PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

朝に燃えるフェーローニア

 朝が燃えている。
 ゆっくりと昇り行く太陽は、白ずんでいた夜明け前を鮮やかに彩っていた。
 暗く陰ろう梢の向こうに、薄紅と淡い紫がコントラストを織りなしている。
 その光景は、天国にもっとも近いとも伝承されていた。

 ――ここはフェーローニア。
 時間は、そんな朝の『前夜』にあたる。
 覇竜領域の東部に位置する高原であり、コル=オリカルカという真鍮鱗の竜将の住処である。
 かつては光暁竜パラスラディエ(p3n000330)という金鱗の竜帝が愛し、ここを譲ったのだ。
 以来、実に三百年ほどの長きに渡り、そこはこのエルダーブラスドラゴンに支配されていた。
「歓迎は致しかねるが、ゆっくりしていきなさい。帝竜に愛されし小さき者達よ」
 人の姿をとったコルは、仏頂面のまま大理石のような玉座で頬杖をついていた。
 どこかヘスペリデスの住居を思わせる白亜の神殿は広く、涼やかな風が駆けていく。
「コルは偉いですね、ちゃんとお掃除したんですか?」
 パラスラディエがへらへらと話しかけた。
「……塵芥を一息に焼き払ったまで」
「えらい!」
「……」
「ありがとうございます、コル=オリカルカ」
「…………」
 リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)も謝礼を述べるが、コルはそっぽを向いた。
 人嫌いとされる竜だが、今となれば、どことなく照れているような印象も受けるから面白い。

 それにしても、思えば色々あったものだ。
 黄金の夕陽を眺めながら、ジェック・アーロン(p3p004755)は瞳を細めた。

 ――始まりは悲劇だった。
 冠位暴食に率いられた六体の竜が練達を襲い、凄惨な悲劇を起こしたのだ。
 次に竜達は深緑の森にも現われた。
 死闘の末、竜は――アウラスカルト(p3n000256)はイレギュラーズの可能性を信じた。
 そして父祖と慕うベルゼーが、あくまで冠位魔種たらんとする姿勢を知った。
 そしてアウラスカルトは冠位暴食陣営から離反したのだ。

 そこに、一人の騎士が手を差し伸べた。
「皆、そろそろ食事の用意が整うが、どうだ」
 そんなことを思い出している頃。
 騎士――ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が一行を呼びに来た。
ケーヤもそれで大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」
「ケーヤは何が好きか」
 アウラスカルトが問う。
「えっと、木の実とか果物です」
「竜の因子を持つならば、肉を食え」
「あの、はい!」
「デザストルマイマイトカゲはうまい」

 騎士だけではない。
 射手――ジェックもまた同じく。
 アウラスカルトが初めて母――パラスラディエと邂逅した際。
 よりにもよって狙撃手ジェックの後ろに隠れてしまったことも思い出す。
 獰猛な竜が、文字通りの銃後へなんて笑い話も残して。
「ジェック、母が料理なるものをしてみよと言う……」
「一緒に挑戦してみようか?」
「汝が、そう言うのであれば……」

「今日はなんだろう?」
「知らんが、肉か?」
 元気に駆けてきたセララ(p3p000273)が、あの日のようにアウラスカルトの手を取った。
 二人(?)は少しはしゃぎ、夕食への期待を膨らませている。
 食後にはきっとお気に入りのドーナツでも楽しむのだろう。
 秋の夜なべに、ミルク入りの紅茶でも添えて。
「キミは、どれが食べたい?」
「我はチョコの味のがいい、あと、あと」

「知らないんですか! この料理はバーベキューっていうんですよ!」
「そ、それはしっている、なぜ近寄る」
「友達だからです!」
 後ろから抱きついたしにゃこ(p3p008456)にアウラスカルトは頬を膨らませるが。
 冠位暴食――優しすぎる魔種が黄昏の地ヘスペリデスへ抱いた『人と竜種(ドラゴン)に友情が結ばれる』という空虚な夢想は、イレギュラーズの手で、今や現実のものとなっていた。
 それは全てではなく、けれどこの場所であれば確実にあったのだ。
「汝は、確かに我が友だ」

「それじゃああーちゃん、メイちゃん、私達も行きましょうか!」
「そうねえ、折角だし飲んじゃいましょ。ね、すーちゃん」
「ああ、うん。あーちゃん!」
「めぇ」
「メイちゃん、ちょっとおっきくなりました?」
「あ、あのっ。色々……ありまして」
「えー、いろいろってなんですか!?」
「……め、めぇ!」
 くすりと微笑んだパラスラディエ(リーティア)と共に、アーリア・スピリッツ(p3p004400)スフェーンと、それからメイメイ・ルー(p3p004460)の談笑が続く。

「……色々といえば、本当に色々あったよね」
「そうだな、汝等が居たからだ」
「うん。でも、一緒だったからかも」
「相違なかろう」
 笹木 花丸(p3p008689)とアウラスカルトが手をつなぎ見つめる先。
 アウラスカルトの母であるリーティアは、かつて滅びの途上にあった。
 厳密には今も変わらないとは言えるが、紡いだ奇跡が花開き、その姿を安定させている。
 きっとこの先、彼女の願いが叶うまで――イレギュラーズがもたらした優しい奇跡は続くのだろう。

「それで……その。どういたしましょうね、司令。いえシリングさん」
「あー……うん」
 本件の依頼人である終焉の監視者(クォ・ヴァディス)に所属する、『鋼鉄竜騎兵』イワコフ・トカーチ(30)がマルク・シリング(p3p001309)へ首を傾げた。
「依頼は、これで一件落着かな」
 ともあれ、この長い夜はそんな風に始まったのだ。

 ――
 ――――なぜ『こと』は『ここ』へ至ったのか。
 それを説明する前に、経緯をおさらいしよう。

『近い将来、世界が滅亡する』

 それはイレギュラーズであれば一度は耳にした言葉である。
 酷く理不尽なプロローグを聞いたのは、人によっては遠い昔かもしれないし、ごく最近かもしれない。
 ともかくこの世界『無辜なる混沌』は非情なる災厄の未来に瀕している。絶対に外れないとされる神託により、超終局型確定未来――通称<D>が世界を消滅させることが確定しているのだ。
 あらゆる世界を包括する『混沌』の破滅は、他の全ての世界が破滅することをも示している。
 だからこの世界の住人であろうと旅人であろうと、終末から逃れることは出来ない。
 イレギュラーズはそんな未来を回避する『可能性』を帯びた存在なのである。

 こうしてイレギュラーズは、この数年を戦い続けてきた。
 滅びへ至る力を蓄積させる魔種を討伐し、七罪を冠する魔種オールドセブンは残り二体
 そして『原初の魔種』を残すのみとなった。

 未来を変えるためには戦い続ける他になく――
 そんな時、終焉(ラスト・ラスト)と呼ばれる『影の領域』の動きが活発になったのだ。
 それを伝えてくれたのが、先の終焉の監視者『クォ・ヴァディス』に所属する、イワコフだった。
 イワコフは鉄帝国動乱の際に、ルーチェ・スピカという部隊に所属していた退役軍人である。
 元々は部隊にまるごと組み込まれた軽騎兵隊の下士官であった。
 つまりリーヌシュカ(p3n000124)の元部下であり、上部組織である独立島アーカーシュ司令部、その司令官であるマルクの部下でもあった人物だ。
 実のところ、二人は幾度も言葉を交したことがある。
 若くして兵卒から下士官の頂点までたたき上げられたイワコフの視線は、現場の隅々まで広く深く行き届いていた。だから司令部としても大いに参考になったのだ。リーヌシュカなどは彼の退役を泣いて懇願してまで止めようとしたというが、イワコフの意思は硬かったという訳である。
 ちなみに勤務中は真面目を絵に描いたような男だが、健啖家な上に大酒飲みの笑い上戸だ。ひょっとしたら独立島で、アーリアあたりは酒席を共にしたこともあるかもしれない。
 結局イワコフは、戦後に鉄帝国を出奔した。
 当時の上司にあたるマルク達、イレギュラーズを支援するためだ。
 終焉の監視者の一員となって――

 一行はそんなイワコフと、そしてケーヤやスフェーン達と共に、フェーローニアへ訪れて居た。
 理由は二つある。
 その一つは、多数の終焉獣達がその辺りへ向かうところが観測されたからだ。
 もう一つは、ここで朝焼けを見ようとリーティアと約束したからである。
 ところがだ。
 現場に到着した時に、終焉獣の姿はどこにもなかったのである。
 件のコル=オリカルカという竜が、一掃してしまったのだ。
 だから仕事なんて、綺麗さっぱりなくなってしまったのである。
 そこで一行は辺りを散策し、夕げの準備を始めた訳だ。
 ちょうどそんな時だった。
「……何してるの?」

 突如、姿を現したのは、場違いに美しいドレスを纏った愛らしい少女だった。
 幼い亜竜種(ドラコニア)に見える。
「あらあ」
 首を傾げたアーリアに、少女は満面の笑みを返した。
「どなたかお知り合い?」
 竜はどうか。
 リーティアやアウラスカルトはおろか、コルさえも首を横に振る。
「しらん」
「知らない子ですね」
「存じ上げませんが」
 亜竜種(人類)はどうか。
 ケーヤやスフェーン達も、やはりユニのことを知らないという。
 こういう諸々に関して、何事も大雑把すぎる竜の見解は往々にしてあてにならない。
 だが物知りケーヤがお手上げとくれば、為す術もなく。
 さて困った。
 一行は目配せし、少女にいくらかの質問を行った。
 少女はユニというらしい。
 どうも、過去の記憶がないとのことだ。
 そしてこの近くの原野で亜竜と戦って暮らしていたようだ。とんでもない話だ。
「ユニ、おなかすいた!」
 そんなこんなで一行はユニを保護し、夜を過ごすのだ。

 一行がフェーローニアを楽しんだ数日後に、ユニは終焉の監視者に引き取られることになる。
 そしてそれはケーヤやスフェーンも彼等に協力する理由にもなった。
 更にはリーティアが「ユニちゃんはドラゴンなのでは?」などと言い出すことになるのだが――
 いまだ見ぬ、近い未来の出来事はさておき。
 ともかく今は、ただ楽しかっただけだった、この夜の話をしよう。

 ――終末が来る前に。

 ※無辜なる混沌では、終焉の闇が蠢いているようです……
 ※プーレルジールでは、魔王城への進撃が開始されました!
 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM