PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

『可能性』の子達

 神託の少女――
 彼女が、親(イノリ)にとって何者であるかをベルゼー・グラトニオスは理解していた。
 誰よりも愛情深い男であったベルゼーは『子ども達』に彼が向ける感情とは大きく懸け離れた『イノリの人間性』を察して居たのだ。
(ああ、彼女『までも』出て来てしまったか――)
 ベルゼーは独り言ちた。
 何も己が彼(イノリ)の信頼を得ている等とは露程思っては居なかった。
 ベルゼー・グラトニオスという男の性質を彼は翌々理解していたからだ。
 だが、彼は子供に対して目的さえ完遂されれば良いと放任を決め込んできたではないか。
 生も死も普く全てを己の者だと強欲にも告げた姉(ベアトリーチェ)にも。
 醜い己に絶望し全てを妬み嫉みながらも散った兄(アルバニア)にも。
 微睡みの淵に佇みながら全てを鎖そうとした兄(カロン)にも。
 最強と謳われながらも、自らの力に驕り沈んでいった兄(バルナバス)だって――
(これまでの勝手を許してくれたからこその『親孝行』だったんですがなぁ……)
 それが何だ。
 聞こえるだろう。あの声が――あの『悪辣な笑い声』が!
 無慈悲な女の、凄惨なる呼び声が脳を掻き混ぜる。

 愚かね。
 優しすぎたのよ。
 ……違う。優しさなんて、言い訳だわ。愛したなんて、言い訳だわ。
 ただ、意気地が無いだけでしょう?

 脳裏に囁きかけたそれは如何に不愉快であるかさえ表現し難いものであった。
 軈て来る破滅の片鱗。原罪で有る限り『自らが受ける事の無い不愉快な感覚』が臓腑にまで染み渡り欲求を強くする。
 酷く傲慢であり、強欲であり、いや、それ以上に無慈悲としか言いようのない声の主が誰であるのかは直ぐに察することが出来た。
 父が女との『約束』を違えた涯ての嫌がらせのようなものだとベルゼーは感じている。
 巻込まれた側ではあるが、それだけが男の感情を逆撫でしたのではない。
 自らの決意を蔑ろにされたことも、存在への酷い冒涜だと感じたことも。
 それ以上に――『在り方全てを変えて仕舞う部外者』という存在こそが切欠だった。
 ベルゼーは生まれて初めての感覚に激しい嫌悪感と、悍ましい程の怒りを感じていたのだ。

 喰いたい。喰いたい。腹が減った。ああ、全てを喰らい尽くせばこの欲求は収まるか――

 頭の中を支配するそれを払い除ける事が出来たのは。
 差し込んだ光――只それだけだったようにも思える。
『空繰パンドラ』が指し示した可能性にベルゼー・グラトニオスは『滅びのアークの化身』でありながら縋るように手を伸ばした。

「父よ」
 一度たりとも、彼をそう呼んだことはなかった。
 己は斯くあるべしと世界に生み出された『人間の根源の欲求』である。
 七つの罪とは、生命が持ち得る当たり前の欲求であり行き過ぎて訪れる破滅の形だ。
 暴食は尤もたる人間の浅ましさの表れであり、隣人のように傍にある『人間らしさ』なのだから。
「……父よ」
 思うに、ベルゼー・グラトニオスという生命は人間らしさを得すぎたのだ。
 本来ならば得るべきではない人間性を得た男を不安視するのは当たり前であった。
 ――それでも、信じて欲しかったというのは『子』の勝手だ。
 いや、彼に手を下されるのであれば良かった。それが『産み落とした彼に己が唯一与える事の出来る罰』だ。
 お前は失敗したのだと、あの男に刻みつけることの出来る烙印だった。
 だが、これは違うだろう。
 あの男の側で笑う『怪物』は悪戯な介入者にしか過ぎず、『怪物』を食い止めるべくその動きを見せた『神託の少女』は己と彼の決別だけを物語るのだ。
(そうだろう? イノリという男は『ざんげ』に執着してる。
 兄が妹を愛するにしては度が過ぎるほどの愛情だ。その相手が己のせいで命を削ったというならば)
 もう二度とは、彼の側に寄ることは出来ないのだ。
 神託の少女の手にする可能性(パンドラ)は彼女が呼び寄せた英雄を、『座標』達を守り抜く。
 悪辣なる聖女の手を払い除け、わざわざとベルゼー・グラトニオスを『ベルゼー・グラトニオス』として保ったのだ。
 神託の少女(ざんげ)が見せたのは己への優しさではない。そうしなくてはあの怪物が世界へと危機を齎すからに過ぎない、が――
(なんともまあ)
 ベルゼーは皮肉げに笑った。
 世界を護るべき『機構』でしかない彼女が些か感情的に思えるような行いを見せたのだ。
(――可哀想な父よ)
 無機質な娘。必要とされた人間らしい部位を削ぎ落とした人形。
『七罪(にんげんらしさ)』までもを作り出せてしまう男とは対照的な彼女が、男の手から離れた所で変化を帯びた。
 それは喉から手が出るほどに求めたものであっただろうに。
(ああ)
 ベルゼーは喉を鳴らして笑った。
 彼の為に戦うと決めて居た。それが親孝行だとは思って居た。
 あの悪辣な聖女の横槍に興が削がれたのも確かだ。己の覚悟を何と蔑ろにするか。
(私は怒っているのか。柄にもなく)
 何人をも愛してしまう『暴食』らしくない感情だ。
 自分にこの様な感情が存在したなど、露程知らなかったのだ。
(ざまあみろ――)


「琉珂」
「……オジサマ……」
 そっと彼女の前に降り立った。
 心配を掛けたと抱き締めようと手を伸ばせどもすかりとその体を通り過ぎる。
「……、私の権能は暴走している。けれど、『一縷の望み』を賭けて見せよう。
 少しだけならば、この心が抑える事が出来るのさ。お前が、仲間達と持って行っておくれ」
 鎖されていたフリアノンへと外より来たる者を受け入れた里長よ。
 特異運命座標として世界の未知を既知と変えると微笑んだ小さな少女よ。
 ――おまえを連れて、遠く遠く、共に駆け抜けていってくれる、特異運命座標よ。
「オジサマを『連れて』いけばいいの?」
 彼女に手渡したのは古びたコートと使い古した武器だった。
 カトラリーセットを手に、コートを羽織った彼女は緊張したように唇を震わせる。
「ああ」
 あの『私』ならば彼等は迷うことなく殺してくれるだろう。
 さあ、見ろ。
 あれが『暴食』だ。欲に濡れ、全てを食らい尽くす化物だ。
「私がおまえ達に出来る最後の贈り物だ」

 細い、一筋の糸だ。
 直ぐにでも途切れてしまいそうなそれに、願いを込めた。

 琉珂、おまえは『特異運命座標(わたしのてき)』と共に遠くまで走って行けるだろう。
 私はおまえの成長を見ることが出来ないだろう。
「オジサマ、一緒に行こう。皆が――トモダチが、私と共に進んでくれる」
「……ああ」
 特異運命座標。
 私を今から殺す者よ。
 私の愛しき亜竜種を、竜達を、守り抜く為に、その刃を曇らせやしないでおくれ。

 ――己の不手際には、己で決着を付けようではないか。
 元より、人ならざる身。人間と共に生きていくことなど出来やしないのだから。

 ※『黒聖女』マリアベルの『無慈悲な呼び声』を空中神殿のざんげが『空繰パンドラ』発動で阻害したようです……!
  代わりに空繰パンドラの現在値が100000低下しました……

 ※『空繰パンドラ』の発動を経てベルゼー・グラトニオスによる『裏切り』が発生しました……!
 『<フイユモールの終>Goodbye Dear You.のシナリオ内容・情報が更新されました。



 ※『双竜宝冠』事件が新局面を迎えました!
 ※豊穣に『神の国』の帳が降り始めました――!

これまでの覇竜編シビュラの託宣(天義編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM