PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<漆黒のAspire>L'Ultima Cena

完了

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――もう十年ほど前になるだろうか。

 アルテナ・フォルテ (p3n000007)は未だ鮮明に思い出すことが出来た。
 いまもなお、たびたび悪夢に悩まされることだってある。
 それは彼女が全てを失った日のこと。
 同時に『冒険者への第一歩』を踏み出した日のことでもあった。

 あの日、父は居なかった。
 いつものことだと思っていた。
 社交界に、狐狩りに、時に遠征に。
 幻想貴族の父は、いつも忙しそうにしていたから。
 けれどたまに食事の長テーブルを囲むことが出来る日もある。
 父は優しく、穏やかで、よく笑っていた。なのにどこか疲れているように感じることもあった気がする。
 幻想の社交界は伏魔殿だという。
 誰も彼もが他家の血や名声や財産を狙っているのなら、心労は無理もない。
 そうした貴族同士の薄汚い暗闘について、幼心に意味が理解出来ていたとまでは思わない。だがそれでも雰囲気は感じ取っていたし、教えてもらったりもしていた。邪魔をしないように、良い子にしていようと誓ったものだ。
 母だって優しかった。
 優しくも厳しい人でもあった。
 母と祖母がスープに匙をいれる所作は、いまでも鮮明に覚えている。
 姿勢一つ崩さずに、まるで匙の中が溶け消える様子は、まるで魔法のようで。
 血族だけではない。
 いつだって寝るまで側に居てくれた乳母も。
 生真面目なのにユーモアがあり、コルセットを手加減してくれたメイドも。
 夕方遅くまで遊んだ時に、転んだ傷を治療してくれた執事も。
 作法と勉学が上達する度、こっそりあめ玉をくれた家庭教師も。
 それに物心ついた頃から一緒だった親友だって。
 みんな、みんな。
 幼いアルテナにとって、世界はそのとき『我が物』だったに違いない。
 なにはともあれアルテナは――アルテナという偽名を名乗る前の幼い貴族令嬢リーラ・クラウディア・ディストラーディは――きっと幸せだったのだろう。
 恵まれていると感じていた。
 愛されていると感じていた。
 他の何よりも大切にされていると感じていた。
 知識も躾けも礼儀も生き方も。食事も衣服も剣や魔法の扱い方も。
 全てを与えられて暮らしてきたのだ。
 運命を変えた、あの日までは。

 領内の廃砦で、召使いの娘――親友だった――と遊び、共に勉強机を囲み、食事と入浴を済ませた日の深夜だった。
 あちこちが燃え上がり、多数の乱暴な靴音が迫ってくる中で、決死の形相をした執事の腕の中で目覚めたのだ。屋敷のただならぬ気配と、母の言葉から、父はもう二度と還らないことを悟ったように思う。
 要するに、どこぞの貴族の差し金による、暗殺者の襲撃にあったのだ。
 母が絶命する様を間近に見た。
 初めて人を殺しもした。
 親友には身代わりとして死なれた。
 そして一人、偶然にも空中神殿に召喚された時には、何もかも失っていたのだ。
 しばらくして、アルテナはローレットの冒険者になった。
 父の遺体が見つかったと知らされたのも、ちょうどその頃だったと思う。


「十年か。それで、何が言いたい。だいいち来るなと言ったはずだが」
 闇がわだかまっている。
 この日、辺境の小さな屋敷には、数名のイレギュラーズが訪れて居た。
 一行と相対するのは、魔種『アークロード』ヴェラムデリクトだ。
 Bad End 8なる大魔種イノリ直下の強大な魔種にして、アルテナの実の父である。
 幾星霜にわたり、歴史の影に暗躍してきた存在らしい。
「本当のことが知りたいだけなの」
 アルテナが凜と声を張る。
 堂々とした態度は、明らかな虚勢だ。
 しかしこの場合、アルテナは自分自身を奮い立たせるために、そうしていた。
「お父様――いえ、あなたがやらせたの、ヴェラムデリクト」
「知ってどうなる。歴史が塗り変わるのか、死者が生き返るとでも」
「知りたいだけ。けど結局、全部あなたの差し金だったということでいいのね」
「それは認めるがね。妻が――お前の母が死んだのも、友人だの召使いだのが死んだのも。そろそろ潮時だと、クソ貴族の策謀に乗ってやっただけとは言え、決断したのはあくまでこの私だとも」
「この――ッ!」
「アルテナさん!」
 シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の制止よりはやく、アルテナは細剣を突き立てていた。
「――ッ!!」
 だが熟練冒険者の放った必殺の魔法剣は、魔術障壁に阻まれている。
「……ああまったく。やめておけ、やめておけ」
「だったら私は、斬らなきゃいけないから!」
「無駄だ。だからやめておけと言っている」
「……」
「お前等は、アルテロンドとフィルティスだったな。確か珍しく、そこそこまともなやつも居た家系か。お前等もその口だろう。だったら、そいつをとめてやれ」
「今は、どうか、おさえて」
 アルテミア・フィルティス(p3p001981)は目配せ一つ、シフォリィと共にアルテナを下がらせる。
「反転は不治の病だ。呼び声を垂れ流そうとは思わんが、お前の精神が乱れればどうだ。もしも万が一があったらどうする。だから来るなと言ったんだ、私は」
「……」
「私は呼び声を発しない。だが魔種は私だけじゃあないんだぞ」
 ヴェラムデリクトは大仰な身振りで肩をすくめてみせた。
「恨みつらみは結構だとも。当然の権利だからな。いくら愛そうが、胸が痛もうが、危機にさらしたのは事実。命潰えたのも事実。とはいえ私の感情など、娘のお前には関係の無いことだろうしな」
 アルテナがヴェラムデリクトを睨み付ける。
「だが時間は与えてやっているだろう。まさか忘れたとは言わせんぞ」
 そして続ける。
「わざわざ、この私が。何のために終焉獣を待機させたと思っている。
 時間を惜しめ。友と語らえ。恋人と睦言を交せよ。
 そもそも、のらりくらりとやろうと言っているはずだ。この手を結び合おうと」
「ですが――」
 アルテナを背に庇うようにして、一歩前へ歩み出たアルテミアが告げる。
「――私達は誓っているのです。未来をかならずやつかみ取ると」
「可能性……か。そう言うとは思っていたが、つくづく厭になる」
 ヴェラムデリクトは両手を一拍鳴らすと、魔術スクリーンを展開した。
「どうせお前等のような英雄共は、そう答えるに決まっている。ならば見ろ」
 描き出された幻想王国の地図、その地下に巨大な何かが蠢いている。
 続いて現われた映像は、広大な地下洞窟のようだった。
「実に不本意なことだがね、『それ』の解決がここから先の前提条件になる」
「これは……」
「地霊だよ。お前等が大精霊と呼ぶものだ。善悪はない、自然現象の類いだ。
 地下を這い回るそいつは、貪欲だ。霊脈を食い荒らす。
 やがて王都地下の巨大霊脈(レイライン)を断つだろう。
 溢れた膨大な地のエネルギーはどこへ行くのか。実にシンプルだろう。
 そもそも冠位憤怒の黒い太陽、あれは見事な権能だが――国を滅ぼすにはいささか以上にオーバースペックだとは思わんか。
 行使まで長すぎる上、滅びのアークの無駄遣いだと。
 ああ、王都直下の巨大地震は大火災を呼ぶだろう。
 統治の不全は人々を暴徒と成すに違いない。
 否応なく生じる不衛生は疫病を呼び。
 人手の入らぬ土は腐り、木々や猛獣が蔓延る。
 野盗が溢れ、貴族共は大義を叫び、我先にと挙兵する。
 そこまでいっても人的被害は……そうだな。
 精々、たかだか、数十パーセントやそこらだろうがな」
 だが『国を滅ぼす』には十分だということだ。
 それに滅びのアークを使うこともない。大精霊が勝手に成す業なのだから。
 何より続いて、終焉獣が襲い来たのならば、はたして。
「あなたがやらせたんでしょう」
「そうだとも。だがね。繰り返すが、私としても実に不本意なのだと。
 だがね、だがしかし。
 お前等があくまでそうであるならば、仕事はしなくちゃあならない。
 ならばお前等だって、あれを止めん訳にはいくまいよ。
 だがこの程度の脅威、お前等ならば片手間に退けてみせるんだろう?」
 男はうんざりした表情のまま背を向けると、片手をひらひらと振った。
「とっとと帰ったらどうだ。取り返しがつかなくなる前にな」

 ――そうしたら、また仲良くやろうじゃあないか。

 去り際に聞こえてきたのは、再びそんな言葉だった。


「つまり敵の狙いは――目下……とつけるほうが適切かもしれませんが」
 いつものギルド・ローレット――しかしマスターの居ないそこで――丸テーブルに資料を広げたのは新田 寛治(p3p005073)だった。
「要するに王都直下で大地震を引き起こすものだと推測できます」
 幻想王都の建築物は、練達あたりと違って巨大地震など想定されていない。
 仮に発生すれば、全てが崩れ去るだろう。
「被害想定の試算は済みましたが、なるほどこれは頭が痛い」
「参考までに、おおざっぱなところは?」
「王都の建物は、のきなみ全壊でしょうね」
「……なのに、わざわざ教えたということか」
 恋屍・愛無(p3p007296)は溜息一つ。
「不意も打てたろうにな」
「狙いがなんだとしても、絶対に止めなくちゃ」
「当然ですわ。あんのヒゲ面、むしり取ってやらねば気がおさまりませんもの」
 セララ(p3p000273)の高らかな宣言に、ディアナ・K・リリエンルージュ (p3n000238)が力強く頷いた。
 とはいえセララの心境は、正直に云えば複雑なものだった。
 その純粋で潔白な魂のあり方は、正しさの狭間に揺れ動いている。
 相手がいかな心持ちであれ、悪行は止めなければならない。
 確実なのはそこではある。
 けれど『相手そのもの』についてはどうだろう。
 納得に足る理由があれば許せるのか、そもそも赦すべきなのか。
 これほどのことをしでかす相手が。
 たとえば竜ならばどうか。
 あれほどのことをしても、通じ合うことは出来た。友人にもなった。
 だが――今度はどうだ。
「だいたいどうにも白々しいんスよね。無駄に大仰ってのもありまスけど」
「あー……なんか分かります。芝居がかってるっていうか」
 佐藤 美咲(p3p009818)に、普久原・ほむら(p3n000159)も同感だと告げる。
(……芝居――か)
 美咲はかすかに自嘲した。
 そもそも己自身の、少なくとも『かつての振るまい』と照らせば、どうだ。
 言えた義理だろうか。だが、それでも――

 話からそれらの些事を差し引いたとしても。
 いずれにせよ辺境には、多数の終焉獣が集結しつつあった。
 おそらく『ワームホール』と呼ばれる穴が、あらたな原因だろうが。
 そしてこんな状況にもかかわらず、窓の外――王都は相変わらず盛況だった。
 近頃、多数発見されている財宝のダンジョンから帰った若者達の姿が目立つ。
 世界中にバグホールが開き、終焉獣が現われているというのに。
 幻想の民は、どこか他力本願な構えを見せている。
 ローレットのイレギュラーズが、きっとなんとかしてくれるのだと。
 こうして今日も、小銭集めに勤しんでいるというわけだ。
「このままではお酒が買い占められ――こほん。ともかく」
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は咳払い一つ。
「で、結局。祓うしかない訳だろ。その大地霊ってやつをさ」
 シラス(p3p004421)の言葉に、一同が頷いた。
 折しも、開け放たれた窓から、春先のやけに生ぬるい風が吹き抜けた。

 対処しなければならない状況そのものはシンプルだ。
 この戦場においては、地霊を祓う――それだけではある。
 だが問題は、情報力の不足を初めとする諸々にあった。
 ギルドの代表を代行するユリーカ達は尽力しているが、敵は世界中へアプローチを展開している状況だった。レオンも居ないのだから、責める訳にも行くまい。

 地霊は、大精霊の類いらしい。
 それだけでも強大な相手だ。特にそうした存在は、時に僻地では神と崇められるほどの権能を振う。
「最低条件に過ぎないのよね」
「ええ」
 アルテミアとシフォリィの言葉通り、大精霊の撃退は最低条件だ。
 その上で、おそらく背後に控えるヴェラムデリクトをも撃破せねばならない。
「せめて無力化、出来れば討伐よ」
 アルテナの表情は硬かった。
「そしてあの怪物(父)を討ち果たすの」
「あまり欲張るものでもないが、全て満たすなら至難といった所か」
 あるいはそれ以上だろうか。
 その場を重い沈黙が支配した。

 ともあれ、成すべきを成さねばなるまい。

GMコメント

 pipiです。
 幻想がピンチです。
 なんとかしなければ。

 それはそれとして。
 小銭稼げる大量のダンジョンて、誰が何のために用意したんでしょうね。

●目的
・大精霊ガレオンワームの無力化(絶対的な必須条件)
・『アークロード』ヴェラムデリクトの撃退
・その他、敵性勢力の排除
・情報収集

 これら全てを満たすこと。

 もっとも注力すべきは、大精霊です。
 これをどうにかしない場合、幻想王都には大地震が発生します。
 被害は甚大なものとなるでしょう。

●フィールド
 王都付近の地下に広がる巨大渓谷です。
 地下の巨大な空間に、石で出来た天然の橋が多数かかっている感じです。

 あちこちで少数の終焉獣や、多数の地の精霊達が暴れています。
 中心に居るのが、怒り狂った大精霊です。
 王都地下へ徐々に近付いています。

 雑魚を排除しながら、まずは最速で大精霊をどうにかしましょう。
 これだけでも相当に難しい作戦です。

 そしておそらく現われるであろうヴェラムデリクトを排除する必要があります。
 ここまで合わせると、ほとんど成功不可能と思われる作戦です。

●敵
『大精霊』ガレオンワーム
 地を司る大精霊です。
 蛇のような、巨大な竜のような見た目です。
 全長は百メートルほど。

 極めて鈍重ですが、無尽蔵なタフネスがあります。
 戦闘能力は非常に高く、攻撃力も物理神秘ともに強大です。
 また霊的存在であるため、攻撃やBSが通りにくい(回復しやすい)といった性質があります。
 しかし通らない訳ではないので、むしろ適切なBS付与は前提となるでしょう。
 長期戦は必至です。
 不安定な足場を移動しながらの戦闘になると思われます。
 それらの対策を講じても良いでしょう。

『地の精霊』×無数
 道中にも、戦闘中にも、散発的に襲ってきます。
 主に神秘遠距離攻撃や、岩のような身体での体当たりを仕掛けてきます。

『終焉獣』×少数
 敵の中に、たまに混じっています。
 毒や不吉系など、面倒なBSを持っています。

『アークロード』ヴェラムデリクト
 大魔種イノリ旗下『Bad End8』の一人です。
 現場に現われるには現われるのでしょう。
 古の時代から存在する魔種であり、極めて強力なのは間違いありません。

 今やるのかどうかはさておき。いずれにせよ、いつかこいつは何とかしないといけないのですが、おそらく現時点で倒すのは不可能と見積もられています。能力も分からない上に、戦うのであれば連戦になるしね……。

 能力の様子見を兼ねてそろそろ一発ぶちかますか。
 割り切って対話してみるか、などは皆さんの作戦次第でしょう。

●同行NPC
・アルテナ・フォルテ (p3n000007)
・普久原・ほむら(p3n000159)
・ディアナ・K・リリエンルージュ (p3n000238)
 共に皆さんの仲間です。
 クエスト『All's right with the world!』ぐらいの強さです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <漆黒のAspire>L'Ultima CenaLv:60以上、名声:幻想50以上完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2024年03月05日 22時06分
  • 参加人数12/12人
  • 相談5日
  • 参加費150RC

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(12人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
セララ(p3p000273)
魔法騎士
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
シラス(p3p004421)
超える者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
神喰い
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

サポートNPC一覧(3人)

アルテナ・フォルテ(p3n000007)
冒険者
普久原・ほむら(p3n000159)
ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)
聖頌姫

リプレイ


 この世界は、もう長くはない。
 命が産まれ死ぬように、大地も星々も、いずれ果てなき旅へと向かう――

 冷ややかな湿気が首筋を撫でた。
 あたりは薄暗く、淡い光の帯びが遠く下へ下へと続いている。
 一行は幻想中部を南北に横断する大山脈の下に眠る、巨大な地下渓谷へと足を踏み入れていた。
「綺麗……です」
「これは驚きだね、実に興味深い。組成はおそらく、ほぼかんらん石だろう?」
 息を飲んだ『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)に、マキナ・マーデリックが早速解析を開始する。
 眼前に広がる光景は、どこか光の架け橋のようでもあった。
「ゲーム終盤にあるクリスタルの道って感じもしない?」
「あーなんか、それ分かります」
 あちこちを眺める『魔法騎士』セララ(p3p000273)に、普久原・ほむら(p3n000159)が頷いた。
「では、ありきたりですが『ペリドットの回廊』とでも呼んでおきましょうか」
 淡く薄緑色に煌めく道を歩きながら、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が振り返る。
「なるほど、そいつは洒落たもんだとおもうぜ」
 口笛一つ『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が感心してみせる。
「以前このあたり、プーレルジールの地上には宝石の山がありましたわね」
「ああ、そういえば」
 ディアナ・K・リリエンルージュ (p3n000238)が思い出したのは近世界プーレルジールの出来事だが、一方混沌ではとんだ宝石鉱山でも眠っていたということか。
「つまり売り払えば飲み放題ですわー!」
「金のにおいがたまりませんわー!」
「そう上手い話があるもんかね」
 いししと笑った『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)とディアナを――より正確にはヴァレーリヤだけを――『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は「あまりにも尊い」と見守り、一方で『竜剣』シラス(p3p004421)は、慎重な姿勢を見せている。
「この純度では価値はないさ。それにありふれた石だしね」
 そう言ってマキナは、今度は眼下に広がる底なしの渓谷を覗き始めた。

 どこもかしこも、淡く輝いているように見える。
 確かにこの程度の純度ではジュエリーとしての需用はなかろうが、マキナが興味を失ったのはそのせいではない。単純に『未知が既知へと暴かれた』からだ。
 この地下渓谷は、学者や冒険家、せいぜいが平和が確保されれば観光にといった所かもしれないが――余談はさておき。
 実のところマキナは幻想の『中古ブーム』、より厳密にはその中に紛れた古代の出土品に興味があった訳だが、こうして呼び出されたのだ。
「まあ予想はしてないスけど。怪我の功名、ちょっとちがいまスかね」
 気のない返事の『無職』佐藤 美咲(p3p009818)だが、さて噂のダンジョンには人為的な関与があったのか。
 あとはこの地下に居ると思われる大精霊ガレオンワームとやらにどんな影響が加えられているのか。
 状況自体は実にシビアであり、複雑でもあった。
「絶対に失敗するわけにはいきませんわね」
 そう述べたヴァレーリヤの言葉通り、この大精霊を放置すれば王都直下の大地震が発生する。

(ヴェラムデリクトの野郎、厄介だな)
 顎に親指を当て、ルカは思案していた。
 地震は大精霊によって引き起こされるという。
 さながら地底を這いずる巨大低気圧のように、あるいは暖気を求める渡り鳥のように、それとも餌を吸い込む鯨のようにか。いずれにせよそれは地下のレイラインをゆっくりと辿り、エネルギーが結ばれる王都へと迫っていた。
 それが巨大な地震を誘発するという。
(自分は大した労力を使わずに最大限の効果を狙って来やがる)
 世界を終焉へと導く魔種の群れ――Bad End 8の一柱、アークロードを名乗るヴェラムデリクトの策略だ。
 成れば幻想王国は、単純明快に物理的な終わりを迎える。
 いつかディルクのアニキが言っていた言葉が頭を過ぎった。
 一番面倒臭いのは、慎重で臆病、その上頭のいいヤツなのだと。
 まさに『その通りの野郎』ではないか。
 手は打っておきたいが、ともかく先に大精霊をどうにかせねばならない。
「地上の皆の命が掛かっているのですもの」
 戦棍を振り上げ、ヴァレーリヤが高らかに謳う。
「行きましょう、マリィ!」
「勿論だよ! ヴァリューシャ!」
 マリアは硬く誓っている。絶対にヴェラムデリクトの企みは阻止するのだと。
 あとは、そう――それから。
「彼が居るならアルテナ君と一緒に一発ぐらいぶん殴ってやらないとね」
 そんなマリアの言葉にくすりと微笑んだ『冒険者』アルテナ・フォルテ (p3n000007)は、思いの外あっけらかんとしているようだ。
「ありがと、本当にそう。一発ぐらい殴らないと気がすまないものね」
 アルテナの表情に、彼女を案じていた『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)などは内心胸をなで下ろしている。
「だいぶスッキリした感じになったじゃあないスか」
「そう?」
「やりたいことはっきりしたんスよね」
「そうね、それはそう」
「じゃあ、文句言いに行きましょ」
「うん。美咲さん、ありがと!」
 ヴェラムデリクトに関して、引っかかるところがないといえば嘘になる。
 だがその娘――ローレットの仲間であるアルテナについてなら、ようやく安心出来る状態になったとは思えていた。
 しかし『父親』である。
 先程から考え込んでいたのは、『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だ。
(うーん、父親の考える事かぁ……)
 ふと過ぎった、アシュレイの横顔と。それから伝え聞く話と。
 スティアには少なくとも、アルテナのことを想っているように感じられた。
 はっきりさせるには会わねばならない、そのためには――

「――これは進ませられねえな」
 呟いたシラスに、ユーフォニーもまた静かに頷く。
 明確に感じられるのは、暴威とも思えるほどの圧倒的な『大地』の力だ。
 それはかんらん石の石壁から、ゆっくりと泳ぎ出てきた。
 どこか、尾の長い龍のようにも見える。
 周囲にはびっしりと小さな地霊がまとわりついていた。
 制限時間は、戦いとしては長く、けれど時間としては短い。
 あれがこの大空洞を抜けて、再びかんらん石の壁へとすっかり隠れてしまえば、そこで全てが終わり。ゲームオーバーだ。
「黙っていれば此方は致命的な打撃を受けたはずなのに、わざわざ教えてきた」
 アルテミアの言葉に、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)も頷いた。
 ヴェラムデリクトはこれでいて、世界の破壊など望んでいないのだと言う。
「はむおじさんにとって、世界の滅亡など本当は如何でもいいのかもしれない」
 駆け出す一行と共に、『縒り糸』恋屍・愛無(p3p007296)も零す。
 それともこれまでの事すら、全てが布石なのだろうか。
 果たして何が望みなのか。
「……ホント厄介極まりないわね」
 アルテミアの言葉に、シラスもまた眉をひそめた。
 だが――いや、今はやめておこうか。
 上の空で立ち向かえるような脅威ではない。
 かならずあれを鎮め、幻想を守り抜かなくては。
「今度の『お土産』は喰いでがありそうだ。それじゃ、楽しい食事会といこう」
 話は食事をしながら聞けば良い。


 ちりちりと地響きが聞こえている。
 細かく爆ぜた洞壁は、周囲に淡い光の雨を降らせていた。
「――今、スかね」
 美咲の合図に、ルカと寛治が目配せを交す。
「だったら、こっちだ」
 岩を一息に蹴りつけたルカは、大上段から漆黒の牙剣を振りかぶる。
 無造作とも思える力任せの一撃に、地霊の一体が爆ぜ飛んだ。
 続く弾丸の雨が地霊達を穿ち、続くシラスが無数の光球を花開かせ――
「任せろ、吹き飛ばしてやるぜ」
 ――明滅。
 立て続けの猛攻は、あたかも岩盤を掘削するかのごとく。
 大精霊ガレオンワームへの道を穿ち貫いた。

 ついにたどり着いた偉容を前にユーフォニーは想う。
 おそらくこれは、試練なのだと。

 それは、あまりに巨大だった。
 それは、ひどく何かと似ていた。
 それは、まるで竜のようだった。

 かつての竜種との戦いを想起せざるを得ない。
 だったら試練を越えれば、もっと話せるだろうか。
 だから答えは――
「――真摯に全力で」
 世界にさざめく色彩が、再び殺到する地霊を煌めく光の粒子へと還す。
 その時、ガレオンワームが身じろぎした。
 かの存在からすれば、きっと身じろぎなのであろう。
 けれど人にとっては暴風雨にも等しい。
 巨大な霊体の尾が迫る。
 迫る尾が光の道をすり抜け、一行へと叩き付けられる。
 避けられる類いのものではない。
 それはさながら水のようでもあった。
 濁流のように身体を覆い尽くし、エネルギーの奔流が一行を貫く。
「ディアナちゃん、お願い」
「任されましたわ!」
「一人でも倒れたらヤバいスね、早めで」
「どうにか頑張ります」
 セララと美咲から指示が飛び、ディアナとほむらが癒やしの術式を紡いだ。

 攻防はまさに一進一退だった。
 ガレオンワームは噂通りに鈍重だが、攻撃は『面』であり、避けるのが極めて困難だった。その一方で、こちらの攻撃は効いているかどうかも分からない。
 敵は規格外のサイズだ。それに――
「――クソッ……キリがないな」
 シラスは悪態一つ、殺到する地霊を焼き払う。
 だがとにかく今は作戦を信じて、圧を弱める他にない。
「何かないか」
 困難な状況においても、愛無は表情一つ変えぬまま状況を探る。
 あまりに散開しすぎれば、癒やしが届かなくなるだろう。
 かといって固まれば、ガレオンワームの餌食だ。
 痛し痒し、食うか食われるか。
 だが、だからこそ興が乗るというものだ。
 愛無が戦況を俯瞰し、状況を共有する。
 寛治が分析し、ルカを司令塔に美咲の状況判断を乗せる。
 そしてバックアッパー達に背を預け、一斉攻撃を仕掛ける。
 全てはこの繰り返しだ。

 ユーフォニーはガレオンワームの横顔を静かに見据えた。
「急に押しかけてごめんなさい」
 答えは咆哮だった。
「何に怒っているんですか?」
 静かに、そして優しく問いかける。
「私たち、あなたを殺めたいわけじゃないんです」
 この大精霊を突き動かすものは何なのか、知りたかった。
「この国に住むひとたちを護りたくて」
 なぜこの一柱は、こんなにも荒ぶっているのか。霊脈を食い荒らすなら、そして元々この辺りに棲んでいたなら、いつかは今と同じ事態になったのかもしれないが。
「もしかして住処を追い出されました……?」
 おそらくそうなのだ。
 誘導されてきたのだろう。
 幻想の建築物が地震に弱いということならば、逆説的に言えばそうした事態が多くないという事でもある。
 ならばこのエネルギーをどこかへ返さなければならない。
 おそらく遠い地の果て、ここではないどこかへ。

「其は主の涙。其は嘆きの泥。悔い改めよ、罪深き者――」

 ――跪き讃えよ、我らが主を。

 戦棍で地を突き、ヴァレーリヤが高らかに聖句を紡ぐ。
 地霊が一斉に地へ伏した。
「どうにか押えてみせるね」
 首をもたげたガレオンワームを、凜と見据えるスティアの背はあまりに小さく。
 けれどその気高い意思を遮るものはない。
 宙に浮かぶ書が、天使の羽のようなエネルギーを溢れさせるようにそのページを次々に送る。眼前に立つ蒼光を湛えた聖杖が輝いている。
 それでも両手を掲げて展開した結界が一枚、また一枚とガラスのように爆ぜ。
 靴の踵がかんらん石の橋を抉り煌めき、けれどスティアは確かに食い止めた。
 今この瞬間であるならば、誰もが自由に動けるのだと信じながら。
 そうすれば攻撃手のみならず、必至に癒やしの術を重ねる美咲達にも余裕が生れる。
「君が頑丈なのは知っている」
 赤く割いた雷光をスケートのように滑り、マリアがガレオンワームへ肉薄した。
「だが魔力はどうかな?」
 リヴァイアサンやメテオスラーク――規格外中の規格外と比すればどうか。
 自信は事実に裏打ちされている。
「このまますっからかんにしてあげよう!!!」
 雷鳴と共に連撃を打ち込んだ。
 膨大な地の精霊力が霧散し、あたりにペリドットの光をまき散らす。
 さて、どちらか先にへばるかの勝負と行こう。


 交戦開始から数分、時間は刻一刻と過ぎていった。
 蓄積された疲労に一行は肩で息をしている。
「どうにか持ち直してほしいもんスけど!」
「重ねます!」
 美咲の機械仕掛けの神による『解決的救済』に、ほむらが術を重ねる。
 秀麗な身体の右半身を漆黒のうねりに変え、愛無は敵陣中枢を見据えた。
「では、これは食っておこう」
 終焉獣に黒い粘膜の塊を叩き付け、咀嚼し、一気に飲み込む。
 そのままかんらん石の橋に食らい付いた愛無は身体を引き寄せ、左の五指を漆黒のワイヤーに変えて地霊の群れをばらばらに切断した。
「どっせえええええい!」
 戦棍が唸りを上げ、業火と共に終焉獣を屠る。
「一丁上がりですわね」
 これで時折厄介な動きを見せた終焉獣は、ヴァレーリヤと愛無が一掃した。
 敵の厄介な回復力はシラスが封じている。
 それに加えてシラスは、都度都度ガレオンワームの――そのあまりに巨大な――重心を崩すことに成功していた。
 いかに山のようであろうとも、たとえ宙に浮かんでいようとも。
 スティアの結界に弾かれるその瞬間は、物理的に大地に接続されている。
 その瞬間に、崩す。
 さながらただの釘一本が、巨大な鉱物を穿ち、真っ二つにへき開させるように。

 ガレオンワームが戦慄くように天蓋を仰いだ。
 突如――景色が歪む。
 膨大な地の精霊力が光さえ逃さぬ黒い点を描き――セララとアルテミアが飛びすさった直後、かんらん石の橋が球形にえぐり取られ消滅していた。
「ブラックホールってかんじ」
「けど、そんな大技、何度も使えるもんじゃあないだろう?」
 マリアが勝ち気に微笑む。
 アルテミアは、ガレオンワームが純粋な生物であるとは思わない
 故に生物としての構造はあてにできないのも分かっている。
 けれどやはり、それはある種の竜にも見えるから。
 さながら侵略のごとく――霊銀の刃を敵の腹部に突き立てる。
 水のような、泥のような。時に透き通り、けれど肉を持つ不可思議な竜身を、腹から顎に向け瞬時に斬り上げる。
 刃の軌跡を追う恋焔が、ガレオンワームの頭部を灼く。
「……やっぱりね」
 こうした存在は、純粋なエネルギーであり自然現象でもある。
 しかし同時に、人の信仰など様々なものを受け取った存在でもある。それが竜のような姿を模しているならば、生き物としての特性も得てしまっているという訳だ。
 これはそうした概念と離れざる存在だ。
「まるで収斂進化みたいだね」
「だったら早く食いたいものだ、そろそろ良いだろうか」
 マキナの言葉に、愛無が返した。
「構わないとも!」
 一行の猛攻はとどまることを知らない。ルカの巨剣とマリアの連撃が、ガレオンワームを物神の両側から攻め続けている。そこへ愛無が加わった。
「……子供の頃に私が砂場で捕まえた虫より、ちょっとだけ大きいですわね?」
「そうだね、ヴァリューシャ!」
 そう言ってしまえば、身も蓋もない。
「手番を奪えることは分かっていますから」
 頭部を失い、なおも動きをやめないガレオンワームに、寛治は拳銃のトリガーを引き絞る。敵と比すれば砂粒のような弾丸は巨大な腕の付け根へ吸い込まれ、弾痕さえも見えないほどに――けれど確かに、その腕の一撃を宙へと滑らせた。
「こうして積み重ねるまで」
「今だよ、ディアナちゃん」
「では行きますわよ」
 セララとディアナが対角から壁を蹴った。
 ガレオンワームの真上で片手同士を結び、くるりと円を描いて空中に静止する。
「幻想にはボクの友達がたくさんいるんだ。絶対に守ってみせる!」
「「セイクリッド・クロスハート!」」
 ガレオンワームが咆哮する刹那、その僅か一瞬だけ前に。
 ディアナの放つ光線がその巨大な口腔を焼き、雷撃を纏うセララの聖剣が上下の顎を縫い止め――
 ガレオンワームの頭部が、ついに爆ぜた。
「このまま畳み掛けるしかねえってことだよな」
「ああ、とにかくぶん殴りゃあ良いんだろ!」
「どっせえーーい!!!」
 シラスに続き、ルカとヴァレーリヤが巨体を貫き――
「オラァアアーーーー!!」
 ルカが歯を食いしばる。
 正念場だ。
 ガレオンワームの節くれ立った太い棘を、ルカが掴んだ。
 そして巨剣を力任せに突き立てる。
 ガレオンワームが身をよじり、ルカの身体が振り回される。
 遠心力に身体の血が偏り、視界が真っ赤に染まった。
 しかし手は離さない、何度でも突き立てる。
 ルカの巨剣がついに胴を両断した。
 そんなガレオンワームは、頭部はおろか半身さえ失いながらも、再び膨大な魔力を集中させている。景色さえ歪むほどのエネルギーは――
「どうやら――私の勝ちだね」
 マリアの笑みは凄絶だった。
 光さえ飲み込む超重の精霊力が、顕現間近に霧散する。
 もはや扱いきれるものではないのだろう。
 ガレオンワームが身体をゆさぶっている。
 飢えた獣が獲物を貪るように、周囲の地霊が次々と砕けていく。
 精霊力を食っているのだ。
 だが、最早まるで足りていない。

 それはもはや存在を失いかけている。
 それでも脅威であり続けているのは、単に途方もない大きさだからだ。
 僅かに動く度に、その巨体は一行を責めさいなんでいる。
 数十メートルの、暴れ動く、巨大な塊。
 ただその物量そのものが脅威なのである。
 大精霊は止まらない。
 ゆっくりと、ゆっくりと。
 王都の方向へと向かっている。
 一行にも焦りが感じられ始めた。
 結局――シラスは拳を握る。
 及んで居ないのだ。人の身では。
 このままでは幻想王都は壊滅する。

 ――子供の頃に、何度それを夢見ただろう。

 こんな時なのに昔のことが頭を過ぎる。
 貴族も平民もスラムのクズ共も、赤ん坊だってみんな死ねばいいと。
 全てを滅茶苦茶にしてやりたかった。
 シラスは自身がイレギュラーズに選ばれたのはそのためだと本気で信じていた。

 ――けれど今は、護りたいよ。

「まだ終わりじゃねえ!」

 叶わぬ奇跡さえ願って、けれどその手にありったけの魔力を束ねる。
 身体はどこまでも自然体だった。
 マインドルーティーンに乗せ、コマ送りのようにゆっくりとした視界の中で。
 何でもいい。
 あれを終わりに出来るもの。
 ならばイメージは剣だ。
 水さえ刃や弾丸となるように、魔力を極限まで収束する。
 地を蹴るシラスが、すれ違い様にただ一振りの竜撃を放った。
 そして瞬き一つ分の時間が過ぎた。
 シラスが対角上の石橋に降りた時。
 ガレオンワームの巨体は、とうとう完全に霧散した。


 あとに残ったのは――
 透き通った小さなトカゲのようなものだった。
 十センチほどのトカゲ――ガレオンワームは一行へ両手を振り上げ、牙を剥いて威嚇を繰り返している。
「大精霊さん、貴方はどうして暴れているの? 怒っているの?」
 セララもまた問いかける。
「理由を教えて欲しいんだ。もしかしたらボク達が協力できるかもしれないし」
「分かった気がします」
 ふいに呟いたのは、ユーフォニーだった。
 おそらくこれはデザストルのほうから来たものだ。
 幻想に住まうものではない。
 なんらかの誘導によって追い出され、レイラインに乗ったのだ。
 そしてそのまま、幻想王都へと向かっている。
「だから返すの方角は、あちら側のはずです」
 頷きあった一行に、ユーフォニーはガレオンワームを両手のひらへ乗せた。
「怒らなくて大丈夫です」
 ガレオンワームはとまどうように、きょろきょろとした。
 それから座り込み、しばらくしてから立ち上がる。
「あちらです」
 ゆっくりとあるく先は、ユーフォニーの指さす方角だった。
「悪くない味だった」
 感情を乗せぬ声音で、漆黒の粘膜を全て人の身に納めた愛無が背を向ける。
 あれは再び竜達に噂され、伝承に紡がれるのだろう。
 そしてきっとまた、竜達の足元を揺すって驚かせるのだろう。
 けれどそれは人ならざる竜にとっては微震であり、なにより何百年も先の話になるのだろう。

 ――もしもこの世界が続く可能性があるのであれば。

「ヴェラムデリクト、また止めてやったぞ」
 声を張り上げたシラスの前に、闇がわだかまっていた。
 それにしても毎度毎度、試されているような気になってくる。
 ヴェラムデリクトは拍手をしていた。
「見事だとも、これは素直な賞賛だ。受け取っておけ」
「ヴェラムデリクトさん」
 ユーフォニーが呼びかける。
 折角握手までしたのだ。心の手を取り合える可能性を捨てたくない。
「何だ」
「ヴェラムデリクトさんが滅ぼすお仕事以外にしたいこととか、興味のあることってありますか?」
「本はいい、観劇もな。睡眠も時間をやり過ごすのに最適だ」
「不思議なんです。積極的に滅ぼしているわけでもないのに、ならどうしてその立場に居続けているのかなって」
「……」
「自由になれないものなんでしょうか」
 やっぱり仲間だから大切なのだろうか。
「アンタさ……ラスト・ラストの連中嫌いだろ?」
「……」
「だったらさ、俺らとお茶でもしないか」
「このごに及んでか?」
「掛け替えのない時間が足りてないのは多分お互い様だぜ」
「なるほど意趣返しというわけか、生意気な小僧め」
「のらりくらりとやるってんなら俺は賛成だな」
 シラスの言葉に、ルカもまた続けた。
「で? ぶっちゃけどれぐらい待てるんだ」
「二ヶ月だ」
「それだけかよ、百万年もするなら人類だって滅んでる。それで良いってんならここでお前と事を構える気はねえんだがな」
「いいや、二ヶ月だ。私としても千年万年を与えてやりたい気持ちはあるがね」
 そんな言葉に寛治が腕を組む。
 そもそもヴェラムデリクトの最終目的は何なのか。
 世界の滅びそのものは彼等の手によるものではないのかもしれない。
 ヴェラムデリクトの姿勢は、状況を『抗いようがない』と座視している。
(他のBAD END 8は兎も角、彼には戦う理由が無い……?)

 さて、ここからどう転ぶか。
 美咲は思案していた。ヴェラムデリクトを睨むアルテナの様子からするに、保って三分といったところだろうかと思える。
 そもそも――アルテミアは胸のつかえがとれていない。
 停戦を受け入れたとはいえ、むしろ泥濘にはまったような嫌な予感がする。
 芝居がかった言葉もそうだ。人の懐に入り込んで、内から食われるようなイメージすら浮かんでくる。
「ふと思ったのだけれど、ダンジョンに小銭をばら撒いたのは貴方ですわね?」
 問うたのはヴァレーリヤだった。それは愛無の予想とも一致する。
 なぜ金銭をばらまいたのか。
 それともダンジョンからの収集品を普及させることに目的があるのだろうか。
 もしかして――
「最後に良い思い出を作らせてあげて……死者への餞別のつもりかしら」
「全くいかにも、その通りだが。世界が終われば金に何の価値がある。これで終わりなのだから、盛大に飲み食いし、遊んでいればいい」
「有難う。でも、その程度では足りませんわ。だって私、欲張りですもの」
「ごうつくばりめ、だが悪いとは思わんがね」
「私達が生きた意味も、愛する人達も。こんなところで終わらせない」
「……」
「終わらせたくありませんの」
 きっぱりと言い切る。
「そろそろ教えて頂けませんこと? 『あの自然現象』とは何なのか」
「代謝だよ。この三千世界を包むすべてのな」
「手は届きませんの?」
「過分にして知らん。出来るのならばとっくにやっている」
 例えそれが氷河を溶かすような途方もない話だとしても。ヴァレーリヤは可能性に賭けたかった。
「要するに、不可能だということだ」
「あら、不可能とは限りませんわよ。計算は狂うものでしょう」
「……」
「ほんの数年前の貴方だって」
 ヴァレーリヤが続ける。
「こんな状況になっているだなんて想像もつかなかったのではありませんこと?」
 そのために手を貸してもらえるなら、これ以上ない追い風とも言えるが。
「全く口が減らん司祭もいたものだ、いや司祭というのはそういうものか」
 そもそも――セララは思う。
 ヴェラムデリクトは嫌々ながらに仕事をしているだけのように思える。
 呼び声も発さずに、人への害意も高くはない。
「仕事をする必要性が無くなったら共存できたりしないかな」
 なぜか誰かが美咲を見た。
「ボクはヴェラムさんを倒すより、貴方の『仕事』の方を倒したいな」
「仕事を……と来るか」
「世界を滅ぼす仕事って『手段』であって『目的』じゃないでしょ?」
「もっともだな」
「目的の方を教えてくれないかな。もしかしたら和解や共存ができるかも」
「しかしなぜ」
「だってボクはヴェラムさんとも友達になりたいんだ」
 その言葉に、ヴェラムデリクトは大きな溜息をついた。
「まったくもってうんざりする、どこまでも英雄だ。お前等と来たら」
「素人質問で恐縮なのですが」
 質問する寛治へ視線を送ったヴェラムデリクトは面倒くさそうに手を振る。
「一体何だ」
「貴方の言い分は、喩えるならば末期がんの患者に対し、治療の見込みが無いからと余生のQOL向上を促す、医者のようなものです。そしてその治療方針は、我々医療チーム(ローレット)のそれとは異なる。しかしながら相違点はそれだけだ」
「何が言いたい」
「アルテナさんの個人的な事情は理解しますが、それ以外に我々が敵対する理由がないように思えます。どうでしょう、このまま楽屋に籠もっていただけるなら、無駄な争いを避けられるのですが」
「不可能な提案をするな、私はお前等をとめなきゃあならんのだ」
「仕事だから?」
 セララが食い下がる。
「まさかお前等、この私が仕事をしたくないと思っているんじゃあないか」
「申し訳ないながら、そのように見える」
 寛治も続けた。
「気が乗らんのは事実だ。面倒なのも、結果を望んでいないことも含めてだ」
「……」
「だが私は私の意思で、これを遂げようとしている」
「さっぱり分からないわ」
 アルテミアはさすがに苛立ちを隠しきれなかった。
「そもそもなぜ、仕事の内容を、目的を、敵対陣営に披露してやらねばならん」
「……」
「あなたは……」
 アルテナが細剣を抜く。
「あなたはそうやってお母様を殺したの!?」
「殺しては居ないだろうが。見捨てただけだ、嫌々ながら――」
 返答を遮るように、アルテナが鋭い突きを放った。


 アンタの言い方が不味くてアルテナ氏が激おこだから、帰る前に発散に付き合いなさいよ。三分ぐらい茶番できるでしょ。

 要するに美咲が伝えたかったのはそういう話だったのだが。果たして――
「やるなら停戦協定はノーカンよ、大事な友達のためだもの」
 アルテミアの舌鋒は鋭い。
「アルテナさんに恨まれようとしているの?」
 スティアが問う。
「なぜそう思うね」
「本当は守りたかった。でも家族を守れなかった」
「……」
「そんな後悔があるんじゃないの?」
「後悔は尽きんものだ」
 どうしても他の魔種とは違う気がしてならない。
 わざわざ煽った言い方をしているのにも関わらず、父親の愛情を感じざるを得ないのが、気になって仕方が無いのだ。
「どちらかを選ばざるをえんのだから、仕方が無いじゃあないか」
 やはりどう考えても、家族を愛しているのだ。ヴェラムデリクトは。
 正直に云えば、気がすすむものではない。これ以上戦うのも。

 それはずいぶん短い交戦だった。
「これはアルテナ君の分だ!」
 マリアが拳の一撃を見舞う。
 手応えは感じる、魔力量は相当なものだろう。
 一行の猛攻を、ヴェラムデリクトは魔力障壁で凌いでいる。
 少なくとも、そう見える。
 そして攻撃のほうは、散漫なものだった。
 多彩な術式を操るが、言ってしまえばその程度だ。
 もっとも手を抜いているようにも感じる。だからだろう、アルテナは余計に苛立っているようだった。
「結局、アルテナ氏を突き放したいんスか?」
 肉薄し、美咲は小声で問う。
「正直、あの態度逆効果スよ」
「……」
「もう少しわかりやすくしてもいいと思いまスがね」
 それにしても――マキナは思った。
 父娘はどこも『こう』なのだろうか。
 自身が知るのは師弟関係だからまた異なるのかもしれないが。
 十年のディスコミュニケーションの末に、天義でもああだ。
 それに対話のほとんどが模擬戦と来たものだ。
 美咲とてあれでいて、拳こそが会話だと思っている節がある。
 おそらく無意識に。

 そもそも――愛無は静かな視線を外さない。
(はむおじさんは、どんな手を打ってくるのか)
「本当に普通の食事でも如何だろう。はむおじさんの奢りで」
「断ると言ったろう」
「だったら君の企みは阻止されたし、もう帰ってくれてもいいんじゃないかな?」
「……」
「それとも他に何かあるのかい?」
 マリアが続けた。
「アークロードたる君の策が、これだけで済むとは思えないんだよね」
 地霊を利用して、自身も何かを企てているのだろうか。
「そもそもだ。
 なぜ出来ると思う。
 どこに可能性がある。
 私はな、イレギュラーズだったんだよ。
 魔種の起こした帝国を滅ぼしてもやった。
 だがね、この世界は一ミリも変わらなかった。
 ああ全く以て変わる事なんてありはしなかった。
 空中神殿の少女は、結局同じ事を言い続けるだけだ。
 この世界は滅ぶのだとな。戦う理由がないのはお前等のほうだということだ」
 ヴェラムデリクトの言葉に、ルカが微かに眉をひそめた。
「何も変わらない、変えられないのだからな。
 お前等はこの後に及んで、この世界の真相にたどり着いていない。
 私と同様にな。
 さて時間切れだ。幕引きといこう」
 ヴェラムデリクトが指を鳴らす。
「このさもしいほらあなは三分もあれば崩落するが、どうするかね?」
 あたりに地響きが聞こえ始めた。
 このまま飛びあがり、あるいは駆け上がればどうにかといった所だ。
 交戦を続ければ、生き埋めは確実だろう。
「また、教えてくれるんですね」
 ユーフォニーが問う。
「私にはな。お前等を殺す動機も、準備も、手段も十二分にある」
「ではなぜ、試し続けるんですか」
「いいや、話は終わりだ。とっとと失せろ」
「……」
「それでもお前等が可能性にすがるなら。掴もうとするなら、あがくなら。
 私の城にでも来ることだ。その時ならば、ああ、せいぜい歓迎してやろう」

 ――最後の晩餐だ。

 結局、ヴェラムデリクトに痛打を与えることは叶わなかった。それしきのことを作戦の失敗だと言い張るのであれば、それは確かに失敗には違いないだろう。
 だが一行が守り抜いたものは、きっとそんなちっぽけなものではなかった。
 今はその誇りを胸に抱く他にないのかもしれない。
 幻想王国は、確かに護られたのだから。

成否

失敗

MVP

ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

状態異常

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)[重傷]
白銀の戦乙女
セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)[重傷]
願いの星
アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ
マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
神喰い
佐藤 美咲(p3p009818)[重傷]
無職
ユーフォニー(p3p010323)[重傷]
竜域の娘

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 結果は結果ですが、なすべきはなしたと思います。
 幻想は護られ、ヴェラムデリクトの能力もそれなりに判明しています。

 MVPはおそらく真相にもっとも近付いた方へ。

 それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM