PandoraPartyProject

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可能性の弾丸

「なあ、テメェはよ。何処に惚れたんだ? あの女の」
 戯れ事のように、ハウザー・ヤークはそう言った。ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は唐突の問い掛けに「テメェが恋バナするタチかよ」と笑った。
 そんなことを唐突に思い出したのは己が『奇跡の運び手』になると決めたときであったか。
 ただ、芯の強い女だ。
 美しく、一人で生きていけるその人に焦がれたのだ。
 勿論、強要なんざするつもりはない。泥船に乗れと手を引くつもりもない。
 ただ――
 ただ、『彼女の生きるラサ』がこれ以上汚される事が我慢ならなかった。

「ルナ」

 その声音は心地良い。ラダ・ジグリ(p3p000271)を振り返る。彼女は「行かないで」とも「死なないで」とも言わないだろう。
 だからこそ最高の女だ。彼女のためなど恩着せがましいことをルナは言わない。
 そんなことを言ってみろ、兄貴は何と言うか。莫迦野郎と笑うだろうか。
「ここで乗らない女と思ったか」
 ほぅら、見ろよ! 最高の女だろう!
 ラダが銃口を定めた。向かう先はベヒーモス。デッカ君と親しむようにЯ・E・D(p3p009532)が呼んだか。
「パンドラは毒だというなら、鱈腹浴びせるんでしょう。歩みを止めるため。束縛してそれから」
 それから、ファルカウから『滅び』を剥がす。それはアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)とスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)に任せておこうか。

 ――今度は独りにはさせない。だって私がいるもの。1000年だって1万年だって、あなたの想いを共にしてみせる。

 アレクシアはその決意を胸にした。ファルカウは問うたではないか。『お前は人でなくなる』事が出来るのか。
 スティアは、天義で聖女となるべく邁進した乙女は息を呑む。ヴァークライトを支え、人として、聖女として、律し救う立場となる者として――
(それは、人では無く神となるかのような行ないだ。私は、私は――)
 アレクシアがもしも選んでしまったならばスティアは、『友人』はどんな顔をすれば良いのか。
 リインカーネイションがきらりと光を帯びた。口の悪い元聖女はこれまでの戦いで得てきたものを使えばファルカウから滅びを剥がすことが出来ると言っていたか。
「ねえ、オディール――氷狼の欠片に、それから、その護りの指輪(リインカーネイション)。
 それだけではないでしょう。これまで、ずっとずっと戦ってきて、そこで得たものが力になるなら……私達はどうやって使えば良い?」
 オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は傍らのオディールを撫でた。スティアは「祈りを込めて、奇跡を、『特異運命座標(イレギュラーズ)』として願うだけだよ、きっと」とそう呟いた。
「そうね、ふふ。可笑しな事を聞いた。ファルカウに言葉を届けて、あの人を救わなきゃ」
 独りぼっちの寂しがり屋。擦り切れてしまった心を掬いあげるように抱き締めてやらねばならないのだ。
 祈る準備は出来た。何だって良い。これまでの自らの手にしたものを、パンドラの蒐集器か、はたまた、これまでの戦いで得た大切な知恵か、記憶か、アイテムか。
 それらを遣い、願うのだ。この地に奇跡を。特異なる運命を呼び寄せるように。
「任せておくよ」
「なら、その為にベヒーモスを引き留めなきゃね!」
 ユイユ・アペティート(p3p009040)はにこりと微笑んだ。きっと、仲間の声は届くはずだ。
 レッド(p3p000395)は悠々と笑みを浮かべて見せた。
「まだ世界は終わっちゃいないし終わらせはしない!
 全て白紙にして無かったことにしようなんて諦めるにはまだ早いっすよフォルカウ!!」
 魔女ファルカウという女は悪人ではない。だが、善人ではない。その精神は擦り切れて人間ではなく精霊へと昇華した存在だ。
 故に、彼女は途方もない時間を大樹として過ごしてきたのだ。そうして、苦しみ抜いたのだ。
 混沌は戦に溢れ、夥しい苦しみを抱いただろう。人を信じて人を慈しんだその果てに愛おしい大地が焼かれ、蹂躙され続けた。
 愛した巫女の片割れは砂の民の男に拐かされて滅びに召され、森を救うと言葉にされて大地は灰燼と化した。
 信じて、信じて、信じて、信じて、裏切られたように。女は、永劫を一人で生きてきて、諦めてしまったのだろう。
「そんなことを言われたって仕方がありませんわ?」
 からからと明るく笑ったのはリドニア・アルフェーネ(p3p010574)であった。
「賭け事ってお好み?」
「は?」
 ルナはリドニアを見た。明るく笑った彼女の唇は吊り上がる。アレクシアが後ろにいる。彼女の『お兄さん』に「勝ちましたわよ」と武勇伝を聞かせてやる準備は為てきたのだ。
「ひりつくような戦いをしてこそですわ! 生きるか、死ぬか、命はbetしましたもの。奇跡って言うのは、こうやって起こすものですもの――!」
「悪かぁねえな!」
 ルナが笑った。
 奇跡なんてもの、相当起こるもんじゃない。
 だが、都合が良いことが起こらないなんて誰も言ってはいない。
 ベヒーモスが呻いた。捕縛魔法陣が更にギュウと締め付けられる。
『ファルカウ』は『ベヒーモス』をコントロールしている。ならば、逆に流し込め――ベヒーモス諸共魔女ファルカウに打撃を与えるようにして。

 轟々と獣が叫ぶ。
「ベヒーモス。ああ、ああ、なんてことを!」
 ファルカウの姿がぶれた。ベヒーモスから大量の終焉獣が溢れ出す。大きな傷を開いたように見えたのは背中か。
 その背がばかりと開いて、黒き獣の内部からどろりと滅びが溢れ出す。
 控えるは『騎兵隊』、豊穣・海洋連合軍。行く先は決まっていると言わんばかりに『ギャザリング・キャッスル』も駆け出した。
「わたくしは――わ、わたくしは――」
 ファルカウから滅びを引き離し、滅びを打ち払い『呪い』を解く為に。
 そして、女のまじないが弱まればこの巨大なる終焉獣の動きを止めることが出来る。
 ただ、我武者羅に斃してはならないのだ。この滅びの気配を打ち払わねばならない、消滅させねばならない。
 ベヒーモスが歩んだ場所は枯れ果てた。大地は死し、空白へと成り行く。ならば、死骸とてそうであろう。
 消え失せた場所は元には戻らない。また緑を植え育てるようにして、大地を肥やさねばならない。
 だからこそ、ベヒーモスを『打ち消す』方法を探さねばならないのだ。

 彼女が、その切欠になり得るだろうか。魔女、ファルカウ。
 オデットは「ファルカウ」と呼んだ。アレクシアは真っ直ぐに見据え、スティアは息を呑む。
 彼女はずっと一人だと言っていた。その意味が『長命種』のアレクシアには良く分かる。本当の意味で、永き時を生きるのは一人だ。

 ファルカウだってプーレルジールのように様々な人々と出会っただろう。心を汲み交し、友人と呼べる存在にもなったはずだ。
 だが、誰も彼もが彼女より早くに息絶える。彼女を置いて行く。
 孤独を癒すように大樹に寄り添い精霊となった。それでも、慈しんだ存在は悉くが戦禍に塗れたのだろう。
(……ああ、ファルカウさんは、きっと、何もかもを喪ったんだ。
 長く生きるという事は孤独だということ。一人で生きていくという事。出会った全てと別れるという事。
 友人も、家族も、大切な存在も、何もかもが死した後、それでも大切な場所だと願った『深緑』は火に塗れ、滅びの使徒との戦場になった。
 この人は、イノリも、魔種も、その全ても許しちゃ居ないんだ。だから、全てを消し去ろうとした)
 アレクシアは目を伏せる。それでも、掛けた言葉に意味はあっただろう。
 もう一押しである事は確かだ。絶望に溢れた彼女の心を解きほぐすのは簡単ではない。一度のみで難しければ何度でも。
「私は、貴女と話を為に来たんだよ」
 ――そこに希望を見出すために。
 蒼穹の魔女の杖先に宿された魔力を、天義の聖女は静かに見詰めながら指輪を握り込んだ。

 ――わたくしは、魔女。
   わたくしなど、歴史から消え失せるはずのものだったのですから。もう二度とは魔女としては知られず、大樹として生きて行くと願ったのに。

 ――ただの一人、孤独に生きてきたならば。わたくしは、人のしあわせだけを願い続けてきたのです。
   なんて傲慢なのでしょう。なんて強欲なのでしょう。なんて、なんて、悪逆なのでしょう。
   森をも害し、人をも害し、けだものへと成り果て大地を汚す者達を許して等置けなかった。
   許せや、しなかった、わたくしに、希望を与えようとするのですから。


 ファルカウとベヒーモスの戦場に変化がありました――!

 ※最終決戦が進行中です!
 ※各国首脳が集結し、一時的に因縁と思惑を捨て、ローレットと共に決戦に臨む事で一致しました!


 ※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。


 これはそう、全て終わりから始まる物語――

 Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(終焉編)

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