シナリオ詳細
<アンゲリオンの跫音>明日がくるかな
オープニング
●
「リリファ、お前さー天義行くの?」
「んー? なんですか急に」
「いやなんかそんな話聞いてさー」
月原・亮の自室に、いつも通り遊びに来ていたリリファ・ローレンツ。
そんな彼女へと振った話は――天義の件だ。
天義と言えば近頃『遂行者』なる者達が暗躍しているという……いや天義のみならず世界各国でその活動が目撃されていようか。故にローレットにも彼らを追う依頼が度々舞い込んでいるのだが、その調査の一環としてリリファが出向く話を聞いたのだ。
リリファは情報屋そのものではないが、手伝いも時々している。
だからイレギュラーズに稀に依頼を説明する事もあるか――しかし。
「危なくね? 俺も付いていってやろうか」
「むきゃ? どうしたんですか~私の事が心配なんですか~?」
「ああ――リリファは大分そそっかしいからさぁ」
「むきゃ――!?」
「イテテテ! 噛むなー!」
なんとなく亮には『嫌な予感』がしていたのだ。
イレギュラーズでありローレットに属しているのであれば大なり小なり危険というのは誰しもに付きまとうものだが……今回ばかりは胸騒ぎがしていた。
なんだか。今目を離したら、もう二度と会えなくなるような。
気のせいだとは思うのだけれども。
「ふふん。仕方ないですねーじゃあ今度天義に二人で遊びにいきましょーよ!
そのついでに調査はパパッと済ませてくるので!」
「調査の方がついでかよ」
「どこ行きましょうかね~♪ たのしみだな~♪」
亮の隣で天義の地図を広げて『あ、この街美味しいレストランがあるそうですよ良いんじゃないですかね!』なんて、もう遊びに行く事しか頭にない様子のリリファ。そんな顔を見ればきっと胸騒ぎなんて気のせいだと――
思っていたのに。
「リリファ、おいリリファ!!」
天義。聖都フォン・ルーベルグ近郊にて。
突然に至る嵐があった。思わずリリファと一緒に近くの廃屋に避難したのだ、が。
それとほぼ同時に――何者かの襲撃を受けたのだ。
廃屋に至る衝撃は、なんらかの砲撃であったろうか。廃屋全体を揺らし天井を崩落させたその一撃……亮は直前に突き飛ばされ、辛うじて直撃を避ける事が出来た。しかし亮を咄嗟に突き飛ばしたリリファは――
瓦礫の、下敷きになっている。
左腕だけが見えている。だけど一切動かない。
代わりに。赤い液体が、瓦礫の狭間から流れてきているのだけは見えて。
『この後ご飯食べにいきましょーね!』
そんな事を言っていたのに。
「おい、おい」
亮の脳裏が真っ白になる。
なんだ、どうすればいい? そうだ助けなければ。瓦礫をどかして今すぐにでも――
「――少年。今は前を視ろ」
が、その時だ。瓦礫に手を伸ばさんとした亮の肩に、手が置かれる。
誰だ? そう思い振り返れば。
「遂行者が来ている。次に第二射目を放たせれば、その子は死ぬぞ」
「アンタは――? いや、たしか報告で聞いたことがある。ネロって黒衣を纏った騎士がいるって」
「……細かい事は良い。とにかく私は味方だ」
其処にいたのは、黒衣の騎士ネロであった。
聖騎士団に属さない、しかし本物の黒衣を纏っている謎の男――鉄帝との国境付近で目撃され、イレギュラーズと共同して遂行者戦力を退けたとは亮も聞いている。しかし、何故ここに。遂行者を追っていたというのか。
続けてネロが鋭く視線を向けている先を見据えてみれば……いた。
ネロの言う、遂行者だ。傍には影が人の形を司ったかのような存在もいる――
「また『影の艦隊(マリグナント・フリート)』か。以前はそこまで数は見かけなかったのだが……本格的に連中も戦力を増やしているようだな」
「――あら。マスティマから聞いてるわよ、あなた……『穢れた犬』ね?」
「もう一度ソレを言えば噛み殺すぞ」
さすれば……遂行者、メイ・ミディアは妖しげな微笑みを見せようか。
幻想や深緑で暗躍していた遂行者の一人だ。
指輪の聖遺物を持ち、自身に従う駒を召喚しうる存在――
イレギュラーズを始末せんと攻勢を仕掛けてきたのか?
……しかし幸か不幸か、リリファが崩落に巻き込まれ瀕死なのは勘付いていない様だ。
ネロや助かった亮がどう動くかを警戒しているのだろう。ならば。
「少年。私が時間を稼ぐ、君はその子を護れ。
……生きているのならばまだ救える。死んでいないのならばまた会える」
「つっても、あんだけの数一人じゃ――」
「一人ではない」
ネロは立ち塞がろう。遂行者の戦力に。
見える限り敵の数は多い――例えばネロが強かろうと、護るために注意を引く強引な戦い方ではどうなる事か。故に亮も『俺も戦う』と、実家の蔵から持ち出した刀を構える、も。
ネロは告げる。
「――お節介な者達を、呼んでいる」
瞼の裏に、幾人かのイレギュラーズ達の顔を――想い映しながら。
- <アンゲリオンの跫音>明日がくるかな完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年08月25日 22時55分
- 参加人数15/15人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 15 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(15人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
「リリファさん……! まさか、こんな事になってるだなんて……!!」
「亮、アンタは無事ね! リリファは――其処!?」
「来てくれたのか皆! すまねぇ、リリファが、ああ、くそ、リリファが――」
「落ち着きなさい! 絶対まだ間に合うわ……! リリファの事を想うなら手を動かすのよ!」
戦場に駆けつけたイレギュラーズ。その内には『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)に『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)の姿があったか――とにかくまずは重体である彼女を救わねばと行動するものだ。
明らかに冷静を欠いている亮をリアは叱咤しつつ、手作業で瓦礫を退かす動きを。
大きい瓦礫は思いっきり蹴飛ばして。とにかく急いで彼女を救わねばと。
「月原さん! リリファさんを助ける手伝いをしてほしいですよ。
慎重に瓦礫を退かしてほしいのです……! 姿が見えれば、メイが治療しますから!」
「あ、あぁ、分かった、リリファ、リリファ――!」
「はいはいローレットのイレギュラーズがきましたよっと。
助けるし、護るよ。君もその子も。だからどうか安心してな。
――絶対助かるから、な?」
メイも救出作業へと移るが、同時に自身に物理を遮断しうる術を張り巡らせつつ敵の砲撃に警戒。いざと言う時には瓦礫の下にいるリリファに被害がないように注意を張り巡らせようか。『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)もまた至れば亮を落ち着ける為にも言の葉を紡ぐ。
――君はその子が助かるって願ってて。
願いは力になる。必ず届く。
小さな声でもいいから声もかけてあげて。
「それまで、あっちの無粋な人らはなんとかしたるからなぁ――」
「……瓦礫の下敷きとは、リリファさんの様態は予断を許しませんね。
しかし敵も迫っている次第。両方成し遂げる為に――全力を尽くしましょう」
そう――『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)の言う通り、これ以上リリファを危機的状況には晒す事など出来ない。
想定される致死性変化。出血に呼吸困難、救出されたとしても、形成された血栓や組織壊死によるカリウムの急な循環による致死的変化。その他にも脳や臓器への直接的、あるいは貧血・低酸素に伴う影響――予後を考えた際の筋骨格・皮膚損傷――
グリーフの思考を巡るデータベース上の知識だけでも『危険』の二文字が警報を鳴らす。
だが。この地には多くのイレギュラーズも集っている。
ならばきっと救える筈だからとグリーフはあえて前線へと至ろう。
――庇うだけは救えない。敵は目前にも迫っているのだから。
「遂行者らは拙者らにお任せあれ……! リリファ殿を必ずやお救いしてくだされ!」
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ! 散々やってくれたな! これ以上の好き勝手は俺達が許さんぞ!!」
故に『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)や『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は救助活動を援護するべく積極的に敵へと攻勢を仕掛けんとする。攻撃こそ最大の防御……というのとは少し違うが、しかしこちらへ砲撃させる余裕を潰せばそれだけ安全もまた確保出来るのだから。
まず狙うは影の艦隊、或いはその攻勢を邪魔せんとするナイト共か。狙い定め一閃する――彩陽も加わりて敵の動きを阻害する為に立ち回り、それすら抜けんとした個体はグリーフが注意を引き付けるべく阻止へと動こうか。
「リリファと亮の二人も厄介な事になっているようだね。仲間を見捨てる趣味は無いし、全力でやらせてもらおうか――なぁに、例え困難な状況だろうがやり遂げてみせるさ」
「まさかローレットでよくギャーギャー言ってるコンビの片割れが瓦礫の下なんてね。見捨ててはおけないわ……こっちは任せなさい! 暴れるのが仕事なら、楽ってもんよ!」
「白昼堂々狼藉の上、亮リリのいい所にインターセプトするとは……
全国1000万人の亮リリファンの皆様を敵に回す所業なの。
――絶対に許す訳にはいかないの」
更に『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が治癒術を張り巡らせる。暖かなる風光を皆へ巡らせ、傷を急速に治癒するのだ――さすれば『未来を背負う者』秦・鈴花(p3p010358)や『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)もまた砲撃を繰り返さんとしている影の艦隊を捉えようか。
跳躍し一気に距離を詰めんとするエーレンに続いて彼女らもまた迎撃へと向かう。
蒼炎纏う胡桃は火力を収束させて敵陣を穿ち貫き、乱れた動きがあらば鈴花が一気に数を削り取らんと攻勢を仕掛けて。
「貴様等なんかに構ってられない……意思の無い人形なんて、とっとと消えろ!」
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は敵陣中枢へと星空の力を降り注がせる。本命はあくまで遂行者。操られているだけの人形に手間取っている暇はないのだ……!
「ネロさん……呼んでくれて、本当にありがとう。
君のおかげで……大切な仲間を助ける為に戦える!」
それに何より、とヨゾラは視線を――共に戦うネロへと向けようか。
黒衣を纏ったネロ。彼が何者なのか、その奥底は今はどうでもいい。
ただ頼ってくれたことが嬉しいのだからと。
「貴方がネロさん? 黒衣……うん。悪い人じゃなさそうだね。
聖奠聖騎士、サクラ・ロウライト。助太刀させて貰うよ!」
「聖騎士、か。随分と若い……だが瞳の奥に確かな強さを感じるな。
あぁ遂行者共を打ち倒し――勝利をこの国に」
次いで『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)もネロと視線を交わせるものだ。初めて会うも、依頼の情報からなんとなく彼の性質は聞き及んでいる――少なくとも敵ではなさそうだと。
ならば共に戦う事に異はない。聖騎士として為すべき事を成す。
まずは遂行者メイへと辿り着く為にも……邪魔立てするナイトを切り伏せようか!
「呼んでいただけて、光栄です、ネロさま。
……ふふっ、『お節介な者』としてお供します、ね」
次いで『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)もネロへと微笑みながら言を交わせよう。頼ってくれたのが嬉しくて、その気持ちに報いたくて……共に悪意を跳ね除けよう、と。
メイメイはファミリアーの使い魔を空へと飛ばし戦況をまずは把握せんとする。
リリファの救出が完了するまで油断はできない。敵一人とて近付けさせる訳にはいかないのだ。破滅の魔眼たる力を己に宿しつつ、更にネロに支援の力を齎そうか。戦いの加護を得ればこそネロの力はより高まる――
「……まったく。どこまでも物好きな者だ。礼は言わんぞ?」
「ええ、好きでやっている事ですから、どうぞお気になさらずに」
「やれやれ――」
吐息一つネロは零す、と同時。
彼は最前線で拳を振るいてナイトを打ち砕くものだ。
その戦い振りたるや勇猛にして獰猛。あぁ猛り狂うようであり……
「……あれがネロさん、ですか」
斯様なネロの姿を『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は見ようか。随分、派手に暴れるものだと。様子を窺うにイレギュラーズにはそれなりに友好的な様子。ならばこちらに合わせて協力ぐらいはしてくれるだろうが……
「私はマリエッタ……ええ、魔女を名乗るしがない女ですが、共に戦いませんか?」
「魔女――この国で数奇な名を名乗るものだ。まぁ遂行者を倒す為ならば、構わんよ」
念のためにと実際に言の葉と意志を交わせておこう。
無遠慮な遂行者。そしてその軍勢たち……許す訳にはいかないのだから。
これ以上の被害を出させないためにマリエッタは力を振るおう。魔性を身に纏い、作り上げる神滅の血鎌が敵を薙ぐ――
「あの遂行者には何度も会ってるしね……今度こそ彼女の希望を打ち砕いてみせる!」
「あちらこちらの国々で、節操のない事です……
そろそろ本気で嗤いますよ――遂行者様?」
「節操がないのは其方も同じじゃないかしら? どこに行っても湧いて出てくるわね、イレギュラーズ共は」
「見事なブーメランですね。慣れています?」
そして遂行者メイと幾度か交戦した事のある『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)に『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は遂行者メイへと視線を向けつつも、まずはとばかりに影の艦隊を狙おうか。蛍は自らの胸中に闘志を抱きつつグリーフらの引き付けによって開かれた敵陣の間隙を突かんと行動する――
やはり共通の狙いとして砲撃を行う影の艦隊が邪魔なのだ。
まずは奴らを潰す為にと珠緒の動きに連鎖する形で皆の一歩も導かれよう。
先手を取り続ける。敵にイニシアチブなど取らせぬとばかりに。
あぁ――何一つ連中の思いどおりなど、させてやるものか!
●
「イレギュラーズがこんなにも湧いてくるなんて……掃除のし甲斐があるものね」
激しく交わる火砲。
遂行者メイは次々と戦力を召喚しイレギュラーズを押し潰さんと動いていた――当初であれば亮とリリファの二人だけを襲撃して殺すだけで済むはずだったのに、これはなんたる誤算だ。ネロはまだしも他にもイレギュラーズがこれだけ来るとは……
しかし遂行者にとって幸か不幸か、イレギュラーズの攻勢はやや鈍かった。
それはリリファ救出の為に手を割かれているからだ。
リリファが辛うじてではあるがまだ息がある事。それは攻撃に失敗していたという不幸でもあり、生きているからこそ手が割かれて(人数に比して)攻勢が鈍いという幸運でもあった。事態に気付いていない遂行者にとっては、やや怪訝な顔をするものの……それでもイレギュラーズの攻勢が鈍く見えているのであれば勝機はあると捉えようか。
ナイトを前面に出し影の艦隊に砲撃を繰り返させる。
イレギュラーズの疲弊を誘い更なる犠牲者を出さんとして――しかし。
「この程度の砲撃で、こちらを仕留められると思っているのか? 甘いなッ!」
リリファや救助活動を行っている者から気を逸らすべく前へと踏み込んだのはエーレンだ。固まって砲撃の餌食になる事を避けるべく、彼は常に機動力を活かして移動し続ける。バラけて、しかし攻勢の圧を加え続けてやるのだ。
敵の数は多いが故にこそ一挙に一閃しうる撃を叩き込みもしやすい。
無論バラける事を狙えば集中的に狙われる恐れもある、が。
「アンタらには用はないの、その後ろでスカした女をぶっ飛ばーす!
さぁ早いとこ退きなさいよ! お人形遊びなんざするつもりはないわ!!」
「泣いて笑って24時間チャリティーマラソンしても許さぬの。
報いを受けてもらうなの。わたしもちょっと――おこなのよ」
一人で戦っている訳ではないのだ。
エーレンを追撃せんとしたナイトらの横っ面を鈴花が打ちのめす。とにかく数を減らせねば話にならぬと、可能な限りの敵を薙ぎ掃っていこうか。続け様には胡桃も焼き払っていく。幸いにして何か炎に耐性がある訳でもなさそうだ……ならば存分に、この怒りの焔をぶつけてやっていけるだろうと。
遂行者が幾ら召喚しようとも片っ端から薙がんとする。
特に珠緒はそれらの動きの起点にならんと奔走していた。それぞれの行動自体を制御するものではない。ただ機先を制する一手になればと……先陣が敵陣に崩しをかける、連撃陣で往かんとしているのだ。
阻害、封殺。共なる攻勢。癒し手の紡ぎあげる魔法陣の展開――
兵は拙速を尊ぶ。遂行者に対応しきれぬ速度と連携を見せんとしつつ。
「ナイトは増え続けますので、ある程度で切り上げましょう。それよりも本命は艦隊です」
「そっちの砲撃が届くってことはね、こっちの攻撃だって届くってことなのよ!
勝手気ままに撃てるからって、どこまでも一方的にやれると思わないでよね!」
勿論、当初の狙いはそのままだ。遂行者メイによって増えるナイトは邪魔であるが為に攻勢を仕掛けるが……本命はその奥に控える影の艦隊。敵陣の中に生じる刹那の隙を見切りて、蛍は一気に攻撃を届かせようか。
それは桜吹雪の結界。敵を捕え、強烈に引付けながら隙を誘う桜技。
――舞い散る一閃が影の艦隊に届こうか。
怒れ。狂え。狙いを此方へ向けろ――ッ!
続け様には珠緒の一撃も舞い込もうか。
それは重力の力を宿した一撃であり……敵陣を大きくかき乱す。
あちらこちらへ自在に吹き飛ばすのだ。陣形を保ちたい者にとってこの力は脅威の一言。
「何処も狙わせませんよ。もう暫く私達と戯れて頂きましょうか」
どこへ飛ばしてやるも自由自在だ。
リリファへの射線を阻害する意味でも連中に統制を取り戻させてなどやるものか。
「やるなイレギュラーズ……これが各地で世界に仇名す者達と戦い続けてきた英雄、か」
「それほどでも、ありませんが、しかし、護るべき者があるならば、私達は、負けません……! わたしは、今と、未来を……守るのです!」
「ええ、特に……遂行者のような無遠慮に暴れる人達の好きにはさせられませんしね」
さすればその戦い振りを見てネロは感嘆の吐息を零すものである。
彼もまた最前線で暴れ回っている一人ではあるが……単独個人で動いているネロとはまた違う強みがイレギュラーズ達にはあるものであった。メイメイはミニペリオンの群れを召喚し敵陣へとぶつけ、マリエッタは引き続き鎌を振るいて圧を掛けて行こうか――
しかし、と。メイメイは思うものだ。
どうしてネロは背中の剣を使わないのだろうか?
前もそうであったが今ですら一寸も使う様子が見られない。
とても強そうな剣に見えるのだが。戦いが終わった後にでも聞いたら、応えてくれるだろうか。使わないのは相応の理由があるのかもしれないが……
「ネロはんやっけ? どうぞ宜しゅう。後ろは任せてなぁ。
代わりに前は存分に開けといてあげますから」
「フッ。頼もしいものだ、あぁ頼んだぞ」
同時。彩陽の射撃が後方より降り注ごうか。
彼の猛攻たる銃撃の雨あられが戦場へと――上手く届けば敵の足や手の動きを鈍らせるものだ。可能な限りの敵を含みて撃ち漏らしがないように。あぁ折角なら――
「遂行者はんも狙わせてもらうとしよか」
「調子に乗るわね。その程度で私まで纏めて仕留める事が出来るつもり?」
「さぁて。ま、やるだけやってみて損はなさそうやしなぁ」
通れば儲けものとばかりに。守護者デメウス越しに彼女を狙おうか――
そうして斯様に、最前線で遂行者側の気を逸らし続けていれば。
「出たわ……そっちの瓦礫を抑えてて! 一気に引っ張り出すわよ……!」
「あ、ああ――!」
後方。瓦礫の撤去を行っていたリアが、遂にリリファの身体を捉えた。
亮に合図を送って引き摺り出さんとする。1、2、のと呼吸と機を整え……
「リリファ、おいしっかりしろ、大丈夫か!?」
「頭をゆすらないようにね――応急処置だけ済ませましょう」
「リリファさん……! メイ達の事、分かるです……!? 意識は……!」
「……ぅ、ぅ……」
そして。亮の腕の中に――リリファが至るものだ。
依然として意識はない。ただ、微かな呻き声が聞こえれば命はあると感じる……ならばリリファは助かるだろう。彼女もイレギュラーズだ、只人ではない。医療の知識を宿すリアの知見からしても今すぐこの場でどうこうなる、という訳ではないと感じた。事前にグリーフより授けられていたテスタメントの加護もあれば確実である――
無論、それもトドメを刺される様な一撃がなくばの話。
とにかく追撃の一手を掛けられぬようにここから離れるのが肝要であった。ならば。
「月原さん! リリファさんの事、おねがいします……!
メイ達は、遂行者のメイの方を、なんとかしてくるのです……!!」
「そうね、ここからはアンタに任せるわ――貴方にとって大切な人なんでしょ?」
「い、いや俺とリリファは……」
「いいから。大切な人は、絶対抱きしめて離さないようにしなさい」
リアと、そしてメイはリリファに治癒の術を巡らせよう。少しでも痛みを和らげる為に。
だがそれも一段落すれば彼女達の歩みは前線へと向く。
リリファの事は亮へと託して。
――亮の手に、流血の跡がこれでもかと張り付いていた。
心の臓の鼓動が早まる。あと一歩、何か間違っていたらどうなっていた事か。
それでも亮の腕の中に温もりは確かにあるのだ。
強く、抱きしめながら――護ると誓おうか。胸の奥より出でた感情が何か、分からねども。
「……!? あぁ、成程ね。死にぞこないがいたっていう事。なら逃がすとでも」
「逃がさせてもらうよ、あの二人はね!
亮くん――前は任せて! リリファちゃんの事、お願いね!」
「ええ。月並みな言葉ですが……言わせて頂きましょうか。此処から先には通しません、と」
斯様な動きが、流石に遂行者メイも後方で何をしていたか気付くものだ――故にナイトを差し向け確実なる始末を付けんと画策する。が、サクラやグリーフらが立ち塞がろうか。
行かせないと。遂行者メイ自身に圧力をかけていくのだ。
守護者デメウスがサクラの剣撃を阻むも、彼女の攻勢たるや正に苛烈。
他所に注意を向ければ防衛を突破するが如しだ――
そしてそうなればグリーフがナイトらを引き付け戦線が崩壊せぬように立ち回る。
グリーフはグリーフで堅牢であった。物理も神秘も遮断しうる術を展開しておけば、更にその堅牢さに磨きがかかる。状況に応じ治癒や攻勢へと転じればリリファらの方へと関わる余裕は消え失せようか。
リリファらに一撃叩き込めるとすればやはり影の艦隊の砲撃が重要であった、が。
そちらに関しては徐々に数をすり減らしつつあった。
「あちらへと意識は向けさせぬ。汝らが命は此処までであろう――御免ッ!」
戦況を俯瞰する様に把握していた咲耶が一気に攻め立てたのだ。
より多くの敵を巻き込む一撃を襲来させる。戦いの初めより狙い続けられれば、影の艦隊が後方に控えていようとも少しずつ体力に余裕はなくなって然るものだ。一体。また一体と倒れ、砲撃の効果も落ちていく――ならば。
「大切な仲間に手を出したんだ……何百発とぶん殴られて塵になる覚悟はあるんだろうね?」
更に畳みかける様にヨゾラも遂行者を狙い始めようか。
リアやメイが加わった上で後ろを気にする必要がなくなれば、後は前にひたすら集中するだけでよいのだ。リリファを――ローレットの仲間を狙ったという事を公開させてやろうと、彼はその身に憤怒の感情を秘めながら立ち向かう。
邪魔な守護者がいるのならまずはそいつを排除してから。
星の魔力を注ぎ込みて前線で暴れてやろうではないか。
――だが遂行者メイとて魔種の一人。
「舐めない事ね。たかがこの程度で、勝ったつもりなら――!」
彼女自身も召喚ばかりが能、と言う訳ではない。
自前の魔力をもってしてイレギュラーズを薙がんとしようか――
戦場に瞬く雷。荒れ狂った天候より生じる一撃に乗じて、更にメイ自身も雷撃の魔力を繰り出そうか。戦果なしでは帰れぬ。一人でも二人でもイレギュラーズの余力を削り取らんとする――されば。
「チィ――! しつこい雷だね、どこまでも付いてくるかのようだ……!
君の趣味かな? 性根かな? あまり良いものとは言い難い!」
その矛先が向いたのは前線で治癒や支援を行っていたゼフィラに対してだった。
微かな隙を感じ取った遂行者メイが集中的に狙ったか。ゼフィラの体力が削られていく――同時にカバーさせぬように全体のナイトの動きも制御してイレギュラーズ側へと反転攻勢を仕掛けさせるものだ。
数多の剣がイレギュラーズへと向く。同時に残存の影の艦隊の砲撃支援も。
ソレは遂行者を狙わんとしていた咲耶にも向いていて。
「くっ。守護者が邪魔でござるな……! こ奴らがいなければ届くのでござるが……!」
傷が広がる。流石にイレギュラーズが押すばかりとはいかぬものか。
奇妙なまでの暴風暴雨のこの環境が落としてくる雷の被害も気になる所だ。
これは制御されている訳ではなく完全に運ではある。運だからこそ数が多い内は遂行者の――特にナイトを中心として被害が出ていたが――それらの数が減れば相対的にイレギュラーズ側が被害に合い始めるのが多くなるように感じるものだ。
リリファは助かったが、戦況自体はまだどう転ぶか。
「それでも――負けられないわよね!」
が。斯様な戦場で鈴花は叫ぶものだ。雷の轟音に負けぬ程に。
やっと遂行者そのものに手が届きそうなのだ。一発ぶん殴ってやらねば気が済まぬ。
――こんな所でゴタつけるか。あぁ!
「アンタも行くわよ! 辛気臭い顔ばっかしてないで――もっと胸張って前向きなさい!」
「……むっ。この顔は生まれつきだ」
「いや今のはそう言う事やないと思うけどなぁ。
まぁ大一番の場面……もうちょい踏ん張ってみるとしようかねぇ」
彼女はネロにも声をかけ最前線で引き続き己が武を振るうものだ。
ネロ。あぁ、彼がイレギュラーズに生じている負担を埋めんとする。ゼフィラや咲耶に掛かっている攻勢の一部を凌いで……同時に鈴花より掛けられた声に、微かな反応を示そうか。なんかどこかズレてる気がする、が。
同時に彩陽は微笑みの色を口端に灯しながら――再び射撃の雨を降らすのであった。
●
戦況は一進一退、と言った所だった。影の艦隊は序盤よりイレギュラーズが狙い続けた事が功を奏し、ほぼ壊滅状態。残っている数体も左程体力に余裕はあるまい――が。遂行者メイもイレギュラーズに僅かに生じている隙を見抜いて攻勢を仕掛けるものだ。
やはりナイトの数が増えるのは厄介。
一体一体の性能はイレギュラーズに及ばぬものの疲労は確かに蓄積するのだから。
「だけどねぇ、無限って訳じゃないでしょ? えぇ!
ネロも待ったかしら? ――お節介な、頼れる仲間の登場よ!」
「あぁ――お前は変わらんな。どこまでも本当に。……すまんな、助かる」
しかしそこへ至ったのはリアであった。リリファを救った彼女は前線へと援軍に即座に駆けつけ、まずは皆を支えるべく治癒の力を巡らせる――穏やかな音色が染み渡れば、災いから守護する力が宿る如し、だ。更には聖域なる術を展開し多くの味方を一斉に癒そうか。
ネロにも言を齎しつつ……だがそれだけでは終わらない。
何故かって? あの遂行者には――あぁ御礼をしてやらねばならないのだから!
「遂行者! 幻想ではやってくれたわね……忘れたとは言わせないわよ! てめぇにはあたしの大切な人を危険な目に遭わせてくれた礼をしなきゃって思っていたのよ!」
「あらあら。思い出したわ、そう。あの国でちょろちょろと動いていた修道女ね? 大切な人――? ふふ。ひ弱な優男が好みなのかしら、私とは合いそうにないわね」
「なんとでも言いなさい、見る目の無い奴の言葉なんざなにも思わないわ!
それよりも――遠慮なく受け取れ! これがあの時の御礼よ!!」
言うなりリアが襲い掛かったのは遂行者へと、だ。
銀に煌く旋律を纏い、流星の如き一撃を奴へと繰り出してやる――さすれば守護者デメウスが頑なに遂行者を護らんと立ち塞がる、が。構わない。その上からでも圧をかけ続けてやる……! もしも一瞬でも油断すれば。もしも一瞬でも隙が出来れば、必ず見逃さない。その指輪ぶっ壊してやると――!
「メイさん! メイは、また貴女とお話しにきたですよ!」
「メイ・ミディア、ですか……覚えていますが、偶然、でしょうか。なにやら、感じない訳でもないですが……しかし、幻想もそうですし、リリファさまを狙った事も、とても見逃せません……手は抜きません、よ……!」
「こっちも見た顔が多いわね。始末して分かりやすくしてあげようかしら――」
続いて到来したのはメイとメイメイだ。なにやら名前が被る――遂行者だってメイなのだから。されど名前の事はともかくとして遂行者の存在が悪極まるのは間違いない。
故に戦う。まず猫のメイは再び物理を遮断しうる術を展開しつつ、遂行者のメイへと光を放つ。それは邪悪たる敵のみを祓う一撃であり、乗じて羊のメイメイはミニペリオンの群れと高位術式による四象の力を顕現させようか。
それら全て守護者デメウスによって庇われるが――それは元より計算の内だ。
デメウスに庇わせ、奴の限界を近付けさせてやる為。あぁ――
「遂行者メイ、だったわね……! ああもう!
なによその名前、こっちのメイとメイメイと被ってややこしいのよ! 改名しなさい!
或いはメイバトルでもして真のメイでも決めたら――!?」
「煩いわね、偶然の産物でしょ――なんなら私の事はメディアとでも呼べばいいわ!」
猫のメイ。羊のメイメイ。遂行者のメイ。なんの偶然だと鈴花は怒るものだ。
怒りは言と共に指先にも乗せる。直死の一撃を繰り出してぶちこむのだ。
どれだけ堅牢であろうとも殴って壊せないものなど――在る筈がない!
「ところでアンタ、その指輪大事みたいね? じゃあ壊したら――」
「殺すわよ。貴方ごときが触れて良い代物じゃないの」
「ならば尚の事――切り落とさせてもらおうか!」
同時に狙うは遂行者メイの指先にある聖遺物。
鈴花はあえて口にして意識をそちらに向かわせようか。庇うのであればそれごと『やる』つもりの一閃を繰り出すのだ。続け様にはエーレンも抜刀し狙い定めようか。
「流れを此方に引き寄せる、踏ん張り所だ……! 一緒に彼らの明日を護ろう、ネロ!」
「あぁ、だが気を付けろ。奴の駒はまだいるぞ……!」
一閃する。だがナイトの残存にも気を付けろとネロは告げようか。
連中の刃もまたイレギュラーズに襲い来るのだから。
故にネロは粉砕する。蹴りを放ちて近付けさせぬとばかりに。
「遂行者のメイには何か因縁でも?」
「――いや。奴自体がどうこうという訳ではない。
私はむしろ、遂行者という全員を敵視しているようなものだからな」
「……そうですか。しかしあなた自身にも何か秘密がありそうですね?」
次いでマリエッタも皆の動きを援護するように敵を切り伏せんとしようか。
紡ぐ言の葉はネロへと。……遠慮なく聞くのは私の性ですかね。
『穢れた犬』……ですか。
「どうあれ私は貴方の今の生き方が大事と思いますので、お気になさらず……私も大概ですからね。人の事は言えません」
「フッ……そうだな。誰しも未来がある。前を向いて生きるのが良いと、昔の知り合いも言っていた」
マリエッタはなんとなし悟っていた。『穢れた犬』という言葉にこそネロの秘密があり、そしてそれは彼の過去に直結しているのだろう、と。されど深くは追及すまい……己だって『魔女』なる単語に縁があるのだから。
ただ今は隣り合って戦おう。過去にしがらみを持つ者同士。
悪意の敵を打ち砕くのだ――
刹那。イレギュラーズ達の近くに落ちたのは、天候の雷か。
激しく瞬き衝撃が身を襲う。これも中々厄介な要素の一つだが。
「恐れるほどのものじゃないの」
胡桃はあえて踏み込む。雷の事など頓着せずに。
残存のナイトを片付けんと――連中を相手取っていく。
雷が落ちる? あぁ存分に落ちれば宜しい。
「わたしは炎ならば。嵐雷何するものぞ、なの」
雷如きが炎に勝るなど――誰が決めた?
一点に収束した炎が全てを穿つ。雨を、雷を、ナイトの群れを……そして。
「あんな奴等に、これ以上誰も倒れさせない……絶対に! 皆で必ず帰るんだ!」
負った傷はヨゾラが癒さんと務めよう。攻守に彼は状況に応じ転じて立ち回る。
それはイレギュラーズは勿論の事として――ネロも含めるものだ。
彼自体はなにやら自己回復のような能力をもっているので大丈夫そうであるが。
「それはそれ、これはこれだよ……怪我はきっと、痛いもんね……!」
「――すまないな。ありがとう、深手は中々直らんのでな、助かる」
彼自身を想う気持ちがあるのだから。
「また会ったね、遂行者メイ! 三度目の正直と行こうか?」
「しつこい女……! 天義の聖騎士はこれだから嫌いなのよ……!」
「ならば闇より出でる刃は如何か――!」
そうしていれば趨勢は――ややイレギュラーズに傾きつつある、か。
先の、ゼフィラが崩れかけた事を始めとして遂行者側に流れが至らんとした場面もあったがネロという味方となる戦力がいた事。多くの者らの奮闘もあってして立ち直りつつあった。後は遂行者メイさえ撃退すればなんとかなりそうだと。
故にサクラは斬り込む。
デメウスが邪魔するならば剣に集中させた光の闘気を叩き込んでやろう。
堅牢であろうとも関係ない。突き崩す……!
同時に咲耶も遂行者を狙うものだ。可能であればと聖遺物も狙って。
デメウスがいる上、本人も流石に警戒しているのか破壊は中々容易ではない、が。それでも聖遺物を無理にでも庇わんとする動きが見えれば遂行者自体にダメージを蓄積させる事も不可能ではなかった。
「遺物の指輪を掲げ、配下を呼び従え……えぇすごいですね。
よくできていますと、花丸でも差し上げ誉めてあげましょうか――
で? 『貴女には』何があるのです?」
と、その時だ。遂行者メイへと言を紡いだのは、珠緒か。
「変わらぬ振る舞い。傲慢なる気質。結構な事ですが、聖遺物頼りすぎませんか。
――その指輪を失った時、はたしてあなたには価値ある何かが残るのでしょうか」
「言ってくれるわね。私を仕留めきれてもいないのに」
「貴方がすぐ逃げただけでしょう?」
言の葉の応酬。が、挑発の言だけでは終わらぬ。
狙っているのだ、機を。
守護者デメウス。とにかく堅い存在であるのは分かっている。アレが存在し続けている限り、遂行者メイの芯に届く一撃を叩き込むのは容易ではないだろう――だから。
「何回も出会ったけど、今日こそは絶対見逃さないわよ――覚悟しなさい!」
蛍が吼える。メイが気付くように。
珠緒の動きに連鎖するように繋がりながら、強き意志を胸の内に宿そうか。
そうして生じさせるは桜吹雪の結界――あぁ。
「無駄よ。この程度で私が討ち取れるとでも」
「言ったでしょ。今日こそは『絶対見逃さない』って」
されば即座に遂行者メイは魔術をもちいて対抗せんとする、が。
その行動に蛍は微笑んだ。狙っているのは、命ではない。いや取れるならば命でもいいが。
――『その指輪』を見逃さないと言ったのだ。
「その腕、頂戴します」
本命は珠緒。先程までは派手な首切りを狙わんとしていたが。
事ここに至って殺意をズラす。首ではなく腕へ。蛍が引き寄せた注意の狭間で――
四象を束ねた赫き刀を、振るおう。
蛍が築き上げた刹那の好機を決して逃さない。
その狙い、その意。声に出さなくたって気付く。
だって――お互いの事は誰よりも深く、深く知っているから。
「――ぐぅぅぅ!!」
「おっとぉ、これだけや終わらんよ」
「見つけ、ました。隙、ですね」
遂行者メイの腕に大きな傷が刻まれる――魔種であるが故か身体の強さも人のソレではなく完全に切り落とす、とまではいけなかったがしかし迸る流血は決して軽傷でなかった。その上で彩陽の一撃も飛来しようか。
守護者デメウスらも度重なる攻勢によって亀裂が走っている。
今ならばと放った一手が――遂行者の指付近に着弾しえて。
更にメイメイも狙い定める。契約を交わした妖精の牙が襲い掛かれ、ば。
「おのれ……とんだ災難だわ……! デメウス!」
『――――』
それは指輪にも当たったか――いずれにせよ遂行者メイは撤退の意思を見せんとしていた。故に守護者デメウスの守護を解除し……イレギュラーズ達に突撃させんとする。防に優れている個体であるが故に攻勢にはそこまで役には立たないだろう、が。時間稼ぎぐらいは出来るだろうと。最後の力も振り絞りナイトも幾体か召喚すれば。
「メイさん! メイさんは――この間『私達こそが唯一にして絶対』と仰ったです。
それは『自分たちが過ちと判断したものは不要』ということですか?」
しかし猫のメイは語り掛ける。あぁ『お話し』があって来たのだからと。
「ええそうよ。それ以外に何があるの――? 私達が、いえ、私達の神たるルスト様が判断したものが絶対にして唯一無二。それ以外は全て過ちであり塗りつぶされるべきなのよ――そう。ルスト様が近く作り上げる……新たなる世界にね」
「それは……ルスト個人の恣意的な、善悪によるものじゃないんですか? その判断は絶対に正しいのですか? 貴方はそれで――いいのですか?」
「勿論。貴方は神を疑うの? ええ、そう――貴方で言うならば『ねーさま』を疑うのかしら?」
遂行者メイの『信心』は相当なものだ。盲目的なまでの信心を感じる。
冠位傲慢は、ルストはそれほどカリスマ性があるというのだろうか――?
……遂行者メイとの対話を止めるつもりはないが、道があるのだろうか。
彼女と分かり合えるような――道は――
「逃がすか――此処で殺す」
「ふ、ふふふ。貴方には無理よ『穢れた犬』め。貴方は私達の誰も倒せない」
「――なにか、知ってそうな雰囲気なの」
ともあれと。遂行者メイが逃げる……のをただ黙って見送る義理はない。
デメウスやナイトの妨害があろうともネロは鋭い殺意を向けようか。
今すぐにでも殺してやると――しかし遂行者は不敵に微笑むのみ。
……であればナイトを焼き払う胡桃が疑問の声を呈するものだ。
何か――ネロの事について知っている事がありそうだと――さすれば。
「ええそうよ。知っているわ……その男はね、そもそも人間じゃないのよ!」
「人間じゃ、ない?」
「黙れ」
「かつて天義に存在した悪魔の種族! そこなロウライトの小娘は御伽噺に聞いたことでもあるんじゃないかしら――穢れた犬。かつて天義の村々に現れ、村民を食い殺し、粛清された悪魔の獣――その末裔!」
遂行者メイは喜々として語る――かつて天義には闇に潜んだ。
『終焉獣』・人狼種ヴェアヴォルフ、という種族がいたのだと。
イレギュラーズと共に在れるような高潔な存在ではないのだと。
「終焉獣が滅びのアークを宿す我々を倒そうなど言語道断……無理な話……!」
「人狼ヴェアヴォルフ――遂行者の話が本当かは知らないけれど。
……でも。貴方は貴方の正義で国と民の為に戦っているように見える」
さすれば、遂行者メイの言葉に……サクラは瞳を向けようか。
天義の騎士としてネロがどういう存在なのか――気になってはいた。
遂行者の言葉が本当かどうか分からない。ならば。
信じるのは、この心で見据えたもののみ。
「今はそれで十分だよ!」
「――――」
「そうね。このネロは悪い奴じゃないのは、確かそうだわ」
「穢れた犬なんて呼ぶな、僕からすれば――お前達の方が穢れてる!」
然らばリアやヨゾラも遂行者の言に対峙しようか。
真偽以前の問題。ネロという一個人は決して悪ではないと信ずればこそ……
(ネロ、さま……)
そしてメイメイもまた――ネロへと視線を向けようか。
ネロに感じていた何かの『闇』。それが今先程遂行者が述べたモノなのかと。
……だけどあぁ。彼の魂は暖かく感じればこそ、手を差し伸べたくなる――
「終焉の獣は不吉を齎す。滅びを宿しているから。精々覚えておくことね……」
「待て――ぐっ!」
暴風暴雨が更に強くなってきた。雷も落ちて、視界を光に染め上げようか。
次に瞼を開いた時には――奴の姿はなかった。乗じて消えたか。
しかし遂行者メイにはかなりの傷を与えた筈だ。
もしまた現れる事があっても万全ではあるまい……目的は、達した。
後は残って暴れているデメウスとナイトらを片付ければよいだけ。
「……遂行者メイ。深緑にも現れた方、でしたね」
と、その時。言の葉を紡いだのはグリーフか。
深緑を、そこで眠るたくさんの方たちの記憶諸共亡くそうとした、遂行者の方。
グリーフは覚えているが、あちらはどうだろうかと――
あの時は終焉獣の対応に勤しんでいたから。
……しかし時折、遂行者からはグリーフを眺める視線を感じてもいた。
恐らく厄介な相手として覚えていたのだろうか――いずれにしても。
(怒りや憎しみがあるかと問われれば、わかりません。ただ)
譲れない想いがグリーフにはあった。
ワタシは私。
誰かの代わりとして、誰でもないナニかになることを、在り方を強制されたりしない。
――そんな私の中には、彼らとの記録が確かに在るから。
「だから、抗いましょう」
彼らに、これからも。
グリーフは瞳に意志を宿す。遂行者の隙にはさせぬと――強い、意志を。
●
「お疲れ様。君もよお頑張ったなぁ。彼女が無事で、ほんに善かった」
「リリファ、とにかく治療機関に運び込みましょうか。直ぐに手配するから。
でもよく頑張ったわね二人共――デートはまたやり直しね」
「リリファも助かったのね! ならよし!
ほら亮、アンタの刀持っててあげるからおぶっていきなさい。
抱っこでもいいわよ――ほら。お疲れ、アンタもいい男だったわよ」
「デ、デートじゃねーし! ああ、まあ、あぁ……とにかく運ばなきゃな!」
そして全ての戦いは終わった。残存戦力も存在せず、周囲は安全。
ならばと亮とリリファの様子を彩陽にリア、鈴花は確認するものだ。
リリファは――意識はやはりないが今の容体は落ち着いている様だ。応急処置の効果が聞いてきたか……だが頭を打っているのであればいつ急変するとも限らないと、病院なりに急がんとするものだ。リリファ自体は月原に抱きかかえられており……そしてリリファは無意識にか月原の服を指先で掴んで離さない。此処が落ち着くのだろうか。
さすれば彼女が戻る道しるべになっているかもしれないと……彩陽は微笑みの色を見せようか。
「ありがとうネロさん。助かったよ。ネロさんがいなかったら危なかった」
「……お疲れさま、でした、ネロさま」
「――気にするな。今回は……イレギュラーズを利用できると思ったまでの事だ」
「ふふ、そう言う事に、しておきましょうか」
そしてサクラとメイメイはネロへと声を。
あの遂行者は、貴方の事を……何故、あのように……
メイメイはそう思いもするものだが、しかし。彼を信ずる心は変わらない。
「ネロさまは、またどちらへ? 遂行者を、追われるの、でしょうか……?」
「…………少し、考えている。もしかすれば聖都に行くかもしれん」
「そうなんだ――私はまだ別の現場に行くよ。なら一端お別れだね……職務上言えない事もあると思うけど、言える事なら何でも言ってね! ――同じ天義の騎士仲間だし! きっと力になれるよ!」
「そうだよ! ネロさんが呼んでくれなかったら、リリファさんを助けられず、月原さんももしかしたら……ネロさんはローレットの仲間の命の恩人だ。これからも気軽に呼んでよ!」
「……あぁ。眩しいな、君達は」
メイメイ、サクラ、ヨゾラ――
あぁ誰しもの言葉が温かい。先程の遂行者の言を、意にも介していないが如く。
いつか己が事情を話す事もあるだろうか。少なくとも暴風暴雨の今日この時ではないが……その時は、もしかしたら近いかもしれない。
「そうよ、今回はちゃんと呼んでくれたけど、次もお願いよ? 貴方、放っておいたら独りでガーッて危ない所に突っ込みそうだもの。そんなの『仲間』として放っておけるわけないじゃない」
「仲間……仲間、か」
「ええ。二回も一緒に戦った、それで充分でしょ」
そしてリアも語る。己が気持ちを。
あたしは貴方を信じているわ。貴方の旋律、嫌いじゃないもの。だから――
「貴方もあたし達を信じて一緒に戦ってくれないかしら」
「……考えておこう」
「あぁ本当に、考えておいてくれよ。ネロはお節介と言ったが、今回俺達はローレットの仲間を守っただけだ、当然のことしたまでだ――しかしそれが出来たのもネロが呼んでくれたおかげだ。改めてありがとう」
――だから、次こそ本当のお節介をさせてくれよと。エーレンは告げようか。
その手を彼に差し出して。握手の構えを取りながら……
「協力できることがあれば、いつでも呼んでほしい」
「――フッ。また使われるだけかもしれんぞ」
「構わんさ」
さればネロは握り返そうか。
優しく。力を込めてはいない、微かなものであるが。十分だ。
信頼の繋がりを――確かに感じ得ることが出来たのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
リリファは無事に救助されました……! 今は月原君が付いてくれてると思います。
ネロは、近い内にまた正式に姿を現わすかもしれません。皆さんとの友好関係が築かれていますので。彼の正体についてははたして……遂行者メイは天義に現れたイレギュラーズ二人を確実に始末しようと思って、藪を突いて蛇を出した形ですね。思わぬ損害をイレギュラーズから受けた事でしょう――この傷はそう簡単には言えぬ事が窺えます。
ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
・敵勢力の撃退
・リリファの救出(努力目標)
・遂行者に可能な限りのダメージを与えておくこと(努力目標)
●フィールド
天義。聖都フォン・ルーベルグ近郊です。
周囲は幾つかの廃屋が立ち並んでいます。かつての強欲冠位事件の折の被害で、住民は引っ越したそうです。その為、一般人を気にする必要はありません。
天候は大嵐が舞い込んでいます。雷も落ちてきており一定のダメージと【痺れ系列】のBSを、着弾範囲内のキャラクターに無差別に齎します。(つまり敵も巻き込まれます)
●敵戦力
・『遂行者』メイ・ミディア
傲慢勢力に属する遂行者の一人です。
呼び声の気配が感じられ、魔種である事が窺えます。彼女は聖遺物として『指輪』を身に纏っており、そこから幾つかの配下を召喚する事が出来る様です。大きな魔力も感じ取られており、配下召喚型の後衛型魔術師タイプです。
以前の戦いで聖遺物へ攻撃が至らんとすると、庇う動きを見せました。
流石に大事なものではあるのでしょう。逆に言えば、破壊する事が出来れば大きくその力を削ぐことが出来ると思われます。今回の戦いで可能な限りダメージを与えてみてください。
・『影の艦隊』×5体
遂行者サマエルに関連する存在です。『影で出来た人間』の姿をしているほか、全員が『戦艦の大砲や高射砲のような、近代的な装備』で武装しています。
基本的には後衛であり、自身らは砲撃を繰り返すようです。
中々に強力な範囲攻撃を得手としています。
代わりに接近戦はそこまで得意ではない様です。
・『ナイト』×12体~
メイによって召喚・使役されている存在です。
鎧を着込んだ騎士のような外見を持っています。
やや防技・抵抗に優れており、剣技を用いて近接技も仕掛けてきます。戦闘能力はそこそこ程度ですが、問題はメイにより追加される事がある点です。ただしメイは召喚する度にAPを消費している様です。無限に召喚される訳ではありません。
・『守護者デメウス』×2体
メイによって召喚・使役されている存在です。巨大な騎士鎧型の存在で、防御系統に非常に優れており常にメイの傍に控えています。彼女に届く攻撃全てを防がんとする行動を見せるようです。その代わりか、攻撃自体はほぼ行いません。
更に敵を3体までブロック出来る性能もある様です。
●味方戦力
・リリファ・ローレンツ
月原さんと仲良し! 元気一杯――でした。
遂行者の襲撃により瓦礫の下敷きに巻き込まれてしまっています。
恐らく生きてはいると思いますが、意識はないようです。
・月原・亮
リリファと仲良し! この後遊びに行く――予定でした。
なんとかリリファを助けんとしています。
・『バビロンの断罪者』ネロ
騎士団やイレギュラーズに解放されている『黒衣』を纏う謎の人物です。
遂行者側戦力と敵対しているようです。
シナリオ開始時は注意を引くために遂行者戦力と最前線で戦っています。
背中に剣があるのですが、基本的に拳や蹴りで対応しているようです。
能力としては他に自己再生能力? らしきものがあります。
少なくとも一般人より傷の治りが早いのは確かです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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