PandoraPartyProject
深紅なる微笑み
不凍港ベデクトと鉄道網の調査が各派閥により行われた。
それは全勢力が示し合わせての事ではない。各勢力の思惑や勢力の位置、作戦傾向から導き出された上で行われた作戦であり、だからこそ情報が共有されている訳ではないのである――が。
「オリオン、聞きましたか――イレギュラーズちゃん達の話を」
「あぁ。鉄帝各地に伸びる地下道……いや『地下鉄』と言うべき地の話か? よもやこの国の地下に、そんな代物が伸びているとはな――驚きだ。その上、とんでもない広さがありそうだな! 他にも不凍港の地図も入手した、と言う様な話も聞く……新皇帝派がたむろする地にて斯様なモノを入手するとは、流石イレギュラーズちゃん達ではないか!」
言を交わせているのはエリス・マスカレイド(p3n000293)に『冬の王』オリオン(p3n000257)だ。二人はラサと鉄帝国の国境を跨ぐに位置する『銀の森』に在り、更にはこの地の一角をイレギュラーズ達に貸し出している。臨時の支部、とも言うべき役割を持った場所として。
だからこそ此処は多くのイレギュラーズが集まり、派閥の垣根を超えた唯一の地としても活用されている。
そんな地へと齎されたのは先日の各派閥の動きにおける成果の一つだ。
不凍港ベデクトでは街の地図が手に入り。帝都中央駅ブランデン=グラードや鉄道施設ゲヴィド・ウェスタンでは地下道……いや地下鉄の様な地が発見されたという。普段は使用されていない様な跡から、これは古代文明の名残ではないかとも言われているのだが……
ともあれ、どこまでも続いていそうな程に長い地下の存在は正に新発見。
上手く他の地上に繋がっていれば、新皇帝の勅令に従い無法・混迷としている地上を介さずに移動を可能とするかもしれない――勿論、それは駅自体を勢力圏内に治め、魔物などがいないか確認する必要はあるのだが。
また、不凍港ベデクトの詳細な地図に関しても『これから』の事を考えれば実に有用なモノであった。どこの勢力が――或いは複数の勢力が――新皇帝派に制圧されているあの地に赴くのだとしても、市街の施設位置などが詳細に分かっている情報は貴重である。
準備が整いつつある。各地の勢力が大規模な行動に移る、準備が。
「……これからどうなるのでしょうね」
「さて。イレギュラーズちゃん達が各地の勢力と共にどう動くか――
そこは我々が口を出す領域でもないからな。
だが鉄帝地下鉄の存在や、冬でも凍らぬ港……想う所がある者もいるだろう。
銀の森ではイレギュラーズちゃん達に自由に語らせ、交流を許すのみ、だ」
「ええ。勿論イレギュラーズちゃん達はそうですが――もう一点。
オリオン。最近国境沿いで不穏な気配がすると精霊が言っていましたが」
知っていますか? とエリスはオリオンに問うものだ。
さすればけげんな表情と共にオリオンは顎に手を当て。
「国境沿い? ふむ。奇妙な事だな。今は国境よりも内部……
新皇帝が座す、帝都方面が大きな問題となっているだろう?」
「ええ、しかし……精霊達が騒いでいるのです。嫌な気が――溢れていると」
幾体かの精霊が言うのだ。『何かいる?』『何か来てる?』と。
……『ソレ』が何であるのかは分からない。もしかしたら今の鉄帝に溢れている悲しみや暴虐の気配を、精霊達が些か過敏に感じ取っているだけかもしれない。
だけど。
「それに――月が、何故かこんなにも赤いのですもの」
彼女は空を見上げる。雲一つない、漆黒の天に浮かぶは……紅き月。
皆既月食――だろうか。地上を照らす月の光が、真っ赤に染まっている。
……珍しい現象ではあるが危険なモノではない。その、筈なのに。
「何か、胸騒ぎがしますね」
今宵の月は紅かった。
紅い月が、どうしてか――何もかもを嗤っている気がした。
※不凍港ベデクト、鉄道網の調査の報告書が届いています――!
※アーベントロート動乱『Paradise Lost』が最終章を迎えています!
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