PandoraPartyProject

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『神の国』への招待状

 全てを記す ――アラン・スミシー

 その筆跡は男にとって見慣れた物だった。乱雑に書き殴る『クセ』を身に着けて無頼者として振る舞っていたが根底には何時だって『彼』が居たのだ。
 騎士団詰め所に届けられた手紙の宛名はリゴール・モルトン(p3p011316)であった。
「アラン・スミシー……とは?」
 問うリンツァトルテ・コンフィズリーにリゴールは頷く。
「友人の名です。イレギュラーズとしては別の名を名乗っていたようですが……」
 リンツァトルテは眉を顰め悲しげに俯いたリゴールの表情を見てからまさかと乾いた声を出した。
 本名をアラン・スミシー。アーデルハイト神学校を卒業した敬虔なる聖職者である。
 グドルフという名はアランの命を救ったという傭兵の名を借り受けたものであったそうだ。
 聖職者であるリゴールにとっては共に過ごした家族に等しい存在だ。だからこそ、その名を記すこの筆跡を見間違えることはない。
「アランの手紙を信用して下さい、とは迚もじゃないが私の口からは言い出せやしません。
 ですが……この内容を天義とローレットでも確認し、作戦を立案して下さい。私は彼を信じています、だからこそ――」
「俺も信じようと思う。コンフィズリーの当主が、いや、聖騎士が何を簡単に敵陣営に『寝返った』人間を信頼するのかと言われるかも知れないが……。
 少なくとも、グドルフさんは此方を謀るつもりはないだろう。情報の入手先が聖女カロルであること、それに何よりもこの情報をこの地にまで届けた痕跡に『聖竜』の気配がするからだ」
「……『聖竜』ですか?」
 リンツァトルテは頷いた。幾人かのイレギュラーズにも確認をとったが、『選択の時』に接触した聖竜――通称をアレフとしたその竜の力の断片が感じられたのだ。
 神の国より騎士団へ、アランの手紙として届けられたそれには悪意の欠片も存在して居ない。
「相手が『傲慢』であることを前提においても、我々に情報が流出しても勝利を確信しているが故に阻むことはないとも考えられる」
「ううむ」
 リンツァトルテの側で唸ったのはイルダーナ・ミュラトール――イル・フロッタであった。
 悩ましげに手紙をまじまじと見詰めていた彼女は、何処か気まずそうな顔をしてリンツァトルテを見る。
「イル」
「先輩、質問させて下さい」
 イルは本当に不安そうに言った。
「つまり、どういうことですか」
 リンツァトルテは渋い表情をした後、リゴールを一瞥してからテーブルの上に資料を広げて行く。

「まず、預言者ツロと呼ばれていた男だが、アラン・スミシーの情報やこれまでの『接触歴』から考えれば、彼は非実在の人間である事が想定される。
 その外見がアーリアの初恋の者に酷似していたのもローレットの情報を探るためだった可能性は高い」
「利用したって事ですか?」
「……と、言わざるを得ないだろうか。
 つまり、預言者ツロはルスト・シファーの『人形』であり、彼が暇潰しを兼ねて此方の敵情視察をしていただけに過ぎないのだろう」
「あ、そっか。ルスト・シファーは神の国からでなければ無敵ですしね。善人の振りをしていれば此方と敵対することもなかったのか」
 イルはうんうんと頷きながら「やっぱり許せなくないですか?」と唇を尖らせた。
 リンツァトルテは困った顔をしてから「次に」と続けた。
「聖女カロルとルスト当人から聞いた情報を統合すれば、遂行者は全国的に帳を降ろそうとするだろう。
 各地に神の国を君臨させ、最終的な勝利を確定させたいのだろうか」
「まあ、プライド高そうですし自分の陣地で好き勝手するなよって事ですよね!」
 あけすけなイルにリンツァトルテは「まあ……」と呟いた。明るいイルの様子を見るだけでリゴールは愉快な生き物を見ている気持ちにもなる。
 思えば、幼少期はこの様に友人達と語り合ったことがあっただろうか――
「じゃあ、何時も通り『』を壊せば良いって事ですか?」
「ああ、だが、その核が――」
 リンツァトルテは渋い表情をした。それからくるりと振り向く。

「その核が、『私達』って事なんだよ。イル殿」

「……夢見、ルル家……」
 ゆっくりと振り返ったイルは背後に立っていた夢見 ルル家(p3p000016)を見遣ってから剣に手を掛けた。
 武装を行って居ないようにも見えるが真白い衣は遂行者のものだ。ひりついた空気の流れる騎士団詰め所でルル家は肩を竦める。
「お遣いに来たんだ。あ、でも、私は味方じゃないよ」
「……その眸……。ルル家の右眼は廃滅病で腐り落ち、烏天狗とやらの呪眼を埋め込んだと聞いていたが……」
「キャロちゃん――聖女ルルの聖痕だよ。それから、私が持っているのは『聖竜アレフの力の断片』」
 ほら、とルル家が掌を翳せばそこに蒼い焔が宿された。微笑むルル家に対して警戒を解かぬまま、リゴールは問うた。
「お遣い、というのは?」
「グドルフ殿の手紙の補強、かな。キャロちゃんが、もう帰れる機会はないから。好きなことをしていいよって」
 友人に別れを告げに行っても良い、ローレットに情報を流しても良い、『聖竜の力で自分だけ命を繋いでも良い』――
 まだ狂気の状態にまで堕ちて行っては居ないルル家ならば願えば命だけは助かる可能性があると云う事か。
 ルル家は無数の選択を手にしているが、未だ選んでは居ない。その状況下でカロルがルル家を送り出したという事は。
(……聖女カロルは、ルル家に生きて欲しいのかな。友人だから、……敵だけれど、あの人は普通の人間みたいに振る舞う)
 イルはそう考えてから首を振って息を吐いた。
「私にはまだ『存在』していないけれど遂行者には命の核というのが存在して居るんだ。
 ルストの権能を自分の身体に降ろして、強大な力を手に入れる代わりに『盟約』が課されるらしいの」
「どうしてルル家には存在して居ない?」
「キャロちゃんが、必要ないでしょうって……」
 肩を竦めるルル家はその核こそが『神霊の淵』と呼ばれるものなのだといった。
 遂行者が聖遺物由来の存在であれば聖遺物の欠片や聖人の骨を。遂行者が魔種なのであれば、その心臓の半分や縁深きものが入っている『聖遺物容器』である。
 それが遂行者の命の源であり、彼等が『神の国』で命を落とすことがない理由なのだという。
「この『神霊の淵』は今までの中で一番強い『核』として神の国の帳を降ろすために利用されると思う。
 遂行者は所詮は駒だから……ルストがそう命じたなら『遂行者は自分の意志に関係なくそうする』しかないんだって」
 ルストは遂行者を鉄砲玉扱いしたのかとイルは信じられない物を見るような目でルル家を視た。死のうが生きようが関係ないと彼女の真の主は言うのか。
「酷い」と呻きながらも、仕方が無い事なのかと考える。相手に善性を期待してはならない。相手は滅びの使徒――冠位『傲慢』なのだ。
「だから、遂行者は命懸けで帳を降ろす。その帳の核を破壊して帳を払うときに『聖竜』の力を解放して利用すればルストに打撃を与えられる可能性がある」
「……それは、カロルが?」
「そう。聖竜は必ずキャロちゃんの居場所が分かる。
 キャロちゃんはルストの傍に居るから……聖竜の力で辿れば、外からルストに攻撃を与えられるんだ。裏技なんだって」

 ――大名、よく聞きなさいな。ルスト様はね、神の国の中じゃ死なないの。
   でも、外からの攻撃って、神の国の中の出来事じゃないわよね。
   外からルスト様が傷付けられたら怪我をしてしまうかも!
   どうしましょう。そうしたら神の国を補強するために力を使うかも。
   ……権能が綻びたら、ルスト様の不死が亡くなっちゃうかも。あーん、悲しい。

 頬に手を当てて困った様子を見せたカロルを思い出してからルル家は言った。
「私が此処に来ることが出来たのは、グドルフ殿が『アレフの力を使って手紙を送った』からなんだよ。
 命をかけて、あの人は皆のために情報を持ってきた。だから、私はその手伝いをしただけ」
「ルル家はこれからどうするんだ?」
「……どうかな。長居は出来ないし、此処に来ていることがバレたら困るからそろそろ行くけど」
 ルル家は肩を竦めた。まるで普通の少女のように話す彼女をイルは知らない。リンツァトルテは「そうか」と頷いた。
「リゴールさん、あなたの友人は迚も優しく、勇敢な人だった。……彼の情報をルル家が裏付けてくれた。
 我々はコレを信じるしか選択肢はない。信じず、放置すれば帳が降ろされることになる。直ぐに動かなくてはならない」
 隊を編成しようとリンツァトルテは言った。遂行者達が降ろす帳を阻み、神の国の護衛を退け、そしてルストの前に至るのだ。
 ルストは『神の国の中では不死』だ。だが、帳を破壊した際に使用されていた『神霊の淵』というルストの権能そのもので出来た綻びに聖竜の力を流し込めばカロルの――ルストの傍に居る聖女の元へと外から攻撃を届けることが出来る。つまり、カロルを的にしてルストに外から打撃を与えるのだ。
「それまではルストにこの『作戦』がばれてはならない。だからこそ、ルストを前に戦闘を続けて気を惹く必要はある」
「コンフィズリー卿、何か手筈は整えますか?」
 リゴールは聖職者の顔をして問うた。
「天義にある聖遺物を、そして『神託の少女』の力も借りよう。……成せる全てを駆使して彼の目論見を阻むために――!」


 ※神の王国に対する攻撃が始まりました!!

 ※『遂行者』グドルフ・ボイデルの身に変化が起こりました――

 ※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……


 ※シーズンテーマノベル『蒼雪の舞う空へ』が開催されました。
 ※プーレルジールの諸氏族連合軍が、魔王軍主力部隊と激突を始めました。
 ※イレギュラーズは『魔王城サハイェル』攻略戦にて、敵特記戦力を撃破してください。

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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