PandoraPartyProject
藁の盾
「――貴女は幸せですね、聖女マリアベル」
刹那の沈思黙考を破る形で間合いを抉ったミストルティンの槍に表情を歪めたマリアベルがきつい視線をアリシスに注いだ。
「幸せ? 貴女に何が分かると言うのかしら」
皮肉めいたマリアベルの言葉はしかしアリシスの「全て」という言葉に一蹴された。
「……は?」
「気のせいなら一番いいのでしょうけれど。
嫌になる位に親近感を覚えずにいられない。
或る日、運命に出逢って。その運命と共に生きて。
その言葉はそのままお返しします。
……嗚呼、最期の共を赦されず、呪いを残された身の事を幸福な聖女は理解し得るのかしら。
我ながらつまらない感傷、くだらない八つ当たりと揶揄されるのは承知の上。
しかし己を投影する程度には妬心と羨望さえ感じる差に苦笑せざるを得ませんね」
酷く珍しく感情的であり、攻撃的に饒舌なアリシスにおしゃべり(マリアベル)さえも面食らった。
成る程、マリアベルの現在(いま)はアリシスが過ごした星霜の中、彼女が幾度と幾十度、幾百度と繰り返した慟哭の『逆』だ。
結果等問わず、共に果ての果てまで進めるのならばアリシスは他に何も要りはしなかった。
「最悪の彼氏でも居たみたいね。ちなみに私にも居るわよ」
「……いえ、ええ、いや、まあ……はい、きっとそうですね」
アリシスはマリアベルと同じ表情を浮かべている。
マリアベルと面々が激戦を繰り広げる他方、イノリ側の戦闘も熾烈さを極めていた。
「一度でも妹と話をしたの?
その結果、決裂するとしても、貴方は歩み寄ろうとしてすらいないじゃない!」
「……それを言われると弱いね」
「貴方は最初から諦めている!
私達は諦めない! 諦めなかったから、奇跡のようにここまで来れた!
諦めるのは……全てが終わってからで十分だ!!」
「滅びのアークで気に食わないルールぶっ壊した方が良くない?
神託の成就だとざんげさんも死ぬし……『神様の言う通り』になる……駄目だろ馬鹿!」
強烈な仕掛け、更に直情的なサクラとヨゾラの言葉にイノリが鼻白む。
「誰かが言った。
この世界を作った神様の間違いは、世界を回すシステムに心を与えたことだって」
「僕じゃないか、それ。覚えもあるぜ」
リュコスの言葉にイノリは皮肉気な冗談を言った。
「……ぼくは誰かを犠牲にするのが当たり前の世界なんて間違っていると思った。
けどそれを理由に『世界が』滅びるのも『正しい』と思えない」
「正しいかどうかだけで生きれるなら人間も魔種も苦労はしないさ」
『人間が考えて分かる事に無駄に長生きな原罪が一瞬たりとも想いを馳せていない筈がない』。
「私、望む未来があるんだ……!
ざんげが下に降りられて魔種も当たり前のように生きていける――
私が目指す未来はそんな御伽噺みたいなハッピーエンドなんだ!
だから、どうかお願い。イノリ、マリアベル。私達のイノリを聞いて。一緒に願ってほしい。
私達の為じゃない。『ざんげの為』に――」
(……ああ、本当に。なんていうお人好し共だろう)
十割の善意か、或いは幼い我儘か。譲れない善性か、諦めの悪さか――
シキの言葉に更に苦笑いを深めたイノリの考えた全てが本当で、全てが本物で、同時にままならなさの根源であるとも言えるだろう。
(……成る程、僕の長い時間は文字通り意味のない神への反逆だったに違いない)
――絶対に当たる神託という未来。
神託自体の破壊は即ちシステム――神託の少女(ざんげ)の否定に繋がろう。
なればこそ一番最初にイノリが考えたのは神託自体を『失敗』させる事だったのは言うまでもない。
だが、この滅びの神託以前の全ての神託は結局の所、イノリが原罪たる力をどれ程に振るおうと全て成就に到ったのが現実である。
即ちそれは原罪の力を以ってしても神託が回避出来ないという現実を示していると言えた。
翻ってイノリは神託の否定ではなく神託の肯定を以ってこの世界を終わらせるという択を選び取らんとしたのである。
傲慢な神は絶対に例外を許さない自らの神託を以って破滅する――それはこの上ない痛快にも思えたからだった。
(サクラ君はざんげと話し合え、なんて言う。だが――)
僅かな苛立ちはざんげを良く知る筈の彼女等がそれを言った事に起因する。
自らの反逆に理由に『奪い尽くされて』システムに組み込まれた妹に何が望めるというのだろうか?
――世の中には願っても叶わない事があることを、彼女達は知らないのだろうか?
「……いや、愚問だな。知らない訳じゃない。ただ、君達は――」
「……………?」
小首を傾げたシキの体に強烈な圧力が吹き付けた。
「問答で解決する位に僕の時間は短くないし、君達の覚悟も軽くはない筈だよな。
何度でも言うが、僕達と君達では価値観が違う。時間が違う。在り様が違う。
何処まで行っても君達は人の時間で生きていて、僕達は魔種の尺度で生きている。
差し伸べているらしい手を払うのは気が引けるが、『違うんだからそういう問題じゃあない』」
穏やかな言葉とは裏腹にこれまで以上に危険な気配を鋭角にしたイノリからシキを庇うようにサンディが前に出た。
「シキの目指す世界ってな、魔種だった人も普通に暮らせる世界なんだよな」
ふ、と笑った彼は本気か冗句か――恐らく本気で――とんでもない事を言った。
「『それは来るんだから、今ここで反転したって構わねえんだよ』。
……元々反転しやすい場なんだよな、ここ?」
「滅茶苦茶――ああ、滅茶苦茶だな、君達は」
イノリは力を抜いたようにふっと笑う。
そんな彼に飛呂は告げる。
「俺も、好いた人の為にここにいる。あの人の大切なものを守って、あの人の笑顔を見る為に。
……あんた達だって、そういう未来を夢見たことくらいはあるんじゃねえか」
「今更否定はしないさ。だから君達がお節介にも――僕達を肯定しながら否定するのと同じように。
僕達も君達を否定しながら肯定しよう――マリアベル!」
「――!」
イノリの呼びかけに苦戦を余儀なくされていたマリアベルが我に返った。
こちらも又以心伝心、彼の一言で混乱の見られた彼女の冷静さが大きく取り戻された。
「決着に向けて――ラスト・ダンスと洒落こもう。
ああ、きっとこんな事を言っても信じて貰えないかも知れないが――」
イノリは半ば呆れたように、半ば感心したように続けた。
――願わくば君達とはもう少しだけ早く出会いたかったよ。
「!?」
気のせいか、不思議とその言葉は人を食ったような彼の普段の調子を思わせなかった。
だから。
だからこそ――
「……ッ……!」
――目を見開いたゴリョウは『これ』が『その時』だと理解した。『してしまった』。
「起動(レディ)・展開(オープン)――」
歴史を左右するであろう運命の一撃との真っ向勝負!
(タンクにとってこれ以上の滾りはねぇ!)
生きても死んでも。この先に続いても、それともこれで終わってしまったとしたって――ゴリョウ・クートンには悔いが無い!
――『聖盾よ、我が友たちを守りたまえ(セイクリッド・テリトリィ・イレギュラーズ)』!
声も裂けよの絶叫とイノリが残った片腕を振り払うように振るったのは殆ど同時で――
※<終焉のクロニクル>Pandora Party Projectが進行しています!
※最終決戦が進行中です!
※各国首脳が集結し、一時的に因縁と思惑を捨て、ローレットと共に決戦に臨む事で一致しました!
※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。
これまでの天義編|プーレルジール(境界編)|Bad End 8(終焉編)
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