PandoraPartyProject

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そうして、吹雪は去った

 困難は、冬の凍て付く風のようにやってきた。幻想国内に吹き荒れたその風は今し方その勢いを和らげた頃だろうか。
 ギルド・ローレットに慌てた様子で帰ってきたユリーカ・ユリカは不安と恐怖をその顔面に貼り付けたまま、脚を縺れさせて受付テーブルへと飛び込んだ。
「皆さん、ご無事でしたか!」
 常なら闊達な彼女は今回ばかりは自らの安寧の地が脅かされたと避難を余儀なくされていた。
 いち早く異変を察知したギルドオーナー『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイはユリーカとギルドの本部機能を出来うる限りの手を尽くし安全地帯を確保して移した。
 レオンに何らかの変化があったときにローレットを維持できるのはレオンと共にローレットの設立を行なった『エウレカ・ユリカ』の娘であるユリーカだけだ。正統なる後継者と言うべきだろうか。
 彼女はイレギュラーズではない。冒険家でなければ、ギルドの戦闘員でもない。非力な情報屋でしかない彼女を冠位色欲の襲来に備えるギルドに放置はしておけない。
 レオンは威勢の良い言葉を並べながら懸命にローレットに残ろうとするユリーカを無理矢理とも言える勢いで追いだして『冠位色欲』ルクレツィアを待ち受けていたのである。
「ボクだってローレットの一員なのに……ローレットを守りたかったのです。
 でも、皆さんの足手纏いになるのはいやでしたから、きちんと避難先で情報収集をしましたよ!」
 彼女は今まで貼り付けていた不安を拭い去って敢て微笑んだ。情報屋が不安げにしていてはその情報を元に仕事をする者は信頼することが出来ない――とはエウレカの言葉だ。
 偉大なる父の教えをよく守り、ユリーカは『情報屋』の顔をしてイレギュラーズを見回した。
「混沌各地のバグ・ホールですが依然として勢いを増しているのです。
 ラサの南部砂漠コンシレラに現れた『巨大な終焉獣』――R.O.Oでは『名無しの少女(ジェーン・ドゥ)』と共に行動していた『でっか君』――ベヒーモスとか呼ばれていました――であろうと練達三塔の塔主の皆さんからも報告を受けています」
 練達による『Project:IDEA』、その一環である仮想世界の総称『Rapid Origin Online』は現実の混沌世界を観測していた。
 その中に出て来たベヒーモスも観測を行なった結果だというのだから練達の技術には恐れ入る。しかし、通称をでっか君とされたその終焉獣は強大が故にデスカウントを重ねて打ち倒した存在でもある。
「……そのでっか君なのですが、背中から無数の小型の終焉獣が湧き出していることが判明したのです。
 でっか君はまだ動きませんが、その小型の……ち、ちっさ君達は混沌各地に存在して居たパンドラ収集器を奪取しようとしているそうなのです。
 それで、ローレットとしてはそのパンドラ収集器を保護し、ざんげさんの元に届け空繰パンドラに蓄積して貰うようにちっさ君達の対応を行ないながら行動しようかと考えて居ます」
 最終的にはその方針はレオンと決めたかったのだとユリーカは言うが、手を拱いては居られない。
 現時点で『ちっさ君』――ベヒーモス分体と呼ぶべきか――の出現が予測された場所やパンドラ収集器が存在して居る場所にはイレギュラーズが援護に向かう手筈になって居る。
 ユリーカもイレギュラーズが戦う中で、懸命に『次の手』を考え続けて居たのだろう。
 荒れてしまったローレットを見回してから「お片付けをして、落ち着いている暇も無いのは困りものですね」とユリーカは肩を竦めた。
「国王陛下やイレーヌ大司教の安否も確認出来ているのです。
 街中の戦の火も漸く落ち着いて……これで一安心なのです。皆さんがご無事という事は冠位色欲もえいやっとやっつけて下さったってことでしょうし!
 ボクらは来たる破滅に立ち向かい……それからハッピーエンドを迎えるのです」
 スラム街で観測された死霊遣いアタナシアも撤退をしたと耳にしている。
 現場となったこのローレットにルクレツィアの姿がない時点で此度の戦いはイレギュラーズの勝利だとユリーカは確信したのだろう。
 賑やかなワルツを踊っていた冠位色欲はテンポを崩し有耶無耶になって――そして勝利が来たというならば此れを喜ばない訳がない。
 だが、明るい言葉とは裏腹にユリーカはイレギュラーズの姿を見て、欠けているものに気付いていた。
 気付かないわけがないのだ。彼女にとって、彼は初恋の人でありながら、家族だった。兄であり、父である。
「ちゃんと仕事をしてたんだな」とおざなりに頭を撫でてくるそんな人が、この場には足りていない。
 荒れたローレットの中を見回っているわけでもあるまい。何処かで対処でもしているのだろうか。
 ユリーカは嫌な予感を押し殺した様子で乾いた唇を一度舐めてから息を吐いた。
 それでも笑顔を忘れなかったことを褒めて欲しい。ユリーカ・ユリカはローレットの後継者で、稀代の天才エウレカ・ユリカの一人娘で、イレギュラーズの命を守るべく献身する情報屋だ。
 引き攣った笑みに、震えた拳を押さえてから平常を装って言った。
「――あれ? レオンはどこですか?」
 彼女の問い掛けに誰も答えやしなかった。


 冠位魔種ルクレツィア戦が終わったようです……


 ※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(??編)

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