PandoraPartyProject
ゼシュテリウス進撃開始
歯車仕掛けの巨大建造物――機動要塞ギアバジリカ。
その内側、外壁近く区画には、無数のシーツやシャツなどの洗濯物が干されていた。
「ちょっと、待ちなさい! 毛玉が取れないじゃない!」
「いーやー! 余計なお世話です! 兎だから! ブランデホト種だから!」
シルヴァンス部隊『白兎』隊員の一人を、リーヌシュカ(p3n000124)が追いかけている。
両手に振りかざすのは、猫用のスリッカーブラシとバリカンだ。
鋼鉄軽騎兵隊とシルヴァンスの軍勢は、互いにカバディのような姿勢をとりはじめた。
「毛玉、毛玉、毛玉、毛玉」
「無理め、無理め、無理め、無理め」
その向こうには、『らーめん悠久』と暖簾を掲げた屋台が見える。
「ちょっちょっちょっ! これ出来ちゃいましたよ、マジモンのメンラー!」
鉄の床へ仁王立ちし、お玉を掲げるのは、R.O.OのNPC伊達千尋(p3p007569)である。
「……うっめ!」
バイクチーム『悠久-UQ-』の仲間達が、ラーメンを啜りどよめいた。
「なんだなんだ、美味そうじゃないか!」
「おー、坊さん達も、そこの軍人さん達も。みんなみんな、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。
どーお、このスープいい感じっしょ。遠慮とかいらねーから、じゃんじゃんパクついちゃいな!」
その輪へクラースナヤ・ズヴェズダーの一団が、子供達と共に加わる。
「これは確かに! 鶏ガラのいい出汁が出ている。これは穂先メンマとレアチャーシューか」
スープを一口、旨さに唸ったのは鳳圏軍閥の面々だった。
「アンタ達! 匂いが洗濯物につくでしょうが! あっちの区画でやんなさいよ!」
腰に手を当てて声を張るのは、機械化歩兵部隊に所属する女兵士だ。
「あ、さーせん! すぐ退かしますんで! おら行くぜ!」
「あたしの分もとっとくんだよ!」
「へい!」
「――騒がしいな」
同じく当人でなくNPCであるレイリー(p3p007270)の溜息に、ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ(p3n000076)が苦笑した。
「ああ、随分賑やかになったもんだ」
「だが確かに、頼もしい限りだ。救済された同士でもある。それに……嫌いじゃない」
ネクストにおける鋼鉄――鉄帝国の歪な模造品の国内では、内乱が勃発していた。
ゲーム様に歪められたこの世界では、様々な事柄が史実と違っている。
皇帝はヴェルスでなくブランドであり、そのブランドはいくらか前に殺害されている。
またヴェルス自身も無辜なる混沌とは違い、若干二十歳ほどの若者だ。
次に個々人の『願い』を邪悪に歪められた人々同士が、軍閥を作り互いに争いを始めた。そこへネクストが突きつけたイベント名は『フルメタルバトルロア』。さすがに何者かの悪意を感じざるを得ない。
イベントの攻略を迫られたイレギュラーズは、ヴェルスによって、各々の身を守る為に形成された軍閥『ゼシュテリウス』へ肩入れし、様々な軍閥と抗争して、それらを傘下に治めてきた。
レイリー軍閥、バイクチーム『悠久-UQ-』、鋼鉄軽騎兵隊、第十七戦隊、鋼鉄自警団。バルドル小隊、鋼鉄愚連隊、ステイラー隊、作戦参謀ヴィトルト・コメダ、セルゲイ工兵部隊、マスクド・ライザー、軍人ライナー、等々。いずれも名だたる勇士達は、バグによって願いを歪められていたが、イレギュラーズとの戦闘によって正気を取り戻し、軍門へ下ったといった所である。
全てが救えた訳ではないが、なんだかんだで随分と大所帯になってきた。
「しかし、このままでは埒があきませんね」
眉をひそめて腕を組んだのは、ゼシュテリウス幹部の一人ショッケン・ハイドリヒ(p3n000161)である。
イレギュラーズの戦果報告によれば、『塊鬼将』ザーバ・ザンザ(p3n000073)は闇へ墜ちたと言う。
「ザーバ軍閥は、何か大きなことを企んでいるはずよ。誰よりも、闇が深く感じられた」
そう言ったのはザミエラ(p3x000787)であった。
「ガイウスは――正気だったぜ。そうであってくれなきゃってもんだがよ! なあチャンピオン!」
アーロン(p3x000401)はリーゼントヘアを整えながら、不敵に笑う。
今やゼシュテリウスとて押しも押されぬ強豪軍閥ではあるが、敵となりうる強力な軍閥は未だ数が多い。
ザーバの軍閥、ガイウス・ガジェルド(p3n000047)の軍閥は、それぞれ目下最強と思える軍閥の一つであった。
そうした中で、奇妙な話も聞こえてきている。
「どうやら、もう一人のビッツ・ビネガーが居るらしい。それで犯人は――」
シラス(p3x004421)が言うには、R.O.O内で邂逅したビッツ・ビネガー(p3n000095)は、彼等に『皇帝を殺害したのは、もう一人のビッツである』と答えたらしい。確かにその目で見たのだと。
それを聞いたヴェルスが笑った。
「すると、これで俺の容疑も晴れてくれるかね」
――鋼鉄では代々、皇帝と一騎打ちを行い、勝者が帝位を継承する習わしだ。
しかし前皇帝ブランドを殺害した犯人の行方は、杳として知れないままだった。
世間はザーバかヴェルスかガイウスか、とあたりを付けていたが、どうもそうではないらしい。
そもそもこの内乱は『誰が皇帝を殺したか』を巡って発生したものであり、即ち『そいつを殺せば、自分が次期皇帝だ』という世情になっている。
とは言え、犯人が逃げ回っている以上、そして鋼鉄の民が納得出来る答えが俄に導き出せそうにない以上は、当面の内乱は続くだろう。仮に犯人を誰かが殺害し、帝位を継承したとしても、それを皆が良しとしなければ、帝位への挑戦者は後を絶たない。軍閥同士の抗争が続くという訳だ。
戦乱が続くとなると、厄介な問題も生じてくる。
鋼鉄における重大な課題というのは、いつの時代も『食糧問題』であり、巨大化した軍閥ゼシュテリウスとて、そこから逃れる術はない。大兵力を如何に養うかというのは、実に難しいことなのだ。
第一に、内乱を平定せねば国も民も衰えて行くばかりだろう。なんとかしなければならない。
「で、どうするね、若大将?」
ヴェルスの背を平手で打ったのは、ゼシュテリウス幹部の一人ヴァルフォロメイだった。
「……そうだな」
天井を見上げながら、しばらく考え込んだヴェルスは、何かを閃いたような表情で振り返る。
「帝都、もらっちまうか」
「……!?」
「ていと?」
ユリアーナ(p3n000082)が思わず立ち上がり、ショッケンが目を見開いた。
「そろそろいいだろ。帝都、もらっとこうぜ」
辺りが、しんとした空気に包まれる。
脳筋揃いの鋼鉄民とはいえ、さすがに皆「何を言い出すんだこいつは」という目をしている。
「で、あれば。こんなこともあろうかと」
静寂を打ち破ったのは、戦術家にして精神医学の研究者ヴィトルト・コメダであった。
机上に広げたのは、首都攻略の詳細な作戦概要である。
いつの間にこんなものをと、一同がどよめいた。
「帝都は要所中の要所。鉄宰相は兵站の中心に据えています」
ヴィトルトは説明を続ける。
皇帝殺害の真犯人が浮かび上がってきた以上、多くの軍閥はそちらを狙うはず。強豪であれば諜報によって仕入れている可能性も大きいが、そうでなくとも情報収集を急ぐだろう。そして彼等の多くはかなしいかな、兵站などという地味な物事に、そもそも興味はないのだ。
今やスチールグラードは、ゼシュテリウスにとって、攻めやすいポイントになったとも言える。
「もっとも、イレギュラーズの皆さんが仰る『バグ』。つまりこの悪意の立役者が居るのであれば。悪意のバグから逃れた私達の更なる勢力拡大を、決して快くは思わないでしょう。つまり――」
「そいつも帝都へ現れるはずだ、と」
「既に待ち構えている可能性も、大いにありますね」
「なるほどな。けど、いいね。乗った。俺は賛成だ」
ヴェルスが裏拳で壁を打つ。
「よし分かった。だったらギアバジリカの改造は、我々が引き受けよう」
セルゲイ・セルアスキーが大ぶりのスパナを掲げる。
「ま、それしかねえよな」
「いっちょやってみるか」
「仕方がない。乗りかかった船だ」
各々がその瞳に、拳に、決意をこめた。
「よし決まったな」
ヴェルスは居並ぶ一同を見渡した。
「それじゃ、さっそく進撃開始だ!」
※R.O.Oの鋼鉄にて、イレギュラーズが所属する軍閥ゼシュテリウスが進撃を開始しました……!
これまでの再現性東京 / R.O.O
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