PandoraPartyProject

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帝都星読キネマ譚:日翳リテ、月ヲモ喰ラウ

 ヒイズルは高天京壱号映画館
 夜妖(ヨル)の観測を行っていた渾天儀【星読幻灯機】――ほしよみキネマが奇妙な映像を映し出す。
 観測を行っていた現実世界(アバター)の月ヶ瀬 庚は傍らに立っていた巫女、つづりとそそぎを一瞥する。
「これは――」

 それは何処かの街中であろうか。帝都の石畳を走る一人の少女がいた。
 白髪に獣の耳。稚児のような装いの娘は高下駄をからりと鳴らし、跳ね上がる。
「朱雀、起きてたんだね?」
「……寝てたら、怒られる……」
「ふむ、それもそうだよね……瑞さまと黄龍さまは『賀澄』の所に向かうって言ってたし……
 帝も戦いの準備を整えてるみたい。だって、彼――悪いことをしてるみたいだよね」
 首を傾いだ白虎と呼ばれた稚児――神光の神霊が一人、『四神』の白虎は唇を尖らせる。
 その視線の先、眠たげに眼を擦っていた黒髪の稚児――こちらも神光が神霊の一人、『四神』の朱雀である。幼い外見をして居るがその命はとうに人の枠をはみ出し、この国と共に歩み続けてきているのだろう。幼い精神性が作り出すその姿、同じく『四神』の玄武と比べれば孫と祖父のような違いである。
「二柱共、そのように物を申すまい。言葉は災いを呼び寄せるじゃろう?」
「でも、」
「だって、」
「いいや、朱雀、白虎。よく考えるのじゃ。天香の坊主は正当なる血筋ではあるまい。神光が尊び、その威光を頂く彼の方を誤解しておるだけじゃ。
 長胤殿も嘆いておられたろ? 目に入れても可愛くないと放任した結果であったと……大丈夫、直ぐに賀澄が教育してくれよう。我らの為にも」
 堂々と黙していた青龍から同様の意志が伝わる。玄武は「ほれ」と彼を肘で小突いた。
「無事我らが元へと舞い戻った際には天香の坊主にも『作法』を教えてやらんとなあ」
「ああ、そっかあ。あの子は貴族じゃなかったから『作法』も知らないんだね……姫様に失礼無きようにしっかり教えないと!」
「……戻れるかな?」
「どういう意味? 朱雀」
「だって……むにゃ……姫様を悪しき存在だと思ってるなら……」
「大丈夫じゃよ、朱雀。四柱(かみさま)が正してやれば良いんじゃよ。さて、準備は出来をするんじゃ」
「ちゃんと教えてあげよう。この国のこと。貴族が、そして天子が、この神光が頂く美しき光のことを。
 みそぎて、そそぎ。常闇をも祓う神をも咒い、曙光を求めんとす――この『ヒイズル』国のことを!」

 ――映写機が動きを止める。
 庚はその映像を、茫然と眺めて居た。自身の周囲に立っていたつづり、そそぎとて同じだろう。茫然と『本来ならば国を護り慈しむ存在』の悍ましき姿を。
 姿かたちは何も変わらない。だが、四神は本来は『人の子の世には介入しない』存在だったはずだ。
「……これは、一体どういう……?」
「わかりません。ただ、四神様が『天香遮那』の行動にお怒りになっていることしか……」
「どうして、彼が怒られるんです? ああ、全く……R.O.Oでは『天香遮那』が失踪しただけであると認識して居ましたが……。
 これでは国家への叛逆者だ。何がどうして……『彼がそうである』と四柱は言うのですか」
 頭を抱えた庚は呟いた。朝敵と相成ってでも、為し遂げたい事とは何であろうか。希望ヶ浜との関連さえ計り知れない。
 苦しげに呻いた庚は「情報を持ち帰ります」とログアウトし――状況を読み切れない様子でセフィロトへと連絡を行ってきた澄原 晴陽の言葉に更に困惑を滲ませた。

「希望ヶ浜に発生していた異界に『黄龍』と名乗る幻影が現われたそうです。これは……神威神楽で確認されている存在ではないのですか?」

 物語は流転する。R.O.Oと希望ヶ浜。その二つに滲むように――世界を多い包む闇の全容は計り知れない。
 それが真性怪異(かみさま)と呼ばれる者の仕業であるならば、神を尊び、神と共に暮らす『神威神楽』と言う国には太刀打ちできないだろう。
「黄龍様が現われたのならば、他の四柱も……いえ、瑞様とて姿を見せる可能性があります。
 一体如何した事でしょうか。申し訳ありませんが、対応を。
 我ら神威神楽と希望ヶ浜はルーツは違えど似た『文化』を抱えているが故に『混ざって』『滲んで』しまったのかも知れません」
 一先ずは情報を集めよう。天香遮那の足取りを掴み、彼の言を得られたならば。
 神光を取り巻くこの暗澹たる気配を打ち払う事が出来るはずだ。

 ……常闇をも祓う神をも咒い、曙光を求めんとす――其処に存在する神の真名はいずこや。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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