PandoraPartyProject

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冬があける前に

「みんな集まってくれてありがとう。傭兵連盟ニーズヘッグを覚えてる?」
 青みが掛かった黒髪を流す女――イルザが集まってきたイレギュラーズへそう問いかけてきた。
「数ヶ月前に鉄帝国の北東部でいきなり攻め込んできたノーザンキングス系の勢力よね?
 わたしは時々、前に訪れた町で動いてるけど、この数ヶ月、大規模な動きはなかったはず」
「そうデスネ、ボクもあそこへは引き続き言ってますけど、今のところ動きはみあたりません」
 レイリー=シュタイン(p3p007270)リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が各々で告げれば、イルザは小さく頷いた。
 レイリーは前段階の依頼で訪れた町で商人として活動を継続していた。
 この数日は特に、冬場の彼らの下へ食品を売ったりして益々の信頼を受けつつあった。
 リュカシスもまたそれは同じであり、力持ちで良く働く少年は雪かきなどをしながら町人達と対話を続けている。
「目立った動きがない理由は、僕は鉄帝特有の環境のせいだと思う。
 厳寒極まる鉄帝国の北方で冬に大体的に軍事行動は起こせないだろうっていう奴だね。
 でも、軍事行動以外なら難しくはない。だよね、ラダさん」
「あぁ――つい先だって、うちに手紙が届いてた。あの町の町長からって話だが、敵の傭兵団側から物資的な支援が要求されたよ」
 頷いたラダ・ジグリ(p3p000271)はそう言ってはらりと自分の印章が捺印されていた手紙を見せる。
「ここにある日付に、傭兵団がうちと交渉の席を用意するらしい」
「つまりは、敵は下準備を始めたってことだね。
 冬があけ次第、彼らは次の動きを見せるつもりだと僕も思う。
 だから、皆にもそれぞれの『次の一手』を始めてもらえると嬉しいかなってね――」
 静かにイルザが微笑んだ。
「それならちょうどいいわね。こっちも次が打ちたかったところよ」
 イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が頷いた。

「なるほど、それで私達をというわけですか」
 別の席で紅茶を飲み余韻を噛みしめていたアリシス・シーアルジア(p3p000397)は聞こえてきたイルザの話に頷いて、視線をそこにいる魔女に向けた。
「ええ、そういうことよ。ふふ、このお紅茶、美味しいわね。やっぱりルシアちゃんのギフト素敵よ」
 かちゃりとティーカップを置いた魔女はそう言ってギフトを使って即席のお茶会を開いたルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)に礼を述べた。
 ルシアはこの魔女――ヴィルトーチカと出会った際にギフトで即席のお茶会を開いたが、それを気に入ったらしいヴィルトーチカにお願いされて今日もお茶会を開いていた。
「どういたしましてなのでして! でも、どういうことなのですよ?」
 ルシア自身、何かあるかもしれないと次のために聞き逃さないようにしていた。
「シーアルジアさんからもらった術式を解析したわ。
 詳しいことは行ってからにした方が良いでしょうけれど、あの術式をこのままにしていては拙いわ」
「あの術式とは、ニーズヘッグを封じていたものっスか? たしかに半壊してるようなものっス」
 キャナル・リルガール(p3p008601)は最も近くで魔物ニーズヘッグの封印を見た者のひとりである。
「あの蛇が一体どういうものなのかは知らないがよくなさそうだ」
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も封印を見た者だ。
「その辺りも、あそこで説明しましょう。
 でも現時点でニーズヘッグが気づいていないのなら、それはきっと、あの蛇が『冬眠』してるからよ」
 そう言って魔女ヴィルトーチカは再び紅茶を飲んだ。
「……あれで寝てたんっスか?」
 目が合った時のことを思い出しながら、キャナルは思わず背筋に寒いものが走った。

●雲隠れ、忘れられた者
 暖炉の火がパチパチと音を鳴らす。
 店内に響くオーケストラか何かの音楽はその酒場の雰囲気を陽気にしていた。
 外は極寒の冬景色が広がる鉄帝国。
 それに負けぬとばかりに陽気な空気感の中で2人の女性が隣り合って語り合っていた。
「その情報は正しいのか、イルザ?」
 氷がからんと音を立てたグラスをカウンターに置いて銀髪の女――ユリアーナが視線だけで隣に座る女性を見る。
「うん、間違いないよ。姉さんが言ってるその黒衣の魔術師は、鉄帝国を出てラサに入ってる。
 これが証拠。僕も知り合いを通じてその写真を見ただけで、僕自身は彼女を知らないからよくは知らないけど」
 イルザと呼ばれた青みがかった黒髪の女は、気さくな様子で隣のユリアーナに笑いかけ、そっと一枚の写真をユリアーナに手渡した。
 裏返しで渡されたそれをちらりと確認したユリアーナが深くため息を吐いて、こめかみを抑えると、ぽん、とイルザが肩に手を置いた。
「しょうがないよ。どこの世界に流れに流れて東の果てから西に流れてきた女が、そのまま他の人を捨てて正規ルートでラサに入るとは思わないよ」
「いや、まぁ、それもあるが……正規ルートで平然と国を渡られたことに頭痛がしてきたんだ」
「あはは、まぁ、そういうちょっと脳筋というか、単純なところが僕も愛した故国の空気なわけだし。
 それはそれでしょうがないよ。それで……どうするの? この女が何か関係するの?」
「傭兵連盟『ニーズヘッグ』は、遥かなヴィーザル地方で兵を挙げた。そこにラサから流れた傭兵が深く関係しているのは間違いない。
 ――だが、前提として鉄帝本土を横切らねばならない状況で、そうも多くの人員が流れるのは厳しいんじゃないか?」
「あぁ、なるほど。姉さんはこう言いたいんだね? ラサから流れてきた傭兵がヴィーザル地方でハイエスタの一部やシルヴァンスの一部を纏めた。
 そんな『ノーザンキングスよりも突発的に生まれた勢力が、幾ら協力しやすくなったとはいえ、急速に侵攻できたからにはそれ以前に下準備をしたやつがいる』って」
「そういうことだ。ラサから鉄帝に流れるよりも前に、鉄帝からラサに流れ出た人間が糸を引いていると考える方が自然だろう。
 この女がそうなのかまでは知らないが――それについては、彼らに聞いてきてもらおうか」
 掴んだ写真の女を見下ろしながら、ユリアーナが目を閉じた。
「友人たちには複雑なお願いをせねばならんな」
 そのまま自嘲的な笑みがこぼれている。

※ローレットに<貪る蛇とフォークロア>の依頼が届いています!!

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