PandoraPartyProject
運命の濁流
「うわああああああああ――!?」
どうしようもない――心からの絶叫を上げた船乗りは自身の人生の終了を覚悟するしかなかった。
虫食いの世界、荒れ狂う海、魔種達の影響で無茶苦茶になった死地は混沌に住まう誰にも酷く辛辣。
せめても生き延びようと海に出た事は正しい判断だったのかも知れないが、何れにせよ行き止まりであった事は最早疑う余地も無い。
「ああああああああ――」
しかし彼は恐らくそうして逃れようとした海洋国民の中で最も幸運な部類の人間であるに違いなかった。
絶体絶命に目を瞑った彼は数秒後に訪れる破滅を、衝撃を未だに体感してはいなかった。
目前に迫った終焉獣の顎は余りにハッキリと思い出せるのに――彼が代わりに聞いたのは耳を劈くような大砲の轟音だった。
「……あれ? え……?」
恐る恐る目を開ければ目前まで迫った終焉獣はそこには無く。
彼方には髑髏の旗をはためかせた巨大戦艦(ガレオン)が浮いていた。
「海賊船!?」
――聞こえるか? そこの船。聞こえたら邪魔だから元の港に帰りやがれ!
船員は困惑した。
海洋王国大号令以来、目立った海賊共は姿を消していた筈だ。
『偉大なる』ドレイクは海の果てに消え、海賊を見かける事等無くなっていたのに。
いやさ、それ以前に。
「……海賊が俺達を助けた……?」
混沌破滅の――人類を含めた全ての黄昏の時間に人を襲う理由等無いだけなのかも知れないが。
何かの力で船に届けられたダミ声は「邪魔だから帰れ」と言った。
この期に及んで船を襲うでもなく助け、海賊が何の仕事をしようとでも言うのだろうか!?
――判断が遅ぇ。邪魔だって言ってんだろうが!
船乗りの思考を邪魔するようにもう一度ダミ声が響き、今度は砲撃がおまけについてきた。
明らかにそれは当てる為のものではない威嚇に過ぎなかったが、船乗りは今度はすぐに動き出し。
荒れる海をリッツパーク目指して引き返す――
「……ったく」
「甘すぎるんスよ、お頭は」
「誰の甘さが移ったんだかな――」
巨大戦艦(ガレオン)の甲板の上で頭をばりぼりと掻いた赤毛の海賊は部下の言葉に溜息を吐いた。
「だがまぁ――これから世界を救う手伝いをしようってンなら、善玉みてぇな面しとくのも悪くはねェだろ」
「違ぇねえ!」
海賊達の笑い声はあくまで野卑たものだ。
だが、そこには『善玉』を名乗る程度には悪意が無い。
別に今だって善人ではないが、このまま座して死ぬのは御免被るといった所だ。
「懐かしいな、海洋王国。そしてテメェ等は運がいい。
海賊ってのは財宝を見つけるもんだ。そうして、頭を使うもんだろう?」
海賊提督――バルタザールが空に掲げたのは海の果てで、偉大な先達に負けぬ冒険の上で手に入れた秘宝である。醒竜玉の名を持つそれは『封じられた禍々しいもの』を今ここに呼び起こす――或る意味で世界を滅ぼしかねない危険過ぎる鍵だった。
「おい、旦那。分かってンだろうな?」
――煩い。集中が乱れる。今、小生は貴様等凡百が万人束になっても叶わぬ計算をしているのだ。
この終末にバルタザールに届いた声は『混沌の神』ことシュペル・M・ウィリーのものであった。
驚くべきか自ら声を掛けたシュペルはバルタザールが引き抜いた奇跡と希望の欠片の意味を語ったのだ。
無論、秘宝の価値等知り得ないバルタザールは大いに驚いたが――まさにこれは幸運だった。
――『一応』は交渉は済んでいる。
まあ、半ば自棄のような博打だが。博打でも他に手が無いのなら仕方あるまい。
凡百。一応は貴様も褒めてやるから、後は余波で沈まぬようにでも祈っていろ!
「……これだよ。なんで勝手な野郎だろうな」
苦笑したバルタザールは遥か彼方を見つめていた。
――バルタザール!
自身を叱責する幻聴はこの数年で繰り返し聞いたものだ。
自身が恐らくは二度と戴かぬ『キャプテン』はスパルタで……しかし、この時聞こえたその声は何処か嬉しそうにも感じられた。
そんなものは全て幻聴に過ぎないのに。感傷が作り出した、都合のいい夢に過ぎないのに。
「黙って見てろよ、キャプテン。褒められる位の仕事はしてやるからよ……!」
※<終焉のクロニクル>Pandora Party Projectが進行しています!
※最終決戦が進行中です!
※各国首脳が集結し、一時的に因縁と思惑を捨て、ローレットと共に決戦に臨む事で一致しました!
※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。
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