PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ブラックサンズ・フォーエバー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●太陽の子供だった僕らは
 まぶしいものに憧れた。
 手を伸ばしても届かないものに飛ぼうとした。
 決して善とはいえない力を手にしてなお、それを悪や戦争には使わなかった。
 力の使い道を、彼らはたった一つに決めていた。
 決めていた筈だったのに。

 歓声。
 栄光と挫折と、勝者と敗者。
 富も栄誉も満載にしたそこはゼシュテル鉄帝国最大の闘技場ラド・バウ。
 剣を打ち合う闘技者たちに、興奮する観客たち。
 熱気の渦ただなかで、長髪の男は席を立った。
 人生がつまらない。
 そんな顔をした彼は試合途中だというのに闘技場を出ると、近所の定食屋へと入っていった。
 熱いまま出てくるラーメンに、苦労しながら口をつける。
「なんだ、お前。まだ猫舌が直ってないのか」
 背後からかけられた声に、男は一瞬箸を止めた。
 返答もせずいつまでも麺に息を吹きかける彼の向かいに、白いライダースジャケットを着た初老の男が座る。
 ジャケットに合わせた白いジーンズパンツと指ぬきグローブ。
 彼の個性的な風貌に、しかし奇異の目を向ける者はない。
 ここ周辺では、それなりの有名人であるからだ。
「鉄倉さん……」
 鬱陶しそうに。しかし懐かしさや憧れを含んだ呟き。
 対して、鉄倉という陽光のように白い男は爽やかに笑いかけた。
「お前はいつまでも半人前のつもりか、乾田? ラーメンくらい一分で食えるようになれって言ったろう」
「闘技者(ファイター)はやめたんです。もう関係ないでしょ」
 長髪の男。乾田はどんぶりを持ったまま鉄倉に背を向ける。
 鉄倉はさりげなくラーメン代をテーブルにおいて席を立ち、乾田の横を通り過ぎる。
「まだ許せないのか。ブラックサンズが戦争に関わったことが」
「……関係ないでしょ、それこそ、アンタには」
 食堂を出て行く鉄倉。乾田は麺に息を吹きかけ、箸をとめた。
「あんたはとっくに、ブラックサンズをやめたんだ」

●太陽が沈んだあとも
「彼らはまだ、光を忘れられずにいる」
 時も場所も変わって、鉄帝のあるカフェ『キャピトル』。スキューバショップを兼営するここは海や海岸の写真が沢山飾られていた。
 コーヒーの入ったマグカップをカウンターテーブルにおいて、鉄倉という男は後ろのテーブル席に座るイレギュラーズたちへと向き直る。
「依頼書で内容は知っていると思うが……今回来て貰ったのは、闘技場のフリーマッチでこの人物たちと戦ってもらうためだ」
 胸のポケットから出した八枚の写真。
 もし鉄帝の闘技場に詳しいならば知っているだろう。
 彼らが人気闘技チーム『ブラックサンズ』のメンバーであることを。
 そしてその一人が、既にチームを脱退していることを。

 鉄倉は事情を整理して話し始めた。
「チーム『ブラックサンズ』。元は鉄帝の退役軍人たちで構成された闘技チームだった。チームリーダーは俺だ。
 だが時代の流れもあってその多くが闘技者を引退し、俺もまた引退した。
 そうして新時代の戦士たちに総入れ替えしたのが今の『ブラックサンズ』だ。
 そんな若い彼らは戦争をよく思っていない。必要だということは理解しているが、自分たちの力を戦争に利用することを長く拒んでいたんだ。
 けれど先日……ある取引が行なわれた」
 鉄倉は苦々しい顔で写真を見た。
「先日行なわれた幻想への大規模進行。それに従軍しなければチームとしての権利を剥奪すると脅されたんだ。
 名誉のために言っておくが、将軍ザーバの考えじゃない。彼はそんな手を使う男じゃない。
 むしろ、彼の点数を稼ごうとした下士官の企みだろう。彼も事が発覚し何かしらの処分を受けている頃だ。
 だが俺たちの問題はそこじゃない。
 『ブラックサンズ』が長らく禁じていた戦争参加を決断したことで、チームの分裂が起きてしまったんだ」

 力の使い道。
 それは誰もが考える命題だ。
 『ブラックサンズ』にとっては特に、避けがたい問題であった。
「だが、彼らが戦いへの高揚や闘技場という場の輝きを愛していることは変わらない。
 だからこその依頼だ。彼らと熱い戦いを繰り広げ……ファイターとしての心を取り戻させて欲しい」
 ぎゅっと拳を握り、鉄倉は皆の目を順に、まっすぐに見た。
「彼らの瞳に眠ってしまった、太陽の光を取り戻すんだ」

GMコメント

【オーダー】
 指定したファイターたちと『熱い戦い』を繰り広げ、眠っていたファイターとしての心を取り戻させる。
 バトルの勝敗は条件に入っていませんが、相手もそれなりの実力者なのでもしファイターとしての心を取り戻させたなら、本気のバトルが展開されるでしょう。

【ファイター】
 『ブラックサンズ』のメンバーのうち、戦争参加を拒んでチームを抜けた者、またはチームに残ってはいるがファイターとしての心を見失いかけている者などがいます。
 今回戦うのはそんなメンバーです。
 彼らはラド・バウから遠く離れたフリー闘技場『甲子』にてフリーバトルを惰性で行なっています。
 マッチメイクは望めば行なえるので、「この相手と戦うのがよさそう!」という組み合わせをPCそれぞれで見つけて分配してください。
 基本『PC1対NPC1』。
 サポート型なのでタイマンははりたくないという方は誰かとペアを組み『2対2』のマッチを選択してください。

 対象メンバーは以下の通り。

★戦争に参加した組
 →戦争にやむなく参加し、それなりにいいバトルができて満足はしたが、それによってチームがバラバラになったと過去を後悔している。闘技場にも覇気がない。
・木蓮:複数の魔法カードを駆使して戦う中距離型のハーモニア。
・烈花:花と精霊の力を封じた押花で戦う遠距離型のハーモニア。
・海生:古代の秘薬が込められたボトルを駆使して戦うディープシー。ポーションや爆弾などを駆使する。
・雷電:古代兵器のエネルギーカセットを差し替えて戦う帯電体質のオールドワン。

★戦争が嫌で脱退した組
 →自分たちが戦争に利用されるのを嫌がって離脱。移行ファイターの喜びがわからなくなった。
・乾田:光の血を体内に流して戦うオールドワン。反動つきの技が多い。戦争がきっかけで離脱しクリーニング屋でバイトをしている。
・野藤:鬼の力を宿して戦うブルーブラッドの剣士。乱暴で短期だが利用されたり騙されたりするのが大嫌い。戦争きっかけで離脱し今はニート。
・紅武:呪われた血の力で戦うスカイウェザー。ナルシストな音楽家。ただし戦いに音楽は決して使わない。それゆえ戦争をきっかけに脱退。音楽家となった。
・佐葛:オーラの武者鎧と二刀流剣術で戦うカオスシード。戦争がきっかけでダンサーに転向した。

【おまけ解説】
 『ブラックサンズ』が幻想侵攻に利用された際の様子はこちら。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1228

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • ブラックサンズ・フォーエバー完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年01月12日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
芦原 薫子(p3p002731)
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
ユー・アレクシオ(p3p006118)
不倒の盾
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト

リプレイ

●誰がための力
 きっと力に意味なんてない。力を得た途端に人生が変わったり、すごいなにかになれたりなんてしない。
 何に使うかの選択が大事なんだ。
 それがきっと、大人たちのいう責任ってやつなんだろう。

 フリー闘技場『甲子』。青年ファイターがプロファイターを目指して戦う資格不要の闘技大会(フリーマッチ)が、今日も開かれている。
 その観客席に、佐葛と紅武はそれぞれ座っていた。
「無意味だな。出よう」
「ああ……うん」
 何かになるのを拒んだ結果、何者にもなれなかったような、そんな彼らの前に。
「力の使い所……ね」
 ポップコーンの籠を抱えて、『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)は思わせぶりに呟いた。
「私は冒険者として生きていくために正直選ぶ余地なんかなかったわ。戦争にも参加したし、人に言えない悪いことだってした。あなた達はそんな私を軽蔑する?」
 キッとにらむ紅武の表情を、しかしエスラは涼しく受け流す。
 それでも彼女を押しのけて進もうとする彼らに、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が立ちはだかった。
「なんだよ。おやっさんから頼まれたんなら帰ってくれ。俺はブラックサンズには戻らねえ」
「知らないし、分からないし、しったことではないであります」
 壁に拳を打ち付けて、強引に通ろうとする佐葛をエッダは止めた。
「わからんなりに殴りあって理解するであります。まあ、その過程でちょっと死ぬかもしれなくても、それは大した問題ではないでありますし」
 鉄帝というこの国の、闘技場が中心の町で、ファイトを挑まれたなら引き受けざるを得ない。逃げればより面倒なことになると、彼らは知っているのだ。
「戦ったら帰れよ。俺は、そういう気分じゃねえんだ」
「それも、知ったことではないであります」
 エッダは顎をあげて応えた。

「ケッ、なんだよ畜生」
 闘技場近くの公園。ベンチに寝そべった野藤の前に、一人の女が立った。
「野藤さんですね」
「……なんだ。誰だテメェ」
 『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)は眼鏡の位置を指の第二関節で押すように直すと、腰に差していた剣をおもむろに抜いた。
「さて殺し合いと行きましょう。あぁ、それにしても……つまらなさそうな獣の臭いですね」
「何だとてめえ! ぶっ殺してやる!」
 咄嗟に剣を抜く野藤。そこへ、慌てた様子で烈花が駆け寄ってきた。
「ああっ、ちょっと! 何やってんですか! ほら肉まん!」
 コンビニめいた肉まんを押しつけると、野藤はヤッホーと言って肉まんにかじりつき始めた。短気であるだけに、移り気も激しい男のようである。
 一方で烈花は温厚な性格のようで、間に入って作り笑いを浮かべた。
「喧嘩はやめましょう。ねっ」
「彼女は喧嘩を挑みに来たわけじゃあないぞ」
 ゆらりと現われる『D1』赤羽・大地(p3p004151)。
 そうだな? という視線に、薫子もこっくりと頷いた。
「俺達みたいニ、仕事は仕事、とか割り切れたら、幾らかは楽だったろうがなァ……?」
「なんだと?」
 肉まんを手に顔を上げる野藤。いぶかしげに見る烈花。
「闘技場へ行きましょう。その方が、言葉よりずっと雄弁です」

 寝ぼけたような顔で闘技場の通路を歩く海生。
 頭をがしがしとやってみるが、なにか閃くわけでも無し、つまらなそうにただ足だけ動かしている。
「うおっ」
 そんな彼の眼前に、メッセージカードが突き刺さった。
 カードには月食のシンボルが描かれ、影と月の文字が書かれている。
「ま、招待状って奴だ。お前、ブラックサンズだったよな。俺と一対一で試合しろよ」
「あんた一体……」
 目を細める海生のもとへ、雷電と木蓮が駆け寄ってきた。
「カイゼイザン! ナニヤディルンディス!」
「その人は……知り合いですか?」
「いや――」
 んにゃーあ、と長いあくびをする『リグレットドール』シュリエ(p3p004298)。
「辛気臭い面してんにゃー。ちょっとー? こっちは楽しみにしてたんだからちゃんとしろにゃ」
 追って、『鉄の守護者』ユー・アレクシオ(p3p006118)も横に並ぶ。
「こいつらは?」
「フリーマッチを挑んできた人たちです」
 雷電の言葉に、海生はユーたちの顔ぶれを観察した。
「親の敵……って雰囲気でもないよな。おっさんの差し金か?」
「ま、そんなところだ。事情も聞いてる」
 ユーは義足をがしがしと踏みならすと、バトルフィールドへと振り返った。
「確かに綺麗事だけですまないのが戦いってもんだからな。それでも、戦士として何を大切に、何に信念を持って戦うかは自分で決められる。最後は自分の信じた物を信じ切れるかが大事だと思うぞ。この手の届く範囲に居る者を守る、それが俺の戦う理由だ」
「手の届く範囲……」
 呟く雷電。シュリエはふんと鼻を鳴らした。
「お前らの目標は仲間を置き去りにしてでも自分を高める事にゃ? 仲間と一緒に強くなる事にゃ?」
「…………」
 黙って胸に手を当てる木蓮。
 サンディはカードを振って見せた。
「ここで喋ってても始まらない。語り方は、分かってるだろ?」

●悲しみを繰り返し、僕らはどこへ
 闘技場に立ってしまった以上、戦わざるをえない。
 もはやそれは、人間のサガといってもいい。
 アランはフラガッハレプリカを大きなホルダーから開放すると、両手でしっかりと握り込んだ。
「改めて名乗って置くぜ。太陽の勇者、アラン・アークライトだ。チーム名は……そうだな、シャドウムーンとでもしておくか」
「…………」
 ブラックサンズ(日食)を思わせる対照的なネーミングに、乾田は僅かに顔をしかめた。
「行くぜロン毛野郎。その腐った心にもう一度、火ィ付けてやらぁ……!」
 あまりに豪快な斬撃。大きく飛び退く乾田。
 二人の間にある硬い土の地面が砕け、砂が舞い上がっていく。
 牽制のために繰り出したキックを、しかしアランは気合いだけではねのける。
「オラ、ずっと布を相手にしてたから体が訛ってんじゃねェのか!?」

 時を同じくして別ヤード。サンディは風の悪霊を呼び出すと、腕や足に纏わせて連続の蹴りや手刀繰り出していた。
 海生の投げた小型の爆弾が手刀によって切り払われ、爆風が彼をよけて吹いていく。
「……なあ。お前は。殺したいから戦争に行ったのか?」
「なんだと? 俺は……チームを守りたくて、戦争を止めたくて……」
「だったらそれを伝えなきゃならねえだろ。黙ってたんじゃ、扇動されて人殺しになってのと同じだぜ!」
 素早く距離を詰めるサンディ。
 咄嗟に飛び退こうとする海生よりも早く、回し蹴りが彼の腹へとヒットした。
 派手に吹き飛ばされ、闘技場の壁に激突する海生。
「お前が守りたかったモノがあったんじゃねーのか。それすら伝えられないほどクソッタレな仲間なのかよ! 見せてみろよ! 今、ここで!」
 サンディの髪を、大きく風が吹き上げていく。

「二人まとめて愛してやるでありますよ……」
 鋼の両腕を陰陽のように上下に構えると、エッダは回転から激しい裏拳を叩き込んだ。
 咄嗟に繰り出す佐葛の半月刀が受け止める――も、あまりの衝撃に佐葛は大きく飛ばされることになった。
 両足でブレーキをかけなんとか踏ん張る彼に、エスラがライトニングの魔術を叩き込む。
 大蛇のごとくはしる稲妻が佐葛を飲み込んでいった。
 狙いは加えてもう一つ。更に先で僅かに飛行する紅武であった。
「フン……」
 バイオリンの演奏によって防御フィールドを作り出した紅武は稲妻を眼前で消去。しかしそれ以上のことはせず、ただ一定距離を保つのみだった。
「弱い私は魔女を名乗ってこの力を振りかざすことでここに立ってる。全力なの。戦争だろうが、汚れ仕事だろうが……今だって。上辺の言葉は要らないわ。本気になれないのならそこで黙って蹂躙されればいい!」
 敗北を認めることは人を堕落させる。
 勝負を投げて悟った振りをすれば競争社会から下りることができるが、太陽に手を伸ばすことはできなくなる。
「気持ちは分かるの。私だって迷ってきたから。でも、今ここで闘志を燃やせないのなら、それは、最初からあなた達が闘士なんかじゃなかったってことよ」
「……」
 語るエスラを背に、エッダはどっしりと構えてみせる。
 彼らは壁を前に、逃げるのだろうか。
 それとも。

「うるせえ! この、このやろっ!」
 赤い剣を乱暴に打ち付ける野藤の攻撃を、薫子は紙一重に交わし続けていく。
 しかし剣は薫子の髪ひとつ切ることはなかった。
「鬼とは末路わぬもの。戦争が嫌で抜ける。良いでしょう。戦いは好きだが戦争は嫌い。大いに結構。ですが――だからと言って拗ねて何もかもやめてニート生活など、つまらないではありませんか」
「うるせえうるせえ! 分かったようなこと言いやがって!」
「人間すぎるのですよ、獣風情が」
 大上段直線切り下ろし。
 それを、薫子は二本の指で止めた。
 手刀に紅の雷を纏い、野藤の胸に押し当てる。放出した雷の衝撃で、野藤は派手に吹き飛ばされた。
 その一方では、大地が三色の魔術弾を放ち次々と爆発させていく。
「おいおイ、俺如きの若造なんかに押されっぱなしで恥ずかしくないのカ?」
 精霊のガントレットで攻撃を防ぐ裂花だが、一方的に押されるばかりだ。
「俺達二人が、てんでバラバラな一人と一人に負けるわけにはいかない」
 大地は死者の怨念を束ねて大きな矢にすると、架空の弓から発射した。
 裂花の精霊防壁を破り、彼の胸へと直撃する。

「これはいや~な呪いが一杯付いてるにゃ。もたもたしてると……わかるよにゃ~?」
 シュリエはにやにやと相手の焦りを煽りながら、手のひらの上に禍々しい黒色球体を生み出し、撫でるようにしてみせる。
「……ッ!」
 木蓮は雷のカードを剣にセット。牽制するようにシュリエに飛ばしていくるが……シュリエはそれを霊力壁でいとも簡単にはじき飛ばしてしまった。
 強引に接近、球体を叩き込み、さらには右腕の封印術式を開放し、毒蛇の呪いを突き立てる。
「結局にゃー。覚悟が中途半端なのにゃ。一人で強くなるなら選択は間違ってない。なら胸を張れ。置いてく仲間に失礼だろーにゃ」
「ひとりで、つよく……」
「皆で強くなるなら尚更、こんな所でうだうだしてる場合にゃ? あー、鉄帝人のウリって諦めるのが超早い事なんだにゃー?」
「……」
 耐えるようにシュリエの腕を掴む木蓮。
 またその一方で、ユーは雷電を圧倒していた。
 電撃を纏った義足の踵が、雷電の腹に直撃する。電撃のショックで吹き飛ばされた雷電は、闘技場の土をごろごろと転がった。
「これじゃぁ、何のために戦ってるか分かりゃしないな。お前には、守りたいものはないのか? ……俺は、俺の護りたいモノの為に戦う」
 ユーは思考とキーモーションによってナノマシンを発動させると透明なワイヤーを発射。フィールドのあちこちにひっかけ、雷電の手足を縛り釣り上げていく。
「もう一度聞くぞ。お前に守りたいものはないのか」
「…………」
 雷電は暫くうつむいていたが、その顔を上げ、目を見開くように笑った。
「ああ、あるさ……皆の笑顔を、取り戻す!」
 ワイヤーのひとつを引きちぎり、雷電はエネルギーカセットのスイッチを入れた。

●伝説は振り返るもの
「俺の――!」
「遅い」
 野藤の剣が赤く光ったその直後、薫子は稲妻そのものとなって野藤を駆け抜けた。
 無数の火花を散らし、崩れ落ちる野藤。
「ちくしょう、ちくしょう……!」
「全く、面白くない」
 野藤はもう戦えないだろう。そう判断した薫子は大地の横に並んで立った。
「大丈夫か、薫子さん?」
 薫子の回復を図る大地。効率的かつ順調に勝利を収めようとしている二人に、裂花は本能的に後退した。
(俺達が勝つにせよ、及ばないにせよ、本気の彼らの姿を、一度は見てみたいものだが……)
 効率的に倒してしまえばこんなものだろうか。大地はどこか冷笑的に、無数お怨念をわき上がらせた。
 その全てが裂花へと殺到する。
 爆発。火花。舞い上がる砂煙。
 晴れて、一秒。
「……おもしろい」
 薫子は赤い目を細めた。
 煙の中から現われたのは、赤い刀をゆらりと下げた鬼の姿だった。否、鬼の幻影を纏ったブルーブラッド。野藤である。
「俺様を舐めるなよ」
 構え一瞬。高速移動で距離を詰めた野藤の剣が、薫子の剣とぶつかった。いや、衝撃のあまりに薫子の手から剣が抜け、弾丸のように闘技場の壁に刺さった。追って衝撃。薫子の身体が吹き飛ばされる。
 回復のために振り返った大地の耳に、『strelitzia』という精霊のささやき。
 ハッと振り返る大地に、炎の精霊を纏った裂花が突撃を仕掛けてきた。
 防御はもはや間に合わない。

 ニヤリ、と海生が笑ったのを見た。
「その通り。俺は頭のいいやつに騙されて人殺しになっただけの男だ。けれど俺は、それを『いいわけ』にはしない」
 大きなボトルの封を開くと、古代兵器ガジェットへとセットした。
 注ぎ込まれる秘薬が泡立つように全身に走る。
「サンキュ、疾風のサンディ。さあ――」
「バトルを続けようぜ!」
 ぴんとたった寝癖をかき上げる海生と、トランプカードを扇状に開くサンディ。
 二人同時に放ったミニボトルとカードが間で衝突。はじける爆発の中を、海生は駆け抜けた。
「俺は誰にも伝えない。守って、戦う。それでいい」
 サンディの手刀と海生の手刀が激突する。はじける秘薬のエネルギーが、サンディを押した。

「友達がいたんだ」
「だったら」
「だから」
 シュリエの開いた手の中に、再び黒色球体が生成される。
 踵からの霊力噴射で瞬発的に走るシュリエ。顔面めがけ叩き付けられる球体を、木蓮は顔をあげるだけで対応した。
 壁のような魔力フィールドが発生。一瞬はじき飛ばされたシュリエに対し、ショルダータックルをしかける木蓮。
 体勢の僅かに崩れた所に魔法カードを五枚まとめて開放し、剣を握り込む。
 突撃が来ると踏んだシュリエは空中で霊力壁を蹴って強制的に体勢を調整。
「ヴェイッ!」
 鋭く、そして強烈に振り込まれた剣が、シュリエの腕を切り裂いていく。

 飛び退くユー。雷電の危険な雰囲気に、本能とナノマシンが反応したのだ。
 古代兵器。それも人間になど使わないエネルギーカセットを自らに接続した雷電は黄金に輝き、超高速でユーへと追いついてきた。
 どころか、ユーの背後へと回り込んでいる。
 電撃を纏った後ろ回し蹴り。クロスガードでしのぐ雷電。
 エネルギーを使い切ったユーは膝を折る動作でエネルギーカセットを排出。腰のホルダーから新たなカセットを出して膝部の挿入口へ差し込んだ。
 ワイヤーを使って大きく跳躍。対する雷電もエネルギー噴射によって跳躍した。
 空中で、二人のキックが交差する。

 飛び退く佐葛。
 エッダがその様子に目を細めると、入れ替わるように紅武が突撃してきた。
「愛し返してやるよ。三人まとめて――っ」
 バイオリンの弓で自らの腕を切り裂くと、吹き出る血で巨大なハンマーを作り出した。
 緊急防御姿勢。
 衝撃のすべてを受け流すエッダの構えは、しかし彼女の立つ地面ごとまとめて吹き飛ばされた。
 ガードを突破される。
 近接攻撃に対応しようとしたエスラに対し、佐葛は連続の飛翔斬を繰り出してきた。
 防御魔方陣を展開。が、その一枚も簡単に切り裂かれ、エスラの腕から血が噴き出した。
「ようやく、火が付いたみたいね」
「理由の無い悪意などどこにでも転がっている。戦う理由を忘れたら死ぬ世界であります。思い出せたなら重畳。ここからは――」
「俺たちの――」
「ステージであります、故!」
 刀を揃えた佐葛の剣が、エッダの拳やエスラの魔術弾と衝突する。

「全く弱ぇな。これだから戦争なんて下らねぇことに利用されるんだよ。どいつもこいつも、根性ねぇから戦争『ごとき』でやめちまうんだよ」
 倒れた乾田に、アランは吐き捨てるように言った。
「かも、な」
 立ち上がる乾田。
「けど、あいつらには夢があるらしいぜ」
「あぁ? それがどうした」
「夢があると、戦えるらしいんだ。俺にはないが……」
 乾田の血管が燃えるように輝き、胸の機械が開放した。
 何かが来る。そう察したアランは剣を叩き込んだが、大ぶりな剣のその下。狭いエリアをくぐり抜けるようにして乾田は接近していた。自らの血を纏わせた剣がアランの脇腹を切り裂いていく。
「ダチのことなら気張れるか……遅えんだよ」
 アランは獰猛に笑うと、剣を握り直して振り返った。
「俺も全力で行くぞ!」

 決着を書くにはあまりに紙幅が足らない。
 だがそれは、些細なことではなかろうか。
 彼らが戦い続けることを選んだことが、何よりの勝利なのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――good end

 ――シナリオライン『ブラックサンズルート』が解放されました

PAGETOPPAGEBOTTOM