PandoraPartyProject
『竜』を辿って
ラサの砂漠地帯に残された広大なる遺跡を一瞥してからファン・シンロンは「ハズレでしょうか」と呟いた。
「ハズレも何も特異運命座標(アイツ)達がR.O.Oで情報収集をしてるんだろ? 何をそんなに急いてんだ」
ファンの案内役として日中は引き連れ回されたディルク・レイス・エッフェンベルグの溜息に「上司というものは時に抗えませんから」と含みのある言葉を返すイルナス・フィンナ。何とも居心地の悪い気がしてディルクは肩を竦めた。
「それで? お目当ては見つかったのかよ」
「いいえ。……可笑しいですネェ。アナタは『亜竜姫』とやらと面識があるはず……」
「的が外れた見たいなカオすんなよ。アンタの言うとおり『リュカ』と名乗ってる竜人にゃ面識はあるが……。
アイツが『亜竜種』とやらだとか『旅人じゃない』なんてのは知らねェよ。勝手にやって来て勝手に遊んで帰ってるだけだ。ああ、けどよ……アンタの『上司』とやらにもR.O.Oにレオンの奴と遊びに行った時にも言っておいたが、アイツの連れてた『オジサマ』とやらはキナ臭かった」
「まあ、そうでしょうネ。『冠位魔種』でしたシ」
「は?」
表情を変えずにさらりと返答を返すファン・シンロンにディルクはあんぐりと口を開けた。無言の儘、周囲の確認を行っていたイルナスとて驚愕に目を見開いている。
「その情報を受けて調べました。どうにも、ウチの主人も『オジサマ』とやらにあった事があったようで。
ええ、ビンゴ。アナタの鼻はよく聴くようで。其方の……オオカミさんよりも狩りに適した鼻のようだ」
イルナスは練達が事前に周囲一帯の調査をしたいと申し出た理由に合点がいった。
安易に『冠位魔種』なる存在と出会えるわけがない。だが、冠位魔種が存在して居る可能性があるならば調査を行い情報を得ておきたいというのが練達側の考えなのだろう。
竜種に会ったことがあるのは何もレオンやディルクだけではない。滅海竜リヴァイアサン等のように観測されていなかった竜種は多い。
練達はある『一匹の竜』を観測した過去がある。セフィロト上空に姿を見せたことのあったその竜の足取りを追っていたのだ。
『怪竜』ジャバーウォック。それがセフィロト上空で一度観測され、Dr.マッドハッターが子供のように熱中していた竜だ。
そうした竜が外部に姿を現すとき、その男は――オジサマと呼ばれていた冠位魔種は姿を見せていたという。
――名前ですかな? 構いやしませんよ。ベルゼー。理解に易い説明をするならば『冠位魔種』、その暴食とでも呼ばれる存在でしょう。
マッドハッターは彼に会ったことがあるらしい。旅人である彼には『魔種の呼び声についてのメカニズム』は理解出来ない。旅人は狂気には陥れど反転することがないからだ。
イレギュラーズが活動を開始して『魔種と呼ばれた伝説の存在』が存在していることを証明するまで、誰もマッドハッターの言葉を信じなかった。
旅人達には『呼び声』は聞こえなかったからだ。それでも、現時点ならばその男が本当に存在した事は判明している。故に練達のデータベースには『怪竜』ジャバーウォックと共に『冠位魔種ベルゼー』の名と姿が保存されていたのだろう。
ここまでは練達が持ち得る情報との照らしあわせだ。そして、ここからが――
「『リュカ』と呼ばれる少女は何の違和感も感じるにベルゼーと過ごしていたという事は彼は『まだ悪事を働いてなかった』。それが活動をして居ないだけなのか、彼女の前では良き父親代わりであったのかは定かではありませんが――……
何にせよ、先にR.O.Oで情報を入手して置けたことは僥倖です。ここに来た甲斐がありましたネ」
「成果はありませんが……」
不思議そうな顔をしたイルナスにファンは「いいえ」と首を振った。
今まで観測されていたとしても『その存在を正確に認識されていなかった亜竜種』――それらに一歩近付く可能性が出たのだ。
それも、亜竜種達と面識のある人間がここには居る。ならば、琉珂の姿を見られた場所であるこのラサこそが覇竜領域内に存在するであろう竜の集落への道の入り口に当たるはずだ。
「ここまで探して見つからないのであれば何らかの細工が施されているか意図的に隠されている。
其れが分かっただけでも十分な成果ですヨ。そう、後はイレギュラーズの皆さんが『入り口があるであろう場所』をR.O.O内で探し当てるだけ」
其処まで判明したならば、其処から先は現実世界での話だ。
佐伯 操が予測を立てたとおりに『クエスト竜域踏破で得た情報を駆使して未知の領域となっている覇竜領域デザストルの奥地』にまで踏み入れられるのではないか――
ディルクやレオンが物見遊山で踏み入れた場所よりも更に深く、琉珂と名乗る少女の棲まうその地にまで手が届く可能性がある。
「世界を解き明かす事ほど愉快なことはありませんヨ! それこそが我々、練達の悲願。
最大の『目的』――元の世界への帰還への一歩に成り得るはずです。……また協力を願いますネ。お二人とも」
「ああ、覇竜領域に踏み入るってんだろ? 歩くねェ。簡単な道案内ならしてやるよ。だけどよ――『中に入るのは英雄の役目』だぜ?」
勿論とファンは微笑んだ。向かう先に『竜王』ベルゼーは存在しない。冠位魔種ベルゼーが今どこで、何をしているのかさえ不透明なままだ。
だが、そんな場所にチャレンジャーとして踏み入ることが出来たならば――『R.O.Oという手から離れしまったシステムが齎した世界の側面』を見ることが出来る筈なのだ。
これまでの再現性東京 / R.O.O
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