PandoraPartyProject

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解析不能コード:log XXXXX

 突如として隠しイベントの開催が決定したRapid Origin Onlineはイベント区域から一歩でも足を踏み出せば通常の風景が広がっている。
 不気味にも思える程の変わり身に、この世界が仮想空間――ゲームの世界である事を嫌という程に思い知らされる。
 現たる混沌世界をコピーし模倣し、面白おかしく変化し成長を遂げて征く。練達の叡智の結晶にして練達のコントロールから外れた『ネクスト』世界は狂いもないと清廉な顔をして淡々と日々を謳歌する。
 この世界は現実であると疑わないような。
 傍から見ればシステムであるはずの人々はその場に生きているかのように振舞い過ごし続けていて――

「さ~~~て、さてさて、『あらすじ』を語ってピエロを無視するなんてイヤァよ?
 案外、こう見えても寂しがり屋なんですからネ……ウサギの様に愛くるしく可愛らしい、ガラスの様な心を持ったのがピエロでってちょっとちょっとちょっと! 無視しないでくださいよォ!!!」
「あら、ピエロ。今日も軽やかなお口が楽し気に回っていたものだから。
 私なんかとお話しするのはあまりお望みではないかと思ったの。嘘よ。ご機嫌ね」

 ピエロを思わす格好に身を包んだ男の傍らには『アリス』と呼ばれた物語の少女『ジェーン・ドゥ』が穏やかな笑みを浮かべて彼の言葉を促していた。其れ等は不可思議にも『隠しイベント■■■■■■■-CCC-■■■■■DEA』の開催区域に立っていた。
 ならば、彼女らの存在を練達モニターも観測しているはずだ。だが、誰も彼と彼女に気付かない。
 そもそも彼と彼女が『この世界では有り得てはいけない存在』であるかのように。
 ネクスト世界は彼と彼女を許容して、彼と彼女を異物として扱っているかのように。
 それらは多発し続けるバグに呑まれて存在全てを消し去るように。会話のログさえ残さない。
「素ン晴らしぃ~~~~~~!!!!! どう思いますかァ、アリス!
 彼女は我々と同じですしィ? いンやァ、お仲間のステージってのは見てて気持ちイイ~~~!!!!
 ですがまだまだまだまだまだまだ! 貴女も、彼女も、桃色のプリンセスだって満足はしないでしょ!? ねえねえ、そうでしょ!? そうと言って、言ってよ、アリスゥ! さん、はーい!!」
「そうよ」
「ンフ」
 取り留めなく会話を繰り返す。彼と彼女。まるで『普通のプレイヤーがチャットで繰り返す日常の会話の様な他愛もない言葉の羅列』
 異質なる二人は観測者の如く、その一連の流れを見つめていた。
「どうなるかしら? ねえねえ、アリスったら、どうなるとお・も・い・ま・す~~~~ぅ~っ?
 え~? 何? ピエロは~、そうねッ、ンフフ、全て壊れちゃうくらいでもいいですよォ~~~~ン!
 それ位の方が面白いでしょ? そうでしょ、ねえねえ、そうでしょ!? そうと言って、言ってよ、アリスゥ!」
「そうね」
「ンフ」
 彼らの目的が何かは分からない――だが、彼らは何かを考えているのだろう。その身の内にどの様な思惑を抱えているか。
「ねえ、ピエロ。
 ヒイズルの神様はちゃんと信仰を集めたかしら?
 鋼鉄のミステリーはちゃんと登場人物は揃った?
 私ったら、とっても楽しみなのよ。物語を読んでいる気分なんて初めてだもの。だから、早く続きを見せて」
「んもう、アリスったら! せっかちなんだから! でも嫌いじゃない、嫌いじゃないのよぉん! 『じゃあ、そろそろ何処にするかダーツ』でもしますかぁ?」
「するわ」
「ネクスト~~~~ダ~~~~ツの~~~~~~!!!!」
「破滅旅行」
「タイトルコーーーーーール!」

 ザザ―――――接続がタイムアウトしました。

「佐伯先生、見てくださいよ。へんなエラーコード」
「ふむ? ……ああ、そうだな。奇妙だ。昨夜観測したエラーコード……『イデア崩壊』だったか? それも奇妙ではあったが、これも奇妙だ。
 前者の方は人為的に何者かの介入があったように思えたが、後者の方は理不尽にデータが書き換えられたような痕跡がある。
 目に見えているだけでは只のタイムアウトの様に見えるが……どうにもこの空白は可笑しい。ネクストが意志を以てそのデータを消したかのような――」
 呟く佐伯 操の横顔を眺めていた陽田 遥はううむと小さく唸った。
 鍛錬や休息を行ったイレギュラーズ達はローレットトレーニングを終えて再びR.O.O世界の探索を行う事になった。
 これまでと同じように練達上層部は観測を行い不可思議なエラーは全てデータ保持を行ったうえでの解析を行っていた。
 例えば、竜域踏破であれば出て来る情報を現実に活かす事が出来ないかという検討等もしっかりと行ってきたのだ。
 そして、操や遥にとっても見知った土地である希望ヶ浜でも異世界を作り出す事件が多発している――それはヒイズルでのイベント『帝都星読キネマ譚<現想ノ夜妖>』より派生したものだと思われているが……希望ヶ浜はダイレクトに人命が関わる問題だ。異世界探索に加え、異世界に迷い込んだ一般人の救出など、問題は山済みである。
「……考えることが多いな」
 呟いた操に遥は肩を竦めた。
 今日も今日とて、R.O.Oは何食わぬ顔で動き続ける。
「佐伯先生、あの……ネクストでは何が起こっているんでしょうか」
 問うた遥に操は言葉が詰まり、困った様に肩を竦める事しかできなかった。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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