PandoraPartyProject

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悠久残夢

 勇者アイオンの伝承を知っているだろうか。
 混沌世界に幅広く知られたそれは諸説はあるが、魔王イルドゼギアを打ち倒した所は全てが共通している。
 東奔西走。遺跡の最奥で出会った冬に閉ざされかけた常春の国を救い、冬の気配を身に纏う凍狼とも相対した。
 様々な地に訪れながらも最後の最後にまで勇者が踏破出来なかったのが果ての迷宮である。
 故に、彼はその地に『レガド・イルシオン』を築いたのだ。
 王家には代々は勇者王の血が引き継がれ、果ての迷宮の踏破こそがこの国の王侯貴族の義務となった。
 そう――彼の伝説は混沌に幅広く受け継がれている。

「だからこそ、魔王を打ち倒す程の力が持つと信じられた存在を、新たな魔王に据えたのだ」

 男はそっと胸に手を当てた。
 男には真名がない。与えられているのは『魔法使い(ウォーロック)』という称号だけである。
 幼少期からプーレルジールの片隅で物作りに勤しんだ彼は遂に心を持ち自立する人形を作り出すに至ったのだ。
 その技術はプーレルジールでは親しまれ『心なし(ゼロ・クール)』を製造する者を『魔法使い』と呼ぶようになった。
 魔法とは、即ち心である。
 心を与え、命を吹き込み、それを人たらしめる。
 魔法使い(ウォーロック)を祖とした魔法使い達はそうして地へと踏み出した。

「僕は魔法使いではない、魔王だ」

 そう、魔法使い(ウォーロック)は名前がない。故に、魂と肉体を結びつける事が出来ていなかった。
 だからこそその隙間に終焉獣が寄生したのだ。
 その終焉獣はより強力な運命を求める。魔王が世界を滅ぼすように。
 勇者が魔王を打ち倒したならば、勇者を第二の統治者に据えれば良い。
 この世界に『二度と』は勇者は必要ないのだ。
 果ての迷宮を探索し続けた勇者王の姿へ、伝承へ、滅びのアークは結びつき『魔王イルドゼギア』と相成った。
 ……だからこそ、プーレルジールのアイオンは勇者ではない。勇者と呼ぶべき存在は終焉獣によって魔王に作り替えられたのだ。

「……せめて、この世界の『あの子達』を救わなくてはならない」

 頭を抱えたイルドゼギアがすうと息を吐出した。
 作り上げたゼロ・クール達は次々に滅びのアークに蝕まれていく。
 そんなことをするために作ったのでは――ああ、いや……それでいいのかもしれない。
 そうでなくては『それはこの世界と共に緩やかな死に至る』のだから。
 管理人と名乗った男が言っていた。彼が『上位世界に全て飲み込まれる』と言っていた。
 この世界が滅びるのは上位世界が滅びる為の前準備なのだと。
 滅びを蓄えたこの世界が混沌へと吸収された時、その上位世界――混沌世界は、更なる滅びの危機に面するのだ。
 だが、その前に『移動』する事が出来ればゼロ・クール達も、この世界の住民も命を僅かにでも延ばすことが出来る。

「生き残らねばならないのだ。僕は、この命を賭してでも――あの子達を」

 イルドゼギアは頭を抱えて苦悩した。心を与えた。魂を作り上げた。人形であろうとも、生きていると実感する。
 彼女達を勝手に作り出した己が、死にゆく方舟に同乗させることには耐えられなかった。
 その思考を滅びが塗り固めていく。
 違うだろう、イルドゼギア。
 ――滅ぼすのだ。何もかもを。この世界を滅びに塗り固め、そしてその案内人となるべく混沌へと至れ。
 そうだ。そうだろう、イルドゼギア。
 死とは遁れ得ぬ者だ。のうのうと生き延びる者が居ては仕方が無い。
 どうせ滅びるのならばお前が統治し、お前が最期の時まで管理すれば良い。
「……ああ、僕は――」
 僕は、誰だ――?

「魔王様……」
「マスター」
 イルドゼギアの元へと、近寄ったのは『魂の監視者』セァハと『骸騎将』ダルギーズであった。
 一方は頭を抱え苦しみ悶えた主を気遣い、もう一方は何処か悲しげな瞳をしている。
「……どうかしたのかい」
「勇者が」
 勇者なんて言葉はこの世界に必要なかった。
 だがセァハは敢てその言葉を使った。己の中で今だ抵抗するクラウディウス氏族の娘がその名を強く叫ぶのだ。

 ――アイオン!

 彼女が『イルドゼギアの傍に居たい』のは馬鹿みたいな恋心だった。
 メル・ティルと名乗るゼロ・クールが傍に居たいのは父親への愛情だった。
 どちらも、終焉獣が覆い被さりその行動原理を歪めただけに過ぎない。
「勇者が、参りました」
 セァハは静かな声音でそう言った。その背後にはドクター・ロスと呼ばれた男が立っている。
「魔法使い(ウォーロック)、ご機嫌よう。
 ……どうやらこの地も安全では無くなった。ニーヴィアは今だ作り上げられていない。
 何を犠牲にしたってニーヴィアを完成させなくてはならないのだが」
 ドクター・ロスはしげしげとイルドゼギアを見てから言った。
「ミスタ、貴方から『剥がれた』ならば、私が貰おうか」
「それは良い案だ、ドクター。……僕から引き剥がしたそれを『逃がして』くれれば混沌を滅ぼす手筈にもなる」
 ドクター・ロスは「それでニーヴィアを作る時間稼ぎになるのならば」と囁いた。
 イルドゼギアに張付いた『終焉獣』。それを星の奇跡を束ねて引き剥がしにイレギュラーズはやってくることだろう。
 それならば、剥がされた瞬間に『肉体』を移れば良い。
 実に単純だ。そうすればドクター・ロスは更なる知識と強化を受け目的に近づけるはずなのだから。
「……では、戦いを始めよう。魔王城サハイェルに踏み入る不届き者は全て、滅ぼしてしまえ――」


 ※プーレルジールにおいて『魔王城サハイェル』攻略戦が始まりました
 ※天義において、遂行者陣営との戦いが続いています――。


 双竜宝冠事件が一定の結末を迎えたようです!
 クリスマスピンナップ2023の募集が始まりました!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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