PandoraPartyProject

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純粋なる欲望と

 この海には欲望が渦巻いている。それがあまりにも心地よい。
 誰かに愛されたいという願いも。幸せを希求する願いも。より良き発展の願いも。
 全て等しく、心地よい。
 何ゆえ人は、願いを恐れるのだろうか。
 欲だ希望だと装飾しても、結局のところは根源は同じ。
 人の心に渦巻いた、たった一つのPuro deseo。
「あのクソ女は」
 目の前の男は言う。濁羅(だくら)と名乗ったその男の欲求は分かりやすい。
 すべてを。ただすべてを得る。
 奪われないために、得る。
 防御的な攻撃的姿勢。実に楽しい願いだった。
「結局使えるのか?」
「想定外の攻撃をされてしまったようだね」
 と、僕は――ダガヌとかダガンとか人が好き勝手に呼ぶ僕はいう。
「眠らせたはずの意識を呼び覚ますような、ガツンとした一撃だ。物理的にも、精神的にも。  いやまったく、想定外だよ。彼女はもっと、僕が操る予定だった」
「失敗したのか」
 そういうのは、ディアスポラ=エルフレーム=リアルト。普段ののんびりとした口調がどこかに追いやられているのは、彼女が戦闘警戒を継続しているからであって、緊張を継続している故でもあった。
「君も失敗しただろう? いや、責めているわけではないよ。僕も想定外だった、と言っただろう?」
「その割には」
 ディアスポラが言った。
「随分と余裕のようだな」
「そうだね。結局人は、欲望には逆らえない、というのが答えだ。
 この海底神殿もそうだし――あの可愛い初代の乙姫の妄念は、今はシレンツィオに向かっている。
 失敗してもいいさ。僕はそれをカバーできる、という事だ。
 一応は、神とあがめられた身なのでね。
 懸念があるとすれば――僕が、打ち倒されるような可能性を、あの不確定要素(イレギュラーズ)たちが願い、それを引き寄せることだ」
「奴らはやるだろうぜ」
 濁羅は獰猛に笑った。
「豊穣をブン獲った国盗りの連中だ。それだけ強いって事だろう。
 そこは認めてる。奴らは、国を盗った。力でな。先帝が国を奪われたのも、あの姫巫女が強かったからだ。姫巫女の国を奪い返されたのは、あの神使共が強かったからだ。  強ければ、すべて奪える。奪われたくなければ、奪い続けるしかない。そういうことができる連中だ」
「それが、君の願いかい?」
「そうだ。俺は、俺たちは常に、奪う側に回る。もう二度と奪われるのは御免だ」
 獰猛に笑う、濁羅の『心』には興味はない。ただ、強い願いがあればそれでよい。
「奴らは」
 ディアスポラが言う。
「決戦を挑んでくるだろうな。バックアップの少女の殺害には失敗した。恐らく、竜宮の加護は継続される」
「うん。だけど、僕の準備ももうすぐだ」
 僕は、足元に転がる『乙姫』へと視線を向けた。意識は、どうにか封じ込めてある。が、完全に、此方に味方をさせる、というのには遠かった。結局のところ、力は奪えど完全にコントロールできたとは言い難い。
 奪えど、か。元々、彼女たちの力の根源である玉匣ニューディは、僕と根源を同じくするものだ。だから、返してもらう、の方が正しいかもしれないね。
 いずれにしても――。
 時は整った。
 僕は復活する。
 そうしたら、君たちの望みをかなえてあげよう。
 僕にとっては、それがすべてだ。
 君たちのどんな願いでもかなえてあげる。
 僕はただ、ただ、君たちの願いを、欲望を、叶え続けるだけ。
 それが僕の、Puro deseoなのだから。
 乙姫から、力が流れ込んでくる。封印に使われていたはずの力が、僕を解放するためにそれを発揮する。
 徐々に徐々に――かりそめの依り代が、本来の僕の姿に戻っていく。
 かつて神と呼ばれたもの。
 その姿に。


 ※シレンツィオ・リゾートで戦いの準備が始まっています……

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