PandoraPartyProject

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果ての迷宮

 ――果ての迷宮。
 それは幻想(レガド・イルシオン)を建国した勇者王が障害を掛けて踏破を目指したとされる迷宮である
 王都『メフ・メフィート』中心部に存在する広大な地下迷宮の踏破こそ王家の悲願であり、伝統的に幻想王侯貴族の義務でもある。
 その性質故に迷宮は一般の冒険者が立ち入ることは禁じられて居た。
 しかし、名声高まるローレットのイレギュラーズは『王家もしくは貴族の名代』として立ち入ることを許されたのである。

「呼び出されたのだわさ」
 困った顔をした『穴掘り』隊長こと、果ての迷宮踏破の総大将ペリカ・ロズィーアンは相変わらずの調子でそう言った。
 ふんわりと雲のように揺らいだ紫色の髪に鮮やかな緑色の瞳。
 長い年月をこの果ての迷宮に費やしてきた幻想種の女は『第一階層』時点で並の冒険者は皆、死に絶えることを知っていた。
 現時点で踏破された階層は30となり、ペリカにとっては予想にもして居なかった場所まで到達出来たとも言えよう。
 イレギュラーズに対してペリカが抱く好意は、命を賭す場所を共に目指してくれた仲間意識によるものだ。
「さ、一緒に『降りよう』か」
 ペリカはにんまりと笑ってからあなたへと手を差し伸べた。
 向かうのは10階層をクリアした時に『発見した』場所――『境界図書館』だ。

 境界図書館は『無辜なる混沌』と『外の世界』を結ぶ役割を持っている。
 書架に並ぶ本は全て、異世界そのものであり『ライブノベル』と呼ばれた本を通して異世界へと干渉する事が出来るのだ。
 と、言っても混沌世界から異世界へと回帰する事は難しく、一方通行的な召喚は長らく旅人達の頭を悩ませてきていた。
 練達(探求都市国家アデプト)などは元世界への回帰を目指す旅人達の研究が昼夜を問わずに行なわれているわけである。
 その一つが混沌法則研究のために利用された『Rapid Origin Online』である。
 練達ネットワーク上に構築された疑似世界は混沌世界をベースに法則研究が行なわれていたが、暴走状態となった事で混沌とはニアリーイコールな別物が産み出された。
 しかし、天義で活動して居る遂行者達の『神の国定着』の断片を観測しているなど、有り得るかも知れない世界を無数に観測していたことは確かだ。
「そんな如何にも技術改革的な我々の研究と、」
「それからほど遠いファンタジーな異世界渡航」
「……に、共通点が見つかったというわけだ。まあ、諸君座ると良い」
 着席を促したのは練達の三塔主の一人である佐伯・操であった。その傍には境界図書館館長のクレカがちょこりと腰掛けている。
「練達の塔主がどうしたんだわさ?」
「それを説明しよう、総大将」
 ペリカは不思議そうな顔をしたまま腰掛けた。共通点なんて無さそうなその二つを結びつける何かがあったのだ。

「予てより、R.O.Oには『バグ』のコミュニティが見つかっていた。
 それがOther R.O.O phantom――電脳廃棄都市ORphanと呼ばれる『ゴミ箱』だ。
 本来ならば廃棄された筈のデータが秘密裏に残り、リソースを確保為ていたというのは由々しき事態なのだが……さておいて」
 操は一冊の本をテーブルへと置いた。古ぼけた背表紙だがそれが『ライブノベル』である事は分かる。
「この本が、ORphanで発見された。いや、語弊があるな……。
『果ての迷宮を観測したことでライブノベル世界への渡航を不完全ながら再現した場所』で、だ。
 便宜上私は境界<ロストシティ>と名付けてそちらの観測を行なっていた。その異世界で得たリソースも確保済みだ」
「そう、それで……そのリソースを本の形で、練達が纏めてくれた、けど。
 そうしたらライブノベルの住民が此方に出て来たの」
 クレカは「出て来て、それから、帰って行った」と付け足した。
 つまり、混沌の外にある異世界と呼べる場所へと移動できる可能性がある、ということだ。
 この現象を探求すれば旅人は元世界への回帰が叶うかも知れない。もしも十分な情報が得られずとも何らかのヒントが得られる可能性はぐっと高くなる。
「私は皆に『安全に渡ることの出来る異世界』での活動を行ない、混沌からの元世界回帰の方法を得て欲しいと考えて居る」
「私、は……」
 ハッキリと目的を告げた操とは対照的に、クレカはどこかおずおずと言葉を発した。
「その……私は、その異世界から来たのかも、しれない」
 果ての迷宮は異世界にも密接に接している。混沌世界は他世界を呑み喰らう程に強い場所である。上位世界と呼ぶにも相応しい場所だ。
 故に、無辜なる混沌。
 様々な世界を飲み位、絶えず変化していく場所。
 その混沌を『掘り進め下へと向かった』結果、果ての迷宮が世界の狭間に位置する『混沌世界のIF』を観測したというのだ。
 クレカは混沌世界が人と認めた『無機物』――秘宝種だ。その大元が異世界であったとしても、眠りの淵にある間に混沌に飲み込まれたというならば『この世界の住民』と成り得る事がある。
「……私の体には、K-00カ号、と、文字が刻まれてる。
 本当の、私は、そう呼ばれる何かだったのかもしれない。……私が産まれた意味が、分かるかな」
 一人で識る事は恐ろしかったそれを。
 もしも、識る事が出来るならば――

「……さて、我々の個人的な探究心や『あらすじ』は以上だ。
 何? 理解出来なかった? なら、簡単に理解すれば良い。異世界に行く、以上だ」
「操……その、どういう所に行くのか、は?」
「ああ。……30階層までクリアおめでとう。そのお陰で『境界深度』と呼ばれる親和度が高まった。
 つまり、皆は境界への理解度が高く、世界渡航に適した存在であると混沌が認知したという事だな」
 世界の絡繰りについては良く分からないが、と操は付け加えた。
「まあ、どうしたことか『世界が近付いた』。クレカの故郷と思われる『プーレルジール』は過去の混沌世界だ。それも、途方もなく前の。
 幻想(レガド・イルシオン)が存在しなかった時代と今現在の我々の居る混沌が『接続(リンク)』されてしまったようだ」
「……それで、色んな扉から、お店の扉、とか、冷蔵庫とか、なんでも。
 プーレルジールに移動しちゃう、時が稀にあるみたいで。行方不明者情報が、寄せられてる」
 パン屋に入ったと思えば何もない草原に居たともなれば大騒ぎだ。それも『帰り道が分からない』のだという。
 そんな一般人の救出依頼がローレットに齎され、原因解明のために操が(R.O.Oの所為ではないと証明したいが為に)調査を行なった結果、『境界』の関連であると云うのが分かったのだ。
「此処からならば安全無事にプーレルジールに『潜行』出来る。異世界渡航だ、我らの夢の第一歩だ」
「プーレルジールの物語は、冒険者アイオンが居る場所、らしい。ただ、今は魔王イルドゼギアが世界を支配しようとしてる」
 クレカはライブノベルをぎゅっと抱き締めてそう言った。
 アイオン――勇者王と呼ばれる未来がある青年は、その片鱗すら感じさせないらしい。
「屹度、この世界が廃棄された理由が何か、ある。……滅びのアークが、特に強くて、可能性(パンドラ)の欠片が少ない滅びに向かう世界。
 そういうのがあるんだってだけでも良い、……けど、ただ、ね。
 私達が世界を移動できるなら『向こう』もこっちに攻めてくる可能性もあるから」
 調査をしておくのは大事だと思うとクレカは辿々しく告げてから、使われていない書架へと繋がる扉を開いた。
 その向こうには美しい彫刻やテナントが並んだ回廊――『プリエの回廊(ギャルリ・ド・プリエ)』が存在して居た。

 ※『異世界』プーレルジールへと移動が可能となりました――


 ※天義各地で遂行者による『侵攻』が始まりました――!
 

これまでのシビュラの託宣(天義編)

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