シナリオ詳細
<神の門>傲慢の覚悟と壊れたアイの最後の騎士
オープニング
●壊れたアイの祈りと騎士とその覚悟
煌びやかなステンドグラスが窓枠に埋め込まれている。華々しくも荘厳な模様を描いたそれは外からの光を中へと差し込み、礼拝堂の中を明るく照らす。
複数の長椅子。指導者が立つ教壇。
その教壇の前に傅き、両手を組んで頭を垂れ、祈る者が居た。
フードのついた白いローブに身を包む女は、やがて伏せていた瞼を持ち上げて、膝を伸ばす。
ステンドグラスを見上げる彼女の、切り揃えられたセミロングの茶髪が僅かに揺れた。
「リーベ様」
扉の開いていた入口からマントをつけた一人の騎士が重苦しい音を立てて現われ、彼女の――――リーベの名を呼ぶ。
遂行者リーベ。あるいはリーベ教教祖、リーベ。
二つの肩書きを持つ彼女に付き従う騎士は、彼女を教祖と崇め始めた頃からの付き合いだ。その彼の背後に控える複数名もの騎士達も同様である。マントを羽織っている先程の騎士が部隊長を務めるその部隊は、リーベが定めた第一の騎士。
魔種となった彼女に長く付き従っていた為に、僅かな変容も見られるが、さておき。
「我々はいつでも準備が出来ております」
「そう。――改めて聞くけど、いいのね?」
「はい。この身は貴女様の為にありますれば。貴女様の憂い、苦しみが晴れる為ならば、死さえ厭わぬ心算です。
だから、どうか御命令を。貴女様の為に我らは殉じましょう」
迷いなく、力強く放たれた彼の言葉に、リーベの瞳が細められる。狂気の中に憐れみを交えて。
目を閉じて、開く。そこには覚悟を受け取る教祖としての姿があった。
「その覚悟、受け取りました。リーベ教教祖として、遂行者として、貴方達に命じます。
これより、『あのお方』より分け与えられた者達と協力し、イレギュラーズを迎撃しなさい。私は、貴方達の後ろを見ているわ」
「お心遣い、痛み入ります」
部隊長が振り向き、部下達に向けて声を張り上げた。
「皆の者、聞いたな! 我らの命、リーベ様に捧げんとせよ!」
「応!!!!」
太く、力強い声が重なり合う。
統率の取れた進軍の後ろをついていく中で、リーベは僅かな溜息を零す。ローブの中に潜めた布を確かめるように触れて。聖遺物と称されるソレに一度目をやってから、再びローブを閉じた。正面を見据える瞳には、迷いなど無かった。
『運命』の分かれ目は、もうそこまで迫っているのだろう。
●見届けよ、覚悟。震えよ、生命
神の国に足を踏み入れたイレギュラーズは、中の煌びやかな姿に、外の様子との違いを目の当たりにして目を瞠った。大神殿と称するに相応しい大きさと権威を象徴するだけあると、理解する。
だが、それがなんだと、イレギュラーズは深呼吸をして気持ちを切り替える。
この先には恐らく遂行者が居るだろうという予感を確かに感じた。
実際、その予感はすぐに当たった。
長く美しい回廊を歩む鉄の音と蹄の音が複数聞こえてきたと同時に、姿が目に入る。自然と足を止め、彼らを見る。
鈍色の甲冑に身を包んだ騎士達が、ざっと見ただけで八名。その背後には馬に乗った白い甲冑の騎士達の姿が見える。此方の数は五名ほど。手に提げている物が剣か杖か、ぐらいしか違いは無い。
そして、彼らの後方には、遂行者リーベの姿があった。
「リーベ……」
彼女の名を呟くは、雨紅(p3p008287)。赤い唇からはそれ以上の言葉は紡がれない。
同じく唇を固く結ぶイズマ・トーティス(p3p009471)の視線もまた、リーベを捉えたまま静かに見つめ続ける。
「……本当にいいのか」
松元 聖霊(p3p008208)が問いかける。
本音を隠したまま、本音の雫を頬に伝わせた彼女の事は、記憶に新しい。その彼女が、今、ハッキリと敵対している。
リーベは答えない。ただ緩やかに唇で弧を描き、狂気の瞳を向けるだけ。
水月・鏡禍(p3p008354)は大きく嘆息した。
「……結局、こうするしかないのでしょうね」
「ああ、彼女の覚悟がそうならば、応える他ない」
鏡禍の言に同調した結月 沙耶(p3p009126)は、携えた武器を改めて構える。
彼らを含めたイレギュラーズの構えた様子を見て、リーベは漸く唇を開いた。微笑みは既に消え失せ、冷たい目に変わって彼女にとっての敵を見つめた。
「ようこそ、イレギュラーズ。……誤解しないでほしいけれど、私はただの見届け人。貴方達と戦うつもりはないの」
「は?」
「可愛いこの子達の覚悟を受け取ったのよ。それを見届けずして、何が教祖と言えるものですか。
彼らは私の第一の騎士達。最後の部隊にして、リーベ教設立時より私を慕う者達よ。彼らを侮らないでちょうだいね。
さあ、貴方達。命を賭けた覚悟を見せてちょうだい」
「はい、我らが崇めし貴女様の御心のままに!」
マントをつけた一人の騎士が声高に叫び、続くように他の騎士達も叫ぶ。
一ダース程に纏まった小隊の足が前に進み出て、そんな彼らをイレギュラーズは迎え討つのだった。
- <神の門>傲慢の覚悟と壊れたアイの最後の騎士完了
- 彼らが賭ける命の値段
- GM名古里兎 握
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年10月26日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●覚悟を願う
視界良好。右目にかかった前髪もよけて、ハッキリと見える。
(葬儀屋として、最期までお付き合いします、です!)
意気込むのは『いつか殴る』Lily Aileen Lane(p3p002187)。彼女は以前、とある報告書を読んだ。その報告書を読み終えて、彼女は思ってしまった。リーベとも騎士とも戦いたくないと。
だが、葬儀屋として臨まねばなるまいと、覚悟を決めてこの場に立つ。
眼前で武器を構える騎士達を見据えながら、『救済に異を』雨紅(p3p008287)は溜息を密かにつく。きっとこの中にはあの時村で一緒に過ごした騎士も居るだろう。
それでも、戦わねばならないのだ。それが、敵になるという事。
「あなた方の、命をかけるほどの覚悟に異はもう無いのです」
武器を構える。
「ですが、こちらもまた別の覚悟とともにある」
女は迷わない。あの時、リーベに誓ったから。
(やっぱりこうなるとは思っていたんです)
『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)は胸中で嘆息する。
どうしたら彼女の心が軽くなるのかと考えるも、それよりも、美しさに心が惹かれてしまう。
覚悟に殉じようとする人間の美しさに。
故に、彼は武器を取って構えるのだ。彼らにとっての悪になる事を決めて。
『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は、騎士達の後方に居るリーベの顔に覚悟があるのを見て、口を強く結んだ。
「リーベ殿……キミは教祖としての覚悟を貫こうというのかな」
ただの小さな呟きだった。答えなど期待してはいない。
武器を握る手に力が籠る。
彼女の思いに殉じようとする騎士達の覚悟に、ならばせめて誠実に応えようと思った。
我が身は剣。別れるものの名を冠する者なりて。
覚悟を決めた騎士達を前にして、『医者の決意』松元 聖霊(p3p008208)は怒りを覚えていた。
「――生命をなんだと思ってやがるんだ、馬鹿どもがよ」
吐き捨てるように呟く。
(本当なら、生きてあの馬鹿の傍に居てやるべきなのに。それを放棄するのかよ)
アメジストのような瞳が、騎士達の後方にいるリーベを見つめる。
彼女は、祈るような仕草をして、騎士達を覚悟の持った顔で見つめていた。
●戦いを願う
白騎士が細長い杖を振る。彼らが振るう力は、先頭を征く騎士達へと向けられた。
統率の取れた騎士達が音を立てて前に出る。
彼らを見て、『音楽家の覚悟』イズマ・トーティス(p3p009471)もまた鋼の細剣を構えた。
「……死ぬまでやるか?
望むなら殺さないが、命を賭けるなら俺は情け無用で奪うぞ。
覚悟はいいな?」
「元より!」
答える声に、覚悟を知る。その上で、彼は名乗る。
「俺はイズマ・トーティス! お前達を退け、いずれ遂行者に剣を届かせる者だ!」
彼に殺意が向けられた。少しばかり多いそれは、名乗りを上げた事以外にも原因はありそうだが。
イズマだけではない。『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)もまた、騎士達に向けて己が覚悟を口にする。
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。
騎士達ヨ。仕エルト決メタ者ノ為 ソノ心ノ為 命カケルカ。
ソノ想イ 否定シナイ。
コノ身モマタソウデアル。
今一度 名乗ロウ。
我――フリッケライ。我ガ主 Dr.こころ 護リ抜キシ者。
死後モ ソノ死ヲ 想イヲ 護リ続ケシ者也!」
墓守は護る。かつては主人の全てを。そして今は仲間達を。
(アノ村デ 共二農業シタ騎士等モイルノダロウカ)
被っている兜のせいで誰がその時の騎士かはわからない。
それでも、戦う事を躊躇うような真似はしない。それが礼儀だと、フリークライは知っているから。
近くで、雨紅が騎士の剣を槍で受けていた。
イズマが数を多く引き連れているとはいえ、そこを狙えばカウンター気味に攻撃が放たれた。そのまま斬りかかられて、雨紅は愛用の槍でもって受け止める。白騎士の支援で筋力が増したのか、斬撃が重くなっているのを感じる。
戦神の名と加護を得た槍で滑らかに受け流し、そのまま舞うように回転する。範囲内に居た騎士達にも槍による傷はつけられたが、白騎士達が傷口を塞ぐ。
キリが無い。急いで白騎士をどうにかせねばなるまい。
少し焦る雨紅の横を、『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)が走る。
白騎士に向けて、膨張した黒い顎を生み出し、振るう。馬ごと狙ったその一撃は直死を免れない。
視界に入るリーベの姿を見て、口を強く結ぶ。
(リーベ、つくづくいい部下に恵まれたものだな。ああほんと、君が遂行者じゃなく普通に生きていればどれ程の人格者だったものか!)
もう来ないIFの話。彼女に想いを馳せた事が油断に繋がり、リーベの騎士が沙耶に剣を振るう。躊躇いも無く、重い一撃。それを武器ではなく鎧で受けて思わず一歩後ずさる。だが、体勢を崩す事にはならなかった。
小さく唸る彼女に、フリークライの癒やしが降りかかる。
終わった後で感謝を言わねばと決めて、改めてリーベの騎士に武器を振るった。
白騎士の動きを止めるべく、ヴェルグリーズの剣が舞う。彼の攻撃の範囲は広く、白騎士の馬の動きをこれ以上進ませない。
一手一手を確実に。ヴェルグリーズは鋭い視線を向けて剣で一筋の光を生み出した。
白騎士達の杖がイレギュラーズへと向く。目に見えぬ攻撃は、イレギュラーズの精神に作用する。
割れるような痛みを覚える頭。だがそれを、聖霊が打ち消した。少しでも多くの仲間達へ確実に届けられるような位置は、下手すれば白騎士やリーベの騎士の格好の的になりかねない。それは、覚悟の上だった。
白騎士達の数は、アタッカーの役目を負った仲間達が減らしている。
リーベの騎士達はその合間に攻撃を加えんとする。それは、聖霊に対しても同様だった。
支援を失ったとはいえ、膂力が強いままのリーベの騎士が彼に向けて剣を振りかぶる。愛用の杖でどうにか攻撃の面をずらして受け止めつつ、男は第一の騎士だという彼等に向けて言葉をぶつけた。
「なぁ、お前らがリーベのことを『教祖』だとか『リーベ教』だとか言い出したからリーベは逃げられなかったんじゃねぇのかよ。
どいつもこいつも助け求めるばっかりでよ。
『助けて欲しかった女』を見ようとしなかったから、魔種になってでもお前らの為に教祖であろうとしたんじゃねぇのか」
怒りが、言葉の端々から滲み出る。
相対する騎士の顔は、兜が隠していて、どんな表情をしているのかわからない。
「あいつ泣きながら『生きたい』って言ったんだぞ。知ってたか?
知らねぇよな、お前らの教祖様は強い人だからな。
それがお前らの罪だよ、本当の意味で寄り添おうとしなかったお前らのな」
人の命を弄び、奪った事がリーベの罪ならば。
彼女に従う彼等の罪は、それなのだ。
誰よりも『助けて欲しがっていた』という彼女を、正しく見ていなかった事が彼等の罪だ。
「教祖としてお前らが自分の為に生命を散らす覚悟を受けいれたとしても、リーベはまた大事な人を喪うんだ。
他でもない、お前らが彼女の心を傷つけるんだぞ」
彼は知っている。
リーベが寂しがり屋な事を。
本音を隠し、強がる事を。
だからこそ腹立たしく、そして叫ぶのだ。
「わかってんのかよ!」
怒りの感情に対し、眼前の騎士は静かに答える。
「わかっている」と、苦しげな声で。
なおも言い募ろうとした聖霊だが、杖を両手で構えている手に限界が来そうだった。受け流す事で限界を避ける。
その隙を狙って別の騎士が肉薄するのを、Lilyのパイルバンカーが阻止した。棺を模したその武器で致命的な傷を負わせる事に成功した彼女の手が震えているのは、命を奪った事に対する感情からではない。深呼吸をして、力を込め直す。
もう、迷わない。
鏡禍もまた、リーベの騎士と相対していた。
「第一の騎士よ、勝負です。リーベさんを慕う気持ちで僕が倒せるかどうか」
「気持ちでは負けぬ。あとは、互いの技量のみだろう」
「そうですね」
言いながら、騎士の剣が鏡禍めがけて奮われる。
逆に鏡禍の方は範囲内の敵限定と定めた攻撃を振るう。周りを巻き込みつつ眼前の騎士にも傷を負わせる。白騎士達の数も少ないから、すぐに回復する事は無さそうだ。
同じく、イズマも範囲を広げた攻撃を展開する。冷気を纏わせたその攻撃は敵の足を鈍らせるのに十分。
後方に居るリーベを見る。彼女の両手はまだ祈るような仕草をしていた。
胸に生じた不快感を振り払うように、彼はもう一度武器を振るった。
●救いを願う
長く美しい回廊の床に、いくつもの鎧の遺体が落ちていた。あちらこちらに見える血溜りが、戦いの跡を否応なしに伝えてくれる。
多くの遺体が床に横たわるか壁にもたれるようにして置かれている回廊の奥に、リーベが立っている。祈りを捧げて、それから顔を上げてイレギュラーズを見つめた。
イレギュラーズも騎士達に向けて祈りを捧げているのを見て、「祈ってくれるの?」と問う。その声に皮肉や嫌みといったものは無く、驚いたような、そんな声だった。
「生命に貴賤も、敵も味方も関係ねぇ」
「はい。それに、私の技術であれば、彼らに防腐措置をする事も可能です」
答えた医者と葬儀屋の言葉に、彼女は静かに「ありがとう」とのみ返す。
「リーベ」
フリークライが彼女の名前を呼ぶ。茶色の瞳と金の瞳が視線を交わす。
「モシ 騎士達 連レ帰ル出来ナイナラ フリック アノ村へ連レテ行キ 埋葬スル」
「俺も同じ意見だ。いいかな、リーベさん」
墓守と音楽家の提案に、リーベは静かに被りを振った。
「止めた方がいいと思うわ」
「何故?」
「戦った形跡のある彼らを連れていって、どう説明するつもり? 私と争ったと言うの?
それを聞いたら、村人達は貴方達をどう思う?」
「それ、は……」
リーベの質問に、フリークライもイズマも答える事が出来なかった。
「私は、貴方達と村の間に禍根を植え付けたくないわ」
彼女なりの優しさを言葉の端から知る。
「なぁ、リーベ」と呼びかけたのは、沙耶である。彼女は赤い瞳を揺らしながら続く言葉で彼女に問うた。
「本当はもう心が限界なんじゃないのか!?
心の中ではこんな真似もうしたくないんじゃないか!?」
「…………いいえ」
真っ直ぐに沙耶を見つめる遂行者の目に迷いは無い。
強がりだろうか。彼女は本音を隠したがる人だと最近分かったから、今回もそうなのでは無いかと思った。
あの時見た涙は、「生きたい」と願う彼女の気持ちだと知っている。
だから、言葉でもって手を伸ばす。少しでも彼女から手を伸ばしてもらえたらと、願う。
「魔種とかそんなの関係ない、助けてってただ言えばいいだけだ!
そうすれば私達は遠慮なく味方になってやる! 理解されるよう努力もする! 少なくともあの村を救ってた時のリーベを見れば本当はいい人だってわかる!
だから……!」
目を伏せるリーベは、何も返さない。沙耶の言葉に追撃するべく、Lilyも口を開いた。
「リーベさん、私は貴女の事が嫌いです。
死こそが救いだと言っていた貴女の事が嫌いです。
だけど……。生きたいと願った人達を助けている貴女の話を読んで、悩みました。
死んでいった者達の生きた証を、生きて語り継いで欲しい、それはリーベさんにしか出来ないから……。
だから私達と生きて欲しいと思いました」
沙耶と同じように真っ直ぐな目でリーベを見つめるLily。
伏せていた目を上げて、二人の視線を受け止めた彼女の顔に、迷う様子は見られなかった。
「私が生きられるとするなら、それは『歴史が修正された世界』しかない。それは理解していて?」
「どうして?!」
「貴方達は分かっているはずよ! 私は魔種、『あの方』の呼び声に応えた者。
昔からの定めでしょう? 魔種は世界の敵である、って」
「けど、私達はリーベに生きて欲しい!」
「……私が生きるという事は、貴方達イレギュラーズを倒して『歴史の修正された世界』で生きるという事よ。
それはつまり、あの村は『運命』に負けたと同義。それでもいいのね?」
リーベの言う村に訪れた事のある沙耶としては言葉に詰まるしかなかった。
どちらも、という道を取って欲しいのに、肝心の彼女がそれを拒む。
Lilyと沙耶がそれ以上言葉を発しないのを見て、一つ、溜息を零すリーベ。
「お人好しで傲慢のイレギュラーズなのは分かっていたけど、魔種である事を許容して生き存えさせようなんて、甘すぎるわよ。そこのお医者さんも含めてね。
尤も、音楽家と仮面の人と、それから片目隠しの人は覚悟してるみたいだけど」
リーベの視線がイズマ、雨紅、鏡禍へと移る。彼らは彼女の視線を正面から受け止めていた。
「リーベ」
「何?」
呼んだ雨紅に応えれば、彼女は赤い唇を開いた。
「私は、きっと忘れません」
「そう、それは嬉しいわね」
笑うのは何故か。
続けて、鏡禍が言葉を紡ぐ。
「救いになるかはわからないですけど、以前行った村は気に掛けたいと思っています。世界が存続するのなら残っていた方が『救い』になるでしょう?」
リーベが微笑みながら「ありがとう」と返す。まるで、これで心残りが無いと言わんばかりに。
ヴェルグリーズは胸中でのみ言葉を紡ぐ。
(皆がキミの幸せを願っているのに……何故こうなってしまうのだろうね、リーベ殿)
魔種であるが故の定めというのなら、そもそも魔種になっていなければと思うのは、もう過ぎてしまった事だから考える事なのだろうか。
(尤も、まだ諦めてないのも居るようだけど)
銀の瞳が視線を移した先には、聖霊が居る。愛用の杖を力強く握る彼の顔に浮かぶのは、怒りと、それから――――
フリークライの機械的な声がリーベへとかかる。
「リーベ 今 何ヲ願ウ?」
「……さぁ、何だと思う?」
「質問ニ 質問デ返ス 良クナイ」
怒るでも無く淡々と返すフリークライに、彼女は肩をすくめてみせるだけ。
唇を結んで成り行きを見守っていたイズマが、今の気持ちをそのままに言葉として紡ぐ。
「貴女と出会って半年だが、今の正直な思いを言わせてくれ。
あの村ではありがとう。リーベさんと過ごせて嬉しかった」
「そう」
「貴女を助けられたら、と俺も思う。でも運命はきっと無慈悲だ。
だからせめて悔いなきように、最後まで立ち会うよ」
それが、命を奪いすぎた者としての責務だと彼は思っている。
彼の言葉に、リーベは感謝するように微笑んだだけ。
その笑顔がどこか寂しげに見えたのは、錯覚とは思えなかった。
「……いつか貴女が居なくなった時、貴女を慕う人々に俺は何と言えば良い?」
あの村の人々、もしくはリーベ教の信者に会った時に、言える言葉を知りたかった。言い換えれば、遺言だ。
少しの間逡巡してから、返す。
「生きて、笑ってほしい。私があの人達に願うのはそれだけよ」
「……わかった」
伝えるよ、と頷いたのを見て、教祖は安心したように微笑んだ。
何とも言えぬ空気の中で、「リーベ」と名を呼んだ男が居た。
聖霊が、アメジストのような瞳に若干の怒りと、それから決意を滲ませて、リーベを見つめている。
「お前寂しがりの癖にカッコつけて自分のことを踏み台にしろって言ったけど、俺はまだ、最後の最後まで諦めてねぇからな」
茶色の瞳が、揺らぐ。畳みかけるように、言葉が紡がれる。
「お前は、リーベは『生きたい』って言ったんだからよ!!」
「……馬鹿ね。私の言葉を忘れたの?」
「馬鹿はどっちだよ、この馬鹿野郎」
(あの時、背中を借りてまで泣いたのは誰だよ)
本音を語ったくせに。「助けて」と内心で叫んでいたくせに。
リーベの足が進み出る。血溜りの中を白い靴を汚す事も厭わずに進んでいく。そして彼女は、聖霊の前にある血溜りの中で立ち止まり、彼を見上げた。顔には、寂しげな微笑みが浮かんでいる。
「黒は白には戻れないの。それに、以前言ったでしょう?
私を救う方法なんて一つしかない、って。
……ねえ、貴方は、血溜りの中に立つ覚悟はある?」
その問いに聖霊は答えず、代わりに杖を握る力を強めただけだった。
どこか諦めたように笑って、リーベはローブの中に手を入れる。現われた布は、おそらく聖骸布と呼ばれる代物だろう。
「リーベ教の教義は、『死こそ救いである』。
私を救いたいなら、道は一つしかないのよ。眩しい人」
「じゃあね」と言い残して、聖骸布を強く握りしめた彼女の姿が消えた。
彼女の最後の言葉に、Lilyが呟く。
「……本気で言ってるんですね、あの人」
罪悪感も何も無く、ただ本音だけを語った教祖にして遂行者。
ヴェルグリーズが溜息をつきながら、「そうなのだろうね」と呟いた。
「それだけ覚悟があるって事なんだろう」
「彼女も生半可な気持ちではないのでしょう。そうでなければ、遂行者になどならないかと」
「でしょうね。その時は、引導を渡すべきかと」
「フリックモ 同意スル」
「私もだ」
「彼女に誓ったからな。俺もそうする。……聖霊さんは?」
「……まだ諦めねえよ」
彼の回答に、「そうか」と短く返す。
イレギュラーズが進み始める。その中で、足を踏み出そうとした聖霊が血溜りに気付く。
先程のリーベの言葉がリフレインして、それから彼は、足を踏み出した。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
リーベの覚悟は揺るがないようです。
次に会った時、皆様の覚悟をお待ちしております。
MVPは、騎士達の罪を暴いた貴方へ。
GMコメント
リーベとの再会ですが、今回のリーベは戦う様子がありません。
第一の騎士達を見守る覚悟でこの場におります。おそらくはどこかのタイミングで彼女自身は撤退するものと思われますが……。
その辺を留意しつつも彼女に刃を向けようとするならば、第一の騎士達が命懸けで止めに来るでしょう。
第一の騎士達はリーベ教設立当時から存在した者達です。魔種となったリーベに最も長く付き従った者達でもありますので、実力は相当なものとなっていると思われます。
また、白騎士も相当厄介な為、こちらも注意が必要です。取り逃すと、後々にも響く事でしょう。
●成功条件
・第一の騎士達の殲滅
・白騎士全員の討伐(努力目標)
●フィールドデータ
装飾に彩られた長距離の回廊。
イレギュラーズが保護結界を発動しても半径分であれば余裕で入る幅と、保護結界の二倍の高さ。
●敵情報
・リーベ
今回は見届け人として存在。
聖遺物らしき物をローブに忍ばせており、何かしらの手段として用意している模様。
本人が戦う意思は今のところ皆無。
・第一の騎士
リーベ教設立時より付き従う騎士達。
タフさとHPが高め。
剣を主に使用し、【足止系列】【出血系列】の攻撃を行なう。
白騎士の補助で物理攻撃力が上がる模様。
・白騎士
馬に乗った白い甲冑の騎士達。腰には剣を、手には腕の半分程の長さの細長い杖がある。
主に第一の騎士達の強化を行ない、補助としての役割が多め。
戦う事も出来るが、剣よりも神秘攻撃による【混乱系列】【麻痺系列】を扱う事が多い。
剣での実力は第一の騎士達よりは劣る。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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