PandoraPartyProject

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狂王の愉しみ

「――ふん」
 彼――全剣王ドゥマはつまらなさげにそう息を吐き出すと、もはや物言わなくなった闘士を片手で持ち上げて放り投げた。
 筋骨隆々とした闘士が、無残にも床に転がる。その肉体は膨れ上がらんばかりの筋肉に覆われており、軽く見積もっただけでも3桁kgの体重はもっていただろう。それを、ぬいぐるみでも放り投げるかのようにふるまう全剣王の膂力は計り知れない。
 そして――辺りでは、そのような闘士どもが、何人も無残な姿をさらしていた。
 全剣王の塔。かつて鉄帝に存在したおとぎ話のそれは、今は『コロッセウム=ドムス・アウレア』と名乗り、鉄帝帝都近辺にその巨大な姿をさらしている。
 黄金劇場、とあえて名付けたのは、毒婦への挑発か。あるいは、ただ単に『全剣王が何も考えていない』可能性は充分にはある。いずれにせよ、ここは魔の軍勢の鉄帝攻撃の最前線であり、同時に鉄帝人たちが己の武を競う最前線でもあった。
 全剣王は、己を最強と自負する。故に時折、このように塔に現れては、通り魔的に闘士に戦いを挑み、そして下している、らしい。
「つまらんものよな」
 ぱちん、とドゥマが指を鳴らすと、塔の景色が変わった。塔の最上階、全剣王の間に瞬間的に移動したのである。全剣王の塔の内部は、異常な魔術によって構成されており、常なる思考は通用しない。かの魔女ファルカウ程とは言うまいが、全剣王もまた、魔術を収めし『最高』級の魔術師であることは確かである。
「さて……状況はどうなっているかな」
 玉座に腰かけたドゥマが目を細めると、中空に魔術的なディスプレイが現れたその姿を見れば、各地でいわゆるBad End 8と名乗る魔の者たちが、各々の赴くままに『仕事』をしているのがわかる。
「どいつもこいつも働き者だな。弱きものはあくせく働かねばならん」
 身内すら嘲笑するような『傲慢』さを持ちながら、ドゥマは小ばかにしたように笑う。
「ほう! 黒聖女(マリアベル)め、毒婦(ルクレツィア)をしとめおったか!
 いずれやるとは思っていたが、はは! 確かにこのタイミングが唯一よな!」
 ドゥマの視線の先、魔術ディスプレイには、主の亡骸を前に修羅のごとき瞳を見せるアタナシアの姿が映っている。
 ルクレツィアは、己の軍勢を用いて、幻想への攻撃を仕掛けた。
 その結果は多くの者の既知のとおり――ローレット・イレギュラーズの戦いによって防がれている。
 這う這うの体で帰還したルクレツィアを、粛清という形で仕留めたのはマリアベルだ。
「冠位どもがすべて消え失せるとはな。
 ヴェラムデリクトあたりは頭を抱えているだろうが、まぁそれもよし。
 我ら8人……否、我一人でも、世界の破滅などは事足りるものよ。
 しかし、間の抜けた従者であるな、アタナシアよ。
 結局力なきものの末路などその程度。
 力なき欲望などは迷妄に過ぎん。
 力なくば、『欲』も『色』も、ただ己を慰める妄想でしかない。
 貴様は弱者であった。それだけだ」
 主を失ったアタナシアへの同情心など、彼にはない。ただただ、弱いものが悪なのだ。
 彼は人の善悪などには興味がないが、この世界に絶対悪があるのだとしたら、それは『弱者』であると理解していた。
 強ければ、それでよい。強ければすべてが得られるが、強くなければ何も得られない。
「つまり、我こそが、この世界の生殺与奪を握ることができる。
 我が滅ぶといったのだから、すべからくこの世界は滅ぶ。ただそれだけだ」
 ――世界は変わる。それだけは間違いない。
 全剣王の瞳が見る世界は、今日も絶望と終わりに満ちている。
 世界にはバグ・ホールが開き、Bad End 8 を名乗る魔が、その配下が、多くの悲しみを生み続けている。
 世界は滅ぶ。予言の通りに。その通りに。
 ――止めるものが、いないのだとしたら。
 『あなた』がこの世界にいないのならば、きっと――。
「そういえば、あのベヒーモス。
 ……やつらはでっかくん、とか呼んでいたか」
 そうして視点を変えてみれば、そこにはラサの砂漠にたたずむ巨大な終焉の獣の姿が映る。その背部からは、小型の終焉獣が絶え間なく生まれ続け、世界中へと放出されているようだった。
「奴らのパンドラ蒐集器を奪い、その可能性を貪り食うか。
 おぞましい生命よな。
 まぁ、個人的には、奴が歩き回って、あの辺鄙な砂漠を焦土に変えてしまえばいいとは思うが。
 奴の動かし方はよくわからん。オアシスを2,3つぶしたあたりで足を止めてしまった」
 ふん、とドゥマはつまらなさそうに鼻を鳴らす。が。
「まぁ、よい。各々好きに動くがよい。貴様らが失敗しても、我が居れば世界は滅ぶのだからな」
 そう言って、傲慢なる最強の王は呵々大笑した


 ※『終焉』勢力は、未だ世界中にて活動を続けているようです……
 ※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……


 これはそう、全て終わりから始まる物語――  Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(??編)

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