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『異言都市(リンバス・シティ)』

『異言都市(リンバス・シティ)』

 その日、空に帳が下り、一つの都市が消えた。
 
 天義の巨大都市『テセラ・ニバス』。『もう一つの聖都』とも呼ばれるこの巨大都市は、いくつもの街区に分かれた巨大な宗教都市である。
 今日も住民たちは、当たり前の言葉を話し、当たり前の信仰を抱き、当たり前の生活を営んでいた。
 敬虔であれ。正しくあれ。良き人であれ。その教えにの取った住民たちの信仰は篤い。
 侵されざる聖なる都。それが『テセラ・ニバス』である。
「……なぁ、あれはなんだ?」
 と、住民たちがささやきあう。天に、黒い染みがあった。それは虫食いのようにも見えた。まるで、空を、得体のしれない怪物がかじり取ったような、そんな、黒。
「まって、広がってない?」
 誰かがそうつぶやいた刹那、その黒点は増大した。ぶちぶち、ぶちぶちと音を立てるように、空が黒に染まっていく。そう、それはまるで、空に黒の帳が下りるかのように――!
「何が起きたの!?」
 誰かが叫んだ。誰もがそう叫んだ。得体のしれない事態に、人々の心は揺らいだ。それは暗く、降りた帳はおそらく、テセラ・ニバスをまったく、飲み込んでいるに違いなかった。
 帳がすっかり降りた後、世界にひどいノイズが走った。それは、まるで世界という『現象』に、何かが『被さる』ようであった。
 被さっていく。被さっていく。何かが、世界を食らい、その上から覆いかぶさらんとしている。
「き、騎士団! 騎士団に連絡を! お前、頼む!」
 誰かがそういって、友の肩を叩いた。友は、先ほどまで友だった彼は、
「――――?」
 得体のしれない言葉を吐いていた。
「ひっ……!」
 たまらず悲鳴を上げた。気づけば、街のあちこちから、得体のしれない言葉が聞こえる。理解できる、言葉と。理解できない、言葉が交差する。
「――――」
「――――」
「――――」
 誰かが何かを言っている。
 何かを言っている。
 ああ、理解できない!
 なぜならそれは、異言(ゼノグロシア)であったから。
 我々には理解できない、祝福された言葉であったから。
 ああ、違う。理解できる。今は理解できる。
 そう、この都市は、祝福されたのだから。彼もまた、祝福されたのだから。
「――――!」
 彼もまた、得体のしれない言葉を話した。
「諸君――この祝福され師都市に住まう、すべての子らよ。
 今は、未だ祝福をもたらされぬ子らのために、呪われたバベルの言葉を紡ごう」
 声が聞こえた。気づけば、そこに、仮面の男が立っていた。
「我はサマエル。遂行者・サマエルなり。
 我はここに、偉大なる我らが主よりの祝福を齎そう。
 ――天義。その白亜の都に巣食う偽善的な正義はすべて偽りであり、聖都とは、すなわちはらわたをシロアリに食い荒らされた虚妄の都である。
 であるならば、本来あるべき歴史のうちにある、正しき、強き、正義の都をここに顕現させよう!
 汝、テセラ・ニバスよ! その呪われた名を捨て、新しき祝福の都の名を謳えよ!
 汝が名は『異言都市(リンバス・シティ)』! 偽りの正義に覆われたこの国を、本来あるべき姿へと変えるための一つ。
 『正しき』天義。厳格なる神への、決して揺るがぬ忠誠と信仰とともに、絶対正義と汚れなき『白』の都――『絶対正義圏(オリジナル・ジャスティス)』をここに顕現させるものなり!」
 ああ、それは、それは――。
 正しく祝福であった。
 福音が鳴り、帳が下りる。世界食らいたちが呪われた世界を食らい、正しき『正義』へと『被象』する。
 おお、おお。人々の胸に、聖なる鐘の音が鳴り響いていた。
 ゆえに――誰もが、異言をもって、彼を迎え入れた。

「……あのクソマゾ野郎、随分イキってるじゃない。
 そうよね。下積み長かったものね?
 今すごく気持ちいのでしょうね?」
 歪み始めたもう一つの聖都。その荘厳なる大聖堂で、『聖女』と呼ばれた女は、異形の遂行者に視線を向けて見せた。
「サマエルは嫌いか? ルル」
 異形の遂行者=マスティマがそう尋ねるのへ、ルルが鼻で笑う。
「あいつの一挙手一投足一思考一言すべてが嫌い。だってあいつでしょ? この間花瓶にバラ差してたの。生理的に無理」
「随分と嫌われたものだ。だが、察してやれ。彼は彼の白亜の都で半生を過ごしたのだ」
 ふむん、とマスティマが言う。
「『歪み』もするだろう。まぁ、それはいい。少々大仰だが、これもまた『あるべき歴史』であるのだから」
「絶対正義による正しき天義の姿……ふふ。
 そうよね。『正しい』ものは、『傲慢なくらいが丁度いい』わ!」
 ルルは笑った。
「まぁ、あのクソマゾの手腕、今回は見届けさせてもらおうかしら――」
 その言葉に、まるでうなづくように――複数の影が、現れた。
 それらはすべて、そろいの服を着た、遂行者たちである――。

 サマエルの演説は続く。祝福は続く。正義による被象は続く。
 この日。テセラ・ニバスは消滅し。異言都市(リンバス・シティ)が被象する。


 テセラ・ニバスの消滅と、謎の都市の顕現という観測情報。
 そして、『新たなる神託』が啓示され、シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世の下へともたらされたのは、ほぼ同時であった。

 ※天義の都市テセラ・ニバスが消滅し、異言都市(リンバス・シティ)が顕現しました。また、遂行者勢力による天義での活動が観測されています!
 ※帝政派のバイル宰相と、南部戦線のザーバ将軍の間で会合が行われ、帝政派が『決戦兵器』を手に入れんとしています……!?
 ※ラサの首都ネフェルストにて同時多発的に事件が発生し、『赤犬の群』の団長ディルクが行方を眩ました模様です……

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