シナリオ詳細
イサムチャレンジ
オープニング
●大型船『炊いた肉号』の上から
見渡す限りの、青い海。
ざざらんざざらんと、波が船底に当たる音が聞こえる。
遠くで鳥の鳴き声。あれは鴎だろうか。いや、海猫――どちらでもいいか。海猫も鴎の仲間だったはずだ。
右を見ても海。左を見ても海。陸地は見当たらないが、船旅なんていうのはそういうものだ。
水平線というのは思っているよりも遠くはないと何処かで聞いた。何でも人間の目線の高さを考えれば、数キロメートル程でしかないらしい。
「先輩方ーっ、今日はお集まり頂き、さんきゅッスー!」
拡声器を持った『可愛い狂信者』 青雀 (p3n000014)が、甲板に集まった皆に声をけかた。
皆、ここに集まるように支持されたのだ。
ようやく何か始まるのかとも思ったが、水着指定というのはどういうことだろう。夏ならばいざ知らず、この季節になるといささか肌寒いを通り越して凍えてくる。
そういえば、これはどういう集まりなのだろう。『強くなりたい人、募集』とだけ書かれた張り紙に惹かれて船に乗り込んだはいいが、ここまでの道中はただの快適な船旅でしかなかった。
「今日は訓練ッス。強くなりたいッスかー!?」
よくわからんが、腕を振り上げて合意を示しておく。
「その為ならどんな厳しい訓練も耐えられるッスかー!?」
おー。
「じゃあ、寒中水泳ッスー!」
ン? なんつったこの女。
「あっちの陸地まで、泳いで帰るのが今回のプラクティスッス!」
待て待て待て、見えねえよ。ここから肉眼で陸地が見えねえよ。
「先に実演してくれるのはこちら、ビューティーちゃんッス!」
指さされた方に視線をやると、何やらクレーンで吊るされた『クソザコ美少女』ビューティフル・ビューティー(p3n000015)がいた。ああうん、これいつもの光景だ。
「ビューティーちゃんはスゴいので、先輩方良い先に手本を見せてくれるッス!」
「おーっほっほっほっほ、私の華麗な泳ぎを見せてあげますわ! へっくち!」
「スゴいッススゴいッス。この辺、鮫が出るけどビューティーちゃんなら大丈夫ッス!」
「おーっほっほっほっほ―――今なんて?」
「はいぽちっとなー」
「え、ちょっと、聞いてな、冷たあああああああああ!!?」
青雀がスイッチを押すと、クレーンが動いてビューティーを海へと投げ入れた。
音に釣られて酔ってくるサメのヒレが見える。凍えていられる余裕もなく、必死で泳いでいくビューティー。おお、スゴいな、追いつかれてないぞ。
「嗚呼、イサム神様……」
青雀が感極まったように涙を流している。うん、なんだって?
「さ、先輩方もイサム神様に祈りを捧げるッスよ」
そしてまたスイッチを押すと、なんだかゴゴゴ的な音を立てて船が沈んでいく。
畜生、この女またやりやがった。
- イサムチャレンジ完了
- GM名yakigote
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年12月11日 21時00分
- 参加人数24/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 24 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(24人)
リプレイ
●海に入ってから助かるパターンってなかなか無いよね
沈んでいく。沈んでいく。
一切の慈悲もなく、もったいない精神とかも一切考慮されず、船が沈んでいく。
普通、船が沈むシーンなんていうのはお話の終盤だと相場が決まっているものだが、残念ながら今回は冒頭です。
岸辺はあっち。なんというアバウト。見失ったら遭難必死、海の藻屑確定のこの状況。阿鼻叫喚の中、冬の海の冷たさに神経が悲鳴を上げる中、ある意味デスレースが開始された。
「『すごく良く音がとおるホイッスル~』」
デイジーが笛を取り出した。プールの監視員が持ってそうなやつだ。
見ればビューティーは必死で泳いでいるものの、彼女のスペックでは心許ない。そこで、これを吹いて先導してあげようというのだ。
ピッピッピ。鮫がそっちへわらわらわら。
「む、何故か知らぬが鮫がたくさん寄ってきたの。では、賢い妾は全速力で逃げるのじゃー」
「ひいいいいいいいいいいいい!!」
鬼畜かな。
色黒のナイスガイとか、チャラい金髪のお姉ちゃんはサメと相性が悪い。その程度の知識は、洸汰も父から聞かされていた。子供に何教えてんだ。
「オレはもち、チョー余裕!!!! だってオレは清水洸汰! 如何にも水属性めいた名前じゃん!」
…………うん。うん?
「だから水場はオレの得意分野! と、信じてる……って、くっそさみいぃぃぃぃ! サメも、めっちゃくっちゃはえええええ!」
だろうよ。
「はいもう意味がわかりませんね!! お仕事先で青雀さんかビューティーさんがいるだけでもう察し始めてますからね!!! やればいいんでしょうやれば!!! ぼく夏の海洋バカンスの時溺れて重傷になったんですけど二の足は踏みませんからね!!! きええええ!!」
何ていうかもう破れかぶれなヨハン。今回は叫び声が超能力キャラっぽい。
「サメなんかに絶対負けない!!!」
このあと―――
「……まともな修行かと思ったら騙されたのです。まともに取り合ったら風邪引くのです。早く終わらせて暖まるのです」
生命活動としての呼吸を必要としないクーアは、より海中に体をつけていられるためスピードが違う。
当然、それだけでは鮫相手に叶うものではないのだが、精霊と交渉し、より早く進むことを実現していた。あまりにもあんまりな状況に、精霊も同情したのかもしれない。
マリナが何やら鮫に向けて話し始めた。
「私、数分前まで「この船は私が乗っている限り絶対沈みません」ってドヤ顔でイキり散らしてたんですけど、船を木っ端微塵の木片に変えられて、この私の気持ちわかります? もう今日は精神的に疲れたので泳いで帰ります。鮫さんはついてこないでくださいね」
その要求を受け入れたら肉食してないわな。
「私美味しくないですから!! 許さない、絶対許さない……!」
「まあ……まあ。寒いときに暖かい恰好で冷たく甘いお酒を飲む、みたいな考え方でしょうか。確かにあれはわたしも好きなのですよ。ぬくまっている体の内にひんやりしたお酒が入っていく感覚。今まさに味わっている冷たすぎる海水の感覚とは真逆で……」
ミディーセラがぶつぶつと呟きながら懸命に泳いでいる。ゴールした後。その未来を浮かべながら。そうすればほら。
「心なしか寒さも薄れてきて、何も感じなく……」
レストは何やらデフォルメされた鮫の着ぐるみを身に着けている。
「店員さんがと~ってもお似合いですよ~って褒めるから、買ってしまったの。店員さんに騙されたかしら? と思っていたのだけれど。やっぱりおばさんは買い物上手だったみたい」
その店員も難破船を想定してはいないと思う。
「これならサメちゃんはおばさんを仲間だと思うはずだわぁ。それそれ~♪」
それは味方からすると敵に見えるわけで。
「え? サメ?? なんでサメ!? 船も沈んでるし! というか船の名前の炊いた肉って、待ってたいたにく、タイタニク……あ」
ラクリマがどうしようもない船の運命に気がついたようだ。
「向こうにサメが向いている間に俺はさっさと安全に泳ぎ切る! ふふ、ふはははは!! 流石、悪の組織の参謀。我ながら何と良いアイデアか。ではさっさとゴールへ…………あ」
まあ高笑いしたら寄ってくるわな。
「どうしてこうなったの……」
アーリアの水着はなんというか、非常にセクシーだ。ということは布面積が小さいのだ。死活問題である。
「雲雀ちゃん(「青雀ッス」)、『真夏に防寒着ばっちりで激熱激辛鍋を食べ、その汗を捧げる神』なんて信仰しそうよねぇ……いやまさかねぇ」
口と同時に体も動かしている。寒くなったら胸の谷間に仕込んでおいたウイスキーで体を温めるのだ。
海水がすげえ混じりそう。
「なんだこの状況は? いつもの青雀? ならば仕方ない。いや全く仕方なくはないが船が沈んではぉぉぉぉお!!? いかん、奴らが寄ってきた!」
ライハが味方を鼓舞する音を立てながら陸地を目指す。そんなことをしたら余計に寄って来るが。無理心中かな?
「いや目指せるか!! こんな距離を!! なんだあれはどこに陸地があるのだ……仕方ないビューティーを囮にしよう」
徹頭徹尾鬼畜だな。
「可愛い女の子の水着姿が見れると聞いて! そんな美味しいイベント逃す訳がないだろう!」
豪語するミーナ。冬の海原で、という条件がなければ賛同者も多かったろうに。
腰に武器を下げた状態で泳いでいく。近づいてきた鮫の牙を防ぎ、切りつけながら。表情に焦りや恐怖の色は見られない。というか視線は終始女の子の方へ。
「寒くないのかって? ああ、寒いけど……まあ、昔、こういうのは結構やったからなぁ」
「あれ!! サメがいる! サメがいるよ!! まあ大丈夫か! 食べられないよねわたし! おいしくないもんね! だってそこにもっとおいしそうなクソザコが。がんばれクソザコー……ありゃダメだね!!」
あっさりと味方を差し出そうとするロク。畜生度高いな。
「いけ、ロバ! このときのために君たちを養っていたのだ!! その身を使ってわたしを守れ……ええい家畜め逃げやがって!!」
畜生度高いな。
「まーた、よくわかんねぇ信仰を引き当てたな。なんだよイサム神って……」
先を泳ぐ青雀を目印に、ペッカートがぼやく。
「それよりあいつ、思った以上に速いな、信仰心は本物ってか」
戦闘力のない情報屋の筈だがとは思いつつ。
「くっそさみぃ。俺にも飛行技術があればなー。今からでもいいから、翼授かりてぇ。あ、陸に上がったら買いに行こう。レッド(検閲音)」
売ってんのかなこっちで。
「私はキルロード家の女! 何度だって蘇ってみますわ! えっ? 水泳スキルないのに大丈夫なのって? そんなの気合ですわ気合!」
ガーベラは海水による寒さにも姿勢を崩さず、先を行くビューティーを追いかける。
「ええ、勿論ビューティー様にも負けませんわ! 勝負ですわ! さあ、私の華麗な泳ぎをとくとご覧あれ! ですわ!」
競泳水着にお手本のようなクロール泳法。そのガチ装備で勝負を挑む相手なのだろうか……
「ぬぐぅぅ……お目目ぐるぐるでいかにも吾輩の信奉者にぴったりの娘が居たと思いきや、本物のサイコさんだったであ~る!」
グリモーが唸っている。その娘、本当にいつ暴走するかわからないのでやめておいた方がいいですよ。
「だが吾輩のスケベ心が囁くであ~る! 泳ぎ切った暁には、きっと妹が人肌で冷えた身体を温めてくれるイベントがあ~るのだと!」
本の妹ってなんだろう。電子書籍タブレット?
ブライトは『温かさを求める心』をギフトにより自身に禁止。寒い、怖い、火に当たりたいという要求を雑念として処理していた。
冷たさだけが環境情報として脳に伝わってくる。身体機能が低下。かじかんだ指はまともに動かない。熱量がないのだ。だが動かしづらいということは、動かさないということにはならない。
「まだ動けるうちに、出来るだけ陸地へ近づかなければ」
追いかけてきた鮫に銃口を向ける。陸地はまだ遠い。
「泳ぐのなら遺書を書いておけば良かったよ……なぜって? 泳げないからだよぅ、聞いていたら行かなかった」
強くなりたいかと聞かれてついてきたエル。ついてきた相手が本当に悪かった。
「ど、どどうしよう。溺れちゃうよ! 誰か助けて!! ああ、今まで生きてきた事が走馬灯のように浮かんできます……やっぱり死にたくないです! 親切な方でもディープシーの方でもいいから助けてください! 怖いー!!」
そういう、死に瀕した声を拾い上げているのがサフィニアだ。
自前の船、村上丸を使い、要救助者の回収を行っていた。
まあ、本当に脱落すると重傷通り越してグレーになっちゃうからね。
「寒中水泳とか昔はよくやったけどこれは大分面白そうだね! ただ……船を沈めるのは僕ちょっと怒っちゃうかな? 船は船乗りの命。相棒であり家族なんだ。それを使い捨ての鉄砲玉みたいにするなんて……後でお説教だよ、青雀さん」
さあ本日も気合をいれて指パッチンしていただきましょう。
\きらめけ!/\ぼくらの!/
\\\タント様!!///
「は! 泳ぎでも負けないのですわよー!!」
再現性が難しそうなポーズで飛び込んだ。
「なんでサメが寄ってきますのーー!!?」
そらな。
「こうなればわたくしが責任をもってサメを引き付けますわーー! 皆様だけでも無事に生き残って! 青雀様をとっちめ――」
がぼがぼがぼ。
いつもなら、その声はどこからともなく聞こえてくるはずだった。
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様ーー!!///
一緒に叫んだやつが居たのである。セララだ。
「ボクが一番上手く叫べるんだ! はっ。ついノリで。わー! 鮫寄ってきたー!?」
タント二次災害発生中。なんてわるいやつだ。
「く、くそー! こうなったらボクが陸地まで一番乗りだ。セララクロール! ちょあー!」
「未来の大冒険者として、強くなれると聞いたら参加しない訳にはいかない! あれ? でも前にもこんな事あったような……メリ、んー、頭痛が……思い出せないから気にしなくて大丈夫だよね!」
シャルレィスは気にしないことにした。可哀想に、恐怖で記憶が……
「頑張れ、僕らのタント様ー! タント様見てると元気になれるよね!」
絶賛鮫にたかられてますが。
\きらめけ!/\ぼくらの!/
\ドボーン!/
ここにもいた。きゅーあである。
「つめたい! でも、アイスクリームよりはつめたくない! それにサメさんもだいじょうぶ! だからだいじょうぶ!」
お、おう、何が?
「そしてサメさんともあそぼう! ひとくいザメって、かいてないしね!」
書いてないのは当然のように肉食だからだよ。
「サメさんの上でINABAジャンプ!」
「楽しまないと損ですわね! うおー、きらめけ! ぼくらの!」
\\\タント様ーー!!///
酒の勢いか、例の指パッチンに合わせ、ヴァレーリヤが大音量で叫んでいた。
そんなことをするもんだから音に反応して鮫が寄ってくる寄ってくる。
「そういえば私、そもそも泳げないんでしたわ……」
致命的である。
「しかもお酒飲んでフラフラだし」
致命的である。
「あっ、やっぱりまたなんだね。色んな神様の事が聞けるのは楽しいけど。時々こういうことになるのが困ったところだよね、慣れて来ちゃったけど」
青雀に誘われると高確率でこうなる。焔はもうなんとなく予感していた。
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!!///
「なんだか楽しそうだったから一緒に叫んじゃったけどよかったかな? 鮫さんがあんまりこっちに来ませんように」
今あなた大声出しましたが。
●生き残ることもお仕事です
パチパチと、火花の弾ける音がする。
必死の思いで陸地に辿りついて、ようやく火をおこせたところなのだ。
悴む体に、何を言うことも出来ない。
そんな中、肩にぐったりとした金髪を担いだくせっ毛の情報屋が、しばらく虚空を見つめていた後、振り向いてこう言った。
「先輩方、強くなりたいッスか?」
誰かそいつを取り押さえろ。
了。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
名前の登場回数がトップの人が居ます。
そう、『きらめけぼくらの』さんです。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
『可愛い狂信者』青雀(p3n000014)主催の訓練にお集まりいただきありがとうございます。
最近は急に冷え込みまして、このままでは皆様が風邪を引いてしまうのではないかと心配しております。
故事にも『痛くなければ覚えませぬ』と申しまして、やはり寒さへの対策は寒中水泳がよいでしょう。
このあたりはサメがおりますが、なあに、追いつかれなければいいだけのこと。
さあ、陸地目指してレッツスイミング。
【用語集】
□『可愛い狂信者』青雀(p3n000014)
・既に泳ぎ始めているので、方向を見失いそうな時の目印にどうぞ。
・今回の信仰対象はイサム神。
□『クソザコ美少女』ビューティフル・ビューティー(p3n000015)
・自然と生き残ります。
□大型船『炊いた肉号』
・沈みました。
□さめ
・ネズミザメ目ネズミザメ科オトヲタテルトヨッテクルシャーク属に分類されるサメです。
・音に敏感です。
・いっぱいいるので逃げるのが得策です。
□イサム神
・詳細不明。
・海でサメに追いかけられることが祈りになるとか。
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