PandoraPartyProject

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毒の始まり

 すべてのものは毒である。毒となるか薬となるかは量によって決まる。
 地球世界の高名な錬金術師の言葉である。
 その言葉を反映するかのように、かつて『ザビアボロスの一族』とは、医術の一族であった。
 その毒を薬となし、仲間の患いを治療していたとされる。
 だが……竜とは強靭な生命体である。病に倒れることなどほぼなく、逆に竜を侵す病などがあれば、すなわち竜の手に負えぬものであるということである。
 必然、ザビアボロスの毒の医術は、救えぬものへの安楽死に用いることが多くなっていった。
 竜すらも殺す、毒。怨毒の一族。薬と毒は表裏一体。だが、薬の役割を持てぬなら、その毒とは、ただ毒のみではないのか――。
 やがて、超越種たる竜の傲慢さも相まって、ザビアボロスの一族は変容していったとされる。
 救うものから、命断つものへ。
 絶対の毒により、安らかなる死を押し付ける、傲慢なる死神の一族へと。
 ザビーネ=ザビアボロスと名乗る個体も、その傲慢さの末に生まれた。自分たちの一族は、命を思うが儘にしてもいいのだと、そのように教えられた。
 竜たるは超越種であり、それ以外の生命の管理も恣にする。何れ破滅が舞っているのであれば、竜たる我らが安楽なる死を与えるのである、と。
 ザビーネのその思考に変遷が起きたのは、ベルゼーと名乗る冠位魔種との遭遇によってが最初である。
「君は、そうだね。生命のことについて何も知らないだろう」
 その問いかけは、まったくその通りの事だった。だが、生命について知ることで、何が得られるのだろうか。ザビーネにはわからなかった。近くにあった生態系の発展と衰亡を、十数年のスケールで観察し続けたこともあった。わかったのは、植物とて、生きるために必死にその顔を太陽に向けているということくらいだ。
「貴様(きさん)はそうじゃな、生命の持つ可能性について何も知らんじゃろ」
 と、言った大樹の嘆きもいた。
 可能性。その言葉を聞くたびに、右目の火傷痕がうずいた。練達の地で、自分をにらみつけたイレギュラーズの顔を覚えている。
 可能性。生命のこと。生きているものの、意志。それを全く認めていなかった彼女が、ローレット・イレギュラーズという外れ値(イレギュラー)に遭遇したとき、そのしっぽをようやくつかんだような気がした。
 ベルゼーは、考えることを教えてくれた。炎の嘆きは、それを見る機会をくれた。
 自分を慕う二人の従者は、自分のために人を試してくれていて、そしてイレギュラーズは、その『可能性』のしっぽを見せてくれた。
 ゆえに思う。
 自分が無為に奪ってきたものたちは、本当に価値なきものであったのか、と。
 あの時摘んだものは、可能性の芽であったのではないか、と。

『落陽は近い』
 と、『先代』が声を上げるのへ、ザビーネは深くうなづいた。
『おそらく、ベルゼー・グラトニオスはもはや限界であろう。なぜこれまで放置していた』
 ザビーネは答えない。
『なぜムラデンとストイシャに、人と戯れるのを許している』
 ザビーネは答えない。
『何故』
「なぜ――」
 ため息のように、つぶやいた。
「なぜか――右目がうずくのです。やけどの跡が。違う、と」
『何が』
 先代が、息を吐いた。
『違うのか。言ってみろ』
「おそらく、我々の一族が」
 ザビーネが言った。
「我々は、生命をあきらめるべきではなかったのです。
 足掻き、醜くとも、同胞を救い続ける――それだけのことができなかった。
 我々は、可能性を捨てることを選んだ。人の、ではありません。同胞の、ですら。
 私たちは、臆病者の一族であったのです」
『なるほど』
 先代が笑った。
『なるほど!』
 笑った。
『もうよいぞ』
 それから、酷く冷たい声を上げた。途端に、ザビーネの体がぐしゃりとつぶれた。強烈なプレッシャーが、物理的な圧力となって、ザビーネの体を圧し潰したのである。
 ぐ、え、とカエルのような声で喘ぐことしか、ザビーネにはできなかった。
『もう、よい。数千年ぶりに生まれた、稀なる嫡子であったから、私は貴様を甘やかしすぎた』
 ぐり、ぐり、と、体が潰されるような感覚を覚えた。
『理解していぬようだな。我々は、死をつかさどる偉大なる天帝種『バシレウス』である。その矜持が、貴様にはついぞ根付かなかったか。
 そこで寝ているがいい。ザビアボロスの名は返上してもらう。此度の決着は、私がつけよう』
 そういって、先代は、ぐるる、と唸った。

 主の危機を察知し、ローレットへ、ムラデンとストイシャが接触してきたのは、もう少し後のこととなる。


 ※覇竜にて動きがあるようです――


 ※幻想と海洋に降りて来ていた帳の調査報告が続々と行なわれているようです――
 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)


『双竜宝冠』事件が望まない形の進展を見せたようです。
 各地でアベルト派、パトリス派、フェリクス派が武力衝突を開始し、市中にも被害が出ているようです……


※豊穣長編:『<仏魔殿領域・常世穢国>』の事件が解決しました――
※ROO長編:※R.O.Oのエラー領域『ORphan』での事件が終結しました。
 境界図書館から行なう異界渡航の準備を始めたようです――

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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