PandoraPartyProject
凍寒の国
吹き荒れた旋風――新皇帝派による制圧占拠の行なわれる各地拠点駅の奪取が為に帝政派、ザーバ派、ラド・バウ独立区、革命派は活動を行って居た。
それぞれが異なる事情を有しているが、地固めは必要不可欠だ。
鉄道都市ボーデクトン、鉄道都市ゲヴィド・ウェスタン、帝都中央駅ブランデン=グラード、鉄道施設ルベン。
奪取された各都市の付近には大規模な地下道が存在していた。
名さえ不明ではある巨大な地下道は嘗ては地底に存在する古代兵器の発掘や地質調査で利用されたと言われている。
そして朽ちた枕木を見るに地下鉄として利用する事も考えられていたのだろう。その計画が頓挫した理由は定かではないが……これから調査を行なうべきだと考えられる。
クラウィス・カデナを撃退し、帝都中央駅ブランデン=グラードの中央システムを奪取したことにより、駅機能の回復を為したセララ(p3p000273)はビッツ・ビネガー (p3n000095)へと問う。
「ブランデン=グラードの地下には『地下鉄』通路があったんだよね?」
「ええ、そうよ。と言っても地下鉄として利用されていたわけでは無さそうだからどこまで線路が続いているのかも分からないし……。
ブランデン=グラードから、それがボーデクトンやゲヴィド・ウェスタンなんかに繋がっていれば嬉しいけれど、それさえ定かじゃあないわ」
この地下鉄通路を『アラクラン』と名乗る新皇帝派軍人達が利用している動きは見られているが――それでも、この通路は現在はイレギュラーズの手の内にある。
「他派閥と合流できたり、秘密裏の補給線を得られるかも知れないんだね?」
「ええ。そうよ。どうやらブランデン=グラード以外にも地下施設への通路を見付けたなんて噂が『銀の森』では聞こえていたものね。
魔法少女ちゃんたち、ちょっと銀の森で聞いてきてくれない? アタシはラド・バウに戻って攻略準備をするわね」
よろしくね、とセララの肩を叩いたビッツは「あ、雪」と呟いた。
一方で――。
ブランデン=グラードでの激戦にも、一区切りがついていた。
多くのイレギュラーズによる戦力の集中。それがあってなお――バルナバス・スティージレッドという冠位の魔の命をとることは、出来なかった。
作戦は失敗、と言ってもいい。目的は果たせなかったのだから。
だが、敗北ではない。イレギュラーズ達は、あの圧倒的な魔に相対し、なお誰一人『折れることはなかったのだから』。
それ故に――彼の金色の野獣が、己の誇りを曲げてまでイレギュラーズの撤退に協力したことは、間違いないのない『戦果』であった。
「なんて奴よ」
リア・クォーツ(p3p004937)は、激闘が遺した体の痛みに耐えつつ、空を見上げた。この、雪のちらつきそうな灰色の空をも焼き尽くすような、それは苛烈な炎の残滓。バルナバスという激焔の残した傷痕だった。
でも、とリアは胸中で呟いた。わずかな『言葉』。口を滑らせたという、『動機』。それを得ることができた。何かの目的をもって、バルナバスはこの国を壊している――。
「何をたくらんでるの、アイツは……?」
そう呟くリアの言葉に、答えるものはいない。ただ静かに雪が降っていた。
「よくやってくれたな――列車砲の奪回は此方でも確認できた。
新皇帝派の手も伸びていた様だな……
お前達がいなければ届かれていたかもしれん」
南部戦線方面に存在する鉄道施設ゲヴィド・ウェスタン。
新皇帝派との騒乱の果てに制圧しえた地にてイレギュラーズに謝辞を述べるはザーバ・ザンザ(p3n000073)だ。此処まで蓄えた軍事力と、軍を動かす為の補給線(生産力)が非常に伸びていた事により優位な戦力を向かわせる事が出来たが故か、新皇帝派の抵抗もあったものの、概ね有利な形で戦局を進める事に成功した。
そしてその末に列車砲を南部戦線は確保しえたのである。
「新皇帝派組織の『アラクラン』も来てたけどね、でも美咲さんのおかげもあって突破出来たよ!」
「全く。あんな手は二度と使いたくないけどね……」
「ははは。まぁ何はともあれ、ご苦労だった。暫く羽を休めてくれ。今後はゲヴィド・ウェスタンも拠点として各地を取り戻していく事を検討している……そして報告に挙がっていた地下道……いや『地下鉄』の調査も含めてな」
ザーバが語るのは作戦に参加したヒィロ=エヒト(p3p002503)や美咲・マクスウェル(p3p005192)へと、である。手に入れた列車砲によりザーバ派は更なる躍進を得る事になるだろう……が。
同時に気になるのは、ゲヴィド・ウェスタンにあるという地下道。
聞いた話によるとラド・バウ独立区や帝政派が攻略した場所でも似たようなモノがあるとか――うまく行けばその地下を使って、他の派閥と接触しうる事が可能であるかもしれない。
どうなるかは調査してみてから、だが。
ともあれ新皇帝派への反撃の一端は成功したのだ。
今は勝利の美酒を――皆で堪能するとしよう。
一方、革命派の部隊は鉄道施設ルベンの地表部へと戻り、一度部隊の合流をはかっていた。
「鉄道施設ルベンの制圧は完了しました。負傷者は一度後衛拠点へ戻り治療を受けて下さい。まだ危険もあるでしょうから、地下遺跡の探索任務は暫くローレットの皆さんにお願いすることになるでしょう。無事な方や歯車兵はそのフォローを」
毅然とした様子でアミナ(p3n000296)は述べ、ルベンの外へと集まっていたクラースナヤ・ズヴェズダーの僧兵たちは彼女の指示に応じて動き出していく。
これで一段落ついた。そんな空気が流れた中、アミナはふらりと身体をよろめかせた。
「おっと。無理をし過ぎましたか?」
そんな彼女を、楊枝 茄子子(p3p008356)は片腕で優しく支えた。
「すみません。暫く気を張っていたものですから。だめですね、こんなことでは」
苦笑して見せるアミナの表情をじっと見つめる。あまり良い顔色とは言えない。
だが、『休め』と言える状況では、まだないのだろう。
「オースヴィーヴル氏がいらっしゃいましたよ」
茄子子の言葉にハッとして、アミナは姿勢を正して向き直る。そこには領主オースヴィーヴルが、彼の土地の戦士たちと共に立っていた。
「此度の無礼……領を代表して謝罪する。一度は貴方がたを信じたのに、また帝国民と同じに見てしまった」
「いいえ。無理もありません。同胞を殺される悲しみや憎しみが、そう簡単に癒えないことは、私達も充分に知っているつもりなのです」
だって私達はあの日、『聖女』さまを失ったのだから。
アミナは自分にしか聞こえないような小声でそう呟いた。
「ルベン遺跡のエネルギーコアは搬出できましたが、他にも利用可能な古代遺物が眠っている可能性が充分にあります。
そうですね……もしよければ、調査を手伝って戴けますか?」
どこかずる賢い笑みを浮かべたアミナに、オースヴィーヴルは破顔する。そう言ってくれると助かるといわんばかりに。
「喜んで引き受けよう。だが注意してくれ。グロース師団がこの場所をまだ狙っている可能性がある。ルベンの占領状態を維持するならば、戦闘は避けられないだろう」
「争いは続くのですね……」
茄子子は息をついて空を見上げた。ちらちらと降る雪が、翳した手のひらへとおさまる。
帝政派。
奪還したばかりのボーデクトンでは、既に多くの兵士たちが街の開放を行っていた。頭部ゲートに詰め掛けていた新皇帝派の援軍は撤退を開始し、内部にて活動していた新皇帝派たちも、次々と投降を始めている。
灰色の空が、まだ天を追っている。もうすぐ冬だった。今にも雪がちらついてきそうな空の下に、今イレギュラーズ達はいた。
「お疲れ様です」
帝政派部隊現場指揮官からそう声をかけられたのは、タイム(p3p007854)だ。激闘だったのだろう。その身体に巻かれた包帯は、その傷の深さを物語っていた。
「改めて……ご助力、ありがとうございました。ローレット・イレギュラーズの皆様。
おかげで、ボーデクトンの奪還に成功……市長を名乗っていた魔種はとり逃したとの事ですが、完璧な戦果と言えます」
「ええ」
タイムは頷いた。戦いの傷が、冬風に痛むような気がした。
「これで、状況は変わるのかしら……?」
「おそらく、そうでしょう。鉄道網の利用も可能でしょうし……何より、地下網が発見されています」
「地下?」
タイムが小首をかしげるのへ、現場指揮官が頷いた。
「はい。ボーデクトンには、いくつか封鎖されていた地下通路があるようです。全容は不明ですが、バイル様は『鉄帝の各地につながっている可能性がある』と」
「じゃあ」
タイムが声をあげた。
「そこを探索すれば、他の派閥との連携や連絡が取れる可能性もあるのね?」
「はい。お疲れのところ申し訳ありませんが、すぐにも捜査依頼が出ることになると思います」
タイムは頷いた。戦いはまだ終わっていないかった。これは、鉄帝国を奪い返す戦いの、ほんの一歩を踏み出したに違いないのだ。
ほう、と息を吐いた。冬の冷たい空気に、熱い呼気が蒸気となって立ち上る。まだ戦いは続く。
タイムは頷くと、もう一度空を見上げた。灰色の空から、白いものが落ちてきていた。雪だ。雪が、戦いの後の熱を冷ますように、ちらちらと、降り注いでいた。
――そして、冬が訪れる。
鉄帝国の冬は例年厳しいものではある。だが、今年は並外れた寒波が訪れた。
冬将軍がその猛威を振るい、吹き荒れた風には雪が交じる。悴む寒さは全てを凍らせ何もかもを奪い去る。
誰ぞが口にした『真白の恐怖』は遂に、国を覆い始めたのだ。
※鉄道都市ボーデクトン、鉄道都市ゲヴィド・ウェスタン、帝都中央駅ブランデン=グラード、鉄道施設ルベンの制圧に成功しました!
鉄帝地下鉄とルベン地下遺跡では調査が始まります!
※帝国鉄道網が利用できるようになりました! 引き続き鉄道網の防衛クエストが舞い込んでいます!
※雪が降り続いています……
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