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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>亜竜集落アスタと星の少女

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星の少女
「ねえ、準備はできているの?」
 宙にふわりと浮かび上がり、見えない椅子に腰掛けるように足を曲げる少女があった。
 黒き衣に身を包み、星の冠を頭上に回すその姿。彼女の名は――ステラ。
 イレギュラーズから『混沌のステラ』と呼ばれる存在である。
 『大いなるもの』の端末にして、星界獣。滅びを見守る少女だ。
「できているかいないかでいえば、『できていない』」
 肩をすくめ応えたのは星界獣のひとりだった。彼は全身が常人の倍ほどに肥大化し、そのパワーは圧倒的である。実際巨大な岩を持ち上げては放り投げるという暇つぶしをしていた。
「降り注いだ星界獣の数はまだ予定の数に達していないし、ネームドもそれほど集まってない。君の情報が正しければ、ローレットのイレギュラーズを一チーム潰せるかどうかの数だ」
「既に連中がアスタに到達していたというのが、厄介だな」
 円形の盾を腕に生やした星界獣が腕組みをする。
「あの集落を制圧して拠点にするつもりではなかったのか?」
「なあに、予定という奴が思い通りに進んだことなんてないだろ。真面目だなあ、アンタは」
 殻で作られた弓を肩から提げた身軽そうな星界獣がニヤリと笑う。その様子に盾の星界獣が不快そうににらみ付けるが、すぐに両手をあげて降参のポーズをとってみせた。
「まあ心配ないさ。見ろよ」
 そのまま上を指さす星界獣。ヘスペリデスの空が、そこにはあった。
 空には無数の流星が流れ――いや、流星の如く降り注ぐ星界獣の群れが存在していた。
 それまで押し黙っていた、片腕をハンマーのようにした星界獣が口を開く。
「コンシレラに封じられていた怪物が目覚めたのだ。これだけのことは起こる。それに、多少数が足りなくても俺たちがいる。そうだろう?」
 自信ありげに振り返ると、ステラははあとため息をついた。
「そうね。あなたたちは特別製だもの」
 そう言ってから、手を天にかざす。
 星界獣たちの降り注ぐ、天に。

「なぜ、あがこうとするのかしら。
 もがいて、あがいて、頑張っても、星が滅びれば何も残らないのに。
 いずれ滅びるこの世界で、ただ熱のたかまりを素晴らしいものだと勘違いしているだけ……」
 この世界は滅びかけている。世界中に星界獣が降り注ぎ終焉獣が跋扈するそれこそが証明だ。
 ステラは空中で足を組むと、何もない場所に頬杖をついて、翳していた手を下ろす。
「さあ、始めましょうか。大侵攻を」
 まずは、ヘスペリデスにひっそりと存在していたという亜竜集落、アスタから。

●大侵攻
「皆さん、大変です!」
 ここは亜竜集落アスタ。ヘスペリデスの奥地、終焉により近い場所に存在した幻の集落である。
 集落は長らく『星の祠』と呼ばれるものによって亜竜や竜種たちの脅威から守られており、今までは比較的安全に人が暮らしていられたという。
 しかし新たに現れた星界獣や終焉獣たちはその祠の力が及ばず、集落の戦士達は次々と怪我を負うことになったという顛末がある。
 そんな集落にイレギュラーズたちはたどり着いたのだった。
 何代にもわたってこの集落に閉じこもって生きてきた彼らにとって、『外からの客』というのは驚き以外の何物でも無かったようだが、イレギュラーズたちが友好的に接した甲斐もあって彼らとの交流は順調に進み、友好を結ぶことができた。
 ならば次は集落を守る手伝いを――と思ったその矢先、事件は起きたのである。
「外に出て見てください、空を!」
 集落で星の巫女と呼ばれる、いわゆる里長にあたる人物が慌てた様子で叫ぶので、イレギュラーズたちは外に出て空を見上げた。
 そして、驚愕した。
「これは……星界獣なのか?」
 呟いたのはダンメリという集落の戦士である。
 空から降り注ぐのは大量の星界獣たち。それらは地面に激突するや殻をわり、周囲のエネルギーを喰らって急成長を遂げると集落に向かって攻撃をしかけてくるではないか。
「仕掛けてきたのか、星界獣が!」
 里で動ける戦士たちが一斉に飛び出していく。
 星の巫女アドプレッサは振り返り、イレギュラーズへと叫んだ。
「どうかお願いします。この里を守って――戦って下さい!」

GMコメント

●シチュエーション
 ステラによる星界獣たちの大侵攻が始まりました。集落を守るべく、戦いましょう!

●前半
 まずは集落周辺に出現した星界獣たちを撃退してください。

・ワイバーン型星界獣
 亜竜の残留エネルギーを喰らった星界獣です。
 飛行能力をもち、空からの急襲をしかけてきます。

・ドレイク型星界獣
 亜竜の残留エネルギーを喰らった星界獣です。
 四足歩行をし、角による突進や牙による噛みつきといった攻撃方法をとります。


●後半
 後続としてやってくる人型星界獣のネームドたちと戦います。
 彼らは人語を理解しており、まるで人のように振る舞います。
 ですが目的は世界を喰らうことであり、世界を滅ぼすことであることは代わらないようです。

・ステラ
 滅びを見守る少女。彼女は結界を張って防御し、戦闘に参加しません。
 ですが言葉や想いは届くはずです。

・スリヴァンス
 腕に盾を生やした星界獣。この盾は無限に生やすことができ、防御や投擲に用いられる。

・ラファクーロ
 人の二倍はあろうかという肥大化した巨体をもった星界獣。圧倒的なパワーをもっている。

・リクスヘム
 腕をハンマーにした星界獣。魔術を行使する能力があり、激しい電撃など高威力の魔術を放ってくる。

・ナーミー
 弓を備えた身軽な星界獣。格闘能力に優れ、懐に入られても戦えるほど武器の扱いが上手い。

・????
 その他複数の人型星界獣が出現する可能性があります。

  • <グレート・カタストロフ>亜竜集落アスタと星の少女完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月26日 22時05分
  • 参加人数20/20人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC35人)参加者一覧(20人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ファニー(p3p010255)
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん

リプレイ

●渡されたバトン
 迫り来る星界獣の大軍を前に、『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は勇敢にも『雲海鯨の歌』を抜いた。指揮棒を振るように空を払うと、五線譜の魔法が彼を取り巻いた。
「あっちの世界のステラとは違うヒトだけど……。
 でもステラに変わりはないし、あっちのステラにも頼まれたもんね!
 言葉を、思いを届けるヒトたちのために、道を切り開くよ!」
 彼の目には決意が、腕には勇気が灯っている。
 それはなにも、彼だけのことではない。
 『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)もまた、『カペラの道行き』を手にぎゅっと握りしめた。『常磐の結わゑ』が腕で揺れ、彼女の力を廻るように高めていく。
「滅びるに任せる、なんて出来ません……! アスタは守り抜きます」
 それに、とここではないどこか……プーレルジールの地を想う。
「あの子が、この先にいる。境界のステラさまに、頼まれました、もの。
 ……いいえ、頼まれなくても、きっとこうしました」
 ふるふると首を振り、決意を固めるメイメイ。
(ついに現れた……混沌の、ステラ君。
 似てるけど、境界のステラとは違う。滅びの気配と、怒りと、どこか諦めているような……)
 『昴星』アルム・カンフローレル(p3p007874)は杖を強く強く握りしめながら、プーレルジールのステラと話した思い出を蘇らせていた。
 どうかお願いと、彼女は言った。任せてくれと、自分達は言った。それは約束であり、決意であった。
「君を救って欲しいと頼まれてきたんだ。まずは今回の侵攻を止めさせて貰う!」
 その一方で、『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)は彼の地に作ったホストクラブのことを思い出していた。VIPとして招いた彼女の、嬉しそうな笑顔を。
「混沌のステラも、きっとお優しい心の持ち主のはず。
 滅びを見守るお役目も、心の底から望んでいるとは思えません。
 真意を確かめる為にも戦場を舞いましょう」
「そうかも、しれません……」
 『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)もまた、『ミラベル・ワンド』を強く握る。ティアドロップ型のネックレス『絆の揺石』にそっと手を近づけると、目を瞑った。
「それに……アスタのみなさまがかなしいの、ニルはいやです。
 だから、ニルは、がんばります!」
 仲間たちは覚悟を決めたようだ。
 『綺羅星の守護者』綾辻・愛奈(p3p010320)は銃を抜いて安全装置を解除すると、同じく手槍をホルダーから抜き放つ。
 その銃を綺麗ねと言ってくれた、あの子の笑顔を思い出して。
「『はじめまして』……なのですね。そんな気は、あまりしないのですけれど」
 声を、言葉をかける前に、彼女に向けて呟いた。
「どうぞ私に自己紹介をする許しを下さいませ」

 『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)や『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)たちは、『星の祠』について相談を交わしていた。
「やっぱり、祠の力を使って星界獣を払うことは難しいか……」
「はい。念のために色々調べてみましたけれど、あれは亜竜たちにしか効果がないみたいです。それと気になることも」
「気になること?」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が問いかけると、鏡禍が頷いて続けた。
「『星の祠』はどうにも、星界獣に似ているところがあるんです。具体的にどこがとは言えないんですけれど、なんとなくそんな雰囲気があるんです。大地さんも感じませんでしたか?」
「確かに、少しそんな感じがしたな……同種の力だから払えない、ってことか」
「なるほどな。だったら――」
 『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)が三叉槍を握って地に立て、片手で顎をさするように考えこむ仕草をする。
「祠が目印になって、このアスタが発見されたという線もあるかもしれないな。虫除けどころか巨大な飴だったわけだ」
「まあ、あくまで仮設だから鵜呑みにはできないけどな」

「さて、と。ようやく来たな。このタイミングが」
 『Star[K]night』ファニー(p3p010255)が両手をポケットに入れたまま星界獣の群れを見やる。
 空を埋めるのではと思えるほどのワイバーン型星界獣。大地を覆うかと思うほどのドレイク型星界獣。どちらもアスタという集落を潰せるだけの大戦力だ。ここで倒さなければ酷いエンディングが待っていることだろう。
 だがそれ以上に……いや、それと同じくらいに、あのステラという少女に言わなければならないことがある。
「アンタもそうかい? ステラに言葉を投げかけに?」
「はい。できれば彼女を追いかけたいと思っているのですけれど……」
 一人で突出するのは流石に危険が過ぎるだろう。けれど、届けられるものはあるはずだ。
 ファニーも似たような想いを抱いていたらしく、苦い顔で空を見た。
「お互い、できる限りのことをしよう」
「はい。私達の、精一杯で……」

 『黄昏の影』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は戦場のただ中にあって、しかしどこか虚ろだった。ゆらゆらと影がゆれ、爪や翼が見えるようだ。それすら、どこか虚ろで。
(……戦いの気配を、死の気配を頼りにやって参りましたが……。
 戦争の如く、激しい侵攻。まさしく、滅びの前兆……。
 ……此処でなら、終われるのでしょうか。ただ不幸を撒き散らすだけだった、無為な人生が。
 一体、どこで……私は、死ねるのでしょうか……)
 そんな彼女の横に立つ、『無職』佐藤 美咲(p3p009818)。
「これまた、混沌側のステラ氏はなかなかに派手にやってきまスねー……。
 これは骨が折れそうスね。
 おちおち休んでるわけにもいきませんか」
 などと言いながらちらりと横顔を見やるが、反応はない。はあと美咲はため息をついた。
 それをどう受け取ったのか、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)がやってきて声をかけてくる。
「大丈夫、世界は滅びないさ」
 両腕用足の義手と義足に光の線が走り、キュウンと音を立てる。
「この集落のように、まだ私が目にしたことのない未知がこの世界には溢れている。
 なら、何があろうと滅びさせなどしない。奇跡なら、いくらでも起こしてみせようじゃないか」
 それに答えたのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だった。
 鋼の右腕と足の具合を確かめるようにこつんと叩くと、これまで幾度も戦場を共にした『メロディア・コンダクター』を抜き放つ。
「無駄な足掻きだと言うなら放っておけば良いのに、何故わざわざ攻めに来た?
 滅びるまでの儚い時間でも、情熱を燃やすのはいけない事か?
 やがて消える音色も響く間は愛おしいように、俺は今あるこの瞬間が大事なんだ。
 だから、抗うよ」

 『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)は後ろを振り返り、集落から出てきた戦士達の様子を眺める。
 そしておんぼろの杖を握りしめた。
「こんなところに集落があったとは。
 あの、わたしも同じ亜竜ですので、仲良くしてくださいね……なんて悠長なことを言っている場合ではなさそうですね。
 侵攻してくるなら、ひとまず食い止めるのみです」
「その通り」
 と、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が『星灯の書』を手に小さく笑う。
「うん、まあ何かあるだろうとは思ってた。
 竜型はまあ土地が土地だし別にいいとして、最近出てきた人型星界獣までわんさかかぁ。
 随分と念入りに叩きに来たね、まだこの集落とは交流が始まったばかりだ。
 邪魔されるのも業腹だし迎撃するとしましょうか」
「いかにも。アスタの民……折角巡り会えた新たな同士なのです。
 これ以上亜竜種達を傷つけさせはしません。
 星界獣……滅びを齎す存在というのであれば、私は許しはしない!」
 『未来を託す』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)もまた、『應龍扇』と『蚩尤扇』をバッと広げて臨戦態勢をとってみせる。
 折角交流の始まった集落なのだ。こんなところで潰されてはなるものか。
 その気持ちに応えるように、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)も『カグツチ天火』を握りしめた。
「こんなにいっぱい星界獣が……でも、この里を壊させたりなんかしないよ! みんな、一緒に戦おう!」
 集まった仲間たちは多い。更には集落から駆けつけた仲間たちもいる。
 こんなとき、ローレットは負けないのだ。それを、歴史が証明してきた。
 さあ始めよう。里を――ひいては世界を守る戦いを。

●星界獣の群れ
 まずは、何はなくとも星界獣の群れの退治である。
 大勢の仲間たちと共に走り出したカイトは、跳躍と羽ばたきによって急速に空へと飛び上がっていった。
 高高度から飛び越えようとしてくるワイバーン型星界獣たちを叩くためである。
「ニセモンの亜竜程度、空の王者たる俺が纏めて相手してやらあ!」
 群れの中に突っ込みながら『熱血の赤翼』を発動。
 真っ赤な翼が星界獣たちに高揚感を与え、更に与え、興奮させる。まるで赤い布に飛び込む牛の如く星界獣たちはカイトへと突っ込んできた。
 しかしここは回避能力でもローレットでトップクラスの実力をもつカイト。軽々とワイバーンたちの攻撃を回避していく。
「この世界の空って奴を知らねえやつに、空戦で負けるわけねえぜ!」
 大きく群れを引き離して飛びながら、『緋雨』による爆ぜる羽根を発射するカイト。
 爆発の中に更に飛び込んでいったのは、妖力で飛翔する鏡禍だった。
 鏡禍は『ルーンシールド』と『マギ・ペンタグラム』による二重の結界を張ると、『ブレイズハート・ヒートソウル』を放出。
 紫色の妖力が炎のように燃え上がってワイバーン型星界獣たちへと吹き付けられる。
 丁度カイトと手分けをして引きつけを行う感覚である。
 それによって目の色を変えたワイバーン型星界獣は鏡禍めがけて次々と突進。こちらもかなりの回避能力があるが、それでも次々とこられれば直撃を貰うこともある。しかしそこは張った結界によって器用に弾かれていた。
 この空域でどうやら鏡禍の結界を破れるほどの実力をもつワイバーン型星界獣はいないようだ。このまま一方的に引きつけを行うことができるだろう。
「なら、攻撃に移って貰うほうが得策ですね。皆さん、引きつけた敵の掃討をお願いします!」
 鏡禍に言われ、アクセルは自らの胸を叩いた。
「任せて! 範囲攻撃ならいいのがあるんだ!」
 指揮棒を美しく振ると、風が歌うようにひゅりらと鳴った。光の五線譜が彼の周りをひとまわりしたかと思うと、そのままワイバーン型星界獣の群れへと飛び込んでいく。
 音符と五線譜の爆発が起こり、それは混沌の泥へと変じてワイバーン型星界獣へ纏わり付いた。
 そんな中で、【怒り】の付与されていないワイバーン型星界獣がアクセルを脅威と見なして攻撃を仕掛けてきた。
 鋭い牙をむき出しにして噛みつくという攻撃である。
「おっと、危ない!」
 アクセルはその攻撃を器用に回避。続けて別のワイバーン型星界獣が噛みついてくるが、即座に自らに治癒の魔法をかけた。
「これは長期戦になりそうだね。皆、APの消費には気をつけて!」
 そう言いながら指揮棒を振り、光の音符を先ほどのワイバーン型星界獣にぶつけるアクセル。ケイオスタイドの魔術によって蓄積していたBSが爆発し、ワイバーン型星界獣は墜落していく。
 そこへ愛奈による更なる追撃。
 『デスティーノ・コイントス』と『狂イ梅、毒泉』で自己強化を図った愛奈は、未だ【怒り】の付与されていないワイバーン型星界獣の群れめがけて『虚穹』を放った。
 特殊弾頭を込めた銃でなぎ払うかのように撃ちまくり、ワイバーン型星界獣たちのAPを奪っていく。急降下突撃をしかけようとしていたワイバーン型星界獣は先手をとられその機会を逸していた。
 そんな中から更に突出してきたワイバーン型星界獣に『オーラレイ・ピアース』。片手槍を突き立てた。
 槍を通じて通されたオーラが爆発を起こし、派手にワイバーン型星界獣の肉体を破壊。攻撃を食らって派手に血を吹き出し、墜落していくワイバーン型星界獣。
 それを見下ろして、愛奈は次なる目標へと視線を――そして銃口を向けた。

 サポートに駆けつけた仲間や里から駆けつけた戦士達は優先してワイバーン型星界獣を攻撃していた。
 無論、頭上を飛び越し集落へダイレクトに攻撃できるこの戦力を警戒してのことである。
 ルーキスもその中に混じり、ワイバーン型星界獣へと攻撃をしかけていく。
「長期戦? 問題ないよ、息切れ知らずが私の取り柄でね」
 器用にAPを充填しながら『歪曲のテスタメント』を放つルーキス。
 急降下突撃をしかけようとしていたワイバーン型星界獣が直撃を喰らって墜落。地面に激突したところで起き上がる。
 反撃の爪が繰り出されるが、ルーキスはそれを大きく飛び退いて回避した。
 そこへ連続で次々にワイバーン型星界獣の急降下突撃がしかけられるが、それらを魔術結界の防御とあわせながらさばいていくルーキス。
 そして、追撃の『ケイオスタイド』が発動した。
 突如地面から混沌の泥が湧き上がり、地面に着地していたワイバーン型星界獣たちを包み込んでいく。
 払いのけ大きく吠えたワイバーン型星界獣に、冥夜は更なる追撃をしかけた。
 ポケットから素早く取り出した端末をスワイプ操作。親指の動きだけで呪印を完成させると、混沌の泥を更に出現させる。
 これはローレットでも人気の魔法だ。何発もぶち込めばさすがのワイバーン型星界獣たちとて不吉系BSの波から逃れることはできない。
 反撃しようと吠えるも、泥に滑って派手に転倒してしまう始末だ。
「回復の足りていない方はいらっしゃいますか。今のところは大丈夫そうですが……」
 サポートメンバーの回復が手厚いこともあって、冥夜たちが回復に手を取られ続けるということはなかった。
 ならばよし、と中指で眼鏡の位置をくいっと直し、不敵に笑う。
 その一方でニルは『ケイオスタイド』の更なる追い打ちを仕掛けていた。
 杖を握りしめて天にかざすと、魔術が発動して杖から黒い光線が放たれる。
 空から次々と急降下突撃をしかけようとしていたワイバーン型星界獣たちの一体に命中した光は球系の爆発を引き起こし、それもまた混沌の泥となる。
 ニルは更に魔術を切り替えて発動。『アンジュ・デシュ』の魔術は白い光線となってワイバーン型星界獣へ直撃。先ほどの不吉系BSによって抵抗自体に失敗したワイバーン型星界獣たちが次々に石化の呪いによって動きを封じられていく。
「まとめて、えい!」
 そこへトドメとばかりに繰り出されたのは『パラダイスロスト』だ。
 ただでさえBSまみれになっていたワイバーン型星界獣たちが更なるBSに塗れ、行動不能となって次々と墜落。地面には死屍累々の光景が広がっていく。
 相当に有利な状況だが、しかし仲間のダメージがゼロだというわけではない。
「回復します! できるだけ多くの人を!」
 リスェンは『コーパス・C・キャロル』の魔法を唱えながら杖をしっかりと握った。
 治癒の力が彼女を中心にふわふわと粉雪のように舞い上がり、そして対象の下へと散っていく。
 煌めく青白い雪のように染みこんだ治癒の力は、仲間の傷口を瞬時に癒やしていった。
「他に回復が必要な方は……」
「ええ、大丈夫そうですよ。よければ攻撃に移っても?」
 ヴィルメイズが美しい舞いを踊りながら答える。舞いの名は『崔府君舞』。
 閻家に伝わる、悪しき亡者を裁き罰を与えるための舞といわれ、「四本角」が舞えば、罪深き生者にも苦しい罰を与えるとも言われる舞いだ。
 それがワイバーン型星界獣たちに激しい『罰』を与え苦しめ、その動きを封じていく。
 罰がもたらされたと見るや、舞いを『無常勾魂舞』へと変化させた。
 本来はこの世に蔓延る悪霊を捕え鎮めるための舞だったが、ヴィルメイズが舞うことにより生者も魂を抜かれるような苦しみを与えるものへと変化したものだ。
 罰の分だけ激しい苦しみが重なるようで、ワイバーン型星界獣たちは苦痛の声をあげて次々に墜落。なんとか反撃に出ようとしたところで、ヨゾラが『パラダイスロスト』を放った。
「楽園追放……亜竜集落はやらせないよ!」
 大量のワイバーン型星界獣に向けて星が降り注ぎ、様々な色で彩られた光がワイバーン型星界獣へと直撃していく。
 それは時に激しい炎となり、凍てつく氷となり、死に直結する猛毒となり、心を乱す魅了の光となった。激しく混乱したワイバーン型星界獣たちは苦しみもがき、反撃の余裕すらないまま次々に倒れていく。
 その光景を眺めながら、ヨゾラは次なる魔法を放つのだった。

 多くのワイバーン型星界獣を倒したことで、残るはドレイク型星界獣のみとなった。
 直接戦っていたゼフィラがまっすぐに突進してくるドレイク型星界獣へ向けて両手を突き出す。
 義手の腕はキィィンと英智の音を鳴らしたかと思うと、強烈な封殺の魔術を発射した。
 直撃を受けたドレイク型星界獣が派手に転倒し、なんとか起き上がろうともがきはじめる。
 だがゼフィラは攻撃の手を止めずに魔術を連射した。
「まだ回復は必要ないよ。攻撃に集中してくれ」
「はいっ! 攻撃ですね……!」
 メイメイは『ブレイクリミットオーダー』を発動。反応速度をがっつり高めると、『神翼の加護』の魔術を発動させた。
 羅針盤を掲げたメイメイを中心に召喚される大量のミニペリオン。覇竜を意識してかドラゴニアコスプレをしたミニペリオンたちがドレイク型星界獣の群れへと飛び込んでいく。
 そして手にした(相対的)巨大ハンマーでドレイク型星界獣の頭をぼかすか殴りまくる。
 それによって怯んだところへ、更なる攻撃。
 味方の回復が手厚いために、メイメイたちが回復に手を取られることはそうないようだ。
 具体的にどう手厚いのかというと……。
「ダメージ? 任せて!」
 アルムが六種に渡る治癒スキルを巧みに使い分け、誰かがダメージを受けたそばから回復していく。
 たとえばメイメイがドレイク型星界獣の突進によって吹き飛ばされたとしよう。吹き飛ばされた瞬間には既に発動しており、完全に回復したメイメイがくるんとまわって着地するという手際のよさである。
 更には『黄金色の恩寵』の効果もあって近隣の仲間には高い抵抗と光輝能力が付与されている。ドレイク型星界獣の群れによる突進は恐ろしいものだが、しかしそれによって仲間が倒れることはそうないだろう。
 そんな中で、敵陣へとゆらゆらと突き進むヴァイオレット。
 『アブソリュート・ワン』によって反応速度を回避能力を高めると、自らの影を盛大に延長。
 その影を見たドレイク型星界獣たちが思わずヴァイオレットへと狙いを向けた。
 他人が死ぬくらいなら自分を殺してくれ。そんな気持ちでゆらゆらと歩み出るヴァイオレットは、しかしその想いに反してというべきかドレイク型星界獣たちの突撃をひらりひらりと回避していく。彼女の回避能力もまた、凄まじく高いのだ。
 そしてドレイク型星界獣の一体の側面に近づくと、ぺたりとその身体に手のひらを当てる。ズドンと音を立てて彼女の影がドレイク型星界獣を槍のように貫き飛び出していく。
(あれ? あそこにいるのは、ヴァイオレットちゃん?)
 そんな戦いを、この大規模な乱戦の中で見つけた焔。
(何があったのか、何となくは報告を見て知ってたけど……)
 ならばとヴァイオレットの前に躍り出ると、彼女に群がるドレイク型星界獣めがけ槍を豪快に突き立てた。
「焔様?」
「大切なお友達が傷つくところを、黙って見てなんかいられないもん!」
 突き立てたそばから炎が燃え上がり、ドレイク型星界獣は苦痛の声を上げて倒れていく。
 槍を抜くと、それをくるりと回して『裁きの炎』を発動。突きつけた槍の先から炎が噴き出し、離れた位置からヴァイオレットを狙おうとしていたドレイク型星界獣たちを焼き焦がした。
 そんな光景を、美咲は少し離れた場所から眺めていた。
(んにしてもヴァイオレット氏、やつれてまスねー……。
 何があったのか知りませんが、死にたいやつは勝手にさせておけばいいんスよ。
 『死は救済』なんて言葉もありますからね)
 なんて悪びれたことを考え視線をそらそうとして……ふと、思い出が蘇った。
 天義で戦っていたあの日、希死念慮をこじらせた自分の面倒を見てくれた人達がいた。そんな思い出だ。次に浮かんだのは、ヴァイオレットとポーカーゲームで遊んだ思い出だった。
「……ああっ、もうっ!」
 左腕の義手を握りしめ、右手で拳銃を抜く美咲。
 その狙いはヴァイオレットに襲いかからんとしているドレイク型星界獣たちだった。
 銃を連射しながら突き進み、至近距離に潜り込んで左腕で殴りつける。
 ドレイク型星界獣が苦痛の声をあげ目の前で倒れた。

 イズマはルーンシールドを展開。突進してくるドレイク型星界獣の角を細剣の先端でピタリと受け止めた。
 続けて『響奏術・羅』を発動。自らの速度を急激に高めると、剣を振る音を音楽に変えて周囲のドレイク型星界獣たちの注意を集めた。
 強烈な突進が四方八方からイズマを襲うが、魔力障壁で無効化したイズマには届かない。そんなイズマの防御を破ろうと特別な突進を仕掛けたドレイク型星界獣に、イズマは軽やかに蹴りを放った。
 それによって狙いが大きくズレたドレイク型星界獣が転倒。直後にファニーの拳がドレイク型星界獣の顔面に突き刺さった。
「この先に、伝えたい相手がいるんだ。邪魔をするなよ」
 ファニーは『降りしきる二番星』を発動。召喚した無数の獣の頭蓋骨がガパッと口を開くや否や、真っ白い光線が放たれる。
 光線によって激しく削られたドレイク型星界獣が動きを止める中、勇敢にもファニーの光線を抜けてくるドレイク型星界獣が現れた。
 回避が間に合わず。突進の直撃を受けるファニー。
 吹き飛ばされつつも、すぐに大地が治癒の魔法を唱えた。
 ドッと音をたて転がるファニーだが、ダメージは残っていない。
「ふう、助かった。こんなところで立ち止まれないからな」
「だろうと思った」
 大地は両手を広げてみせると、高等能率効果によって消費をゼロにした治癒スキルをばらまき始めた。
「俺の魔力はけして枯れ果てない。
 ここに立っている限り、幾らでも味方の回復ができる。
 俺が皆を支えるから、どうか、この地に生きる人々を守ってくれ!」
「ありがとうございます。行きましょう、今井さん!」
 ユーフォニーが更に踏み出した時には、ドレイク型星界獣は残り僅かとなっていた。
 発動、『カレイド・フォーチュン』。
 キングサイズのファイルを開放させた今井さんが手をかざすと、閉じられていたすべての書類が次々に紙飛行機型へと折りたたまれて編隊を組んだ。そのすべてが複雑な機動をとりながらドレイク型星界獣の群れへと突進。接触と同時に魔術的爆発を起こしていく。
 そうして開けた視界の先、中に浮かぶ彼女が見えた。
「ステラさん……」
 ぎゅっと拳を握りしめるユーフォニー。
 語らいの時間は、近い。

●完全人型星界獣
「来たのね……」
 宙に浮かび、足を組むようにするステラ。
 その周囲には歪な人型の星界獣たちが集まっていた。
 事前の情報にあった四体のネームドに加え、更に五体近くの星界獣の姿が見える。
 個々がこちらよりも圧倒的な戦闘力を持ち、これまでの星界獣のように蹴散らすことは不可能だと思わせた。
「こいつは……なかなかに厄介だな」
 カイトは仲間たちの顔ぶれを見て頷く。
「それぞれ五人ずつに分かれて押さえ込むぞ。一部の火力は予定通りラファクーロに集中だ。いいな!」
 カイトがそう叫ぶと、早速ナーミーめがけて飛んで行った。
「ははーん? 弓使いってことは狩人か? ま、その程度のへっぽこ弓じゃ俺を撃ち落とせねえぜ?」
「さあ、そいつはどうかな」
 『緋天歪星』の力を込めて蹴りを繰り出すカイト。ナーミーは巧みな体捌きでそれを回避すると、弓による反撃を放ってきた。
 超人的な回避能力でそれを避けるカイト。
 そうしている間に、ルーキスがナーミーへと接近を果たした。
「さーてとっておきの解禁だ。
 このために温存してきたんだから、ありがたく受け取ってねー?」
 高純度の魔力を凝縮。宝石を核とした仮初めの剣を作り出して大上段から叩きつける。
 ナーミーはそれを弓で受け流すと、ルーキスを蹴りつける。
「そいつを受け取るわけにはいかないな。いかにもヤバそうだ」
 一度距離をとられつつも、ルーキスは攻撃の手を休めない。受け流された剣を再び構え強烈な突きを繰り出し、同時に暴走させる。
 今度も攻撃を回避しようとしたナーミーは目の前で爆発した剣の衝撃に吹き飛ばされ、地面を派手に転がっていく。
 が、すぐに起き上がって弓を構えた。
 キリッと弓弦の張る音が一瞬だけしたかとおもうと魔力の籠もった矢が飛んでくる。
 回避不能な速度と精度をもって放たれた矢はしかし。『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)によって受け止められる。
「おっと、壁役かな?」
「その通り。ルーキスに手出しはさせない」
 ルナールは『ブレイズハート・ヒートソウル』を放とうかどうか考え、そしてやめた。
 カイトの攻撃がかわされた所を見るに、ナーミーの回避能力はかなりのものだ。抵抗も激しいだろう。となれば他の人型星界獣たちの戦闘力もかなり高いとみていい。個別に囲んで叩く作戦が今のところ有効だろう。敵を集めるのはこちらの各個撃破を招きかねない。
 というわけで『絶気昂』を使って自分の体力を回復。刺さった矢の威力はかなりのものだが、治癒できないほどではなさそうだ。
 一方で冥夜は端末をスワイプ操作して『ケイオスタイド』の魔術を発動させていた。
 ナーミーを中心としたエリアに混沌の泥が広がり、ナーミーをとらえようと飛び出していく。
 ナーミーはそれを跳躍と転がりによって回避したが、それを更に追って『ケイオスタイド』の術が放たれた。
 空中で巨大なボール状の泥となった魔術体がナーミーを追尾。直撃し身体を包み込む。
 そんな中で、冷静に眼鏡の位置を直す冥夜。
 戦いの流れから察するに『ブレイズハート・ヒートソウル』は空振りを招く可能性が高い。火力を集中し、自らが目立つことで注意を引く方が妥当だろう。
「さあ、狙ってきなさい。あなたの弓がどんなものか試して差し上げましょう」
 堂々と手を広げてみせる冥夜。
「ああ、やってみよう」
 ナーミーはそれに答えるように弓を引き、冥夜めがけて矢を放つ。
 回避を試みる――が、空中を曲がった矢は冥夜の胸へと突き刺さり、激しい爆発を引き起こした。
 衝撃に吹き飛ばされ転がる冥夜。
「回復を……!」
 リスェンは『コーパス・C・キャロル』の魔術を唱え、杖をぎゅっと握りしめる。
 彼女の杖から光が迸り、冥夜を一瞬だけ包み込む。まるで星空のようにパッと光を天に散らすと、冥夜の傷はすっかりと癒えていた。
 いや、正確には一部だけ癒えていた。それだけナーミーの放つ矢の威力は凄まじいものだったのだ。
「これは……回復を途切れさせる余裕はありませんね」
 覚悟を決めたリスェンは治癒の魔法を連射する。
「人語を理解するけど、言ってもわかってくれないということであれば、こうするしかないですね」

「ただでさえ大変なのにまだ出てくるなんて。
 こっちはボクが止めておくから、そっちはお願い!」
 こちらは焔。スリヴァンス相手に槍を構え挑みかかっている。
 足を払おうと繰り出した槍は跳躍によってかわされ、放たれた盾が焔の胸に激突する。
 激しい衝撃に吹き飛ばされそうになるも、焔は槍を返して『烈火業炎撃』を発動。炎を纏った槍がスリヴァンスが新たに生やした盾越しに繰り出され、炎がスリヴァンスを包み込む。
 対するスリヴァンスは全身が燃えているというのに焔の腕を掴み、派手に放り投げた。
「うわっ!?」
 距離が開きフリーになったかと思われたその時、素早くイズマが踏み込んでいく。
 放つのは『響奏撃・弩』。精神を揺さぶる一撃で対象の注意を引き寄せるという技だ。
 突き出すようにした細剣から攻撃敵な音楽が流れ、スリヴァンスの胸へと突き刺さる。
 怒りの感情を露わにしたスリヴァンスは手にした盾で思い切り殴りかかってきた。
 ただの攻撃――だというのに重い。イズマは顔面を殴られ、大きくのけぞる。
 吹き飛ばなかったのはそれだけの攻撃が来ると予想していたからだ。
 相手と近距離で殴り合う形になりつつ、イズマは『完全掌握プロトコル』の魔術を剣に込めて斬りかかった。
 スリヴァンスに撃ち込まれた術が、彼の力の封印を試みる。
 一方で、ゼフィラは『熾天宝冠』の治癒魔術を発動させていた。イズマが喰らった激しいダメージを取り返すためである。
「そう簡単に仲間をやらせはしないよ」
 ボコボコとイズマをラッシュで殴りつけるスリヴァンスとそれを治癒し続けるゼフィラという構図だ。
 が、ダメージ量の方が僅かに勝る。これだけ有利を取れる戦い方をしているにもかかわらずだ。
「かなりの強敵、だな……!」
 呟くイズマに、ゼフィラは『それでも勝つさ』と呟き治癒の魔法を飛ばす。
 両腕の義手がグリーンカラーに輝いたかと思うと、治癒の光線をイズマめがけて放つ。
 そうしている間、愛奈はスリヴァンスの背後へと回り込んでいた。
 構えた拳銃を零距離から撃ちまくる。
「イズマさん、離れて下さい」
 言いながら放ったのは『虚穹』の技である。マガジンに装填した特殊弾頭を手槍で牽制を仕掛けながら撃ちまくる愛奈。小爆発がいくつも広がり、それまでの射撃を盾で防御していたスリヴァンスにMアタックのダメージが蓄積していく。
「これは厳しい。どうにか辞めてほしいものだが……」
 スリヴァンスは【怒り】のBSが解除されたと同時に愛奈めがけて盾を投げ放った。
 槍を翳すことで防御する愛奈。それでも激しい衝撃が伝わり、愛奈は派手に吹き飛ばされる。
「大丈夫!?」
 遠くから飛んできたアクセルが指揮棒を振り抜くと、吹き飛んだ愛奈を五線譜の光が包み込む。音符マークの形をした魔術体がぱちぱちと弾けて、激しいダメージを受けた愛奈の身体を癒やしていく。
「おや、こちらの班のヒーラーに入るのかな?」
 ゼフィラの問いかけに、アクセルは首を振る。
「ううん、通りかかっただけ。もっとヒーラーが必要なチームがあるみたいだから、そっちへ行くよ。と言っても今回はヒーラーが手厚いからね、班に二人くらいいてもいいと思うよ」
「過剰にならないかな」
「大丈夫……というか、敵が強すぎるね。こちらの治癒を分厚くしないと各個撃破で潰されちゃうかも」
 アクセルの懸念は最もであったようで、スリヴァンスは焔とイズマと愛奈の激しいラッシュをくらいながらもスリヴァンス有利の状態を維持している。それだけの強敵なのだ。

 相手が強敵だというのはリスクへム戦も同じだ。
「我が魔術を受けるがいい!」
 腕のハンマーを振りかざし、バチバチと雷撃を纏うリスクへム。その衝撃はメイメイめがけ放たれ、咄嗟に両腕を翳しふわふわの魔術障壁でガードしたメイメイは魔術のあまりの威力に吹き飛ばされた。
 背中から倒れ、派手に統べるメイメイ。
 それをキャッチしたのは大地だった。
「こんな奴を里に近づけるわけにはいかないな。里の戦士じゃひとたまりもないぞ」
 何としてもここで撃退する。そんな想いを込めて大地はメイメイに治癒の魔法をかけた。
 長期戦に強い消費ゼロのヒーラーだ。ここへ来ても全力での治癒が可能だった。
「戦線はなんとか支えてみせる。高威力の攻撃を仕掛けまくって注意を引いてくれ」
「わかりました。高威力の攻撃……」
 メイメイは羅針盤を握りしめると、手に装備していたブレスレットに目をやった。
 あふれ出る魔力がメイメイを包み込み、高まる力が魔術の電撃を作り出す。が、この射程距離はわずかだ。至近距離まで近づかなければならない。
「大地さま、回復を、お願いします……!」
 リスクへムから放たれる氷と炎の魔術をうけながら、メイメイは勇気を出してリスクヘムへと突進。その間に大地はメイメイに治癒の魔法を連続でかけ続けた。
「えい……!」
 手のひらを突き出したメイメイは纏った電撃のすべてをリスクヘムへと叩きつける。
「ぐおお……!」
 小さく呻くリスクヘム。その瞬間を狙って、ユーフォニーは『凪色万華』を発動。
「今井さん、畳みかけてください。隙を作ります!」
「了解致しました」
 ちゃきっと短機関銃を取り出した今井さんがリスクヘムめがけて連射を開始。
 逃げようのない弾幕がリスクヘムを襲い、激しいプレッシャーをかけていく。
 ここまでの戦いを見る限り、ただ攻撃をしかけただけではBSや特殊効果を押しつけることは難しい。それだけの格上であり、それだけの強敵なのだ。
 ならば、それだけの隙を作ってBSを『押しつける』必要がある。
 『光彩変華』を発動。今度は今井さんが特殊なランチャーを取り出して弾を発射。ネットがバッと広がりリスクヘムを包み込む。
 ハンマーに電熱を加えネットを切り裂こうとするリスクヘムだが、それを更に押さえ込むべくユーフォニーは今度は『破晶彩片』を発動させた。
 手榴弾のピンをぬき、投擲する今井さん。激しい爆発がリスクヘムを襲う。
 【滂沱】状態となったリスクヘムに、更なる攻撃をしかけるヴィルメイズ。
(頭の奥で誰かが語りかけてくる……怒りこそ力の源であると)
 『無常勾魂舞』の舞いを踊ると、今度は素直にリスクヘムに【重圧】や【呪い】といったBSが付与された。
「たまには己が傷つき、滅ぼされる側の気持ちも味わってみては?
 いかに自身が愚かな行為をしているのかという想像力も養えるでしょう。
 ……此処に獣畜生の居場所などない、去ね!」
 今度は『崔府君舞』で不吉系のBSを重ねがけしていくヴィルメイズ。
 それも成功したとみるや、更に『孟婆舞』の舞いへと変化させていく。
「良い調子です。これなら……!」
 鏡禍がずいっと前に出て『鏡面召喚術』を発動。これはただ怒りを付与するだけの安い術ではない。相手の目の前に鏡を召喚して自身の妖力で絡め取るという非常に高度な妖術なのだ。
 しかもここまで攻撃を畳みかけた後となれば、リスクヘムが逃れることは不可能に近い。
「おのれ……!」
 怒りに我を忘れ、ハンマーで殴りかかってくるリスクヘム。
 その攻撃だけでも凄まじい威力だが、鏡禍は大地に治癒を任せ妖力障壁で防御を張ることでなんとかこらえた。
「このまま押さえ込みます。皆さん、引き続き攻撃を畳みかけてください!」

「そこを通してくれ。ステラ君に言いたいことがあるんだ」
「通してくれと言われて通すわけがないよな」
 アルムめがけ突進を仕掛けてくるラファクーロ。標的は自分かと察したアルムが杖を翳し防御するが、それをものともしない勢いでアルムを殴りつけてくる。
 巨大な腕によって吹き飛んだアルムは大きな岩に激突。そのまま岩を破壊して転がる。
「分かってるよ。けど、行かないといけないんだ……僕は、あの子に頼まれたから」
 治癒の魔法を自らにかけ、ゆらりと起き上がるアルム。
 そんな彼をサポートすべく、『つばさ』零・K・メルヴィル(p3p000277)が間に割り込んできた。
「アルム、お前の想い全部伝えてこい!」
 『ダニッシュ・ギャンビット』『完全逸脱』の力を自らに付与した零はラファクーロへと突っ込み、相手の大ぶりなパンチをスライディングで回避。懐へ潜り込むと顔面へ殴りつけた。
 体格差は倍ほどあるものの、零のパンチは強烈だったらしくラファクーロが軽くのけぞる。
「アルムさんの進路の邪魔をするなら、葬りますよ?」
 更に『二人の秘密基地』Lily Aileen Lane(p3p002187)が時限能力を発動。
 棺桶型の『執行兵器・薊』を装備すると、ラファクーロへと叩きつけた。豪速で詰め寄り繰り出す『ブルーコメット・TS』。パイルバンカーの杭がラファクーロへと叩き込まれる。
 更に『ブルーフェイクII』を連続で叩き込んでいく。
 ラファクーロはそんな二人のラッシュを受けて防御を開始。外皮は思いのほか硬く、Lilyの杭ですら撃ち抜くことが難しい。だがダメージは着実に入っているのがわかった。
「ステラさんを救いたい――それがアルムさんたちの願いなら、俺は友人としてそれを尊重するだけだよ。
 というワケで、無粋な真似は控えてくれるかな?」
 ゆらりと気配を表した『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)。
 仲間の死角をカバーするように位置取りをすると、『禁術・大紅蓮蟻地獄』を発動させた。
 ラファクーロの周囲に血だまりが突如出現したかと思うと、底から八寒の如き冷気が吹き上がる。
「来ましたか、滅びの日が。ですが……ええ、実に愉しくなってきました」
 そこへ更なる追撃を仕掛ける『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)。
「人は嘆き、大地はあれ、滅びが目の前に迫る
 けれど、それでも生き足掻く人がいる…私は生きようとみっともなく足掻く人々が大好きなんです。
 この足掻く意志こそが、ステラ……貴方さえも魅了してやまないものになるんですよ。
 私もその光に焦がれていまして……さあ、抗いましょうか!」
 ぴくりとその言葉にステラが眉を動かしたのを視界の端にとらえつつ、ラファクーロに血の大鎌を叩き込む。
「あー、くそ。
 重ねてみるのはどっちのステラにもわりいっつうのによ。
 わあってる。依頼成功第一だ。
 ステラん元に向かうのは本参加者達の基準に任せる。
 いざとなりゃあ足止めを買って出てでもアルムをあいつん元へと向かわせる。
 行け、アルム。てめえに託す」
 そこへ急速に突っ込んできた『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)が『輝くもの天より堕ち』を発動させながらラファクーロの注意を引き始める。
 ファニーはここぞとばかりに『指先の一番星』を発動。ラファクーロの顔面を指さした。
 肩越しに飛び上がった獣の頭蓋骨がガパッと開いたかと思うと、そこから真っ白な光線が発射される。
 光線を防御するように手をかざし首を振るラファクーロ。
 その足を止めるべく、更に何体もの獣の頭蓋骨を召喚して光線を放つファニー。
 ラファクーロは牡丹の攻撃をなんとか払いのけつつファニーへと接近。しかしそれはファニーをサポートする『レ・ミゼラブル』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)と『母たる矜持』プエリーリス(p3p010932)が許さなかった。
「兄様、ここはお任せを」
 布で巻いたカラトリーセットをばっと展開したミザリィはそのすべてをラファクーロへと発射。自らも巨大なフォークを手に突きを繰り出す。
 マトモに喰らったラファクーロだったが、そのフォークを掴んでミザリィを豪快に投げ飛ばす。
 飛ばされたミザリィは空中でくるくると回転しつつもフォークを地面に突き立てるようにして強制ブレーキ。
(此度は敵の大侵攻なれば、それを防ぎ守り切ってみせましょう。
 母としてでも女王としてでもなく、純然たる特異運命座標として、私は此処に立ちはだかる防壁である)
 ナーミーの相手をしていたプエリーリスが駆けつけ、『クイーンズジャッジメント』を解き放った。
 『創造礼装』クイーンオブハートが紅蓮の光を放ち、振り抜いた大鎌の一撃がラファクーロめがけ円形の斬撃となって飛んで行く。
 がりがりと翳した腕を削られるラファクーロ。
 追撃は止まらない。ヴァイオレットがゆらりと立ち塞がったかと思うと、自らの影を延長してラファクーロの足元から大量の影の槍を突き出して攻撃し始めた。
 『アムド・インベイジョン』を重ねがけし防御力を高めたヴァイオレットは更なる攻撃として『ソニック・インベイジョン』を解き放つ。
 ずるりと影から抜き放ったのは巨大な断頭台の刃。それがラファクーロへと放たれ、腕に深々と突き刺さった。
 それを引き抜き、ヴァイオレットをにらみ付けるラファクーロ。
 人間を射殺せるのではと言うほどの殺意の籠もった視線にもしかし、ヴァイオレットは揺るがない。
 そんなヴァイオレットを支えるように前に出てきたのが『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)と『こそどろ』エマ(p3p000257)だった。
「えひひ……、いいでしょう。お手並み拝見了解です。ちょうどあの黒いステラさんに興味がありましたし。さて、どんなものかしら」
 間に割り込むように陣取ったエマは『近未来観測』を発動。振り抜かれるラファクーロの腕を直感し、ギリギリのところで回避する。
 そして手にした『メッサー』で『白嵐』を繰り出す。高い反応速度から放たれる一瞬の斬撃は、ラファクーロとて防ぎきれない強烈な斬撃となって腕から血を吹き出させた。
「悪いわね、エマ。付き合ってもらっちゃって。どうにも、数と質を揃える相手の手練主管は見ておきたい主義だから。お手並み拝見ってやつよ」
 『紫苑の君・斑鳩』『騎兵善鏡』『聖骸闘衣』をそれぞれ仲間に付与したイーリンは黒剣を構えラファクーロへと突進。『後弾機』を繰り出す。
 武器を象った光を展開し、それを物質化して次々と射出する。
 狙いはラファクーロが纏っている付与効果の打ち消しだ。
 ここまで仲間たちが次々に攻撃を浴びせてくれたおかげもあって、順調にラファクーロの付与効果はブレイクできた。
 そこへ美咲が更なる追撃を叩き込んでいく。
 『界呪・四象』の力を込めた弾丸を中距離から連射し、ラファクーロに激しいBSを撃ち込んでいく。
「支援、感謝しまスよ」
 そうイーリンに小さく告げると鋼の義手でラファクーロへ殴りかかった。
 美咲にしてはかなりアグレッシブな戦闘方法だが、これがかなり効くのである。
 弱点を見事に見抜いて撃ち込まれた拳に、流石のラファクーロも数歩後じさりする。

 集中攻撃を受けているラファクーロを支援すべく、右腕の異常に肥大化した人型星界獣が走り出す。
 が、それは『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)たちが許さない。
「こっちの彼女はお姫様なのね。
 見てるだけなんていいご身分だわ。
 ま、そんなお姫様を何とかしたいっていうお人好しもいるみたいだし、いいんじゃない?
 私は嫌いじゃないわ」
 間に立ちはだかり、『ケイオスタイド』の魔術を発動。プリズムカラーの光線が放たれたと思った次の瞬間、人型星界獣を泥が包み込んでいく。
「倒すも惑わすも妖精の得意技、サポートは任せておきなさい」
 そこへ追撃を仕掛けにかかる『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)。
「今は星界獣なんて言うのがいるんだねぇ……。星よりこんぺいとうの方がおいしいって!」
 わざとリーディングをかけて思考の邪魔をしつつ、ランドウェラは『魔哭轟滅波』を放った。
 指先から放つ雷が人型星界獣の腕を見事に撃ち抜いた。
 人型星界獣はそんなランドウェラを脅威と見なして攻撃を開始。肥大化した腕で殴りつけてくる。
 それをランドウェラは翳した武器で防御した。
 それでも派手に吹き飛ばされるランドウェラ。
 追撃にと踏み出した人型星界獣を、しかし『生命に焦がれて』ウォリア(p3p001789)が阻む。
「意義ある戦い、善き闘争、生存競争だ。
 滅びという「理」そのものを真正面から撃ち砕く。
 混沌に這い、立ち、歩む数多の命が明日を願い止まぬならば、その「熱」を絶やさぬ為にオレが来た」
 振り抜かれる片腕。それをウォリアは大剣を叩きつけることで衝撃を相殺した。
「――まぁ、易々と食い物にありつけるほど簡単にはいかんという事だな」
 ダメージが蓄積し、体力が低下していくウォリア。だがそれは望むところだ。
 『チートスキル』をはじめとする様々な底力系スキルを解放。強化されたウォリアは人型星界獣と正面から殴り合う。
「……どうも様子のおかしいお嬢さんも居るみたいだしな。まるで死に急いでるみたいだが……」
 ティンダロスに騎乗して現れた『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)がそこへと加勢。ラファクーロへの人員は充分と考え、その支援を阻む狙いだ。
 編み上げた鎖から『フェンリル・ドライブ』を発動。一対の鋭角がある巨大な狼の頭部が完成し、人型星界獣へと食らいつく。
 ウォリアとマカライトを腕の振り抜きによって払いのける人型星界獣。
 だがそんな仲間たちに『クラブチャンピオン シード選手』岩倉・鈴音(p3p006119)は『天上のエンテレケイア』を発動させる。
「うおー! ネームド戦なんだから満タンレベルで回復していけ!」
「いや、満タンまではいらん」
「こっちはほしいからもっと頂戴」
 そんな会話を交わしつつ、鈴音は『聖躰降臨』をウォリアたちに付与。更に『殲滅兵団』を発動させ人型星界獣へと解き放った。

 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はヘランケランと名乗る人型星界獣と派手な格闘戦を繰り広げていた。
「私たちは、死ぬために生きるのではない! 全力で生き抜き、寿命を迎えて死ぬのだ!」
 滅びに抗う叫びをあげつつ、鋭い蹴りを放つモカ。ヘランケランが両手に持った棍棒を巧みに撃ち込みモカを殴りつけ吹き飛ばすも、それを『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)の治癒魔法が治癒した。
「ン。継続戦闘支援 任セテ」
 フリークライの治癒はこの戦いにおいてかなり有効に働いていた。というのも、ヘランケランの攻撃方法は小刻みでありながら確実なダメージを蓄積するタイプのもので、それに対して治癒魔法の連打は非常に有効だったのだ。
 ヘランケランも他のネームド同様複数人でかからねばならない相手だったが、ヒーラー面で言うならこちらの方が有利といえた。
 交代だとばかりに前に出る『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)。
「プーレルジールのように、そこに生きる人たちの意思を無視して滅びが迫るというのなら。
 今度は、切り捨てることはしません。
 最初から諦めることはしません。
 抗いましょう。
 支えましょう」
 プーレルジールで戦い抜いてきたグリーフである。同じように滅びを齎そうとする星界獣たちに抗うのは当然と言えた。
 『紅の炉心』を付与して勢いをつけたグリーフは自らを治癒しながらヘランケランの棍棒を受け止めていく。
 そこへアタッカーとして加わったのは『未来への陽を浴びた花』隠岐奈 朝顔(p3p008750)であった。
「さて、プーレルジールに然程関わってないので、どういう事情があるかは詳しくありませんが……。
 どうやら、先輩方はステラさんに想いを伝えたい様子。
 なら、敵を速攻で倒し、先輩方が想いを伝える時間を沢山作りましょう!」
 スリヴァンスと戦っていた朝顔は新たに発生した防御の堅いヘランケランに対応すべく移ってきた様子である。
「防御を崩す術なら得意なものですから」
 と、『人魚の刃は王子の心に』を発動。魔刀によってヘランケランの棍棒を切断し、そのまま相手の身体を切りつける。
 激しく吹き上がる血しぶきを避けながら、朝顔は不敵に笑う。
「相変わらず世界を滅ぼすのにご執心だな……俺にはよく分からない。
 世界が滅んでなんにも無くなるなんて、そんなのつまらないと思うんだがな。
 ……まあ、そんなことはどうでもいいか。
 お前らが世界を滅ぼそうとするなら、俺達はそれを食い止めるだけだ」
 それでも執拗にダメージの蓄積を仕掛けてくるヘランケランに対して、『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)が額の宝石を輝かせて治癒魔法を放った。
 棍棒を再生させ反撃を繰り出すヘランケランの攻撃をライが魔法で吸収していく。
「あれが、混沌のステラさん……。
 ……冷めた目、何もかも諦めているような…悲しいかも。
 それでも、僕にできる事を……!」
 それだけではない。『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)もそこへ加わり、『幻想楽曲オデュッセイア』と『デウス・エクス・マキナ』を付与していった。
「誰も倒れさせない、できる限り死なせない…
 皆の頑張りも戦いも、生きる為だ! 無駄なんかじゃない! みゃー!」

「みーおも戦いますにゃ、亜竜集落もここの人達も守りますにゃ。
 ステラさんに思う事はあるけど、他の星界獣は倒さないとですにゃ……!」
 戦いへと加わる『ひだまり猫』もこねこ みーお(p3p009481)。
 スリヴァンスへの支援を行おうとしていたラヴェジという星界獣と撃ち合いをしているところだった。
 腕を砲台に変えたラヴェジの激しい砲撃をなんとか凌ぎながら、『ラフィング・ピリオド』を撃ち込むみーお。
「この一撃で、削れろですにゃ!!」
 そして撃ち合いという点では一日の長がある『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)。
「観測端末なら、別に滅ぼす義務あるわけじゃねーだろうに」
 『狙撃銃:P-BreakerⅡ』で狙いを付け、ラヴェジの腕や足を狙撃していく飛呂。
(この銃と共に抗う。境界のステラさんのように、混沌のステラさんも、この銃から感じ取るものはあるんだと思う)
 綺麗な銃ねと言われたあのときを思い出す。混沌のステラにも同じ感性があるのなら……と視界の端にステラをとらえると、ステラは飛呂の姿と銃を見て僅かに目を動かしているのがわかった。
 何かを押し殺したような、こらえたような感覚。
 『今を守って』ムサシ・セルブライト(p3p010126)がゼストスクランブラーに跨がり到着。肩に装着したキャノン砲から砲撃を開始した。
「人の言葉が分かるのなら……何故こんなことをする!?
 必死で生きている人を……傷つけさせるものか!」
「何故だって? ヒトもヒト同士で滅ぼし合っているじゃあないか。何を不思議に思うことがある?」
「それは例外だ。人は、解り合うために言葉を話すんじゃないのか!」
 砲撃を受けたラヴェジに、ここぞとばかりに『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が矢を放った。
 そう、彼の放つ矢と言えば封殺の矢だ。
 ラヴェジの影に突き刺さった矢が縫い付けたように動きを制限する。
「手伝いに来たで。敵に対して十全の力を発揮できるよう。場を整えるのは任してな!」
 ラヴェジの戦闘力はこちらよりもずっと上だ。一対一なら封殺を入れることは難しかっただろう。だが仲間たちがこうして連撃を叩き込んでいる中でなら話は別だ。相手の隙を突いて動きを封じることも難しくはなくなってくるのだ。
 そこへ、箒に乗った『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が飛び込んでくる。
「ねえ、ステラ。
 星とは願いを託されるものだわ。
 なのに、あなたは……星界獣は、どうしてそんな存在として生まれついたのか」
 魔法をラヴェジに放ちながらもステラへと呼びかけるセレナ。遺跡の夜空を共に飛んだあの日を思い出しながら。
「或いは……世界が、滅びを望んでいるとでも言うの?
 あなたを本当に救えるのか、わたし達にはまだ分からない。
 けれど、諦める事は無い」
 願う星のアレーティアを翳し、セレナは更に呼びかけた。
「これは『あなた』が生み出した祈りのカケラ。
 わたしも、この星の力を信じてるから」
 ステラの目に、動揺の動きがあったのを見逃さなかった。
「やめろ! ステラを惑わそうとするな!」
 ラヴェジがセレナめがけ砲撃を放ってくる。
 そこへ現れたのは『プリンス・プリンセス』トール=アシェンプテル(p3p010816)。
 跳躍し、真説『プリンセス・シンデレラ』によって砲撃を撃ち落とす。
(あれが混沌のステラさん……!?
 確かに見た目はそっくりだけど、しかし彼女から感じる気配はまるで終焉の……!
 仲間が彼女のもとへ行くと言うのなら、やる事はひとつだ!)
 ラヴェジの前に立ちはだかり、剣を突きつける。流れるオーロラの光が美しく舞った。
「さぁ行って! 僕たちが道を切り拓きます!」
「行かせるか!」
 砲撃を連打するラヴェジだが、その横から『焔竜の頌歌』星華(p3p011367)が攻撃を仕掛けた。
「いやー、デザストルのこんな奥地の奥地まで来ることになるとは
 人生何が起こるか分からないって話で、お土産が欲しくなっちゃうわね
 よーし、お姉さん頑張っちゃうぞー」
 『殺戮のスティージレッド』を不思議な杖の形に変化させると、『薔薇黒鳥』を撃ち込んでいく。
 更に『啓示の乙女』『Dragonsong』で仲間を強化し盾役のトールを支援する。

 その一方で、現場へと駆けつけていた青薔薇隊はゼティアレスと呼ばれる人型星界獣と戦っていた。
 ヒーラーとしてアタッカーを守るのは『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)の務めである。
 味方を強化する『オーヴァーチュア』の演奏範囲内に仲間を入れつつ、ギターを奏でるヤツェク。『夜闇払う暁の歌』『詩歌顕現』を使い仲間たちを敵の攻撃から治癒していく。
 そんな中でアタッカーとして動き回っていたのは『その毒は守るために』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)と『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)だ。
「嫌でも思い出すものがありますが、ここを昔いた集落と同じようにしたくありません。
 仲間と共に、少しでも人々を助けます……!」
 ジョシュアは弓を構え、きりりと矢をつがえた。その美しい射形は見る者の目を引くほどだ。
 放たれる矢はまっすぐにゼティアレスの膝に突き刺さり、ゼティアレスはすぐさまその矢を抜いてジョシュアを睨んだ。
 腕を突き出し、そこから発射される針がジョシュアへと突き刺さる。
 激しい電撃が流れるが、それを治癒するのはヤツェクたちの仕事である。
 その間にルブラットはゼティアレスに斬りかかり、そしてステラの方を見やった。
「此方のステラ君はわくわくしなさそうな顔をしているな。
 まあ、全ては君の言う通りだ。
 こんな風に足掻いたところで、何れ最後は死ぬのみ。
 だが、どうせ死ぬのなら、満足のいく生き方をしたいものだ。
 ……今の君は、楽しめているのか?」
 ルブラットはそう言いながら、かのわくわくhouseを思い出す。あの場所はみんなのわくわくが詰まっていた。彼女の喜びもまた、詰まっていた。
 ゼティアレスが紫色のオーラを放ち、全方位に攻撃を発射する。
 吹き飛ばされる仲間たち……だが、『雨に舞う』秋霖・水愛(p3p010393)が手にした楽器を奏で始めることで治癒を開始した。
 『サンクチュアリ』で多くの仲間たちを治癒し、守る。
「向こうのステラちゃんは一生懸命頑張ってくれてたけど。
 こっちのステラちゃんは見てるだけなんだね。
 星界獣っていうけど仲間じゃないのかな?
 私は力がなくても頑張ってるあなたの方が好感持てたよ、本にしてみるから、読んでみる?」
 先の星界獣との戦いで、サポーターたちの回復が手厚いと述べたのはこの青薔薇隊がいたためである。
 『世界で一番幸せなお嫁さん』佐倉・望乃(p3p010720)と『青薔薇救護隊』フーガ・リリオ(p3p010595)が共に演奏を開始し、仲間たちの治癒を更に高めていく。
 ゼティアレスの攻撃は苛烈を極めたが、それでも青薔薇隊に負傷者が出ないのはこの治癒のおかげだろう。
「サハイェル拠点でステラからお手伝いを申し出くれた事、とても嬉しかった。
 小さな事だと思われるけど、お陰で今も誰かを護ろうと頑張れる」
 演奏の合間、気合いを込めて吠えるフーガ。
「滅んだら何も残らない訳でもない。願いが続くから。
 滅ぶ、救うなんて話じゃない。今『何をしたいか』!
 その為においら達……青薔薇隊がいる!
 皆の言葉が届き、ステラが『わくわく』になるまで意地でも支えるぞ!
 ……青薔薇のマーチ!」
「例えわたしが死んでも、わたしの意思や想いを誰かが繋いでくれるように。
 例え世界が滅んでも、受け継がれるものはきっとあります。
 だからわたし達は今、必死に抗っているのです。
 ステラさんは、今、どうしたいですか?」
 マイクで治癒の歌を歌い始める望乃。
 それに対して、ステラは小さく首を振った。
「何を? 決まっているわ。この世界を滅ぼしてあげたい。だって、この世界は苦しみと悲しみでいっぱいだもの。皆を救うには、『もう産まれてこない』ようにしてあげなくちゃいけないわ」
「それは違います……!」
 『青薔薇救護隊』常田・円(p3p010798)も演奏に加わり、治癒の魔法を放ち始めた。
 非常に手厚い治癒の効果は仲間たちの受けた重大なダメージを即座に治癒し、戦線からの離脱を避け続けた。もし円たち青薔薇隊がこうして頑張っていなければ、敵の連係攻撃によって味方の部隊は瓦解していたかもしれない。
「救える命を全身全霊で救ける! ステラさん、僕たちの行いをしっかりと見てください!」

 ラファクーロへの集中攻撃が続き、流石のラファクーロも弱り始めている。
 そこへ追撃を仕掛けたのはヨゾラとニルだった。
「彼女が混沌のステラさん…」
(諦めてるような冷めた目が、冷たい表情が悲しい。結界に遮られてなければ猫もふらせたいくらい……!)
 そんな気持ちを抱きながら、ヨゾラは『星空の泥』をラファクーロへと放った。
 思わず防御の姿勢をとるラファクーロ。泥が身体を覆い、その動きを鈍らせる。
 と同時にニルもまた『ケイオスタイド』と『アンジュ・デシュ』の魔法を解き放った。
 ミラベル・ワンドを握りしめ、放つ魔法はラファクーロへと直撃する。
 もう一息だ。そう察した二人は同時に走り出し、ニルは杖に力を込めた『フルルーンブラスター』を、ヨゾラは拳に力を込めた『星の破撃』をそれぞれラファクーロへと叩き込む。
「ぐおお……!?」
 集中攻撃によってついにラファクーロを吹き飛ばし、地面へと沈めさせることに成功した。
 ラファクーロの巨体がどさりと倒れ、そして動かなくなる。
「今だ……!」
 ステラに想いを届けるなら、今。ヨゾラたちは走り出す。

●君に伝えたいんだ
 仲間たちのサポートを受け、ステラの前へと突き進む。
「そこを退いて!」
 アクセルは『ケイオス・ハーモニクス』の術を唱え仲間を治癒すると、舞いを踊るヴィルメイズを支援した。
 人型星界獣の集中攻撃を受けるヴィルメイズに凄まじいダメージが積み重なるが、それを者ともしないのはアクセルたちの治癒のおかげだろう。
 更にはゼフィラ、リスェンの治癒魔法も重なりヴィルメイズはずんずんと突き進んでいく。
「個々が正念場になる、か。仲間たちに道を開くんだ」
 ゼフィラは両腕に力を込めると、グリーンカラーに輝く両腕の義手から治癒の光線を解き放つ。
 一方のリスェンも杖に力を込め、花弁が散って花吹雪が起きるかのような光を放った。
 それらが踊るヴィルメイズのライトとなって、体力を回復していく。
 そんな光の効果も相まって、見る者の目を奪うような美しい舞いだ。
 人型星界獣リクスヘムが雷の魔法を唱え解き放ってくるも、それを仲間の治癒によって相殺しながらルーキスが突き進む。
「侵攻お疲れ様。どう攻めてくるか知らないけど、此方も万全で迎え撃つからよろしくねー」
 ステラにそう言い捨てると、『禍剣エダークス』を再び発動。
 新たな宝石を核とした剣を作り出し、リスクヘムへと斬りかかる。
 腕のハンマーで剣を受けたリスクヘムだが、それが間違いだとすぐに知ることになった。至近距離で剣の魔力が暴走し、爆発。リスクヘムが吹き飛ばされていく。
 すぐに起き上がろうとするリスクヘムだが、そこへ『裁きの炎』が叩き込まれた。
 焔の放つ炎だ。
「ボクはステラちゃんには会ったことがないけど、皆にとっては大切な人、なんだよね?
 だったら行って! そのための道はボクが用意するから!」
 勇ましく吠えるように叫ぶ焔。
 ヴァイオレットもそこに加わり、影からずるりと引き抜いた巨大な槍を投擲した。
(ステラ様に投げかける言葉は、何も…持ち得ません。
 故に、他の皆様が言葉を届けるのであれば、その妨げになる他の全てを殺すまで……。
 今や私は、何かを殺し、殺される事でしか皆様の幸福に成り得ぬ幽鬼です。
 早く死にたい…早く、終わりたい……。
 大切な人を殺した私に、幸福になる権利など無い。
 今の私にできる事は、せめて……。
 一体でも多くの不幸を道連れに死ぬ事……それだけです)
 そんなヴァイオレットにリスクヘムが雷の魔法を叩きつけ――ようとして、間に美咲が割り込んだ。
 義手で魔法を受け止め、ぎりっと歯を食いしばってダメージに耐える。
 ゼフィラやリスェンの治癒がなければそのまま倒れていただろう。
 ちらりとヴァイオレットを振り返る美咲。
「……残念、死に損ねましたね。
 最近、私に『死は救済』と言ってきた女がいまして。
 だからこそ、わたしは死なせるわけにいかないんスよ。
 んじゃ、続き行きましょうか」

 道は拓かれた。
 ユーフォニーは今井さんをさがらせ、ステラへと手を伸ばす。
「停戦し一緒に過ごしませんか」
「何……?」
 意外な問いかけに、ステラは首をかしげた。
「私が足掻く理由は簡単。大切なひとや場所と共に在る、大好きな世界を護りたい。
 ステラさんの「大切」は何?
 世界に時間がないからこそ、共に過ごしあなたを深く知り、眺めるだけじゃ感じ得ない、私達の「大切」に直接触れてみてほしい。
 あなたの「大切」にも触れたい」
 言葉が届いたのだろう。ステラは目を細め、そして首を振った。
「この世界には悲しみと苦しみが溢れてる。どんなに足掻いても、もがいても、頑張っても、悲しい明日がやってくるだけ。
 だからすべてを喰らって、滅ぼすの。
 この世界に、『もう産まれてこない』ようにする。
 それがすべての救いになるのよ」
「それでも足掻くさ!
 この世界は俺に色々教えてくれた。愛も友情も悲しみも、何もかも。
 手に入れた全てを失いたくない。だから、滅びを止める!
 お前も、一度世界を体感してこいよ!
 きっとお前の想像を超える!」
 吠えるように呼びかける零。
 牡丹もそこに加わった。
「おい、ステラ、でいいのか?
 てめえ星は好きか?
 それともただ役割として見るだけのものか?
 滅ぼすだとか星詠みだとか一旦ぶん投げて見上げてみな。
 案外違う見え方するかもだぜ?」
「星は好きよ。この世界も見てきた。けれど、この役目を投げ出すことは絶対にありえないわ。わたしはそのために生まれて……作り出されたのだもの」
 そんなステラにカイトが笑いかける。
「俺の知ってるステラはハイペリオンさまのもふもふが好きで旅が好きなやつなんでな?
 ま、お前さんがそれと同一かは知らんが見守るってなら手ぇ出さんでくれや。こっちは生きるのに必死なもんでな! 一緒に旅するってなら歓迎するぜ?」
「旅? 旅なんて……」
 言いながら、ステラは頭を抑えた。
 ずきりと痛む頭の中で、覚えのない記憶が蘇ってくる。
 それはハイペリオンに埋まって深呼吸する楽しそうなカイトの姿だった。他にも、優しい眼差しでこちらをみる『旅の仲間たち』の姿。
「これ、は……」
 首を振る。
「無意味よ。頑張ったって、何も残らない。いずれは滅びてなくなるだけ。もう辞めましょう。諦めて」
「頑張っても何も残らない? 違うよ……今この瞬間だって、必ず残る」
 ヨゾラが吠えるように前に出た。
「ステラさん…暖かさも今の戦いも、心を動かすものも……君自身も。
 無駄なんかじゃない! 勘違いだろうと何だろうと大切なんだよ!」
 その言葉に乗じるように、メイメイもまた前に出た。
「初めまして、ステラさま
 滅びを見守る存在、で。
 滅びの為に、存在していて。
 もがいて、あがいて、頑張った、その先を見てきて、
 そう生まれついた事を……受け入れてしまったのです、か?
 ……それは、とても哀しい事だと、わたしは思うの、です
 境界のステラさまと同じとは思わない、けれど『可能性』は貴女にもある、と信じて、います」
 胸に手を当て、訴えかけるようにもう一歩前に出る。
「わたしは、メイメイ、です。
 どうか覚えておいて下さい。
 貴女の事を、もっと知りたい。
 世界が滅ぶとしても、それは無駄なんかじゃ、ない。
 貴女と、友達になりたいの、です!」
 ずきりと、また頭が痛んだ。メイメイやヨゾラたちと共に過ごした思い出が、流れ込んでくる。
 その中には、冥夜の作ったホストクラブで笑う自分の姿もあった。
「ステラ様。滅びを見守る役目は楽しいですか?
 楽しみも喜びも知らないならば、私が持て成して差し上げますよ。
 自分は魔を祓う為に造られた秘宝種。されどホストという生き方を自分自身で見つけました。
 私達と共に行きましょう。幸せを探しましょう!」
「い、嫌……ちがう、わたしは……!」
 困惑するように首を振る。そんなステラは、愛奈の銃が目に入った。
 彼女の銃を見て、綺麗だと言った思い出が、彼女の中に湧き上がってくる。
 『死せる星のエイドス』を掲げ、愛奈は訴えかけた。
「滅びを見守る端末、でしたか。
 ですがね、そんな子でも旅は出来るんですよ?
 貴女は、「ただ見ているだけ」ですか?
 そこでただ憤っているだけですか?」
「そう、そう……わたしは、見守ることが務めなの。そのはず……」
 同じくイズマも『死せる星のエイドス』を掲げて見せた。
 ステラがくれた、救いの可能性を助けるもの。
「混沌が好きだから、この星で生きたいから、救わせてくれ!」
 イズマは後ろから襲いかかってくる星界獣めがけ、『アイゼルネ・ブリガーデ』を解き放った。
 音で生み出された兵団が星界獣へと斬りかかり、その動きを阻害する。
「なあ、ステラ……君は、本当は分かってるんじゃないのか? 根っこの所で、繋がっているんだろう?」
 大地もまた『願う星のアレーティア』と『死せる星のエイドス』を掲げて見せた。
「う、うう……! どういう、こと? なんで、あたなたちを知ってる……!?」
 片目を押さえるようにして苦しみ出すステラ。
 この世界でも、寄生型終焉獣を剥がす際に効果を発揮した『死せる星のエイドス』。これならステラもひょっとしてと考え翳した結果だが、どうやら何かしらの反応をステラから引き出せているようだ。
 というより……。
「違う世界の人と重ねられても、困っちゃうかもしれない、けど。
 ニルは、あなたとも、なかよくなりたいです。
 ステラ様は、なんだか楽しそうには見えなくて。
 ニルはコアのあたりがぎゅうってします」
 胸に手を当て、ドリームシアターで思い出を見せるニル。
「ニルは、ステラ様にもいっしょにおいしいものをたべて、笑ってほしいです。
 おいしいを、一緒に知ってほしいです。
 あなたを知りたいのです。
 ニルたちを知ってほしいのです」
 ニルと共に温かいご飯を食べた思い出が、ステラの中に『蘇って』くる。
 いくつもいくつも、思い出が蘇る。
 その中でも強烈な思い出が、鏡禍と共にクッキーを選ぶ思い出だった。
「あなたはどんな景色を見てきたんですか? そこにキラキラしたものはありましたか?」
 踏み出す鏡禍に、首を振る。それは本能的な拒絶だった。『もうひとりの自分』への拒絶だ。
「見つけられなかったのなら、せめて笑ってみませんか。あなたの笑顔がかわいいのを知っています。鏡を前に人は笑う練習をすることもありますし」
 そう言って見せてくる鏡禍の手鏡を、思わず綺麗だと思ってしまう自分への、拒絶。
「奇跡も希望は食べたって無くなりませんから、あなたに渡されるだけ。
 お腹空いてません? 美味しいチョコレートクッキーを知ってるんです。
 それとも僕の希望、食べますか?」
「い、嫌、嫌……!」
 首を振って飛び退こうとするステラ。だがそれをアルムが呼び止める。
 彼と共に馬車で旅をした思い出が、キャンプでコーヒーを飲み交わした思い出が、あふれてあふれて、とまらない。
「はじめまして、ステラ君。俺はアルム。混沌と似た世界……プーレルジールで生まれた君の、友人だ」
「ゆう、じん……?」
 アルムはステラのことを話して聞かせた。
 彼女は『救いの可能性』を食べて、滅びを呼ぶ存在から『反転した』こと。
 滅びを防ぐために矢面に立ち、戦ったこと。
 願う星のアレーティアと死せる星のエイドスを生み出したこと……。
「君も同じように、滅びを呼ぶ使命から抜け出せる可能性がある」
「そんなもの、ないわ……!」
 大声で発した言葉は、しかしどこか空虚で。
「嘘だと思うなら、俺のパンドラを食べてもいい。エイドスとアレーティアも。
 君の気持ちを、思いを、聞かせてほしい。
 滅びに抗う俺たちの……旅の仲間にならないかい?」
 応じてしまいたい。そんな気持ちを、ステラは首を振って追い払った。
 そんなステラに、ハイテレパスを送信するファニー。
『はじめまして、君の名はステラで合っているかい? オレの名はアルファルドと覚えてほしい。
 早速だが……”そこ”に居るのは退屈じゃないか?
 台本通りの結末を見守るだけってのは……寂しくないか?』
 じりっと踏み出すファニー。
『星は滅びない。何故かって、オレたちが台本をぶち壊すからさ。物語にはどんでん返しが付きものだろう?
 なぁステラ、一緒に舞台に上がってみるつもりはないか? 舞台装置としてではなく、ひとりの少女として』
 思い出が、またも蘇る。一緒に雪遊びをした思い出が、貰ったプレゼントに思わず笑みをこぼした思い出が。
「演目は――『滑稽な御伽話(ファニー・メルヒェン)』なんてどうだい、プリンセス?」
「ある、ふぁるど……」
 思わず口にした言葉を拒絶するように、ステラは自らの口を押さえる。
「おまえに、伽藍洞でいてほしくないんだ」
「無理、無理よ。わたしにはできない! この世界は滅びるの! それは決まっているの!」
 ヒステリックに叫び、そして逃げだそうと背を向ける。
 『募る想い』を解き放ち空を飛ぶファニー。
 と同時に、ユーフォニーもまた『決意』を抱き走り出す。
 それを、人型星界獣たちが阻むように立ち塞がる。
「待ってくれ、ステラ!」
 手を伸ばすファニーたち。しかしステラはすべてを拒絶するように飛び、逃げ出してしまった。

 星界獣たちが纏めて撤退していく。
 ステラの撤退を見て、慌ててと言った様子だった。
 後を追いかけようと走り出すファニーたちだったが、それを里の巫女アドプレッサが引き留めた。
「危険です! 敵の中へこのまま飛び込むのは!」
「けれど――」
「大丈夫。必ず次の機会は訪れます。それまで、待つのです。ひとまずは里に戻りましょう。アスタの里へ」
 そう言われて、はたと気がついた。アスタの里を守るという今回の任務は、これで成功したのだということに。
 そして直感もできた。
 ステラとはもう一度会うことになるだろうということに。
「終焉には、いずれ、必ず……」
 ユーフォニーはそう呟き、自らの胸に手を当てた。
 一時の平穏が、やってくる。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 アスタの里を守ることに成功しました。
 混沌のステラとは、また出会うことになるでしょう……。

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