シナリオ詳細
<漆黒のAspire>アシェンプテルは救われない
オープニング
●『大樹』
焔は嫌いだ。全てを灰燼へ溶かし、風は疾くも全てを攫って終うから。
焔は嫌いだ。我らが同胞の命を奪い去った後に何も残すことが無いから。
焔は嫌いだ。わたくしは――生きている全てを護る事だけを求めていたのに。
死の象徴たる焔の気配がさざめいた。そう感じ取ったときに魔女ファルカウは「ああ」と呻いた。
何と言うことか。己の魔法は万全であった筈なのに――後生に残した祝福が転じ災いとなって降り注ぐのか。
見ただろう。星々の慟哭を。それらは天より落ちて地を叩く。さめざめと泣く雨が地を穿ち穴を開いて全てを飲み干す様子を。
見ただろう。海嘯の叫声を。それらは何もかもを無へと化すように手を伸ばす。地を喰らえば全てを攫い真白きキャンバスを作るだろう。
「わたくしは、誰にも知られずに大樹として消え失せ子らが生きてゆく事を願ったというのに。
何と言う浅ましいことでしょう。この世界は戦を知りすぎた。戦乱を愛し、全ての綻びを無理にでも縫い合わせた。
不出来なパッチワークともなれば、救いなどはないでしょう。
灰色の王冠(グラオ・クローネ)に謳われる感謝など、形骸化してしまった。
わたくしは――世界がこの様に戦乱に濡れることなど、望んでは居なかったのに」
ファルカウは頭を抱えて呻いた。
ドレスの裾が汚れる事など気にする事無く項垂れて、唇を震わせた。唾液に湿った唇は悍ましき呪文をほどくことを拒絶し震えた。
魔女ファルカウは古代に生きた女だった。
遠い遠い昔。まだ、大樹がファルカウとも呼ばれていなかったような、伝承の世界の話だ。
彼女の編み出した魔術形態は言の葉に魔力を載せ編み上げる精密なるしあげであった。
それこそ、シルクのハンカチーフで包むように柔らかに。羽根の一つを毟り取りテーブルに落とすような軽やかさで。
精密に編み込んだ魔法で作り上げたのは大樹ファルカウという『象徴』の生誕に他ならぬ。
――わたくしは全てを抱えて眠ってしまえば良い。そうして、わたくしとこの大樹が一つになれば、同胞は救われる。
木々には恵みを。滅びは癒やしへ。平穏を愛する子らはこの森を開くことなく、微笑み生きて行けば良いのだから。
願いと共にファルカウは己を封じた。
戦いなどしらう事は無いように。自我など持たず、欲望など持たず、爛れることを知らず、失楽園に駆けずり回ることなどなく。
清廉であれと願うわけではない。清純であれと願うわけではない。ただ、争いの火種を燃え広がらせることなきように。
長い耳は人々の声を聞くためにあるだろう。伽藍堂の体に満ち溢れる魔素は美しき世界を知るためにあるだろう。
だからこそ――もう二度とは罪など抱くことがなきように。
魔女の呪いはひめやかに。
魔女の呪いはあでやかに。
世界に浸透する毒のように広がった。
――祝福を。どうか、祝福を。わたくしの祈りと願いは光となって降り注ぐ。
あなたが頂きに立つときに、極光は全てを晒すことでしょう。わたくしの眠りが目覚めぬ限り、全ての不和は引き受けましょう。
ただ、わたくしが目覚めてしまえば、抱き続けた不和は溢れ落ち、あなたの罪を裁定する事でしょう。
けれど、怖れないで。石となり、岩へと化し、一輪の花へと成り果てようとも。
わたくしは、その種を手に、あらたな場所へと連れて行くことでしょう。
戦乱に溢れたこの世から、死と慟哭に溢れたこの世から、わたくしは全てを攫っていくことでしょう。
ファルカウという女は知っている。己の身がこうして顕現したことも、怒りに染まったことさえも。
全てが全て、この世界が戦に溢れすぎたから。この世界が全て、不出来なパッチワークで縫われた無理の象徴であることも。
「平穏のドレスを纏って踊る時間はお終いですわ、シンデレラ。
あなたが王子様に焦がれて待っているだけでは、もう何も起きないのですもの――」
●『オンパロス』
大樹ファルカウの最上層部。天を頂くその場所にリュミエ・フル・フォーレは立っていた。
手にした杖は罅割れて、魔力を集めることも叶わぬ現状に乾いた唇がなんとか音を組み立てる。
薄いヴェールから覗いた夜は何時だって美しいものであったけれど、今は星は瞬くことなく灰色の雪がちらり、ちらりと落ちてくる。
リュミエの目にはそれが燃え滓のように見えた。
いつかの日に、冠位と呼ばれた者がこの森を閉ざしたその時に焔が焼いた木々はあの様な灰霞に転じてしまったか。
どれ程に美しく見えようとも、それが命を焼き払った死を象徴すると知っている。
(ああ、けれど、いけない――)
ふらつく脚を立たせたリュミエを支えたのはフランツェル・ロア・ヘクセンハウスだった。彼女の目許にも疲弊は滲み、鮮やかなハニーピンクの髪はごわごわとしている。
「リュミエ」
「……フランツェル、大丈夫ですよ」
「いいえ、大丈夫じゃないわ。ポイボスの若木が……アルティオ=エルムの正常性を保つ気候が動かないのだもの。
その代りをリュミエが一人で肩代わりをして無事であるわけがない。大丈夫なわけがない」
「けれど、そうしなくては大樹は枯れ落ちます。我らの象徴は消え失せてしまう。私が為さなくてはならないの!」
リュミエは珍しく声を荒げた。フランツェルが目を見開き唇を噛む。そんなこと、分かって居る。
急激に世界の温度が下がっていくように感じられた。オンパロス、神託の宮に一人の女が立っていた。
かつりと鳴ったヒール。黒いドレスからすらりと伸びた脚の周辺には若草の気配がした。柔らかな黒髪に萌黄の色を宿したその人は、紛れもなく――
「……ファル、カウ」
リュミエは呼んだ。名乗られずとも分かる。
その気配、その姿、その『在り方』
大樹ファルカウが顕現したのだと、リュミエが膝を付いた。
美しい緑の瞳に、虹の輪を頂くその人は「巫女」と静かな声で呼んだ。美しく、そして、艶やかな声音は地を這いずる。
「もうやめにしましょう。
わたくしたちは、これ以上何を求めるというのです。翼を広げようとも空を飛ぶ事はできません。
これ以上、息をしていては不和の吐息は大地を包み込み、入らぬ死を齎すでしょう。水が尽きてしまえば喉を潤すこともできませんわ」
ファルカウはゆっくりと目を伏せた。大樹の気配を宿した魔女は首を振る。
「わたくしは悲しいのです、巫女よ。灰薔薇の魔女よ。
おまえがその心に刻んだ記憶を紡ぎ合わせれば、よく分かるでしょう。
わたくしは目覚めてしまった。わたくしが世界に齎す祝福の代償は呪いであったのですから」
ファルカウの周辺に満ちた炎の気配にリュミエが目を見開いた。
騒々しいほどに精霊達が叫び声を上げる。満ちた平穏の気配が消し飛んで、辺りに怒号の様に風が吹く。
「ああ、だから――終わりに――」
「リュミエ!」
フランツェルが滑り込んだ。その腹を掠めた焔が身を焼いた。焦げる臭い、肉の焼けた臭いと、痛々しいほどの苦痛の吐息。
「フ、フラン……」
「あなたがいないと、駄目なのよ」
フランツェルが杖を手にゆっくりと立ち上がった。
「ファルカウ、あなたがこれまで世界に存在した滅びを抱き、眠っていてくれたことは良く分かったわ。
けれど、もうすこし私達に賭けてみない? 私の友達の魔女と、ちょっと利かん坊なガンブレイカーはね、世界を救えるのよ。
あの子達だけじゃないわ、もっともっとそう。私って友達が多いから、救世主とか沢山揃えて生きているのよね」
「……」
フランツェルは「だめかあ」と呟いた。焔の気配と共に、ファルカウの後ろには精霊達の姿があった。
滅びの序曲は紡がれた。馬鹿げたワルツを踊るのは、全ての作法がないだけだ。もう作法なんて守っている暇も無いのだろうけれど。
●魔法使い
「灰色の雪だわ」
マナセ・セレーナ・ムーンキーはそう言って天を見上げた。
「何かを燃やした後に出る滓みたいでいやね」
呟いてから、マナセは階段を上る。ファルカウの上層部は禁足地だ。それを知りながら最上層を目指すのは――
――ファルカウが顕現したってどういうこと!? 意味分かんない!
そう、巫女からの火急の連絡がやって来たからである。
Bad End 8と呼ばれる存在にファルカウと呼ばれた魔女いた事は判明している。
彼女がアルティオ=エルムの、そして、その象徴のファルカウに何らかの手を加えようとしているというならば止めなくてはならない。
「急ぎましょう」
マナセは脚を縺れさせながら走った。
正直、恐かった。「ばん……ど……えいどなんとか?」という存在なんて恐ろしいに決まっている。
悍ましい。けれど、イレギュラーズが居るならば何とかなるはずだった。
「目標はね、ファルカウに一度帰って貰うのとリュミエさまを確保する事なのよ。
あとね、最上層をコッチで守り切るのがそれとイコールなの。なんか、さっき見たら空に大きい黒い穴が開いてて……」
バグ・ホールではない。それは滅びの気配を発している。
つまり、影の領域から衛兵を運んでくる舟の役割なのかも知れない。ファルカウさえ撤退すれば其れ等は直ぐにでも立ち退きをお願いできるだろう。
だが、ファルカウをこの場に存在させれば『大樹』の上層部は敵で溢れることとなるか。
「……うーん、わかんない! 行ってみて考えよう!」
魔法使いは頭を悩ませながらそう叫んだ。ちらつく灰の雪は、僅かな火の気配を宿しているかのようだった。
- <漆黒のAspire>アシェンプテルは救われないLv:60以上、名声:深緑50以上完了
- GM名夏あかね
- 種別EX
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2024年03月05日 22時06分
- 参加人数10/10人
- 相談5日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
深々と降る灰色の雪は全ての色彩を忘れ去ったかの如く。
グラオ・クローネの御伽噺で良く知られるこの場所に色彩を失する雪が降るのは明示的であると『魔法使い』マナセ・セレーナ・ムーンキー(p3n000356)は感じていた。
この世界に訪れてから、寓話の類いは学んで呼んだ。異世界(プーレルジール)と似ていて、それよりも発展した無辜なる混沌の在り方は御伽噺の登場人物でしか無かったマナセにとって刺激的なものであった。
正しく異世界旅行を行って居ただけの少女は演劇の一幕であるかのように訪れる世界の終焉をその双眸に焼き付けていたのだ。
硝子の靴で階段を駆け下りていく姫君は、別れを惜しむように真珠の涙の一粒を零すのだろう。塔の中で眠る娘は、外など知らず大空を夢見る蛙の如く微睡み続ける筈だった。針に一刺し、指先の血潮が溢れ落ちれば呪いは全てに広がっていく――寓話のお姫様なんてものは、そうやって『王子様』の救いを待っていたのだから。
大樹の魔女と呼ばれる古代の娘。大樹ファルカウと名を同じくした魔女『ファルカウ』はそれ程夢見がちな乙女では無かっただろう。
それは『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)がよく知っていた。
プーレルジールで共に旅した女は栗鼠をよりしろにして居たが聡明な女であると認識していた。
世界の行く末を案じてその身を大樹に寄り添わせたのは、きっと混沌世界と同じ事であったのだろう。
その果てが――これだ。
火急の連絡を受けて、イレギュラーズは普段は立ち入らぬ場所へと向かう事となる。上層への道はなだらかな坂である部位もある。
それ程整備された印象を受けないのは上層部は通常の人間は立ち入らず、せいぜいが選ばれた神官達の領域だからなのだろう。木々の茂りは深くなり、道は狭く、険しい木の肌が露出する。まるで登山だ。土を踏み締めては枯れ木を破り捨てる感覚である。
だが、上へ上へと登るにつれて空気は冴えた。ひんやりとした気配と灰色の雪の感触が肌を伝うように感じられた。
それは聖域だ。神託の宮(オンパロス)。
天蓋と呼ぶべきものは存在して居ないが、薄いヴェールは膜のように張られている。聖域を守る結界の役割と呼ぶべきだろうか。些かそれが傷付いて見えたのは、ああ、成程――『竜種襲来』によるものであったのだろうか。
その地へ、向かいながら『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は唇を噛み締めた。火を自らに備え持った精霊種(グリムアザーズ)はアルティオ=エルムで焔が忌嫌われている事を知っている。
火は大罪である。木々を燃やし尽して仕舞うから。火は恐怖の象徴である。全てを灰燼と化し、遺るものの一つさえ無くなってしまうから。
(ええ、そうだわ。そうなのね)
胡桃は全部が全部分かって居るわけではない。全てを理解出来たわけではないが、取りこぼした多くから目を背けたとしても半ば本能的にこれではいけないと己の存在自身が警鐘を鳴らしていたのだ。
(火の気配――)
ちりちりと焦がす。誰ぞの焦燥か。それとも恐怖か。はたまた、悔恨と苦肉の涯て在り様か。
分からなくともその焔が全てを燃やす事は許してはならないのだ。そう、喩え――『わたしという炎を受け入れてしまった事すらこの国の堕落であった』としても。
オンパロスの中心で、身を屈めて俯く女の姿があった。長く伸ばされたクロッカスの髪は毛先がばさばさと荒れ、普段の清廉な巫女の姿は崩れている。土埃を被った装束に包まれた女を守るように杖を手にしていたのは薔薇の意匠をふんだんに取り入れた魔女の娘であった。
妙齢の女を思わす巫女――リュミエを守るのは年端も行かぬ少女のなりをした『灰薔薇の魔女』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)だ。どちらもそれなりの年齢であるが、この大樹はひとつの呪いのように自らの守人達にいましめを与えているかのようだった。
「リュミエ、持ちこたえてね。だーいじょうぶよ、いざとなったら私が守ってあげるし」
「フラン」
「次代の選定はしてるのよ。……ウチに病気だけど、一度は死のうとしたけど、のびしろのある子が居るのよ。
ルクアって言うんだけどね。ちゃーんと指導してくれるかしら。リュミエなら育てられるでしょうし」
「フランチェスカ」
「その名前は捨てたのよ」
くすくすと笑う娘は幻想貴族アズナヴェールの出生である。フランチェスカ・ロア・アズナヴェールは名を捨てファルカウの神官となった。
その時から覚悟は決まっていた、けれど。
「いけません」
――いつもすかした顔してんのに、こういう時だけ捨て子みたいな顔するんだもんね、リュミエ。やになっちゃうわ。
幾年も永きを過ごしたこの人は擦り切れることのない精神を捨て去ることさえできないのだ。
炎の気配が周囲を包む。灰の雪は天に招かれ風が吹き荒れる。リュミエの守る『ポイボスの若木』は未だ保護結界は破られない。
もしもリュミエが死してしまえばその結界は割れ砕け大樹との疎通が出来るものをも喪うだろう。そんな簡単なイコールをフランツェルが知らないわけが無い。
足音が響き渡った。どうやら間に合ったらしい。後方から飛び込んできた娘の灰色の髪がふわりと揺らぐ。その姿に『彼女』の俤を見てフランツェルは目を細めた。
「リュミエさま! フランツェルさん! もう大丈夫なの。メイ達、ここを一緒に守るですよ!」
転げるようにやってきた。『ひだまりのまもりびと』メイ・カヴァッツァ(p3p010703)の金の眸が正面を見据えた。
酷く狼狽えた気配をさせたのは、三人の精霊の姿があったからか。そして、腕が――木々の『腕』が持ち上がる。
「どうして」
三人の精霊に、いいや、童話で見られるような『三人の魔女』の祝福に、見守られるように立っている女の唇が戦慄いた。
「どうして、邪魔をするのですか」
長く伸びた射干玉は夜闇のヴェールの如く。
若草の気配を孕ませていたはずの艶やかな髪はその全てを喪った。
美しき森の魔女。森に渦巻く生命を掻き抱くための腕はその全てを愛さない。
「――わたくしの子達まで。嗚呼、嗚呼、何てこと。
人は哀れにも殺戮を肯定し、焦土に立つことを選ぶというのですか。
わたくしは森の魔女。全ての始まりに芽吹くただのひとり。もう、終るしかならないのですか」
彼女は、森の魔女は、『ファルカウ』と呼ばれたその人は、酷く苦しげに呻いた。
●
「あれがファルカウ……その精と言いますか、大樹そのものと言いますか……」
その姿を始めて見たときに『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)はそう認識した。
只の人間らしからぬ、始原に立ちはだかった大樹の如く。若芽と言うには余りにも朽ちた精神が襤褸のように崩れてくる。
その周辺に漂う木々の腕は慈しむように『母』の姿を眺めるような。大海が抱いた命の如く、この森の全ての始まりであるように女は立っている。
「いつかの怒れる樹木の精霊達よりもっと根源的なもの、ですか。もしかしたら大樹の始祖のようなものかも知れませんね」
だからこそ、彼女は全てを終らせるつもりなのか。真白の大地に木々を植え、光は極限ならば指し示す。闇を求めるならば、己がマントが覆い隠そう。
「樹なら命を生み出せるって木漏れ日の妖精としては一言物申したいのだけどね!」
その考え全てを否定はしないけれど「太陽がなれば植物たちは生きていけないでしょうに」と『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は眉を吊り上げた。
「全ての物事は手を取り合って存在しているのよ。マナセ、貴女はまじないを知ってるわ、本調子じゃなくても頼りにしてるから」
「も、勿論よ! けど……恐いわ」
ポメ太郎をぎゅうと抱き締めたマナセは『戦輝刃』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)を見てから穏やかに微笑んだ。
「ねえ、ベネディクト。ポメ太郎を連れて来てくれて有り難う」
「……いや」
小さく首を振ったベネディクトはマナセも『眼前の女』に途惑いを抱いていることを理解してた。それ故に、彼女の心の安定を図るべく使い魔であるポメ太郎を連れて来たのだ。
マナセはポメ太郎を好いている。幼い少女はベネディクトの使い魔を実の家族や、弟、はたまた兄のように慕っているのだ。
「わん、わんわん(ボクは戦えないですけど、応援しか出来ないですけどそれでも、少しでもマナセさんとご主人を応援したいのです!)」
「ええ、ええ。それでいいの」
マナセはぎゅっとポメ太郎を抱き締めた。ポメ太郎の言葉を聞くことが出来る耳を持っていて良かった。心はすうと軽くなる。
熱すぎる湯を飲まされ続ける感覚だった。その上で、背中に石を積み上げて大地に這い蹲れと誹られているような。
「……わたしね、怖くって堪らないの。ポメ太郎がいれば百人力だわ」
「くぅん……(戦う事は怖いことです)」
戦いは全てを攫っていって仕舞う。ポメ太郎が黒狼隊の屋敷で待っていて、帰らぬ人々は幾人も居た。
だから、無理を承知に使い魔は此処へまでやってきたのだ。
『でも、だからこそ傍に居たいと思うのです。マナセさん、ご主人! 頑張って! ――この場所を、ファルカウを守って!』
「そうね、全部終ったらポメ太郎と沢山のお散歩をしなくっちゃだもの!」
マナセはにんまりと笑ってからポメ太郎を入り口の方へと誘った。
「みていてね、ちゃんと……みんなと頑張るからね。ね、オデットさん!」
「そうよ。マナセ。まだまだ話がし足りないでしょう?」
木漏れ日の下でティータイムを楽しむと意気込むマナセにオデットは頷いた。
周囲を包み込む『神域』の気配。周辺の維持はこの戦いで全てが瓦解してしまわぬようにと言う『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の配慮であった。
視線の先には三人の精霊。一人一人の姿は違って見える。だが、三人ともが魔女の姿をしていることだけは共通していた。
「……戦わなくてもよろしいでしょう?」
ファルカウの唇が擦れた音を立てた。その眸は憤怒の焔を宿す。苛立ちと、苦しみと、そして――悲しみを込めて。
「皆さんを、巻込むわけには……」
ふらりと立ち上がるリュミエへとフランツェルが「リュミエ!」と叫ぶ。その視界を覆い隠すように暗い影が落ちた。
「待たせたなリュミエ、どうせ一人で頑張る気だったんだろ」
「クロ……バさん……?」
これまで姿を見せることの無かった彼は見慣れた笑みを浮かべていた。快活で、少年のような朗らかな優しい微笑み。
『傲慢なる黒』クロバ・フユツキ(p3p000145)にとってその姿を見られることは避けていたが、今はそうした事に拘るときではない。
「残念だったな! 颯爽と助けに来たから、お説教は後で楽しみにしててくれよな」
――何も気にする事は無いのだ。清廉なる巫女。悍ましい呪詛に染まった青年の姿。交わってはならぬと避け続ける時間もこれでお終い。
「全てをわたくしに任せればよろしいではありませんか。
どうして戦いを選ぶのですか。まだ、わたくしはこの地を燃やし尽したくなどない。全ては白日の下に晒された。
罪の烙印は、確かな足跡となりましょう。構わぬ事。その怨嗟さえも飲み干して、わたくしは皆を救ってみせるのです」
ファルカウは朗々と告げる。ぴくりと指先を揺れ動かし、弓を構えた『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が首を振る。
「……大樹ファルカウ。それが抱いてた怒りは世界への。貴方の怒り。ただ、悪いけども……。
――ねえ、ファルカウはん。自分はまだ、此処で生きていたい。今の世界で。変わってしまった世界で生きたいわけではないんよ。
その思いを。そこから生み出される力を全部。ぶつけるで!」
「そうしてわたくしの望みを歪めてしまうと言うならば――」
酷く苦しげな顔をしてファルカウの周辺に存在した腕が蠢いた。地を叩く。リズミカルに、それでいてちぐはぐに、鍵盤を掻き鳴らすが如く。
魔女は箒を揺れ動かした。指先に灯した魔力は守護の結果。その魔力はふわりと広がって精霊や使い魔達の配置をも光の下に晒す。
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は引き攣った顔をした。戦場をぐるりと包み込むのはファルカウの精霊達の気配。オンパロスの外にはそれらが控えている。
薄く張られた『ポイボスの若木』周辺の保護結界がオンパロス全域の加護となって居る限りそれらは入って来やしない。
(まるで、餌を前にぶら下げて涎を垂らしたけだものに見られているような嫌な気配――)
セレナは息を呑んだ。怯え竦むだけでは事は進まない。跨がる箒は光を纏う。煌めきの儘に飛び込むは一人の魔女。
エヴァンズ――彼女の事をアレクシアは知っている。己の体を蝕んだ病の存在。『魔女の魔法(エヴァンズ・キス)』はアレクシアの自由を奪い続けたものだった。其方も気には掛かる、けれど、今はそれよりも向き合わねばならぬ人が居た。
「ファルカウ」
その名を呼ぶ。プーレルジールで共に旅をした彼女と同じで違う。
「……メーディアであなたの怒りを目にしてから、いつかこういう日が来ると思ってた。
あなたのことは、少しは知っているつもり。だからこそ、その想いを、願いを絶やさぬために、あなたを討つ!」
杖は魔力によって咲き誇る。風の魔力は舞い散る魔力の花びらと化し、月夜の灯火の如く光が花としてアレクシアの身を包み込んだ。
気付けば光はアレクシアに吸収されて、魔力として、加護として動き回る。ただ、その眸が捉えるのは魔女だけだった。
「……そうだ、フランさん、どうか無理はしないでね」
「お互い様よ、アレクシアさん」
アレクシアはくすりと小さく笑ってから駆け出した。この腕はファルカウの怒りだ。
理解が全て出来ないわけではない。森と共に生きてきた。森と共に過ごしてきた。だからこそ、『私は覚悟を決めてきた』のだから。
●
「……戦う理由がありますか。希望をとこしえへと紡ぐ者よ。いたずらに戦いを好むことはいけません。
わたくしの深き絶望は、あなた方のような、悪戯な戦の篝火によるものだと、どうして分からないのです」
ベネディクトはファルカウを見た。柔らかな深緑の気配は何処にもない。滾る焔は怨嗟と呼ぼう。それは冠位憤怒のものよりも柔らかで、そして、誰に者でも無い愛情と慈愛が込められていた。
「此方の世界でもその姿を見る事になるとは。戦う様な事になるとは思わなかったが……」
「此方の世界……わたくしを知っているのですか」
「さて、それが貴女であったのかは分からない。ただ、ファルカウと名乗る森の魔女は俺達と言葉を交し、この地への愛を知った。
貴女に考えが合ったとて、俺達は貴女を止めねばならん。
……他ならぬ貴女がこの場所を壊すというのか、ファルカウ。いいや、或いは――この場所の創造者であるからこそなのか」
ベネディクトの問い掛けにファルカウは眉を顰めてから「ええ、作り上げるという事は責任を伴うのです」と囁いた。
「所詮は、砂を固めただけの楼閣。砂山の上に積み上げただけでは風は全てを攫って終うの」
炎の気配がめらめらと、赫々たる赤さで周囲を包み込む。
恐ろしい気配だとメイはごくりと息を呑んだ。精霊種であるからには、精霊達の気持ちは居たいほどに分かる。
メイは人の好意によって自我を得た。愛情という光を受けて生命を得た少女だ。その証左こそが『メイ・カヴァッツァ』の名に顕れた。
ただのメイではない。クラリーチェ・カヴァッツァという光と共に過ごして、そして、新たな路を進むことにした一人の精霊としてこの場に立っているのだ。
「フランツェルさん。メイがもしもの時は、若木のこともお願いするのです。
いざという時で良いです。リュミエ様を優先しても良いです。お願いするですよ」
「それは弱気?」
「ううん、本気だから、保険を」
メイの真摯な眸にフランツェルは微笑んだ。為すことがないと昏い路を走ってきた。メイにとっては手探りのことばかりだったけれど。
あのひとは、足跡を残してくれた。戦いで様々な物を奪われながらも、それでも温かな腕が抱き締めてくれていた。
(ねーさまは、メイにひかりをくれた。ねーさまは、戦いで喪った。ねーさまだって、戦っていた)
メイは結界を張る。そして『彼女の名前を持った守護の呪い』を付与したのだ。コール・ファルカウ。生命の樹は全てを司る光のように。
「……絶対に守るのです。メイは知っていますから」
しかばねに光を与えるわけではない。死を遠ざけるという事は、その過程での苦しみを伸ばすという事。
生者の肉体は痛みを感じれど傷を無かったことにするかのように魔法的回復で動く事ができる。
それでも、生きていて欲しいから。メイは立ち上がるための力を持ってきた。喪うことは恐いこと。俯くことは恐ろしい事。
――だから、『メイ・カヴァッツァは前を向くため』に今の苦しみを許容するのだ。
「この鐘の音は、安寧を祈るもの。メイの見付けたたのしいを、くるしいを、かなしいを。
眠ったひとたちに届けて、来世への祈りを届けるもの。だから、この音色は絶やさない――!」
響く音色に後押しされて、彩陽の弓は空気を裂いた。目を瞠る勢いと共に、地を剔る。
その目はしかと見定めた。スケッルス。それは死の神と呼ばれた女神と同じ名を有する魔女か。
――死の神よ。スケッルスの槌よ。まだ振り下ろさないでおくれ。
「安寧を与えましょう。さすれば、分り合えますわ。ファルカウはあたくしに教えて下さるの。
死とは恐ろしくないのだと。この大樹に抱かれて、遠き日の光を夢に見ましょう。裁判の日は来たるのだから!」
スケッルスの瞳がぎらりと見開かれた。美しき女の眼を一瞥し、彩陽は「分かり合えやせんようや」と囁いた。
荒れ狂う嵐の如く。スケッルスへ叩き付ける鏃に孕むは悍ましき死に近付く生者の在り様の否定であった。
動きを食い止め、縺れる足の如く、ワルツを踊る暇を与える事は無い。その動きを食い止めるべく放たれる一撃にスケッルスは黒いローブを揺らがせて首を振って呻く。
「どうして分からないのです」
「分かり合うなんてできんよ。此処で生きていたい。そちらは死ねば救われる。
――ほら、前提論で擦れ違ってる。これでどうして分り合えるのか。死んでみればいい? 到底受け入れられる事や無い」
「大樹は必ずしやあなたを救いますわ。あたくしは知っていますもの。あたくしは精霊、ファルカウの使い魔、三人の魔女の一人。
そうして居る様子をずぅっとずっと見てきたのだから。罪を裁く雷の槌は全てを拭い去るでしょう」
スケッルスの雷色の瞳に彩陽は首を振った。全てを空白に戻せば新たな文字が躍るわけではあるまい。物語を紡ぐために全てを白紙にすれば良いというわけではない。
それは緩やかな自殺と、自分の居ない物語に他ならない。彩陽にとって、それは許せることではない。
「分かり合えんよ」
囁いた。弓は、矢は己の心を叩き付けるように鋭くも飛んで行く。
「……」
呆然と見詰めるリュミエの傍に胡桃は立っていた。リュミエの傍に居るのは彼女を守る為である。
リュミエは大樹の巫女だ。神託の存在だ。この場所に無くては鳴らぬ指導者として君臨した永きを生きた娘である。
「……リュミエ様」
「はい」
掠れた声は罅割れた唇から漏れ出た。痛々しい姿をした巫女は俯いている。崩れ落ちるようにして、膝から先に力はこもらず握る杖はかたかたと揺れ動く。
「ごめんね」
胡桃の指先に焔が宿った。青い、青い、命の灯火。『コャー』と鳴くこともなく、決意のように揺らいでいる。
謝罪は、ただ、彼女達の信仰に反する存在であるという自らの在り様だった。
「胡桃、さん……」
「本気出すしかないの。わたしは炎なれば。『わたし自身』を押し付ける戦い方が、一番強いの」
小細工なんて必要ない。伸び上がった樹の腕を薙ぎ払うというならば、自らの在り方を曝け出すしかあるまい。
一点に収縮させる。味方を巻込まない範囲で其れ等全てを『燃やす』ように。赫奕たる蒼火は胡桃の本質。
その焔をファルカウが苦しげに見守って居ることだって、今は致し方がない事だから。
「篝火は、死の象徴でしてよ」
「そうですか」
それだけ、ルル家は返した。だからなんだというのか。
まつろわぬ神々の神話においてはタブーを侵す者も居た。そうして雷に身を打ち砕かれ死するのだ。
スケッルスは生と死の天秤を傾がせて生きているかのように。その姿はあの日、ルル家が『ブリギットおばあちゃん』と呼んだ彼女が信仰する死の神の在り様だというのか。
――死の神よ。スケッルスの槌よ。まだ振り下ろさないでおくれ。
空の盃に並々と注ぐその日が来たならば、この体など雷に打たれて朽ちても構わない。
あの人は、裁定は皆平等に訪れると告げて居た。冬を終らすためならば、その槌を体に振り下ろされて死する事さえも構わないと告げたのだ。
(ブリギットちゃんは、目覚めを待っている。春を待っている。もう一度、『春が来る』前に――)
目の前の神が槌を振り下ろすことはなく、ただ、救いが訪れる事を願うように。
「ファルカウはあたくしたち。あたくしたちはファルカウ。全てはひとつ」
「……傲慢だわ」
マナセは静かに言った。その在り様は神様にでもなったかのようだ。
大樹ファルカウと呼ばれる幻想種のよりどころ。全ての母とさえ呼ばれる至高。大樹が抱いた数多の命は遍く者の平穏を願った事だろう。
「森を拓いてはならなかったの」
「どうして?」
「いいえ、ファルカウは森など閉じていれば良いと願っているのです。
お分かりにはならないでしょう。お労しい。ぼくたちは皆、愛しい子達を守りたかっただけだった」
「……ボクたちは、出会った事を間違いだなんて思っていない」
焔はぐしりと、頬から流れた傷を拭った。炎の神たるいっちの権能を借り受けて、ルグドゥースと向き合った。
樹の腕は焔の気配を厭うように振り上げられる。怖れるような気配と共に、攻めこむルグドゥースの持つ鎌はギラリと輝いた。
幼い子供のようにルグドゥースはいった。「ぼくたちは、ファルカウと共にあっただけだったのに」と苦しげに眉を顰める。
(そうだね、きっと。きみたちはずっと見守ってきたんだ。それでも、ボクはファルカウさんが退くまで此処を譲れない――)
カグツチ天火が地に突き刺さる。身を跳ね上げるように、万雷の舞台に焔は踊り出す。
父神の権能の一部のみ。全てを扱う事は出来まい。身を焼く焔は悍ましく等はない。これは、必要な痛みだ。
「ッ」
ルグドゥースへと槍を振り下ろした刹那、その体を樹の腕が殴りつけた。壁面へと投げ飛ばされんとする体をベネディクトが腕を伸ばし受け止める。
軋む。意識はまだ失っていない。空気しか吐くことの出来ない焔の呻きを聞きながらベネディクトの直剣が鋭く腕を切り落とした。
「……厄介だな。これがファルカウの意志か」
「けれど、さっさと攻めなくっちゃ」
焔はぐ、と腕に力を込めた。此の儘じゃいけないのだ。そう、何もかもが恐ろしいままでは、救われない。
セレナにとって目の前に居るエヴァンズは何者であるかは分からない。ただ、その在り方が気になったのだ。
「エヴァンズ、あなたが魔力を奪う呪いを掛けるのは、何のため?」
「……すべての救いのために」
穏やかに彼女は囁いた。美しい魔女の指先が揺らぐ。枯花の如く、ふわりと香ったその気配。
エヴァンズを引き寄せながらもセレナは一瞥する。スッケルスとの戦いは苛烈となる。それだけではない。助けなくてはならない人が居る。
リュミエも、フランツェルも、マナセも。三人共に届く位置を意識しなくてはならない。そうしなくては。
「リュミエさま……!」
はっとセレナが顔を上げた。エヴァンズがその行く手を遮らんとまじないを施したか。
届かない? 間に合わない。それは、それはいけない――
(祈願結界『vis noctis』!どうか、滅びから護る力を! これ以上、あなたが築いたものを、自ら壊させたりしない!)
セレナの願いに応えるように、突如飛び込んだフランツェルにリュミエが「フランチェスカ!」と酷く怯えた声を上げた。
「リュミエが生きてなくちゃしょうがないでしょーが!」
アレクシアに無理しないで何て言われたのだから『無茶はさせて貰う』つもりだとフランツェルの杖がファルカウが放った魔術を受け止める。
石と化す。其の儘腕を昇る。肩を、そして――セレナの願いがそれを半身のみで食い止めた。
「ぎあっ」
「フランツェル!」
無茶をするとオデットが窘めるような声を上げたが「もう一発くるわよ!」とフランツェルが声を荒げた。
――その元に、光が落ちた。鮮やかな光だ。蒼穹より至り魔女は楽しげに笑みを零す。
●
「『古代の魔女』よ、『蒼穹の魔女』がお相手しましょう!」
にいと笑う。アレクシアの眸には決意が乗せられていた。如何にファルカウであろうとも、『この魔法』は簡単に解けやしない。
アレクシアはファルカウという魔女に『及第点』を貰う為に戦っている。
誰もがくたびれてなど仕舞わぬように。アレクシアは向き合った。
アレクシアが受け止め続ける。自らが耐えれば良い。時間を稼げば良い。フランツェルを庇うように立つ胡桃は「無茶はだめなの」と厳しく咎める。
スケッルスの姿が揺らぐ。それは死の神だ。槌の威力は弱まった。
此の儘焔で打ち消してしまえ。誰も彼もが傷を負っている。肉体への損傷? 気にしている暇も無い。
生きていれば、それでいい。メイが支えてくれる。脚に力を入れて走れば良い。胡桃は知っている。
(ここで全力――! 全部を超えなくちゃならないなの)
胡桃の焔が轟々と音を立てた。スケッルスは倒せてもエヴァンズは、そしてルグドゥースは難しい。
傷だらけだ。痛い。素早い決着のために、ここで崩れ落ちちゃいけない。焔はルグドゥースの中にファルカウを見た。
「……ファルカウさんは、きっと凄く優しい人なんだね。
沢山の人が傷ついて、それでも争うのをやめなくて、それが悲しくて、怒ってるってことだよね?」
「ぼくたちは怒っているから」
「そうだね。でもね……だからって、全部なくしちゃうなんて、そんなの悲しいよ。
だって! 争いを止めたいって人達だって沢山いるはずなんだ。今だって世界を守るために、多くの人が力を合わせて抗ってる。
こうやって何かを守るために力を合わせていければ、きっと争いのない世界を作れるって、信じることを諦めたくない!」
「でもね、もう遅いんだ」
ルグドゥースは言う。信じていられるだけの時間は過ぎてしまった。もう、遠くなったのか。
「ファルカウ……一応尋ねておくけれど、どうしてもすべてを灼かずに、見守ることはできない?
あなたが蓄えてきた怒りも悲しみも、きっと想像を絶するものでしょう。
でも、私はこの世界に希望の芽が数多あることも知っている――それを信じることはできない?」
「もう、『時間切れ』なのです」
ファルカウの眸にアレクシアはごくり、と唾を飲んだ。
彼女は長い時を見てきただろう。アレクシアが生を受けるよりも前の戦も。
熱砂の恋心と謳われたあの物語の顛末も、いつかの日の悍ましき戦だって。
人の歴史にはなぞるように歴史があるのだ。
「……結局、どの世界でもどの国でも戦いは起こる。
死と慟哭に溢れたこの世界は残酷だ。そんなことは分かりきってる。
だがそんな中でも笑顔で幸せを探す人がいた。明日を生きようとした人がいた。
昨日の後悔に苛まれながらも、その先に救いが信じて待ち続けた人もいた!」
「その先に救いなどなかった!」
ファルカウが両腕を広げた。鋭い魔力が身を刺した。オデットはそれが彼女のまじないであると知る。
ああ、なるほど。罪とは全てを注ぐ為に訪れるのか。その為に石と化す。
「魔女ファルカウ。この世界は弱くないわ。滅びを乗り越え生きていける。それをわたし達が証明してみせる」
セレナは指先を組み合わせた。前で戦う『蒼穹の魔女』が光の下を走るなら『夜守の魔女』はその場に佇み手を伸ばす。
(これは世界樹から生じる呪いの術、だけど、世界を守る祈りのまじないでもある。
あなたの祈り願いが滅びに転じてしまったなら……わたしは滅びを祝福に変えてみせる。
だって、わたしも『魔女』だから――打ち克ってみせる)
ちりちりと焔が周囲に満ち溢れた。
「変わってしまったのなら、それは自分の愛したものではないと。
そんな悲しいことは言わないでほしいの。その呪い、その焔……わたしの炎で燃やせるかどうかを、今一度確かめてみるの」
炎の気配が、ぶつかり合った。胡桃のものと、ファルカウのもの。
アレクシアの魔法が光を帯びる。眩い名はビラとなって周囲を多う。
「……ダメというのなら、私も覚悟を決めるよ。この地に生まれた者として、この世界を愛する『魔女』として!
あなたが呪いに変じたのなら、再び祝福を捧げよう! 天より注ぐ光を、地を灼く炎ではなく、生命を育む陽光と成してみせましょう!」
あなたの呪いも、あなたの魔法も、そのすべても『手に入れて』しまえばいい。
アレクシア・アトリー・アバークロンビーはその全てを抱いている。
その覚悟を見て、オデットは一度後方に下がった。マナセが立っている。ぎゅうと彼女の手を握る。
「オデットさん」
「オデット」
「オデット……?」
にこりと笑ってからオデットはまだ幼いマナセの体をぎゅっと抱き締めた。
「大丈夫よ、負けないでね」
「……うん」
「マナセ、恋バナの続きをしようと思うの。全部が無事に済んだら初恋を終わらせようと思うわ――そのために私たちは生きなきゃ」
「死なないでね」
「当たり前よ。その為に皆頑張っているでしょう。アレクシアも、焔も、セレナも。だからね」
覚悟はしているの。奇跡なんて起きなくっても、少しでも『時間を稼いで』いれば。
彼女の瞳に美しい景色が映り込むかも知れないと。そう、願っているのだから。
「……私も、旅人じゃなくて、ファルカウのそばにいたら彼女と同じことを思ったのかしら?
わからないでもないのよ、木漏れ日の妖精だからかもしれないけど。
人はどこだって争うわ――でも、ね?」
お願い、答えて。
ポイボスの若木よ。
――あなたの見てきた幸せな光景を、戦で踏まれても立ち上がる新芽のような力強さを、どうか見せて!
一寸、ファルカウの動きが止まった。それこそが好機だった。
痛みなんて遠ざけるようにベネディクトが飛び込んだ。
ファルカウが『動きを止めたのはポイボスが見てきた全て』がその目に映ったからだ。
そんな曖昧な光景でも、女の愛した此の土地ではぐまれた者達への愛情はただ、ただ、光のように身に注がれる。
「ああ――それを壊したのは――!」
すべて、この地を開いたから。ファルカウの唇が戦慄いた。
ルルは走る。もう自分に火を付けて走っていけば良いだろうか。火だるまになってファルカウの意識を奪ってやりたいほどに、ルル家は全力だった。
「うあああああ、後で怒られるかなぁっ!?」
「怒られそう」
「そんなあ」
マナセが「えいえい」と言いながらルル家に魔法の炎を叩き込んでいく。意外と熱くはないが『やばい』。
「なっ、なるほど、平和を祈って眠りにつき、祝福まで与えたのに世界がこのザマでは怒りたくなるでしょうね
怒りはご尤もなれど、だからといって譲る訳にはいかないのですよ。
……確かに拙者達も、これまでに出会った人達も何度も失敗を、過ちを犯して来ました。
お姉ちゃんも、Bちゃんも、ブリギットおばあちゃんも、キャロちゃんも――皆、一生懸命に生きていたのです!」
友人達は誰もが、希望を見ていた。そして、絶望を知っていた。それを、否定して白紙に戻すと?
そんなことを認められるわけがない。
「それを全部間違いだったと、なかった事にされてたまるかぁぁぁ!!!
世界が滅びれば皆が残してくれた想いも消えてしまう。そんな事、絶対に許せるもんか!!」
「ひ、火だるまアタックだわーー!?」
「マナセ殿、ちょっと!!!!!!!」
格好良いところ、叫んだルル家に「援護ー!」とマナセが魔術を放った。
その勢いにファルカウが思わず怯んだか。アレクシアは傷を拭って「このまま!」と叫ぶ。
このまま、攻めて。此処を守って。
この人の『のろい』を『まじない』に返るように。
魔女の『祝福』が転じてしまわぬように。きっと、この人は『全てを幸せにしたかっただけ』なのだから。
焔は嫌いだ。全てを灰燼へ溶かし、風は疾くも全てを攫って終うから。
焔は嫌いだ。我らが同胞の命を奪い去った後に何も残すことが無いから。
焔は嫌いだ。わたくしは――生きている全てを護る事だけを求めていたのに。
――なら、この場に溢れるのは光で良い。
●
「ッ、行くぞ! 全てを出し切っても太刀打ち出来るか解らん相手だ。ならば──今の己の限界を超えるのみ!」
腕が軋んだ。呼気が苦しい。
それでも、ベネディクトはファルカウを見た。女の眸がぎらりと輝いた。
唇が唱えたまじないにマナセが「ベネディクトさん!」と呼ぶ。少女が腕を伸ばすが、そのスカートをぐいと引っ張ったポメ太郎が行くなと言わんばかりに止めた。
ベネディクトの肩を貫いた『まじない』の光。それは悍ましき魔女の呪いのようにその部位だけを石と化す。
ひゅう、とメイが息を呑んだ。アレは何か。罪の烙印だというか。石となり、花を咲かせて散れと、魔女の呪いが告げるとでも?
「す、直ぐに回復するです!」
「良い!」
ベネディクトは首を振る。まだ、まだだ。
此処でその手を裂かせる必要は無い。
「攻めろ!」
男の声音が響いた。ぐ、とメイは息を呑む。ファルカウさん、ファルカウさん、『ねーさまの眠る場所』のかみさま。
(お願い、ねーさま。かみさま。メイに力を貸してください。祈りよ、届いて。
メイは、メイは、メイは――メイは、もう、誰も喪いたくなんて、ないのです)
祈りの鐘が響く。崩れ落ちてはしまわぬように、祈りと共に回復は青年を包み込む。
「貴女が壊そうとするなら、メイはそれを癒すのです!
メイの力は貴女と比べたらちっぽけだけど。負けないのです!」
メイは喉がかれても構わぬように声を響かせた。ヒーラーである以上、その心は、その術は誰かを生かし殺す事が出来る。
選んで、選んで、選んできた。だから、死と隣り合わせで生きてきた。
「ファルカウさん。ひとは、人である限り争い続ける。それでも、メイは。
人の温かさを知っているから、人が好きだから、貴女と戦うです」
「傷付き、苦しみ、尚も兵士として進ませることの罪深さを知りなさい」
「ッ――全てがまっさらになった世界は、貴女が愛した世界と同じなのですか?」
メイにファルカウは「罪は、注ぎましょう」と微笑んだ。唇がつい、と吊り上がる。
メイを見た。まじないの気配。ファルカウの周辺から溢れ出した焔。その気配にメイが身構える。
ベネディクトはただ、走った。後方へと『合図』を送る。見逃さないオデットは頷いた。オディールなら、きっと『良い子』に出来る筈。
「戦いを忌避するのは分かる、何も無ければそれが一番良いんだ。
だがそれでも、今生きている同胞を貴女が焼き払うというのか? 全てをリセットして、また生み出せばそれで良いと?」
「ええ、そうでしょう」
ファルカウの眸が見開かれた。ベネディクトを見るその眸は言葉の一つも届きやしない怨嗟が溢れかえっている。
叡智の湖に佇み、聡明なる眸で怜悧に世を眺めることもなく。ただ、マッチに灯した焔を藁へと投げ入れる幼子のように彼女は首を傾いだ。
「それの何処が可笑しいというの?」
「……分からぬと言うならば、きっと、二度とは理解することは出来んだろう。
そんな物は只のシステムだ。まじないが溢れた今日、貴女は呪いとなった。
ならば俺達はその呪いを退け、生き抜いて見せるぞ。
貴女の祝福が決して無駄では無かったと、俺達が証明してみせる! ――その為の力が俺達には在るのだから!」
祝福の下を走る。生きていることを罪だと言わぬその女の在り方を、彩陽はよく知っている。
「自分は生きるための未来が欲しい。この世界で生きる為の未来が欲しい。だから、この身に何されようが、生きる為に命を懸ける。
ファルカウ。自分は生きる為の明日が欲しいんや! その為に生きる事を諦めない。 今の世界で生きる事を諦めたくない!
全力全開で――あんた等に負けないって事を証明するんよ!! 救われないなんて決めつけられたくない!! だって自分はこっちで救われたんやから!!」
自分勝手に救われてやれば良い。恐れる事も怖がることもない。だから、弓を離しやしない。
――クロバっ子。
そうだ、此処には彼女も眠っている。逢いに来てやったんだ。
クロバは笑う。このまま、枯れ果ててなどさせるものか。デートの約束もある、それ以上に、彼女は屹度「思わせぶりだな」と笑って我儘を言うのだ。
そんな一人の女の子の希望も叶えてやれずに、どうして一番に愛しい人の事を護れようか。
応えなんて良い。愛されなくったって良い。彼女という女が『笑って呉れる世界』が欲しいのだ。
「絶望でなんて終わらせない……そんなもの、俺がすべて喰らい尽くす! 灰からだって、命は芽吹くのさ!」
不死の鳥の焔が焼いた。全てを灰燼と化した。それでも、焔の気配は全ての死を語るように広がっていたけれど。
構いやしない。そこにも若芽が見えた。其れ等は育って森となる筈だ。
「……そして証明しなければならない。
リュミエという女が森を開いたこと、それが最高の選択であったこと。その未来に待つのがこんなバッドエンドでいいわけがない!
どんなにつらくても、どんなに苦しくても。手を取り合って最後には楽しく思い出を笑い合って語れるような! そんなハッピーエンドを!」
「何故」
ファルカウと、リュミエの言葉は重なった。
「「どうして、望むの」」
一方は、森に棲まず、異界の者である筈の男が『奇跡を乞う理由』を問うた。
もう一方は、自らを避けていた筈の最も信頼できる友人が命を賭す理由を問うた。
クロバはくるりと振り返ってから唇を吊り上げた。
「……何故こんなことをって? はっきり言わないとダメか。お前を愛してるからだ、リュミエ」
だから、リュミエの大切な『フランチェスカ』も守り抜く。大樹に眠る友人(ヴィヴィ)だって。
肉薄した。ファルカウの眸と真っ向からかち合った。
わざわいの気配を撥ね除けたのは奇跡の一端であった。
「――俺の大切な灰かぶり姫(リュミエ)をこれ以上傷つけさせるものか!!」
ファルカウの魔術を切り裂いた。女の身を撥ね除けられたわけではない。
だが、ファルカウは呆然と掻き消えた己の焔を見詰めてから「ああ」と唇を動かすのだ。
「ファルカウ……」
アレクシアが呼ぶ。傷だらけだ。魔術の気配が己の右腕を貫通している。石と変ずる腕を包み込むのは自らの魔術そのものだ。
陽の光の如く暖かな、魔力が自らを包み込んでいる。アレクシア・アトリー・アバークロンビーは『魔女』として彼女と相対していた。
そして、続く言葉を翌々分かって居た。
「――わたくしの同胞(こども)たち」
女の眸からつい、と一筋の雫が零れた。
刹那に、その空間が掻き消える。篝火の気配は遠離り、残る魔女二人諸共『空間が歪んだ』。
天に開いた影の大穴は、大樹を喰らい尽くす事も無くその姿を消す。
「……ファルカウ……」
天を仰いでからオデットは俯いた。リュミエは呆然とした様子でクロバを眺めて居た、ただ、彼女からは芳しい答えは返らないだろう。
何せ、彼女には使命と義務がある。ファルカウが敵として顕現しているというならば『個人的事情』に手を伸ばして等居られないからだ。
「うぐぐ……」
思わず呻いたフランツェルをつんつんと突いてから「大丈夫よね?」とセレナは声を掛けた。肉体の半分に石の気配を孕んだ魔女は「クロバさんの告白で生き返った」とジョークを言ってからこてりと気を失った。
「……石に転じた部分は、そうそう簡単には壊れないけれど……ファルカウと戦い続ければ進行する可能性が、きっとあるね」
「ああ。だが――」
彼女はもう一度訪れるだろう。最終手段は屹度『ベヒーモス』だ。
この森を壊し尽くす前に、全てを焦土に化すのだろう。
「ああああああ、もうっ、戦いましょう! そうするしか無いんでしょ!?
だって、オデットと約束したんだもの! 恋バナするって! わたし、お友達との約束はちゃんとこなしたい派なの!」
マナセは魔導書をぶんぶんと振り回し、オデットが困った顔をしながら揺らぐ『ポイボスの若木』を眺めて居た。
アルティオ=エルムに吹いた風は穏やかで、戦乱の気配なんて何も知らぬ顔をしていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
良き決意と覚悟でした。本当は、一人の方でも臆していたら足下を掬おうと。そんな難易度でしたから。
MVPはあなたの愛の覚悟へ捧げます。
それでは、次の幕は。
さいごの終わりの場所で。どうぞ、お待ちしております。
GMコメント
いつも深緑を滅ぼす機を狙っている夏あかねです。今回も宜しくお願いします。
●成功条件
・『ファルカウの巫女』リュミエ・フル・フォーレが『無事』であること
・『古代の魔女』ファルカウの撤退
●失敗条件
・『神託の宮(オンパロス)』の安全確保
・『ポイボスの若木』を燃やされないこと
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
また、『古代の魔女』は現在の魔術形態と違ったまじないを駆使する為に何らかの『まじない』を付与される可能性もございます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●『アルティオ=エルム』神託の宮
神託の宮(オンパロス)と呼ばれる大樹ファルカウの最上層部。祈りに使用される場所です。
天蓋は薄いヴェールが張られており夜空を見ることが出来ます。高さは大凡3m。
それなりに広いスペースがあります。中央には『ポイボスの若木』と呼ばれるファルカウの魔術機構が存在して居ます。
大樹ファルカウは迷宮森林(アルティオ=エルム)全土に蔓延った滅びの気配を吸収し、清きマナとして輩出します。二酸化炭素を酸素に変えるような役割、と考えてください。
霊樹達の見た全ての情報をもポイボスの若木は吸収し、それらを用いた預言や神託を行ないます。巫女リュミエはそれを読み解き指導者としてアルティオ=エルムを率いていました。
現在はファルカウの声はリュミエには聞こえず、滅びは飲み込まれず清きマナは増えることがありません。
辛うじてリュミエが『ポイボスの若木』の代行を行なう事が出来ますがそれなりの代償を求められているのが現状です。
・『ポイボスの若木』はオンパロス中央に存在して居ます。台座に芽吹く小さな芽です。ある程度の保護魔法が施されています。
・フィールドの高さは大凡3m程度。広々としています。後述する『樹の腕』が障害物です。
・魔女ファルカウはオンパロス東側に。皆さんとリュミエは西側に居ます。リュミエはオンパロスを離れる事が出来ません(維持の為)
●エネミー情報
・『古代の魔女』ファルカウ
大樹ファルカウと同じ名を冠する魔女。大樹がまだ名を持たなかった頃に、彼女は平安なる世界を維持し、滅びを濾過する事を目的に『まじない』を用いて眠りに着きました。
その際に利用されたのが『Frauenglas』というまじないです。
『あなたの上に天は立つ。全ては極光の元に』との碑文と共に世界には祝福を齎しますが、来たる罪の裁定を行なうかの如く『滅びが溢れた際に』はその祝福の代償のように呪いが顕現します。罪ある者は岩となり一輪の花を咲かせて崩れ落ちる病と化すのです。
現在のファルカウは『大樹ファルカウの精霊的化身』と呼ぶべきでしょう。人では無くなり、今は古代より生きる精霊その物です。
外の情報はポイボスの若木を通してみてきました。本当に、この世界は戦で溢れすぎたのです。
ファルカウは『樹』であるため、己が生きていれば新たな命を産み出す事が出来ます。だからこそ全てをまっさらにしても構わないとの考えです。
焔のまじないを利用する事は判明していますが、その他の細かな戦闘方法は不明です。
意思疎通は出来ますが、意思の疎通が可能なだけです。説得などが難しいのは確かです。
何せ、彼女は「世界が戦乱に溢れすぎた」事を起こっています。Bad End 8の一人ですが、他の誰かの意思にしたがっているわけではなく、全てをまっさらにさえすれば戦という手段を選んだものがいなくなるからこそ、平穏を取り戻し培っていけると考えて居るのです。詰まり、皆さんはファルカウの敵なのです。たとえ、同胞であったって。
・『樹の腕』
大樹ファルカウの内部に存在する巨大な樹木の腕です。魔女の意志に従い動きます。
フィールドギミックのようなものです。所謂、倒しても倒しても数ターンで復活してきてしまう存在です。
大樹の内部的変容によって生み出されて居るため、これは樹木そのものだと認識してください。
非常に堅牢ですが動きが遅いです。倒しても数ターンに一度復活します。機械的に敵を倒すことを目的としています。
・『枯蝕の魔女』エヴァンズ
魔女ファルカウの連れる『三人の精霊』の一人。アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)さんが幼い頃に出会った魔女。
『魔女の魔法(エヴァンズ・キス)』と呼ばれた奇病を発生させる事で知られる精霊です。
人の体に深く種を埋めるということ。種は芽吹き、寄生主の体に巣食い魔力を吸い揚げます。魔力欠乏症となった幼子は其の儘死に至ることも多いのです。
その逸話の通り、エヴァンズは『魔力を吸い揚げる』力に長けています。その能力的に後方からの魔法支援に長けていそうです。
・『??の魔女』ルグドゥース
魔女ファルカウの連れる『三人の精霊』の一人。御伽噺にも残らなかった娘です。
能力は不明ですが、動きなどを見ていれば情報を奪う力に長けているのでしょうか。前衛で動き回っています。
・『??の魔女』スケッルス
魔女ファルカウの連れる『三人の精霊』の一人。この精霊は鉄帝ヴィーザル地方でも良く知られていたようです。
イレギュラーズと関わりがあるならば『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブラングが信仰していたことでも知られています。
全てに死を齎す安寧の魔女の御伽噺ですが、どうやら能力的には『悍ましい者を殺し、希望を与える』役割です。
その能力的にヒーラーである可能性が高いです。
●同行NPC
・『ファルカウの巫女』リュミエ・フル・フォーレ
アルティオ=エルムの要人です。彼女の傍に居る神官達はリュミエの指示によりその他の層の治安維持や避難誘導に当たっています。
この場を離れる事は出来ません。何せ、リュミエは現在の大樹の主であり、愛し子なのですから。
・『アンテローゼの魔女』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス
本名はフランチェスカ・ロア・アズナヴェール。幻想貴族アズナヴェール卿の娘であり、アンテローゼ大聖堂の主です。
リュミエの側仕えをしており、リュミエの護衛です。ある程度の自衛は出来ますが、心許ないのは確かでしょう。
リュミエが死ぬ前にフランツェルが身を以て何とかはします。リュミエの一撃死は免れます。
・『魔法使い』マナセ・セレーナ・ムーンキー
プーレルジールの魔法使いです。古代魔法、古語魔術を呼ばれるファルカウが駆使する魔法形態を研究する少女です。
10にも満たない幼い女の子ですが天才魔法使いであった勇者パーティーのマナセのプーレルジールの姿ですのでそれなりに強いです。
猪突猛進型であること、あわてんぼうである事、この世界にまだ体が馴染んでいないことが問題です。
皆さんの指示にシッカリ従います。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
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