PandoraPartyProject
大海嘯
――人の身で我を叩き起こすとは!
怒りと不満に満ちたその声は頭の中に響くかのように船の上の誰にもその意思を伝えていた。
全身が怖気立ち、海の中に飛び込んででも逃げ出したくなるような威圧感に歴戦の船乗り達の顔が蒼褪めている。
殆ど棒立ちになり、口をパクパクと動かすだけで――何を言う事も出来ない大半の人間の中で、バルタザールが己を奮い立たせるかのように大声を上げた。
「海の神さんよ、不敬は承知!
だが、知らねぇ顔同士でもねぇ筈だ!
……それにこれはアンタに捧げられるべき財宝で、混沌のカミサマはいい感じに状況を伝えてくれてる筈だろう!?」
――滅海竜! 遊んでいる暇は無いのだ。
貴様とて、眠りの揺り篭に揺られたままこの世界ごと消し飛ぶ趣味もあるまい!?
――塔の男か。偉そうに!
シュペルと滅海竜――リヴァイアサンのやり取りにバルタザールは息を呑んだ。
海底より浮かび上がってきた大きな――大き過ぎる影の前には巨大戦艦(ガレオン)すらも玩具以下だ。
ざばりと音を立てて頭部だけを海上に突き出したそれは、船上の誰もが『あの時』思い知った人生最大の恐怖そのものだ。
――ともあれ、貴様の機嫌は兎も角、契約の手順は踏んでいる。
利害も一応一致していると言っていいだろう。
後は貴様の『雑』さを小生が何とかしてやろうというのだ。
問答の暇は無い。小生とて、本来はこんな事をしたくないのだ。不本意なのだ。
いいから黙ってここは力を貸したまえよ!
一瞬押し黙ったリヴァイアサンにシュペルは心底嫌そうに言葉を続けた。
――貴様とて、特異運命座標(アレ)等は多少なりとも……気に入ってはいたのだろう?
神域に座する竜がその瞬間、思い浮かべたものは己に比すれば余りにも小さすぎる――美しく無力で、そして信じ難い程の少女の歌声だった。忘れる事もない、忘れられる筈もない。あの小さきものは滅海竜の意志さえも一時食い止めて見せたのだから!
――ぼやけるな、とっとしろ! 神なら神の約束を果たすのが筋だろうが!
シュペルの物言いに眠る前の『追憶』を邪魔され、怒気を帯びたリヴァイアサンが轟と吠えた。
それだけで海が荒れ狂い、高波がガレオンにぶち当たる。転覆しそうになる船を何とか支えたバルタザールは「冗談じゃねえ」と呟いた。
――いいだろう。塔の男。だが、ゆめ忘れるな。失敗等したらまずは貴様から塵に変えてくれる……!
「……離れろ!」
バルタザールの直感は流石に歴戦の海賊提督だった。
船さえも飲み込むかのようなリヴァイアサンの大顎がくわ、と開いていた。
ブラッド・オーシャンが大きく動き出すのとリヴァイアサンの大顎が『あの時』と同じ大海嘯を撃ち出すのはほぼ同時だった。
耳を劈く轟音が辺りを支配する。
力の塊が彼方まで虚空を貫き、大船が威力の余波だけで木の葉のように翻弄される。
(リッツパークを吹っ飛ばす気か!?)
蒼褪めたバルタザールだったが、それは杞憂でしかなかった。
――寝起きで驚く程力が出ぬ。『だが、貴様に御するのはそれで精一杯』だろう?
――抜かせ、爬虫類風情が!
大海嘯の進む先、彼方の空が何かの力に揺らめていた。
海洋王国の首都すら吹き飛ばしかねないその力は揺らぎに呑まれ、『何処か』へ消え失せている。
――ああ、もうこの馬鹿力が……ッ!
聞いた事すらないシュペルの苦悶の声が響いている。
打つ舌の音を止められない彼の苦戦こそが自称神の成し遂げんとする仕事の馬鹿馬鹿しさを告げていた。
――だが、舐めるなよ、爬虫類! 『黒聖女』如きに出来る事が小生に出来ぬ筈も無いのだからな!
問題は……問題は、どうして小生がこんな事をしなければならないかという点で……!
別にあれもこれも勝手にくたばれば清々するのだ。
分かっているのか、どいつもこいつも!
「……そりゃあ」
バルタザールはこの期に及んでもわざとらしい露悪の仮面を外せない人間臭い神様に溜息を吐いた。
「アンタがどうでもいいって連呼する世界を救いたいって思うようなお人好しだからだろうよ」
※<終焉のクロニクル>Pandora Party Projectが進行しています!
※最終決戦が進行中です!
※各国首脳が集結し、一時的に因縁と思惑を捨て、ローレットと共に決戦に臨む事で一致しました!
※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。
これまでの天義編|プーレルジール(境界編)|Bad End 8(終焉編)
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