PandoraPartyProject
夜深く、月昏く
夜深く、月昏く
頭上を照らす真円は何処か不吉に昏さを帯びて。
魔性なる輝きはこの夜に夥しく流れた血と、激動した運命を存在を告げている。
「成る程、月の魔力と言われても頷ける」
高天御所での激戦を終え、ぶらりと夜風を愉しんでいた死牡丹梅泉が口角を歪めたのは、そんな夜に似合いの顔に出会ったからだった。
「相も変わらず、『風流』な物言いしはる。旦那はん、つくづくそういうのお好きやなぁ。
久方振りに逢いましたのに、やっぱりいけずやわ。うち、もうちょい色っぽいんが欲しいのやけど」
「元より主と出会うたのはその久方前の一度きりであろうが。
久方振りも何も、如何様な数奇と言うべきか――
たてはよ。何故、こんな所におる? とはまこと愚問なのであろうな?」
「はい。まったくその通り、無意味なお話です。
旦那はんがここにおるのと同じ事。うちもまぁ、そういう話という事で」
ふん、と鼻を鳴らした梅泉は目の前の女を今一度睥睨した。
艶やかな蝶の着物を纏った女の名前は紫乃宮たては。梅泉とは因縁浅いようで浅からぬ――元婚約者である。無論、旅人である彼の事。元の世界の出来事と現在の運命は全くもって隔絶されており、引き合わせの席一度しか会った事の無いたてはと今更再会するとは思ってはいなかったのだが――
「何時、参った」
「三、四日前って訳じゃありません。最初は慣れなくて大変やったけど大分馴染んできたさかい。
『噂』の神威神楽を眺めに来たらこの通り――旦那はんに逢えたって訳。
これでもずぅっと我慢しとったんよ? 旦那はんに逢うのにあんまりぶさいくな顔、見せられへんもん」
「でも、こうして。嬉しいわあ」と目を細めるたてはを梅泉は鼻で笑う。
彼女の口にした言葉は字面だけ見れば麗しき容色を指すかのように思われるが、実際の所はまるで違う。
このたてはは『適切な運動』の余韻で妖気さえ帯びる梅泉にまるで怯んでいない。
彼女自身が女怪の類である事が疑いないならば、その『女の顔』は冗談に過ぎまい。
「主がそんな殊勝な女とは知らなかったがな」
「もう。やっぱり、いけず」
果たして梅泉は二度目、たてはを鼻で笑った。
歳頃よりも幼げに頬を少し膨らめてみせた彼女の方もそんな物言いは先刻承知であるらしく、やり取りは児戯のようであった。
「さて? たては。再会を喜ぶのも良いが本題じゃ。主、ここに何しに参った?」
「大体旦那はんと一緒と思います。今のこの世界で一番、美味しそうなのは神威神楽(ここ)やからね。
はしたないけど、旦那はんも居るって――『風の噂』に聞いたさかい」
「……小雪か。あのお喋りめ」
「あら、ばれてしもた。かんにんえ、雪之丞はん――」
要約すればたてはは何某かの要件で梅泉の逗留先であるサリューを訪れたのだろう。
そこで話を聞き、『空中神殿を経由して』神威神楽に降り立ったという訳だ。
知己の人間の尋ねに対しておかしな対応ではないが、梅泉はやはり彼女の物言いに苦笑する。
「では、これまでの話は知っておるのだな?」
「はい。むしろ旦那はんより『もう少し多く』かも知れへんわ」
「ほう?」
「旦那はん、そういうのにからっきしやから。そんなトコも可愛いのやけど。
まず、この国の動乱の中心におる天香家。天香遮那は巫女姫派に確保されてるみたいやねぇ。
と言っても、保護とは言えません。監禁ってとこやね。巫女姫は男はん嫌いな人みたいやから」
「……そう言えばその男、一部の特異運命座標が気にしておるようじゃな」
「妬いてしまうから。そうして他の人の名前、出さんといて。
……次にその巫女姫。執心の方を捕まえて夢中みたいよ。目下、交渉中って所やね。
旦那はん、随分と手緩かったみたいで。特異運命座標の人達、無事やったみたいやけど。
それ以外のトコではようさん捕まってしもたみたい。大変やねぇ。
特に一人は八咫姫ゆうひとが何か考えてはるみたいで――まぁ、どこもえげつないの一緒やけどね」
動乱の晩は明けてもいないのにやたらに詳しいたてはに梅泉の眉が動く。
「あとは捕虜。どうも従えるか『自凝島』ゆう場所に流すかって考えてはるみたい。
肉腫だらけの監獄ゆうから、そんな島ぞっとするわあ」
「……主は巫女姫に助力でもしておるのか?」
改めて問うた梅泉にたてはは「いややわぁ」と華やかな鈴を転がしていた。
「うち、『そういうの』嫌いなの知ってますやろ? 旦那はんと同じ。
『ちょっと詳しい』のはようけおった巫女姫派のひとたちに『尋ねた』だけです!
……旦那はんに逢いに来るのに手土産の一つもなかったらやな顔されてしまうやない。
ほんともう、女に言わせるいけずなんやから……」
成る程、暗がりに気付きにくかったがたてはの艶やかな着物は夥しい血に塗れていた。
梅泉自身が血臭を染みつかせていたから分かり難かったが、彼女からはそれ以上の死臭が漂っている。
どう『尋ねた』か等、火を見るよりも明らかだった。
「ね。うちと逢うて良かったやろ? これから旦那はん遊びはるなら、きっと役に立つ話やわ。
……ね、それはそうと。ところで……」
たてはは艶然とした流し目で梅泉を見る。
「『どうして旦那はんは抜刀しとるの? うちは構えてもおらんのに』」
月の見事な夜の高天京に刀を抜いた梅泉は何処か場違いだ。
何故か――いや、十分に絵にはなるのだが、それはおかしな話だった。
「知れた事――」
梅泉はこの期に及び、『両目を開けて』たてはを見た。
「――主の得手は『居合』であろうが!」
「覚えとってくれて、嬉しいわぁ」
鞘走りの音が静寂を引き裂き、喰い合う鋼の音色が高々と哭き喚く。
破顔した梅泉は「夜深く、月昏く――今夜はつくづく特別らしい!」と歓喜の声を上げていた――
*カムイグラでの戦いが終結を迎えました――
*ラサ:ラサで色宝(ファルグメント)なるアイテムが発見され、ローレットの管理下に置かれています。
*ラサに『大鴉盗賊団』の悪事が広まっているようです。
*【速報】大鴉盗賊団が色宝(ファルグメント)を狙って動き出したようです!
※シナリオ『静寂の青、外洋の空』の結果から、クエスト『アクエリア・フェデリア開拓 総督府からの知らせ』が発生しました。
※一度だけ名声を獲得出来るクエスト三年目の祝祭が発生しました。
※一度だけ悪名を獲得出来るクエスト三年目の誘いが発生しました。
※各国領土が獲得出来ます。キャラクターページの右端の『領地』ボタンより!
これまでのカムイグラ / これまでの再現性東京
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