シナリオ詳細
<Phantom Night2018>非日常で日常を
オープニング
●
ブラウベルク領。その中心地であり、領主が住まうその屋敷にて、少女――『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)は一人、この数日、考えていた。
「秘書さん……私、思うんです」
「はぁ……」
「収穫祭、やるべきだと思うんです」
「この……今のブラウベルクで、でございますか?」
手を組み、真剣そのものの面持ちでテレーゼが呟くと、やや年上の女性秘書は半ば呆然として答えた。
「確かに色々と物騒なことになってますけど……だからと言って、毎年の行事をたかがそんなことで無しにするのは良くないと思うんです」
神妙な顔をして告げた主君を、秘書はアホを見るような眼で見つめている。テレーゼはそんな女性秘書の目を気にせず次の句を紡ぐ。
「それに今、領民の方々は精神的に不安のはず。非日常にどっぷりだからこそ、一抹の日常を差し上げたいのです」
「……本音は?」
「領民の皆さんから村から持ってきた食料が腐りそうで何とかしてくださいって何個も来てて面倒……何かこう、大量消費が出来ることないかなって」
それはもう真剣そのものの顔ならばれないだろうと信じて、テレーゼは言い切った。
「ほら、一部は買い取って兵糧に回しましたし、領民が暮らしていける程度の物は残してますけど、飽和した野菜やら穀物やらが山ほどあるでしょう?」
「それで、収穫祭にかこつけて大量消費して捌くのですか?」
頭痛でもしてきたかのように額に手を当てた女性秘書に対して、無言の肯定を投げかける。
「PhantomNightといえば、やっぱりかぼちゃのランタン作ったり、普通に食事する以外でも野菜を使えるでしょうし、民衆には息抜きにもなりましょう?」
「領民のことも考えず、祭りに興じた馬鹿君主と呼ばれても仕方ありませんよ?」
「そこはほら、民衆と一緒にお客さんをたくさん呼べばいいじゃないですか。ちょうど、一般人よりはるかに強くてたくさん来てくれるかもしれない人たちがいるでしょう?」
「またイレギュラーズに頼むのですか」
「きっとイレギュラーズの皆さんだってお祭りなら来たいと思うんですよね!」
じっと女性秘書を見る。数分の沈黙ののち、やがて女性秘書は大きくため息をついて。
「分かりました。民衆には息抜きと日常のためということで収穫祭は今年も行なうと発表しましょう。ですが――今はおっしゃる通り大変な時期。お嬢様は外に出てうっかり暗殺などされては困りますので、外に出てはいけませんよ?」
「…………そ、そそ、そんなことするはずがないじゃないですか?」
思わず声を動揺させて、テレーゼは視線を逸らす。じぃっと、真っすぐにこちらを見つめる女性秘書の視線が、痛いほど突き刺さってくる。
「では、その日はお仕事たくさんできますね」
「えぇぇぇ…………」
うんざりする気持ちが、声に乗った。じろりとした視線が、さらに鋭くなっている気がする。
「お嬢様?」
「うぅ……遊びたい…………」
「……はぁ。分かりました。では、護衛を付けてなら少しでしたら構いません」
「本当!? やったぁぁ!」
ガタッと椅子が鳴る。
「まぁ、そのためにも今は仕事をしてくださいね」
「……はい」
渋々と座って、テレーゼは仕事にいそしんでいく。
●
今年もかの季節がやってきた。豊穣を祝い、子供たちの成長を願う収穫祭である。
不思議な魔法で様々な姿に変じた人々で幻想の賑いは去年のそれと変わらない――あるいは、これからそれ以上になっていくだろう。
そんな愉快な三日間の一日に、ローレットへ依頼が飛び込んできた。
『美味しいお菓子と美味しいてかわいいお料理、楽しいカボチャランタンが貴方達を待っています。一緒に収穫祭の思い出を作りませんか?』
そんなチラシから始まる依頼書は、お祭りへのお誘いだ。
- <Phantom Night2018>非日常で日常を完了
- GM名春野紅葉
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年11月18日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●賑やかな一日を
PhantomNightの当日、ブラウベルクの町は華やかに彩られていた。
町を行く人々の姿は千差万別。誰が元はどんな人だったのかなんてわからない。
そう、今君の隣を通り過ぎていった子栗鼠だって、三日たてば大男、なんてこともありうるのだ。
そんなお祭りの真っ最中、白髪の少女と同じく白髪の時計屋へ変じたシオンとコゼットはお店に回っては定番の合言葉でお菓子を貰って回る。
途中で立ち寄ったお店で美味しいお菓子をいただいたり、代わりに飲み物を貰ったりしながら、二人は楽し気に歩いていた。
「とりっくおあとりーと……!」
ある程度歩き回って、休憩スペースのようなところに着いたころ。シオンはぎゅっとコゼットに抱き着いて。
「お菓子くれなきゃいたずらするよコゼット……!」
「ひはははいなー、はんふんはへへ、ひいお」
咥えたチュロスをそのまま差し出すと、喜んで反対側かぱくりーー。
「とっても楽しい、ね! ねぇ、こんどは、どこいこう、か!」
そういってシオンの手を引くコゼットと、二人は祭り囃子の向こうへ走り出す。
シュバルツは去年の賑やかさを思い出していた。
特定の日時に魔法がかかるって一体どういう仕組みなのか。
祭りの中では少しばかりもったいないことを考えていると、不意に後ろから軽い衝撃。
「こんにちは、シュバルツ! トリックオアトリート、と申しますか、はは、えへへへ」
声を聞いて振り返れば、照れ笑いを浮かべるアマリリス。
ピンク色を基調とした衣装に、苺や十字架のアクセサリー。中々可愛らしい姿だった。
「そういや、気になったんだが、その格好は何の……」
そう言われて、まじまじと見られば、やっぱり恥ずかしくなるもので。
「こ、これはその、あとで、いえ! 疾く着替えて参りますので! お目汚しを、失礼しました!」
普段の自分とは縁遠いと思うその衣装をまじまじみられるのは恥ずかしくて、アマリリスは気づけば走りだそうとしていた。
「っておい!?待て!」
しかし、気づけばすっぽりとシュバルツの腕の中。落ち着くまでの間、アマリリスはシュバルツに撫でられていた。
「ぬっ! 食べ物ですか!! その情報はナイスです! 参りましょうシュバルツ、食べ尽くしてやるのです!」
落ち着き始めたころ合いでシュバルツの漏らした言葉に反応し、先程までとは違う意味でアイドル衣装の少女は恋人の手を引いて走り出した。
ヨハンはマナと一緒にお菓子と悪戯を楽しむべく訪れていた。
ヨハンは魔法の力でちょっとセクシーな魔女姿。
待ち合わせ場所、かぼちゃの球体に乗ってぷらぷら足を動かしているマナを見つけると、ヨハンはこっそり後ろに回って――。
「だーれだ」
いつもなら大事にしているガールフレンド。けれど、今日ばかりはほんのちょっぴりのいぢわるを。
「ひゃあ! れ、レーム様……ですか?」
驚いてちょっとだけぷるぷるしてる恋人を見て、ヨハンは手を外してガールフレンドの前へ。ほっとした様子を見せるマナへ微笑んだ。
一方のマナの仮装はというと……その、なんというか、露出が多い感じでらっしゃる。あまり丁寧に描写しちゃうとリテイク喰らう感じ、可愛い。
この衣装でならイタズラされないのかも。なんてことを思いながら、悩まし気にデフォルメされたおばけやらカボチャのランタンやらの形をしたクッキーやら饅頭やらをじぃーとみて。
「可愛らしいお菓子も沢山あって、選ぶのもなかなか悩んじゃいますね……」
そんなことを言いながらもお菓子と料理を目指して、二人は温かい店へと歩き出す。
「れ、レーム……その……良かったらお手を……」
ハッとした様子でマナが言と、ヨハンも手を差し出す。繋いだ手に握り込ませたお菓子を見て、ヨハンが少し驚いた様子を見せて。
「ふふ、びっくりしましたか? イタズラしてみました……!」
照れたように笑うマナとヨハンはその後、祭りを楽しんだ。
「trick ond treatだよお兄さん」
ノースリーブのシャツに左右で丈の長さが違うズボンをはいたルーキスが吸血鬼風の仮装に身を包むルナールへ差し出した小包。
「trick ond terat……うん? それだと両方だよな?」
「一年に一回だから、両方を取るのであった」
「………あー、ルーキスらしいな。その発想」
お菓子を貰ったら回避されてしまう――なら両方を取りたい、そんなルーキスであった。
二人はそれぞれが持ち寄ったお菓子を交換すると、一口。
「どれどれ……っ?!?!」
ルナールは受け取った生チョコを一口食べた瞬間、口元を抑えた。甘い、のにからい。
「当たりだー、おめでとう」
ルーキスが持ってきたのは唐辛子入りの生チョコレート。それを食べた恋人を見てルーキスはぎゅっと抱き着くのだった。
「……う、美味い」
口元を抑えたまま、徳井ではない物の、せっかくもらった恋人からの食べ物。ルナールは美味しく頂こうともう一口。
「あとは料理でも食べながらのんびりしようか」
ルーキスがアルコールを差し出せば、ルナールはそれを受け取って。
「仕返しは何時でも良いよぉ?」
「うーん、仕返し…今度考えておく…」
そんなことを言いながら、二人は二人だけの時間を楽しむのだった。
「さあさあ、トリックオアトリート!お菓子くれなきゃ、悪戯でパンツハントしちゃうゾ! なの!」
道行く人々を誘惑する鈴鹿はなんとも扇情的なお姿である。普段はパンツを履いてないらしいが……この姿でもパンツを履いてないのだろうか……いや、これ以上はやめておくべきか。リテイクになってしまう。
誘惑をされて近づき、お菓子をくれる者、パンツをハントされる者と様々だ。
「楽しいの! 何たってただでお菓子が手に入る! お菓子が貰えなくても合法的に悪戯出来る! なんて至福の時!ハロウィン様様なの!」
なんてご機嫌である。とはいえ、度が過ぎれば魔法が溶けてしまうのだが。そんな彼女の後ろに這いよる影。
「やぁ、鈴鹿ちゃん、トリックオアトリート、てね」
にこやかに仮装の包帯をずらして鈴鹿ちゃんの肌を見たのは死聖である。
「ふふ、眼福眼福!」
「なっ! 同士死聖! いきなりの悪戯はずるいの! いくら同士でもおこなの! ……って、妹さんまた殺気だしてるの…怒らないでほしいの」
肌色を眺めてほうと眼福気分の死聖である。そんな死聖の背後、ハロウィンデートと意気込んでいた由奈である。
「またお兄ちゃん知り合いに手を出してる……どうせなら私に悪戯して欲しいのに……大体鈴鹿さん前も悪戯されてましたよね? ……ズルい!」
最初は小さな声で、最後に至っては興奮からかちょっと声を大きくして。嫉妬の焔に燃える赤ずきんであった。
「……こらこら由奈、殺気はちゃんと仕舞うんだよ? 鈴鹿ちゃんは僕のお気に入りなのだから、ね?」
そう言って宥めながら、やってることは鈴鹿へのセクハラである。
「ん? 由奈、その指輪は…ふふ、懐かしいね。僕と由奈が初めて出会った時に、あげたものだね。僕にとってはただの儀式用の指輪だったけど、由奈はとても喜んでいたね」
「……お兄ちゃん覚えてくれてたんだ……うん、私にとってこれは宝物……怪物に襲われて死ぬ所だった私を助けてくれたカッコいいヒーローがくれた贈り物だもの」
小さな手で指に嵌められた指輪をそっと触って。
「この指輪のお陰でこの世界でもお兄ちゃんを見つけられたようなものだし……一生の宝物だよ」
「…由奈、ちょっとこっちに来て屈んでごらん。トリック・オア・トリート、だよ」
由奈が不思議そうな顔をして少し屈むと、死聖はその頬にちゅっとキスをする。
「ふぇ!? お、お兄ちゃん……? あう……この悪戯……卑怯だよ……」
照れた由奈に死聖も微笑んで。
「……お熱い事で……いい加減帰っていい?」
真顔の鈴鹿がそう響いた。
南瓜のランタンづくりに参加しているのはクラリーチェ、雪之丞、蜻蛉の【ねこだまり】である。
普段は和装な蜻蛉と雪之丞だが、今はやたらと大きな注射器を携えた妖艶な女医とロリータ風のキョンシーである。
「蜻蛉さんはかっこいい看護師さん。雪ちゃん…は、お札を剥がしたら何か起きるのでしょうか?」
「そう言うクラリーちゃんも、素敵なドレスや。この包帯ほどいてしまおか」
清潔感のある白い服とアタマに乗っかる猫っぽい物が可愛らしさを引き立てる。
「包帯、猫がおもちゃだと思って数匹寄ってきてしまいまして…ってほどいちゃ駄目ですよー!」
ツンツンいじる蜻蛉がクラリーチェの反応を見てくすくす笑って。友人だからこその距離感で冗談を言ったりしながら、三人はランタンづくりへ歩き出す。
「蜻蛉さんの衣装は、お医者様でしょうか? お世話にならないよう、気をつけます」
「雪ちゃんも、中華風の可愛らしおべべやね。手…怪我せんようにね?」
長い袖で見えなくなるタイプの衣装である。その懸念ももっともだ。
「せっかくやし、猫の顔をしたランタンにしよか」
意外に堅い南瓜の皮に苦戦しつつ、作業を進めていく。途中で雪之丞がくりぬいた皮を使って耳にしてる姿を見てクラリーチェもなるほどと参考にしたり。
「普段、南瓜言うたら煮て食べるもんやけど…西洋風は違うんね」
灯篭にしてしまうという案に面白さを感じながら蜻蛉も堅い上に若干凹凸のある皮に悪戦苦闘するのだ。
雪之丞は斬るだけならともかく、わざわざ皮を残すという作業に苦戦していた。手練れの剣士であるからこそな悩みである。
ペットの大福に似た雪之丞の物や、クラリーチェの教会脇にいる猫達に似た顔をした二人の物。
「どれも可愛く仕上がりましたね。灯りをともすのが楽しみです」
「うん、上手じょうず……ええ顔しとる」
「そうですね」
店員が気を利かせて消してもらった電気の中で、三人はぽうっと灯った三つの作品に頬を緩めながら成果と共に一日を過ごすのだった。
●さぁ、踊りましょ?
「トリート!」
「と、トリートッ!」
魔法少女から魔女の姿に変じてみたアリスは、元気よく自分と同じように魔女姿に変じたヨルムンガンドの挨拶?に返す。
幻想に来て初めての収穫祭を楽しみにしていたアリスとちょっぴり同じ姿を自慢したかったヨルムンガンドである。
パレードに参加した二人はアリスは先に飴のついたようなステッキを、ヨルムンガンドはかぼちゃのついたステッキを振るいながら、見ている子供達にお菓子を配って歩いていく。
「そろそろか」
動物疎通で声をかけていた鳥たちを使って空に描いたハートマーク。子供達のわぁという歓声が響く。
対してアリスは自分の手で飛び上がり、綺麗な絵を描き、そのまま列を離れたかと思えば、観客達の奥、道路に届かない子供達へお菓子を振りまいていく。
行進を終えた小さな魔女は二人のダンスを披露していく。
そのうちにやがて一緒に空へと浮かび上がり、可愛らしいポーズを決めた。
「わぁ、今日のアニーちゃんすっごく可愛い! ボクの世界にいた女神様達を思い出しちゃったよ!」
「そんな、女神様だなんて…照れちゃいますよぅ。このひらひら、天女の羽衣をダンスに活かせるかしら。焔ちゃんは雪女のお姿ね? 雰囲気も違ってたからびっくり! 神秘的で素敵ね!」
普段と同じく、桃色の基調としたアニーの天女衣装とは対照的に、普段は赤のイメージが強い焔は青や白といった色を中心とした物。
快活といったイメージの強いいつもよりも静かな、それこそ雪のようなシンとした雰囲気である。
「ふふんっ、今日のボクはくーるで大人な女だからね! いつもとは違うよ!」
なんて言ってみれば、普段の焔そのままで。
「今日は二人揃って着物姿ですし、ひょっとしたら姉妹と思われるかも?」
「姉妹かぁ、アニーちゃんみたいな妹がいたら楽しかっただろうなぁ」
そんな想像をしながら、踊りだす。
「ボク、こういうダンスって初めてなんだよね」
そういう焔だが、神への舞の経験があるからか、完全に初心者というべきアニーよりも動けている。
「大丈夫! 今日は楽しく踊れればそれでいいんだよ。ほら、一緒にくるくる~」
「ふふ、そうですね! もう勢いです!」
羽衣を靡かせながらくるくる踊る二人はそれは絵になるものだ。
黒猫姿に変じたシラスは魔法で浮かび上がってアレクシアと視線の高さを合わせた。
片目を隠した所謂ゴースト風の姿をした彼女と共に、ふわふわゆらゆらと夜の空を行進していく。
「ではではシラス君、一緒に踊ってもらえるかな?」
変身して踊るなんて経験ができるのはPhantomNightの三日間ぐらいだろうと、心ゆくまで踊る気満々のアレクシアに、シラスはエスコートするように手を取る。
幽霊のように透けたアレクシアの手はたしかに彼女の温もりがあって、ほんの少しどきどきしながら、踊ったことのない彼女を導くように踊り始める。
とはいえ、今の二人は猫と幽霊だ。なるほど、普通に踊るなんてもったいないとすらいえる。
やがて空へと階段を上がるように上り、くるくるひらひら、魔法に乗ってひらりひらひら舞い踊る。
実のところうまく踊れるか心配だったアレクシアも、そんなことは杞憂だったのだと、感じていた。
なぜなら、こんなにも楽し気に踊るシラスの表情を見て、共に過ごすこの瞬間を楽しく過ごせればと、思い描く。
やがて、自然に笑みをこぼしながら不思議なダンスを続いていく。
ふわふわ人魂を伴ってナキはその場にいた一人の女性を相手に手を取って踊り始めていた。
綺麗なお姉さんの顔を見てみたい気持ちもありつつ、今の自分が大人の姿であることを意識して、雰囲気に浸りすぎないように、相手にも楽しんでもらおうと踊り始めた。
経験こそないが、持ち前の器用さと技巧で何となくこんな感じかと踊りについていく。
そんな中、不意にふにょんと感じた胸の圧と、女性の匂いにくらりとしつつ。顔色を変えないよう心掛けながら、踊り進めていく。
大人というものの威力を実感しながら、少年は照らされた広場を踊り続けた。
「みてリアム君、この猫耳! しっぽ! こいつ、動くよ!」
美咲はバニーガールならぬキャットガールな自分の衣装を動かしながら、動くことに感嘆の息を漏らす。
「猫耳に尻尾…あぁ、とても似合っているぞ」
「いい気分ねー文字通り、踊りだしそうなほど!」
リアムの言葉も含めて言う彼女のしっぽは、その言葉を証明するようにふりふりと嬉しそうに動いている。
「そうだな…折角でもある、俺はいつもの格好で悪いが、一緒に踊るか?」
手を取られて二人も踊りだす。
何せ昔はこんなイベントに参加できなかったものと、何となく過去を振り返りつつ。
「リアム君はどう? 混沌楽しめてる?」
「あぁ、美咲のおかげでとても楽しめているぞ。俺一人のままだと、思い詰めてずっと一人であっただろうしな」
小声で言った言葉に美咲はふふりと笑みを返す。
「カコバナはキミの気が向いたら聞くとして、今日は無理にでも楽しんでもらうよ 私のために!」
「全く、祭りとはいえ、はしゃぎ過ぎるのではないぞ?」
「息が切れるまで踊って、お菓子食べて休んで、次はしっとり踊って、お酒もいただいちゃって。祭りを満喫というのは、こうするの!」
遠慮なんてもったいないと美咲は笑って一日の終わりを奇妙な縁で繋がった――ある意味では同期ともいえる青年と共に踊りを楽しんでいく。
「ふふふ、今日の僕は……いや、私は女の子! クリス・イン・ハロウィンよ!」
クリスティアン――もといクリスはアリスの衣装を纏った少女になっていた。
「さぁ王子……王子の得意なダンスだよ! でも今日は王子、女の子の格好でわたしがリードして差し上げ」
いつもはコヨーテなロクも今日は可愛らしい猫の姿。
「えっ、ロクちゃんがエスコートしてくれるの……? 嬉しいわ!」
照れた様子を見せたクリスがロクの手を取ろうとしたところで、ロクからそんな突っ込み。
「無理!! 体格差ァ!!」
アリスの衣装をしたクリスと猫のロクではそりゃあもう、すごい体格差である。というかなんなら普段のコヨーテと男性の状態よりも差が出てるまである。
「でも大丈夫よ! 2人でダンスを楽しめれば気分は最高よ!」
「そう、そうよね! 猫姿だと身体の柔らかさが違うね!! 今夜のわたしはひと味違うの……そう、艶やかで聡明なりしメス猫……そんなわたしがバレエ開脚し踊るのよ」
「え? バレエで開脚……いくら猫の姿だって限界はあると思うわ! 待ってちょうだい!」
止めるクリス。しかし、ロクは御覧とばかりに開脚をはじめ――ブチブチバリバリィ!!!!
人体(猫体)が盛大に立ててはならない音を立てた。
「ヒィィイいい痛ぁいいいい!!! ブチブチブチブチィ!!! もう無理助けて!!」
「キャー!! ロクちゃんのおまたが! 裂けちゃう!」
「……い、いくら猫でも……開脚は……無理だったね……。王子、王子なら今女の子だし開脚ダンスできるのでは……?あとは任せた……グフッ」
手を伸ばし、クリスの手に自らの手を伸ばしたロクが、ぱたりと倒れた。どこからともなく現れた救護班にそっと担架に乗せられて運ばれていく。
「ウウウ……貴女の思い、私が受け継ぐわ……王子いえ、姫の名に恥じないダンスをしてみせる! さあ、見て頂戴! 今日の私は……プリマドンナよ!」
涙を吹き立ち上がったクリスは、その涙を振り払うように踊りだして、見事な開脚でポーズを決めた。
(やったわ。私、やったわよ、ロクちゃん)
見上げた夜空をバックにロクの顔がうすぼんやりと浮かび上がり、きらりと流れ星が流れた。
●夜影に紛れて
「飽きた……飽きました……」
ブラウベルクの領主邸、二階にある執務室でテレーゼがぶつぶつ言っている。
机に伏して流し読みした資料にハンコだけ押して。
九郎はそんな扉を開けてそんな彼女の前に現れた。
「おや、初めましての方ですか……?」
バッと動いてめっちゃ貴族を装うテレーゼに九郎は向き合った。
「騎士と言えば姫を守るものですよね? 僕の今年の仮装は騎士です。ということで、領主様をお守りしたいと思います。何かあった時は任せてください」
「ありがとうございます。ではさっそく、頼りにさせていただきますね。どこか行きたいんですけど」
「では、スイーツでも食べに行きませんか? 美味しいカボチャケーキを撃っているお店があるそうですよ。僕もあまいものが好きなので」
「それはいいですね!……その兜はどうなされるのです?」
「……ま、まぁ、何とか食べます。ご心配には及びません」
それでは、行きましょうか、なんて。彼女をエスコートするように恭しく礼をする。
そんな時だった。
「初めましてブラウベルク嬢。私は怪しいモノです」
不意に聞こえた背後からの声、少女は思わずビクンと身体を跳ね起こす。
「……失礼、アヤシイモノジャナイデスヨ。通りすがりの一般人です」
振り返ったテレーゼは外からこちらに微笑みを向けるワルドを見た。
「えっ、ここ二階……ですけど」
割と素の驚きを見せるテレーゼの手を引いて、ワルドは外へと走り出す。九郎もそれを追う。時折すれ違う使用人たちには話は通してあったりするのだった。そりゃあそうだ。
「こんな日にお仕事とはもったいないの極み、さあ! お祭りへいざ行かん!」
最初こそ驚いた様子を見せていたテレーゼもその言葉にふと笑みをこぼして、走り出した。
「こんな時だからこそ、普段と変わらぬ祭りを……か。立派な考えでござるな。案ずるより産むが易し、という言葉もある。考えあぐねて身動きが取れなくなってしまうよりもずっと良かろう」
そう言いながら護衛役を務めようと待っていた下呂左衛門も、その衣装はミイラ男の仮装済み。
「拙者が相手に向いているとも思えぬ。他に年の近い者もいるでござろう。彼等と楽しむと良い。拙者は不埒者がいないか見張っているでござるよ」
使用人からの要請に頷いた下呂左衛門は、ワルドに連れられて扉を飛び出してきたテレーゼと、それを追う九郎を見て一瞬驚き、そのあとを続くように着いていくのだった。
「おぅ、テレーズの嬢ちゃん!今日はお誘いありがとうな!」
九郎が言っていたカボチャケーキのお店に立ち寄ったワルド、九郎、下呂左衛門とテレーゼの四人に、そう言って声をかけたのは、ぶははと笑ってる赤鬼系オーク、ゴリョウである。
「昼間は料理もドリンクも存分に楽しませてもらったぜ!」
「それは良かったです。ゴリョウさん。せっかくですし、この次行くところ、どこかいいところとかありませんか?」
赤鬼姿のゴリョウに一瞬、誰だろうと思いつつ、声から察して微笑んで。
「んー、美味かった食いモンの紹介くらいは出来るかなぁ。あのポトフは美味かったな! ちょっとビックリするくらい具材が入っててちょっと他所じゃ真似できねぇくらい旨味たっぷりだったぜ!」
自信満々にいくつか紹介したゴリョウがポトフを褒めたたえている中、テレーゼがくすくすと笑っていた。
「おう、どうした?」
「いえ、すいません。意外と、可愛らしいお方なんだなって……」
事前にリサーチしておかなくては到底無理な情報量を聞いたテレーゼは、目の前にいる男の真面目さに微笑ましさすら感じて笑うのだった。
「こんにちは、初めまして、テレーゼさん。リヴィエラと申します。良ければ一緒に収穫祭をお祝いしたいわ」
「こんにちは。もちろん、喜んで……なんとお呼びすればよいのでしょうか?」
「それでしたら、リヴィーと」
魔法の夜も収穫祭もしたことがなかったリヴィエラはテレーゼに話しかける。
「マナー……ですか? うーんどうなんでしょう。犯罪を起こさない程度に遊べ……とか? 私もどちらかというとマナーとか良く分からないので」
穏やかに笑ってテレーゼが言うと、釣られるようにリヴィエラも笑い、近くの店に入って行く。
「お菓子にお料理、飲み物、どれもとってもおいしそう! 全部食べてみたいけれど…うーん、お腹いっぱいになって残すことになったら失礼だし……テレーゼさんはどれを買うのかしら」
「そうですね……せっかくですし、今日でしか食べられないお料理がいいと思いますけど……」
「よかったら、別々のを買って、半分こ……なんて」
ちょっと図々しかったかな、なんて思いつつ、テレーゼを伺えば、不思議そうにした後、嬉しそうに笑う。
「それはいいですね! そうすれば色々な物食べれますし!」
小さなけれど幸せな憧れの行為を出来て、華やぐリヴィエラに、テレーゼも釣られるように笑って、可愛らしい人だな、なんて思ったとか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
仮装SD最高……
こんばんは、春野紅葉です。
命一杯癒されながら書かせていただきました。
GMコメント
忙しい昨今ではありますが、それはそれとして今年もPhantomNightの季節です。
では、さっそく今回の詳細をば。
迷子を避けるため、グループの方々はグループ名、カップルの皆さんなどは相方さんのお名前を、出来ればプレイングの冒頭にお書きいただければと思います。
また、描写量の低下を避けるため、下記の何れか一つの選択していただければと思います。
【1】トリックオアトリート!
お菓子くれなきゃ悪戯するぞ。
可愛い、あるいはちょっと怖い? ハロウィンチックなスイーツ、季節の食材をふんだんに使った料理、ドリンクなどがお店で格安で楽しめます。昼間です。
デートなんかにどうぞ。
【2】パレード&ダンス
様々な姿に変わった皆さんでパレードという名の行進をしていただき、ついでに広場でダンスを踊っていただきます。夜です。
広場はかぼちゃのランタンなどで彩られたハロウィン風のライトアップがされます。
もちろん、それを見る観客としてもどうぞ。
【3】かぼちゃのランタンを作ろう
あれです。なんかこう、顔作って中に蝋燭とかいれるやつ。あれ作りましょう。
【4】領主と一緒に遊んであげてください
一応、仮にも領主的な立場の『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)ですが、どうしても、どうしてもお外に行きたいそうなのでもしよければ遊んであげてください。
イレギュラーズがいれば護衛として問題ないと見てもらえるそうです。
誰もいなければ普通にお仕事をしています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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