PandoraPartyProject

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亜竜と生きる

「おおい、迅の所の。おるかね」
 彼を――迅・皓明(じん・こうめい)を呼ぶ、声が聞こえる。だから、皓明は作業の手を止めて、顔をあげた。
「おや、瑠貴様。どうされました?」
 そう声をかけてみれば、珱・瑠貴(おう・るき)は不敵に笑った顔で、皓明へと声ををかけた。
 珱・瑠貴。その外見は年若いが、古くから里を見守ってきた里長代行の一人である。 「おお。今日はな、お前の仕事をイレギュラーズ達に手伝わせてみんか? と思ってな」
「俺の仕事を?」
 皓明は、少しだけ訝しげににそう言った。その疑問の感情を感じ取ったのか、皓明の足元にたたずんていた『藍色のワイバーン』が、鳴き声をあげた。

 迅家。フリアノンにて、代々採取したモンスターの卵を孵し、騎獣や家畜として調教する者たちの家柄である。
 ここは、そんな迅家の敷地である厩舎。フリアノン近辺の『比較的温厚な』モンスターたちを管理調教し、人々の役に立てるためのそれだ。
 皓明は、その休憩所に瑠貴を案内して、フリアノンでも広く飲まれているお茶を振る舞った。

「あいちゃん、だったな。元気そうだな?」
 『藍色のワイバーン』を見ながら、瑠貴が言う。子供なのだろう、小さなワイバーンは、まるで子猫のように、小首をかしげて瑠貴を見る。
「流石迅家筆頭だなぁ。子供とは言え、ワイバーンをしつけられるのは、お前くらいのものだ」
「それをわかっていて、俺の仕事を手伝わせようって言うのかい?」
 皓明が苦笑する。瑠貴は「いいアイデアだろう?」と笑ったみせた。
「知っているとは思うが、琉珂も例の空中神殿に召喚された」
「それをあの子から聞いたのは、もう三回目くらいになるかな?」
 かかか、と楽し気に瑠貴は笑う。
「あの子らしいな。
 さておき、あの子以外にも、亜竜種の同胞たちが空中神殿に召喚されている。
 それでな、少し信じてみたくなったのだよ。私達、亜竜種に新たな道を見せてくれた、彼らの可能性というものを」
「それで、彼らに、モンスターの調教を手伝わせたいと?」
「特に、亜竜をな」
 琉珂の言葉に、皓明は少しだけ、真面目な顔をした。
「そうはいっても、亜竜のしつけは簡単なものじゃない。
 知性は低いとはいえ、仮にも竜の文字を与えられたものなんだ。
 それに……俺だって、成長した亜竜を御しきれたことは、一度もない。
 瑠貴様なら、ご存じでしょう?」
「わかっている」
 瑠貴が頷く。瑠貴とて、亜竜、ワイバーンが如何に恐ろしいかを、嫌というほどに知っているのだ。
 如何に子供の頃からしつけたといえ、亜竜は危険な存在だ。幼体のそれならば、何とか御すことも、飼う真似事もできる。
 だが、成体になれば。多くの場合、その魔物を御すことができるものはおらず、そして餌も『穏便なもの』では済まなくなる。
 結果、皓明ほどの手腕と才を持つものであっても、『成体になる前に、狩りの過程で命を落とすように誘導する』。つまり、意図的に殺すのだ。
 今、足元で佇むこの幼体の『あいちゃん』も、例外ではないだろう。
 皓明は、彼ら家畜とした亜竜に愛情を注いでいないわけではない、むしろ、注ぎ過ぎと呆れられるほどに、愛を注いでいるだろう。
 それでも……どれだけ心苦しかろうと。自らの子を自らの手で死地に追いやるような真似をしようとも。そうしなければならぬほどに、ワイバーンの調教は困難だ。
「それを、彼らにさせらるというのですか? 可能性がある、できるかも、と気持ちのいい言葉でおだてて、いざできなかったら自分の手で殺してください、と。
 それはとても……残酷な事だ。」
 これまで、多くの愛を注ぎ、多くの愛するものを殺してきたものだから言える、そう言った重みが、言葉にはあった。
「そうだなぁ」
 瑠貴は頷いた。
「だが……年甲斐もなく、信じてみたくなったのだ。あやつらの……イレギュラーズの見せてくれた、可能性を。私たち亜竜種が持つ、未来への可能性を。
 ……それに、ほれ。私は、ちゃんと相手が越えられるくらいの試練しか与えんだろう?」
「そうですね……嫌というほど、思い知らされました……」
 そう言って、苦笑した。
「わかった。信じます、イレギュラーズの可能性を。
 こっちでも準備をしておきましょう。ローレットのイレギュラーズの皆に、声をかけておいてください」
「おお、では、決まりだな!」
 瑠貴は満足げに頷いた……と、そこへ、可愛らしい声がかかった。
「こーめいお兄さん、今週のお野菜の納品に来たよ!」
 声の方を見てみれば、可愛らしい少女……シェリアの姿がある。フリアノンの近く、『風鳴りの地』という集落に棲む少女だ。シェリアの家は野菜を主に育てており、モンスター用の餌になる野菜を、両親の手伝いと届けてくれることがある。
「あ、るき様! こんにちわ! あ、あいちゃんも! こんにちわ!」
 元気よくぺこぺこと頭を下げるシェリアに、瑠貴は「おお」と声をあげる。
「ちょうどよい、お前も仕事を手伝うがいい。亜竜どもが好む野菜のことくらいは知っておろう。イレギュラーズに教えてやってくれ」
「イレギュラーズ!? 会えるの!?」
 シェリアが目を輝かせるのへ、瑠貴は笑って頷いた。
「おお! それどころか一緒に仕事じゃぞ!」
「一緒のお仕事! やったー! すごーい!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねる、シェリア。その様子を見ながら、皓明は苦笑する。なんだか大事になってきてしまった気が知るが……さてはて。

 迅・皓明と珱・瑠貴、そしてシェリアより、イレギュラーズ達に依頼が届いています!

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