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シナリオ詳細

<信なる凱旋>聖炎に包まれて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●正義の炎
 火の手が回る。天義に降りた滅びの予言は騎士によって成就されようとしている。
 滅びの予言はイレギュラーズの入手した極秘情報という訳ではなく、大本営に直接届いた犯罪予告のようなものだ。たちの悪いいたずらの域を飛び越えて月にまで昇るかのような傲慢さは瞬く間に天義国内に広がった。
 敵の狙いは何か。この予言がフェイク、スケープゴートであり別の狙いがあるのではないか。本命を探ろうにも対処に追われてしまっている。そして、大胆な犯罪予告事態が本命だという線も濃厚なものである。事実、魔種が絡んでいる大きな出来事はこちら側の小細工など度外視して真正面から叩き潰されそうになってきたではないか。これもそのパワーゲームの一つなのかもしれない。
 
 聖都の至る所でイレギュラーズと騎士達が激突する。内紛にも似た地獄のような光景は、より直接的な手法で色濃く味付けされる。赤騎士と呼ばれる滅びの騎士が建物に火を放ったのだ。いち早く動いた天義の自警団の一つは消火と制圧の責務に手が回らず、赤騎士の魔力によって炎の獣へと変えられてしまう者まで出始めている。
「モルス隊長! そんな……!」
「炎を受け入れよ。貴公らの忠義は偽りである、道を正すのだ。神の国を望む者は誰一人として見捨てぬ。過ちを悔い、騎士の聖炎となりて我らが対する邪悪を焼き焦がせ」
 始めこそ数で優勢だった自警団はゆるやかに、確実に利を失っていった。赤騎士の魔力に屈した仲間達は炎の虎へと変貌する。勇敢に立ち向かった隊長もついには猛火を纏った熊のような姿へと変わってしまった。隊長を失った自警団の士気は崩壊し、赤騎士の言う所の聖炎にすべてが包まれようとしている。

●火を絶やせ
 天義国内を奔走するイレギュラーズは住宅街の火災を知るや否や現地へ飛び込んだ。
 火の手を抑え、人々の魔物化を止めねばならない。人手が足りない中で適切な取捨選択を行う必要がある。圧倒的な不利、後手に回る後手、それでも生き残った者たちは真なる希望の到着を待っている。

 救える命の為。
 金や名声の為。
 強者との邂逅の為。
 天義を守る為。
 気まぐれ。

 それぞれが抱く感情は違えど、今ここに反撃の狼煙が上がった。
「あれはローレット、ギルド・ローレットだ!イレギュラーズが助けに来てくれたぞ!」

GMコメント

●目標
 赤騎士の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 聖都フォン・ルーベルグ住宅街(火災発生中)
 現場に到着する頃は夜です。
 火災による光源が確保されています

●味方
 自警団の生き残り 3名
 火傷を負い、体力を消耗しています。
 何らかの指示に従ってくれます。

●敵
 赤騎士ヴォルテール
 突如現れた遂行者達を導く存在、赤騎士の一人です。
 人々を炎の獣へと変え、数的有利を生み出す狡猾な人物です。
 炎による範囲攻撃や斬撃で戦う事もできるバトルメイジ型。
 ヴォルテールから致命的な被害を受けた場合、後述の『歴史修復への誘い』が判定されます。

 モルス隊長
 赤騎士と共に戦う炎の獣の中でも一際大きな炎を纏っています。
 自我を失いつつありますが、ヴォルテールを倒す事で救えるかもしれません。
 モルス周辺の炎の獣は攻撃的な上方修正を受けます。

 炎の獣 6匹
 赤騎士によって聖なる炎に変えられてしまった者たちです。
 最早救うことのできない無秩序な暴力です。
 戦闘や放火に加わります。
 
●『歴史修復への誘い』
 当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
 聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <信なる凱旋>聖炎に包まれて完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
雨紅(p3p008287)
愛星
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ

●赤き夜
 橙色と漆黒が強いコントラストを生み出していた。聖都の一部区域は派手な火災に苛まれていながらも不気味な静けさが見られる。それは僅かな生き残りも炎に飲まれる寸前である事の証明である。また、この場に回せる人員の余裕など存在していなかった。
 自警団の男がイレギュラーズに今の状況を伝えようとするが、熱傷によって消耗した身体では無理な話だった。
「ありがとう! 後は私達に任せてね。救える命があるなら救ってみせるから! 皆の気持ちはモルス隊長に伝えるようにするね」
 『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が気持ちを汲み、切り上げる事にした。炎獣になってしまった仲間や隊長の事をしどろもどろに話すが、口を動かすだけでも辛そうな男への気遣いであった。
「いかなる理由があろうとも、一方的に自分の主張を押し付けてはいけないのですよ。ましてや破壊や暴力を伴うものだなんて、以ての外なのです」
『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)が一際燃え上がっている建物を見上げて呟く。今ここにあるのは一方的な破壊、暴力そのものでしかない。しかしそれほどまでに非情にならなければならない何かがあるのではないか、メイは屈する事なくその想いに対峙するだろう。
「夜とは思えないほどの、明るさ。あまりモタモタ、していては……全てが炎に、包まれてしまう。そうなる前に……」
 『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)が住宅を見渡せば人々が生活していた地を、赤が容赦なく焼き焦がしている。逃げ延びた人々も存在しているようだが炎獣によって消火活動を阻害されているのだろう。始めがどれほどの火勢だったかは不明だが、遠方に待ち受ける赤騎士、そして炎獣の数を見るに爆発的な速度で侵略されているわけではない。しかし、燃え広がる炎は着実に勢いを増すと思われる。
 『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)が仮面越しに赤騎士を睨む。これが正義なのだろうか。争い事は正義と正義のぶつかり合いと聞く、しかしどのような正義であろうとも、罪もない者が傷付いて良い正義などあるはずはない。眼の前で傷つく人々を放っておけない、あの騎士と敵対する理由はそれで十分だ。炎光に照らされる槍をしっかりと握りなおした。今一度、恐怖に打ち勝て。戦わねばならない。
「キミたちは炎獣のいないルートだけで構わないから逃げ遅れた者がいないか確認しておいてくれ。もうこれは自警団が何とかできる域を越えているよ」
 『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の指示を受けねば自警団は自らが信ずる神の為、そして使命の為に最期まで戦うつもりだっただろう。イレギュラーズに戦闘の大部分は任せるとはいえ、自分たちの中から炎獣を生み出してしまった失態に対してその身を投げ出してでも対処しかねないのだ。
(人々を傷つけ虐げることを赦す神なんて、俺はそんな神に祈らないよ。この人たちも少し頭が固い所があるんだけどね。歴史を書き換える遂行者、そして神の国。まぁ、あちら側よりは真っ当なものを信じてるかな)
「故郷、正確には我が神の教えには『地獄』のような死後の懲罰の概念が無くてな、召喚されてきてから知ったのだが……炎獄というものがあるなら、獄卒とはこいつのような感じなのだろうか?」
「詳しいじゃねえか。罪もねえヤツに懲罰を行う獄卒なんてそれこそ罪に問われちまうがな」
 『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)に返すと何やら難しい表情で考え込んでしまう。
「ふむ……地獄の役職が悪事を行う場合」
「オッケー今の忘れろ。やる事はシンプルよ。あいつをぶっ殺す、良いな」
 『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)が自警団の治癒を終え、避難先に走る姿を見送った。
「俺は、自分では無いものに変えられる苦しみを身をもって分かってるつもりだ。だから、同じような目にあいそうな奴を放っておく訳にはいかないし、引き起こしてる赤騎士とかいう奴はぶっ倒してやらないと気が済まない」
「それじゃあ徹底的にやるぜ、野郎ども」

●炎獄の禍
 こちらが戦闘態勢を取ると炎獣が真っ先に突っ込んでくるものと思われたが、意外なほどに慎重な距離を保っていた。赤騎士が炎獣を完全にコントロールしているのかもしれない。短刀を構え、ファーストコンタクトに備えていたキドーは嫌なにおいを感じた。狡猾で、ねっとりとした悪党の香りだ。
 同様にネーヴェも邪悪の気配を感じ取っている。赤騎士は何も正々堂々と戦ってくれる訳ではない。あちら側は時間を稼ぎさえすれば、炎が手遅れになるまで広がりさえすれば良いのだ。
「炎に惹かれて羽虫が寄ってきたか。この国の歴史は正されねばならぬ、大人しく引き下がれ。これは我々の問題事だ」
「赤騎士…だったか。お前にどういう事情があるのかは知らないが、俺はお前のことが嫌いだ。お前の企みは砕くし、自警団のやつは助けてみせるからな」
 ライが敵意を剥き出しにする。この男を許してはならない。
「神の国を守りし炎と成ったものを再び堕落させようとは。珍妙にして下劣な宝石獣め……戒めが必要なようだ」
 赤騎士が気怠げに手を上げると炎の中から燃え盛る獣が数匹飛び出してきた。まさに地獄の番犬といった姿をしており、これが先程まで人間だったとはまず信じない凶悪さを誇っている。
「これが炎獣……!」
 雨紅がやや躊躇いがちに矛先を向ける。助けられる者、手遅れな者、何処をどう判断すれば良いのか理解らない。元人間という事実が槍に重くのしかかる。今日はやけに刑天が重い、だがこれは自分が選んだ道の重さだ。怯えるものか、雨紅は一呼吸おいて勢い良く正面へと飛び出した。
「あの大きなやつがきっとモルス殿だ。希望を捨てずに行こう」
 ヴェルグリーズが刀を振れば雨紅に突進する炎獣が転倒する。放たれた一閃は炎獣のみを器用に切り裂く。大型犬のような唸り声が響き、ヴェルグリーズはそこに人間性を見出す事は叶わなかった。これらは神の国を信じ込んでしまった者だ、せめて安らかに、苦しむ前に終わらせてあげたい。
「慈悲なんざかけてる余裕はねえぞ! 喉笛を食いちぎられねぇように気を付けとけ!」
 キドーは召集した謎の狩猟団と共に激しい戦いを繰り広げている。犬や虎の姿をした炎獣は機敏に、何の迷いもなく神の国を脅かす悪を討たんとする。狩猟団の黒犬と炎の赤犬がもつれ合い、どちらのものとも知れぬ血が飛び散っている。
「モルス様。貴方は、この町を、人を守ろうとして、動いたのでしょう 貴方の力は、守るために、あるのでしょう?」
 ネーヴェが炎獣の攻撃を躱しながら巨大な炎へと語りかける。腕が鋭く痛む、かすり傷程度でも炎を纏った爪を受ければこうなるのか。しかし、今はそんなものに構ってはいられない。
「どうか正気に戻って! 自警団の皆だって待っているよ?」
 ネーヴェを取り囲む炎獣をスティアが光の一撃で制圧する。これは本当にモルス隊長なのだろうか、僅かな不安を感じるが目の前の炎は苦しんでいる。これは確かな感覚だ。これほどの大きさでありながら、躊躇うような素振りが隠せないのだから。
「火傷なんて俺が治してやる! モルス! お前にはまだこの街を守りたいって気持ちが残ってるか? だったらその気持ちを出来るだけ強く意識するんだ。獣としての思考に埋もれて消えてしまわないように」
 赤騎士はモルスを救おうとするイレギュラーズに苛立っていた。見ず知らずの化け物を火傷を負ってまで世話をするのか。この男など神の国が到来すればどうでも良いものだが、使える手駒を失う事は気分が悪い。騎士として、炎が堕落せぬよう守らねばなるまい。
 炎を纏う騎士剣がメイの肩に突き刺さる。この女が一番手頃な突破口だろう、モルスを除いて炎獣の対処を割り切っているイレギュラーズとは違う、甘えを感じる。
「ぐっ……! ぜんぜん、全然平気なのです! 言葉を、心を交わさずに、力でねじ伏せて言うことを聞かせるのは間違ってるです! 赤騎士さんだって何か辛い思いをしてきたのではないですか? モルスさんは助けたいですが、メイはアナタの事も知らずに憎む事はできません!」
「ほう。これほど崇高な精神を持っていながらそちら側に属するとは。我々は力でねじ伏せられてきた者の救いの手だ。私はヴォルテール……メイと言ったな。一度だけ改心する機会を与えよう、神の国はお前のような人物によって支えられるべきだ。私が口添えをして置くが、まずは聖痕を受け入れよ!」
 赤騎士はメイの肩に刺さった剣を引き抜くと両手でしっかりと握り、胸元へと狙いを定めた。
「やはり獄卒には程遠い狂信者だな。そうはさせるか」
 背後に忍び寄っていたアーマデルが神酒に浸した短剣で赤騎士を突き刺す。狙いは精確、鎧の隙間を通した。中身が人間であるならば焼けるような猛毒に苦しみ、死に絶える事となるだろう。
「神聖な儀式の邪魔をするとは! 宝石獣に悪鬼、貴様は盗賊の類か? イレギュラーズが邪悪な集団である事はこれにてはっきりした。これが騙し討ちの形であるならばメイ、お前とて容赦はせぬぞ」
 赤騎士は背後に向けて思い切り剣を振り回したが、アーマデルは既に回避行動に移っている。
(剣閃にブレがあるな。毒はともかく呪いの方は有効のようだ)
 アーマデルは蛇銃剣アルファルドに再び神酒を塗り、濃度を上げた致死の一撃を狙い始める。
「被弾は覚悟の上! 来ると理解っている痛みなどいくらでも耐えられる!」
 雨紅が槍を振り回し、炎獣が蹴散らされたかと思えばまた一斉に飛びかかり乱戦状態となる。出鼻を挫き、爪を受け、牙を躱す。炎獣もしぶとかったが、雨紅の持久力はそれを上回っていた。炎への対策、それよりも決意がそれを後押しする。
「もらった!」
 甘い横薙ぎで飛びかかりを誘い、それに乗った炎獣へ栄光の拳が深々と突き刺さった。

 炎と血で煮える戦場に花弁が舞い散る。スティアの魔力の残滓が見せた幻想は消耗したイレギュラーズの活力を再び取り戻す。
「は、花……私が始め……自警団に……」
「モルス! その調子だ、負けるんじゃねえ!」
 ライがまくし立てる。炎の中から聞こえてきたくぐもった声はモルスのものだろう。ひとまずの治癒に回ったスティア、そして赤騎士までもが思わぬ事態に驚いている。
「モルスさん! 自警団の皆は最後まで……ううん、今だってあなたを信じている! 人は躓いたって自分の力で起き上がれるんだよ! 神の奇跡になんて頼らなくても!」
「次から次へと聖炎を惑わしおって! この男は指導者としての重荷を背負っていた。その苦しみを我らが肩代わりしてやっているのだ。再びその重圧を課そうというのか! 悪魔どもめ!!」
 赤騎士の周辺に火柱があがる。大きく燃えながらも弱々しい雰囲気を受けるモルスとは違う、全てを焼き焦がす殺意の火。元人間という炎獣相手に躊躇して苦しむ姿でも見たかったのだろうか、サディスティックな目論見が砕かれた事で不愉快さが爆発したと言って良いだろう。
「ようやくスカした男が土俵にあがったんじゃねえの」
「そのようだ」
 キドーとヴェルグリーズが刃を構える。人を殺す為に造られた悪漢のナイフ、人を想い造られた名刀。二つのルーツは違えど狙うは一つ。即ち、赤騎士ヴォルテール。

 ネーヴェの兎耳に異音が届いた。赤騎士が狙ってやったのかは定かでないが、今の火柱と振動で建物に致命的な亀裂が走った音だ。
「ライ様! 危ない!」
「なんだって? うおっ」
咄嗟の所でネーヴェがライを突き飛ばす。建物の破片がライの立っていた場所に崩れ落ち、間一髪の所で救援に成功する。
「あの建物はもう長くないな、サンキュー。お前の方は大丈夫か? 借りは俺の治癒術で返すからな」
「わたくしは、大丈夫です。目を、向けるべきは……」
 ネーヴェが逸した目線の先はひどいものだった。赤騎士の炎剣をヴェルグリーズの刀が受け、その足元をキドーが掻い潜れば火柱で道が遮断される。アーマデルが蛇鞭剣で空に放り投げれば周囲の炎を纏い、地面に激突しながらも火球を飛ばす。雨紅がそれを打ち払いながら心臓への一突きを狙って突進する。
「あ、あれはちょっと中央に飛び込むには覚悟がいるな」
「それではメイも行ってきます!」
 ライによる治癒を終えたメイ、そしてネーヴェが猛火の中へ飛び込んでいった。
「ご無理を、なさらず」
「なんでこんな事になってるんだか……仕方ないな。全く!」
 自分が狙われたらひとたまりもないだろう。しかし、ここで静観するのも性に合わないと感じてしまった。

「いい加減しつこいぜ騎士気取りの悪党野郎がよぉ!地面からボーボー火柱をあげる姑息な戦い方がてめぇの本質だろうがっ」
 キドーの放った妖精が赤騎士の全身を刺す。数十匹は報復で燃やされただろうが知ったことではない、次の日には平気な顔と五体満足の体で現れ、対価を要求しに来るのが妖精というものだ。キドー自身も近い距離で熱に当てられ、無視できない疲労が溜まっている。
「これはこれは。姑息に足が生えたような魔物から太鼓判を押されてしまったな。尤も、姑息はお前の専売特許ではないようだがね」
 赤騎士は振り向きもせずアーマデルの刃を長剣で受ける。二度通用するとは思っていないが、生まれた隙にアプローチする事は正解だろう。
「くそ、速いな」
 しかしアーマデルはこれをわざと見せた隙と読み、無理に鍔迫り合いを行わず飛び退いた。正解だ。行動を操られたモルスが巨大な炎の壁を走らせた。数秒遅れていたら分断されていた。
「これ以上、火は広げさせません!」
 炎の壁を突き抜けて雨紅が槍を伸ばす。自傷行為にも似た無謀な攻め、しかし赤騎士の視界をも奪った炎の壁から突き抜けてくる事は予想できなかったようで深手を追わせる事に成功した。
「機械人形如きが小賢しい真似を! 人に媚びを売っているつもりかっ」
 槍のリーチを考慮しても雨紅は近づきすぎた。キドーの反射神経を以てしても捌ききれない火柱の発生源、その爆心地に踏み入れたのだ。炎の壁をも吹き飛ばす爆発が起きた。周囲の熱をも奪う魔力の奔流、炎の大半が奪われ一段と闇に近付いた。
「この程度があなた様の正義ですか。『底』が見えました。次の一撃で仕留めます」
「けっ、あんだけボロボロになっててよくやるぜ」
 キドーにはない発想だった。肉を切らせて骨を断つというレベルではない執念の一撃。彼としても肉を切らせるという過程を飛ばす事、それには貪欲に取り組むのだが。肉も切らせず敵の骨だけを断つ、それがキドー流の執念だ。次は花火なんぞ手玉に取ってやる。

「不味いね、暗所が増えてきた。さっきみたいに視界を遮断されたら取り逃がしちゃうかも」
 スティアが先程の爆発の本当の狙いに気付く。雨紅を爆殺できなくともこれで良かったのではないか。そして、もう一つの異変に気付いたスティアは闇夜に駆け出す。
「まだお話も終わってないのです……! メイは、メイは絶対に諦めません! 赤騎士さんも最初から悪人だったとは思えないのです!」
「俺もそう思いたいが、あれはもう手遅れだな。雨紅殿の命を確実に奪おうとしていた、赦す事はできないが……」
 ヴェルグリーズが狙いを定めようとするも暗闇と煙、そして残り火がノイズとなって赤騎士を捉える事が困難になっている。ここで逃してしまっては自分が斬った炎獣に申し訳が立たない。僅かに、焦りを感じる。
「ふん、人を盗賊呼ばわりしておいて尻尾を巻くか」
 アーマデルが蛇腹剣を仕舞い追撃の姿勢を取る。ここからは勘に頼るしかなく、それは愚かな事だと歯軋りをする。
 突然にして周囲が明るく、花火でも打ち上がったかのように照らされた。赤騎士は隠れる場所を失い面を喰らっている。そして、ネーヴェとスティアに抱えられた見知らぬ顔は黒焦げの腕を天に向けている。この男こそモルスだろう。
「はは……こんな腕になってしまったが、少しは君たちに報いる事ができただろうか。くっ……」
「もう少しだけ、もう少しだけ炎の誘惑に耐えて。絶対に死なせはしないよ」
 スティアとライが懸命にモルスの命の火を繋ぐ。閃光弾を放った腕はぼろぼろに崩れ落ちたが、まだ生は終わってはいない。
「まだ楽にはなれないようだ」
「俺と同じ。オッサンにも損な役目が回ってくるんだよ」

 赤騎士は見る影もなく疲弊していた。
「重責から逃げ出した者の信心などこんな物か、失望にも程があるわ」
「俺もお前には失望しているよ、ヴォルテール。雨紅殿の覇気に怯んで逃げようとしたな」
 ヴェルグリーズが赤騎士の逃走経路を塞ぐ。炎獣に建物の倒壊、モルスという人質とこれほどまでにアクシデントを仕込んでおいて何故こうも迷いなく動けるのか、赤騎士には到底理解できないものがあった。
「最期にお前に生じた疑問に答えてやる。それは信頼だ。俺たちは正しく仲間を信じている」
 ヴェルグリーズの刀が赤騎士の首を飛ばし、雨紅の槍が背中から胸を貫いた。

「でもこれは少し肝を冷やしたぞ雨紅殿」
「信じていると言っていたでしょう。それに一歩以上は安全な距離を取っているつもりです」

成否

成功

MVP

メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

状態異常

メイ・カヴァッツァ(p3p010703)[重傷]
ひだまりのまもりびと

あとがき

ご参加ありがとうございました!
アチアチなお話でした。

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