PandoraPartyProject
イルモス
「……今更に戻って来るとは」
「あははは。ゲツガさんはお変わりないようで」
ゲツガ・ロウライトは語っていた。己にとって義理の娘と言える……ソフィーリヤ・ロウライトと。直接の血の繋がりはない。元々ソフィーリヤは鉄帝出身の人物であり、紆余曲折があって嫁いできた側なのだから。
しかしソフィーリヤの夫、つまりはゲツガの息子――が死してより彼女は出奔していた。
それはサクラ(p3p005004)を含めた自身の子らを置いて、と言う事である。そして長らく戻らなかった……ゲツガにも思う所はあったのだろう。尤も、怒っているというような様子ではない。零す微かな吐息が感情の全てだったか。
ともあれ、と。ソフィーリヤは久方ぶりに真正面からゲツガと言の葉を交わせていた。
彼女にとって、愛した夫の眠る天義は第二の故郷と言える地なのだ。
いつか必ず戻ると言っていたのだから。
「しかし――老いましたね。まぁサクラも成人する年齢ですし、当然と言えば当然ですが」
「……其方はどこまでも変わらない。今いくつだったか?」
「そういうのマナー違反ですよ! ――ま、私とかはいいとして。
それよりも引退しないんですか? この前の遂行者との戦いでも――」
「愚問。この身、朽ち果てるまでこの国に尽くすつもりだ」
ソフィーリヤの丁寧な口調はゲツガが目上……というだけではなく、かつてシスターとしての所作を叩き込まれた頃の名残が出ているが故か。そんな彼女からはやんわりとした口調で、ゲツガの身を案じている様子が窺える。
……人はいつか死ぬのだ。彼女にとって愛した夫が、もうこの世にはいないように。
ゲツガは年齢に比して相当に未だ動ける強者であるも、それでも限界はあろう。
されどゲツガの精神に変わりはない。
彼は頑固だ。いやはや言葉を選ぶなら、誇り高いと言っておこうか。
彼が変わる事はきっとないだろう。死する、その時まで――
きっと彼の心に、隙などないから。
と、その時。
『私は遂行者が1人。神の言葉を聞き、先を見通す者、名をツロという――』
声が響く。脳髄の奥底に、直接滑り込んでくるかのような声が。
それは誘い。
それは招致。
我らが『選んでやっている』という天上からの傲慢――
ツロの言の葉は主に一部のイレギュラーズに向けられていた、が。害はそれだけに留まらなかった。過ちの神の使いたるイレギュラーズだけではなく天義に仕える騎士や聖職者も選ばれていたのである。それがゲツガ・ロウライトや……
「この声は、まさか……遂行者!? ――くッ!」
「お兄様……!? どうされましたか!」
星穹(p3p008330)の兄たるセナ・アリアライトも対象に選ばれていた。
アリアライト家の当代たる彼の身が狙われたのは『如何なる者』の意図が混ざっての事か――
つい少し前に星穹やセナにとっての親たる者の姿が見えた事が関係しているのだろうか?
(まずい。これは、抗えない……!)
視線を星穹の方へと滑らせるセナ。
危機を感じ咄嗟に伸ばした手は、星穹に『来るな』と伝える為だったか。それとも別の感情であったか。
いずれにせよツロの力が降り注いだのは正に一瞬の事だった。
騎士団詰め所の私室に存在していたセナの身が、光輝くような閃光を発したと思えば……次なる瞬間には消え失せる。星穹が駆けつけんとするが、間に合わぬか。
「――リゴールッ!」
「来るな、アラン! これは――」
更にはリゴール・モルトン。グドルフ・ボイデル(p3p000694)の知古たる者もであった。
咄嗟にアラン……いやグドルフにリゴールは制止の声を飛ばしたのは、何か力が舞い降りてくる様な感覚が襲い掛かって来たからか――その直後にはリゴールの姿が消失したのである。別の場所で起こった事であるが故あずかり知らぬ事であるが、セナと全く同じ事態だ。
馬鹿な、と思えども起こりえたのは全て事実。
ツロの力は――冠位傲慢たるルストの影響もあるのだろうが――それほどまでに強大だ。
神の国の権能を利用して『招致』する事も出来るのである。
「クソが……! 何をするつもりだ、連中……!」
舌打つグドルフ。つい先日『死ぬなよ』と告げたばかりであるというのに。
また、この手から零れるのか?
より力を得ると。私達の先生を贄にしようとした遂行者共を討つ為にと、誓ったのに。
その実。己こそが知古に滅びを齎しているのではないか――?
奥歯を噛み砕かんばかりに力を込めた、が。
「ん? コイツは……!」
「まだ……遂行者の力が残っている……!」
グドルフに星穹は気付いた。それぞれの場にまだ――なんらか力の残滓を感じ得ると。
強制的な招致の影響が残っているのかもしれない。
其処に手を伸ばせば、もしかしたら己もまだ意図的に往けるかもしれない。
もしかしたら、あぁもしかしたら知古の手を掴めるだろうか?
――が。当然だが、何が起こるかは分からぬものだ。
その先はきっと敵の拠点。
決断は今この時しかない。遂行者の干渉があった事を聖都に一刻も早く伝える事も手だ。
己が手を伸ばす道もある。救うために信ずる道もある。
『われわれは、主が御座す世界を正しさで溢れさせなくてはならない。
ひとは産まれながらに罪を犯すが、主はわれらを許して下さる。
故に、われらはその御心に応えるべく献身するのだ』
力の奥からは、なんぞやの声が響いている気がした――
※遂行者に『何らかの動き』がありました――
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