PandoraPartyProject

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荘周之夢

「お疲れ様です。R.O.Oでは翡翠にてサクラメントが使用不可になり、国境で騒動が起きているそうですね。
 此方に瑕疵は在りませんでしょうし。奇を衒うという訳でもありませんし。そう言う国ですよね」
 Rapid Origin Onlineで自身もプレイヤーとして活動をして居る澄原 水夜子(p3n000214)は訳知り顔といった様子でそう言った。
 ネクストでの深緑――翡翠は現実世界よりも排他的な国家だ。炎を好み、外敵に容赦をしない事は国家の『設定』より知られていた。
「余所者である私達が活動すればするほどに、翡翠がそうなる可能性は十分にありましたし……。それに北方での鋼鉄での戦いの結果も気になります。おや、失礼。私ったらシュミレーションゲームの気持ちでした」
 饒舌な水夜子を肘で小突いたのは白けた顔をした音呂木 ひよのであった。因みに彼女は希望ヶ浜で行方不明者が多発するゲームに飲まれて帰還が不可能になった場合『希望ヶ浜の巫女』の座に空白が出来るため留守番を余儀なくされている。
「……ゲームが楽しいのは分かりましたが、そのゲームに苦しめられているのも実情です」
「勿論分かってますよ。ねぇ、秋奈さん?」
「なんで私ちゃんに振ったの?」
 箒を持たされて罰掃除を余儀なくされていた茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は渋い顔。
 異世界より帰還したばかりの彼女はひよのの代わりに音呂木の現場巫女として努力を重ねてきた……筈であるが、巫女はもう少し真面目にとお叱りを受けて現在はカフェ・ローレットで清掃を勤しんでいるのである。
「秋奈さんって、一番楽しんでそうなんですもん。ゲームを楽しみながらゲームに困らされる。そうしてゲームに支配される世の中が出来上がりそうですね」
「そーいう『ちゃんみや』はゲームの中でもデスゲーム繰り広げそーだぜ、私ちゃんは詳しいんだから。
 ……あ、やべ、ひよのパイセンの顔が怖い。んで、何だっけ……『侵食の月』の様子がおかしいって?」
 気を取り直して――現在の『侵食の月』は昏きそのかんばせに光を満たし始めたのだという。
 R.O.Oの神光(ヒイズル)、そして希望ヶ浜で『真性怪異らしきもの』による侵食を食い止めるために夜妖の邪魔をして居るがそれでも神の暴食は止まる所を知らない。
「『侵食度は何もしなくても増えていくんだ』。神様っていうのはコッチの都合に合わせてくれない。だから、私達がやっているのは『侵食度を抑える為の小細工』にしかならない……そうだよね? ひよのちゃん」
「ええ。ですから、日に日に光は差していく。それも、急激に其の光が増したのは――もしかすると『他の理由』があるのかもしれませんが」
 現実でひよのに心当たりがないのならば、ネクスト側の話ではないかとバスティス・ナイア(p3p008666)は首を捻った。
 夏休みを終わらせたくない子供達が建国さんにお祈りするほどに、希望ヶ浜では『神の名』が親しまれ始めている。
 ……友人の宿題を手伝うバスティスは「羽衣教会に入信して貰った方がよっぽど良いよね」と呟いた。見ず知らずの神より、勝手知ったる宗教なのである。
「羽衣教会に入ると夏休みが長引くっていいよねえ。なじみさんももっと夏休みしたかっったな。線香花火とか!」
「永遠に、永劫に、驚くほどに長い時間、線香花火なんていう儚さの象徴と一緒に居そうですものね、ねえ。なじみん」
 にんまりと微笑む綾敷 なじみの傍らで現川 夢華は冗談を繰り返す。
 またも議題が逸れてしまったと咳払いを一つ。ひよのは気を取り直して、と口を開いた。
「バスティスさんの仰るとおり『希望ヶ浜側』では侵食を抑えることは考えられれども、それを増長させる要素は持っていない筈です。
 ですから、侵食を少しばかりでも早める可能性がヒイズル……『帝都星読キネマ譚』にて新規要素がアップデートされたとしか考えられない」
「「あ」」
 水夜子と秋奈が声を揃えた。首を捻った夢華は「何かありましたか、先輩」と瞬く。

「――『月閃』?」

 心当たりはそれしかない。だが、それも確かなことは言えまい。
 それでも『そうであろう』という予感がしたのだ。夜妖の活動を抑えて侵食度の増加を僅かに遅らせる。そうしたクエストを攻略していたイレギュラーズ達は『夜妖の力』を纏って居るのだ。
 それだけ強大な力を得なければ倒せぬ相手も居よう。だが、それによって侵食が増加していると言われれば納得も出来る。
「……佐伯所長や庚さん達に観測とデータチェックをお願いしましょう」
「それで、先輩。『もうひとつ』の心当たりは出来ましたか?
 どこかでアチラとコチラが交わっている。珈琲にミルクを溢したように色彩が混濁し合う様。それは異世界の何方かに、豊小路の先にあったのでしょう?
 貴方の可愛い後輩も、猫鬼も、どちらも行ったことのない場所です。予感はすれど確かな事は言い切れない。先輩の口から聞かせて貰えませんか?」
 甘えるような口調で『夜妖』である少女はそう言った。
 現川 夢華は夜妖だ。夜妖憑きではない。それそのものなのである。
 故に、彼女は異世界での歩き方をよく知っていた。綾敷 なじみに憑いて居る夜妖は所詮は『憑きもの』でしかない。普段は形を潜めた猫鬼よりも夢華の方が此度の事情には詳しいのだろう。
 ひよのは言い淀む。
『心当たり』を見つければ、そこにイレギュラーズを送り込まねばならないからだ。
「……危険かも、しれません。見にいくだけ、『お参りする』だけ、というならば……」
 慎重に。言葉を選んだひよのにバスティスは「ひよのちゃんがそう言うなら」と頷いた。最終的に『神』と戦う前に、あちらとこちらの繋がりを断つ方法は知っておきたい。

「『再現性帝都』――再現性都市は数々あります。再現性東京の1999街を始め、2010街の希望ヶ浜。
 そして、再現性帝都と呼ばれる内の一つ、『1926街』。私は豊小路の先にはその場所が存在して居ると判断しています。
 ……いえ、言い方を変えましょうか。
 本来ならば『1926街』なんてものは存在して居ないはずだった。だと、いうのについ最近になってからその地が当たり前の様に受入れられている。
 可笑しいでしょう? 本当は存在して居なかった架空の都市が当たり前の様に存在して居る。そんなこと有り得ない筈なのに。
 ――これは、真性怪異の『異世界が顕在化』しているとしか思えない。どこからも『行く事ができない』その場所に、豊小路さえ辿れば辿り着けるのです」
 皆さんを送り出す準備をしなくてはなりません、と。ひよのはぽつりと呟いた。
 見にいくだけ。あくまでも、見にいくだけだ。それ以上は『何が有る』のかも分からない。

 諦星15年、ヒイズルの夏――その季節が移ろい秋となった頃に。
 希望ヶ浜に姿を現した『再現性帝都1926街』は、真性怪異の作り出した新たな『国』だと希望ヶ浜の巫女は恐れるように呟いた。

 希望ヶ浜にて『豊小路』の調査が行われるようです。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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