PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<信なる凱旋>瘴煙のコルティーナ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 美咲さまは、ホウジョウの、『ご主人様』でしたもの、愛して、あげなくっては……だめでしょう?
 ホウジョウは、ひっとりと、ひっそりと生きていられたら、良かったのに。
 美咲さまが、くださったのですよ……?
 生きる苦しみを、死に至るまでの責め苦を。
 美咲さまが、くださった……くださったから……ふふ、美咲さまを、愛してあげなくっちゃ。
 あなたは、『選ばれた』のでしょう?
 だから、死ななそう、だから――殺してさしあげないと。

「良い決意表明だ」
 やけに楽しげに遂行者の少年は言った。
「……そう、でしょうか」
「お前は人前に姿を現したくないんだろうし、良い場所があるよ。海洋王国の帳で廃滅病を持ってくるだけ」
「……それは、誰かと会うのでは」
「退けたら良い」
 簡単に言うものだ、と長い前髪の向こう側で少年を見据えて『乙女』はそう考えた。
 だが、そう言ってのけるからには次は何が待ち受けているのかを問うておくべきだろう。
 彼女とで阿呆ではない。利害関係が一致しないのであれば、協力する価値もナイ。
「それを、持ってきたなら……?」
「僕が手伝ってやる。お前の大好きな『美咲さま』にべったりな女が居ただろ。引き剥がしてやるよ」
「……どうして、手伝ってくださるのですか……?」
「え? んー……僕の所にもさ、ツロ様にべったりな女がいて。そいつに怒られたからかな。アリアって言うんだけど」
 話し込んでいたアドレの背後には遂行者の一人であるアリアが立っていた。
 波打つ柔らかな紫苑の髪に、僅かな苛立ちを滲ませた女は「アドレ」と囁く。
「こんにちは。ホウジョウ様ですね。今回ご一緒させて頂く遂行者のアリアです。
 アドレは置いていきましょう。私も『殺したいほどに憎い女』がいるのです。同じ顔をして居るからややこしいのですけれど」
「……はあ」
「私を手伝ってくださればそれで構いません」
「はい」
「廃滅病を広げれば人間なんて勝手に死にますもの。丁度良いでしょう?」
「……はい」
 ホウジョウはアリアを見詰めてからうっとりと笑った。
 勝手に滅亡してくれる人間達は愛おしい。朝が来るなんて認められない。
 こんな世界滅びてしまえ。愛しい愛しいあの人が死んでしまった後に、夜なんてもう二度とは明けないで。


 海洋王国の降りた帳に騎士の姿があると連絡を齎したのは探偵サントノーレであった。
「んで、『綺麗な瞳の美咲ちゃん』ってのはお嬢ちゃんで間違いないだろう?」
 サントノーレに指名された美咲・マクスウェル (p3p005192)は「ええ」と小さく頷いた。
「『指輪の悪魔』って奴について詳しく聞いても?」
「何処から話そうかしらね」
 美咲はちら、と共にこの場にやってきた仲間を振り返った。皆、『指輪の悪魔』――否、美咲については仔細を把握している者である。彼等に行なった情報共有と同じ内容をサントノーレへと齎してから美咲は肩を竦めた。
「それで、次はそちらの番ね」
「オーケー。その指輪の悪魔ってやつが帳の中で騎士を放ったのが確認された。
 どうやら遂行者アドレの差し金だな。ホウジョウって女は『廃滅病』を持って帰る事が目的だ。アドレと手を組んでそれを天義に持ち帰り――」
「ばら撒くのね、実に『嫌らしい手口』だわ」
 忌々しげに呟いたイーリン・ジョーンズ (p3p000854)にシフォリィ・シリア・アルテロンド (p3p000174)は頷いた。
 廃滅病が広がれば、無事では居られまい。それを『あの海』を越えた者は良く理解しているのだ。
「指輪の悪魔が廃滅病を天義に広げたならば自身が手を下すことなく人間は勝手に滅びるでしょう。実に、理想に叶っています」
「それは……見過ごせないよね」
 フラーゴラ・トラモント (p3p008825)はぎゅうと拳を固めた。そんなこと、許すことなど出来るものか。
 フラーゴラにサントノーレは「だよなあだよなあ」と頷き肩を叩く。どうして肩を叩いたのだと不思議そうに視線を送れば、彼は「追加情報」と言いながらアーリア・スピリッツ (p3p004400)に向き直った。
「遂行者アリアを名乗る女が来ている」
「……それも嫌な情報ね。それで?」
「アーリア・スピリッツを連れてこいってさ。海洋の帳なら、そもそも『その任務を受けたイレギュラーズしか来ない』。
 戦うにはぴったりだろうって話だ。アリアはお前さんを此処で始末するつもりだぜ。ついでにホウジョウは、美咲ちゃんをね」
 サントノーレが告げれば「それは! ダメ!」とヒィロ=エヒト (p3p002503)が身を乗り出した。
「美咲さんのことも、アーリアさんのことも、勿論、廃滅病だって好きにはさせないよ!」
「その通りだ。見過ごせる話じゃねぇ」
 ゴリョウ・クートン (p3p002081)は止めて見せようと大きく頷いた。
「それで? 騎士に廃滅病を持って帰らせないのが今回のオーダーだな? 探偵」とルカ・ガンビーノ (p3p007268)は剣を携え立ち上がる。
「さて、潮の香りが焦臭いモノに変わるぜ。此処で企みを食い止めて置かないとな」

GMコメント

●成功条件
 ・『騎士』をここで撃破すること(逃がさないこと)
 ・遂行者『アリア』の撃退及び『指輪の悪魔・陰』ホウジョウの撃退

 当シナリオはリクエストシナリオですので報酬はNormalシナリオ相応ですが判定はHard相応として行なわせて頂きます。

●『帳の青』
 旧絶望の青(現・静寂の青)です、が、リッツ・パークです。
 海洋王国に降ろされた帳は徐々に大きくなってきており、その内部に遂行者が現れたようです。
 内部には『廃滅病』の気配が濃く、嫌な気配がします。

 この地では長く滞在していると『廃滅病』に似た病(BS)に罹患します。
 ただし、この『領域』のみのスペシャルブレンドです。特別製です。
 出れば解除されます。出ない(領域が消えない限り)は永続です。解除スキルなどでは解除不可となります。

 このBSが付与されると徐々に『最大HP』が減少していきます。この効果でHPが0になる事はありません。また廃滅病と似た症状が身体に発生する事もあるようです。
(異臭が生じる、体の一部が溶けるかのような感覚を味わうなど。これらの要素はステータスの数値には影響しません。またこれらも神の国を出ると解除されます)

●エネミーデータ
 ・『ほろびの集配人』 3体
 預言の騎士です。非常に強靱な肉体を持ち、堅牢です。
 周囲に漂う廃滅病をその体に取り込み、一定ターンの経過後、その姿を消します。天義に廃滅病を持っていくためです。
 ほろびの集配人達は防御行動を中心にとりますが攻撃を受けた場合は『廃滅病を取り込まず』、戦闘に移行します。
 1体でも天義へと逃すことがアリアとホウジョウの狙いですので注意を行なってください。

 ・『遂行者』アリア
 今回の最も好戦的な女性です。医術士です。アーリア・スピリッツさんと瓜二つの外見をしています。
 己の主である『ツロ』に盲目的な愛を注いでおり、アーリアさんを亡き者にすることを目論んでいます。
 魔女を思わせる他、薬学知識も高く聖職者の素養もあるため基本的には『何でも出来る』と言った様子です。
 基本的にはオールラウンダーです。騎士が全て撃破された時点で撤退しますが、それまでは騎士を回復する他、庇うなどの行動を見せることもあります。状況により『アーリアさんが一番に嫌がりそう』な事を行ないます。

 ・『指輪の悪魔:陰』ホウジョウ
 美咲さんが元世界にて得ていた異能力の制御を行なう拘束具の一つ。『左手五指の指輪』の存在です。
 抑止契約が喪われ人間として召喚された彼女は『誰にも見つからずひっそりと生きていきたかった』のに人間としての一生を過ごさねばならなくなったことから非常に愛(うら)んでいます。
 美咲さんを愛(うら)んで居る為、自分の手で殺してやらねばならないと考えて居るようです。
 また、他の人間は勝手に滅びて欲しい為、廃滅病をばら撒くの目的のようです。
 戦闘能力は不明ですが、アリアと目的が同じ為今回は協力して戦います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • <信なる凱旋>瘴煙のコルティーナ完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年09月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

サポートNPC一覧(1人)

サントノーレ・パンデピス(p3n000100)
探偵

リプレイ


 廃滅の気配。その香り、死を漠然と思い出させる景色に『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は眉を顰めた。
 こんな事があって良いはずがない。終ってしまった物語を掘り返し、改めて繰返すなどこの世界にとっての蛇足に他ならない。
「廃滅の匂い――それは、あの海を知っている人間だけが覚えていて良いものよ。
 どんな天命があったとしても、持ち出して良いものではないわ」
 奥歯が音を立てた。あの海は、得たものもあるが、喪ったものが多すぎる。イーリンは呟いた。常の通り、彼女が彼女であるための言葉を。
「――神がそれを望まれる」
 相手とは違う信仰の形だ。彼等にとっても神が望んだことなのであろう。他者の信仰に深く首を突っ込む気は『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)にはない。ただ、許せないことがあった。それがこの鼻先を突く死臭、『廃滅病』と呼ばれた絶望の気配そのものだった。
「廃滅病が持っていかれれば何が起こるか……絶対にさせません。
 貴方達が神託に、いえ滅びの為に戦いを臨むというのなら、あえてこう言いましょう。
 ───この混沌を生みし大いなる意思の元に、貴方達を倒します!」
「あら、倒すだなんて。酷い事」
 くすりと唇を吊り上げて笑ったその顔には見覚えはあった。『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は「こりゃまた、驚いたぜ」と頭をがりがりと掻く。
「良く似てるじゃねぇか」
「ええ、残念ながらね。それにしたって彼の女は性格がわるいわぁ、そう思わない?」
 海洋王国の帳が『定着した』事に『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は責任を感じていた。気も重たくなり、持ち出しを禁じる事だけを考えて居たというのに――目の前に『彼女』がいるのだ。
「私がこの場所を嫌っているの位お見通しなんでしょう? アリア」
「ええ、勿論」
「……で、あの女と波長が合うって事はそのホウジョウとやらも大概だわ」
 ぴくり、と肩を揺らしたのはアーリアと瓜二つの女の背後に立っていた黒髪の娘であった。長く伸ばした前髪で表情を読むことは出来ないが彼女の目的はアリアと同一なのであろう。
「……あなた、は、関係ない、でしょう……?」
「いーえ。私ね、美咲ちゃんとヒィロちゃんの並びがとーっても好きなの。
 だから、二人の邪魔はさせないし――廃滅病を外になんて持ち出させないわ!」
 呼ばれた『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)にとっては彼女――ホウジョウは面識すらない身内である。と、言っても其れも四人目だ。其処まで来れば驚く必要性さえ感じられない。
「旅人の身としては、はじめましてね。バトルの横で会話する余裕はあるかしら?」
「……さあ……美咲様は、あの方が、大切なのですか」
 ホウジョウの視線が『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)を射る。その鋭さを肌で感じ取ってからヒィロは一歩だけ踏み出した。
「ボクが言いたいことはただ一つ。美咲さんに傷一つでも付けてみろ。100倍返しにしてぶっ殺してやるから!」
「貴女、は?」
「……私が許さないと言ったら?」
 ヒィロと美咲は互いを大切にしている。その絆そのものもホウジョウにとっては煩わしいものだろう。ホウジョウはそもそも美咲・マクスウェルを殺害することだけを唯一無二の目的にしているのだから。
 ただ、ただ、指輪として死して行くはずだったのに『彼女のせいで生の続き』を得てしまったのだと憤る気持ちが酷い執着心へと変化した。故に――「……愛している、だけ、ですのに」
「そんな愛、御免だよ! 美咲さんの事は絶対に渡すもんか!」
 手段なんて選ばないとヒィロは彼女らしからぬ冷たい瞳でホウジョウを見詰めていた。シンプルに美咲を護りホウジョウを撃退することだけがヒィロの目的だ。どんなに卑劣な存在になり果てたとて構わないのだ。元々『最底辺』で息をして来たのだから汚れ仕事だって慣れたものである。
「私の目的も聞いて下さる?」
「ううん。……何か、企んでるのは分かるよ。けど、意地が悪い人たちの好き勝手させないよ。素早く先手を取って仕留めちゃうんだから」
 その脳内には海洋王国の地図が叩き込まれている。『神をも殺す』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は盾を握り締めて眼前の遂行者を見詰めていた。
「困ったものですね。友人だっていうなら、その幸せを願ってあげては? 私は、彼女ですのに」
「お前がアーリア? アンタが遂行者のアリアなのはよーく分かるが、聞いてたより似てねえな。アーリアの方がずっとイイ女だって事だ」
 揶揄い半分で『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は言った。その声音に籠めたのはアリアを煽る意志そのものだ。
 天義には大した縁は存在して居ないが廃滅病をばら撒くというならば捨て置けない。男はアリアとホウジョウの企てを潰えるが為にやってきた。
 煽る一声にアリアが苛立ったように唇を食んでから「戦いましょう」とそう言った。その仕草はアーリアとは余りにも似て居らず我が侭な少女のようでもあった。


 地を踏み締めて、フラーゴラが標的に定めたのは預言の騎士――ほろびの集配人とアリアに名付けられた存在であった。
 その眼前へと進む足には迷いもなく。この世界で生きる為に乙女がとれる最適は、戦うなのだと臆することもなく、叩き込んだのは悪意の魔弾。
 突如として前線へと躍り出るフラーゴラの背後より廃滅をも塗り替える漆黒の気配を放ったアーリアの『おまじない』は気紛れに騎士の元へと降りかかる。この不吉が仲間の支えとなる呼び水となるように。
 アリアは前線へと共に飛び出したゴリョウを見詰めていた。如何にもこの戦場支配する『存在』に思えるように、わざとらしく飛び出したゴリョウにアリアの聖杖より魔法が放たれた。刹那――アーリアの銀の指輪が眩い月色に光り輝いた。それは不意を衝きアリアの元へと放たれる衝撃波。赤は眩く、その視線を眩ませる。
「ッ――な!」
「行かせないわ。どうせ狙うのは私でしょ?」
「いいえ、まずはアイツから。お友達なんでしょう?」
 唇が吊り上がった。アリアの性格は関わり合いが少なくとも分かり易い。彼女はアーリアを毛嫌いしているのだ。そのアーリアが『偽りの歴史(と、アリアが断言する世界)で出会った友人』など虫螻そのものに思えるだろう。
 フラーゴラが一度振り返り、目配せする。小さく頷いたゴリョウがアリアの前へと滑り込み腹をばしりと叩いた。まだ己は余裕だとそう思わせるかの如く細身であったオークの肉体が風船のように膨らんだ。
「は?」
「さぁ、俺と踊ってもらおうか! 極めて無為なワルツをなぁ!」
 巨大なオークは輝いている。アーリアは「ゴリョウさん!」と悲痛な声を上げ、アリアがゴリョウを傷付ける事を厭うようにアリアを睨め付け歯を食いしばって見せた――其れ等全ては演技なのだ。アーリアが嫌がることをすれば、アリアはそれに躍起になる。
 アーリアに近しい知人が同じ顔の人間に痛めつけられ殺される。そんな場面を見せ付けるための『二人の演技』に「怖ェな」と思わず呟いてからルカは楽しげに笑っていた。アリアのことはゴリョウが引き寄せてくれる。視界を遮られ『光り輝くオーク』と二人きりになるアリアも、そして――
「美咲さんの『綺麗な瞳』を曇らせようとするヤツは、ボクが許さない!」
「いえ……貴女が、居るから、生命の本来の目的を、違えたのでは……?」
「それはホウジョウ、お前の言い分だ!」
 ヒィロは声を張り上げた。ぎらりと睨め付け美咲とホウジョウの間に滑り込んだヒィロの扇情はホウジョウの敵愾心を煽る。
 正しく、何方が美咲に相応しいかを競うかのような意地の張り合いが始まった。美咲を守るべく意志を籠めた瞳はただ、ただ、ホウジョウから目を離さない。
「……ああ、なんて、こと……」
 彼女が誰のものであるのか。きっと、分かっちゃいないのだとホウジョウは売れ居てから首を振った。
 動きの先の先、それを見据える為に。思考は高速に動く。直感を働かせろ、ひらめきを信じ、あらゆる可能性を拾い集める。美咲はホウジョウを見据えてから、指先だけをくいと動かした。その表情に変化はない。
 指先の変化に気付いたルカが視線を僅かに揺れ動かせばイーリンとシフォリィが動いた。はためくのは戦旗。紫苑の一閃は相棒(ラムレイ)と共に海を駆ける。
「廃滅の騎士。あの海の墓守である! その滅び、全て我が身で引き受ける!」
 願望を貪欲に喰らう魔眼の気配――その希望が反転し、敵から見れば潰えねばならない存在として認識されただろう。
 イーリンを狙う騎士を引き寄せて、女は一歩後方に下がる。三人。二人引き寄せるイーリンの傍を走り抜け、『一人』をその場に縫い止めるのはシフォリィの美しき細剣であった。
 引き寄せ、そして突く。アルテロンドの剣は繊細で、特異なる体術と組み合わせたものだ。嵐の如く突撃し、銀の髪が揺らめいた。
「こちらです」
 決して油断などしない。ここで見過ごせば廃滅の気配は天義にまで持ち込まれ、それは広がり隣国にまで影響を及ぼす可能性があるのだ。
「貴方の事は此処で終らせる! 決して、滅びになど未来を委ねさせやしません!」


「さぁ、俺と踊ってもらおうか!極めて無為なワルツをなぁ!」
 光り輝くゴリョウは只管に耐え忍ぶだけを選んでいた。アリアは遂行者だ。それも『預言者ツロ』にとって作り出された豪語している。
 医術士である彼女との根競べ。前線に出るよりも自己回復に秀でているのだろうが、基礎の部分では強敵には他ならない。
 それ以上にゴリョウは余分に『痛ましい』表情を見せていた。アーリアに対する嫌がらせを防ぎ、嫌がらせを専売特許とするアリアに対抗する手段を取る。そう、これこそヘイト管理で『飯を食ってる』タンク様々なのだ。
 そんな彼の言葉にくすりと笑ってからアーリアは騎士達へと向き直った。
 集配人と名乗るからにはそれらが滅びを運んで行く。イーリンは「ああなんて、馬鹿らしいのだろう」と考えて其れ等を見詰めていた
「足りないわね。腕から心臓へ針がゆっくり進んでくるようなあの焦燥感と比べたら」
 身を焦がすような悍ましさも、血管を廻る針が体内に存在して居るかのような死の恐怖さえ何処にもない。眼前にある海は紛い物に過ぎないのだ。
 シフォリィが「フラーゴラさん!」と呼んだ。自身が押し止める集配人の体力は削れ行く。それはルカとフラーゴラの尽力に寄るところが大きい。
 じわじわとフラーゴラは削り続けた。その一手が小さくとも、全てが重なれば大きくなる事を知っている。
 ただ、その意識だけはアリアやホウジョウに向いていた。ヒィロと美咲が、そしてゴリョウが引き寄せてくれている間に全てを倒しきらねばならない。
「……逃がさないんだから……!!」
 滅びの集配人。その名に対してフラーゴラは憤っている。それを広められて、不幸をばら撒かれるなど承服しかねるのだ。
「いい……? 此処の皆は強いんだ。だからね――どっかーん……だよ!」
 フラーゴラの言葉の通り、蓄積したダメージを一気に炸裂させるかの如く、シフォリィの剣戟が切り裂いた。
 古の幻想種フィナリィの残して逝った魔術を戦闘用に解析した。それはシフォリィの身にはよく馴染む術式だった。何故か、その術式の作法を知らなくともシフォリィには扱う事が出来たのだ。
 アルトゲフェングニス。ただ、その破邪の結界を重ね――弾ける炎の気配が銀の一閃より走る。
 騎士の身が崩れ落ちたことを確認しフラーゴラはイーリンの元へと走った。イーリンの眼前には騎士がいる。アーリアが翻弄し、ルカが着実にダメージを重ねた騎士はあの滅びの海よりも『弱く』感じられる。
 イレギュラーズは傷だらけだ。だが、其処にあるのはあの絶望を乗り越えたが故の余裕だった。その姿がホウジョウは気に食わない。
「……どうして」
 呟かれた声音は、潮騒に混じる。
「死んで、くれればいいのに……」
 命は潰え、全てが終わり。そうして、絶望の只中で全てを無に返したい。ホウジョウという娘は何処までも独りよがりに、己の生を恨んでいる。
 生の苦しみを、一人で終える気など無かった。どうせなら、この苦しみを全てに味わって貰わねば承服しかねるのだ。
 実に身勝手なホウジョウにイーリンは「お終いにしましょう」と囁いた。
「騎士だったか、確かにお前は頑丈だが竜とは比べものにならねえぜ!」
 ルカは武器を両手で握り締めた。片手で力任せで振り上げるよりも、力が籠められて標的が定まる。
「ルカくん、頼むわね」
 最後に見る姿が色男だなんて、良い死に方だと集配人に僅かな慈悲を見せたアーリアの唇が吊り上がった。
「イイ女にアシストして貰ったんだ。コイツは格好良く決めねえとなぁ!」
アーリアが恍惚をつけてくれた場合、優先的にその対象をクリムゾン・ジョーカーで両断する!
「くたばれええええ!!」
 集配人の姿が掻き消える。イーリンは直ぐさまに睨め付けた。相手の動きはどうなるか――ホウジョウとアリアの動きを注視する。
 あの海を思い出すように波を見た。彼等の情念は『些かのズレ』を作ったか。
(……ああ、どうせ、他人同士だったのでしょうからね)
 アリアとホウジョウは互いの志を共にはしていない協力者だ。集配人が消えてしまえば彼女達が手を組む理由も消え去ったのだろう。


「どうして――どうして、お前のような者を」
 アリアが酷く苛立ったように囁いた。その声音を耳にしてもアーリアは答えることはない。
 女の欲深さに自身が答えるのはどうしようもなく間違いのように感じられたからだ。
「アンタ、その預言者ってのが好きなのか? ならこんなつまらねえ真似はやめときな。
 アーリアとアリアは別人だろ? ならアンタはアリアって本物だ。じゃあな、イイ女になれよアリア」
「いいえ、この世界に『同じ人間』はいりません。私なんて所詮は代替品でしかない。そう分かって居るから苦しいのでしょう!」
 叫ぶアリアはホウジョウを見詰めてから唇を震わせた。ああ、『同じだと思っていた』のに、彼女の方が恵まれているように思えてしまった。
 彼女の望みは死ねば終る。アリアの欲求はいつまで経っても敵わない。恋の苦しみだ。
 アリアの悲痛な表情を見詰めてからフラーゴラは「どうするの」と問うた。これ以上戦う必要があるのか、だ。
「私は帰ります。ホウジョウ、貴女は?」
 アリアの問い掛けに応えないまま、ホウジョウは一歩踏み出した。腕をぐんと前へと伸ばす。その指先には指輪が顕現し、魔術の気配を察したヒィロが美咲の前へと飛び込んだ。
「美咲さん!」
 構えるヒィロに気付いた後、アーリアはその気を逸らすべくホウジョウへと大声で話しかけた。
「嫌ねぇ、相手の気持ちを考えず押し付けてばかりの重い女は嫌われるわよ?」
「……押し付け? いえ、分かって居る、でしょう……?」
 それが押しつけだというのだと、アーリアは言えやしなかった。長い前髪の向こう側でホウジョウの瞳がぎらりと怪しい色を帯びていたからだ。
「『ホウジョウ』」
 アリアの声を真似て見せたヒィロは構えたままホウジョウを睨め付けた。
 その魔力が、ヒィロの頬を擦り傷を作る。軌道は僅かにずれたのだろう。海へと飲み込まれた魔力が爆ぜる音がした。
「ヒィロ」
「大丈夫だよ、美咲さん」
 ヒィロが微笑めば美咲は頷いてからホウジョウへと向き直る。
「廃滅病を撒けば、楽して大量に殺せる……その先は考えた?」
「……いいえ?」
 その再来が地雷であるイレギュラーズは多いのだ。だからこそ、彼女の目論見は潰えたではないか。
「他はどうでもいいなんて一途だけど。私は貴女だけ見ているわけじゃない。
 私は仲間に頼るのを躊躇わない。この場で投降しないなら、いくらでも人に頼って追い立ててやる」
「……投降、したって、死んでくれないでしょう……?」
 ホウジョウは『死ぬまで』美咲を追掛けるだろう。文字通り『殺したいほど』に愛しているのだから。
 ヒィロの唇がつい、と吊り上がった。
「たとえこの場で逃しても、ホウジョウはいつか殺す。
 ボクってさぁ……見ての通り正直者が服を着て歩いてるような人だからさぁ……」
 ヒィロは一歩踏み出した。未だその場から動かずに立っているホウジョウの喉元を狙う。
「口に出したことは必ずやってきたんだ。だからさぁ――ホウジョウ、お前は絶対殺してやる」
 その首を引き裂く前に、その体が靄へと変化した。後方にアリアが立っている。眉を顰めた女は「此処で死なれても困るのです」とそう言った。
「帰りましょう、ホウジョウ。私が手を貸すのは今回だけです。
 そんなに彼女を殺したいのならば、玩具ならば貸してあげましょう。次は、本当に命を取り合えばよろしいのでは?」
 アリアは冴えた瞳を美咲とヒィロに向けてから唇を吊り上げて笑った。
「私、互いを信頼し愛し合う人間って大嫌いなんです。壊れちゃえば、いいのに」
 その言葉と共に、騎士を喪った遂行者は姿を消した。僅かにその範囲が小さくなったかのように思えた帳の外には静寂の名へと変化した美しい海が広がっていたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)[重傷]
白銀の戦乙女
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
流星の少女
ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
黒豚系オーク
ヒィロ=エヒト(p3p002503)[重傷]
瑠璃の刃

あとがき

 お疲れ様でした。
 それぞれ種別の違う女の愛情でした。

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