PandoraPartyProject

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成しえてきた道のり

「――やれやれ。本当に優秀な後輩達だねぇ」

 刹那。声がした――ナイトハルトの声だ。
 しかし。今までの、ノアを介した念話越しの声ではない。
 どこかにいる――ッ!
「いたぞ、あそこだ!」
「まだ遠いけど……見えたね、姿が!」
 終焉獣らを打ちのめしているゲルツにアウレオナが気付いた。
 指差した先。大量の終焉獣を従える形で彼の存在を確認出来ようか――
 しかし。『それら』だけではなかった。
「えっ、あれは――ベヒーモス?! まさか、たしか、あれはファルカウ様の所に……」
 治癒の力を周囲に紡ぐメレスが驚愕の声色を挙げる――そう。
 ナイトハルトの背後には巨大なる『ベヒーモス』が存在していたのだ。
 だがあり得ない。アレは『古代の魔女』ファルカウの方で確認されていると聞く。
 此処にいる筈がないのだ。ソレはファルカウが座す戦場にいる。
 或いはベヒーモスが二体いた、というなら話は別かもしれないが……んっ?
 いや。よく見ると姿は似ているが、微妙に違う気配を感じ得る。まさか、あれは。
「おぉ気付いた子もいるかな? ご明察♪ R.O.Oのデータから復元した個体だよ。
 ホラ、僕はこの前練達に遊びに行っただろう? あの時ちょろっとね――♪」
「――データ侵入されていた?! 馬鹿な! そんな形跡は……!」
「ふむ……あの襲撃。実の所の本命はソレだった――と言う事なのかな?」
「まさか。君達が来れないようにするのが本命だったに決まってるだろ?
 まぁ僕も色々考えて前から行動している、と言うだけさ♪」
 操にマッドハッターが即座に解析の術を走らせようか。
 ナイトハルトの言が正しいのであれば――それは現実に存在しうるベヒーモスではない。
 R.O.Oの騒乱時に暴れ果てたベヒーモスのコピーだ。サルベージされたのだろうか。
 アレは当時のイレギュラーズの活躍によって完全に打ち倒された筈だが……
 想像を形と成したというのか? 
 本来あり得ぬモノをこの世に顕現せしめたというのか?
 ……いやいくら何でも情報ゼロでそんな事が出来る筈がない。ベヒーモスという本物があちら側の勢力にいた事に加えて――もしかするとナイトハルト自身、R.O.Oの騒動における混乱期に情報収集目的で裏でこっそりと行動していたのかもしれぬ。
 彼自身もイレギュラーズという括りであり。
 練達の始祖者であれば不可能ではないかもしれない――
 真相はともあれ。現実として巨大なる存在が、新たなる脅威が其処にいるのだけは確かだ。
「なんでもやってみるものさ。探求し、想像し、実践する――
 その重要性を君達だって分かってる筈だけどねぇ……♪
 ――ヴィッター。コイツの操作は任せるよ。
 連中を押しのければ後は君の自由にしていい」
「あぁ分かった。こちらも準備は万全だ――引き込んだ連中を殲滅しよう」
 直後。ベヒーモスの傍からは銃撃の雨あられも襲来しようか。
 それはナイトハルトに協力する旅人――ヴィッター・ハルトマン。
 彼自身は世界の滅びに対してナイトハルト程執着していないが。
 イレギュラーズに敵対する理由がある人物だ。
 故に世界を救わんとする連中を阻むべく銃撃を放とう。
 この日の為に新調しておいた銃は彼方まで飛来――敵対者を正確に穿つ。
 ……ナイトハルトがヴィッターに操作を委ねたのは、流石にベヒーモスまで細かな指揮をしている余裕がないからだろうか。どうであれ現在の戦場の流れはナイトハルトにとって想定の範囲内ではあった。
 ノアを押し込まんとした所で突出して来た者らにベヒーモスを襲来させる――
 まぁ尤もノアの防備を初めから突破させてやろう、などと画策していた訳ではない。イレギュラーズの攻勢が甘くノアを突破できないのならそれがナイトハルトにとっての最善であったのだから。
 しかし――ナイトハルトもまたイレギュラーズを舐めてなどいない。
 きっと彼らなら終焉獣らを。そして自慢のノアを突破しうるだろうと信じていた。
 だからこそ駄目押しの一手を秘匿していたのだ。
 初めからベヒーモスの姿を晒していたら早々に踏み込んで来ようとはしなかったろう?
「悪いが、勝たせてもらうよ。神を殴る為にもね」
 ベヒーモスが天に向かって吼えようか。
 巨体より迸るソレは衝撃すら伴いて、戦意を奪わんとする力を秘めている。
 士気が落ちれば終焉獣の波に呑まれよう。あぁ――
 これでチェック・メイトだ。などと、彼は想った事だろう。

 ――だが。

 もしもこの場において。ナイトハルトに想定しえない誤算があったとするのなら。
 イレギュラーズが彼の『想像以上に』『世界を探求し』『世界を救う実践をしてきた』事だろう。
「――何? なんだ?」
 刹那。ベヒーモスに――
 強大な『力』が襲来した。ソレは。
「おこがましいぞ人間如きが。誰の許しを経て世界を蹂躙しているか」
「姉御―! 飛ぶの早い、速いですって! 待って――!!」
 竜だ。空舞う影は二つ。
 一つは『薄明竜』クワルバルツ。かつて練達を襲い、イレギュラーズにも敵対した六竜が一角だ……もう一つはそのクワルバルツを慕う『金剛竜』アユア。両名ともにその戦意を――終焉側へと向けている。
「やっと来たんすか、クワルバルツ! 呼んだら来てくれるなんて案外やってみるもんすね!」
「もしかして貴様。己が呼んだから来た、などと不敬な事は思っていないだろうな。
 私は気が向いたから来ただけだ――まぁ覇竜の折の借りもあるしな」
 言を紡ぐはレッドだ。期待はしたが、本当に来るとは、と。
 先述の通りクワルバルツは人類と敵対した事がある。それはかつて存在した冠位、ベルゼーの思惑もあっての事だが……しかし紆余曲折の末に覇竜での騒乱では最終的に協力して事に当たった。
 故に、此度も人の側に立たんとやってきたのである。
 睨みつけるはベヒーモスと、そして……
「竜如きが僕に勝てるとでも?
 いい加減竜が頂点者であるような態度は止めときなって……♪
 永い時を怠惰に生きてきた君達には進歩がない。
 歩まぬ生なんて死と同義さ♪
 僕は――」
「やかましい。ごちゃごちゃと御託を弄すな。
 私が言いたい事はただ一つ――
 お 前 が 死 ね ッ !」
 首魁たるナイトハルトも、だ。クワルバルツが紡ぐ重力の権能が空を歪ませる――
 だが直後、ベヒーモスが再起動した。再現存在とはいえ流石のベヒーモス……
 竜の攻撃と言えども一撃で消し飛ばす事は叶わぬか。
 ――激突する。竜と終焉の獣が。
 互いに紡ぐ激しい攻防は衝撃波すら伴おうか。
「アユア、煩わしい砲撃はお前に任せた! ――耐えろ!」
「えええ!? 姉御、これを受け止めろと!?
 ええぃ! 人間――! お前らも早くなんとかしないと後で食うからな――!!」
 然らばナイトハルトが度々放っていた魔力の奔流がクワルバルツ達も襲う。
 故。クワルバルツはアユアに命じた。『止めろ』と。
 金剛流と謳われるアユアは若い竜ながらも防に関しては優秀以上だ。
 故に『止めろ』と……やや抗議したいアユアであった、が。やむなくナイトハルトの砲撃を止めんと立ち回る――結果としてそれはイレギュラーズ達への支援ともなっているだろう。なにせアユアが止めれば当然、地上への着弾も少なくなるのだから。
「ヴィッター。そっちは全て任せる、始末してくれ。
 ノア。イレギュラーズを通すな、そのまま防備を継続。
 終焉獣の軍勢はまだまだ山ほどいるんだ。人狼共も特攻させて……何?」
 と、その時だ。ベヒーモスによる圧し潰す作戦は上手く行かなくても。竜という想定外の戦力を抑える事が叶えばまだ戦況はこちらに有利だろうとナイトハルトは踏んでいた――のだが。
 戦線の様子がおかしい。
 特に戦力として配置していた人狼……ヴェアヴォルフ達が何か……

 ――瞬間。聞こえた狼の遠吠え。

 なんだ? ヴェアヴォルフ達の誰かが哭いたのか――?
 それはある意味では正しく、ある意味では間違った推測であった。
 ――戦場を切り裂くように高速で移動する『何か』が至る。
 それは白き者。それは本来、命尽きる筈だった者。
 かつて。イレギュラーズ達と共に戦った者――
「やはり、生きていてくれたのですね――ネロさん」
「――あぁ。君達のおかげでな」
 グリーフは感じた。グリーフは見た。
 その魂の煌めき。天義での戦いの折で確かに傍にあった者……
 ネロ=ヴェアヴォルフ。終焉獣でありながら人を救わんとする者――!
「ネロ、さま! やはり……!」
「アンタ、今まで何処にいたのよバカ!!」
「――蕩けたと思った。実際に、意識はなかった。
 あの状態をなんと言っていいか分からん。生と死の狭間にあったのだろうか……
 この世のどこかにいたのかも全く分からん――
 だがこの身が滅びを根差す者だからだろうか。
 『最悪の滅び』の接近に伴って、魂が鼓動したのだ」
 メイメイや鈴花も言を紡ごうか――
 ネロ。本当に生きていたとは。いや彼の言から推察するならば……もしも状況に変動が無ければ彼が現れる事はなかっただろう。もしかすれば永遠に。だが唯一無二にして強大を超えた絶対の『終焉』……『Case-D』の襲来によって終焉獣である彼の魂が強制的に呼び起された、と思われる。世界中を混乱に陥れている事象の戯れとも言えようか。正に、奇跡だ。
 ただ、その折に本来の終焉獣として世界の滅びを齎す側に立たなかったのは……
「きっと君達が……私の平穏を願ってくれたおかげだ」
 数多の者が奇跡を願ったから。パンドラの可能性の結果かもしれない。
「だがナイトハルトだったか……奴は終焉獣を操る力を有しているようだ。
 あまり近くに寄れば私もどうなるか分からん。
 あくまで出来るのは露払いが精々だ――」
「十分以上です。再び共に戦いましょう。ただ、剣の力は使いませんように」
 グリーフは紡ぐ。あぁ彼はやはりパンドラを持っていない存在だと……
 正気は保てている様だが、それもナイトハルトなどの干渉がなければだろう。
 いつまで無事でいられるか。無茶はさせられない――
 だが。滅びに抗う立場として。
 再び共に戦える。
 ――それが何よりも喜びであったのだろうか。
 もう一度戦いましょう。もう一度成しましょう奇跡を。
 世界を、救いましょう。

「我、バビロンの断罪者。世界を救わんとする者の友なり……! 共に滅びに抗わんッ――!」

 <終焉のクロニクル>始まりのレクイエムの状況が変動しています――!

 ※最終決戦が進行中です!
 ※各国首脳が集結し、一時的に因縁と思惑を捨て、ローレットと共に決戦に臨む事で一致しました!


 ※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。


 これはそう、全て終わりから始まる物語――

 Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(終焉編)

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