スターターピストル。この時期の希望ヶ浜学園の者にとっては馴染み深い音が響き渡る。
　同時、グラウンドの地を踏みしめ駆け抜けるは――そそぎ（p3n000178）か。
　彼女の身は白き衣に包まれている。
　袖短き、されど動き易きソレは希望ヶ浜学園の体育服。
　直後、跳躍と共に口に咥えるは――あんパン。
「はぷ」
　そそぎの小さく柔らかい口に、しかし確かに収まれば彼女の足は再びに動こう。
　食べる為ではなく咥えながら走るは、そう。
　パン喰い競争の一環であるが故だ。

　――マジ卍祭り。一年に一度の催事に、彼女は参加しているのだから。

　そそぎの瞳は既に前を向いている。先長き道が、まだ歩むべき道が其処にあればこそ……
　続く形で音呂木・ひよの（p3n000167）の姿も見えようか。
　彼女もパンを口に挟みて往く。涼し気な顔で、そそぎよりも幾分も身が高ければ左程労せぬか。後ろの方では普久原・ほむら（p3n000159）もまた、懸命にパンを狙わんと跳躍を繰り返している――が。
「ひぃ、はぁ、ふぅ！　ど、どうしてこんな、こんな上手くいかな」
　風に揺られてか、身体の軸が揺蕩うのか。
　そそぎやひよのと異なり上手く咥えられぬ。
　波打つように虚空で動くパンはまるで嘲笑っているが如く、だ。
　そうこうしている内にも前方の二人はゴール目指して身を進めよう。
　それぞれの身を応援せんとする声もあちらこちらから響き渡れば。
　――あぁ。暖かな陽光降り注ぐこの日も、きっと想い出となるのだろう。
　生きればこそ。営めばこそ。
　人は記憶に想い出の雫を積み重ねていく。
　ならば、残そう。今日と言うこの日が確かにあったのだと、振り返れるように。

　シャッターの音が鳴る。

　四角の領域に貴方の生が残るのだ。
　さぁ。貴方の想い出の雫は、如何な形だろうか。


　　　　　　　　　　　　　――――9月24日。マジ卍祭り『パン食い競争』