シナリオ詳細
ブルーム・ザ・ローズ~奇怪画展
オープニング
●画廊入り口に貼られた文面
私たち4名は様々な感情を研究し、絵という一つの形に集約・表現してきた。
そこには様々な人生があった。恐怖、怒り、未練、幸福。それらは人を動かす原動力。どのような形であれ、人を行動させる感情。
私たちはいつも描きながら問うてきた。恐怖とは何か? 怒りとは何か? 未練とは? 幸福とは? ――其の疑問が解ける事は、恐らく終までないだろう。
それでも私たちは描く。此処には確かに生きた証がある。断言しよう、これら4作27枚の絵は、人生そのものであると。
人生を垣間見せてくれた、親愛なるローレットの者たちに感謝を。
――画展代表 ラフィー・ハリバーナ
●画家の生きた証、君たちの生きた証
「やあ、約束通り君たちに招待状が届いたよ」
街にチラシも貼ってある。見たかな。
グレモリー・グレモリー(p3n000074)はチケットを一枚、イレギュラーズの前に出す。「Bloom the Rose」と洒落た文字で記された其れは、画展への招待状だ。
「君たちに相次いでお願いしてきた“画家と感情の依頼”――それらの作品が全て完成したようで、展示会を行う事になったんだ。お節介のラフィーが殆ど取りまとめたんだろうけどね。入場料は無料だし、君たちの友人、君たち自身が題材になっているから、よければ息抜きがてらどうだろう」
そう語るグレモリーは、珍しく穏やかな顔をしている。矢張り友人たちの事だからだろう、其の横顔には誇らしさすら伺えた。
「絵を見るしかすることはないけど、ぜひ行ってみてほしい。僕も行ってみてみる事にする。何だかんだで、彼らの作品を見ていないからね。僕の悩みを解決する糸口になるかもしれない」
●展示物詳細
~恐怖の章~ ニナ・トッカータ
「謎のボタンを押しますか」
「切り刻まれる青年」
「置いて行かれる少女」
「傍にいた面影」
「救いという恐怖」
「不運は不幸ではない」
「変容」
「血酒を煽る女」
~憤怒の章~ アグリー・ラティンク
「食べられたケーキ」
「己の胸倉を掴む男」
「羨望を叱咤する」
「希望を語る絶望という女」
「死」
「強くなっても倒せないもの」
「四姉妹の悲劇」
~追憶の章~ クライクス・ジュモー
「強さと面影を求めた少年」
「追憶劇場」
「きみはだれ?」
「後悔の詰まった箱」
「生を望む少女」
「姉妹」
「名を呼ばせてくれ」
「おお我が故郷の土の香りよ」
~幸福の章~ ラフィー・ハリバーナ
「マリンスノーと雑踏」
「蜂蜜色の午后」
「ひとりふたり」
「君はつよいおとこのこ」
「命の水平線~陽はまた昇る」
「音楽祭に猛るリュート」
「貴方と乾杯」
- ブルーム・ザ・ローズ~奇怪画展完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年06月19日 21時45分
- 参加人数25/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 25 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(25人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●展覧会
4つの章で構成された画廊には、ぽつりぽつりと人が訪れていた。
招待された者、たまたま通りがかった者。仕事で世話になっている者、様々だが。
彼らはこの絵の中に、どのような感情を見るのだろうか。
ベルナルドは在廊している画家たちに積極的に話しかけていた。
彼も絵を生業としていた者。扱う顔料、定着材、練り方や塗るときの拘り、そして――イレギュラーズと出会って得たものを、どう表現しようと思ったのか。
一番気になったのは塗料回り。企業秘密だ、と言う画家もいれば、嬉々として教えてくれる画家もいる。描かれた絵が個性を持つように、画家にも個性がある。
あの作品は良かった、この作品は色のバランスが、その作品は静と動が――ベルナルドの眸は輝き、画家たちと談笑する。
自分はやっぱり、絵筆を捨てては生きられない。一度断罪された身なれど、深く、深くそう思う。
ウェールは追憶の章、一枚の絵の前で足を止めていた。
タイトルだけで己が描かれたものだと判る。巧妙に隠されてはいるが、この懐中時計は間違いなく己が想起したものだ。
胸が苦しい。目元が潤む。息子と俺が、一枚の絵画になっている。
息子を思い出せる事に、其の思い出の苦しさに、ぐしぐしと腕で涙を拭った。
「クライクスさん」
そして在廊していた画家に話しかける。あの時はありがとう。複製画とかはないのだろうか。
彼は笑って答えるだろう。“君が望むなら複製しよう”と。
アクセルはぴょこぴょこ、4つの章を見て回る。
オイラたちがいた依頼以外にもあったんだなあ。魔術を使える画家って実は多いのか? と首を傾げてみたりする。
誰かの人生のひとかけらが、それぞれ描いた人というフィルターを通して描かれている。共感できるものも、出来ないものもあった。出来ないものは、新しい気付きとして彼の中に残るだろう。
まるで感情を叩き付けられるようにドキドキする。これが芸術って奴なんだなあ。
ランドウェラは自分の絵の前で、何度でも脳裏に焼き付けたいと佇んでいた。はっはっは、照れるなよ『私』。
色彩感覚でたのしみ、純粋に題材となった喜びを噛み締める。同行した者の幸福はこんなのかあ、はて? これは誰のだろう。知り合いだろうか?
4つの章を余さず見て回り、推測を重ねてみる。
――あの幸福は、現実になるのだろうか。
右腕はだらりと垂れている。しかし、ランドウェラは腕が動く感覚を、確かに覚えていた。
「ジェイク様が画展だなんて、珍しい事も御座いますね」
「そうか?」
ジェイクは幻の手を引いて、憤怒の章へと来ていた。
“死”。
簡潔にそう題された絵画を、二人で並んで見つめる。
「――激しい怒りを感じます」
幻がそう呟く。筆を荒々しく塗りたくった、まさに怒りのままに描いたような絵画。
「……。この絵は、俺の怒りそのものだ」
俺から幻を奪う奴は許さない。俺が本気で怒るのは、そういう時だ。
獣のように怒り、荒ぶる。お前の隣にいるのはそういう男なんだ。
――それでも、俺の隣にいてくれるか?
「……。…。大切にしているものを奪われる怒りは、共感できます」
ならば、恐れる必要などありません。これもジェイク様の一面なのでしょう。
そう笑った幻に、思わず腕が伸びた。男の腕が、細い体をそっと抱き寄せる。
思わず身を固くする幻。どうしたらいい? 押し返す? 此処は画廊で、でも……
そっと細い腕が、たくましい背中に回った。恋人たちはきつく抱き合い、己たちは生きているのだとお互いに刻み付ける。
「おう、これはどう見てもオレの絵だな!」
“食べられたケーキ”。と題された、かわいそうな絵画の前に洸汰はいる。まあ、あの後の顛末を語ると……ケーキをくれた人に食べられたことを述べたら、またケーキを作ってくれたので、洸汰は食いっぱぐれずに済んだ訳だけれど。
「……でもよ、オレはまだ納得できねえ! なあパカお! あれの真犯人は誰なんだ!? メカパカおか!? 其れともお前か!? エマにナラにぴょんぴょんたろーに、ぴざねこ! 容疑者がたくさんいてオレには判らねーんだ! 其れともお前ら全員で口裏を合わせてるのか!?」
何より許せねーのは、オレだけ仲間外れになってるみたいなこと! ちくしょー! 絵を見ると悲しくなってくるぜ!
芽衣はずっと気になっているタイトルがあった。
"命の水平線~陽はまた昇る"。何を想い、何を見て、画家はこの絵を描いたのだろうか。件の絵は幸福の章……最後のゾーンにあるようで、他の絵に感心したり、身を震わせたりしながら、ゆっくりと画廊を進んだ。
そして辿り着く、件の絵。老人が一人、ベッドに横たわっている。見つめる窓の向こうでは、子どもたちが遊んでいる。――命が巡る、其の円環。
芽衣はそこから暫く動けなかった。命という大きな題材が、この絵の中には詰まっている。これは依頼で心象を見て描かれたものだというが、題材になった人は一体、この風景の何処に幸せを感じたのだろう。
ゲストノートにそっと描く、矛盾だらけの言葉。でも、其れが芽衣の真実の心。
「おおー、これが展覧会!」
アリアは音楽という芸術には造詣が深いが、絵画という芸術には余り触れた事がない。だから、画廊という場所そのものが新鮮で、何もかもが驚きで満ちていた。自分は絵が描けないけれど、それでも伝わるものがある。きっと音楽と同じだよね? リュートが弾けない人でも、私の音楽には楽しくノってくれたりするし……
そう思うとたまらない。幸福の章、己が題材の絵を見たらいよいよ我慢できなくなって、持ち歩いているリュートを少し鳴らしてしまった。こういう場所だから、静かな曲が良い。静かで、でも希望に満ち溢れたメロディを。
――その後、ゲストノートに絵を描いてみたは良いのだが……技量の拙さに恥ずかしくなって破こうとしてノートを落としてしまったり、散々だった。
先日の蒼い壁も面白かったですが、今回は画展ですか。
グランツァーはゆっくりと、4つの章を見て回る。恐怖から始まり、身を焦がすような憤怒を抜ければ、柔らかな追憶があって、未来への幸福で終わる。画家も並び方を考えたのだろう。うんうんと頷く。
そしてふと、一枚の絵の前で足を止めた。
"おお我が故郷の土の香りよ"。
――自分も今や、ふらり旅する根無し草。けれど、勿論故郷がある。大地を信仰し、愛し、だからこそ旅をしているが……ふるさとを恋しく思わないといえば嘘になるだろう。
人はまず、香りで記憶を想起するという。雨を含んだ土の香り、晴れ間に耕した土の香り。様変わりしようと、未来へ移ろうと、変わらないものが其処にはある。
いつだって大地は優しく迎えてくれるのだ。ええ、そうですとも。
「ついに開催ですのね、びっくり人間展覧会……」
エリザベスは呟きながら、持ってきたブツを確認する。ちなみにびっくり人間はいません。魔術師のような画家ならいますけど。
「あの……それは……?」
恐怖の章にて、ニナが心配そうに見守る中、彼女は机の上にそっとブツを置く。絵のタイトルは"謎のボタンを押しますか"。そう、其の絵の前に、実際にボタンを置いたのだ。果たして何人が押すのだろうか。誰も押さないのだろうか……困惑するニナにウインクを一つ、エリザベスは更に幸福の章へと向かう。
その絵をじっくりと目で堪能しながら、模倣してセットを作り、己もその中に混じる。絵の中の人物になりきって、目を閉じてみる。さて、彼女の眸に幸福は見えたのだろうか。
「ちょっと待ってください、こんな仕掛けがあるなんて聞いていません」
エルは思わず呟いた。"謎のボタンを押しますか"……そう題された絵画の前に、本当にボタンが鎮座している。これを押したらどうなるの? 爆発とかするの? 何が起きるの?
「で、でも押したい……誰ですか、こんな恐怖を感じたのは! えいっ!」
ぽちっ。
勇気を振り絞ってエルはボタンを押すけれど、何も起こらない。後ろで画家らしき女性が笑いを堪えているのが判って、エルは思わず顔を覆った。判ってた……何も起こらないって、判ってたのに……
其の後も"食べられたケーキ"の絵の前で判ります、と頷いたり、私ならギフトで好物を変えてしまいますね……干からびたパンとかに。と物騒な事を考えたり、思考を巡らせながら画廊を回った。
たまには血生臭くない、のんびりとした依頼も悪くない。マカライトは4つの章を流すように見て回る。前半は物騒だが、後半で心を持ち上げるのは、画家たちの拘りを感じる。
「……食べられたケーキ、か……」
身近ないかりだ、そう思う。自分も傭兵仲間に楽しみにしていた食べ物を奪われたときは、……。いや、よそう。苦い思い出には浸りたくない。
更に足を進め、止める。タイトルは"おお我が故郷の土の香りよ"。成る程、これが誰の故郷かは知らないが、自分の故郷は忙しなく、毎年何処かの都市が崩れていた気がする。懐かしい、と目を細める。
「アイツら、元気かね」
画展の終わり、ノートが一冊ぽつんと置いてある。マカライトは空いたページに、文字をさらりと記した。
コツリ。
クリスティアンのよい仕立ての靴が、静かな在廊に波紋のように音を残す。自分が題材になった絵はおおむね判っている。だから、まずは他の皆の絵を見よう。
「……これは……一体どういうイメージを見ていたのか、気になるね」
画家の彼らの事だから、見たままを描いている訳がない。それでも確かに、胸に伝わってくる、絵画それぞれの想い。どう思い、どう恐れ、どう怒り、どう想い、どう笑ったのか……叩き付けられる印象の渦に、胸が詰まるような心地がして、クリスティアンは意識して息を吐かずにはいられない。
そして辿り着く、一枚の絵画。のどかな風景が描かれた絵だ。まるで本当に、己の故郷を見ているかのようで……剥き出しの土道から香りがするかのようで。――この感情を何時までも忘れないでいたい。クリスティアンは胸に手を当て、息を吸って、吐いた。
美弥妃は余り意識して美術という分野に足を踏み入れた事はない。
なので、画展などというものに訪れるのは初めてだったかもしれない。チケットを渡し、半券をちぎって貰って、一歩踏み出す時はとても緊張した。
絵がずらりと並ぶ、最初。恐怖の章。"不運は不幸ではない"――およそ章に似合わぬポジティブなタイトルに、これが己の絵であろうと美弥妃は直感で気付いた。
絵はどこかおどろおどろしい。あの日の恐怖を思い出し、少しだけ身震いをする。不運さえ起こらないというのが、どれだけ恐ろしいものなのか。其れを美弥妃は身をもって知った。
泣くもんか、泣くもんか。泣いたら負けなのデス。あの時に比べれば、絵画なんて、ぜんぜん怖くないデス! ……ほんとデス。
ニナは恐怖だったっけか。
ペッカートは地図兼チケットを持ち、最初の章で顔を上げる。在廊しているニナが、そわそわと座っていた。
「よう」
「ひえ! ……あ、貴方は」
「久しぶり。家賃は払ったか?」
「あ、お、お陰様で……」
何故か緊張している彼女の肩を、宥めるように叩いてやる。スランプを脱したみたいで良かったな。前に家で見た絵より、こっちの絵の方が断然怖いぜ。ンー、いや、怖いというか……胸がざわつく感じだな。他の画家の絵も見て回るけど、キミって結構すごい画家だったんだな。
「……ああ、それと」
また今度、あの魔法をもう一度かけてくれよ。今度こそ克服して、捻じ伏せてやりたいんだ。
報酬は払うぜ、と笑ったペッカートに、ニナは碧い目を瞬かせて。良いですよ、と笑った。
報酬は要りません、その強さを絵にしてみたいから。
「これが全部、ローレットの人物をもとにした作品ですか……」
事実は小説より奇なりとはよくいうものだ、とクローネは溜息をつく。一切被りがなく、それぞれの思いが詰まった絵画たち。奇々怪々が連なるローレットの手にかかれば、ネタ切れなんてないようなものだろう、と頷いた。
そして辿り着く、追憶の章。"生を望む少女"――暗闇の中、光を守るように抱える幼い娘が描かれたその絵に、クローネは己の半生を見た。
泣きわめいて、苦しんで、人ですらなくなっても、……それでも、死にたくはない。
これからもきっと苦しい事があるだろう。けれど、この命だけは。この光だけは失わぬように、生きていきたいと思うのだ。
ルフナは一人、ゆっくりと画廊を回る。恐怖の章、憤怒の章、追憶の章、幸福の章。そう銘打ってはあるけれど、絵を見ればなんとなく、どんな感情なのか伺えてしまうのが絵の凄いところだと思う。でも、もし恐怖の章に飾られていても「これは憤怒の絵です」と言われたら、そう見えてしまうかも知れない。絵とは全く、不思議なものだ。
幻想種の耳は、小さな音もよく拾う。静かな画廊、ルフナは片耳を塞いだ。この絵は良い絵だ。間違いなく断言できる。だって静かなのに、こんなにうるさいんだもの。
Stars――虚と稔は、震える膝に鞭打って、流れる汗を知らぬふりして、憤怒の章に向かう。俺の美しい顔に汗水を付けるな、と稔がやかましい。無茶いうな、これから何を見に行くか知ってるのか!?
――絵は、しかし泰然と其処にあった。画家の印象というフィルターを通し、名もなき誰かに代弁させた絵。けれど判る。これは自分とあいつだ。良く描けている。見ろ、向かい合う相手の貼り付けたような笑みは彼女にそっくりじゃないか?
「あの女がこの絵を見たらどう思うのだろうか」
呟くと、心中でぎゃんぎゃん虚が吠えた。あいつが見られるわけないだろ、こっちに来てないんだから!
――果たして、本当にそうだろうか。君たちと一緒で、トンデモナイ事が起きている可能性は、ないとは言い切れないよ?
「僕に同行を頼むなんて、君も奇特だね」
「そうですか? せっかく仕事をご紹介していただいたので、と思って」
シャラとグレモリーは共に画展を回る。恐怖のほかにもいろいろな感情を描かれる画家さんがいらっしゃったのですね、と呟くシャラ。一つのテーマに絞って描く画家は珍しくないんだ、と付け加えるグレモリー。
「あ、ニナ様!」
「あら、あなたは……」
「えへへー。またお会いできてうれしいです!」
恐怖の章にて、ニナと再会を果たしたシャラ。また会えて嬉しいなんて初めて言われたわ、とはにかむニナに、人懐っこく絵画の感想を述べる。
どの題材の絵も、心に残るものがある。上手く言えないけれど、凄い絵ばかりで、圧倒されちゃいます。そう言うと、嬉しそうにニナは笑った。
最後にゲストノートに向かい合い、真剣に両親の絵を描いたシャラ。画家の皆さんみたいに巧くは描けないけれど、心は込めました! 私の大切な、パパとママ。私は此処にいますって、伝えたいんです!
ミディーセラとアーリアの二人は、手を繋いで4つの章を見て回る。ミディーセラが知らないアーリアの恐怖が、憤怒が、過去が、画家の眸と心というフィルター越しに感じられて……自然と細い手を握る手に、力がこもる。アーリアは其のつないだ手が気になって仕方がない。繋げる仲にはなった、けれど。嬉しくて、少し気恥ずかしい。
ぽつりぽつり、アーリアは語る。あの時はこうで、この時はこうで。それを頷いて聞くミディーセラは、何処か嬉し気だ。
幸せを繋ぎながら訪れた、幸福の章。これはあの時のものですね、とミディーセラが言う。これが始まり。これが道中。そしてもっと、これからもっと幸せに、二人で歩いていくのだろう。
幸せで仕方がない。この胸を割って開いたら、きっと今、キラキラしたもので詰まっているのだろう。
「ねぇ、みでぃーくん」
「……なんですか、アーリアさん」
ほんの少しの沈黙。互いに握った手を、確かめるように握り直して。
「大好きよ」
「――ええ。わたしも、いつまでも愛していますよ」
蛍と珠緒は、静かな画廊を2人で歩く。ぽつりぽつり、人はいるけれど――今は隣の人と同じ空間にいられることが、嬉しい。
「……珠緒さん?」
数歩前に行ってしまって、蛍が振り返る。其処は追憶の章。珠緒はじっ、と一枚の絵を見上げていた。蛍が戻ってタイトルを見る。"生を望む少女"。
「蛍さん」
「すごい作品ね……逆境に負けない、強い瞳……何? 珠緒さん」
「この絵。……桜咲には、自分自身に見えるのです」
衣装や容姿が似ているからだとか、そういう訳ではないけれど。血と傷を纏い、今にも倒れそうになりながらも決して屈しない少女の姿に、何故か己を重ねてしまう珠緒。
「……描かれてるのが、逃げる弱さじゃなく……恐れないで明日の生を掴もうとする強さだからかも、ね」
「ええ。主題であろう望みは、きっと『生きたい』なのだと思います」
今にも終わろうとしていた珠緒の命を、混沌は繋ぎ止めてくれた。行ける場所が増え、友達も出来た。……まだ生きていたい。そう、珠緒は切に思う。
巧く言えないながらにそのままを呟くと、そうね、と蛍も頷いた。ますます膨らませましょう、明日を望む心を。どうせなら欲張って、二人分の明日を望んでみましょうか。
●ゲストノートに書かれた文章たち
――面白かった! いろんなヒトの内面があって、知ってるものも知らないものもあった!
――アグリーへ あんときゃ殴って悪かったな
――故郷を思い出せた。ありがとう。
――全体的に非常に良かった。これからの作品も楽しみにしています。
――思い出した風景は悲しいものであったけれど、見る事が出来ないとも思っていたもの。幻影で、そして素晴らしい絵で見ることが出来て嬉しく思います。本当にありがとうございました。
――(拙い筆跡で、ノート半分を丸々使って一組の男女が描かれている。穏やかな表情だ)
――ずっと気になってた絵を見に来たよ。とても悲しくて、でも、綺麗な絵だった。矛盾してるかな。
――(半分破られたページがある。くしゃくしゃの紙に描かれた、人型の何か。其れが誰かまでは名探偵でも当てる事はできないだろう)
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
奇怪画家シリーズ、これにて堂々完結です。
敢えてOPで絵の仔細は描かなかったのですが(タイトルで想像してもらいたかったので)プレイングでイメージを打ち出して下さっている方はおおむねそのようにさせて頂いております。
え? 同じ絵なのに描写が違う? それはきっと、受け取り方が異なっているのです。
色々と難しいプレイングだったかと思いますが、ご参加本当にありがとうございました!
ゲストノートは誰がどれをかいたのか、想像してみてね!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
今回は画廊に皆さんをご招待。
奇怪画家シリーズ、正真正銘のラストになります。
(勿論シリーズを知らない方も参加して大丈夫です)
●今回の依頼
「アンダー・ザ・ローズ」という依頼に出て来た画家たちが集まり、グループ展を開きました。
題材は皆さんの友人・皆さんご自身です。
どのような絵かは具体的には描きません。タイトルで想像してみて下さい。
●目的
色々な絵を見て回ろう
●立地
中心地にある画廊です。結構いい立地にあります。
飲食物は持ち込み禁止です。
●出来ること
1.絵を見て回ったり
2.ゲストノートに落書きしてみたり
展示を道なりに進むと、出口にゲストノートが置いてあります。
感想などを描いてみると良いかもしれません。
●NPC
グレモリーが絵を見て回っています。
また、それぞれのコーナーに奇怪画家達が在廊しています。
話しかけはご自由にどうぞ。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)を添えて下さい。
やりたいことを一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守って楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
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