PandoraPartyProject

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理想郷崩壊

 ――そして、天に穴は穿たれる。

 その目映さに眉を顰めたルスト・シファーは「何?」と驚愕したように立ち上がった。
 雷の気配が鳴りを潜める。目を見開く男の顔をカロル・ルゥーロルゥーは初めて見た。
「え……、驚く顔もイケメン過ぎる……」
「キャロちゃん!」
 避けてと叫んだ夢見 ルル家は『穿たれた穴』の気配に手を伸ばす。
 その穴を通り、外から何か眩い光が一つ奔った。それは余裕を浮かべていた冠位魔種の左腕を弾き飛ばす。
「……シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト―――!」
 ルストの怒号が響いた。『理想郷』がびりびりと揺れ動く。その衝撃に足元が眩み、咄嗟に『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は己の身を立て直した。
「キドーさん」
 支える『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は「揺れるわ」と呟いた。天が嘶き、地が揺れる。まるで男の感情を表すようだ。
「なんか、そういうのダサいよね。男が騒ぐとか」
 やれやれと肩を竦めた『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)へ「しっ!」と呟いてからタイムがまじまじとルストを見た。
 男の腕を跳ね飛ばすそれは外より放たれたものだったのだろう。
 直ぐさまに腕を『修復』しようとしたルストの横面へ石像の聖職者飛び込んだ。
 それがキドーを始めとしたイレギュラーズの願った『アラン・スミシー』の最期だ。
 生き長らえてくれたら良い。だが、魔種は戻らない。その絶対的な定めから、唯一僅かな自我は冠位魔種に傷を付ける。
「っ、グドルフ・ボイデル!」
 ルストが歯を剥き出し叫んだ。
「ざまあみやがれ! 『一度死ね』!」
 グドルフがルストの胴を穿った。傷口が修復されるが理想郷修復にまでのコストは払えまい。
「アラン!」
 叫ぶ『司祭』リゴール・モルトン(p3p011316)の前で、魔種グドルフの肉体が霧散した。
 それは死骸さえ残さず滅びのアークとなり打ち消えたが最初ばかりは彼は確かにイレギュラーズの男であったのだろう。
 家族の死を悼むリゴールの傍らで傍らでカミラ・アーデルハイトは呟いた。
「天の杖……」
 それは天義の至宝である。天の杖の代償(コスト)はネメシスの高位神官の魔力や法力である。
 シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世を始めとした聖職者の祈りによって動いた支援砲撃に他ならぬ。
 それは、『あの日』――冠位強欲を打ち倒したように。

 ――ネメシスの正義を見よ。
   この国の矜持を、信仰の盾を、譲れぬ意味を背負って悪を撃て。
   果てるまで、尽きるまで、勇者が刃を突き立てるその瞬間まで――決して手を緩めるな!
   我が国の、正しきの分水嶺はここにある。
   退くな、譲るな、神は望まれ――否、人も望まねばならぬ。
   戦い、必ず勝利するのだ!

 その日の言葉がリゴールにも、カミラにも覚えがあった。
 天は見放しては居ない。己は進む道を見定めた。天の杖による砲撃はそれきりだ。代償(コスト)が足りない。
 ルスト・シファーは自らの『理想郷』を健全に保つことを辞めた。選ばれし民を創造する事も辞めた。
 理想郷は罅割れたが己の腕は『元の通り』に戻した。グドルフにとって抉られた『腹』は常人ならば死したのだろうが、見たとおりのことである。
 男にとっての理想郷は僅かな穴が開いたことにより、綻びが産まれたのだ。
「……」
 ルル家はそっとカロルを庇った。聖竜アレフは聖女カロルを愛する献身の竜だ。カロルの魂を護る事こそが、アレフが力を貸した理由だろう。
(キャロちゃんを助けたい。キャロちゃんなら、生き残れる可能性がある。
 ……私の聖竜の力を使ったら……きっと。でも、それがルストにばれてしまうかも知れない。
 聖竜アレフがキャロちゃんの魂を保護してるから……ルストにばれればキャロちゃんが殺され、アレフの力諸共霧散する可能性がある)
 遂行者を守らねばならぬなど、皮肉な事だろう。『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は「どうしますか」と問うた。
「どうあれ、聖竜の力を行使するまでは貴女に生きていて貰わなくてはならない」
 マリエッタはルストの前に立った。カロルを生かすつもりはないが、それよりも先に『こなさねばらない』事があるか。
「理想郷が崩壊していますよ、ルスト・シファー。
 ……ああ、どうやら貴方が傷を修復する度に理想郷が壊れていく。外からの攻撃は予測していなかったのでしょう?」
「マリエッタ。ルストを殺そう。殺して、殺して、何度でも殺せば、理想郷が壊れる。そうしたら最期に残った彼を殺せばお終いだわ」
 セレナ・夜月(p3p010688)は静かに言った。罅割れたロウライトの聖刀を構えたサクラ(p3p005004)が立っている。
「神霊の淵、ずっと持っていないなと思って居たけど……この理想郷こそが、そうだったんだね」
「えっ、そうなの?」
 ぱちくりと瞬いたスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)に「そうだよ」とサクラは頷いた。
「残念だけど種明かしが終ってしまったみたいだよ。どうする?
 貴方は理想郷のリソースを使って回復して『不完全』な『不死』っていう馬鹿げたことを得ようとするのかも知れないけれど――」
「心配ないわ」
 ゆっくりと踏み出したイーリン・ジョーンズ(p3p000854)は美しく笑って見せた。
「何度だって叩き潰して上げましょう。そう――『神がそれを望まれる』!」

 ※冠位『ルスト・シファー』戦の戦局に動きがありました――!


 ※神の王国に対する攻撃が始まりました!!

 ※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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