PandoraPartyProject

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世界最高の傭兵

 時は暫く前、数日を遡る。
 遥かなラサはネフェルスト――その中心の私邸にて。
「ディルク様、一体どうしたんですか?」
 エルス・ティーネ(p3p007325)は何とも言えない顔をした自身の『主人』に思わずそう問い掛けていた。
 ディルク・レイス・エッフェンベルグはラサ傭兵商会連合の事実上のNo.1であり、『赤犬の群れ』と呼ばれる傭兵団の棟梁である。
「……いや、まぁ、な」
 何とも歯切れの悪いディルクにエルスの美貌が曇っている。
『世界の終わり』とやらは実に公正公平であった。この程世界を騒がせるグレート・カタストロフは彼等にとっても他人事の例外では無く、領地の中の山程の問題はこの所ずっと、ディルクやエルスをも困り顔にさせていたからだ。
 しかし――
「――ああ、いや。違う。悪いニュースじゃ、無い」
「……へ?」
 手をパタパタと振ったディルクにエルスは少し抜けた声を上げていた。
 部屋の中にうず高く積まれた荷物の真ん中で手紙を片手にしたディルクは嘆息して続けた。
「仕事の話だ。『依頼』があった」
「……依頼、ですか? 『赤犬』に?」
「そうだな」
 エルスはディルクの言葉に「ははあ」と合点した。
 ……グレートカタストロフのど真ん中で他人の世話を焼いている状況ではない。
『赤犬』を含めたラサの諸勢力には多数の依頼があったが、現状ではラサも自分の始末をつけるのに精一杯の状況である。
 ディルクは自他共に認める世界一の傭兵だ。
 依頼を断り続けるのは矜持に関わるのだろうと、エルスは彼の複雑さの理由をそう解釈した。
「お断りになる……のですよね?」
「……」
 エルスの問いにディルクは何とも難しい顔をした。
 正真正銘、ラサも蜂の巣を突いた大騒ぎだ。
 この状況でディルクが即答をしないという事自体が彼が手にした手紙の特別さを物語っている。
「まさか、御請けになられるのですか……?」
「少々事情が特殊でねェ」
 溜息を吐いたディルクがエルスに手紙を押し付けた。
 恐る恐るそれを眺めたエルスの顔が驚きに染まる。

 ――ディルク様、不躾なお手紙を失礼しますのだわ。
   なにぶん危急の事態でありますので、ご挨拶を省き要件から始める事をお許し下さい。

   ディルク様率いる『赤犬の群れ』へ、傭兵としての依頼をしに参りましたのだわ。
   今回の話として可能な限りの対価を用意しております。

   バグ・ホールの出現や残る冠位魔種との戦いにおいて私は皆様の戦力を欲しています。
   参戦のタイミング、手段、今後の戦いにどこまで関わって頂くか……それらは全てお任せ致します。
   関わって頂いた戦いにも、ローレットの一員として私自身出来る限りの力を尽くすつもりです。
   ラサ傭兵商会連合の内におかれましても戦力は入用と心得ておりますので……
   この話での助力はディルク様個人や傭兵の皆様の一部のみなどでも不服は申しませんのだわ。

   これはローレットでも何らかのギルドでもなく、私個人からの依頼となります。
   ……私は、レオンさんの為にあらゆる手段を尽くしたい。
   最後の時に、切り損ねた手札を後悔したくないのだわ。
   どうかどうか、私達をお助け下さい。

「……これって!?」
華蓮・ナーサリー・瑞稀。レオンの女じゃねーかっての」
「……個人で『赤犬』を?」
「そうみたいだな」
 頷いたディルクは「無理では!?」と思わず声を上げたエルスを制して部屋の荷物を顎で指す。
「……まさか、ですけど」
「そのまさかだ。これ全部、一級品の宝石だよ。
 その数、ざっと561個。大雑把な市場価格にして2,805,000Gold。
 どうやら奴さん本気で俺を個人で雇う心算らしい」
「!? !? !?」
「面白い顔してくれてありがとよ。正直俺もそんな気分だ」
 エルスの反応にスッキリしたのかディルクは軽く笑っていた。
「……まぁ、実際の所。世界最高の傭兵を動かすには必要コストかな?
 断ってもいいが、金額はまあそこそこ。それにこれを請けねえのは少々癪だ。
 気ぃ使って貰ってる通り、『赤犬』は動かし難いからな。
 じゃあ、俺が行くしか無いんだろうよ」
「――――」
 ディルクの言葉にエルスはごくりと息を呑んだ。
 成る程、個人で凡そ300万。ディルクという男を動かす理由にはなろう。
「……だが」
「だが?」
「……正直、ちょっと妬けるねェ。
 何だ、あのいじけ野郎。愛され過ぎてて腹立つぜ」
「……………」
「華蓮ってあの大人しそうな秘書の子の方だろ?
 気ぃ強そうな弟子の方といい、実に羨ましい話だこと。
 ……っと、待てよ。お嬢ちゃん。そうやっていちいち拗ねた顔すんなよな」
 さもありなん。
「男が他所でモテてる他の男を羨ましがるのは本能みたいなモンで――ああ、もう面倒くせえなあ!」
「!!?」
「行動で示してやるからいちいち妬くんじゃねェよ、お前って奴は」


 ※『煉獄篇第七冠色欲』ルクレツィア及びその麾下がメフ・メフィートに侵攻しました……
 ※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(??編)

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