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シナリオ詳細

失われた村(前編)

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●失われた村
 幻想の山岳地帯に位置するドレーデン村は、しがない農村のひとつであった。けれども村には山脈から流れ出る豊かな湧き水があり、領主は豊かな城下町を持っていたため税も安く、そして気候ものどかで過ごしやすい。村人たちは無辜なる混沌はおろか幻想国内の事すらよく知らなかったものの、彼らは自分たちの村がこの混沌で最も恵まれており、自分たちは世界一幸せであるのだと信じて疑わなかった。
 が……そんな村が突如として荒廃したのだと、半年に一度ほどドレーデンに足を運んでいた行商人がローレットに通報をしてきたのだった。家々や畑は多くが燃えて、半数以上の人々が姿を消した。残る者も大怪我を負ったり、後遺症に苦しめられたりしている者も少なくはない。
 行商人が驚いて訳を尋ねてみたが……芳しい答えは返ってこなかった。彼ら曰く、「1週間ほど前の朝、起きてみたらこうだった」……だがそんなはずはない。何故なら行商人にそう答えた男の腕には、明らかに誰かに正面から立ち向かった時にのみ生まれる刀傷が出来ていたのだから。その当事者たる男がそんな戦いを覚えていないなど、はたしてありうるのだろうか?
 恐ろしくなった行商人は、とにかくこの村に必要そうなものを片っ端からその場に置いた後、代金代わりに仕入れるはずの荷物も貰い受けずに、逃げるように村を去ったのだという……。

●ローレットにて
「失われた村に、失われた記憶。少なくともマトモな人間の仕業には思えないね」
 特異運命座標らに事の次第を語った『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、そんな情報屋としての直感を付け加えた。
 行商人が最後に訪れてから半年の間に何があったのか、少なくともショウがざっと調べた限りでは判らなかった……というのも、ドレーデン村の人々は幸福ではあったものの豊かとは言えず、僻地にあることも相まって訪れる者はほとんどいなかったからだ。村人たちの記憶にある、この半年に訪れた客人といえば、当の行商人ただ1人だけ。
 もちろん、とショウは言葉を続ける。
「それは村人たちの記憶の方が間違ってるだけかもしれない……村人たちには起こったに違いない大きな戦いの記憶がないんだからね」
 だがたとえ村人たちの記憶がなくとも、村のどこかには真実を指し示す証拠が眠っているはずだ。今回の依頼の目的は……その『真実』に辿り着くこと。もしも討伐せねばならぬ真犯人がいるのであれば倒さなければならないが、その時は改めて別口として依頼することになるだろう……依頼料については心配要らない、報酬は町にいる豊かな領主が支払ってくれる。

 しかし何もかもが判らない中で、本当に真実が見つかるのだろうか?
 正直な話……それはショウにも判らない。だが、それでも特異運命座標らが動くのならば……それだけで世界は良い方向に転がってゆくのだ。

GMコメント

 どうも皆様、るうでございます。
 あらかじめ申し上げておくのですが、本シナリオは推理シナリオではございません(だってプレイヤーの皆様には犯人見えちゃってますもんね)。どのような調査で真実に辿り着くのかが重要になります。もっとももちろん、皆様が『推理』という形で調査を行ないたいのであれば存分に推理してくださって構わないのですが。
 本シナリオの舞台は基本的にドレーデン村とその周辺ですが、村に繋がる唯一の街道をずっと行った先にある町(領主の城があります)での調査や、行商人自身への事情聴取などを行なってもかまいません。

●ドレーデン村
 山奥の高地にある村で、麦栽培と山羊の酪農が主要な産業です。ほぼ自給自足ですが、金属製品等は行商人から購入していました。
 家々は石造りの土台こそ崩れてはいませんが、多くはその上の木製部分が焼けて崩れてしまっています。生存者は互いに支え合うのが精一杯で、復興の手も足りないため、それらは放置されています。
 人々は今回の事件に多大なショックを受けており、可能な限り特異運命座標の皆様に協力してくれます……彼らがどこまで当てになるかは別として。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えてください。

●その他
 本シナリオに成功した場合、後編のシナリオが登場いたします。『失われた村(後編)』は今回の事件を引き起こした犯人と対決するシナリオで、定員10名のEXシナリオ(HARD)となる予定です。
 本シナリオにてMVP、もしくはそれに準ずるご活躍をなさった方には、後編の優先参加権をさし上げるつもりでおります。

  • 失われた村(前編)完了
  • GM名るう
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月13日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
銀城 黒羽(p3p000505)
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
矜持の星
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
シラス(p3p004421)
竜剣
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)
水葬の誘い手
アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)
<不正義>を知る者

リプレイ

●黄昏の村
 特異運命座標らがドレーデン村に辿り着いたのは、ちょうど傾きかけた太陽が、西南の山の向こう側へと隠れた頃だった。麓の町と比べれば一足早い山村の日没は、村内に生々しに残る数々の惨劇の爪痕を、夜の帳の中へと慎重に隠してしまう……まるで村に刻まれた悲劇の証拠から、目を背けているかのごとく。
 けれどもその光景を忘却の帳の向こうに押し遣ってしまうなど、『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)にはどうしてもできなかった。
(辛ぇよな、記憶がねぇってのは)
 この『無辜なる混沌』に召喚される前の自分の姿を、黒羽は想像してみようと試みる。けれども――駄目だ。やはりどうしてもぽっかりと抜け落ちたまま、彼の前に現れることはない……まるであの瞬間、初めて『銀城 黒羽』という人物は生まれたのではと、黒羽自身も錯覚してしまうほどに。
 思索を止め、彼は改めて同行する仲間たちの顔を見回してみた。
 遣る瀬無さを噛み締めている者、村の人々を少しでも救おうと心に誓う者……誰もが多かれ少なかれ、事件への不快感を示しているようだった。今日この場には8人――そして今も町で情報収集を行なってくれている者が2人。合わせて10人の特異運命座標らは、必ずやこのドレーデン村の怪事件を解決せんとやって来たのだ。

 そんな彼らの目に入ったものは、それでも少しずつでも元の生活に戻ろうと努力する、村人たちの姿だった。
 明かりの点る家は佇む家の数より遥か少なく、けれども明かりのある家々のうちの多くからは、夕餉の煙が立ち昇っている。
 その時ひとつの家の戸を開けて、ひとりの疲れ果てた女が外へと出てきた。けれども辺りに気を配る心の余裕などはないのであろう、石造りの外壁は崩され内側も炎に焼かれた隣家を視界に入れぬよう目を伏せて、来訪者の存在にも気づかぬままに小川まで水を汲みにゆく。彼女は片足を半ば引きずっており……事件の際、大きな怪我をしたのだろうことが見て取れた。
 そんな彼女は水を汲んだ桶を担ぎ上げようとして……思わずその場でよろけそうになった。けれども、実際には転ぶことはない。何故なら川縁に投げ出されそうになった彼女の体は、何か固いもの――そこはかとなく不気味な四足歩行ロボ、メカ子ロリババアの体に支えられたからだ。
「ひゃっ!?」
 女性はその鋼鉄の化け物に驚いて、思わず突き飛ばそうとしてしまった。今の彼女がそんなことをしたならば、逆に自分が反動で倒れるだけだ……だがそうなるはずだった彼女は今度は、それらの出来事の間に荷物を満載した別の型のメカ子ロリババアから降り立った、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)の腕の中に収まる。
「わたくしのメカ子ロリババアが驚かせてしまって、申し訳ありませんわー。わたくしたちはローレットから来た、この度の事件の調査隊ですわー」
 女性は全身から力が抜けたかのように体重をユゥリアリアに預け、押し殺したような嗚咽を洩らしはじめた。何も判らぬまま荒れ果てた故郷に放り出されて、隣人も――おそらく家族も――どこにもいない。残る記憶もあるからこそより辛いのだろうと黒羽は思うが……では彼らは、真犯人がいるなら突き止めてやる、信じてくれと頼む以外に、はたして彼女らに何をしてやれるだろうか? 何をどうしたところで安心させることなどできぬのは、他ならぬ黒羽自身がよく知っているのに!
 だが安心させることはできずとも、少しでも彼らを癒すことくらいならできた。
「とにかく、怪我人を治療するのが最優先だ」
 どことなく歪なナナカマドのワンドの上から、軽く治癒の術式を上書きしてやると、『鳶指』シラス(p3p004421)はそれを女性に翳してみせる。
「アンタも足、怪我してるんだろ?」
 聖なる術式が投げかけられたなら、幸いにも女性はそれだけで、痛みを堪えずとも足を動かせるようになった。女性は一瞬顔を明るくし、シラスに感謝の言葉を述べ――ようとして、けれども再び沈痛な表情へと逆戻りする。
「自分だけが助かってしまっていいのか……って思ってるんだろ。大丈夫だ、仲間たちのことは俺たちがきっと取り戻してやるよ」
 我ながら嘘を信じさせるのが上手くなったものだ、とシラスは自嘲した。そんなことができる保障など、実際にはどこにもないというのに!
 なのに女性はそんな気休めを、まるで聖人の言葉のように有り難がるのだ。仕方ないだろう、今までこの村の人々は、自らの怪我を治す余裕すらなかったのだろう……そういった人々を慰問して、住居を修繕したり仮のテントを用意したりもしつつ、一人ひとりに声をかけながら肉体のみならず心も癒してゆくのが、シラスやユゥリアリアをはじめとした医療班の役割だ。

 だが……医療班のもうひとつの大きな目的を、この際忘れてはならないだろう。『法医学』という概念がある通り、傷跡はその罪の証拠を残す。それらを治療の前に残らず記録したならば、その中から襲撃者の正体が浮かび上がってくるのではないかというのが、『沈黙の御櫛』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の考えだった。そしてその証拠は多ければ多いほど、物事は正確に浮かび上がってくるものだ。
 山際に残っていたオレンジ色がすっかり濃紺の空へと変わってしばらくすれば、医療班の一通りの仕事は終わることとなった。
(切り傷。火傷。打撲……)
 ユゥリアリアとともに記録した、ひとつひとつの情報を精査して、彼らに何が起こったのかをイメージしてみるエクスマリア。気になるのはそれらの傷跡が、まちまちな原因によって作られているということだった。同じ切り傷でも斧のようなものによる傷と、ナイフのようなものによる傷が含まれている――そして動物の鉤爪や牙のようなものはない――犯人が複数の人間による集団であることは容易く見て取れる。
「どうしたもの、だろうな」
 宿兼診療所として借りた崩れかけの家の窓から夜空を見上げて、彼女はふと思案する。するとそんな彼女の後ろにやって来て、そっと囁いた者がいた。
「どうしても、違和感しか覚えませんね」
 振り向けば、そこにいたのは『白綾の音色』Lumilia=Sherwood(p3p000381)だった。もしもエクスマリアの言うとおり、これが素人の人間による犯行だとすれば……説明がつかないのが記憶喪失のほうだ。
(集落1つが半壊する争いがあったというのに、そのことを誰も覚えてはいない……そんなことがあるのだとしたら、おそらくは、魔法か、魔物による能力の結果なのでしょう)
 けれども住民たちに残るのは、魔法の傷跡でも魔物の傷跡でもない。さらに言えば、これらが何らかの『賊』の仕業だとすれば、これほどまで村を壊滅状態に陥れた彼らがわざわざ記憶を奪うなどという面倒なことをした理由も、ルミリアにはさっぱり思いつかなかった……何故なら彼らが犯行を知られたくないのなら、最低限の相手だけを襲い、その相手のみから記憶を奪えばいいからだ。あるいは何らかの理由で賊たちが村を破壊しなければならなかったのだとしたら、素直にそのまま全員殺してしまうほういい。
「それに、あの傷は……戦い慣れてない、素人の傷」
 再び、エクスマリア。本当に賊の仕業なら、傷跡はもっと致命的な部位を狙って作られているに違いなかった。もちろん、偶然にもそうでなかった者たちばかりが生き残っただけではあるかもしれないが……『避けるなどの偶然の結果としてその位置で済んだ』のではなく『どこを狙えば人が死ぬのかも判らず、闇雲に狙った結果としてその位置になった』という印象の傷が、やけに多かったように彼女には見える。
 いずれにせよ、これ以上真実に近付くためには、より深く調査をしてやらねばならなかった。
「村に残る戦いの痕跡と、消えてしまった住民を探せれば、もう少し詳しいことが判るかもしれません」
 脳裏にひとつの仮説をよぎらせながらも、村人たちに余計な不安や疑念を与えぬよう心の中に留めつつ呟くと、ルミリアは自身の寝床へと戻る。
 時刻としては決して遅くはないのだろうが、これ以上のことを考えるには、今日は特異運命座標らにとっても疲労する一日になりすぎた。
 地上で起こる悲劇など与り知らぬかのように降り注ぐ星。彼らの光に導かれ、エクスマリアもいつしか微睡みの中に落ちていった――。

●明くる朝
 翌朝、彼女が起きた時にはすでに、同行していたはずの『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)の姿は彼の寝床から消えていた。道中、調査など俺の得意とするところではない、と語っていたこの仏頂面の男はすでに、早くも外で作業する村人たちのところで聞き込みを行なっている。
「記憶が無くなる前と後で、村周辺で変わったところを知らないか?」
「正直、村の中が変わりすぎちまってね……村の外のことなんて、ただの記憶違いなのか、本当に変わっちまったのかすら判らないんだ」
 つまり……大きな違いはない、ということでいいのだろうか? 腕を組んで再び一晃が訊いたなら、確かにその通りだが……と言葉を濁すのだった。
「大体は俺の記憶どおりなんだが……なんだか微妙に草木が切られてたり、逆に育ってたり、石を覆う苔の形が違ったりしてるんだよな……。なぁ、ここは本当に俺が生まれ育った場所なのか? この村は――もしかしたらお前たちも皆――俺たちを騙すために作られた『よく出来た偽物』だったりしないだろうな……?」
 はて、何者の仕業だろうか?
「山の中に人が普段踏み入れなさそうな……例えば洞窟のような身を隠せる場所はないか?」
 一晃がもう一度訊いてみたならば、ここから見える谷の奥に、湧き水が流れ出る洞窟があるのだと彼は答えた。
 なるほど、調べてみる価値はありそうだ。この不気味な事件の裏には、何らかの意思が介在して見える――その主がそういった場所に隠れているのだとしたら、それを遠慮なく斬れるのだ。
(蛇が出るか鬼が出るか……期待させてもらおう)

 そうして一晃は早くも村を発ったが、残る特異運命座標らは、ひき続き調査と村人たちの心のケアを続けるのだった。特に……子供に関しては喫緊の課題だ。村にはそれなりの数の子供たちがいたが、おそらくは行方不明になった大人たちに庇われたのだろう、多くが親を亡くして生き残った大人たちの家に身を寄せている。
 そんな子供たちを一同に集めた中心で、ユゥリアリアは歌声を響かせていた。『海洋』仕込みの海種の歌声は、子供たちにしばし辛い現実を忘れさせ、遠い国での御伽噺や冒険譚に思いを馳せさせる。昨日の夜に村の中を歩けば時折聞こえてきたすすり泣きの声も、ここでは決して聞こえることはない。
「……あの子たちのご両親は、どんな方だったんですか?」
 歌姫の歌声が響く中訊いたシラスに対し、崩れた家々の瓦礫を取り除いていた男は答えを返してくれた。
「あっちの縮れ髪のトーマス坊主は猟師の子、見事なブロンド髪のマリアの母親アンナは……若い頃には俺もぞっこんだったんだ……」
 ヤーコプと名乗ったの記憶は確かなもので、行方不明となった村人たちに関して、事細かに語ってくれる。
「実のところ、俺は夕方、アンナが薪を取りに外に出てくるところを遠巻きに眺めるのが好きでなぁ……あの日の前の夜にもそうしてたんだ。まさかそれが見納めになっちまうとは思わなかったが――その時はアンナには何もおかしなところはなかったって、この俺に保証させてくれ」
 余談だがこの男の証言が正しいことは、他の村人たちに聞けば村じゅうが彼の奇行を知っていたため証明されることとなる。
「――だが」
 そこでヤーコプは声を落としてみせた。
「おかしいのはあの子供たちなんだ。あいつらは誰も彼も、もうちょっとばかり幼かったはずなんだがな」
 時の流れが異なる異界に囚われるという御伽噺は、この村にも親から子へと語り継がれているらしかった。もしも子供たちが恐ろしい妖精たちに捕らえられ、一晩のうちに邪悪な何かを植えつけられて村を襲ったのだとしたら――そんな不安を告げる彼にシラスが掛けられる言葉は、その時は俺たちが皆を守るから安心してほしい、という気休めだけだ。
 けれども……疑いの目で見られた子供たちもまた、世界に疑いの目を向けていたのだった。
「あのね、なんだかね……みんな、ちっちゃくなってるの」
 歌の後はユゥリアリアに遊んでもらっていた、5つほどと思しき、けれども見た目よりも心は幼そうに見えたマリアは、不安そうにそんな言葉を告げる。
「それは、不思議なことですねー……。マリアさまは今、おいくつなのでしょうかー?」
「……4さい」
 5歳ほどに見える自称4歳の少女。遊んでやる中で彼女の精神年齢も確かに4歳くらいのような気がユゥリアリアにはしたし、彼女は急に小さくなった世界に驚いている。
 もし……彼女がこの1年の記憶を失ったのだとしたら、全ての辻褄が合いそうに思えた。そして同じ「1年」という数値を、黒羽もまた復興作業を手伝いながら話を聞く中で、他の村人たちの中から見出していた。
「村人たちの言う『去年の秋祭り』に関する証言は同じ……そして記憶にある『惨劇の直前』の時期もほぼ一致……ねぇ。これだけじゃ1年なのか2年なのかは判らねぇが、そういや、焼け残った山羊がやけに育っていた、なんて話も聞いたな……山羊に親しいはずの村人も1歳くらい違うと言っていたから、それを信じれば実際ちょうど1年、ってとこだな」
 おそらくは一晃が聞いた山の変化とやらも、1年の歳月が生んだものに違いなかった。決して短くはない年月ではあるが、これらがどうにか『違和感』で済んでいるのは、この村が変化に乏しい田舎の村だからであろうか?
 しかし、と黒羽は渋い顔を作ってみせた。
(失った年数が判ったところで、犯人が判ったわけじゃねぇ。村人は本当にすっかり全員が記憶を失くして犯人を見てねぇし……別の方向じゃねぇと犯人の尻尾は掴めねぇな)

 だからこそ特異運命座標らは、人だけを相手していては限界のある調査を別の方向から補おうとしていた。復興を進める村人たちの間には、やけに家々の間をうろつき回る『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)の姿や、畑や山羊舎のみならず、周りの植物たちに至るまでに声を掛けて回る『黒鴉の花姫』アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)の姿が見て取れる。彼らによる調査の対象は、人々だけに留まりはしない。幻は奇術師、命なき物体たちを生あるように操る者。アイリスは墓守、人ならざる魂の声を聞く者――もっとも彼女はその不気味な仕事柄、あくまでも他の特異運命座標とは別口の、旅の人形遣いと名乗ってはいたのだが。

「教えてはいただけますか……あなたを襲撃者――つまり今の形にした者は、どんな姿をしてましたか?」
 幻が焼け落ちた家の土台石に問いかけたのならば、石たちは刻み込まれたイメージを幻へと返してきたのだった。
 映るのは幾つもの人のシルエット。その人たちがどんな姿をしているのかは、おそらく石たちにも漠然と記憶が刻まれているだけなのだろう、ただ『親しみ』の概念だけが幻に届く。
「彼らは、どのように襲ってきましたか?」
 すると今度は『憎しみ』の感情。石たちが怒っているわけじゃない。おそらくは襲撃者たちの感情を、そのまま投影しているだけなのだ。
 親しみと、憎しみ。その全く正反対の印象が混ざり合い、幻自身も判らなくなる前に、彼女はその鮮烈な感情を、急いで羊皮紙に書き綴る。それと……『まさかり』?
「つまり、親しみのある襲撃者がまさかりを持って、憎しみ任せに襲ってきた……と。では……その襲撃者は……どちらの方向へ去っていきましたか?」
 直後……幻は、石たちの答えに戦慄せざるを得なかった。
 何故ならその答えは恐るべきことに、『村の中』だったのだから。
 けれども別の無機物たちは、全く別の答えを返してきたのが不思議なことだ。村人たちが目覚めた時に来ていた服は、襲撃者を『村外の怪物』と語る。自分の能力がおかしくなったのかと疑って、エクスマリアにも頼んではみるが……答えはやはり変わらない。
 実のところ、その頃アイリスも、同じように錯綜した情報を手に入れていた。人間に焼かれて辛うじて生き残った植物たちは、その恐怖をアイリスへと伝えようとする。アイリスの肩に留まったカラスらは、一部始終を見ていたらしく大笑いしながら、カァカァ、突然争いはじめるなんて、ニンゲンはなんて愚かしいんだと、告げ口じみた噂話に花を咲かせる。一方で村の外の植物たちは、化け物が来たと囁いていたりする。カラスたちの話もよく聞けば、ニンゲンのナワバリの外からバケモノが来た、とも。
(よく、わからない、な)
 もっと人間たちの区別がついて、かつ記憶を奪われなかった者から話を聞く必要がありそうだった。そしてお誂え向きにアイリスの『アベリア』は、『それ』がすぐそこにいると教えてくれる。……霊だ。
「あいつらめ……俺たちを殺しておきながら、自分は忘れてのうのうと被害者面してやがる!」
 アイリスがその霊魂に声を掛けたなら、彼はそんな怒りを喚き散らした。被害者面……誰が? たとえばヤーコプ。あるいは他の村人。けれどもその死者も罪なき身ではない……何故なら彼は、こうなるのなら奴ら全員殺しきっておくべきだった、とも喚くのだから。

 村人たちが相争って、そして互いに殺し合った……ルミリアが昨夜思い描いて、けれども口に出すことを憚った想像が、より悍ましい形で的中してしまった瞬間だった。そんな恐ろしいことがあるはずがない、あくまでも気の狂った死者の妄言に過ぎないのだと願って、足で歩き、空を飛び、村のあちこちを探し回ってみても……ルミリアにはその願望を肯定する証拠など見つかりはしない。あったのはむしろ、想像のほうを裏付ける証拠ばかりだ……村人たちの傷を見ながら思い至ったことを、シラスは改めて反復してみた。
(そう……あの傷は魔物によるものでも、盗賊団によるものでもない。一介の村人がつけたような傷だ)
 けれども事件そのものの裏には、別のものが潜んでいてもおかしくはない。もしもただの村人同士の争いであったなら、記憶を失っている理由にはならないし……何よりエクスマリアの鋭敏な嗅覚が、とうの昔に放置されているであろう死体の臭いを嗅ぎ取っていたはずだ。今、彼女が感じているのは、争いの場には当然の、とっくに乾いた血の匂いだけだ……死体は、忽然と消えてしまった。だからシラスは思うのだ。
(ひょっとすると死体を喰った魔物に頭を変にされて、村人同士争わされたのかもしれない……俺たち自身が襲われたり、仲違いさせられたりしないよう警戒しないとな)
 では、その『魔物』とは何なのか……?
 町でその正体に迫らんと調査を行なっていた『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)と『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)が街道とも呼び難い道のりを飛ばし、村での合流を果たすのは、その昼過ぎのことだった。

●城下の不安
 そんな彼らが城下町で最初に向かっていた先は、商人たちのところだった。けれども商人ギルドに向かう道すがらにはすでに――この町で別れた他の8人も感じ取っていたことだろうが、ドレーデン村での事件が影を落としているらしい。町の往来を通り過ぎる人々は、誰もがよそよそしさを纏っている。
「仕方ないナ。近所デ、村がひとつ滅んだんだからネ」
 イーフォが小声で囁いてみせたのならば、誰もが顔を背けるように、足早に2人を避けるようにした様子に見えた。後に彼らが商人ギルドで知ったことによれば、町には箝口令が敷かれているらしい……事件の拡散が恐慌に繋がることを恐れた領主が、みだりに事件について触れ回ることを禁じたそうだ。
 だが、イーフォの推察した限りにおいては、幸いにもそれは領主が犯人と繋がっていた証拠ではないようだった。
(領主が絡んでいるにしてハ、兵が動いている様子は見当たらなかっタ。道すがらモ、領主への特段の不満が聞けたわけでもなイ。あくまでも直感ではあるガ、箝口令は領主がタダ怯えているだけのようだネ)
 その程度の半ば形ばかりの箝口令であったから、イーフォはドレーデン村で引き起こされた凄惨な事件について人々がひそめき合っているさまを、何度か目撃することができた。もっとも彼らは、余所者たるイーフォが近付いた時ばかりは忠実な領民になってみせたし、実際に幾ばくかの謝礼を包んで口を割らせてみても、彼らの噂話が荒唐無稽な尾鰭ばかりの代物であることが判るばかりではあったのだが。

 だから信憑性のある情報を求めようと思ったのなら、やはり然るべき場所に当たるのが都合がよさそうだった。そこでイグナートがローレットからの依頼請負証書を商人ギルドの受付に提示したならば……彼らは、速やかに奥の部屋へと通された。
「アレだけのことが起こったせいで、商人ギルドもオレたちにキタイしてるのかね……」
 イグナートが口に出しかけた時、ちょうど叩かれた部屋の扉。床板を鳴らしながらやって来た、随分と恰幅のいい中年男は、開いた扉にみっちりと収まりそうなほどだった――それだけの肥満体を作れるということは、さぞかし儲けてきた商人なのだろう。
 商人は慇懃に2人に一礼すると、待っていたとでも言うように両手を広げて歓迎の姿勢を表した。
「はるばるメフ・メフィートからようこそ。私がこの商人ギルドの長の、ビュットナーです」
「え、ギルド長?」
 思わぬ大物にお出ましいただいて浮き足立ったイグナートだったが、ビュットナー氏はさも当然であるかのような顔をする。どっかりと腰を下ろして語りはじめたのは、おそらくは彼の率直な見解であろう。
「ラサのアルパレスト家にも顔の利く特異運命座標の方を、無碍に扱うわけにもいかんですからな。それに……この件は一帯の者誰もが気に揉んでいること。特に我々商人にとっては、相場の数日の記憶違いが大損に繋がり兼ねないので気が気ではない!」
 なるほど、イグナートが何かの役に立つかもと一緒に提示しておいた大商人の紹介状が、事件に対する不安のせいで、やけによく効いてしまったらしかった。実際、ビュットナー氏の言葉によれば、商人たち――特に行商人は少しでも村を襲った犯人に出くわさずに済むように、不審な事件の情報をギルドを通じて活発に交換しているそうだ。
 不気味な事件に対する影響を、最も肌で感じているのは商人たちであるのだろう。多くの行商人がこの一帯から足を遠ざけている。すると物が不足するようになり、上がった物価を目当てに新しい商人たちがやって来る。多くの情報が集まってくる。

 そんな商人たちの情報を格安で(商売の種になる以上、紹介状があってもタダとはならなかった)調べる許可を貰ったイグナートは、しばらく有益な情報を探して、ギルドの情報屋たちの元を駆け回ることとなる……そしてその間にイーフォが訪れた先は、事件の第一発見者である行商人の元だった。
「何カ、気付いたコトはなかったカ。普段と違うコトでもいイ」
 大海の双眸が行商人を見つめたならば、行商人はひとつひとつを思い出すようにして、さまざまなことを並べ立てはじめた。
「そういやなんだか、子供たちを避けてる男がいたみたいだ……子供たちが事件のショックか幼児退行していたのを不気味がっていたのかもしれない」
 そういった情報は、ほとんどが後に村を調査した者たちが解き明かすことになるものだ。だが彼はひとつだけ……事件に大きく関わりそうな体験をしていたようだった。
「あとは……違うこと、といえば半年前のことになるなぁ。ドレーデンからの帰り道、たぶん、妙に疲れてたんだろうなぁ。どうやら道中で寝ちまったらしくて、しばらく記憶が飛んでるんだ」

 そして、それからさらに少し前のこととして、イグナートのほうでも興味深い情報を手に入れていた。
「なんでもその商人の言うことにゃ、2人連れの旅人に、『世界一幸せな村の噂を聞いたのだが、行き方を知らないか』と聞かれたらしい。おそらく魔術師か何からしく、片方は常に何かの本を抱えていて、もう片方は仮面にローブの、動きのぎこちない人物だったそうだ……不気味だったが本を抱えてたほうは人が好さそうだったんで、何か訳があるのを無碍にしても悪いと思って、正直に答えちまったそうだが」

 はたしてこれらの情報に、何か重要な意味があるのだろうか?
 少なくとも何でもないことはない。イーフォの直感がそう囁いている。そしてこれらの調査結果が本当にひとつに纏まるのならば……。
「仮面のほうは化け物じみていテ、もう片方は魔術師カ。村を壊滅させテ、記憶を丸ごと奪うナド、この2人が揃えば十分そうだネ……」

●訪れし証拠
 こうして加わった新たな情報を元に、特異運命座標らの捜査はさらに加速していった。

「もしかしてその『村外の化物』は、ローブに仮面の人間を装ってはいませんでしたか?」
 改めて幻が服たちに聞けば、不明が9割、どちらかといえば肯定が1割。
「ローブに仮面の人間と、本を持った人間が、村を訪れませんでしたか?」
 そう家々に聞いた結果も、割合は似たり寄ったりだった。この高度な質問に、僅かばかりであっても肯定の意が返ってきたというのは、その2人組が実際にこの村を訪れたことを意味しているのかもしれない。行方の判らぬ村人たちも含めて、全ての村人たちのために幻は誓う。
(記憶とは生の足跡。それを失うことは過去の己自身と絆を失うということ……そのような事態を、必ず僕たちは阻止してみせます)

 そして、その後しばらくした頃には……まるで運命に導かれたかのように、復興のために取り除いた崩れた石垣の下で、黒羽が驚きの声を上げた。
「おい、この布切れを見ろ。崩れた家の中で拾ったものなんだが……村で使っている布の質感とは違うようには見えないか?」
 それは言われなければ気付かないほどの、ほつれた襤褸布が何かに引っかかって破れたような切れ端だった。エクスマリアが匂いを嗅いで、得体の知れない匂いが付着していることを確認する……もしもこれが犯人らのものであるならば、彼らがこの村にやって来ていた、何よりの証拠であるのではないか?

「来た道におかしなコトは見当たらなかったシ、イグナートも植物たちは犯人が帰ったのを見てないって言ってたカラ、犯人はまだ村の近くにいるネ」
 イーフェがそんな推理を述べれば、イグナートはビュットナー氏のサインの入った、一枚の証書を広げてみせる。
「必要なら、しばらく商人ギルドが村人が身を寄せる先を用意してくれるよ。下働きくらいはするハメになりそうだけど、人からキオクを奪うようなナニかの近くにいるよりは安全だからね」
 だがその言葉を聞いた時……ふとシラスは思い出したのだ。
「そういえば、一晃が敵を探しに行ってたよな……俺たちはなるべく複数人で行動するようにしてたけど、アイツ、単独行動で大丈夫だろうか」

●洞窟に在りしモノ
 ――実に嫌な雰囲気をしていると感じた。
 岩肌にぽっかりと空いた洞窟は、常に足元が湧き水で濡れ、注意しなければ足を滑らせそうになる。天井でキィキィと鳴くのは蝙蝠たち……一晃が掲げたカンテラの光を受けて、金色にぎらついた瞳で一晃を見遣る。
(『何か』がいるとすればこの先だが……本当にこの洞窟にいるのだろうか)

 その時洞窟の奥の方から、何かの声がしたような気がした。
(退くべきか、進むべきか)
 逡巡する一晃。ここに何かがいることは得たが、正体を探らぬまま戻って良いのだろうか?
 良いのだ。今日は戦いに来た訳じゃない。重要なのは情報を、皆の元へと持ち帰ることだ!
 が……彼が踵を返そうとしたその瞬間、何かの気配がすぐそこに現れる!

「――!」
 たちどころに刀を抜いて構えれば……その先には『本』を手にした、顔立ちばかりは善良そうな男が立って微笑んでいた。
「ここを知られてしまった以上は、残念ながら生きて帰すわけにはゆかないのです。私の友人は記憶を食べ過ぎて、しばらく動けませんのでね」
 男の本はひとりでにめくれ、真っ赤に染まったページが露になっている。そしてページがめくれてゆく度に、村人の格好をした死者が現れ一晃を取り囲む……そして一晃を亡き者にせんと、一斉に斧を、包丁を振り上げる! だが――。
「――甘い」
 彼らを僅か一閃で斬り伏せた後、一晃は一路、洞窟の出口に向かって跳躍する!

●依頼完了
 洞窟にいたのが件の『2人組』であることは、もはや疑いようもないことだった。一晃による報告がもたらされた後、村人たちは迷うことなく、一時避難を受け容れることで一致した。
 ユゥリアリアの歌が子供たちを鼓舞し、このような村に暮らしていればおそらく最初で最後になるだろうこの旅が、どれだけ楽しいものになるのかを説く。人々を治療したり子供たちと遊んだりしていたのには、確かに彼らから純粋な情報を得るためもあったかもしれない。けれどもそういった打算を差し引いたとしても、彼女はこの村の人々に、少しでも前向きな気持ちでいてほしいのだ――。

 ルミリアがどれほど警戒して辺りを飛び回ったとしても、幸いにもあの『本』を手にした男も、彼が喚び出した死者たちも、追いかけてくる様子はないようだった。
 だが……本の男の『友人』とやらが目覚めれば、彼らは次の獲物を探して動き出すことだろう。何故なら何気なくアイリスが開いたかの唾棄すべき書、『ヨハナ・タイターの預言書』のページには、彼らのことを示していると思しき、不気味な文言が書かれていたのだから。

『人の真なる悪意なんてのは、全き善意の裏返しじゃあないですか。言い換えれば人の究極の崇高さとは、悪意を突き詰めたところにこそ見つかるとも言えるはずです。
 ですから人の真実を捜し求めようと思うなら、とにかく、悪意の中の悪意を作り出してみることですね。憎悪、激情、嫉妬、悲嘆――人が幸福の絶頂から憎悪の渦へと叩き落とされた時に生まれるそういったものたちの中にこそ、きっと魂食みの求めるものはあるのですよ。
 ……え? 悪意の作り方が解らない? だったら、文学的実験の中に探してみればいいんじゃないですか?』

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 かくしてドレーデン村で起こった惨劇は、皆様の手によって無事に元凶が判明するに至りました。お約束どおり、無事に後編シナリオに続くことができました。
 前編にご参加の皆様が引き続き後編にもご参加になった場合も、特に活性化スキルや装備などの変更に制限は設けません。是非とも全力で元凶たちに当たってください!

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