シナリオ詳細
<漆黒のAspire>頼みの綱はローレット
オープニング
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各国で存在感を示すBad end8。
それらの台頭に焦った冠位色欲ルクレツィアのメフ・メフィート侵攻を凌いだイレギュラーズだが、代償は小さくない。
すでに混沌中に名が知られる巨大組織となったローレット。
各国の主要人物にまでコネを持つその組織の舵を取っていたギルドマスター・レオン・ドナーツ・バルトロメイはルクレツィア撃退と相打ちとなり、失踪していたのだ。
その代理としてユリーカ・ユリカが情報収集、依頼遂行の可否を決定していたが、さらなる魔種の動きに難しい対応を迫られていた。
また、魔種陣営にも大きな動きが。
イレギュラーズやレオンに追い込まれ、深い傷を負っていたルクレツィアが聖女マリアベルによって処刑された。
そのルクレツィアを熱烈に慕っていた魔種アタナシア。
彼女は凄まじい怒りに身を焦がし、マリアベルだけでなく魔種も人間も、混沌までも全てをルクレツィアに捧げようと誓う。
そして、影の領域へと至ったレオンは……。
●
幻想、ローレット。
依然としてレオン不在のローレットに届いた凶報に、ユリーカの可愛らしい表情が歪む。
「世界各国に影の領域が出現したとの報告が来ているのです」
影の領域とはラサから北西、深緑の遥か西に存在する人類唯一の未踏領域だ。
危険といわれた覇竜領域すらも踏破したイレギュラーズだが、その彼らですらも一切踏み込むことのなかったその場所には、魔種の本拠地があるとみられる。
「正確には影の領域に繋がった端末というか、影の領域の蛇口というか……」
ある程度、混沌の事情については情報通なはずのユリーカですらこの物言いであることから、いかにこの場所における情報量が少ないのかが窺える。
世界各国に出現した『影の領域』は魔種達の本拠と繋がるワームホールであり、橋頭保……というのがユリーカの話。
「放置すれば、魔種陣営の戦力は各地へと無尽蔵に送り続けられるのです」
戦力、数共に圧倒されれば、やがて混沌の民は蹂躙されてしまう事だろう。
魔種は来るべき神託を迎え入れる為、狙っているのは世界各国の混乱、そして破壊だろう。
「ボク達の理想は各地の橋頭保の破壊なのです」
仮にそれができなかったとしても、せめて浸食を止めないと、人々に悪影響が出るのは必至とユリーカは悲痛な顔を見せる。
聖女マリアベルとBad end 8が各地へと侵攻するとアレクシア伝手で聞いた声明。
それを止める為、イレギュラーズは各地へと赴くことに。
●
その後、多忙なユリーカに代わり、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が担当する依頼について語る。
「各地域に開かれる『ワームホール』……ここ幻想も例外ではありません」
先の戦いでは、冠位色欲ルクレツィア一派を退け、賑わいを見せる幻想では、各地に古代遺跡が多数発見されているという。
なんでも、中にはちょっとした財宝が眠っており、簡単に踏破できるダンジョンとあって腕自慢の冒険者らがこぞって宝を求めているという。
それらが街へと出回り、皆、酒、宴会、賭博と盛んに行われて活気だっているのだという。
「それらは、まるで誰かに与えられたかのような、一時の幸せといった印象です」
というのは、幻想にもワームホールの出現が確認されているからだ。
そこから現れる終焉獣は国の外周部を徐々に徐々に囲むように布陣しているものの、街や集落を襲う様子は一切ない。
今もそれらは増え続けており、貴族らは危機感を募らせている。
「この為、ローレットとしても対処せねばなりません」
これまで積み上げたローレットとしての実績もあり、幻想国民からはローレットならばなんとかしてくれるという絶対の信頼と安心感が漂う。
ただ、気になるのはこの状況。
ローレットの活動は数年にわたって続くが、財宝のある遺跡がこれだけ幻想にあれば発見できたはず。
加えて、世界各地で暴れる終焉獣が何もせずに状況を静観しているのは不気味でしかない。
「これらは幻想を担当するBad end8、『アークロード』ヴェラムデリクトの思惑が感じられます」
さながら、滅びの前に束の間の享楽を。
終焉獣が徐々に狭める包囲網がその制限時間を示しているのではないかとアクアベルは言う。
「まずは、包囲網の一角を崩します」
北西、鉄帝へと続く一角、林の道の突破をアクアベルは提案する。
祖国を護ろうと戦う強者が揃う地。場合によっては彼らと連携を取って戦うこともできる。
しかしながら、そうした要所には指揮官クルエラが待つ。
世界各地に現れる漆黒の体躯を持つ人型の終焉獣チアウェイが待っている。
彼は様々なことを学習し、交戦する度に、その力を……知力、戦闘力を高めている。
今回も何か策を巡らしていることだろう。
「撃退さえできれば問題ありません。何せ、包囲網はここだけではないのですから」
ここを切り崩し、その周囲の終焉獣も掃討を進めることで、敵……ヴェラムデリクトの思惑を潰すことができるはずだ。
何が起こるかわからぬ状況。
万全の準備をした上で依頼に臨みたい。
「それでは、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げるアクアベルもまた、この状況をイレギュラーズへと託すのである。
- <漆黒のAspire>頼みの綱はローレット完了
- 貴族は財宝を見つめてそう告げた
- GM名なちゅい
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年03月04日 23時25分
- 参加人数10/10人
- 相談5日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
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幻想で起こる事件の対処に当たるイレギュラーズの一隊。
メンバーは目的地点を目指しながらも、思わぬ場所での敵……終焉の手勢との遭遇を警戒する。
中性的な青年の姿をした『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)などはファミリアーを飛ばして頭上からの俯瞰視点を持ち、ハイセンスを働かせて広く周囲を見渡す。
「ヴェラムデリクト、やっぱり滅ぼそうとするんだね……」
ヨゾラを皮切りに、メンバーは彼……アークロード・ヴェラムデリクトに対して思っていたことを口にする。
なんでも、幻想周囲にワームホールを使って現れた終焉獣は国の外周部を徐々に囲むように布陣しているのだという。
「財宝を持ち帰れる遺跡が増えたのも……罠だったりするのかな……」
クラゲの海種、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が推察するそれも、ヴェラムテリクトによるものなのだろうか。
持ち帰らせ、場所とか人を一変に叩くつもりならば……。
こうした手法はレインら……イレギュラーズが取る戦法と同じだと彼は指摘する。
「ヴェラムデリクト……あのおっさん、未だに底が読めないんスよねー」
ジト目ぼさぼさ頭の『無職』佐藤 美咲(p3p009818)はそのヴェラムデリクトからの依頼というか、交渉というか……それを受けて幾度か動いたことがあるという。
「口では理解できるようで理解できない言い分をしながらも、仰々しい話し方でわざわざ胡散臭さを載せているというか……」
その際、彼女はそんな印象を抱いたそうだ。
「ヴェラムデリクトめ。停戦だのなんだのと言っておきながら、確りと仕込みはしていたようだな?」
全く以って厄介な奴だと、凛とした仙狸の女性『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は鋭い瞳で虚空に思い描いたヴェラムデリクトを睨みつける。
「頼まれたらぁ! 仕方ないよなぁ! ハッハッハ!!」
そんな空気を払拭するように、白藍の髪を腰ほどまでに伸ばす『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)が笑う。
頼まれたらというのは、情報屋であるアクアベルの事から頭を下げられたことだろう。
「しかもよぉ! 滅びの神託ゥ?? そんな嘘っぱちさっさと否定しようぜ!」
笑いながら同意を促す幸潮にメンバーは多少毒気を抜かれながらも。
「まあ、今ここでやるべきは終焉獣の撃退なんスけどね。裏を考えるのは後にしましょ」
前方に目的の林の道が見えてきたこともあり、美咲は一旦、この場の対処に集中するよう呼びかける。
それでも、汰磨羈は虚空に思い描いた幻想担当の『Bad end 8』に呼びかけずにはいられなかったようで。
──だがな。そう簡単にいくとは思ってくれるなよ?
●
林の道に差し掛かり、敵と遭遇する少し前。
「なぁ……いやなんで植物と話してるの?」
幸潮が気に掛けたのは、四肢が機械となったお嬢こと『お嬢様(鉄帝)』フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)。
この依頼の情報精度はちょっと怪しい。
そう感じていた彼女はくんくんと鼻を鳴らし、木々へと語りかけていたのだ。
フロラはハイセンスで感覚を研ぎ澄ませ、エネミーサーチで敵の気配をかぎ取ろうとしていたのだ。
「においますわね……」
加え、暗視も働かせつつ、フロラは木々と植物疎通していた。
不自然に会話ができないものがいれば、そいつが敵なのは確定。
実際、敵の周りにある木に不穏な気配を感じたフロラだ。
「とりあえず、『描写強調』したるから」
幸潮がその情報を汲み取り、仲間達と共有する。
準備が整ったところで、メンバー数名が終焉獣らと接触して。
「……やはり来たか」
低い声を発して振り返るのは、前身真っ黒な体躯した人型の終焉獣。
そいつは指揮官個体クルエラであり、以前、チアウェイと名乗った。
なお、周囲には同じく全身黒ずくめの人型をした終焉獣、虚偽の人体が4体と蒼白い人型をした変容する獣が10体。
いずれもチアウェイが率いているのは間違いない。
「ぶはははッ、またまた会ったな! 相変わらずの腐れ縁だねぇ、チアウェイ!」
黒肌のオークといった見た目をした『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の笑い声に、チアウェイは漆黒の顔を少し歪める。
ゴリョウ以外にも、別世界の鍛冶師の青年『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)やヨゾラはプーレルジールからの縁。
「嬉しくもない縁だな」
……とは、錬の談だ。
かつて姿見に住み着いていたという妖怪『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)にとっても、チアウェイとは海洋で遭って以来。
「あの時は逃げられましたし、そろそろ捕えておきたいところですね」
「ああ、この縁もここまで! 直接対決で決着を付けてやるぜ!」
錬が叫び、終焉獣らを威嚇すると。
「我が名は『夢野幸潮』! この混沌の主人公は特異運命座標、即ち此処に並ぶ英雄共! 世界は、汝らの手の中にある──!」
「「………………」」
チアウェイはもちろん、他の終焉獣らもじっとその主張を聞いていた。
「つまり、我が"万年筆"はその事実を『描写強調』しているだけに過ぎん」
記されるのは、幸潮の臨む物語であり、全ては"万年筆"の意思の表れ。
物語は『描写編纂』されると彼女は語る。
(だからお嬢、暴れんなよ、暴れんなよ……?)
途中、口ごもる幸潮の視線の先で、フロラが進み出て。
「鉄帝へのアクセスが悪いのは入り浸ってるわたくし的にも困っていますのよ!」
世界平和などの為に闘うのは苦手というフロラだが、今回は私怨もあるので気合も入るとのこと。
「とにかくぶん殴って、早いとこ開通させますわ!」
囲いの一ヵ所を突破するのが依頼目的とあって、腕を鳴らすフロラに、幸潮が首を振っていた。
「今回こそは他の敵ごとぶちのめす!」
しかし、ヨゾラも同調している。
皆終焉獣に、あるいはチアウェイに思う事があるのだろう。
「運命を見守りし裁定は此処に定められた」
黒き全身鎧を纏う『生命に焦がれて』ウォリア(p3p001789)は淡々と目の前の相手へと言い放つ。
「数多の戦を勝ち抜き、冠位魔種をも征して来た我らが滅びに臆する筈も無い」
――戦士の道は一つ。
――力を示し、ただ討ち払うのみ!
火斬熔剣の切っ先を異形の人型へと差し向けたウォリア。
「終焉に抗うと豪語する力、示して見せよ」
チアウェイもまた抑揚のない言葉で返し、取り巻きを差し向けてくるのである。
●
林の道は木々が陰になっていて、やや日の光は当たりづらい場所もある。
とはいえ、見通しはさほど悪いとも言えぬ場所。
立地としてはどちらに有益といえるものではないが、木々の中に終焉獣が紛れているのはほぼ確実。
事前にこの場に包囲網を張っていた敵の方が有利と言える。
それを頭に入れ、イレギュラーズはチアウェイ率いる人型の終焉獣らと対する。
この場で最も速く動き出したのは美咲だ。
高い反応力で、美咲は後続の仲間達と連鎖して動かす。
何せ、敵の数が目に見える範囲でもこちらよりも多いのだ。
前方に立ち塞がる人型終焉獣どもへと、彼女は銃や拳、投擲とあらゆる戦闘術を使って乱撃を浴びせかけていく。
同時に、完全逸脱を使いこなし、美咲は自己強化も合わせて行っていた。
さて、その美咲に同調し、敵の先手を取っていたのは半数ものメンバーに上る。
まずは、虚偽の人体と変容する獣への対処を。
汰磨羈はそう考え、魂魄の最奥から根源たる太極を引き摺り出す。
そうして、一時的に己の限界を絶ち切る程の出力を得た汰磨羈は長く伸びた髪を揺らして異形の人型へと刃を叩きつけた。
ただ攻撃を与えるだけではない。
汰磨羈が発動させたグラビティ・ゲートは渾身の一打となれば大きく敵を吹き飛ばす。
そうして、仲間達の範囲攻撃の圏内へと敵群を集めることこそ汰磨羈の狙いだ。
なお、その際、敵群はチアウェイとは引き離す。
それは、仲間達が気兼ねなく攻撃できるようにする為。
なぜなら、チアウェイはゴリョウが抑えを受け持っていたからだ。
「長ぇ付き合いじゃねぇか、そんなに無下にすんなよ! なぁ!」
チアウェイへと一直線に向かっていたゴリョウは金銀蓮花の炯眼で睨み付ける。
不快感を与え、相手に視線とヘイトを強引に自分へと向けさせるゴリョウ。
「悠長に指揮する暇すら与えねぇ!」
「…………」
漆黒の体躯を持つチアウェイだが、表情が露骨に変化しているのは見て取れる。
相手もまたゴリョウを見つめ返し、怪光線を発する。
そうして、敵もゴリョウの挑戦を受ける構えのようだ。
ゴリョウがチアウェイを抑える間に、錬も配下の終焉獣を速攻撃破しようと仕掛ける。
(何せ、獣が変容しかねないからな)
今、この時ですらも、進化する可能性のある変容する獣だ。
属性変換を行う魔術剣を起動させて己の力を高めた錬は進化などさせるまいと、式符により鍛造した陰る太陽を写す魔鏡で敵陣を映す。
その鏡より溢れ出す暗黒の雫が終焉獣を運命ごと塗り替えんとする。
なお、錬もまたグラビティ・ゲートを発動させており、まともに雫を浴びた敵が大きく飛ばされていく。
(……僕もだけど……、……君たちも変わってくんだね……)
レインも数の多い変容する獣を相手取ることに。
今は距離もある為、レインは仲間によって一所に集まる敵を堕天の輝きで強く照らし、呪いを与える。
敵が林に紛れているという情報はすでにレインも知るところ。
範囲攻撃によって、彼は敵のみを灼いていた。
なお、メンバーの攻撃を堪え、踏みとどまる終焉獣を接近するウォリアが見逃さず。
「罠は踏み潰し、策は噛み破る……愚直とも言えようが……疑念はそれを看破出来る味方に任せ、オレはただ暴威を以て敵を滅ぼす!」
名乗りを上げるウォリアがヘイトを買うことで、獣や人体の気を引く。
相手が蹴りを繰り出し、槍の如き腕を突き出して攻撃してくるなら、ウォリアにとっても望むところ。
今は敢えて敵の攻撃を受け続けて己を追い込み、復讐の炎を燃え上がらせるその時をじっと待つ。
美咲の連鎖行動からは外れているメンバーもまた、個々で動く。
ヨゾラは自分自身……星空の魔術紋を輝かせ、獣や人体の集まる場所へと術式を発動させる。
うねり、巻き起こるは泥の濁流。
だが、ヨゾラの起こすそれは自身のアレンジが加わり、煌めく星空を思わせた。
「どんなに数で押し寄せても、あの時みたいに思ったような動きができないようにさせてあげますよ」
泥に呑まれて抵抗する敵を尻目に、鏡禍は離れて逃れている敵がいるのを見逃さない。
そいつの目の前に鏡を召喚した鏡禍は、自身の手鏡を介して鏡内の敵を妖力で絡めとり、現実の本体にも異常を与える。
後は敵の纏まるところへと誘導するだけ。
内より発する炎を浴びせかけ、より強く敵の意識を自分へと引き付ける鏡禍だ。
(数が多いですが、少し耐えている間に皆さんが倒してくれるでしょう)
「じゃけん、癒しましょうね」
賦活ヒーラーとなる幸潮はまず『舞台定義』によって自らの力を高め、『描写編纂』によって仲間を癒す。
「ちょっと撒くだけで結構回復するぜ。ガハハ」
軽く笑う彼女だが、その力は本物だ。
そして、フロラは少し遅れてはいたが、笑顔で敵陣へと飛び込んで。
「道路工事タイムですわー!」
林の道である以上、道路には間違いない。
とりわけ、鉄帝への道を塞ぐ終焉獣は彼女にとっては障害でしかなく、道路の復旧は急務。
フロラは仲間が纏めてくれた敵へと大鎌で幾度も切りかかり、乱撃を浴びせかけていく。
兎に角、今は殴るのみ。
例え、不測の事態が起ころうとも変わらず、フロラは障害排除の為に大きな刃で終焉獣を切り裂いていくのだった。
●
木々に反射する音が戦場である林にこだまする。
終焉獣はこの場を突破させまいと全身を使って攻撃してくる。
虚偽の人体は以前から現れていた人の部位型終焉獣の力をいくつか持っており、その能力を操ってくる。
いわば、部位型の上位種。
何を考えているのか分からぬ部位型よりは、態度で分かりやすいと感じる部分こそある。
ただ、やはりその力は明らかに部位型のそれよりも高い。
高まる筋肉より繰り出される一撃はかなりの破壊力があり、取り巻きとしてでも侮れない。
そして、変容する獣。
それらは深緑に現れた大樹の怒りが木々を操って仕掛けてきた攻撃を思わせる。
攻撃こそ単調な部分があるが、力は個々でも十分備わっている上、数で攻めてくるのが実に厄介な相手。
そして、それらを取り纏めるクルエラ、チアウェイもまた戦いを重ねて力を高めている。
「抗うなかれ、受け入れよ」
変わらず、そいつは滅びの享受しろと繰り返し、異質な力をぶつけてくる。
浮遊して自重を叩きつけてくるチアウェイは、強風も巻き起こしてゴリョウを吹き飛ばそうとする。
だが、ゴリョウは笑う。
悠長に取り巻きどもへと指揮する暇を与えないことこそ、自身の役目であり、それがうまくいっている間ならば彼の思惑通りなのだ。
如何に攻撃してこようが、ゴリョウの意志は折れない。
内気外気の双方から自らを修復するゴリョウ。
指揮官としての働きが十全にできぬチアウェイをゴリョウはまたもじっと見つめる。
「…………」
黙して睨み返すチアウェイは今ところ、大きな動きを起こそうとはしないが……。
その間に、メンバーは取り巻きを攻め崩す。
美咲は持ち前の反応速度で敵陣をかき乱して。
届く範囲の敵全てに打撃に銃弾、投擲物を叩き込む美咲はチートコードを使うことで限界突破した力を発揮する。
さらに仕掛ける汰磨羈は大きく怯んだ獣を見逃さず、結界で捕捉する。
無数の卦を以って彼女が編み上げた六刑地獄が獣を容赦なく裁く。
「――『三絶』が三、陰の太刀」
汰磨羈はさらに、根源たる無極をその獣へと叩き込み、一気に陰の側へと変容させた。
「…………!?」
重力による集束、圧搾が獣の体に生じ、獣は一気にその身が潰れる。
青白い光も消え、その身は程なく完全に消失した。
ヨゾラも星空の泥を放った後、さらなる攻撃で終焉獣どもを苛む。
「楽園追放……獣も虚偽の人体も全て打ち倒せ!」
ヨゾラの魔術紋が一際強く輝き、神聖秘奥の術式が発動する。
楽園追放とも呼ばれる光が終焉をもたらす敵を打ち祓うと、光に灼かれた獣1体が消し飛ぶ。
できるなら、林に潜む敵も打ち払いたいところだが、今のところそれらしき敵は動きを見せない。
ヨゾラは潜伏する敵の警戒を続けながらも、眼前の敵の掃討を急ぐ。
敵陣へと接近していた錬はなおも魔鏡より黒い閃光を放つ。
それに巻き込まれた2体が運命ごと体を塗り潰されて虚空に溶けていく。
錬はそれだけでは止まらず、闇のオーラを放とうとする敵に桜花を思わせる無数の炎片を浴びせかけ、体力を削っていく。
「チアウェイがばら撒いて来た終焉獣との交戦経験もそれなりにある。……その集大成が相手だって問題はないな!」
合間に、錬は仲間の集める場から逃れようとした人体へと、式符より鍛造した青龍槍……豊穣の守護神樹の力を宿した木槍で貫く。
その人体はいきり立ち、錬に蹴りかかっていた。
レインは距離を詰め、自身の周囲に紫色の終焉の帳を降ろす。
それが終焉の手勢であれ、レインのワールドエンド・ルナティックは不吉と終わりを伝える。
なお、レインの近くには、彼が呼び出したファミリアーの犬が駆け回る。
(財宝を持ち帰った人達が近くを通る場合もあるかもしれない……)
一般の街道である以上、一般人が通りがかる可能性は完全に排除できない。
察知できたなら吠えるようレインはファミリアーに指示を出していた。
なお、ファミリアーが吠えずとも、……いや、吠えないからこそ、起こりうる状況も想定し、レインは敵の動きを警戒する。
(犬が倒される可能性だってあるからね……)
できるなら、その前に状況の変化を察知したいレインだ。
その間も、ウォリアが修羅の如く敵を切り払う。
敵は仲間へと猛るままに肉弾戦を仕掛ける者もいたが、時折、態勢を立て直して存分に終焉獣としての力を発揮してくる。
人体の発するオーラや変容する獣が根の如く伸ばす足。
ウォリアは神聖を纏わせた剣で、それらを切り払って。
「学習すらも及ばぬ原初の絶対の理をオレは掲げよう――これが全てを凌ぐ暴力、だ!」
ウォリアは乱撃を見舞い、獣2体を見事に切り裂いていた。
傍では鏡禍も別の1体に攻め入る。
怒りが途切れたままとならぬよう彼はしっかり敵を見定める。
人体による圧し潰しを受けながらも、鏡禍は聖なる光芒を走らせて態勢を立て直しつつ敵を切り裂く。
上体が折れるように倒れる獣。
順調に敵の数が減っている中、幸潮は仲間に癒しを振りまきつつ、燦然と輝く偽なる神格位で目立とうとする。
ぺかぁー、ぺかーーーー。
イクリプス『悪縮魔羅』を参考に、星海オーラを出す幸潮。
その光を目にしつつ、フロラは撃ち漏らした状況の敵へと逃がさじの殺人剣を浴びせかけて仕留めてみせる。
勢いのまま、フロラはさらなる殺人剣を繰り出す。
『猪』、『鹿』、『蝶』の三撃は立て続けに仲間の攻撃を受けていた変容なる獣も耐えようがなく、その身を崩してしまった。
全ての変容する獣の掃討を確認したイレギュラーズ。
「…………」
一方で、チアウェイはゴリョウを相手取りながらも、戦況確認の為に林へと視線を巡らせるのである。
●
徐々に敵の数が減り、イレギュラーズが有利になっているのは間違いない。
だが、敵との遭遇前、フロラが言っていたことが気になるところ。
(俺ぁ、チアウェイを甘く見てねぇ)
ゴリョウが部位型終焉獣やチアウェイとの交戦を重ねていたのであれば、相手もまたイレギュラーズとの戦いを通して戦い方を学んでいるはず。
交戦の最中、チアウェイは明らかに周囲を気に掛けている。
(この『林の道』は怪しい)
最初から、ゴリョウがそう睨んでいたのは、変容する獣の特性が『樹木』っぽいという事。
事前のフロラの情報もあり、敵が林に潜んでいるのはほぼ確実。
木々に擬態させているのは間違いないだろう。
(さらに包囲する、って可能性もある)
ゴリョウから離れ、人体を攻めるヨゾラもこの状況には驚きと怒りを感じて。
(もしそうなら……敵のファルカウ、終焉獣達にもブチギレていいと思うんだけど!?)
ヨゾラは歯を食いしばり、楽園追放を展開して人体を激しく灼く、
両手で空中を仰いだ1体が完全に硬直し、体が溶けてしまう。
これまで、メンバーを牽引していた美咲も負けてはいない。
変容する獣との交戦の最中も、範囲攻撃に巻き込まれて体力をすり減らしていたこともあり、息も絶え絶えの個体もちらほら。
それらへ、美咲は一気に近寄り、投擲物で地面に足を縫い留め、銃で撃ち抜いてからそいつを殴り倒して消し飛ばす。
美咲は止まらず、流れるように銃弾を浴びせてから心臓部に投擲、それをより深く打ち込むように蹴りを繰り出し、合わせて2体を始末する。
そちらへと視線を向けようとした敵を鏡禍が見逃さない。
周囲に仲間達も近づいて攻撃していたこともあり、鏡禍が仕掛けたのはブルーフェイクⅢ。
フェイクを織り交ぜて繰り出す技は、相手に不調すら及ぼし、満足な立ち回りを許さない。
鏡禍は鏡を煌めかせつつ、鋭い一撃で敵の顔面を潰して仕留めてみせた。
いずれも黒い体を持つ終焉獣。
力尽きた人体どもは跡形もなくその場から消えてしまった。
「………………」
取り巻きを全て倒され、自分一人になってもなお、チアウェイに同様は一切見られない。
それが、ゴリョウに一層強い警戒心を抱かせる。
(仮に周囲の木々の擬態が解けたとしても、指揮は取れねぇはずだ)
それに、このままチアウェイを倒してしまえば問題はない。
ゴリョウは変わらず、回復とマーク、金眸で睨みつけての抑えを繰り返し、チアウェイを自由にはさせない。
ここまでくれば、メンバーはチアウェイに火力をぶつけることに注力して。
「待たせたな! 俺達も混ぜさせて貰うぜ!」
駆けつけた錬は式符より鍛造した斧で極撃を叩き込む。
ただの斧ではなく、五行相克の循環を象っており、膨大な魔力がチアウェイへと打ち込まれる。
ヨゾラもまた敵の近場へと攻め込み、魔術紋……自分自身を光り輝かせ、星の光が瞬くかのように渾身の殴打を浴びせかけた。
幸潮がゴリョウを中心に、体力を敢えて減らすメンバー以外を癒す最中、フロラはチアウェイにも猪鹿蝶の三撃を叩き込む。
ウォリアも接近してから煌めく五閃を連続して繰り出し、チアウェイを一気に追い込まんとする。
「だいぶ強めの兵隊を持ってきたようでスが……あいにく私達もそれなりになってきたんでね」
――仕留めさせてもらいまスよ。
肉薄した美咲はチアウェイを中心に術式を展開する。
四象の力を顕現させ、世界に干渉するほどの力。
チアウェイは様々な苦難に苛まれる。
漆黒の体に刻まれた無数の傷。
これだけ弱ってなお、チアウェイはしぶとく生に縋りつくようにも見える。
汰磨羈はそれでもこいつが危険だと判断して。
「それ以上の学習はさせんよ。速やかに沈め!」
ゴリョウと挟むように位置取り、汰磨羈は陽の太刀を浴びせ、その体を爆破させた。
手応えは十分。
やったかと、どこからか漏れ出す声。
メンバーはチアウェイを倒したと確信した。
そこで、近場を通りがかる人影。
どうやら、鉄帝へと向かおうとしていたようだが……。
ヨゾラや鏡禍がそれに気づくと、チアウェイが一気に動き出す。
「時は、来たれり」
そこで、レインのファミリアーである犬が3度吠える。
「危険だよ、注意して」
レインの声が皆へと届き、メンバーは気を引き締める。
木々数本が新たな変容する獣となるのは想定通り。
加えて、新たなワームホールが現れ、虚偽の人体が2体加わった。
「襲え」
チアウェイはあろうことか、この場で人体に指揮を任せたのだ。
一般人に変容する獣が接近すれば、さすがにイレギュラーズの対応も変わる。
またも群がる敵が出れば、それらを集めようとする汰磨羈。
だが、敵の出現位置もあって、当初の作戦が間に合わない。
それでも、レインは一般人に近づこうとする敵数体を捉え、堕天の輝きで照らしてそれらの侵攻を食い止める。
(何かあるとは思っていたが……)
終焉獣も策を練らずに包囲網を敷いているとは思っていなかった錬だ。
魔術知識と錬金術知識を駆使して、仕掛けを見破れないかと戦いの最中も錬は周囲を見ていたが、この場は敵の方が上手だったと舌を巻きつつも青龍の槍で獣の体を突き刺す。
ウォリアもまた変わらぬ技の冴えで、獣どもが伸ばす手足を切り裂いていく。
1体だけなら、首すらも飛ばしていたことだろう。
これだけの状況であれば、メンバーも先程と同じように攻略できていたはずだ。
しかしながら、虚偽の人体はチアウェイの劣化個体といえる存在。
指揮能力もまた備えるほどの個体となっていたようだ。
まして、2体いればその力は高まる。
「……やれ」
どうやら、人体らはこの戦いを見ていたようだ。
まず、獣どもに、レインのファミリアーを叩かせる。
纏めて敵を相手取っていたフロラは前のめりに敵を叩いており、複数で獣を襲い掛からせて彼女もまた昏倒させた。
さらに、癒し手である幸潮もまた複数の獣に襲われていた。
パンドラに縋る2人に、ヨゾラがカバーへと回る。
「これ程に抗うか……」
イレギュラーズとしては逃走の目を潰したいところだが、すでにチアウェイはワームホールへと逃れている。
「誰も倒れさせないよ……!」
ヨゾラはそれを知りながらも、仲間を助けるべく無穢のアガペーを施すことで救出に当たる。
その一人がゴリョウだ。
繰り返し、チアウェイを押さえつけていた彼は、ワームホールから引きずり出す勢いで抑えつけようとして。
「どうした。最後まで付き合えよ!」
「触れるな……!」
チアウェイにとって、おそらくイレギュラーズに恐れをなした一幕で遭ったのは間違いない。
深く傷ついたそいつはゴリョウごと空間を切り裂く。
その間に、鏡禍が飛び込んで彼を庇おうとしたが、浸食を伴う脅威の一撃は、2人のパンドラすらも砕かせる。
ゴリョウが怯んだ隙に、ワームホールへと逃れたチアウェイはこの場から姿を消してしまった。
●
残念ながらチアウェイは逃したものの。
イレギュラーズはその後、一般人を救出しつつも、残る変容する獣を掃討する。
残念ながら、虚偽の人体はワームホールで逃れてしまったものの、林の道に陣取っていた終焉獣の一隊を退けることはできた。
「とりあえず、ひと段落ですね」
そうは言うものの、鏡禍は警戒を怠らず、周囲の安全確認と合わせ、罠が張られていないか……とりわけ、まだ木に擬態した終焉獣がいないか、入念にチェックしていく。
あちらこちら動くメンバー達を、ヨゾラは一人ずつ癒しつつ、自らも警戒を続けて。
「これで、ヴェラムデリクトの思惑を一部だけでも潰せたかな」
やはり、奴は信用してはならなかったのだろうとヨゾラは口にする。
幻想や混沌の人々に害為すのであれば許せない……と。
林に危険がないことを確認したメンバーは終焉獣にとらわれていた一般人を介抱する。
寄生されていなかったのが幸いといったところ。
どうやら、是が非でも鉄帝に戻りたかったらしく、強行して向かうことにしたのだそうだ。
そんな中で、フロラはこのまま行商人と共に鉄帝に向かうと主張し、この場で別れたいとメンバーに話す。
満身創痍でも、きっと向こうにもここの状況をいち早く知りたがっている方々がいるだろうからと、彼女はいてもたってもいられなかったようだ。
「勿論、わたくしの心の故郷でもありますから。ね!」
一足早くこの場を去っていく彼女も見送りつつ、残るメンバーも手早く事後処理を進めてからこの場から撤収することにしたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは力づくでクルエラを抑えつけた貴方へ。
思った以上に策を巡らすクルエラ……きっと追い込む機会はあるはずです。
ご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<漆黒のAspire>のシナリオをお届けします。
動き出す聖女、Bad end 8、魔種達。
滅びの神託を受け入れるわけにはいきません……!
●概要
幻想に現れる終焉獣の一部を率いているのがクルエラ、チアウェイです。
各地で暗躍していたチアウェイですが、今はアークロード・ヴェラムデリクトの意に従って終焉獣を統率しているようです。
クルエラ、チアウェイは鉄帝へと続く林の道に陣取っています。
これらを撃退して包囲網の一角を崩すことが今回の狙いです。
●敵:終焉獣
以下、戦闘開始時の状況です。
〇クルエラ:チアウェイ
指揮官型終焉獣。全長2mほどの黒い人型。
これまで出会った人の部位を象った終焉獣の内から幾つからの技を使う、指揮官に相応しき能力を持ちます。
〇終焉獣:虚偽の人体×4体
全長2mほどの黒い人型。
他シナリオで出てきたクルエラ、チアウェイを思わせますが、クルエラ程の力はありません。
ただ、他の人体部位型終焉獣の力のいくつかを所持する点は同じで、今回出現する個体は以下の能力を使用可能です(別シナリオと仕様する能力は異なります)。
・眼光、奇怪な笑い。
・跳躍圧し潰し。蹴り。
・筋肉の一撃、闇のオーラ。
〇変容する獣×10体
人間種の成人男性程度の大きさ。
青白い見た目をしていますが、深緑の大樹の怒りなどの能力を吸収しているのか、腕を槍の如く突き出し、足を根の如く伸ばして絡める力を持ちます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いします。
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