PandoraPartyProject

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静穏なる一刻

「むきゃ~! つかれました! 月原さん、おぶってくださ~~い!」
「またかよ、リハビリ中だろ~自分で頑張れって!」
 天義聖都フォン・ルーベルグ。
 その片隅にある病院――というよりも教会を利用した医療施設――にいるのはリリファ・ローレンツ(p3n000042)月原・亮(p3n000006)であった。リリファは先日の天義における事件の最中、遂行者に襲撃され負傷してしまったのである。
 瓦礫の下敷きとなり一時はあわや……となったが、しかし。
 ある黒衣の人物と救援に駆けつけたイレギュラーズ達の活躍により一命を取り留めた。
 今はこうして傷の治癒に当たっている――それにしても天義の要人が襲撃される事件は以前から幾つか見受けられていたが……イレギュラーズも個別に狙われる事があるとは。
 やはりそれだけ遂行者はイレギュラーズ自体も警戒している、と言う事なのだろう。
 隙あらば戦力を削らんとしている訳だ……
 何度も撃退してこそいるが、このまま奴らの好きにさせる訳にはいかない。
 どこかで反転攻勢を仕掛けたい所ではある――
「全く、今回だけだぞ。ほら。で、どこ行きたいんだ? 水か?」
「ん、あ、えーと。ん~~そうですね、お水飲みに行きましょう!」
 だが、とりあえず今は命がある事を喜ぼう、と亮は思うものだ。
 事件以降、なぜか事あるごとに『おぶってください!』と言ってくるリリファに吐息一つ零しながら慣れた手付きで彼女を背負う。
 されば感じる温もりに安堵の感情もまた胸の内に宿ろうか……
 一歩間違えれば失われていたかもしれなかったのだから。
「あらリリファ、亮――もうデートしてて大丈夫なの?」
「リリファさま、お元気そうで、よかったです。でも、ご無理なさいません、ように」
 瞬間。亮らへと声をかけた者達がいた――
 振り向いてみればそこにいたのは、リリファの救出と治療に力を尽くしてくれたリア・クォーツ(p3p004937)メイメイ・ルー(p3p004460)だ。黒衣を纏う彼女らの姿は天義の国に実に合おうか。
「あ、リアさんメイメイさん、この前はありがとうございました! デ、デートじゃないですよ!」
「そうそうリリファがすぐ歩くのを怠けたがってさ……イテー! 噛むなって!」
「相変わらず仲が良くて結構だけど、病み上がりだから無茶しないようにね」
「そうです、遂行者も、まだまだ、暗躍してるみたいですし……」
 応急処置が利いたのか一時は意識不明だったリリファも予後は良好だった。
 ――しかし亮はリアらの言うように油断はしていない。
 なにせ遂行者の暗躍がまだまだ各地で続いているという話は聞いているのだから……

「なに。もしもまたあの遂行者が現れたら――今度こそ首を取ってみせますよ」
「何度だって阻むわよ。遂行者達も失敗続きだし、そろそろ焦って来るんじゃないかとも思ってるしね」

 刹那。続け様に言葉を紡いだのは、桜咲 珠緒(p3p004426)であったか。傍には藤野 蛍(p3p003861)の姿も見える。
 両名も同じ戦場にいた者達だ。メイメイらが救出に力を注いでくれた側ならば、更なる攻勢を仕掛けんとしていた遂行者に猛攻を加え、連中を退ける事に尽力してくれたのが珠緒達……彼女らがいなくば追撃の一手が加えられていたかもしれなかったか。
「珠緒さんも蛍さんもありがとうございました……!
 遂行者だって無傷じゃないですしね、その内絶好の機会もあるんじゃないかと」
「ええ。あんな、聖遺物頼りの『何もない』遂行者の好き勝手になんてさせません」
 されば微笑みの色を見せるリリファ。遂行者陣営とて、何度も顔を合わせていれば手札の数も段々分かってくるもの。
 着実に、連中と決着を付ける機会も近付いているだろうと感じるものだ……
 そうそう容易くはいかないだろうが、しかしいつか必ずと――
 ……それにしても。
「マジ、あの男は何者だったんだろうな」
「あの男――ネロの事? 遂行者メイも何か言っていたわね」
 亮や蛍の脳裏に浮かんだのは、遂行者に襲撃された時に現れた――黒衣の男。
 ネロ、という名前の人物。一部のイレギュラーズは以前にも彼に出会った事があるのだったか。聖騎士団に在籍記録はなく、しかし偽ではない、確かなる天義国の黒衣を纏っていた……
 戦いの最中、相対した遂行者はネロの事を。

『――かつて天義に存在した悪魔の種族!
 ――穢れた犬。かつて天義の村々に現れ、村民を食い殺し。
 ――粛清された悪魔の獣――その末裔!』

 斯様に『終焉獣、人狼ヴェアヴォルフ』の末裔などと呼んでいたか。
 あくまで敵である遂行者の言であれば信ずるに値する情報かは分からないが……しかしネロが如何なる存在であろうともイレギュラーズと戦ってくれたのは事実だ。そして遂行者と敵対しているのも――間違いない。
 ならば恐らく近い内にまた出会う事になるだろう。
 その時にでも彼から遂行者の事に関する情報を聞く事も出来るだろうか――
 ……と。そんな事を歩きながらなんとなし考えていれ、ば。
「……あれ、えーと此処どこだっけ?」
「むむっ! 月原さん、ボーッと歩いてちゃダメですよ! ここ入口の近くです!
 戻りましょう! お水飲み場はあっちの方ですよ~~!」
「いや気付いてたなら言えよ~! どうして黙ってたん!?」
「む、むきゃ! なんでもいいじゃないですか!!」
「ふふ、どうか、お大事にですよ、リリファさま」
 ぽかぽか。おぶられながらいつもの喧嘩を始める亮とリリファ。さればメイメイは口端に笑みの色を灯そうか。
 窓からは暖かな陽光が降り注いでいた。
 ――あぁ。不穏こそまだ各地に蔓延っているものの。
 今日と言う日は、平穏な日であった。

 ※天義、海洋方面で遂行者の行動が続いています――天義は対応に動いている様です。

これまでのシビュラの託宣(天義編)プーレルジール(境界編)

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