い巨漢はにんまり口に一層笑みを深くして、
「ほんじゃ、ちょいと派手にいかせていただきますかねぇ!」
 吼えるように言うと、巨躯を包む駆動滑鎧『牡丹』が変形し始めた。見る間にバリスタ状に姿を変えた『牡丹』、その筒の中に収まっているのは無論鎧の中身であった肉肉しい肉体。ぎょっとする海賊達をよそに、『牡丹』は主を弾丸よろしく轟音あげてぶっ放す!
「はあぁ!?」
 泡食って逃げ惑う海賊達。だが遅い! 海賊船甲板へ着弾(!)した巨漢――『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は、炸裂させた閃光の中、口についていた餡を指の腹で拭い不敵に呵った。


 そんな中、船の揺れにされるがまま、ふわふわと身体を揺らす少年がひとり。
(海と……船の上。随分……前に、乗った事ある……様な。それとも、初めての様な……?)
 潮の匂い。風孕む帆がたてる、鳥の羽ばたきに似た勇ましい音。胸が疼くような感覚は、初体験の高揚なのか懐かしさのせいなのか。『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)は小首を傾げたもののすぐに現状に意識を戻す。
「無事に……安全な所まで、届ける……『手伝い』。しっかり、頑張らなくちゃ……ね」
 天へ向けた琥珀色の瞳は、雲の動きをつぶさに観察していた。身につけた天気予報の術を使い、"その瞬間"を見定めるために。
 真白な翼で宙に舞い上がる。風は順風。今はまだその時ではない。
「じゃあ……今は、皆の気持ち……温められるように、この歌を」
 紅い海賊船を眼下に捉え、戦う者を鼓舞する旋律を紡ぎ出す。戦場は揺れる船の上。攻撃精度と回避力を高めてくれる『赤の熱狂』はうってつけだ。赤の彩りを湛えた伸びやかなチックの歌声は、海風に乗り仲間達へ降り注いだ。

 さて海賊船上。状況を把握した『グランマ』アンががなり声をあげていた。
「イレギュラーズのお出ましかい。こっちへ飛び移ろうモンなら縄を切っちまいな!」
 けれどゴリョウの閃光で目を眩まされた海賊達は、投げ込まれた鉤爪縄への対処が遅れた。その隙に海賊船へ大小ふたつの影が降り立つ。『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)と、『リーヌシュカの憧れ』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)だ。
「海賊さんにも思うところがあるのかもしれないけど、だからって誰かの生命を見捨てるわけにはいかないからね!」
 毒を塗り込めたアンのカットラスを認めると、アレクシアは花のブレスレットで飾った両腕を掲げ、紫花めく結界を自身の周りに展開する。前線の回復手を担う彼女は、まず自身が倒れないことの重要さを知っていた。自らの守りを固めた上で、改めて海賊船の帆を間近で確認。
「うん、これなら!」
 今度は海上に目を落とす。道中で意思疎通を果たした精霊が居るのを確認すると 囁くように呟く。
「みんな無事に送り届けたいんだ、よろしくね」
 一方のラルフは、手摺を越えて降り立つなり四人の海賊に取り囲まれた。鍛え上げた体躯を警戒されたものらしい。彼はややオーバーに肩を竦めてみせる。
「火事場泥棒ならぬ海賊かね。面白い事に水差すだけは得意の様だな。それで? 今度は学者風情の私を多勢に無勢でやり込めようというわけかね。随分と良い趣味だ」
 佇まいは確かに理知的で学者風だが、双眼に宿る野性味が見た目の印象を裏切っている。
「揶揄うな!」
 カッとなった海賊が二人同時に殺到。ラルフは慌てた素振りで先手を受け流し、次手を寸出で躱したが、
「おっと」
 弾みで手摺を越えて落ちそうになり、ワイヤー状に伸ばした万能金属で身体を支え踏みとどまる――フリをした。
「磯臭い男に迫られる趣味はないんだがね」
「接近戦は苦手かい?」
 残りの二人がしたり顔で頷き合い、ラルフに飛びかかる気を窺う。と、
「何も男同士でじゃれ合うことないわよぉ。お姉さんと、――遊びましょう?」
 商船から響いたのはアーリアの甘ったるい囁き。菫のリキュールを想起させる声音が男達の耳孔を満たし、精神までをも痺れさす。
「船乗りが声に魅了される、なんてよくある話でしょう? 気をつけないとねぇ」
 アーリアは嫣然と微笑んだ。
「今度はこんな声は如何かね?」
 ラルフが取り出したるは、見るも悍ましき人皮装丁の魔導書。浮かびあがる無数の口が一斉に呪いの文言を吐き出すと、海賊達は気が狂ったように頭を掻きむしり、握った刃を互いへ向けた。それでもなお立ち向かって来た者を必殺の貫手で仕留め、
「別段苦手だとは言っていない」
 ラルフは船首側にある移動砲台へ向かった。
 船員達とのやりとりを終えたシャルティエも乗り込んできた。
「海賊にも負傷者が沢山……それでも数は倍以上。とにかく数を減らさなくちゃ!」
 より深手を負っている者、それでいて呪いや誘惑を回避した者を求め視線を巡らす。
「居たっ」
 ラルフに追い縋ろうとする海賊を追い、
「僕が相手だ!」
 名乗り口上を用い注意を引く。振り向きざま横薙ぎの一閃が放たれたが、天狼星の名を持つ漆黒の盾で受けると、『ブロッキングバッシュ』で強烈なカウンターを浴びせる! その海賊が倒れ込むのを見届けることなく、次の標的を求め駆け出した。

 一方の船首側。船室の壁を背に降り立った無量は、移動砲台とゴリョウの現在地を把握すると、携えた錫杖の柄に手をかけた。匂い立つような色白美女の登場に、周囲の海賊達は下卑た野次をあげじりじりと包囲を狭めてくる。しかし無量は一顧だにせず砲台を見据え続ける。
「砲撃手は軽傷者。その周りを無傷の者数名で固めている、と。成程、大事にされているようですね」
 それからようやく眼前の海賊達に向き直ると、目にも止まらぬ速さで"抜刀"。錫杖に見えたそれは大太刀・『朱呑童子斬』。悪鬼を斬り伏せて後、生き血を求める妖刀と化したという曰く付きの一振りが今、無量の手で閃く。
「触れずとも斬られる感覚を冥土の土産に、逝かれませい」
「?」
 彼女を囲んだ海賊達は、何が起きたか分からなかった。手弱女には振り切れぬはずの大太刀が振るわれた、までは理解した。しかし一瞬遅れて彼らに到達したのは、質量と衝撃を感じるほどに明確な"殺意"。これまで幾多の人を手にかけた荒くれ者どもさえも震え上がる圧倒的殺意を叩きつけられ、ある者は崩れ落ち、またある者は病み狂い自らの腕へ刃を突き立てる。それを横目に、無量は砲台へ猛進するゴリョウの側へ寄るべく再び空を蹴った。
「オラオラ、オメェさん達に俺が止められるかぁ!?」
 無量が見た通り、海賊達は虎の子の砲台と砲撃手をガードするようゴリョウの前に立ちはだかる。そうして息のあった連携で回避困難な連撃を繰り出し、とどめとばかりに放たれた砲弾がゴリョウの土手っ腹に炸裂した!
 もうもうと立ち上る煙。周囲の海賊達は誰もが疑わなかった。煙が消えたあとには、地に伏せたゴリョウの身体がそこにあると。
 だがしかしゴリョウ・クートン! 桁外れな頑強さを誇る彼は、煙の中から躍り出るや砲台へ突進を再開! その肢体をアレクシアが投げかけた魔法の花が優しく包み、傷を癒やしていく。
「ひっ、バケモノ!」
 気圧された砲撃手は急ぎ弾を込めようとしたが、すかさず上空から伸びてきた茨に絡め取られた。チックだ!
「海賊の人って……こうやって、ぐるぐるに……するんだよね」
 痛そうだけどごめんねと、チックは行儀よくぺこり。
 その隙にがっしと砲を確保したクートン、
「ぶはははッ、バケモノたぁご挨拶だな。いいもんあるじゃねぇか! ちょいと借りるぜ!」
 形式上尋ねたものの、無論返事など待ってはいない。取り戻そうとする砲撃手達を、着地がてら無量が一糸両断で斬り伏せる。
「良い船をお持ちですね」
 返り血を浴びてなお、無量は微笑を絶やさない。むしろこれから起こす事に思い馳せ、悪戯っ子めく無邪気な笑みを零す。
「クートンさん。では、宴の合図をお願い致します」
「オーケーだ。レッツパーリィィイイッ!」
 ゴリョウの操作で再び砲台が派手な音をたてる。ゴリョウと無量の悪戯――というには少々過激な――それは、海賊達ご自慢の移動砲台を奪い撃ちまくること! 砲弾は狙った海賊の脇を掠めマストに激突、亀裂を生じさせる。ゴリョウな首を捻り捻り、
「お? なかなか難しいもんだな。まあそう睨むな、ワザとじゃねぇさ。多分なぁ!」
 憤る海賊達を煽りながら、再び狙いを定めた。


「大丈夫なのだわ……もう少し……もう少しだけ我慢してね」
 哨戒艇では華蓮が治療に励んでいた。身動きの取れない重体者の周りに怪我人を集め、『天使の歌』を繰り返し回復を図る。多量の魔力を必要とする歌を紡ぎ続けるのは、さしもの華蓮でも負担がないわけではないだろうに、笑顔で。
 徐々に復活していく船員達を眺めながら、華蓮はふと海賊達のことを思い浮かべた。
(海賊の人達は、想いや誇りがあるのかしら……手を取り合う道もあるんじゃないかって……私はそう思う)
 それでも目の前の怪我人達を放っておくことなどできない。それに、
(海洋は今きっと人手不足、きっと今なら歩み寄り良いビジネス関係を築くチャンスがあるのだわ!)
 ちょっぴり強かさを覗かせて、決意も新たに再び歌いだす。その姿に感じ入った艦長が深々頭を下げた。けれど華蓮はそれを制して、
「今に仲間から合図が来るのだわ。それで、――」
 華蓮は声を潜めて今回の作戦を告げた。艦長達は二つ返事で、回復した者から持ち場へ戻っていく。その背へ蓮華は呼びかける。
「いってらっしゃい。怪我なら治してあげられるから、命だけは守って帰って来てね」
 そして肩に乗せた海鳥を通じ、アーリアへ話しかける。
「こっちは順調よ、協力も取り付けたのだわ」

「それは良かったわぁ」
 商船でアーリアが頷く。商船の方も、操舵手の周りにバリケードを築き終え備えは万端。けれどその顔は若干憂いを帯びて海賊船を仰ぐ。
「ちょーっと妙なのよねぇ、あっち」

 船尾側、ゴリョウは寄る海賊の中に目を凝らす。
「どこ行った?」
 砲で船を傷つければ怒髪天の勢いで飛び出してくるかに思われたアンが、一向に姿を見せないのだ。
 船首側ではラルフが砲を海へ突き落としたが、そこにも現れなかった。アレクシアは不要になった砲弾箱を縄で括りつつ首を傾げる。
「おかしいな、まともに動ける海賊が増えたみたい?」
 そうなのだ。早々に移動砲を奪われたことで警戒したアンは、射線に捕らわれぬよう物陰伝いに移動しては、発狂や混乱状態にある手下達に喝を入れて回っているらしかった。
 一人ずつ確実に仕留めて回っていたシャルティエは、額に滲んだ汗を拭う。
「流石は歴戦の女海賊、ってところかな。一筋縄では行かないね」
 と、すぐ傍から乾いた音が響いた。ハッとなって空を見上げると、肩を赤く染めたチックの身体がぐらりと傾ぐ。シャルティエの鼓動が跳ね上がる。海賊の中で銃を使うのは船長のアンだけだ。
 手練で知られた海賊船長だ、もし誰かが抑えられるなら――万一抑える人がいなければその時はと、そんな風に考えていた。若輩だからという遠慮か、あるいは――しかし逡巡する間もなくその時は来た。幼い胸に騎士の誇りを漲らせ、音がした柱の影へ回り込み勇ましく吼える。
「船長ともあろう者がこそこそと、恥ずかしくないのか! 正々堂々勝負しろ! 『グランマ』アンは、こんな子供相手にも臆する卑怯者か!?」
 名乗り向上を用いた挑発に、アンの顔が朱に染まる。
「こンのガキ!」
 怒り狂ったアンのカットラスがシャルティエを襲う。防御集中で耐えるものの、仕込まれた毒と怒りに任せた猛攻にとうとう膝をついた。
「ああっ! すぐに回復するよっ」
 すぐさま術を構築し始めたアレクシアを、アンの血走った眼が捉える。
「お前か、さっきっからちょこまかと!」
 アンがアレクシアを強襲しようとした時、その身に紅い鎖が巻きついた。
「お冠かね、そんなに大事な船なら飾りにしておけば良かったものを」
 ラルフの冷ややかな声が響く。
「そう、大切な物なら絶対に傷つけない様置いておくべきか、とっとと海賊などやめれば良かったのだ」
「フン。繋がれた船なんざ棺桶と同じさ!」
 アンの言葉にラルフの眉が僅かに跳ねる。
 次の瞬間、シャルティエの傷を癒やし終えたアレクシアが、弾かれたように手摺へ飛びついた。聞こえたのは精霊の声。前方に目を向ければ暗礁地帯はすぐそこだ。めいっぱい声を張り上げる。
「来るよ!」


 一体何が来る?
 アン始め海賊達は一瞬動きを止めた。間を置かず聞こえてきたのは、先程とはうって変わって切ないメロディを辿り始めたチックの歌。
「援軍が来たわよぉ!」
 更に商船からあがる声。アンは急ぎマスト上の見張り台を仰ぐ。
「何か見え、」
 言葉はそこで途切れた。空へ駆け上がった無量が、見上げたマストに張られた縄を断ち切ったのだ。
「些か名残惜しくは御座いますが、此れにて御免」
 制御を失った帆布が激しくはためき、垂れ下がった縄が鞭よろしく甲板を打ち据える。
 必然、帆のひとつを失った海賊船が遅れ始めた。否、哨戒艇が加速し始めたのだ! 頬打つ風にアンは歯噛みする。
「風が変わったのか。こうなりゃ意地だ、逃さずとっ捕まえて首を取るんだ!」
 がなり散らす眼前で、アーリアが投げた縄を伝いシャルティエが離脱した。次いで宙に浮いたラルフが、例の人皮装丁本を手に振り返る。呪いの声がとどめとばかりに響く! そして何やら見覚えのないスリム・ガイまでもがすっ飛んでいくではないか。誰?
「くははっ、このために事前に『おはぎ&ぼたもち』食ってカロリー蓄えてたのよっ!」
 ギフトで脅威のスリム化を果たしたゴリョウだった。宣伝か? 宣伝なのか? まさかここで自前の農園で丹精した餅の宣伝なのか!? 徹頭徹尾あっぱれなまでのやりたい放題ぶりである。
 だがまだあと一人居たはずだと海賊達が見回した時。突然足元が激しく揺れ傾いたかと思うと、船全体が地響きのような音をたて、通常の操舵ではありえない角度での急旋回を開始した。
「今度は何だい!?」
 最後まで残っていたアレクシアが、錨や例の砲弾箱を海へ放ったのだ! 航行中に錨を落とせば、急に止まることのできない船は錨を中心にぶん回されることになる。出ていた速度の分だけ衝撃は激しく、船は大きく傾ぎ、軋み、ゴリョウの砲撃でさんざ痛めつけられた船体は今にもバラバラになりそうだった。
「せめてお前だけでもっ」
 根性で躍りかかるアンをひらりと躱し、アレクシアはそのまま空へ。
「隠しておいたとっておき! ロープで来たから飛べると思わなかったでしょ?」
 呆気にとられる暇もあらばこそ、ダメ押しの攻撃が海賊船を襲う。
「発射ぁー!」
 暗礁地帯へ滑り込んだ哨戒艇からの一斉砲撃! 華蓮の懸命な治療が実を結び、哨戒艇は操船に充分な人手を取り戻したばかりか、砲撃に手を回す余裕まで生まれていたのだ。

 喫水の浅い二隻の船は、暗礁地帯を悠々越えて疾走っていく。その後方で、転覆した紅い海賊船がゆっくりと波間に飲まれていった。


成否

成功

MVP

ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に

状態異常

なし

あとがき

 無事に哨戒艇を離脱させることに成功しました。
 航行中の船の上という状況を意識した行動が随所に見られ、結果、海賊船を沈没せしめました。お見事でした。

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